気儘に生きた転生馬物語   作:イナダ大根

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いつも多くのご感想と報告ありがとうございます、また長くなっちまいました…
今回はトレセン学園でのメインイベント直前って感じ、やっぱりこいつがバカやるには練習が一番だぜ!





第三十四話

 

 

 

 

日本ウマ娘トレーニングセンター学園の理事長室の空気は冷たく冷え切っていた。

空調によっては適温を保ち、快適な空間を作られているにもかかわらず、室内にいる全員がそれを感じ取っていた。

理事長席に座る部屋の主である秋川やよいは、普段では見せないような底冷えする表情をして目の前の男を見つめている。

その両脇に控える緑のスーツを着た秘書である駿川たづな、副理事長の樫本理子もまたその男を見つめている。

そしてその室内に呼ばれていた東条ハナ、シンボリルドルフ、ナリタブライアン、メジロ家の主治医は内心どうしたものかと考えを巡らせていた。

 

「君は、自分が何を言っているのかわかっているのか?」

 

秋川やよい理事長の底冷えするような、それこそ何もかもを捨て去ったような冷たい声色の問いかけが部屋を満たす。

その声の主から注がれているのは軽蔑の視線、それを感じた男は、トレーナーはそれを当然だと受け入れた。

自分がここで願っているのはそれだけ非道で邪道なことだ、本来であれば許されないことだ、普段なら自分でもそうするだろう。

 

「理解しています、その上でお願いしています」

 

「このメジロ家の診断書が信用できないと?」

 

メジロ家の主治医の問い、それにトレーナーは頷く。

 

「はい、そう捉えていただいて構いません」

 

「しかし…あなたがそれをやる意味があるのですか?」

 

「君の訴えが仮に通ったとしよう、それで?君に何の意味がある?モブクロコのトレーナー」

 

たとえそれでシマカゼタービンが勝者でなくなったとしても、自分の担当がこのレースの勝者になることはあり得ない。繰り上がるのはマイヤーメインとスイートキャビンだ。

彼の担当であるモブクロコはどうあろうとも敗退が決定している、彼がここで頭を下げる理由はない。

 

「言い訳はいい、診断書のことなど本当はどうでもいいんだろう?ただきっかけにちょうどいいだけ、そうだな?」

 

「…あの娘を私は大成させてあげられなかった、あの子の夢を叶えてあげられなかった。

すべては私の責任です、でも、彼女の努力は決して無駄な事じゃなかった、彼女は…」

 

全て知っているのだ、モブクロコがどれだけ努力を重ねてきたのか、それを自分が一番近くで見ていたのだから。

それを指導したのは自分だったのだから、彼女とずっとここまで歩んできたのだから。彼は睨む、一人のトレーナーとして理事長を睨む。

恨みではない、憎しみではない、ただ思いを伝えるために睨みつけた。

 

「私は信じられない、こんなウマ娘がいるはずがない、存在してはいけない。

これでは何もかも終わりじゃないですか、あの子のしてきた苦労はなんだったんですか、あの子は何のためにここまで走ってきたというんですか!!

信じられるものか、許されてたまるものか!!こんなことが許されたらあの娘に何が残るんだ!!あの娘はどう納得すればいいんだ!!」

 

モブクロコには何もなくなってしまったのだ、トレセン学園で学んできたすべてが無意味なものになってしまったのだ。

どんなレース結果であれ、これが認められてしまえば名実ともに『公立高校の帰宅部ウマ娘にレースで負けた競争ウマ娘』というレッテルが張られるのだ。

どんなバカな話か理解できないはずがない、本業であるレースでいくら走り屋と言えどアマチュアですらない一般人にこんな結果などと、どうトレセン学園生として捉えればよいというのか。

ふざけている、余りにもふざけている、これまで散々努力した結果がこれか、こんなバカな話があってたまるか。

 

「君がそれを言うのか、トレーナー。事前に告知しなかった我々に非があるのは確かだ、我々の詰めが甘かったのも―――」

 

「いいえ、理事長。それは違います、私は理解してあのレースに臨んでいた。最後まで侮っていたのですよ。

最後まで、あの瞬間まで私は、あの子が勝つことを疑っていなかった。それ以外、見えていなかった」

 

この予選レースに我々は出てはいけなかったのだ、なぜこんな簡単なことに気付かなかったのか。

いや、それは違う。我々は気付いたうえで、誰もがすべてを理解した上で、自分達は格下狩りに向かったのだ。

トレセン学園で、中央で燻っていたとしても、公式にすら出られなかった連中ならば勝ち目は十分にあるだろうとタカを括っていた。

それで負けてしまったのならもはやこれまでと、ここに出てくるようなスポーツ強豪校や他校のスポーツ部の出場者に負けるならばもはやどうしようもないと。

言い訳にはなるはずだった、相手のほうが一枚上手だったとあきらめがつくような話になるか、それで奮起しなおせる起爆剤に出来るのではと。

相手にとんでもない掘り出し物が潜んでいた、そんな言い訳にもできるはずだと。それ以外の有象無象など勝てて当然だ、負ける理由がないと。

 

「微塵も理解していなかったのですよ、えぇ、まったくもって!私たちは彼女たちを侮り、バカにし、蔑んでいたのですよ!!」

 

それがどうだ、蓋を開けてみればどうだ、自分達は聞いたこともない田舎の公立一般高校の帰宅部女子高生にまるで歯が立たなかった。

仮にも日本ウマ娘トレーニングセンター学園の生徒が?立ち位置はどうあれプロの指導を受けて公式レースに出ることができるプロが?

悪い冗談にしか聞こえない、一般校とはいえスポーツ部のエースや経験者というほうがまだ納得がいく。

そう思い込んでいた、あり得ないとタカを括っていた、それ以外の経験すら定かではない一般私人からの出走者など一考する価値などないと。

だからあの時、あの場で、レースで名を上げる大勢のウマ娘達やトレーナーが勢ぞろいしたときには興奮したのだ。

少しでも担当の未来を拓く事ができる絶好の機会になったのではないかと、彼女たちも自分たちを応援してくれているのではないかと。

見たいものを見て、聞きたいことを聞いて、無様にそう思い込んでいた。周りを見ていれば、何もかも明らかだっただろうに。

結果は散々だ、どこまでも辛い現実があのレースにはあった、自分達がどれだけ浅はかだったのかを見せつけられた。

極めつけには、自分達はURAファイナルズにおいて新たな歴史の幕開けになるはずだったこの輝かしいレースに泥を塗りたくった。

トレセン学園史上最悪の大敗北であり、決して笑って口にできるものではない史上最低のレース結果を刻んでしまった。

中身がどうあれ、彼女の実態がどうあれ、歴史には刻まれるのだ。

一般公立高校の帰宅部女子高生にトレセン学園生であり現役の競争ウマ娘が負けたのだと、トレセン学園で燻る自分たちは一般高校の帰宅部以下の劣等生だという前例を作ってしまったのだ。

 

「理事長、どうか、どうか!!」

 

自分の愚かさを棚に上げてでも、彼は必死になって頭を下げる。自分にはこれしかできないから、もう残されていないから。

もうやめてくれ、ここでやめてくれ、もうあんまりだ、あの子はもう十分苦しんだ、もう十分悲しんだ。

 

「あの子の思い出を壊さないでください、あの子の思いを歪めさせないでください、あの子の世界を壊さないであげてください!」

 

これは我儘なのだ、これは自分の弱さが招いたことなのだ、ひとえに自分の実力不足故に起きてしまったことなのだ。

それが理解できていたとしても、彼はトレーナーなのだ、担当に全てを捧げても惜しくないと考える存在なのだ。

 

「お願いします、お願いします!理事長、どうか、どうか再考を、どうか!!」

 

頭を下げる、無様にその場で土下座をして、地に額をこすりつけて願う。この学園の最高責任者に、URAファイナルズの総責任者に。

シマカゼタービンの出走不可を決定できる彼女に、シマカゼタービンの除名を無様に願う。

呆れた行為であり、許されない不正であり、これ以上になく泥を塗りたくる行為である、それでもやめるわけにはいかなかった。

 

「それはできない」

 

その思いは、その願いは、理事長も理解できた。だからこそ、彼女はそれを拒絶する。

 

「これは私が始めたことだ、すべての責任は私にある。故に、私にそのような不正を働くことなどできん!!」

 

起こしてはいけない怪物にちょっかいを出してしまったのだ、手を出してはいけない領域に手を出してしまったのだ。

それが身に染みて分かってしまったからこそ、理事長は頭を下げるトレーナーに向けて思いを否定する。

全てのウマ娘にチャンスを等しく与えたいから起こした行動が、とんでもない怪物を揺り起こしてしまったのならば、それをすべて見届ける義務が自分にはある。

 

「彼女は勝ったのだ、実力を示したのだ!それを認めずして何が学園長か、何がURAファイナルズか!!」

 

「理事長!!」

 

「敗北!!」

 

トレーナーの言葉を遮り、現実を突きつける。

 

「敗北したのは事実なのだ!我がトレセン学園の生徒が、現役の競争ウマ娘が!!部活に入っていない一般高校のウマ娘に惨敗したのだ!!」

 

「トレーナー君、何をどう言いつくろおうとも変わらないよ。我々はね、負けたんだ」

 

今まで静かに会話の推移を見守っていたシンボリルドルフが静かに理事長の言葉に付け足す。

この学園において、かのシンボリルドルフがそれを口にする。その事実はトレーナーからしてもとてつもなく重い。

 

「負け、ですか…」

 

「そうだ、だがそれで―――」

 

「それではあの娘は一体どこに居場所があるというんですか!誰が認めてくれるというんですか!!

ただの一般人に負けてしまったあの娘を、これまでの全てを否定されてしまったあの娘を!

世間は認めない、世界は認めない、こんなのあんまりではないですか!!」

 

「ここにある!!ここに居る!!」

 

秋川理事長は力強く宣言する。

 

「たとえ世間が認めなくとも、たとえ誰もが否定しようとも、私は認める、我々は覚えている!」

 

理事長は大振りな動きで扇子を取り出し、それをトレーナーに見せつけるように開く。そのセンスに書かれた文字は『永劫』だ。

 

「我がトレセン学園はたとえ何があろうとも、未来永劫、競争ウマ娘達全ての味方である!」

 

誰も答えられなかった彼の慟哭に秋川理事長だけがそれに真っ向から理想で答える。残酷な話であり、交わることのない平行線だと東条は感じた。

これは理想だ、これは夢だ、彼女はそれを信じているし体現しようとしているのだとしても、今のトレーナーにはきっと響かない。

なぜなら彼は現実を知ってしまっているからだ、今を知っているからだ。たとえ未来で救われるのだとしても、救いたい彼女がいるのは今なのだ。

次こそは、などという言葉は意味がない。ルドルフが言おうとした言葉は『挑戦者』故の余裕でしかない。

だから彼には意味がない、救えない理想には何も意味がない。トレーナーは頭を下げるのをやめない、理事長の言葉は届いていないのは明白だった。

言葉にならない、言葉を挟めない、どうしたものかと悩む東条ハナとメジロの主治医。

説得しようと言葉を重ねようとして後ろから口をふさがれるシンボリルドルフ、それを行うナリタブライアン。

その中で、部屋の隅からひどく空寒い拍手が鳴り響いた。

 

「素晴らしい、さすがは理事長、姿かたちからは決して計れぬその高潔なる精神と魂、感服いたしました」

 

「誰だ!」

 

この部屋の誰でもない男の声、いつの間に入り込んでいたのか分からないその言葉の主にいち早くナリタブライアンが反応する。

室内に動揺が走る中、その声に一人だけ、メジロの主治医だけは頭が痛そうに頭を振った。

 

「黙っていろと言ったでしょう…」

 

「失礼、少々込み入っているようでしたので少し手助けになればと思いまして」

 

「あぁもぅ…失礼します、込み入っていたようなので私が入れて待たせていました…彼を外に放置するのは、少々見た目が悪いので」

 

どうやら白熱する室内の議論の最中にメジロの主治医が対応して室内に招き入れていたらしい。

その彼の判断は間違っていないと室内の誰もが思った。その姿はまさに異形、そして異常であった。

 

「連絡を受けまして人獣総合病院『イドフロント・ロドス』より参りました。

シマカゼタービンの掛かりつけ医師を務めております、気軽にドクターとお呼びください」

 

蒼いラインの入った黒いコートを羽織り、黒ワイシャツに黒のスラックス、黒の革靴という黒づくめ。

そして頭部はメカメカしく紫に光るI字スリットの入ったマスクの男。ドクターと名乗る完全な不審者は恭しく一礼してみせる。

出自は理解できた、シマカゼタービンの健康診断書を発行した病院でありかかりつけ医師を招待したのは紛れもないトレセン学園であるからだ。

しかしそれでこんな格好の医師がやって来るなんて誰が思うのか。

 

「ドクター?」

 

「放っておいてあげてください、彼はいつもこうなんですよ。私が保証します、本人です」

 

「さすが主治医、話が早いですね。皆さまこのような格好で失礼いたします。

私、持病でアレルギーを持っておりまして、このマスクはその対策なのです。ないとそれはもう酷いことになります」

 

メジロの主治医と懇意なようだ。もっとも、信頼しているように見えるドクターに対してメジロの主治医は心底呆れた雰囲気だが。

 

「それで?話に割って入った理由は?」

 

「えぇ、少々提案があるのですがよろしいですか?」

 

「まったく…相変わらずですね。そう思いつくなら自分の名前くらいすぐに思い出すようにできませんか?」

 

「私も努めてはいるのですが、なかなか…不思議ですよね?」

 

「不思議なのはあなたの頭かと。また奥さんとCEOに言いつけますよ?いらない茶目っ気を出したと」

 

「どうかご容赦ください、あの二人はさすがに手に余ります」

 

「なら妙な思わせぶりをやめることです。今回は話をまとめることで手を打ちましょう」

 

こういう時のあなたの提案は頼りになるのも確かです。主治医の全幅の信頼のこもった言葉に、ドクターはやや照れ臭そうにそっぽを向く。

 

「それはありがたい、では」

 

ドクターはあまりにも気軽な態度で理事長の前に割って入る、その姿は明らかに手馴れていた。

 

「聞こう」

 

「どうやら私の診断書に信憑性がないのが大本の理由のご様子、であれば、信用できる事実があればよろしいのですよね?」

 

「いや、それは我々の中の問題だ。メジロの診断書も、もちろんあなたの診断書にもケチなど付けるはずもない。

どれも公的な書式と審査、そしてURAの定めた基準に沿った診断書であると考えている」

 

「えぇ、トレセン学園やひいてはURAそのものもそう判断するでしょう。しかし、そうではない方々も居るのも確かです」

 

ドクターは未だに両膝をついたまま頭をこすりつけているトレーナーを一瞥する。

表情の見えない仮面の先から感じる視線はどこか憐憫を感じさせた。

 

「こういった方々を納得させることは容易ではありません。それこそ時がたてばたつほどに。時間は無条件で彼らの味方です」

 

「ではどうしようと?」

 

「証明してもらえばよいでしょう、幸いにしてここは天下のトレセン学園ですからね。競争ウマ娘らしく、タービンには模擬レースをしていただきましょう。

彼女ならやってくれます、私からも話は通しますので」

 

彼女の身内でもあるドクターからの提案ならばシマカゼタービンは拒否をするまい。

ましてやこの現状を一発で打破できるとするならばそれに乗らない手はないはずだ。

 

「幸い、彼女は昨日からあなたたちの管理下にあり、食事などもすべてあなたたちに用意されている。これではドーピングなんてできませんよね?

もちろんレース前には細かなメディカルチェックと血液検査をして潔白を証明しましょう、それでこのトレセン学園の精鋭を相手に実力を示せればそれで証明になりませんか?

そう、例えば…GⅠクラスの精鋭たちに好成績を収めたとなれば、それで十分でしょう」

 

軽やかに提案を述べるドクター、その言葉は確かに正論である。常道である。それは実にわかりやすい証明だろう。

しかし秋川理事長も、樫本副理事も、それだけでなくこの室内にいるドクターとチームリギル以外の誰もが容認できない発言であった。

 

「彼女に連戦を強いるというのですか、仮にも彼女のかかりつけ医師を名乗るあなたが?」

 

いつになく厳しい表情をしたたづなが強い口調でドクターの提案に疑問を投げかける。

その疑問は競争ウマ娘と深く関わっているのならば当然の発言であるが、ドクターはそれに軽く首をかしげて何でもないように返答した。

 

「はい、そうですが何か?」

 

「それがどれだけ無謀な発言かわかって仰っているのですか?彼女は昨日、本番のレースをしたばかりです。

ウマ娘の足の繊細さはご存じのはず、彼女の足はまだレースをできるほど回復していません。

それなのにそのような無茶を、このような模擬レースですると?無為に怪我をさせるつもりですか?」

 

普段では見られないほど強い睨みでたづなはドクターを睨みつける。しかしそれを見たドクターは少し考え、そしてあっけらかんとそれに返した。

 

「あぁ、その点はご心配なく。彼女の足はたかが3キロの平地レースで音を上げるほど脆弱ではありませんので」

 

「なにを―――」

 

「チームリギルの皆様、あなた方ならばわかっていただけますよね?」

 

ドクター、シンボリルドルフ、ナリタブライアン以外から注がれる驚愕の視線に、内心嘘をつくべきだったと柄にもなく後悔した東条ハナであった。

既にレポートの詳細は提出済みであり、チームリギル内でも周知済みである。彼女の規格外っぷりを誤魔化すのは不可能だ。

ドクターの言葉は正しい、シマカゼタービンはまったくもって消耗していない。昨日のレースをまるでなかったかのように。

それを知っているからこそディープインパクトの提案を了承したし、いい機会だからと大々的な合同練習を企画した。

トレセン学園側においてそれを認めるのは非常識だとしても、現実に目を背けるわけにはいかない。

出来る、簡単な話に違いないのだ。現地で見た限りシマカゼタービンは毛ほども前回のレースで消耗していない。

これは後でまた根掘り葉掘り聞かれるだろうな、しばらくまた残業だろうな、実に無情な話であった。

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

「そういやトレセンって夏合宿あるんだろ?なんでいかないんだ?」

 

朝の清々しい空気が残るトレセン学園の歩道、トレセンのジャージに着替えた俺とディープはチームリギルが予約した練習場に駄弁りながら向かっていた。

なんか懐かしい感じ、前前世の頃はこういうのなかった気がする。あったけど忘れただけか、元からなかったか、さすがに記憶は薄れてきた。

だが前みたいで楽しいのは確かだな、馬鹿笑いできる相手は本当に重要だ。

 

「トレセンの合宿所だって限りがあるからね、集中すると練習どころじゃなくなるから学園全体でローテ組んでたりするんだよ。

でもそれじゃ間に合わなかったり足りなかったりするからさ、余裕のあるチームによっては自前で場所を取ったりするんだよ。

だから日程は程よくバラバラだったりするんだ、リギルなんかは毎回そのタイプ、うち資金には余裕があるんだよね」

 

「テレビでやったビーチとか合宿所って滅茶苦茶広い印象あったがそれでも足らねぇのな。さすが中央、全部スケールがでかいね」

 

「タービンに聞くのもアレだけど、群馬トレセンだとこういうのどうなの?」

 

「修学旅行の話とかじゃなくていいんかい?いろいろバカ話は山ほどあるぜ」

 

普通の修学旅行だったけどな、定番の京都旅行は楽しかったぜ。特に大きな事件らしい事件はなかったな。

神社巡りに映画村、修学旅行シーズン特有のイベント行事もいろいろあった。

他の学校の連中と被ってたこともあってか不思議と一緒になって駄弁ったり面白かったぜ、オッドアイ仲間もできたしな。

あぁでもスケベ女子のケツは蹴飛ばしてたか、あいつら男が覗かないからこっちから覗こうとしてやがった。

肉食系女子は逞しいがそれは流行らんわ、そもそも覗きで悲鳴上げるほどうちの男子の裸に価値はない。

 

「それ禁句、うちでそれは嫉妬の炎で焼かれるからね?」

 

「お前ら縁遠いもんな、そういうの」

 

あの3人もそうだったわ、修学旅行の写真見てなんか凄い顔してた。どんだけ睨んでもお前らそこにはいないのよね。

班作って見学したり、旅館の部屋で夜更かししたり、度が過ぎてバカやった阿呆が怒られてるの覗き見たりさ。

 

「やっぱり憧れる事ってあるんだよ。好きで入ったとはいえさ。普通の学校に行ってればああいう青春もあったのかなってさ」

 

ならそうすりゃよかったじゃねぇか、とは言わない。俺の家は別にウマ娘レースに思い入れなんかねぇから自由にできたが、そうじゃねぇ家庭は多い。

ウマ娘が生まれたなら大体は親ですら一度は夢を見る、一般家庭だと養育に諸々に国から補助が出るあたり余計に強いんだよな。

 

「トレセン学園にはウマ娘が必要とするものは何でもそろっているってよく聞く話だけどねぇ?」

 

「全部あったらタービン来てたでしょ?」

 

「なーる、そりゃそうだ。ま、話を戻すと知ってる限りじゃそっちとそう変わらんが企業体験とか力入れてるな。

陸自の入隊体験会とか警察学校体験入学とか、一般企業も地元の有力企業は全部あるし推薦枠もあったはずだ」

 

群馬は地元密着型だから地元企業との関りが深い、ここで渡りをつけて卒業後の進路を作ったりしてんだと。

確か藤原豆腐店に行った変わり種も過去には居たと聞いたな、意外と幅広いコース揃えてんだよなぁホント。

ダイオー、ツバキ、ノルンの実家なんかもその類、さすが俺なんか遥かに超える超が付くお嬢様だ。

うちにも何度か来てるの見たし一緒に仕事したり指導したが、そいつらがうちに来てくれたことはまずねぇ。

これは有る意味伝統というか通例というか、うちに来た連中は大体レースで成功するから来る理由がなくなっちまうんだよな。

親父も兄貴も熱心に指導してるから知り合いが活躍してうれしいのと同時にちょっと残念がってるのよな。

 

「企業体験?なんでそんなことしてるの?」

 

「卒業して就職する連中も居るからだ、予め対策しておいた方が何かと気楽に取り組めるからな。

あとは葦名武道場で泊まり込みが常連か、おかげで合宿期間は余計に戦場だぜあそこ」

 

葦名武道場、我が芦名の名所である葦名城下町の大手門付近にあるでっかい五重塔みたいな武道場だ。

芦名に伝わる古武術の総本山みたいなもんで、芦名に散らばる道場から年がら年中そこに集まって異種交流戦とか演舞やってる。

しかも夏祭、冬祭で市街地まで使った大規模模擬戦とかもするしな。

去年の夏は葦名城攻略大規模模擬戦でやばかった。忍び伝説モチーフの救出イベント、ラスボスの剣聖役やらされたんだよな。

大忍がダイオーで、現城主をツバキ。ノルンとウララが大手門の門番、あいつらチハ乗り回してハチャメチャだった。

 

「トレーナーに提案してみようかな?たぶんそれ、グラス先輩が興味津々だったやつだ」

 

「やめとけやめとけ、さっきも言ったがこの時期はガチで戦場なんだよ。このクソ熱いのにそれを喜ぶ変態が世界中から集まってきやがる。

とっくに自衛隊や在日米軍のモノ好きどもが居座ってるし、他の国の連中も入ってるんだ」

 

そうなるとどうなる、戦いは激化する、それだけなら喧嘩祭りみたいなもんだから風物詩なんだが、問題はこんな奴らが集まるせいでお食事処も戦場になることだ。

武道場にも食堂はあるけどそこで全部賄ってるわけじゃねぇし、そもそも武道場のは関係者用で挑戦者という名の部外者は実は使えなかったりする。

かといってそれに合わせて食事処を増やすなんてこともしない、あくまで一時的なもんだからな。恒常的に増やすと大赤字だ。

ただでさえキャパオーバーな所に食欲旺盛なお年頃のウマ娘達が大挙してくるんだぞ、もう戦争だよ、食事の取り合いみたいになって競い合うようにみんな貪ってんだ。

 

「おかげで酒が売れる売れる、他にもいろんなところから来てるからもっと人が多くなるぞ」

 

実際、ブーニーハットの英国紳士が酒を買いに来たかんな。いつも常温スタウトを欲しがるから今回は特別に仕込んだ試作品を押し付けてやったぜ。

気合い入れて作ったから味は保証するが、それがあの人の舌に合うかはまた別問題だ。

 

「あの祭りはお前らにゃ向かねぇよ、観光以外はやめときな」

 

ちなみにあいつら、女もゴリゴリのゴリラだぞ。普通のウマ娘程度なら素手で勝てるわ。いらん妄想は捨てろ、みな優秀な兵士だ。

あいつらも峠に出現するからな、朝練で隊列組んでランニングしてる。たまにかち合ってバトルになってぶっ倒れるまでがお約束。

今年は一体何やる気なんだか…今回は俺に頼られても無理だぜ?校長。

 

「うへぇ、なんかやばそう…それにしてもタービンがURAファイナルズに出てくるなんて思わなかったよ、すっごい楽しみ」

 

「期待されても出ないものは出ないぞ」

 

「そんなこと言って、楽しみな癖に」

 

「まぁな、あいつらがどこまで強くなったか知るにはいいチャンスだ」

 

「あ、それ私入ってないでしょ?私も出ようかな、タービンのGⅢ、どうする?」

 

「お前はクラシックに集中しろ、余所見してる余裕なんざねーだろ。3冠最弱って名乗りたいなら別だがな」

 

「うわ、勝つ気だよ…まぁ確かに負けてるけど酷くない?中央はうちらのホームですぞ?」

 

「走り屋の流儀を忘れたか?なんと、嘆かわしい…」

 

まぁそうそうそんなことはないと思うがね、菊花賞の前だろうが後だろうが俺の出るレースに出る理由がない。

しいて言えば菊花賞前の調整目的とかだろ、それはそれで絶対荒れるだろうな。

 

「じゃ、やろうか」

 

「貴公は2着がお似合いだ!」

 

俺はすぐさま大いなる鷹のポーズ、ディープも勇猛なる熊のポーズ。互いにバカみてぇなポーズで相対、あかん、もうあかん、笑う!

 

「「ぎゃはははッ!!」」

 

腹を抱えて二人して笑った。あー楽しい、こういうバカみてぇなやり取りってホント楽しい。朝飯はなんか変なことになったが気分を切り替えていこう。

本日の予定は秋葉原で軍拡交差点からスタートという東京見物から大幅に変わりトレセン学園でディープの練習相手になるはずだった。

まぁそこは名目でおおよそ、チームリギルとやらの練習に俺が紛れ込む形になるだろうから大人数になるだろうなとは思ってた。

他にも声かけようかとか話もあったし、ターボ辺りは混ざって来るだろうなとか気楽に思ってた。

うん、まぁでも、でもねぇ…

 

「なぁディープ、素直に言って良いか?」

 

「なに?」

 

「お前一体何しやがった?」

 

バカみてぇなポーズをやめて練習場に入ってすぐに感じたのは違和感、明らかに人の気配が多い、チームリギルは大所帯だと聞いていたがそれにしたって多すぎる。

練習場所にされてるコースに行ってみればもうウマ娘ウマ娘ウマ娘、どっかで見たようなウマ娘だらけ。

グラスワンダーやエルコンドルパサー、それから多分チームリギルのチームメンバーがいるのはいい。

ターボも居るしネイチャも居る、それと写真で見たことのあるメガネと帽子のウマ娘と見たことないヤツと南坂トレーナー、チームカノープスがいるのも納得だ。

だがなぜいるゴールドシップ、という事は周りにいるのはたしかチームスピカってやつか。なぜ大勢でいる、わからん。

それに何よりなぜここにもいるのかオグリキャップ、ついでにほかにもウマ娘がいるが全員顔も名前も知らぬ。

当然周りもトレーナートレーナートレーナー、さすがに俺だってちょこっとは見た覚えのあるトレーナーが勢ぞろい。

あのジャージのグラサン、どことなく桐生さんに似てるから覚えてるわ。前にテレビに出てたよ、ある種の凄味ってのを感じるぜ。

何なら神室町を練り歩いてても違和感ないし喧嘩を吹っ掛けられてるイメージが浮かぶわ、あそこ昔っから手が出る連中多いのよ。

兄貴と一緒に暴れてんの何度も見たし、俺も秋山さんとか春日さんと一緒に暴れたっけな。

あと俺の見間違いならいいんだが…なんか光ってるのいないか?着ぐるみがいないか?俺の幻覚だよな?なんか濃いんだけど色々と。

 

「多くね?いや多いだろ、これ」

 

「そうだね、みんな来てるね!」

 

「いや来てるねじゃねーだろ。明らかに関係ない人混じってんぞ、あれとか」

 

俺が指差したのはメイドさん、俺はほとほとメイドに縁があるらしい。そう思うことにする、まだメイドのほうがマシだ。

あれサトノ財閥の人だろ。取引先の資料に顔写真が載ってたぞ、メイドのままで。トレーナーだったんかい。

じゃぁその周りにいるのはサトノ財閥のウマ娘ってわけか、すげーなおい。

 

「チームカペラだね、クラウン先輩とダイヤモンド先輩、来てくれたんだ」

 

「誰だよ」

 

「あ、タマモ先輩だ。イナリ先輩とクリーク先輩もいる」

 

「いや誰だよ」

 

「キタサン先輩とドゥラメンテ先輩もいる、シュヴァルグラン先輩にヴィブロス先輩にヴィルシーナ先輩も揃い踏みだぁ!」

 

「だから誰やねん…」

 

わからん、わからんぞ、俺にはグラスワンダーとエルコンドルパサー達くらいしかわからん。

南坂トレーナーの隣にいるなんか見るからに女帝って感じのウマ娘だって顔も名前も知らんぞ。

だがわかる、わかるぞ。ここに居る連中、全員底が知れん…立ち振る舞いからしてヤベーのばかりだ。

しかし問題はそれだけじゃない、見られているな。うまく隠している、敵意だけじゃない。

 

「見られてるな…」

 

「そりゃ見られるでしょ、大注目だよ」

 

そうなんだろうけどねぇ…こいつらのそれは全く別のものが混じってやがるな。選別する目、見極める目だな。

こいつらは一流のトレーナーだ、良い目を持っている。しかしあくまでトレーナーだ、教師の目じゃない。

あながちテレビで言ってたことは間違いじゃねぇ、群馬でもこれは同じだ。

正直、教師として一人前って言える連中は少ないんじゃねぇか?学び舎なのにな。

大人が子供を見極める?選別する?気に食わん。だがそういう世界なのも理解してる。

ここに来た連中も覚悟してんだ、それならとやかく言うつもりはねぇさ…だが俺にその目を向けんじゃねぇよ。

視線のほうにそれとなく睨み返す。口には出さん、俺が勝手に気に食わんだけの事、世直しするような性分でもない。

だが忘れるな、神聖なる学び舎としての体を取っているんだろう?トレーナー共。

 

「それより何やらせる気だ?こんな大勢の前で」

 

「トレーナーは普通に併走と炭酸水のをやってもらおうって言ってたよ、あとみんなの走行スタイル見てほしいって言ってた」

 

「それくらいなら別にかまわんが…炭酸はウェストポーチくらいないとできないぞ、さすがにあれは用意してないぜ?」

 

いくら俺でも装備一式いつも用意してるわけじゃねぇ、すぐ使えるようにする場合意外と嵩張るからな。

バラシて分解しておけば大体コンパクトにできるんだがそうすると今度は即応性に難があるし。

 

「それならターボ先輩が貸してくれるってさ、えるしーつー?っていうベルトにペットボトルポーチ付けたヤツ。

あと胸に付けるエプロンみたいなのも貸してくれたけど、あれのポケット、ペットボトル入んなかったんだよね」

 

56式弾帯とLC-2ピストルベルトか、まだ持ってたのか。最近ヘリコンテックス一式に変えたって聞いてたんだがな。

 

「まぁ俺はいいが…東条トレーナーがそれでいいってんならいい。うん?そういえば見当たらねぇがどこ行った?」

 

「あれ?ほんとだ。エアグルーヴ先輩しかいないなんておかしいな」

 

あの女帝っぽいのエアグルーヴってのか…エアグルーヴ?あれ、なんかどっかで聞いたような…でねぇや。

あいつが首ったけのヤツってそんな名前だったような気がするんだが…気のせいだな。

 

「ちょっと聞いてくるね、ここら辺で待ってて」

 

え、ちょっと待ってディープ…行っちまった、こんなところで一人にしないでくれよ、まじで心細いぞ。

どうする?どうすりゃいい?げ、視線がやばい。なんかそこら中から見られ始めた、やだやだこういうの。

しかしかといって踵を返すわけにもいかないし、ここで待ってるように言われたし…しょうがない、グラスワンダーの所にでも混じるか。お?

 

「キング、あいつなんでこんなところに」

 

ちょうど近くにいたグラスワンダーとエルコンドルパサーの所にウマ娘が3人加わった、見たことのないのと妹に似てるのと見慣れたの。

シャットの奴の髪を水色にしたらこうなる奴はともかく、キングヘイローにまさかここで出会うとは思わなんだ。

アイツこういうの好きそうには見えなかったが…まぁ一緒に遊んだことあるわけじゃねぇしな。

 

「あの野郎、電話に出ないと思ったらなんでこんなところに」

 

ちょうどいい、生の初対面だ。そこまで移動するわけじゃねぇから駄弁ってても大丈夫だろう。

こういう時に顔見知りが多いのは大変心強い、今回はあいつらの所に混じるとしますか。

 

「キング!まさかそこにいるのはキングヘイローか!」

 

「え、な。何よあんた!!」

 

おっと、なんだなんだよそよそしい。

 

「誰って俺だよ俺、シマカゼタービン。こうして面と向かうのは初めてだが、互いに見慣れた顔だろ?

ウララは大丈夫だったか?あいつ、遠征にもってく荷物で悩んでたろ。結局尻切れトンボになっちまったがどうなったんだ?」

 

「なんでそんなこと知ってるの!?あなた、一体何モノ!!」

 

「だから何言ってんだお前、この前も電話で話したじゃねぇか。しかもお前の方からさ。まさかお前ら知り合いだったとはな、世間は狭いね」

 

「おや、おやおや?この反応、これはもしかしてひょっとするんじゃないんですかキングさん?」

 

「何の話だ?」

 

シャットを成長させたらこうなるような葦毛のウマ娘がなぜか面白いものを見つけたように悪戯気に笑う。

うむ、似てるけどこういうところは違うわな。あいつは心底のんびり屋で超が付くマイペースだが、なんか違う。

 

「そっちの二人とは初対面だな。シマカゼタービンだ、芦名高等学校3年生帰宅部、峠の走り屋やってる。よろしく」

 

「これはこれはご丁寧に。私はセイウンスカイ、よろしく」

 

「スペシャルウィークです、よろしくお願いします!もしかしてベレーちゃんの先輩のタービンさんですか?」

 

「クイーンベレーの事か?トレセンから転校してきた?それなら俺だと思うが…あぁ!もしかしてスぺってあんたのことか」

 

「はい!」

 

なるほどスペシャルウィークだからスぺなのね、なんか似合ってるな。スペーンッって感じするし…スペーンッってなんだ?

 

「よろしくな、俺の事は好きに呼んでくれや、タービンでもシマカゼでも」

 

「よろしくお願いね、タービンちゃん!」

 

「はっはっは、ちゃん付けとはやりおるわ。しかし本当に世間は狭いな、驚きだ」

 

「それはこっちのセリフデース!タービン、どうしてキングと知り合いなんですか!?説明を要求シマース!」

 

落ち着きたまえエルコンドルパサー、元から癖のある言葉遣いがさらに愉快なことになってるぞ。

 

「特別な事なんざねーよ、ハルウララ経由だ。友達の友達ってやつさ。あいつと知り合いで時々電話で話してたのさ。

そういう電話って大体寮の部屋でやっててな、同室のキングが話に混ざるようになってそこからさ」

 

「ウララちゃんはそんなこと話したことなかったような…あ、でも高知の友達のことは言ってたかな?」

 

「スぺちゃん、たぶんその中に混じってたんだと思いますよ。ところでベレーさんとのやり取りについて詳しくお聞かせ願えますか?」

 

「ひょぇ…」

 

あ、グラスワンダーの顔が怖い。穏やかに笑ってるのに背後に般若のお面を付けた鎧武者が見える。

こいつスゲーな、完全に大和撫子じゃん。たしかアメリカからの留学生で純度百パーセントアメリカ人じゃなかったっけ?

まぁ日本文化に憧れてて葦名の歴史にはかなり食いついてたから納得いくけど…今度もしこっち来たら一心校長の道場に呼んでみるか。

 

「落ち着けよグラスワンダー、スペシャルウィークさん絞ってもなんも出ねぇよ」

 

「…そうですね、少々取り乱しました。あとグラスで結構です」

 

「こ、怖かったっぺ。助かったよタービンちゃん…あ、私はスぺとか呼びやすいように呼んでいいですよ?」

 

「私もスカイでいいよ。同じ逃げウマ娘として仲よくしようね?」

 

「エル、デース!今日は負けまセン!」

 

元気で大変よろしい、高校生はやっぱりこうでなくっちゃな。元気すぎるのも大変だけど、それが若さだからね。

 

「な、な、な…」

 

おや、キングの様子が…なんか既視感。

 

「なんですってぇぇぇぇッ!!?」

 

うるせぇ!?またこの空気かよ!!

 

「ぅわ!?どうしたのキングちゃん!!?何かあったの?」

 

「何かあったかじゃないわよ!!何かありまくりよ!!というか何がどうなってこうなってるのよ!!」

 

「おい、さっきからどうしたんだ?まるで意味が分からねーぞ」

 

「意味が分からないのはあなたよ!?あなたの学校って、芦名じゃないでしょ!制服だって全然違うじゃないの!」

 

「はい?なんの話だ、というかお前に俺の制服姿見せたことあったか?」

 

あったか?覚えてないぞ。というかこいつと話すときって大体夜だから制服着てないはずなんだが…

 

「ほらこれ!ミレニアムってあるじゃない!おかしいでしょ!!?高知から転校したとかそういう話一つなかったじゃないの!!」

 

キングが若干怒りながら見せてきたスマホの画面には、まぁ何とも見慣れた面子との懐かしい写真。

ネルとアリスと一緒に寝落ちしてるヤツ、ちなみに撮影者はウタハ。

よく覚えとるわ、向こうでも散々ネタにされたし。レースゲー大会に出ようとした二人に巻き込まれたんよ、チーム戦で3人必要だからってさ。

ゲームと実物は違うというに走り屋だからって…まさかゲームでここまで特訓するなんて、初めての経験だったよ。

なんでこんなのキングが持っとるんじゃい!!これこっちで持ってんのウララくらいやろ!!どうする、どう言い訳する!?そうだ!

 

「あぁ、これ短期留学してた時の写真だな…なんでこれ持ってんのお前?」

 

調べられたらアウトだけどね!そんな学校ないし!!誤魔化すにはこれしかない。何とかなれー!!

 

「短期留学?でも確か高知で知り合ったってウララさんが…」

 

「おう、それは間違ってないな、ちょっと縁があって高知で知り合ったんだがそれとこれは別件だぜ。

こいつは別の時に撮られたヤツだ。すまん、なんか勘違いさせちまってたみたいだな。

俺は生まれも育ちも群馬でな、ウララと知り合ったのは高知なんだがそりゃ旅行に行ったからなんだよ。

ほらこれ、高一の時に拓海たちと一緒に高知旅行に行ったんだがな?そこの海水浴場で偶然な。

あ、男は俺の友達な。拓海とイツキ、昔なじみだよ」

 

俺がスマホを出して見せたのは高一の時の高知旅行の写真。

海辺の砂浜で水着姿の俺やダイオー達、拓海とイツキ、それに混ざったハルウララが並んだ写真。

ちなみに撮影者は祐一さん、ほんとにこの時はお世話になりました。でもガソスタに飾るのは勘弁してください。

 

「そうだったの…あぁもぅ、私こそごめんなさい。完全に自己完結してたわ、そういえばこの手の話は全然してなかったわね」

 

「まぁ元々ウララ挟んでの始まりだったしな、する必要も意味もなかったというか…俺もとっくに知ってるもんだと思ってたし」

 

「じゃぁお互い様ね」

 

「それでいこう」

 

なんとかなった、か。すまんキング、こればかりはそうペラペラ喋るわけにゃいかんのだ。せめてウララから顛末聞いたとかじゃないとな。

まぁいくらハルウララでもそうそうペラペラ喋らんだろうけども…ないよな、やらないよなウララ。信じてるからなウララ。

 

「で、なんでお前がその写真持ってんだ?」

 

「ウララさんが間違えて送ってきたのよ」

 

「おっふ…」

 

あんのおバカ!!何という事を!!あれほど扱いは慎重にといったのに!!返せ!俺の信頼を返せ!!

 

「ほかにもあったり?」

 

「さすがに無いわよ。えっと…ネルさんとアリスさんだったかしら?その二人と一緒のだけ」

 

名前までゲロったんかい…いやこうなりゃそれくらい教えるのが普通か、秘密にしたら目立つか。

良かった、本当に良かった。たぶんもっと不味いのとか恥ずかしいのじゃなくて、メイドとかドレスとかバニーとか!!

そうでなくてもいろいろあの連中の詰め合わせ持ってんだからあいつ…今度きっちり釘刺しておかねばならんかね。

 

「今度俺からも言っとく。じゃ、それ消しといてくれ」

 

「え?」

 

「…いや、いいや、うん」

 

一枚くらいならまぁええか、心霊写真とかオカルトグッズだと悪いものは呼び水になったりするからホントにダメなんだけども。

神社土産やら開運グッズやら集めまくった結果、なぜか家が吹っ飛んだとかあるからな。

けどキングに関しちゃ今更だ、だって同室がその塊な感じなわけでこんなの誤差なんだよ誤差…でもターボとウララには神ふぶきを渡しておこう。

あれがあればよほどのモノじゃなけりゃ物理で何とかなる。

 

「で?なんで朝無視した?電話したんだけど?」

 

「え、そうなの!?ごめんなさい、気付かなかったわ…」

 

ありゃ、ならしゃーないな。でも気づかんとはなんかあったんか?

 

「あー、ほら、アヤベさんが忍び込んでて大変だったから」

 

スカイ曰く、アヤベさんとやらがキングの部屋に忍び込んでいたらしくその対処でひと騒動あったとか。

なんでもキングの同室であるウララが部屋にぬいぐるみを持ち込んでて、それがそのアヤベさんに気に入られてて時々モフモフしてるらしい。

普段はウララに許可を得てそこにいるのだが、今はウララが遠征で不在かつキングと絶妙にタイミングが合わずで、何を思ったのか忍び込んでいたそうな…吹っ切れてんなぁ、トレセン。

 

「ぬいぐるみってあいつ何持ち込んでんだ?麻薬かなんかか?」

 

「人聞きの悪いこと言わないで頂戴、ただのぬいぐるみよ。あれはアヤベさんだからとしか言えないわね。

そもそも少し前まではこんなの無かったのよ?でもウララさんが、今回なんか変なデザインのぬいぐるみを持ってきててね。

どこ見てるか分からないような白い鳥の…なんていうか、鶏の、その、何とも言い難いのとかあるんだけどそれが何とも良い肌触りで」

 

「ピンキーパカとスカルマンを抱いてウェーブキャットさんを首に巻いてビッグペロロ様にダイブするの、ふわふわでふかふかよ」

 

「あ~…あれか」

 

忍術研究部の一件の時に桜龍が持ってきた支援物資に突っ込まれてたあのペロキチ厳選モモフレンズ布教グッズ。

そういえばほとんどウララが引き取ってたっけ、小物ならともかく等身大ペロロ人形とかどう見ても頭おかしかったからな。

あんなもん何に使うんだ?って考えたら普通を自称する例のあの人なら『ペロロ様ですから』って言いそうな感じではある。

今思うとだいぶ遊んでたよなあっち側、まぁ切羽詰まってたわけじゃねぇからいいけど。

 

「…ところで誰です?」

 

「アヤベさん、まだ話は終わってませんよ!あ、初めまして!ナリタトップロードです!

すみませんお騒がせして。ほらこっち、他の人に迷惑かけないでください!!」

 

「待って、待って頂戴、ふわふわが、やっと見つけた手掛かりが―――」

 

「はーはっはっは!アヤベさんは相変わらずだね、騒がせてすまないね君達!この僕が代わりに謝罪しよう!

シマカゼ君、話は聞いてるよ。僕はテイエムオペラオー、チームリギルのチームメンバーだ。これからよろしく、では!」

 

「マジかよ」

 

件の不法侵入者かよ、言うだけ言ってなんか主人公っぽいウマ娘に引っ張られて消えていったぞ。

ついでになんか妙に自己主張が激しいウマ娘も居たな、なんだあいつ?さすがトレセン、やっぱり吹っ切れてんな。

 

「あ、居た居た。タービン、話聞いてきたよ。なんか急な呼び出しがあったとかで…ってどしたの一体?タービン何その悟った顔」

 

「いや、世間の狭さと懐の深さに脱帽してたところ」

 

「なにそれ?どういう意味?」

 

「呆れてんだよ」

 

「ぶっちゃけやがった!?」

 

ぶっちゃけもするわ、これが噂の中央か?日本が世界に誇る日本ウマ娘トレーニングセンター学園の中身か?

日本の学界の中でもトップ層に位置する最高学府の一端か?これが?この姿が? …女子校ってこうなる運命なのかね。

ふと空を見上げた、空は青い、空の向こうには群馬県警のハインドDがのびのび飛んでる。

良いよな、自由に飛んでる日の丸ハインドD。あれクソが付くほど頑丈で汎用性あるのに安いんだぜ?

 

「結構ヤベーのばっかじゃね?朝から濃いのばっかで…なんかこう、うん」

 

「いつものことじゃん」

 

「マジでいってんの?」

 

「うん」

 

現実逃避もそこそこにこそこそ耳打ちすると普通に頷きやがったぞコイツ。いつもの事か、そうか、うん…ターボ凄いなぁ。

 

「…やめよう、この話題」

 

「いいけど、それでどうしたのさ?キング先輩となんか妙に仲いいじゃん」

 

「こちら、友人のキングヘイローです、いままで本人認定されてませんでした」

 

「一体何が起きてんの?」

 

いやはや、実はかくかくしかじかまるまるウマウマウマ娘って具合でごぜーまして。

説明するとお目目真ん丸になったディープの顔はなかなか面白かったと付け加えておこう。

そりゃまさかキングヘイローと馴染みがあるなんて思ってもみなかったんだろうよ。

その後なんか獲物を見つけた狩人の目でキングを見てもいたけどな、ドンマイだキング。

 

 

 

 







あとがき

はい、ゴタゴタです、嫌でも騒動が付いて回るので騒がしくハチャメチャに楽しくやりたくてこうなってます。
アヤベさんファンの人、ゴメンナサイ。どうにもうまく動かないアヤベさん、いっそ振り切ってふわふわ探求モードです。
でもアヤベさんにふわふわを任せたらこうなると思うの、あの娘も意外と愉快なところあるしきっと愉快なほうが妹ちゃんも喜ぶし。
キングヘイローファンの人もゴメンナサイ、どうしてもキングちゃんにはこのネタを一回やってほしかった。
やっぱりね、キングちゃんも肝心な時にしか役に立たないタイプのキャラクターだと思うわけでね。
うちのが勝手に若干苛立ってますけどそれもここで相殺、キングヘイローはやっぱり偉大ですな。


トレセンサイドは…予め言っておきますがモブトレーナーは決して悪人じゃないしむしろ普通に良心的なトレーナーです。
アプリトレーナーのようなチートも、ベテラン勢みたいなキチガイ染みた実力もありませんが努力の人です。
それでも届かないものがあって、負けた相手が普通にネームドだったり同じ競争ウマ娘だったら二人でクソほど泣いて終わりだったでしょう。
でもそうじゃなかった、余りに運が悪いことに野生のラスボスが狩っていきました、そりゃ絶望だわって話。
とはいえこの話を聞けばタービン関係者一同(本人と家族、会社一同を除く)はキレるでしょうがね。
まだ学園サイドも現状が大きく変わったことに対応しきれていないのです。
それをギャグにもっていくには…そうだね、我らがドクター!前世の時からろくでなし(善性)!!
タービンを普通に消耗させたい?ならダウンヒルバトル一本やらせればいいよ、相手はスポーツカーでね。そう真顔で言えるお人です。
事実、リギルとの初対面で全員とタイマンしてやっと筋肉痛にしたんだよね(なおリギルは完敗の模様)
ちなみに一番簡単な解決策はシマカゼタービンにこのトレーナーが直訴することでした、そうすりゃ理解して身を引きます。
後のことは他で穴埋めすればいい話なんですよね、多少の風評被害程度はどうとでもなるので。





おまけ・モモフレンズ
別世界に存在するキャラクターグッズの総称、ウマ娘の世界には存在しない。
人気はまちまちであるが知名度はそこそこ、しかしコアなファンがおり、ペロロのためなら期末試験をサボってイベントに向かう女子高生も居るほど。
なお今回登場したグッズは某普通の女子高生厳選の布教グッズであり、万人受けするノーマルなタイプ。
大変手触りが良くふかふかでふわふわ、それでいてお手入れも簡単で丸洗いしても型崩れしない耐久性を誇る。




おまけ2・最新身体測定記録の一部
名前・シマカゼタービン 年齢・18歳
生年月日・5月5日(戸籍上)
所属・群馬県立芦名高等学校3年生、瀬名酒造
身長・168センチ  体重・68キロ
スリーサイズ・B94、W60、H86
血液型・O型
髪色・青 瞳色・オッドアイ(左・赤、右・青)

一言メモ・そろそろ四捨五入で誤魔化すのは厳しいです。いい加減あきらめましょう。ドクターより。
その下に何か乱雑に書き足されているが消されていて読めない…



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