気儘に生きた転生馬物語   作:イナダ大根

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いつも多くのご感想と誤字報告ありがとうございます。今回からシマカゼ一日係留編、いつも通りアホやります。
知っていますか、シマカゼタービンは確かにUMA娘ですが中央も十分ヤベー奴らの集まりですぞ。






第三十三話

 

 

 

日本ウマ娘トレーニングセンター学園、通称トレセン学園。

夏休みでも学園内は朝から結構人通りがあって、自主練だったりレースの練習してたりで普通ににぎわっている。

当然ながら学内の施設も全力稼働中、普通の学校なら休んでそうな学内のカフェテリアも朝からモーニングメニューを出していて学生だけでなく教職員の朝ごはんを担っていた。

メニューは和風と洋風、そこからさらに魚か肉の2種類、あとは量が決められる。当然ながらお代わり自由ときたもんだ。

 

「ごちそうさまでした」

 

どうも皆様おはようございます、シマカゼタービンでごぜーます。

俺はいつも皆さま『中央』と呼んでるところ、トレセン学園のキャンパス内部にあるカフェテリアの窓際の席でちょっと豪華な朝ご飯を終えたところです。

予選が終わって翌朝、カフェテリアでモーニングを頂いた後のコーヒーブレイク。

せっかくこんなところに来たんだし、ちょっとおしゃれな洋風朝食セットを頂いた後のコーヒーはなかなか乙なものだよね。

しかも料金は学園持ち、学内ならどこでも使える電子パスを貰ったなら喰わない理由がないってもんさ。

 

「か、かっけー!マジの走り屋だぜ!!」

 

「はいはい、落ち着きなさいよ…」

 

「胸でっか、足やっば…あれ私より強くね?」

 

「負けていられませんね、ミーク」

 

足を組んでコーヒーを一口飲みながらスマホを見る、目下の問題はこれだ。

今朝一番に送られてきたメール、昨日の夜にやった秋名での交流戦の結果だ。

 

「見たかったなぁ…」

 

我ながら女々しいことを言ってるのは分かってる、けどな、けどなぁ…

 

「こんなもん見せられたらそう思っちゃうだろうが」

 

スマホに朝方送られてきたメール、差出人は軍曹。秋名での交流戦の結果と添付ファイル一つ。

ファイルは動画で昨日やったっていう秋名のダウンヒルバトルを群馬トレセンの連中が撮ったドローン映像の切り抜きだった。

対戦は高橋啓介の黄色のRX-7・FD3Sと藤原豆腐店のスプリンタートレノAE86GT—Apex。

場所は秋名の5連続ヘアピン、FDに先を行かれてるハチロクが後ろから追い上げて、コーナーをインベタからの不自然なまでに綺麗なコーナリングで追い抜く瞬間だった。

啓介のFDが下手なコーナリングをしたわけではない、むしろかなり理想的なコーナーリングで攻め込んでいた。

だがそれ以上にハチロクのコーナリングが優れていて、余りに異常なスピードを持っていただけの事。

親父に散々教え込まれた俺だが、これには驚くしかない。あまりに綺麗で、余りに手馴れた、最高の出来に当たる『溝走り』だった。

溝走りは峠の走り屋の一種の裏技だ、道路の脇に水抜き用の傾斜や溝などがあったらそこにタイヤを突っ込んで引っかけて脅威のコーナリングを作り出すという公式レースではまずやらない無茶な技だ。

まぁ原理は簡単なんだがかなり無茶ぶりするし奥深い、使いこなせる走り屋はそうそう多くないんだ。

まずこの技を使うのはベテランかド素人のどっちかだ、なにしろ車に負荷のかかるコーナーでさらに無茶を強いる技だからな。

走り屋を分かってきたルーキーや中堅辺りになってくると、この走り方がどれだけ難しくて車に負担をかけるは分かるからまずやりたがらない。

一度や二度ならば耐えてくれるさ、だがそれで調子に乗って常用しようものならあっという間に車をダメにしちまう。

できもしねぇ奴が恒常的にやろうものならシャーシや車軸、あるいはタイヤが簡単に歪む、それだけ負荷が強いのさ。

だがあの自然なまでのツッコミからの立ち上がりは別格だ、あれは日常的に使い慣れてないとできない。

自然なツッコミからのコーナリングに迷いがなく、それでいて車体への負荷も最小限に留めてる。

エンジン管理やハンドリング、総合的な荷重制御も完璧、日常的に使ってなきゃできない絶妙なバランス具合なのさ。

見たかった、これを生で見たかった!!こんな走り方する奴そうそういねぇ、間違いなく群馬の中でも指折りの走り屋だ。

 

「拓海のヤツ、ボケた顔してなんて爪隠してやがる…さすが文太さんの息子だよ」

 

最初はあのハチロクを見て文太さんが気まぐれ起こしたのかと思ったが、あの走り方は文太さんのそれじゃなかった。

文太さんならもっとえげつなくてクレイジーだ、啓介なんか歯牙にもかからない、もっと圧倒的で楽勝だよ。

乗ってたのは拓海、あの普段ボケッとしてる藤原拓海なんだとよ。最初は信じられんかった、あいつ車にてんで興味ねぇもん。

でも考えてみりゃ納得だぜ。あんにゃろう、文太さんに仕込まれてやがったな。羨ましいなぁおい、しかもあのハチロクだぜ。

あいつのことだ、どうせ文太さんに配達やらされて仕方なくやってるうちに覚えたとかそんなんだろ絶対。

時々聞く秋名の幽霊車の正体見たりだな、道理で話題にならんわけだ、走る時間帯が違うからしょうがねぇよ。

 

「面白くなってきやがった」

 

スマホを机に置く。思わず笑いがこぼれそうになる、咄嗟に足を組み直してココアシガレットを口に咥えて誤魔化した。

いやいやいくら何でも一人笑いは恥ずかしいって、しかも否応なく今は視線集めてるし。

 

「うぉぉぉッ!すげぇ、かっけぇ!!」

 

「何見て笑ってるのかしら?レース?」

 

「むむむ…これは強敵ですね。咥えお菓子、キャラが立ってます」

 

「「マーちゃん!?」」

 

これだから峠の走り屋はやめられない、居るんだよこういうのが。

荒れる、間違いなく群馬の走り屋界隈は大荒れだ。あの赤城レッドサンズがまさかの秋名で敗退、しかも相手はあのハチロク。

新86じゃない、昔懐かしのパンダトレノときたもんだ。こりゃURAだのなんだのに煩わされてる場合じゃねぇよ。

さっさと予選終わらせて、重賞に出られる出走権を手に入れたらさっさと帰って特訓して挑まねばならない。

何しろあの赤城レッドサンズを迎え撃つためにみんな準備してたんだ、それだけの相手を拓海はいとも簡単に破った。

だから群馬の腕利きはこぞってあのハチロクに挑みかかる、赤城レッドサンズを破ったアイツに勝つために。

俺もはやく挑みたい、あの拓海とハチロクに俺の足がどれだけ通用するか試してみたくてたまらない。

秋名の峠は俺にだって多少分がある、とはいえ芦名とはまるで違うコース、俄然やる気が湧いてくるというモノ。

俺の愛車で挑んでどこまでやれるか、俺の足はどこまでアイツに通用するか…あぁたまらん!考えるだけでワクワクしてくる!!

 

「でもない袖は振れぬ…」

 

少なくとも今日は缶詰、それも東京、府中のトレセン学園にて。我ながら場違いな場所にいるもんだ。

朝からずっと注がれる視線。好奇心、興味本位、嫉妬、殺気、疑問、軽蔑…うん、大変よろしくない。

そりゃまぁ、群馬のド田舎高校の制服が目立つのは分かるよ。普通こんなところに一般高校生なんかいないよ。

でもそんなにじろじろ見ることないじゃない、ただの待ち合わせだ。朝食ついでにコーヒーブレイクしてるだけだぞ。

 

「やれやれ」

 

手を出してくるわけじゃないから何もできない、する気もない、けど雰囲気悪いのは変わらん。

これだから女子校は好かんのだ。その気はなくとも異物に敏感で居心地が悪い。これなら前世のほうがマシだぜ。

コーヒーはこんなにうまいのにな、良い豆だろうし入れ方もこだわってんだろ絶対。早く来てくれディープ、お前だぞここ指定したの。

これならターボの所に転がり込めばよかったか? でも朝練で忙しいって言ってたし、キングは連絡つかんかったし、ウララは遠征で入れ違いだ。

もう一度コーヒーに口を付けるとどこからか黄色い声…なんだ、どこかに有名人でも居るんか…居たわ。

周囲をそれとなく見回すと料理でてんこ盛りの席を発見、普通に考えて狂ってるとしか言いようがない量をひたすら口にしているのは葦毛の超有名ウマ娘のオグリキャップ。

まさにチョモランマというべきドカモリの料理がテーブルを占拠しているのを見ると呆れより恐れを感じるレベルだ。

テレビで大食いだと良く言ってるけど、想像をはるかに超える。というか普通に体の体積超えてないか?入るのかその量が?

ここの食事はアスリート向け、そんなバカみたいな量を喰っていい食事じゃねぇはずだぞ。

そのリスみたいなほっぺはなんだ、もきゅもきゅしてるのか?あんな頬張って噛めてるのか?圧縮しているというのか?

それは…それはウマ娘の食事なのか?生物としてあっていいのか?わからぬ、理解できぬ、頭が理解を拒んでいる!!

見る見るうちに消えていく食事、膨れていく腹、おい、それが日本の代表的なウマ娘の姿か?オグリキャップ。

一体何が彼女をそんな風にしたのかは知らんが…関わり合いになりたくないな、あれ。

テレビで見るから面白いのであって生で見ると自分の食欲が失せるな。

というか競走ウマ娘って大体大食いなのは知ってたけどそれをはるかに超えるレベルって何なのさ。

 

「すまない、お代わりを貰えるだろうか」

 

「まだ食うのかよ…」

 

「うん?」

 

あ、いかん。ついツッコミが。いかん、逃げたい、でもコーヒー飲み切ってない。あぁこら来るな、ステイステイオグリキャップ。

そんなデカ盛り料理持ったままこっち来るんじゃねぇ!!ただでさえ大食いばかりで浮いてたんだぞ俺の朝飯。

昨日は普通盛で食べてちょっと多い感じがしたから少なめにしたら変な目で見られたんだぞ!?

まだ食うのなら食ってていいからこっち来るなここで食べるとでもいうんか俺の隣で?やめてくれマジで。

 

「シマカゼタービン、なぜここに?」

 

なぜ知っている!?俺たち初対面のはずだぞ!!

 

「どこかでお会いしましたっけ?」

 

「昨日のレースを見ていたんだ」

 

そういやいましたねぇ!なんで覚えてるんですか!?

 

「相席、良いかな?」

 

マジかよ。

 

「…どうぞ」

 

断りてぇ、逃げてぇ、けど無理…やったら今日一日もっと針の筵やんけ。ここはオグリキャップの庭だぞ。

これで断るとか何様だよって感じになるだろ。畜生、オグリキャップからは逃げられないってか?

うわぁドカモリ料理のおいしそうだけど混沌とした香りがするぅ…飯食ったばかりなのに腹がさらに膨れてきてる。

バカな、俺はもう食ってない。気のせいのはずだ、まさか食事が腹に転送されているとでもいうのか!?いや、気のせいだ、気のせいに違いない。

くっ、口の中が妙に甘ったるくなってきた、なんで朝からこんな思いしなきゃぁならんのじゃ。

しょうがない、食えなくなる前にまだ長さがあるココアシガレットを一口で喰って無理矢理コーヒーで流し込む。

 

「昨日は勝利おめでとう、すごい走りだったな」

 

「ありがとうございます」

 

「ドリフトなんて初めて見た、どうやってあんな走り方を覚えたんだ?」

 

もっきゅもっきゅと器用に食事を食べながらしゃべるオグリキャップさん。いやはやあなた、ほんとお食事が器用ですね。

こんな姿みてるとまぁあれね、テレビとかのオグリさんそのまんま。気安いようにしてくれてるのかな?でもさっきも食ってたよな?

 

「うん?何か変かな?」

 

「いえ、不躾で失礼ですがその、たくさん食べるんですね?今日はチートデイですか?」

 

「チートデイとは何だ?」

 

「へ?」

 

まじかよ、これ素だよ。演技とかあんまりできないタイプの反応だよ。っていうかそれがデフォルトかよ、やっぱ中央ヤベーな。

っていうか中央ってチートデイを設けてないのか?いやしかしそれはねぇよな、ってことはこのオグリさんがやってないだけ?

いや体質とかもあるからあり得ない話じゃないか、前世でも合う合わないで変えてたしな。

…え、普段からこれだけ食ってトレセンで超有名人になるくらい激強?どう見てもカロリーオーバー…え、怖。

 

「いえ、お気になさらず。別に特別なことはしちゃぁいませんよ。ただうちはド田舎なもんで峠でよく走ってたもんですから、真似した相手が峠の走り屋だったもので」

 

「一般解放されているコースとかはなかったのか?」

 

「ありましたけどいつも人気ですからね、予約しても待ちますし地元のクラブも使っててなかなか取れないんですよ。

それならよく知ってる峠で知り合いの走り屋に混ざったほうが楽しくて、馴染みも一緒になってやってたんですよね」

 

ホントそうなのよね、ドリフトもどきはともかくパワースライドくらいならほかの連中もできるぞ。

俺のだってドリフトというにはお粗末なもんなんだ、前世みたいに四つ足じゃないからバランスが難しくて満足いく形にはなっとらんぞ。

もっとこう変幻自在にというか自由にいけるというか、とにかくもっとブラッシュアップしなきゃならん。

 

「峠とやらではあれが普通なのか?」

 

「自画自賛になりますが、自分ほどのウマ娘はそうそういませんよ。芦名の峠じゃ最強、お山の大将を気取ってますので」

 

「ふむ、ではできるウマ娘はいるんだな」

 

ありゃ不発、まぁえっか。

 

「そうですね、峠の腕利きはそこそこいますし、昨日のにも出てました」

 

うちだとテューダーとベレーだな、トコトコとドカドカのほうがずっとうまいが。しかしプロとは分が悪い。

そもそも平地と峠じゃまるで違うからな、この差に対応できる連中となるとずっと少なくなるよ。

ターボも結局年単位ですり合わせしてようやっとだったからな、そもそもフィールドが違いすぎらぁ。

あの二人の場合、まだ体が平地のやり方を覚えてるからできてるだけだ。

 

「ふむ、峠の走り屋とはそこまで強いのか。知らなかった」

 

「普通はこうはいきませんよ、そもそもフィールドが違いすぎます。平地と山岳地帯の戦績を同列視なんてできるものじゃない。

峠の走り屋のほとんどは平地に出たら中央どころか地方の足元にも及びませんし、仮に慣らしをしても微妙なところですよ。

今回の場合はうちらが特殊な例です、峠純粋培養がみんなそれなりに走るとは思わんでください。所詮は遊びです」

 

「安心してくれ、みんなそれぞれなのは理解してる」

 

そもそもウマ娘の峠の走り屋ってのはウマ娘が違法カーレースを元にしてできたもんだ。始まりがまるで違う。

大本は対車両レースという負けて当然のチャレンジレースだからな。俺は勝つがね、自慢だぜ。

 

「スポーツカーに勝ったことがあると聞いたことがあるが、それは本当なのか?」

 

「ありますけど、それを誰から?」

 

「ナリタブライアンだ」

 

ブライアンか、そういえば散々話したっけか。あいつ、ディープと同じで食いつき凄かったんだよな。

 

「あぁ、ビワハヤヒデの妹さんですか。そうですね、勝てますよ。まぁ相手が新人な場合に限りますがね」

 

確かこの前はNSXタイプS—Zeroとインプレッサ相手だったか、どっちも新人だったから普通に勝てたな。

パワーと車体に振り回されてたからコーナーで差を付けてぶっちぎり余裕でした、グッドフェイスのほうが強かったよ。

 

「ふん、何が車に勝ったよ。嘘っぱちもいい所じゃない」

 

「いやいや、でもあの速さで走ってたのは事実だし。もしかしたら…」

 

「普通あり得ないっしょ、というか山道で勝ったとか盛りすぎにもほどがあるって」

 

「でも情報源は確かにハヤヒデさんとかだし、ナリタブライアンさんやディープインパクトちゃんたちリギルだよ?嘘言う?」

 

「…山ってのが盛られてるとか?」

 

「じゃぁ平地で勝った?」

 

「いやいやそれこそあり得ないって」

 

聞こえてるぞお嬢さんたち、ひそひそ話はもっとこそこそやりなさい。そういうの、聞こえてないって思ってても結構聞こえてるからね。

 

「すまないな」

 

「いえいえ、慣れてますから」

 

おもに前前世でな!生きてりゃ陰口なんて特に珍しい事でも何でもねぇさ。

俺が変なことしてるだけであってこれが普通なのだよ、それでいいのだ。社会一般的に見たら誇る事ではない。

 

「で、君以外にもできるのか?」

 

「できますね、やりようによりますが」

 

前世でもそれなりに勝負になるのは実証してるからウマ娘だってやれるさ。本人の気質とか色々シビアに見定める所から始めないと無理だがね。

俺なら基本的に大逃げしか勝ち目ないけど、前世のジョンソンは峠じゃ差しでしか勝負にはならんかったし。

我が息子が逃げと差しでそこそこやれたが、ドリキンが乗ってないとボロクソだ。あいつは人が乗ってないと速度が出ない。

だがタイマンじゃ無理でも非対称戦ならガキでもランエボに勝てるぞ、ってかこの学校で勝った奴がいる。

 

「私にもできると思うか?」

 

「それは断言できかねますね。平地専門でしょう?無理したら体壊すだけですよ」

 

断言はしないが…俺にはわかる、この人が峠でガチに慣れたら軽く俺を超えるね絶対。

さすが中央だ、さすが歴戦の猛者、さすがプロ、常に命を懸けて公式戦に挑んでいるだけあるよ。

だが勝負になるのと勝てるか否かは別問題だ。相手は車、それもスポーツカー、出力も何もかも次元が違う格上相手だ。

ウマ娘の足じゃ普通は逆立ちしても敵わない。ある程度対抗できたとしてもあくまで勝負になる止まり、そこから勝ち目を掴めるか否かは俺にもわからん。

俺だって所詮は新人に勝てる程度、中堅辺りになると勝率はガタ落ちだ。前世が懐かしいぜ、早く鍛え直さねぇとな。

 

「よく見ているようだ。君ほどならトレセン学園に入れば活躍できただろうに、入学しようとは思わなかったのか?」

 

またその話?いやオグリさんとは初めてだけども。

 

「生憎成績では全く太刀打ちできないところにおりましたから、模擬試験でも合格圏内にちょいと届かなかったですし」

 

いくら頑張ってもあいつら3人は余裕で合格圏内だったのに無理だったのよねぇ…

4人で通った学習塾の模擬試験、俺はいつもドベからそれでよくムードメーカーやってたっけな。

うっせぇこちとらNAじゃ!こいつら過給機付きとは違うんじゃい!!とか。クラスのみんなでげたげた笑ったっけ。

 

「模擬試験?そうか、塾か。そういうのもあるのか」

 

「オグリキャップさんも経験あるでしょ?仲間内で俺はいつもドベ、いやぁ幼馴染として誇らしいやら羨ましいやら」

 

「いや、私は塾に入ってなかったからな。そういう話は新鮮なんだ」

 

はぃ?え、何言ってんのこの人、もしかしてストレートで直行して受かったとでも…え、怖。

 

「あ、いや私も勉強はしたぞ!カサマツに入るときはお母さんと一緒に問題集を解いたり参考書を読んだりしたものだ。

思い出すな、ついつい二人で居眠りしちゃったり足がしびれてそれどころじゃなくなったり…」

 

「それで受かったんすか?」

 

「あぁ!ばっちりだ!!」

 

そういや元地方だったこの人…嘘だろ、こんなヤベー経歴なのかよ、そら有名にもなるわ。

これで中央でもクソつよ…え、怖い、すごいじゃなくてなんかこわい、背筋がゾゾってなってる。

 

「ん、んん?どうしたんだその顔」

 

俺なんか凄い顔してる気がする、すごい目してる気がする…そりゃそうなるわ。

やっぱりやばい連中ばかりじゃないか!!まともなのは俺だけか!!…いやむしろ俺が異物か、うん、俺が変な所にいるだけだわ。

でも俺はそれとしてやっぱりすごいな、脳みその造りからして違うんだろうなこういう人って。

 

「そ、そうだ、受験と言えば中央には一般からの編入試験というモノがあるのは知ってるか?

スペシャルウィークはそれで一般校から編入してきたんだ、君ならきっとうまくやれると思うぞ?」

 

「そんなのが…あぁあれか」

 

確か群馬トレセンから勧められたな、群馬トレセンにもあるし。まぁ普通に断ったけども。

言っとくけど、ここは国公立の超エリート学園なのよ。でもターボを見ると大体みんなそういうとこ忘れてる節あるんだよな何故か。

地方トレセンだって地元じゃエリート街道直通の学校、普通に入ろうとすると苦労するレベルにある。

そいつらがスカウトされてクソ苦労するレベルなんだよ、つまり日常生活の難易度からして高い。

実際俺は朝に飯食った時点で実感してる、学校の宿題の話してるの立ち聞きして俺は何話してんのかわからんかったよ。

数学ってことしか判別できんこの感覚、懐かしいけどこれが日常になったらあまりよろしくない。

その編入試験だって難度高め、入れたとしてもその先更なる地獄にご案内、苦労して入っても勉強の密度と速度について行けずボコボコ。

当然レースでも足を引っ張るし、そもそもいろいろ出遅れてるから箸にも棒にもかからない、入った意味を見失う、とか。

裏では人生即死トラップって言われてる曰く付きだ。たぶん皮肉込めた洒落なんだろうけどその名前にほぼ偽りはないと思うぞ俺は。

ターボに聞いたが数値は前世と大体変わらんそうじゃないか。一勝できるのは全体の30%前後、GⅠで勝てるのは良くて1%、レースに絞ってこれだぞ。

失敗したら出戻りできれば御の字、それだって実質留年とかになって大変で元の学校に居づらくて転校するとかな。

確か拓海の高校にそういうウマ娘がいたぞ、17で受かって編入して棒に振って出戻りになって20で高3からやり直しになったウマ娘。

ちなみにこれは極めて幸運な例、良くない言い方だが恥はかき捨てに出来る、一年我慢すれば多少の歳の差は許容範囲な大学だ。

出戻りしないでそのままトレセン学園卒業ってことにすりゃいいっていう人も多いが、出戻りを考えるタイプがそれをやると卒業まで心が持たんっていうのが精神科医の見解だな。

多感な時期に夢を見て、現実に打ちのめされて精神滅茶苦茶になった状態で自分の隣の誰かが自分の夢を叶えるなんて現実をみるとか、そりゃよほどタフじゃなきゃ歪むわな。

同じようなパターンを中学でも量産してるからやばいとしか言えない、探られたくない闇抱えるとか俺なら発狂しかねんわ。

あとスペシャルウィークさんって誰?これ成功した人いるの?どんな化け物だ。

 

「編入なんて考えたこともないですね、元々公式レースにはあまり興味がないんですよ」

 

「そうだったな、すまない。ではなぜURAファイナルズに?」

 

「幼馴染が出るんですよ、一緒に峠でブイブイ言わせた仲でしてね。あいつらは地方に行っちまったんでちょいと縁遠くなっちまってたもんですから、久しぶりに楽しもうかと。

もう高三ですし、受験の箔付けにするにもちょうどいいんです。こうやって頑張りましたって、面接に使えますから」

 

「君には一石二鳥だったわけか」

 

「そういう事です。ま、そしたらなんかこうなってしまったわけですがね」

 

「それだけ君の走りが凄かったんだ、あんなふうには私も走れない」

 

おっと、なんかオグリキャップさんの様子がおかしいぞ。なんかすごいいい顔していらっしゃる、実にいい凄味。

 

「そうですかね、名高い中央ならば自分程度、どうとでもなると思いますが」

 

中央っつったらあれだろ、ディープくらいヤベーのバッカやん。前世じゃみんな中央マジヤベーっていつも言ってたし。

俺はディープとかハーツクライくらいしか良く喋る奴はおらんかったけど、見ただけで分かるやばいのばっかだわ。

本番でやったのは一回こっきりだったが、練習では何度も当たったかんな。勝ちはしたけど何度負けそうになったことか。

実際今ここで格の違いってのをいろいろ思い知らされてんぞ。

オグリキャップ、実際俺なんかより絶対強いだろ、見ただけで溢れんばかりの才能がにじみ出ているもの。

やろうと思えば俺のドリフトなんか訳ない走りを余裕でできるって絶対。

 

「謙遜しなくていい、君の走りは私たちに十分通じる。それは私のトレーナーも保証してる」

 

「ご冗談を、プロになんざ到底及ばない。所詮は趣味人の小手先にすぎませんよ」

 

昨日は勝ったとはいえ相手は一般校とかだし、トレセン連中は成績がそこまでよくない連中だろうしな。

あれで勝ったところで、中央からしたらだから何?って感じだろ。それでプロに通じるとかないない、プロの世界はそう甘いもんじゃないって。

俺の走りが大逃げなのは、これは相手がプロだろうがド素人だろうがずっと前を走れば勝てるからなんだぜ?

 

「自分は所詮趣味で走ってる走り屋です、そんな持ち上げるもんじゃァありませんよ」

 

「そうか…まぁ、今はそれでいいのかもしれないな。すまない、そろそろ時間だ」

 

えぇ…マジかよ、いつの間にか全部食ってやがるぞこの人。いつの間に食った?食いながらしゃべってたのは分かるけど…なんだこの腹!?

え、ウマ娘こんな腹膨れるの?制服があんなに、え、制服対応してんの!?うまい具合に避けてるじゃん。

 

「私もURAファイナルズに出るんだ」

 

ほぉーん、そりゃ大変だ。でも本戦は地獄だぜ?なんかいろいろ出るらしいじゃん。

 

「決勝で待っているよ、シマカゼタービン」

 

いや出ねぇわ。

 

 

 

 




あとがき
最後の流れはシマカゼタービンの十八番、シマカゼタービンの目的はトライアルの重賞の賞金と幼馴染とのバトルであって、本戦出場や優勝じゃないからね。
重賞終わったらそこで棄権して本戦は回避する気満々、周囲の事なんか知らん、全部自分の都合(進学関連)です。
というわけでトレセン学園一日目の朝のちょっとした出来事、オグリキャップとの邂逅でした。やっと一日進んだぜ。
一般人としてツッコミどころ満載なオグリがやれて満足、やっぱりあの喰いっぷりはツッコミ入れたいよな。
なんかSANチェック入っちゃったけど気にするな、オグリのSANチェックだからな、しかたない。
シマカゼタービンは一般ウマ娘であって知り合いが中央や地方に居るので外から色々見てます、良い所も悪い所も含めて客観的に。
その上で『私は遠慮します』をしてるので実はかなり強敵だったりする、口説き落としたけりゃアプリトレ連れてこい。
というかふと思ったんですがね、やっぱりスペシャルウィークは只者じゃねーなと。さすがスぺちゃんやで!!


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