気儘に生きた転生馬物語   作:イナダ大根

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いつも多くのご感想と誤字報告、ありがとうございます。URAファイナルズ一般の部選抜レース当日となります。
皆さま、中央勢一般の部参加にいろいろとご意見がある様子…ところでドロップアウトや不合格組ってウマ娘だけだと思うかい?
あともう一つ、予め参加には資格が必要って明示したのよね、タービンも愛車購入資金目当てで出走しまくった経歴あるからOKだったのですし(暗黒微笑)






第二十八話

 

 

 

URAファイナルズ・一般参加選抜予選レースは一般予選に関わらずそれなりの客入りを記録し、観客席を埋まり具合はおよそ3分の1、少なくとも及第点という数字を示していた。

これにはレース場運営はひとまず胸を撫で下ろし、持ち前の経営手腕でそれなりの稼ぎを叩き出す。しかし、その数字に対する一般観客の入りはさほど多いものではない。

人数そのものはそれなりに見えるが、それは参加者たちの身内や知り合い、あるいは固定のファンなどが多く、この予選を見に来た一般からの見物客の数で言えば、せいぜいジュニアクラスのメイクデビュー戦の半分といったところだろう。

それもほとんどの場合、レースそのものに意味を感じている連中ではない。ほとんど面白いもの見たさできた程度の人間だ。

それ以外はみんな関係者だ、この関係者席で苦い汁をとことん飲み干させられている彼も含めて。

彼はURAに籍を置き、広報部門で手広く様々なイベントを手掛けてきた人間だ。そしてこのURAファイナルズもまたしかり。

日本独自規格による勝ち上がり型トーナメントレースであり、日本独自規格であるが故に年度末のお祭りレースであるこのURAファイナルズは、初レースからまだ歴史は浅いなれどたびたび注目されてきた。

国際ウマ娘レースの中において、後れを取っていた日本が飛躍し始めたこの時代に、この時代の主役たちが自分の得意分野で年末最後にしのぎを削り多くのライバルと競い合うこのレース。

時には順当な結果を残した、しかしある時は類い稀な奇跡をも生んだ、国際社会に則らないお祭りが故に世間を賑わすエンターテインメント。

その中に新たな仲間として一般からの参加者を集うというのは、はっきり言えばURAは賛成であった。この自分でさえ、憎まれ役を買って出ただけであって賛成であった。

ウマ娘レースの世界は広いようで狭い、多くの種別で多くのウマ娘がしのぎを削り合い、その中で頂点に上り詰めるのはほんの一握りでしかない。

URAと日本トレセン学園はその先にある長い停滞の予感を抱いていた、この時代にあまりにも多くの傑物が生み出されすぎていたからだ。

そのエンターテイメント性に富んだ時代は躍進に繋がるが、それゆえにそれに慣れてしまった客層はやがて一通り落ち着いた時代に突入すると一気に離れてしまう懸念がある。

今が異常なのだがそれに慣れてしまってそれが普通になってしまい、故に平常時が衰退しているように感じてしまう悪夢である。そのダメージを減らすには新しい風は必要不可欠だと断じた。

しかしだからと言って無作為に、無差別に、オールウェルカムなレースでは意味がない。URAファイナルズはお祭りなれど、走るにはそれ相応の実力を示して資格を見せてもらう必要がある、当然のことだ。

だから広報で口酸っぱく敵を作るように、挑発的に煽ってやったのだ。そうでなければあんなあからさまなことやる物か。

こんな言葉に気分を害してそっぽを向くようなものには走る資格などない、それに噛み付いてきては資格を示して挑戦してくるものこそURAファイナルズには、日本競争ウマ娘レースの世界には必要なのだ。

だというのに、最後の最後で我々は一つしくじった。URAと日本トレセン学園上層部は、身内の中に潜む病魔に内部から侵されていたことに気付かなかった。

レース日程が本決まりになり正式な応募期間も順当に進んでいた時の事、定期報告の場で出走希望書類の受付担当がそれを報告してきたのだ。

一般の部に現役トレセン学園生徒とトレーナーが応募している、明示されている資格に関してはギリギリ許容範囲なのだがどうしようと。

一般の部の規定でも日本ウマ娘学園の現役生には出走権が認められるはずだ、一部のトレーナーとウマ娘がそう声を上げ、それに追従する動きは広がったのだ。

それはまさに青天の霹靂であった、まさか最初から優先出走枠を多く持ちトライアルレースの合格基準も低い内部からそんな重箱の隙間を突くようなことをやってくる連中が出てくるとは思わなかったからだ。

 

(確かに所属による登録可否の項目は反社等の話であって、中央や地方トレセン学園所属は不可という項目は付けていなかった。

資格云々も現役トレセン学園生とそのトレーナーならば登録資格には十分、一般基準なのだからそもそも通らない道理がない。

しかし…しかしだ…どうしてよりにもよって中央の連中がそれを真っ先にやらかした?私には理解できん、あいつらあそこまでバカだったか?)

 

彼は脳裏で必死な顔で食い下がるトレーナーの顔を拳でボコボコにしながら悪態を吐く。

今回出走を決めたのは多くはデビューしたものの未勝利かつ連敗中のウマ娘達、トレセン学園内のトライアルレースに早々に敗退した実力の伴わないウマ娘達。

そしてそのウマ娘を指導する新人トレーナーや実力不足なトレーナー、未勝利や連敗で追い詰められつつあった者達。

トレセン学園のトライアルレースに出走を認められなかった、あるいはトレーナーもつかずチームにも入れず未出走なまま時間が過ぎた実力不明なウマ娘達。

つまりその多くが実戦を未経験のウマ娘達、あるいは実力不足のウマ娘とトレーナー達。

理由は分かる、賭けたい理由も理解できる、そしてチャンスを見出す理由も認めたくないが想像できる。

現実にはその必死さに何もできず、学園理事長や副理事長に何とかなだめすかしてもらうように頼むしかなかったがそれもむなしく終わった。

学園理事長や副理事長がどれだけ言葉を重ねても、断固たる決意を見せたトレーナーたちとウマ娘は引かず、生徒とトレーナーを信じる理事長たちにはのちの悲劇を涙を呑んで認めるしかなかった。

いくら言ってもあの連中は聞かなかった、それでも走らせろと聞かなかった、負けるわけがないという慢心すらあったかもしれない。

馬鹿な話だ、余りにも現実が見えていない無謀な挑戦だ。

URAは宣伝したのだ、高らかに宣言したのだ。URAファイナルズを走るには『資格』がいると、百戦錬磨のアマチュアたちを集うと声高に宣言したのだ。

そこらでただ野良レースをしているだけのアマチュアではない、その中でも選りすぐりの実力者を選別してここに招いたのだ。

その証拠にこの一般レースに地方トレセン所属で出走しているのはほぼ皆無、僅かにいるのはURAファイナルズなんて眼中になく腕試しに来たアホばかり、地方は中央よりも近い故に気付いているのだ。

 

≪コーナーを抜けて最後の直線、先頭は大洗女子学園バレーハッキュン!逃げる逃げる!!トリッキーな差し足でごぼう抜き!!しかしすぐ後ろにマタカセルシア、マタカセルシア!!

小宮山芸能プロダクション猛追だ、これが新人女子高生アイドルか!?歴戦の猛者のような追い込みを見せています、追いかけ慣れてます!!≫

 

行われているレースが佳境に入る、幾度となく行われた選抜レースに目をやるとそこには予想できた光景が広がっていた。

貸与された日本ウマ娘トレーニングセンター学園の体操服に身を包んだ出走ウマ娘達が次々と最後の直線に駆けこんでいく。

先頭を走るのはどれも一般クラブや一般校などから登録したアマチュアばかり、現役トレセン生はほぼ後ろで団子のまま上がってこれていない着外ばかり。

試験結果は順当に、当たり前のように、日本トレセン学園所属生徒たちが一般部門の出走者に蹂躙されていた。

予選レースの通過条件は一つ、1着を取るか2着に入着することである。そして今まで行われたレースの中で中央トレセン生徒がそれを達成した事例は皆無だった。

 

「根性ぉぉぉぉぉ!!」

 

「だーらっしゃぁぁいぃ!」

 

栗毛の短髪と尾花栗毛のブロンドがほぼ同時にゴール板を駆け抜ける。わずかながら小柄な栗毛のほうが体勢有利か。

尾花栗毛の外人ウマ娘は僅かに体が浮き上がり最後の所で上体が浮いていたように見える、走り慣れているのはバレー部のほうだったのだろう。

 

≪決まりました!中距離選抜レース第5戦、1着はバレーハッキュン!大洗女子学園!!2着マタカセルシア、小宮山芸能プロダクション!!≫

 

「ばぁぁりぼぉぉぉ!」

 

「これでも修羅場は潜ってきたんじゃい!え…が、外国人舐めんなァ!!」

 

勝てるものか、彼女たちは多くのアマチュアレースで経験を積んだれっきとした在野の実力者ばかり、たとえ経歴が浅くともこのレースのために経験を積んできた実力者ばかりだ。

確かにトレセン学園生は優秀だ、エリートで間違いない、最高の教育を受けてそれを実践できる。まさに英雄の素質を持つ駆け出し勇者だ。

そんな駆け出し装備でレベル5の勇者が、レベル20で特殊技を覚えたスライムを相手にして勝てるものか。

アマチュアレースとはいえ実戦、むしろ整備された模擬レースしか経験していないきれいなウマ娘達はアマチュア故のラフプレーには格好の餌食。

トレーナーたちも何を見ていた、あのウマ娘の中にはお前たちも見たことのある連中も多く混じっていただろうに。

トレセン学園を去っても走ることを諦めなかった連中の執念、それを甘く見積もった結果がこの様だ。

相手についている連中はトレーナーの資格を持っていないだけであってどいつもこいつも歴戦の教育者や指導者や突然変異ばかりだぞ。

オリンピック選手を輩出した者もいる、トレーナー試験に落ちながら学校で地道に研鑽を積んだものも居る、まったくの畑違いな教師ながら積んだ経験をフルに活用するものも居る。

お前らがウマ娘のトレーニングに専念していた時間に多種多様な知識を得て、運用し、蓄積して融合させていった歴戦の教育者たちばかりなんだぞ。

中には芸能界でのオスカー女優や全世界無差別格闘技王者が全力指導するプロダクションや、まったくの畑違いな分野で活躍した部活が変な実力を発揮することまである。

そもそも気迫からして負けている、トレセン学園生も死に物狂いで食らい付かんとするがそんなひよっこのがむしゃらなんて何のその、ひらりと躱して彼女たちは前へ行ってしまう。

 

(勝てるわけがないだろう、お前らが思っているほどアマチュアの世界というモノは甘くない。格下狩りなんて甘いこと考えてる時点で甘すぎる。

見に来た連中も連中だ、リギルの東条にスピカの沖野、黒沼にあの六平まで…担当まで連れてきて何考えてるんだ、まったく。

あいつらのおかげでもうどうしようもない、ちゃんと見れてるのはあのカノープス位だとでもいうのか?)

 

実力不足、経験不足、知識不足、何もかもが日本トレセン学園現役生徒やトレーナーたちには足りていない。

それはこのレースに何を求めてきたのかわからないトップ層のトレーナーたちにも言える事、こいつら自分の立場が分かってここにいるのだろうか?そこから疑いたくなる。

彼ら、彼女らがそこに居てレースを見ていたという時点で、レースで惨敗を喫したウマ娘とトレーナーたちの傷は修復不能なまでに追い打ちを食らっているような状態だ。

さすがにまずい兆候だと思ったのか、彼ら彼女らは担当と一緒に裏に引っ込んでフォローに回っているようだが…この先を走るウマ娘とトレーナーたちの顔色はすこぶる悪い。

午前中のレースで瞬く間に蹴散らされ自信と戦意を喪失したウマ娘とトレーナーたちを見て、午後のレースに挑むトレーナーやウマ娘達は現実を思い知ったのであろう。

きっと今すぐにでも逃げたいと思っているのだろう。彼ら、彼女らの考えていた想定はあまりにも甘すぎた。

 

「ふん…逃げられるものか…」

 

もうレースは始まっている、戦いは始まっている。これで敵前逃亡、ドタキャンなんてしようものならそれこそトレーナーとしても競争ウマ娘としても終わる。

彼女たちはもう逃げ場がない、死に物狂いで何とか勝つか、蹂躙されて全て打ち砕かれるか、それしかないのだ。

来年からは徹底的に中央と地方のトレセン現役生徒は登録できないように進言してやる、そう誓った。

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

地獄だ、目の前に地獄が広がっている。ディープインパクトは目の前の光景に、目の前の惨劇に、目の前の蹂躙劇に、そう名前を付けることしかできなかった。

しっかり変装してタービンと一緒にレースを見物しようと思ったら地獄でしたとか何それ笑えない。

 

≪中距離選抜第8レース、1着・サンゴーナナ!新宿パルクールクラブ!!2着・ハントバディ!天香学園!!≫

 

「うっしゃぁい!!」

 

「くっ…鈍ったか…」

 

「伊達に新宿で負けなしじゃねーってことよ。室内ばっかで油断しちゃったんじゃない?」

 

「ただの追っかけでしょうが」

 

「ヘタレがよく言うわ、ほら相棒が見てるわよ」

 

「んにゃぁ!?」

 

勝ち残ってしてやった感満載のやり取りをしている二人の後ろで悔しそうにしているほかの一般参加ウマ娘。

ここまではトレセン学園でもよく見る光景だが今回はさらにその後ろがある。

その後ろ、最下位争いで終始した現役トレセン学園生徒はまさに絶望という様相で明らかに普通ではない状況であった。

悔しさのあまり泣き出す者、澱み切った視線を勝者に向ける者、泣くことすらできずに呆然自失と言った者、怒りに変わり苛立つ者、どれをとっても見てはいられない状態であった。

さらに彼女たちを指導していたトレーナーもまた声も何も上げられない絶望の淵に立たされており、関係者席で文字通り頽れるものや激昂する者までいる。

それはそうだろう、苦労してトレセン学園に合格したエリートのはずなのに一般のトレーナーですらないインストラクターや学校の先生、あるいはそれ以外にぼろ負けしているような状況である。

 

(…うん、私があそこにいたら自殺しそう)

 

特に感情が怒りに走る者は最悪である、裏方フォローに回った東条からの情報では、レース場の隅で互いに罵り合ったりウマ娘とトレーナーの間で殴り合いになりかけてもいるらしい。

おかげでシマカゼタービン目当てで見物に来た有名どころのトレーナーとウマ娘達は全員裏方に引っ込んで仕事をせざるを得ず、完全な休暇であるディープインパクトを除いて仕事で忙しくなってしまった。

なまじ頭を働かせて、選抜レースのお手伝いとサプライズとして堂々と大勢で乗り込めるようにしたトレーナー陣の誤算である。

おかげでほかのレース中は暇であろうシマカゼタービンに、暇なときに引き合わせて併走訓練してもらう構想はパーだ。

まぁその分、自分がみっちり併走訓練して大いに楽しませてもらったが。

 

「みんな張り切っちゃってるねぇ。見たことないヤツばっかだけど…なんか面影のある奴がいるな。妹さんか?」

 

レースを間近で鑑賞できるコース脇で、関係者の中に混じって見物していたトレセン学園のジャージ姿のシマカゼタービンはけらけら笑う。

見慣れた白地の体操服に短パン、その上に前を開けたままジャージを着た彼女は目の前の地獄を見てもまるで当たり前のように笑うばかり。

困惑を隠せないトレセン学園関係者やレース場スタッフたちと気合いをいれるアマチュアたちとはまるで違うどっしりとした立ち振る舞いで怖ろしく浮いていた。

 

「タービン、私としてはどうしてこんなことになってるのか説明してほしいんだけど?なんでみんな負けちゃうのさ!?」

 

「いやいや、そんなの自明の理だぞ。トレセン学園の連中、明らかに経験も覚悟も足りん、死にに来たようなもんだぞあれ」

 

そりゃツインターボが珍しく曖昧な顔で『やめといたほうがいいよー…うん、ガチで』とか言っていたわけである。

なおチームカノープスはそんなツインターボの忠告を受けてトレセン学園で普段通りに過ごしている、超が付く英断である。

 

(でも確かに、ツインターボ先輩の言うことは正しかった…ううん、考えてみれば当然だった)

 

今まさに柔和な顔を浮かべているサンゴーナナとハントバディに限らず、これまでのレースで一般からの参加者たちが醸し出す雰囲気は尋常ではなかった。

その痛烈で濃厚な戦意、それを向けられた中央トレセン生徒たちは真っ先に掛かり、あるいは気圧されてペースを崩して勝ち筋から消されてしまう。

しかもそれは中央トレセン生徒だけにあてられたものではない、一般の出走者全員が互いに向け、互いににらみ合う。そんな状態だ。

その中に挟まれて中央トレセン生徒は狂わされていく、そしてボロボロの成績を残し情けない姿を晒して自らの無力さを思い知らされる。

もしまだメイクデビュー前の自分がここに放り込まれたらどうなる、負けるだろう、確実に。

 

「やっほー、君達、ちょっといいかな?」

 

熟考に沈んでいたディープインパクトの意識が引き上げられる、ふと声のしたほうを見るとそこにはタービンと同じトレセン学園の体操服を着た栗毛の大人びたウマ娘が手を振っていた。

 

「やぁ、私はマイヤーメイン、しがないただのマラソンランナーだよん」

 

「マイヤーメイン…あぁ、じゃぁ俺と一緒のレースの」

 

「そそ、やー光栄ね。群馬の青い彗星と今年の二冠ウマ娘にまさかここで会えるなんてさ」

 

思わずディープインパクトはぽかんと口を開けてしまった。その名は一時、シマカゼタービンがアマチュアレースを荒らし回って賞金を稼いでいた時に噂されたものだ。

彼女曰く、愛車を買うための資金集めだったらしいので噂も予想も何もかも的外れだったのだが、アマチュアレース界には激震が走り様々な憶測が流れていたのだ。

当然ながらそんな話をシマカゼタービンは知る由もない、アマチュアレースは出稼ぎの遠征先なので噂でもちきりになる頃にはルンルン気分で愛車を買って峠に戻っていた。

 

「人違いじゃねぇかな、俺は―――」

 

「シマカゼタービンでしょ、芦名の。そっちはディープインパクト、山と都会の怪物揃い踏みとかフライングじゃないかしら?」

 

「私は今回走らないけど?一回やる?千切るけど?」

 

「併走の申し出はありがたいけどパス、そこのバケモンみたいな体力はないのよ」

 

「貶すか褒めるかどっちかにしろよ…なんなんだ?」

 

初対面の相手なのにいろいろ容赦のない物言いにシマカゼタービンは少し大げさに頭を抱える仕草をしながら問い返す。

その姿にマイヤーメインはけたけたと笑って面白がり、次の瞬間にはその笑みを好戦的な笑みに作り替えた。

 

「4年前、群馬を中心にアマチュアレース内を引っ掻き回した青い髪の中学生の噂でアマチュアレースは持ちきりだった。

群馬の目ぼしいレースをやり切ったらふらっと栃木、次に埼玉で数回、全部ぶっちぎりの大逃げでライブ拒否の直帰。

どのレースでも着差は大差か一バ身以上も付けての文句なしの完勝、そのとんでもない走りと姿を聞けば聞くほど走ってみたかった。

でも生憎あんたとぶつかることがなくて、始まったのと同じく唐突にあんたはレースに出なくなった」

 

それで安心した?冗談じゃない、勝ち逃げされてみんなやる気満々になった。マイヤーメインはニッコリと挑発的な笑みを浮かべてシマカゼタービンを品定めするように見る。

 

「噂は間違いじゃなかった。峠の走り屋、車とガチをやる怪物は確かにいた」

 

「調べてくれたとは光栄だ…だがそれで?俺に何か言いに来たのか?」

 

「別に、宣戦布告に来ただけよ。今はあなたたちにまだ勝てそうにないけど…ね?」

 

瞬間、ディープインパクトの背筋に感じたことのない悪寒が突き抜けた。目の前の女、このウマ娘の穏やかな笑みの裏。

これは戦意だ、だがこれまで競い合ってきたウマ娘達からは感じたこともないほどに熱され、凝縮され、練りに練られて固まることを忘れた溶岩のような戦意だ。

いったいどれほどの熱情をもってすればそこまでになれるのか見当もつかない。

 

「まさかこんな機会が来るなんて思いもしなかった、こんな時代が来るなんて思いもしなかった」

 

なんだこいつは、なんだその表情は、なんだその目は、なんなんだこの自分を押しつぶさんとする重圧は!?

ワカラナイ、理解できない、まるで初めての感覚にディープインパクトの思考はかき乱されるしかなかった。

 

「まさかプロと戦える機会が来るなんて、まさかあの3冠ウマ娘とも戦える機会があるなんて、まさか平地で峠の伝説と戦える日が来るなんて。

あの日私はもう無理だって思ってた、中央にも地方にも行けなかった私がさ…ねぇ、ディープインパクト」

 

マイヤーメインの瞳がディープインパクトをじっと見る、そのどろりとした熱情に浮かされた目にディープインパクトは思わず悲鳴を上げた。

それ程までに怖ろしい、ただただ恐ろしいとしか感じる事の出来ない濃密な重圧になすすべもない。

 

「本当ならあなたと戦えるチャンスなんて絶対に来なかった、どれだけ焦がれようとも私たちには到底届かなかった。

でも今は手に届くかもしれないところにある。この高ぶる気持ち、わかってくれるわよね?」

 

分かるものか、理解できるものか、なんなのだお前は、なんなのだその目は、これが競争ウマ娘か、断じて違う!!

今にも逃げ出したい、なのに足が動かない。今もこうして体面を保っているだけで精いっぱいだ。

 

「こんなスペシャルな機会に巡り会うなんて一生無い、だから絶対に私は負けられない。私はこのレースで頂点に立つ、二人とも、勝負を受けてくれるかしら?」

 

マイヤーメインは自然な動作で右手を差し出してくる、まるで良い勝負をしようとでもいうように。

だがディープインパクトにはそうは見えない、まるでその手が自分を今にも握りつぶさんとしているかのように見えている。

その手がいつの間にか自分の首を掴んでいても少しも驚かない、それが当然だという雰囲気が彼女にはある。

呼吸が苦しくて仕方がない、マイヤーメインから目を逸らしたいのに逸らせない。

 

(殺される!!)

 

「その前にその物騒な気配を引っ込めやがれ、こいつにはまだ早い」

 

その手を遮るように、シマカゼタービンが不機嫌そうにマイヤーメインからディープインパクトを引き離した。

彼女が前に出てディープインパクトを隠すように背中で庇った途端、マイヤーメインから放たれた重圧から解放された。

 

「気が急き過ぎだぜ、マラソンランナー。てめーみたいなベテランがクラシックのガキ相手に威張り散らしてどーするよ」

 

「あら、走り屋のあなたがその子を庇うの?この時代の無敗三冠に一番近いと言われてるこの子に手加減なんて必要ないじゃない。

いえ、そもそもこんなレースにわざわざやってきて、仲間の負ける姿を見たらすぐ消えた連中よりよっぽど肝が据わってると思うけど?」

 

「それとこれとは話が別だ、あいつ等だってやることあんだろうが。ベテランならベテランらしくしろってんだよみっともねぇ、それ相応の態度ってもんがあるだろうが。

そもそもお前は年上だろう、自分の歳くらい考えて行動しなよ、年上が年下を虐めて悦に浸るなんざだらしねぇだけだろうが」

 

「私は19、大学生よ。確かに年上だけどレースでは関係無い…あぁ、もしかしてあんた、実は中央に入りたいとか?

そうね、現役二冠ウマ娘様に覚えめでたきゃこのレースで目、付けてもらえるかもしれないし?ま、ほとんどいないけど」

 

「何下らんこと抜かしてやがる、そんなもんに興味などないわ。そもそも、それはお前だろ?」

 

マイヤーメインの表情が一瞬こわばり、開かれた口から言葉が詰まる。ほれ見た事か、シマカゼタービンは余裕しゃくしゃくで肩を竦めた。

やっぱりか、そう言いたげな表情で見つめ返すシマカゼタービンにマイヤーメインはバツが悪そうに顔をそむけた。

 

「…あなたには関係ない」

 

「そうかい。まぁ俺が言いたいのは、レースで勝負付けるんならレースでやれ、ってことだ。ルールに則ってりゃ誰も文句は言わねーよ。

だがそれ以外ではちゃんとそれらしい態度でいるんだな。じゃねぇとお前だけの問題じゃ済まなくなるぜ」

 

「峠の走り屋風情が知ったこと言うわね、田舎者は田舎者らしくお山の大将でも気取ってなさい」

 

「そのお山で伊達に修羅場は潜っちゃいねぇんだよ都会っ子、そういうあんたは都会で大将できてんのかい?」

 

シマカゼタービンは不敵に笑い、マイヤーメインの胸ぐらをつかんで自分から顔を近づけて真正面から向き合った。

 

「カリカリしてんじゃねぇよ、周り見て一度頭冷やせ。じゃねぇとお前も誤解されるぜ?わかったら失せな」

 

挑発的ににやりと笑って文字通り額を突き合わせて見つめるシマカゼタービンに、マイヤーメインも負けじと額を押し付け返して睨む。

その表情、その立ち振る舞い、見たことのないシマカゼタービンの姿にディープインパクトは思わず見惚れてしまった。

数秒間のにらみ合い、一瞬とも永遠とも感じる時間はあっという間に過ぎ去り、小さい舌打ちと同時にマイヤーメインのほうがシマカゼタービンを突き放した。

 

「…今回は引いてあげる。でも優勝は私が頂くからね、お互いベストを尽くしましょう?」

 

「そりゃどうも、ま、頑張りましょうや」

 

「そう言ってもらえるとは光栄ね、ディープインパクトさんもよろしくね?」

 

「ひゃ、ひゃい!!」

 

じゃ、レースでね。そう言って去っていく、嵐は過ぎた、ディープインパクトはなんとなくそう思っていた。

 

「やれやれ、随分カリカリしてんな…ディープ、あんまり悪いほうに取ってやらんでくれ、きっと悪い奴じゃねぇ。イライラしてるだけだ」

 

「ひゅいっ!?」

 

「やっぱビビってたな、世話のかかる奴だ」

 

「うぇ!?い、いやそんなことありませんよぉ…って、誤魔化せないか」

 

正直に言えば、いまはそんな風にごまかす余裕なんてなかった。ディープインパクトは小さくため息をついて気を落ち着かせながら小さく頷く。

 

「うん、正直飲まれてた。なにあれ、心臓止まるかと思ったよ」

 

「まぁまだ中坊だもんなお前、気にすんな。ありゃもう殺気だ殺気、百戦錬磨の兵だけが持ってていいってやつだ」

 

それを普通に耐えるお前はなんなんだよ、思わず問いかけたくなったがディープインパクトは我慢した。百戦錬磨はこいつも同じなのである。

 

「お前どころか、ターボにだって早ぇよ、ルドルフかブライアン位じゃねぇと耐えられんだろう。

だがよ、あれくらいアマチュアレースじゃそこそこ普通だぜ。あれよりもっと狂った気配を醸しだしてるの大勢いるしな」

 

「うぇぇ?なにそれ、アマチュアレースってそんな魔窟だなんて聞いたことないんだけど?」

 

「そりゃお前らみたいな名門とか名家とかいう連中はそうそう足なんて運ばんだろ。しかも行ったところでふつうの場所だ。ああいうのはもっとコアな場所に潜んでるもんさ」

 

不適合者の吹き溜まりと同一視されてるからな、シマカゼタービンは肩をすくめる。どうやらプロの世界とは相性が悪いらしい。

 

≪中距離部門第10レース、1枠1番・テューダーガーデン、芦名高等学校。1枠2番―――≫

 

≪中距離部門最終レースの最終チェックを行います。出走者は指定の待機室へ≫

 

そろそろ中距離の部が終わる、次のレースは少しインターバルを置いて長距離部門だ。

 

「最終ってこたぁベレーのか…そうだ、ちょうどいいし飯にしながら話すか、次の最初だし」

 

「見に行かなくていいの?」

 

「いいのいいの、あいつらならまず負けねぇから。それより飯だ飯、腹が減っては戦はできぬ」

 

「なぁんでそうなるかな、食べ過ぎて走れませんだなんてやめてよ?」

 

「はっはっは!言ってくれるじゃねぇか」

 

「わっぷ!?」

 

「ディープ、飯ってのは燃料だ。燃料ってのは基本満タンか多めに入れとくのが吉ってもんさ、多けりゃ吹かして減らせばいいが、無けりゃ車は動かんからな」

 

ぐしゃぐしゃと頭を手荒く撫でられる温かい感触に思わずムーッとディープインパクトは唸り、微笑むシマカゼタービンの顔を真正面から見据えてその頼もしい笑みに目を奪われた。

 

「心配すんな、負けやしねーさ。ま、峠の走り屋舐めんじゃねーってな。それよかお前、ここ良く知ってんだろ?ここのうまい飯、教えてくれよ」

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

うーん、これはなかなか…東京競馬場もといレース場の一般向け食堂の隅っこにある席で本日食べるのはこの食堂特製ニンジンハンバーグ、なかなかうまい。

トレセン学園のメニューをアレンジしたヤツらしくて、ハンバーグに甘く煮たニンジンが一本ぶっ刺さってるっていう豪快なトンデモメニューだったからつい面食らうが、いい肉にいいニンジン、喰えば喰うほど食欲が出るな。

 

「うーん♪これはなかなか♪」

 

「美味しいでしょ、ここのハンバーグ、お値段の割にとっても美味しいの」

 

何より意外とリーズナブル、ウマ娘サイズデラックスセットで1200円、人間サイズデラックスはまさかの950円、しかも大盛無料ときた。

デラックスセットはミニサラダ、汁物、ごはんかパン、お替り無料ドリンクバー、食後のパフェまで付いてくる。

レース前なんで人間サイズ大盛950円、いやぁなかなか至福ですわぁ。

肉汁たっぷりお肉とご飯のコンビはたまらん、それにニンジンの甘さが絶妙、すっと切れてパクッとイケて舌で押しつぶすとジンワリと甘み、たまりませんなぁ!

中央の競馬場の飯ってなかなかお洒落さんだったのね、前世でも食ってみたかったわ。前前世でも来ればよかったな。

前世じゃ高崎のこじんまりとした食堂しか縁がなかった、他の所じゃ出入りさせてくれんのよ。高崎もうまいんだけどやっぱ中央は金のかかり方違うわ。

 

「そんでお前さんはそれで足りんのか?」

 

でも俺ががつがつ食ってるときにお茶飲んでるだけってディープ…おごってもらってるわけじゃねぇのに罪悪感するんですが?

 

「食べる気失せちゃったよ…それでさ、さっきの話で気になったんだけど、みんなカリカリしてるのってなんか訳あるんでしょ?」

 

「おぉ?そりゃそうなんだが…なんだ、お前さん気付いてないのか?あいつらがめっちゃカリカリしてんの、お前らのせいだぞ?」

 

「なにそれ?」

 

なんだよ気付いてねぇのか…まぁ住む世界違うっちゃ違うから当たり前なんかね。それかあいつらの中じゃなんか尺度違うのか…

 

「あんな、ここは知ってる連中はアマチュアの中でも手練れが集まってる。そいつら、なんでアマチュアのまま手練れになったと思ってんだよ?」

 

早い話、諦められんかったからだよ。走って走って走りまくって、自分の足で栄光の場所に登りたくて仕方がない、そういう連中だ。

だができなかった奴らはそれこそ大勢いるんだ、途中であきらめたやつも、惜しかった奴も、そしてそもそもスタートラインにすら立てなかった奴も、な。

ディープインパクト、忘れてねぇか?その世界でお前みたいな連中はそれこそ一握りってもんよ。ターボだって超が付く上澄みの上澄みさ。

 

「あいつら全員、いくら挫折しようとも諦めきれなくてずっと走り続けてんのさ。手が届かないと知りつつもずっとずっとな。

中央にも地方にも入れなかったかそこで走り切れなかった連中、それで散々ケチついても走ることを諦めきれなくて、そこしか走れる場所がなかった。

それしかなくてそれでも走って自分を磨いてきたって連中だ、学歴も何もかも、結局は走るために費やしてる奴さえいるだろうな」

 

中学受験で落ちて、編入試験で落ちて、高校受験で落ちて、高校での編入試験でも落ちて、落ちて落ちて落ちて落ちまくってそれでもあきらめられなかったって口だ。

アマチュアレースで大暴れして何とか気を紛らわせて、気持ちを整理して区切りを付けようとして、それでもどこかで諦めらんなかった。っていうところだろうさ。

 

「マイヤーメインなんか大学生、19だ。文字通り憧れの世界へのラストチャンス、夢にまで見た世界が自分から手が届くところまで来てくれたんだ。

レースの世界は一応年齢には融通利くってことになってるが、実際の所トゥインクルで走れるのは大体未成年だろ。

そもそも大学生ともなりゃぁ将来の事を考える時期だし周りの目も気になるお年頃さ、見切り付けるか覚悟決めるかってな」

 

そりゃ不安定にもなるし悩むしピリピリするってもんだ。まぁそれでも普段ならああまではならんだろうがな。今回ばかりは状況が違う。

 

「そんなところにまさかのチャンス、そりゃ食いつくし気合も入るってもんだ。そんで来てみればただの予選なのに中央の有名どころ勢揃いの状態で自分を見せつけてアピールできる機会となりゃぁそりゃ気合いが入るってもんだろ」

 

正直な所、今回のレースの一般勢はみんなそうだったんじゃねぇかね?最初はそこまで期待してなかったのに、出てきてみれば中央の有名人勢ぞろいなんだろ?そりゃテンション上がるわ。

 

「なのになんだよ、中央。お前ら、自分の仲間がコテンパンにやられだしたらどんどん見る価値無くなったみたいに席外しやがってさ」

 

「いや、それはみんなフォローに回っただけで…」

 

「そりゃ俺は理解できるさ、俺はな。一応聞いてるし、あいつ等みたいに切羽詰まってないし。

だが俺みたいに余裕がないあいつらからしたら実力見せたのに負けた仲間のほうしか見てねぇんじゃ納得できねぇよ。

アマチュアはアマチュアでしかないから見る価値なんてない、お前らには価値がないって口で言ってるようなもんだぜ」

 

そりゃイライラもすんだろうよ、中央から格下狩りに来た勘違いどもをコテンパンにして解らせたら、お前らそいつらの味方してんだもん。

まぁそりゃあいつらはお前らの身内だしフォローすんのは道理だが、それで感情が納得するかと言えばそりゃしねーわな。

俺はそういった理由がねぇからある意味他人事なわけでこんな風に見れるだけなんだよ。

 

「その話、私に聞かせてもらってもいい?」

 

「おん?」

 

なんだなんだ、今日はやけに知らない顔に絡まれる日だな。声がするほうを見れば、俺の着てるジャージとは違う年季の入ったジャージ姿のウマ娘。

ははん?こいつも中央所属だな。見りゃわかるぜ、ジャージの着こなし方がめっちゃ似合ってんもの。

 

「君は?」

 

「スイートキャビン、次のレースで一緒に走るわ」

 

「おぉ、よろしく。確か中央だったよな?」

 

「緊張感ないわね…中央なのだけど?」

 

「だから?」

 

「…あーもう、こいつもか」

 

だって緊張したって仕方ねーもん、なるようにしかならんさここまで来たら。

 

「スイートキャビン先輩!?なんでここに居るんですか?」

 

「それは私が聞きたいんだけどね、ディープインパクト…ってか何で私のこと知ってるの?話したことあったっけ?」

 

「い、いやぁ、その…あ!サンバイザー先輩と一緒にいる所をちょこちょこ見かけて、話聞いたことあって!」

 

「ふ、ふぅん、あいつが…やっぱ悪いことしちゃったよね…」

 

あぁ、俺、置いてけぼりです。しかしまぁなんだ、ディープ、やっぱトレセンでも有名人なのね。

明らかにスイートキャビンのほうが上級生っぽいのに立場が上って感じがする。

 

「ってそうじゃない…えーと…なんであんた前開けてんの?」

 

「え、そこ!?」

 

「これか?あぁ、こういう事さ」

 

スイートキャビンの不思議そうな視線に俺はジャージのファスナーを閉めて見せる。当然、胸のせいで胸の下あたりで突っかかった。

どうやらトレセン学園のジャージでも、胸囲の戦闘力には抗えなかった。良い素材使ってるしやらかいからいけると思ったんだけどね、群馬トレセンみたく防弾ってわけでもねぇし。

いやはや、こういうのは見るからうれしいのであって自分でやってたらただ楽なだけであとは視線集めるだけなのよ。

 

「入らねぇのさ、適正サイズだとな。交換してほしかったんだが予備がないって言われちまった」

 

「なるほどね、確かにそんだけデカいとそうなるか…ってそうじゃない。聞きたい事があるの、いいかしら?」

 

「かまわんよ」

 

どうぞ、と俺は隣の席を引いてやる。そこにスイートキャビンがドカッと座った、いい太ももしてんじゃん。

 

「なんでこの大会に出ようなんて思ったわけ?」

 

「なぜに?」

 

「別に馬鹿にするわけじゃないわよ。あんたら目立つから気になってさ、高校でなんかクラブでもやってんの?

あの二人、あんたのこと自慢しまくってるわ。トレセン時代のあいつらはうちらも知ってるから目立ってんのよ」

 

ははーん、なるほど、それで俺がどうしてこんなところにいるのかこいつは不思議なわけね。そりゃそうだよね、俺だって理由がなきゃこねぇもん。

というかこんなこと言ってくるってこたぁあいつら勝ったな?まぁ当然だろうよ、芦名でもそこそこ強いし。

 

「あいつら勝ったか、当然だな」

 

「うちらとしてはあり得ないくらい強くなってて頭おかしくなったかと思ってたんだけどね。

話を聞けば姐さん姐さん、そればっか。姐さんってあんたのことでしょ?やれ峠最強とか、車にだって負けないとか…あんなに強くなったと思ったら変わりすぎでしょあいつら」

 

「何やってんだよあいつら…やっぱ見に行かなくてよかった」

 

別に予想してたわけじゃないよ、ただいやな予感しただけだよ。

 

「止めなくていいの?タービンそういうの嫌がるじゃん」

 

「お前は吹聴して信じてもらえたかい?」

 

「いや全然…そっか、放っておけば勝手に消えるからか…ってかなぜ知っている!?」

 

「想像つくわ」

 

ことさら競馬関連となると最初から信じてもらったことなんて前世じゃほぼなかったかんな、意外な事に。というか大体前世と変わらんなお前。

 

「えーと…放っておかないでくれると嬉しいのだけど?」

 

「む、すまんすまん。俺の理由か…恥ずかしい話、ダチのためさ。俺はとっくに別の道に進んでるってのにあいつらは俺と走りたいってあきらめねぇからよ。

だからちょいと背伸びして遊びに来ただけさ。ま、やって駄目なら諦めつくっしょって話よ」

 

「…あんたも苦労してるわね。でもいいの?負けたらそいつら、あんたのこと失望するんじゃない?」

 

「まったくもって、そうだよな、怖い怖い。ただの高校生にこんなデカい大会は荷が重すぎるってもんだってのにねぇ」

 

「そんなこと言いつつ逃げないんだ?あんたは別に逃げてもいいのに」

 

「逃げんよ、やるからには。あんただってそうだろ、こっちに出るってこたぁよ」

 

ターボから聞いてんだぜ?中央と地方にはそれぞれ優先出走枠があって、それを決めるトライアルレースがあるってことくらい。

でもそれを蹴ってこいつはここに居るんだ、なら理由は理解できるわ。

 

「…気に入らないわね、その目、あたしが嫌いな連中の目にそっくり」

 

「それは残念。俺はあんたのそういう判断ができて行動できるところ、嫌いじゃないがね」

 

「どうだか…あたしは格下狩りに来ただけよ」

 

「それが何さ、真っ向勝負だけが正しいなんてことねぇだろ。時には回り道も必要さ」

 

そもそもあれだ、見るからに自分が勝てそうにない道に突っ込むくらいなら多少なりとも可能性がある道に行くのは普通だろ。

目の前に高い壁があるとして、それ超える手段を指定されてないならわざわざよじ登る必要はない。

目的がその壁の裏にあるなら手段はいくらでもあるだろ。迂回していいなら迂回するし、はしごがあるならはしごを使うし、派手に爆薬で吹っ飛ばすのもありじゃん。

 

「で、ここにいる連中は格下だったかい?」

 

「…見込みが甘かったのは認めるわ、でも私だって気持ちは負けてない」

 

俺を睨みつけてくるスイートキャビン、良い目してるぜ。気圧されてる連中多いのにこいつは負けてない。

 

「だったら対等だな、レースじゃ手加減しねーぜ?」

 

「言ってなさい、悪いけど勝たせてもらうわ。レースは遊びじゃない、あたしたちトレセン学園生徒の実力を見ておきなさい…ま、2着はくれてやるわ」

 

その言葉、そっくり返すぜ。まったく…良い目してやがる。こういう目をしてるのがいっぱいいるのか。このレース、楽しみになってきたな。

 

 

 







あとがき
逃げ場なんてないよ。一般相手なら勝てるとでも思っていたのかい?絶望のファンファーレが鳴り響く。
というわけでレース直前の顔合わせ的な繋ぎ回でした、トレセン学園生はほぼすべて一般参加者に蹂躙されてます。
作中でも話にしましたが、実戦不足だったり初陣だったりするエリートに歴戦の一般兵が負けるわけがないのです。
ディープインパクトがビビり散らすくらいの殺気ブチ当てられたりもしてるからね、そらそうよ。
そんな姿をタービン目当てでもぐりこんできたトップ層の連中の目の前で晒すわけでね…まぁ地獄でしょ。
作中の一般出走者は基本ネタ塗れで特に意味はない、ほぼ絡むことなんてありません。ギャグ枠です、ギャグ。
次回はそろそろ出走させてやりてぇなぁ…


ちなみに一応歴戦兵と表現しましたが作者の中では某村とか某島の屍人とか闇人もだいぶ混じってる時がある。
URAの采配に血涙流して喜んでそうとか、諦め悪くてすっごいドロドロしながらずっと待ってたとかでつい…


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