せっかく貞操観念逆転世界へ来たのに貞操観念逆転していない幼なじみに女の子との出会いを潰されている   作:耳野笑

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 前回のあらすじ!

 あなたは記憶喪失になった! そして、中二病ガール・ノアと出会った!

 あなたはノア、ナミネと共に、『蛇王』の調査のため、登山をすることに! ナミネにラッキースケベをしてボコられたり、ノアにセクハラマッサージをされたりしながら、山を登っていく!

 その道中、村を発見! その村人たちが、蛇王を封印し続けるためだけに一生を終えることを知る! あなたとナミネとノアは、彼らを救うべく、蛇王の討伐を決意!

 山頂にて、蛇王と激突! ノアは『賢者』として真の力を振るい、蛇王を撃破!
 しかし、ノアは蛇王と共に消えてしまう。万感の想いを胸に、あなたとナミネはノアに別れを告げた。

 その翌朝、あなたはノアの石像に頭をぶつけて、記憶を取り戻した!


 果たして、あなたの選ぶ結末は――⁉


第10話 貞操観念正常系天敵暴力系ツンデレ貧乳幼なじみ・ナミネ

 

「神宮寺流――蕾荊棘(つぼみおどろ)

 

威風放つ魂の輝き(アニマエストーソ)

 

 あなたの斬撃とナミネの魔法が、ゴーレムを破壊した。

 

 今日のクエスト地は、古代遺跡の神殿。内容は、神殿内部に配置されているゴーレムの討伐だった。

 依頼者は考古学者。古代遺跡の調査を行うため、障害になるゴーレムを排除してほしい、という経緯だった。

 

「今ので50体目。依頼にあったゴーレムは全部倒せたね」

 

「そうね。でも、一応奥まで見ていくわよ。古い遺跡だから、魔獣とかいるかもしれないし」

 

「そうだね。ちゃんと倒していってあげようか」

 

 あなたとナミネは廊下を進む。

 白亜の壁。大理石の床。長い廊下の左右には、等間隔に円柱が立っている。

 人の手が入らなくなって久しいとは思えない程、清潔さが保たれていた。静寂と、わずかに肌寒い冷気が、神聖さを醸す。

 

 やがて、最奥に行き当たる。扉を開くと、そこには礼拝場があった。紅い絨毯を挟む形で、長椅子が並んでいる。

 場内は薄闇に包まれている。が、ステンドグラスから太陽光が透いて入ってきて、祭壇の所だけを照らしていた。

 

「魔獣はいないみたいね」

 

「うん、よかった」

 

「せっかくだし、何かお祈りしていく?」

 

「そうだね。せっかくだもんね」

 

 あなたとナミネは祭壇に近付く。そして、手を合わせて目を閉じる。

 

(神様、かあ……)

 

 異世界転移前のあなたは、神頼みを本気になって行うほど信心深くなかった。

 

しかし、今は神様がいることを知っている。なので、こんなお祈りにも、わずかならず本気の願いを込めてしまう。

 

(神様、どうか――)

 

 数秒して、目を開ける。ナミネがあなたを見て、問い掛ける。

 

「なにをお祈りしたの?」

 

「世界平和」

 

「ぜったいウソでしょ」

 

 ナミネはジト目で睨んでくる。あなたは目を逸らした。

 

「どうせ『おっぱいが大きくて可愛い女の子とイチャラブできますように』とかでしょ?」

 

「ち、違うから!」

 

「じゃあ、何祈ったのか言ってみなさいよ」

 

「な、ナミネが……病気や怪我をせず、ずっと元気でいてくれますようにって……」

 

 あなたの顔が真っ赤になる。身体が燃えるように熱かった。

 

 ナミネが驚き、くるみ色の瞳がまん丸に見開かれる。

 

「……ほ、ホントに?」

 

「ホントに……」

 

「あ、ありがと……」

 

 ナミネは視線を下げて、斜め下を見ながらそういった。頬がほんのり赤らんでいる。

 

 なんともいえない沈黙が満ちる。あなたは気まずさを誤魔化すように口を開く。

 

「な、ナミネは何お願いしたの?」

 

「え? 世界平和」

 

「いや嘘吐くな! どっちかっていったら世界征服でしょ!」

 

「どういう意味よ!!!!!!!!!!!!!」

 

 *

 

 あなたとナミネは神殿のクエストから帰還した。すると、妙にギルド会館がざわついていた。

 

「なんだろ、この雰囲気……」

 

 クエストボードに、巨大な羊皮紙が貼られている。

 

 緊急レイドの発令書だった。そこに記されている内容は――。

 

 『黒竜』――300年前、この国の人口を半分に減らした災害指定魔獣の出現。

 

 招集される冒険者リストの中には、ナミネだけではなく、あなたの名前もあった。

 

「黒竜……って、どんな魔獣なの?」

 

 あなたがナミネに尋ねると、ナミネは渋面を浮かべた。

 

「最悪の魔獣。強さ自体もS級相当だけど、特性が厄介なの」

 

「特性?」

 

「不可逆の呪詛――黒竜の攻撃によって受けた傷は、二度と治らないの」

 

 あなたは言葉を失う。それはつまり、回復薬も治癒魔法も意味を為さないということだった。

 

「一度致命傷を受けたら、必ず死ぬってこと……?」

 

「違う。致命傷じゃなくて、掠り傷でも死ぬの。どんなに小さな傷でも、絶対に出血が止まらないんだから」

 

 あなたは戦慄した。剣術チートを貰ってから初めて、戦うことが怖いと本気で感じた。

 

 再び羊皮紙を見る。レイドに召集されたメンバーの中には、ナミネとあなたの名前がある。

 

 言いようのない不安が、心の中に渦巻いていた。

 

 *

 

 レイド決戦の日。

 

 あなたはこれまで軽装で戦ってきたが、今回ばかりは防具を整えてきた。

 腕部、胸部、脚部に鉄鋼を付けて、動きが鈍らないギリギリのラインまで防御を固めている。

 

 決戦の地は、都市部のど真ん中。レンガ造りの大通りに、石造りの建物が並んでいる。一帯に避難命令が出ているため、市民の姿はない。

 

 精鋭たちが、広場前の路地に集まっている。魔法職たちは各々の最大攻撃魔法を待機させていた。あなたも、ナミネの傍で控えている。

 

 あなたは身体が強張るのを感じていた。ちらりと、隣を見る。ナミネも険しい顔をしていた。――不安、緊張、恐怖。そういった感情が窺えた。

 

「ナミネ」

 

「なに?」

 

 あなたが名前を呼ぶと、ナミネは真っ直ぐ前を見つめたまま答えた。

 

「ナミネは、僕が守るよ」

 

「……。……えっ。えっ!?!?!?」

 

 ナミネは弾かれるように、あなたの方を見る。まん丸に見開かれたくるみ色の瞳が、驚愕を表していた。

 

「なにいきなり、どういう――「人造兵(ゴーレム)を前へ!」

 

 指揮役の号令が響き、ナミネは言い掛けた言葉を呑み込んだ。

 

 人造兵(ゴーレム)たちの隊列が進軍する。

 黒竜の特性上、近距離での直接戦闘は避ける必要がある。人造兵で黒竜を広場まで誘き寄せて、準備した魔法群を一斉に放つ算段だった。

 

 ――鋭い咆哮。

 

 金属の擦れるような、耳障りな叫び声が迫ってくる。そして、黒竜は現れた。

 

「小さいッ……!?」

 

 幼体だった。体長は1メートル。尻尾で更に1メートル。全長でも2メートルの矮躯。

 

 鋼のように黒光りする竜鱗に、全身が覆われている。尾は針山のごとく鋭い棘が生えていた。

 殺意を宿す紅玉の瞳がこちらを見据えて、真っ直ぐ突っ込んでくる。

 

「放て!!!!!!!!!!!!!!」

 

 待機させていた魔法群が放たれる。

 

 赤、橙、黄、緑、青、藍、紫。色とりどりの魔法が炸裂し、大爆発を起こす。広場が黒煙に包まれた。

 

「――やったか!?」

 

 その声に応えるかのように、煙から黒竜が飛び出した。

 閃光が如き突進。瞬く間に、魔法使いたちの列へと迫る。狙いは、その先頭にいる――ナミネだった。

 

「ナミネ!」

 

 あなたはナミネの前に飛び出す。

 

 黒竜の右前肢が奔り、獰悪な爪があなたの身体を穿たんと放たれた。

 

 ――甲高い剣戟音。あなたは剣で右肢を防いだが、重い一撃に剣を弾かれ、体勢が崩れる。

 

「――え?」

 

 あなたの左腕に、何かが巻き付く感覚がある。それが黒竜の尻尾であるという理解が、一瞬遅れて追い付く。

 

 骨が歪むような、圧力。腕部の鉄鋼に棘が食い込んで変形する。

 

 刹那、黒竜は嗤笑(ししょう)するがごとく、顎を開いた。鋭く生え揃った牙が、あなたの左腕を呑み込み――。

 

「○○ッ!」

 

 あなたの左腕の肘から先が消え、鮮血が噴き出す。

 

「神宮寺流――(のえんどう)!」

 

 ――あなたは残る右腕で刺突を繰り出す。巨山すら砕く重撃が、黒竜の胸部を穿つ。竜鱗が砕ける確かな感触と共に、黒竜は凄まじい勢いで吹っ飛んだ。

 

 そこに向けて、剣士たちが殺到する。いくつもの斬撃が黒竜を斬り裂いた。頭、腕、翼、肢、尾と、細切れに切り刻まれた部位が転がる。

 

甦れ、生命の灯よ(コン・フォーコール)!」

 

 ナミネがあなたに治癒魔法を行使すると、()()()()()()()

 

 あなたは左腕を食い千切られる寸前、自ら左腕を両断していた。黒竜の攻撃による外傷は治らないが、己で付けた傷は治せる――という道理だった。

 

「なんて無茶するのよこの馬鹿ッ!」

 

 ナミネの怒号が響く。あなたはナミネに胸ぐらを掴まれ、涙の滲む瞳で睨まれる。

 

「○○が死んだら、私はっ……!」

 

「……うん、ごめんね」

 

 泣きじゃくり、嗚咽の混じる声で、ナミネはあなたを非難する。しかし、あなたは妙に落ち着いていた。

 

「でも、もう嫌だったんだ。ナミネを失うのが」

 

「…………」

 

 涙に潤むくるみ色の瞳が、じっとあなたを見つめる。

 

「僕にとって、ナミネのいない世界なんて生きる意味がないから」

 

 前の世界で、ナミネは交通事故に遭って亡くなった。それから、あなたの心にはぽっかりと穴が空いて、そこに山ほど苦痛を詰め込まれ続けた。

 

 希望のない毎日。そして、あなたも交通事故に遭い、この世界にやってきて――。

 

「ナミネと再会できて、嬉しかったよ。ナミネも僕に会うことを望んでくれてたって分かった時は、もっと嬉しかった」

 

 幸せだった。貞操観念逆転世界だったから、というのもあるが、何よりもナミネがいてくれたから人生が楽しかった。

 

「○○の中で、私ってそんなに大切な存在だったの……?」

 

「うん」

 

「じゃあ他の女にばっかり手出そうとするんじゃないわよ……!」

 

 若干の非難を込めた瞳が、あなたを見上げる。返す言葉もないくらい、その通りだった。

 

「ごめんね。……でも、もう、ナミネ以外の女の子のことは考えないよ」

 

「えっ……? そ、それって……」

 

 ナミネが目を見開く。くるみ色の瞳が、喜びと期待で輝く。

 

「僕は、ナミネのことが――」

 

 好きだよ。と、言いたかった。

 

 しかし、あなたはその続きを口にすることなく、ナミネを突き飛ばした。

 

「……えっ?」

 

 ナミネが呆然と、声を漏らす。あなたの左肩に、頭部だけの黒竜が深々と牙を食い込ませて噛み付いた。

 

「クソッ!」

 

 近くにいた剣士が、黒竜の頭を両断する。上下に両断された頭部は、今度こそ完全に動きを止めた。

 

 しかし、あなたはその場に膝を突く。

 

「○○ッ!!!!」

 

 牙は心臓まで達していた。滂沱と血が流れ、あなたの足元に血溜まりができていく。

 

甦れ、生命の灯よ(コン・フォーコール)!」

 

 ナミネがあなたに治癒魔法を使う。しかし、傷は癒えず、血も止まらない。

 

甦れ、生命の灯よ(コン・フォーコール)! 甦れ、生命の灯よ(コン・フォーコール)! 甦れ、生命の灯よ(コン・フォーコール)!」

 

 ナミネは繰り返し、治癒魔法を発動する。しかし、何度やっても、あなたの傷が癒えることはない。その間にも流血し続け、命は死へと近づいていく。

 

「……ナミネ、もういいよ」

 

「いいわけないッ! いいわけないでしょッ!」

 

「もう、長くないから。ちゃんとナミネと話したいんだ」

 

 あなたは安堵していた。前世では、何もできずにナミネを死なせてしまった。

 

 けれど、今度は、ナミネを守れた。それだけで、人生が終わる理由として受け入れるには充分だった。

 

「……うそ。うそ、うそでしょっ! ねえ、なんでこれで終わりみたいな顔してるのよ! 私は、まだっ……「ナミネ」

 

 膝を突いて取り乱すナミネに、あなたは優しく微笑む。

 

「好きだよ、ナミネ」

 

 ナミネが静止する。

 

「大好きだよ、ナミネ。君がいてくれたから、僕は幸せだった。前の世界でも、この世界でも、ナミネがいたから楽しかった」

 

 ナミネの瞳から、涙がこぼれる。ナミネの顔がぐしゃぐしゃに歪む。――もっと早くに伝えていれば、きっと笑顔を見れたかもしれなかったのに。

 

「そんなのっ……私もそうに決まってるじゃない! 大好き! 大好きだからっ! お願い、死なないで……○○……」

 

 ナミネの懇願に、胸が締め付けられる。やっと、想いを伝えられたのに。もっと、ナミネと一緒にいたかった。

 

 死にたくなかった。でも、もうそんな拒絶や現実逃避を許す時間さえ、残っていない。

 

 あなたは最後の力を振り絞って、想いを言葉にする。

 

「愛してるよ、ナミネ」

 

 そして、あなたの二度目の命は終わりを迎えた。

 

 *

 

「久しいな、非業の魂よ」

 

 白ひげのおじいさんがいた。真っ白な緩い衣服を纏っている。

 

 見覚えがあった。あなたが一度目の死後に出会った老爺――神様だった。

 

「……はい」

 

 あなたはぼうっとしていた。ナミネとの別れに、心が追い付かない。心臓が止まってしまったかのように立ち尽くす。

 

「全ての世界は、苦界*1である。人の身には、あまりに過酷な辛苦だっただろう。……よく頑張った、○○」

 

 一度目の人生でも、あなたは頑張った。必死に生きた。頑張って生きた。

 

 けれど、幸せだったのは圧倒的に、二度目の人生だった。努力量と幸福量は比例することなく、ただ運と環境によって、あなたは幸せになった。

 

「……運ゲー、だったのかな」

 

 本人の意思ではどうにもならない選択肢、というものはある。

 

 親ガチャ、性別ガチャ、世界ガチャ――。運だけで有利不利が決まることは、いくらでも存在する。

それらのほとんどに、あなたは負けてきた。ハズレを引かされて、不幸を押し付けられた。

 

 しかし、神様の温情で二度目の生を与えられ、あなたは幸せになれた。

 

「およそ、1年。汝は1年間を、貞操観念逆転世界で過ごした。……どうだった? 前世を1点とするなら、逆転世界は何点だった?」

 

「……文句なく、100点でした」

 

 逆転世界での生活は、夢のようだった。一生涯異性から選ばれることなく孤独死一直線の人生だったのに、何人もの女の子と仲良くなって、真っ当な恋愛をすることができた。

 

 距離感バグりまくり陽キャ巨乳冒険者・モモ。

 

 男性免疫皆無系むっつりウンディーネ・マリン。

 

 ガツガツ肉食恋愛強者プリンス騎士・リーゼロッテ。

 

 万年発情期チャイナドレスケモ耳獣人・ユンユン。

 

 クールビューティー風見栄っ張り名探偵お姉さん・シャルル。

 

 男性不信こじらせ系ボクっ娘天才魔法使い・アリシア。

 

 生真面目ストイック体育会系ファイター跡取り娘後輩・コノハ。

 

 最強つよつよJSJCロリ巨乳白黒エルフ姉妹・イヴ&ショコラ。

 

 メンヘラ地雷ファッション思春期真っ盛り中二病ガール・ノア。

 

 みんな、可愛くて、魅力的で、おっぱいが大きい女の子たちだった。一度目の世界なら、お付き合いどころかお話しすることすら難しいくらいの女の子たち。高嶺の花どころか、雲の上の存在だった。

 

 そんな女の子たちから、あなたは求められた。あなたが欲しいと望まれた。

 おっぱいが大きくて可愛い女の子と恋人になって、童貞を卒業するという夢も叶いそうだった。――が、1年間、それを邪魔する存在がいた。

 

 あなたの天敵にして、因縁深き幼なじみ――ナミネだった。

 

 せっかく貞操観念逆転世界へ来たのに、貞操観念逆転していない幼なじみに、女の子との出会いを潰されてきた。

 

 結局、あなたは1年間、一度も彼女を作れず、童貞も卒業できなかった。

 

 ――ただ、それでも。

 

「幸せ、でした」

 

 ナミネと過ごした時間が、一番楽しかった。

 

 他愛もない話をしたり、貧乳だの童貞だのと罵倒し合ったり、色んなクエストや冒険に行って苦楽を共にした日々が、何よりも楽しかった。

 

 天敵にして因縁の相手は、いつしか最愛の幼なじみに変わっていた。

 

「……そうか」

 

 神様が神妙に頷く。そして、あなたの前に二つの扉が現れた。

 

「左の扉へ入ると、男性の99%が特殊なウイルスによって死滅し、男女比が1:100となった逆転世界へ転移する」

 

「え、マジ?」

 

「マジだ」

 

 あなたは驚愕する。第二の生ですら恵まれた世界だったのに、それ以上の好条件だった。

 

「右の扉へ入ると、無限に存在する世界のどこかに、ランダムに転移する」

 

「……ランダムに?」

 

 全く二択になっていない。こんなのは、左を選ぶに決まっている。

 

 ここまで二択『運ゲー』に負け続けてきたあなたは、今度こそ勝てる。自分の意思で、確実な幸せを選択できる。

 

「既に汝の願いは聞き届けた。ナミネは怪我も病気もせず、ずっと元気で生き続ける。彼女の身を案じる必要はない。憂いなく、次の世界を選ぶがよい」

 

「……? 願い? なんの話ですか……?」

 

 神様はなにも答えない。

 

 ひとつ、思い当たることがあった。神殿のクエストで、あなたはお祈りをした。

 ――ナミネが病気や怪我をせず、ずっと元気でいてくれますように、と。

 

 もし、神様がそれを聞き届けて、叶えてくれたというなら――ナミネのお祈りも聞き届けて、叶えてくれるのではないか。

 

 あなたは右の扉を見る。

 

「ナミネ、あの時、何お祈りしたんだろうなあ……」

 

 もし、ナミネがあなたと結ばれることを祈っていれば、あなたはナミネと再会できる。

 

 しかし、別のことを祈っていたら。あるいは、何も祈っていなかったら。

 あなたはランダムに別の世界へ転移することになる。

 

 逆転世界どころか、元の世界へ返される可能性すらあるだろう。あなたの身体になんの性的魅力もないものとされて、全ての女性があなたに見向きもしない世界に。

 

 ――それでも、あなたは、右の扉の前に立った。

 

「では、さらばだ。○○」

 

「お世話になりました、神様」

 

 あなたは、右の扉を開いた。

 

 *

 

 あなたは目を覚ました。

 

 硬いレンガの上に、あなたは倒れていた。周りには大勢の冒険者がいて、痛ましそうな顔をしている。

 

 そして、あなたの右手を固く握り締めて、涙を流しているナミネの姿があった。

 

「なみ、ね……」

 

 あなたが起き上がり、言葉を発した瞬間、時が止まったようにシーンとなる。

 

「え……? ○○……? なんで……?」

 

「神様に蘇生されて、もう一回生まれ変わってきたんだ」

 

 ナミネが閉口する。理解が追い付かないらしく、じっと固まったまま黙る。

 

「えっと……心配かけてごめ「ばかッ!!!!!!!!」

 

 ナミネの怒声が響き渡った。

 

「なんでっ、○○はすぐいなくなろうとするのッ……!」

 

 ナミネが涙を流しながら、あなたにがばっと抱き着く。骨が軋むような、力強い抱擁。

 しかし、その肩は震えていた。あなたは彼女の背に腕を回し、きつく抱き締め返す。

 

「……ごめんね、ナミネ」

 

「許さない……! 今度こそ許さないから……!」

 

「な、ナミネも僕のこと置いていったし、おあいこってことに「する訳ないでしょこのばか! あほ!!! 責任取れ!!!!! うわあああああああああああああああああああんっ!!!!!!!」

 

 怒りや悲しみが交じり合って爆発したのか、ナミネは号泣しながらあなたの身体を殴る。ガチでキレているせいか、手加減がなくて本気で痛かった。

 

「ごめんって! ナミネ! ホントに悪かったから! ちゃんと責任も取るから!」

 

「……えっ?」

 

 ナミネの攻撃が止まる。涙に潤むくるみ色の瞳が、あなたをみつめる。

 

「好きだよ、ナミネ。必ず幸せにするから、君と一緒に生きさせてほしい」

 

「………………」

 

 ナミネの動きが完全に停止する。やがて、意味を理解してきたのか、くるみ色の瞳が光り輝き、晴れやかな表情になっていく。

 

「ほん、とに……?」

 

「ほんとに」

 

 あなたは微笑む。すると、ナミネは再びあなたに抱き着いて、涙を流した。

 さっきまでの涙とは、少し違う。喜びに満ちていて、けれどどこか安堵したような、静かな号泣だった。

 

「どんだけ待たせんのよあほっ……! 好きっ……! 大好きっ……! ○○っ……!」

 

「うん、僕も大好きだよ、ナミネ」

 

 あなたとナミネは抱きしめ合う。幼なじみとしてではなく、初めて恋人としての抱擁だった。

 

「キスして」

 

「えっ?」

 

「キスしてよ。今、ここで。ちゃんと私だけのものになるって、証明して」

 

 ――衆目。周りには大勢の冒険者たち。

 けれど、目の前のたったひとりの、最愛の人の想いに応えてあげたいという気持ちでいっぱいだった。

 

 あなたは勇気を出して、ナミネの肩に手を置く。そして、ゆっくりと彼女に顔を近づけ――口吻けを交わした。

 

 柔らかい唇の感触。仄かな温かさ。――しかし、顔を離した瞬間から、沸騰しそうな程の羞恥が襲い来る。

 

「……ふふっ、大好きよ、○○」

 

 ナミネが微笑む。愛情に満ちたくるみ色の瞳。これまで幾度となく顔を合わせて来ながらも、改めて、彼女の可憐さに心臓を射抜かれた。

 

 が――。

 

「やってらんねー」

 

「このバカップルどもが……」

 

「なんか急に生きるの嫌になってきたんだけど」

 

 周囲の冒険者たちは、さっきまでの痛ましそうな表情が嘘のように、憤怒と血涙に満ちた表情であなたたちを見ていた。

 

 *

 

 その後、あなたは大事を取って病院に泊まり、その翌日に、あなたとナミネはホームタウンへ戻って来た。

 

 ナミネの家に入る。なんだか久し振りな気がした。

 

 ナミネの部屋に通される。女の子らしい部屋だ。もう見慣れた筈なのに、『彼女』の部屋だと思うと、変な気分だった。

 

 ふたりで隣り合って座る。あなたとナミネにしては珍しく、硬い沈黙が満ちる。

 

「ねえ、○○」

 

「なに?」

 

「……これから、同棲しない?」

 

「えっ?」

 

 あなたはバッとナミネを見る。ナミネの面持ちには、緊張感があった。真剣味を宿すくるみ色の瞳が、まっすぐあなたを見つめる。

 

 急な話に、心の整理ができない。ただ、整理なんてしなくても答えは決まっていた。

 

「うん、同棲しよっか」

 

 あなたの答えを聞くと、ナミネの強張っていた表情が緩み、嬉しそうに微笑んだ。

 

「よかった。じゃあ、明日から引っ越しの準備するわよ」

 

「今日からでもいいよ? 僕、片手で抱えられるくらいしか荷物ないし」

 

 安宿に寝泊まりするEランク冒険者に、大した家財などない。その気になれば、今日中に引っ越しを済ませて同棲を始められるくらいだった。

 

「……」

 

「……」

 

「…………」

 

「…………なに笑ってるのよ」

 

 あなたは天井を仰ぎながらニヤついていた。

 

「なんか、凄いことしてるなあって思って。僕、昨日まで年齢=彼女いない歴の非リアだったんだよ? なのに、今は彼女持ちで同棲までするリア充になってる。差が凄すぎて……なんかウケる」

 

「なんでウケてんのよ」

 

「びっくりしちゃって。言葉にできないくらい嬉しい」

 

「…………そう、私も」

 

 ナミネがはにかむ。照れがあるのか、少し困り顔の笑顔だった。

 

「……僕、この世界に来て、人生やり直せるって思ったんだ」

 

 あなたは真面目な顔になり、ずっと秘めていた本心を話す。

 

「この世界では、女の子から異性として見てもらえた。貞操観念逆転世界だから、どんな可愛い女の子とも恋愛できた。でも――ひとりだけ、絶対に振り向いてもらえない女の子がいた」

 

 あなたは、ナミネをみつめる。今ここにいる彼女と、ただの幼なじみでしかなかった彼女が重なる。

 

「ナミネ。君とだけは、絶対に恋人になれないと思ってた」

 

「……ばかじゃないの。私は、ずっと○○と付き合いたかったのに」

 

 胸が高鳴る。ナミネの想いのひとつひとつが、心臓を昂らせる。

 

「……ホントにバカだったね、僕」

 

 あなたは笑う。貞操観念逆転世界に来て、やっと気付けた。この世界だからこそ分かる、本当に好きだった人。好きでいてくれた人。

 

 あなたはナミネの頬に手を当てた。そして、ゆっくりと顔を近づける。

 

 優しく唇が触れ合う。もう三度目のキスなのに、初めて想いが通じたような気がした。

 

「ナミネ、僕と一緒にいてくれてありがとう。今、幸せだよ」

 

「……私も、○○と恋人になれて幸せ」

 

 ナミネの頬は桜色に染まり、その瞳は焦がれるように潤んでいた。

 

 ボブカットの、穏やかな栗色の髪。くるみ色の大きな瞳。あなたのよく知る幼なじみの、これまでで一番幸せそうな笑顔だった。

 

 *

 

 あなたとナミネは、引っ越しをするため、あなたの宿へ向かう。休日の昼なので、人の往来は多い。

 

 あなたとナミネは通りを歩いていく。その最中、こつんと手の甲が触れ合った。

 

「……」

 

「……」

 

 あなたは、無言でナミネの手を握った。――柔らかくて、小さな手。今、大好きな人と手を繋いでいる。

 

 ハグもキスも何度かしたのに、痛いくらい心臓がバクバクする。身体が熱くて、沸騰しそうだった。

 

 一方、ナミネは嬉しそうにしながらも、余裕ある表情であなたを笑う。

 

「ぷふっ……! 手繋ぐだけで、顔真っ赤じゃない」

 

「う、うるさい!」

 

 ナミネは口端を吊り上げ、嘲るような目であなたを見つめ――。

 

「この童貞」

 

「言うと思ったよ!!!!!!!!!!」

 

「○○が童貞の内に、いっぱい童貞煽りしておかないとね」

 

「最低か!!!!!!!!!!!!!!」

 

 罵倒されているのに、繋いだ手はずっと離さずに歩いていく。そのことが幸せで、どうにも怒りなんて湧かなかった。

 

「まあ、安心していいわよ。…………その内、卒業できるんだから」

 

「……ッ!」

 

 ナミネが少し俯く。耳まで真っ赤だった。あなたはずっと幼なじみでしかなかった彼女と、そういうことをするのを想像してしまい、その生々しさに羞恥を覚える。

 

「……卒業しても『私で卒業したくせに』って煽られる気がするんだけど」

 

「言ってほしいの?」

 

「違うから!!!!!!!!!」

 

 軽口を叩き合いながら、通りを進む。彼女の手を、ぎゅっと手を握りながら。

 

 結局、おっぱいが大きくて可愛い女の子とイチャラブするというビッグドリームは叶わなかった。けれど――ずっと心から願ってきた幸せが、今あなたの手にあった。

 

「あっ」

 

 その時、あなたは石畳の角に足をつまずき、前に倒れた。そして――。

 

「あぁん♡」

 

 ちょうどそこにいた巨乳美女のおっぱいを、思いっきり鷲掴みにしてしまった。

 

(えっ、や、やわっ!!!!!!!!!!!!)

 

 ――その柔らかさに、あなたの頭が感動に満たされる。豊かなおっぱいを揉むという願いが、思わぬ形で叶えられてしまった。

 

 が、次の瞬間、ナミネと繋いでいたあなたの手が、万力のような力で握り締められる。

 

「ふぅん……。やっぱり童貞のまま死にたいんだ?」

 

「いやっ、ちょっ、今のは事故だから許してあぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!」

 

 

 

〈せっかく貞操観念逆転世界へ来たのに貞操観念逆転していない幼なじみに女の子との出会いを潰されている〉

 

 完!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 

 

 

 

*1
苦しみの絶えない人間界





 『あなた』

 性別:男性
 種族:ヒューマン
 職業:冒険者(Eランク)
 備考:ナミネが大好き


 『ナミネ』

 性別:女性
 種族:ヒューマン
 職業:冒険者(Sランク)――【奏者】
 備考:あなたが大好き















 あとがき!!!!!!!!!!!

 初めまして! 作者の耳野笑(みみのわらい)です! この作品をここまで読んでくださって、ありがとうございました!

 この作品が『あなた』に出会えたことに、とびきりの感謝を! あなたにちょっとでも笑っていただけたなら、それ以上の喜びはありません!

 この作品を応援していただけたことに、重ねて感謝を申し上げます! ありがとうございました!!!!!

 最後に、ひとつだけお願いをさせてください!

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