気儘に生きた転生馬物語   作:イナダ大根

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いつも多くのご感想と誤字報告、ありがとうございます。やっと始まる平地レースでございますがここで一つ謝罪を。
相変わらず各陣営の温度差が酷いです、作風なので仕方なのですが。物語上だと各陣営の個別問題で混じらないのでホントどうしようもない。
競っているけど争っているわけじゃないからどいつもこいつも好き勝手してるからさぁ…という二十九話です。
ちなみに今回はやや短めです、切れ目がどうも見つからないんで思いっきりカットしたらすっきりしちゃいました。





第二十九話

 

 

 

天高く太陽が上がった昼下がり、いつもなら練習に励んでいるか、何もする気も起きないでただベンチでだらけているか、それが彼女の、スイートキャビンの日常だった。

そんな彼女、スイートキャビンは東京レース場の芝コースレース場の片隅で外ラチに背を預けたまま一枚の古い写真を眺めていた。

何度も折りたたまれて、擦り切れ始めた思い出の写真。入学して間もないころにそこで出会った仲間たちと始めた写真を撮った何気ない集合写真だ。

自分のほかに5人、恥ずかしげに笑うサンバイザーと肩を組む栗毛のウマ娘、そんな彼女達を抱きかかえるように笑う大柄で色黒なウマ娘。

カメラを天高く掲げて自撮りのようにする栗毛の活発なウマ娘とその後ろでおっとりした蘆毛のウマ娘と肩を組む自分。

今でも鮮明に思い出せる、あのころはまだ何も知らない夢見る少女だった。あの時は、自分がクラシック3冠を取ってやるんだと意気込んでいたっけ。

この写真をみんなでもって、大切な何かの約束の証みたいになって…いつの間にか支えになって、呪いになって、今やただの儚い思い出になった。

自分たちは現実に打ちのめされた、自分たちの才能の限界に苦しめられた、何もかもうまくいかなくて、やがて自滅に近いやり方で消えていく。

みんなのために諦められないと、私はこんな風にはならないと、そう心に言い聞かせてがむしゃらに走って走って走って、すべて擦り切れかけてここまで来た。

 

(とはいえ、スタートできただけでも幸運だったのかもね…呆れるわ、結局、なんも見えてないだけだったじゃないの)

 

もうすでにこの写真に写るウマ娘でトレセン学園に残っているのは自分とサンバイザーのみになってしまった。そして今度はサンバイザーだけになる。

 

(次は自分の番か…まったく、あきらめの悪い愚か者の末路にはお似合いなのかもね)

 

次に消えるのは自分か、最後に残ったサンバイザーは無事に卒業できるだろうか。いや、結局自分たちも無数にある結末に落ち着くだけか。

 

(私は間違えた)

 

私たちは間違えた、私たちは傷ついた、何度も何度も間違えた、何度も何度も傷ついた、間違えて間違えて間違えて、傷ついて傷ついて傷ついて、そして何もかも失って、ここまで行きついたのがあたしだ。

夢なんて持たなければよかった、希望に縋らなければよかった、意地になって食らい付いていなければよかった。

自分がやりたいなんて思わなければよかった。3冠ウマ娘に憧れなんか持たなければよかった。ウイニングライブのセンターなんて憧れなければよかった。

私はなりたかった、一流の競争ウマ娘として名を馳せたかった、G1の頂に上り詰めたかった、たくさんファンレターが欲しかった、煌びやかなウイニングライブのセンターで踊りたかった。

自分のトレーナーに出会いたかった、自分のチームに出会いたかった、胸を張って学園を歩める競争ウマ娘でありたかった。

シンボリルドルフのようになりたかった、スペシャルウィークのようになりたかった、ハルウララのようになりたかった、トウカイテイオーのようになりたかった。

 

(あいつみたいに…私はなりたかった)

 

自分は自分が思い描いた最高のスイートキャビンになりたくて、サンバイザーのような自分になりたくて、そのために努力して、そしてすべて失敗し続けてきた。

自分らしく、自分に合った、身分相応の暮らしに満足していれば、きっとこんな惨めな思いなんてしなくてよかった。

背伸びなんてしないで地元の高校に進学して、地元の友達と馬鹿みたいに日々を楽しんで、ただの一般人として生きる未来が自分にはあったはずだった。

そうやって生きていればきっと自分はここにはいなかっただろうけど、きっと別の未来がずっとたくさんあっただろうに…

 

(でもそれでも)

 

思い出に逃げていたスイートキャビンは写真を畳み、深呼吸して目を背けていた現実に再び目を向ける。

後悔するだろう、ずっとずっと過去を悔やんで生きるだろう、バカな夢で青春を不意にした自分を後悔し続けるだろう。

写真を見て俯いていた顔を上げる、瞬間、自分たちを包み込む濃厚な熱気と戦意の渦に飲み込まれかけた。

ゲート入り直前故に互いにけん制しあうアマチュアたちが発する殺気と闘気がせめぎ合う渦だ、顔は笑っていても雰囲気は全く笑っていない。

酷いものだ、自分以外のトレセン学園生はすでにこの熱気の中に飲まれて恐怖しすっかり委縮してしまっている。

自分自身、きっと一度切り替えができたからこそ落ち着いていられるだけだ。彼女に出会えた幸運がなければきっと同じように気圧されていただろう。

 

(私達なんか見ちゃいない、か…見てるのは上、私達みたいに下をみて歯ぁ食いしばってなんかいない)

 

この熱気の渦を一身に浴びせかけられながら、場違いに飄々と伸びをしているウマ娘。シマカゼタービンはそれを全く気にも留めずに片眉を顰めながら足元を気にしている。

その姿は平静そのもの、このレースに参加するアマチュアたちから注がれる闘気に一切の反応も示さない…いや、少しだけ違った。

スイートキャビンの視線にだけは反応して、何とも気の抜けた笑みでひらひら手を振ってからサムズアップして気安い笑みを浮かべている。

ここにいるウマ娘達とはまるで心持が違う、レースで走るのを楽しみに来たウマ娘の単純そうな笑み。

それが酷く浮いていて、どこまでも眩しく見える。きっと彼女がこの場を一番楽しんでいる、そんな時期が自分にもあった。

 

(あぁそうか、なんで捨てちゃったんだろう)

 

そんな自分をあたしはとうの昔に捨てていた、勝つために必要だと思ったから、だった気がする。

私は走っていれば幸せを感じられていたはずなのに、もう遠い昔のことのようだ、本当にもう曖昧にしか思い出せないのだ。きっと心が思い出したくないのだろう。

ここ最近はずっと苦痛でしかなかった、走るたびに失敗の繰り返しで、走るたびに心が痛かった。だから、こんなことを考えたのだ。

 

「…回り道して、そのルート間違っちゃどうしようもないじゃん、私」

 

結局、自分がいる世界はそれが大事だ。結局上をがむしゃらに目指す以外に道はない。それは自分もよくわかっていた。

だがそれだけで生きていけるほど世界は甘くないのも事実、時には回り道や迂回も必要なのだ。

問題はそのルート選択を自分は盛大に間違ってしまったという事だろう、今にして思えばなかなか自分も慢心していたという事が分かる。

言い方は悪いが、上には上がいるように下には下がいたのだ。自分はどれだけ現在の成績が不振でも、トレセン学園に入学しそこで暮らせる実力があった。

これまでリタイアしていく多くの同期、先輩、後輩を自分は見送る側に立っていた。学園側から在学に関する注意喚起の一つももらったことはなく、出走できずとも学生としてはしっかりやっていた。

だがそんな自分になれなかったウマ娘が、トレセン学園に入学すらできずにいたウマ娘がこの世界には多くいた。

それで彼女たちの多くはレースを諦めた、しかし諦めなかった者がここにいる。トレセン学園生が考えたこともない本当の裏道街道を走って地力をつけてきた者たちがここにいる。

あぁきっと、そんな中にいる実力不足な自分たちはとても場違いに見えているんだろうな、スイートキャビンは自嘲の笑みを浮かべて内ラチの向こう側に見える観客席のほうに視線を向けた。

向こう正面の位置にあるこのスタート位置からは米粒のようにしか見えないが、関係者用の観戦スペースにはビッグネームのトレーナーやウマ娘達が顔を連ねているように見える。

耳を澄ませると上空から静かなローター音が聞こえる、上空を見上げるとカメラ付きドローンがフライパスしているのが見えた。

午前中からレースを撮影している運営のドローンだ、この情けない姿は運営に記録されているというわけだ。

 

≪ゲートの準備が完了しました、アナウンスに従ってゲートインを始めてください≫

 

でもそれでも、自分は自分で選んでここに来た。スイートキャビンは、心を無にしながらゲートのある坂の上を目指して足を踏み込んだ。

 

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

 

 

ガチャンと後ろで扉が閉まる、前世じゃそれなりに慣れていたけどウマ娘になって入ってみるとまたなかなか景色が違うのなゲートってやつは。

今も昔もただのせまっ苦しい鉄の囲いでしかねーけど、ウマ娘でもこれが苦手だっていう奴いるよね。まぁ前世よりもずっと教えるの楽だけども。

さてさて、久しぶりの平地レースである。しかも芝、都会の中央管轄レース場、都会の芝なんざ前世の有馬以来だぜ。

東京競馬場・芝長距離・左回り・距離3000メートル。天気は良好、コースコンディションも良…距離は余裕だが、なぁ?

もう一回、右足を少し踏み込んで足場を確認するが、相変わらず何とも言えない踏み込み辛い柔らかさだ。

ダートの砂みたいな滑りはないけどなんかぐにゃっとしてるというか力が吸い込まれそうな感じ、踏んだらそのまま踏み千切りそうなこの柔さ、相変わらず慣れんな。

 

「こればかりは相性ってやつかね…」

 

小さく独り言、俺って競馬場と相性悪いよねホント。アスファルトとか泥道のほうがよっぽど走りやすいわい。

芝も砂もどっちもなんかこういうところのは走り心地悪いんだよ…嫌だなぁ、躓いてコケたらいい笑いもんだ。

しかもこれ、ダイオー達録画するとかなんとか言ってたし…そういえばダイオー達は間に合ったのかね?

今朝は到着遅れるとか聞いていたが…結局午前中には間に合わんかったな。

 

「ふぅ…」

 

そろそろ切り替えよう、まずはこのレースに勝つことだ。周りの空気は正直いって最悪、このドロッとした感じは正直好きじゃねぇ。

これなら妙義のアイツのほうがずっとマシ、性格悪くてもここまでドロッとしてないし勝負に嘘はつかねぇから。

せっかくいい場所で勝負できるんだからもう少し楽しんでも良くない?いや、まぁ俺が変わってるだけなのは分かってるから言わんけども。

小さく嘆息してから息を整えていつでも飛び出せるよう半身になって構える、ウマ娘では普通の出走スタイルだ。

隣を見るとゲートの中でクラウチングスタートをしようとしてる連中がちらほらいる、陸上経験者だとそっちがやりやすいんかね。

そんな疑問を感じていると周囲の空気に一本筋が入り、冷たい緊張が流れるのを感じて背筋がしゃんとする。

この感じはあれだ、スタート直前。係員がスタート用に旗を上に掲げて…降ろした!

勢いよくゲートが金属音を立てて開く。それと同時に、俺は右足を強く踏み込んで、勢いよくゲートを飛び出した。

スタートはまずまず、少し勢いをそがれたがポンと前に飛び出せた。そのまま勢いに乗って前に、いつも通り大逃げだ。

周りを見て少しだけ他の連中の走りを窺う、他の連中もスタートはまずまずだ、スイートキャビン以外のトレセン連中はやや遅れたか?

現状横一線、だが前に出ようとしている連中は少なめ、先行狙いか。逃げはいなさそうだ、邪魔はどうやらしてこないらしい。

なら逃げさせてもらおう、足の回転を徐々に早めて体を温めながら加速、先頭に飛び出してリードを稼いで距離を取る。

おおよそ三馬身、時速50km、最初の直線の終わりが見えてきた。もう少し加速して距離を取る、コーナーで少し後ろを見やすいように。

最初のコーナーは軽いインベタ、加速しつつ内ラチに余裕を取りつつ5センチまで寄せてコースの掴みを覚えて体幹を調節、荷重調整の狂いを正す。

やはり走りにくい、どうも加速が悪いし力が芝に吸い込まれている感じがする。踏んでも推力が想定通り稼げてない、力が逃げちまってる。

この先を考えると調整が必要だ…近所の市民体育館でコース借りるか。

時速55km、体の調整をしながらカーブを利用して後ろを見つつ、耳を澄ませて後ろの足音を聞き分ける。

先頭は二人、マイヤーメインとスイートキャビンか。足の踏み込みの強さから見て、加速をかけているのはこいつらだけか。

甘く見られたわけじゃねぇ、まだ動向を見てるって所か…うっわ、気配が怖いね。もう少し楽しもうって気は…まー余裕ねぇか。

本気だな?ならば俺も本気で行かねば無作法というモノ。こいつらは全員、素晴らしい競争ウマ娘に違いない。

俺みたいなエンジョイ勢とはわけが違う、将来の命を懸けて勝負に来てる。故に細心の注意を払い、最高の敬意を以て。

 

「ぶっちぎってやる」

 

やってやろう、勝ってやろうじゃないかその勝負、情けない姿をディープ達に見せるわけにはいかんしなぁ!

最初のコーナーが終わる、良い感じに体が温まってきた、ここからさらに上げていくぞ。

コーナー終わりと同時に立ち上がり加速、時速60km。一瞬力を抜いて半クラッチ入れてからギアを一つ上げて一速から二速。

ここも思いのほか足場が悪い、加速が乗らん、できる限り観客席正面のこの直線で速度を稼ぐ。さらに加速をかけて、時速60kmから70km。

何の問題もなく一気に駆け抜ける、直線半分でさらに時速80km、中間にあるスロープからさらに半分で上げられるだけ上げながら足元を確認しつつ踏み込みを変える。

このまま加速を掛けつつ第2コーナー、ここもインベタ。今度は本気で、攻められるだけ攻めて、推力を稼いだうえで上げられるだけ上げる!!

 

「上げてきた!?まだ上げるか!!」

 

「嘘でしょ、このままカーブに突っ込む気!?自殺行為よ!!」

 

「まずい、撤収させろ!急げ!あのバカが来やがった!!」

 

ラチの外で駆けずりまわっている係員たちの声が聞こえる。

コーナー入り口から前半、内ラチから3センチに攻め込む。ギリギリまで体を寄せて、加速を掛けられる限界まで体を寄せて、推力全てを加速と前進に回しながら駆け抜ける。

コーナー中盤から後半、内ラチまで2センチ半までさらに攻めこみギリギリまで体を寄せる。体幹をフル稼働、姿勢を維持しつつさらに踏み込んで加速、歩幅を調整して立ち上がり準備。

コーナー終了、内ラチから離れると同時にさらに踏み込んで加速、コーナーで付いた遠心力もすべて注ぎ込んでさらに踏み込み。

立ち上がりと同時に半クラ入れて二速から三速にギアチェンジ、踏み込みと同時に繋げてさらに加速!!

体感時速80km、二度目の向こう正面、段差の向こうでゲートの格納を急いでいる係員が慌てて引っ込む姿が遠くに見える。

慌てて内ラチの中に駆けこんでいくのが少々滑稽だ。問題ない、オールクリア。

前半分は加速を維持しつつ通過、段差を超えて、残り半分、加速を維持したまま最終コーナー、時速85!!

最終コーナーを見てみる…ここもやっぱり足場が悪いな。いまいち速度の加減がしにくい所が踏み荒されて余計に柔らかいと来てる。

インベタグリップで抜けるには少々足場が悪い、この速度でやる踏み込みだと強すぎでブレそうだ。

初戦で都会の芝に慣れてない状態では少々冒険が過ぎる。息を吸う、4つ数える、息を吐く。

コーナーに加速を最大限に掛けつつインベタで突入、加速して推力をさらに背中に稼ぎ、ギリギリまで遠心力を稼いで自然と体をもっていかせる。

体を弛緩させて半クラッチ、ギアを上げて四速に、全身を集中させて神経を研ぎ澄ませて、血の流れを意識して、筋肉の動きを注視して、最高のタイミングで繋げる!!

 

「フン!!」

 

超インコース、コーナーの中ほど。一番荒れた地面を選んで、一番踏み荒らされた一点を狙って、深い足跡を踏み抜き、思いっきりねじ込んで踏み込み、溝を作って蹴散らしながら一瞬のブレーキング。

稼いだ遠心力に引っ張られて体がブレて浮くのを重心の荷重移動で制動しつつ速力を前に逃がす、ブレーキングした足をすぐに引き抜いてステップに移行。

軽く芝をタップするように蹴って姿勢維持しつつ、柔らかい表面をヒールアンドトゥの要領で蹴散らしながら速力を維持、カーブの中ほどで姿勢を切り替えて方向を変える。

尻を外に流してインベタを維持しつつ姿勢を左に回し、正面に内ラチが来るように、距離を維持しつつ横っ飛びロングドリフトに移行。

目前に風切り音を立てる内ラチ、姿勢を体幹で制御しつつ内ラチ3センチを維持、普通ならやらん魅せる技だが役に立つときは役に立つもんだ。

姿勢を維持、落ちる速度をできるだけ維持しつつステップを絶やさず、横っ飛びにコーナーを抜けながら姿勢を変えて立ち上がり準備。

 

「ヴン!!」

 

コーナーが終わり、体があらぬ方向にすっ飛びかける直前で再び思いっきり踏み込んで一瞬の制動。

同時に前に向けて踏み込み、荷重移動で重心を前に傾けつつ逃がしていた速力を再び前に、思いっきり踏み込んで立ち上がり加速。

内ラチから流れるように離れつつ推力を背中に、思いっきり加速を掛けながらスムーズに復帰。

時速80kmから再加速、最後の直線、このまま一気に駆け抜けて仕舞いに―――

 

「!」

 

瞬間、背筋にピリッとした気配を感じた。遠い気配だ、俺には到底届かない。けれども彼女は諦めてない、追い付く気で踏み込む音が確かにした。

やはり来たか、マイヤーメイン、そしてスイートキャビン。わずかに、かすかに、けれども確実に聞こえたのは彼女たちの踏み込み。

距離は遠い、はるかに遠い、何故なら俺は最後の直線だがあいつらはまだ向こう正面にいる。聞こえる荒れた息遣いからして、もはや走るだけで精いっぱいに違いない。

それでも二人は踏み込んだ、まだ勝負は捨ててないってわけだ。ならばそれに応えよう、残り400メートル、時速82km。

息を吸う、息を吐く、息を整え、大きく吸い込む。体を整えて、姿勢を整え、弛緩させて半クラッチを入れる。

一瞬の減速、力が抜ける体を制御して走る。息と筋肉の動き、心臓の動きと血流の動きを見極める。

心音を合わせ、血流を読み、筋肉を軋ませて、関節を調節し、最高のタイミングですべてをつなぎ直してさらに踏み込む!!

 

「ヴゥンッ!!」

 

吸い込んだ息を吐きだしながら芝を踏み込み加速、全身全てを最高の状態に繋ぎ直して5速、時速84km、残り380メートル。

350、85、300、86、250、86、200、87、150、88、100、88、50、89!!

体感時速90km、ゴール板の前を一気に駆け抜けてから最短距離で無理なく減速、内ラチのほうに身を寄せてゆっくりクールダウンをしながら立ち止まった。

うっすら汗がにじむ額に付いた芝を拭い、少しだけ上がった息を深呼吸しながら整えて戻す。よし、これで完璧。

あまり上出来ってわけじゃないが、まぁ久しぶりの都会の芝でこれなら上等なもんだろ。いい汗かいたぜ。

 

「ま、こんなもんかね。さて、ディープは…お、いたいた」

 

関係者用の観戦スペースのほうに目を向ける。ディープのヤツ、ダイオー達と一緒にいるじゃんか。なんだよあいつら、間に合ったんか。

それに東条さんにブライアンと…あれ?あの白いのはまさかゴールドシップか?なら神妙な顔で肩掴んでんのは担当トレーナーか。

その横にいるのは…あれ、ダイオー?影分身?いや…胸が小さいな、ってことはあれがトウカイテイオー?

世の中不思議だな、いやここだと遠縁だからか?似てるのに全然似てねぇじゃねぇか、主に胸。

他にも見たことあるのがいっぱいいるなぁ…あ、オグリキャップ、なんも食ってないのってなんか新鮮だこと。

あとグラスワンダーとエルコンドルパサー、なんだそのドヤ顔は?お前さんらなんでそんな得意そうなんだ。

そんなことするなら周りの奴らすっごい目で俺のこと見てくるんだがどうにかしてくんね?圧が凄いわ。

さて、ずっとコースにいても邪魔だし、後ろの連中が来るまでラチの外で待っていましょうかね。

 

 

 

 






あとがき
というわけで走りました、すべてを出し切るほどとまではいきませんが全力は出しました。
まぁ慣れない都会の芝レース場で、芝適正Bのド田舎高校生が初めて走ったにしては上出来ではないでしょうか。
次は少し時間を戻して29話の裏、観客視点でちょっとやろうかなと画策中…予定ですよ?(言い訳)



おまけ
ホクリクダイオーは周りがでかいだけで十分巨乳、年上でもあるので見た目はトウカイテイオーの上位互換だったりする。
しかし世間様はトウカイテイオーのほうを英雄視してるのでホクリクダイオーはまだパチモン扱いなのだ。
群馬組は勢ぞろいすると胸囲の戦闘力をいかんなく発揮する。ちっこいの入れてバランスを取らねば…どっかで見たなこの編成。


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