家族の仇は、娘でした 作:樫鳥
「まるで呪いです。見てていたたましい」
深雪の山脈、コボルト達が護る霊峰の奥底にある火竜の神殿にて、小さな子供が複雑そうな顔をしていた。赤々とした灯りに照らされた子供の影はその体躯に比べてかなり巨大であり人外のシルエットを映している。
「でもそれを僕がどうこう言う資格はない。そう、言いたいのですか?ガスパル」
「元々きっかけなんぞゴロゴロと転がっていたんだ。ランザ=ランテがどうなろうが、ジークリンデがどうなろうがアンタが気に病むような話じゃない。引きこもりのアンタにはな」
コボルト達が常に見張っている霊山の奥底。火竜の神殿にてガスパルは、まるで近所の友人に出会うくらいの気軽さで訪れていた。
神、悪魔、竜が三竦みをしていた時代。互いに互いを敵視をし、時に天変地異に近い殺し合いを繰り広げていた者達の再開の意味を理解する者はこの時代では少ない。それは、侵入に今更のように気づき、駆け付けたもののランドルフに留められた古い時代を多少は伝承として知るコボルト達も含めてであった。
「それよりも寿がせてもらおうか。新たな世代の悪竜誕生を、悪魔の立場からな」
「人の器に注ぎすぎです。貴方も、ジークリンデも何故そこまで彼に負担を強いるのですか。時代遅れとなった過去の神話が、今世に出たところで混乱の元になるだけではないのですか?」
「お前が言うかね。奴にその負担を負わせたのは同じだろうに…まあそれは別にいい。さて、こちらとしたらそんなバランス感覚なんぞ考えたことすらない。というか、そんな面倒なことを考えているのはお前くらいじゃないのか?それにだ、エンパス。アイツを除かなければ隠居老人にすらなれねえだろうが」
「ガスパル」
ゆったりとしたローブを着た少年が腕を上げる。細く生白い、少しの力で折れてしまいそうな腕が泡立ち変化をする。赤黒い鱗に五本の刃物と化した爪、変異はローブの中で肩まで続き頬まで侵食する。顔面の左が耳まで大きく裂け牙を除きその隙間から炎が溢れだした。
「後アブソリエル公国でなにをしているのですか。この北国を戦地に変える為に暗躍をしているのは知っています。北の地に戦乱を持ち込むのは、可能な限り避けてほしいのですが」
「ははは、おっかねえ。火竜様は未だ健在か」
「質問に答えなさい。要望に応じないなら用事はない。ならば、今日は久しぶりに悪魔焼きを楽しむのも良いかもしれませんね」
火竜の腕が一振りした瞬間、床を蹂躙するような火炎がガスパルに向かっていく。炎が突如、津波のように高く広がり面となり迫った。逃れることはできない炎の壁が、ガスパルに災害となって襲い掛かる。
「単純な話じゃねえか。昔から何時もそうだろう?神は時代を留めようとし、悪魔は時代を進めようとし、竜は俺達の存在が邪魔であり、どちらにも殺し合いを仕掛けてきた。今もそれは何ら変わらない。エンパスは時代の停滞を、ランザは私的な理由で殺し合いを仕掛けている。俺は俺で悪魔として啓蒙をしてやるだけさ、新時代に向けてな」
焼野原になった神殿の一角。だがそこには丸焦げとなっている筈の悪魔はいなく、神殿の柱に腰をかけていた。礼服についた炎を軽く手で払いながら、ダメになった裾を見てやれやれと肩をすくめる。
「その新時代には、いったい何人が犠牲になるのですか?人間だけじゃない。動物も、植物も、昆虫も、もしかしたら海の生物まで。面白半分で命を踏みにじる権利は貴方にはない筈です」
「アンタがそれを言うかね!ランドルフ、ボンペイ一つを壊滅させる為にそれより遥かな犠牲を強いたアンタが!エンパスに責められるのはまあ腹が立つが百歩譲って良しとしよう!だがアンタにだけは言われたくねぇなぁ火竜…いや、もっともおぞましい存在よ」
ガスパルの目に浮かぶのは嘲り。それは、純粋な悪意と言うよりは、発言とはもっとも矛盾した内容の抗議をする存在に対する滑稽さと皮肉が混ざっていた。
「なあなあにしてきたケリだが、今こそつけるのも良いだろう。エンパスと、ランザと俺の三竦みとしてな。引っこんでいるのが好きなんだろう?ならあんまり噛みつくなよ」
「僕はここから動けない以上引っこんでいるしかないんですがね。ただ、貴方もここから生きて出られるとは思わないことです」
「正気か?ひっきーのアンタじゃエンパスは止められないぞ?それとも、ランザの野郎に全部押し付けるか?俺がここで死んだらそうなるが」
「役目を押し付けたのは貴方です、貴方だけには言われたくはない!ガスパル、貴方は乞われれば知恵を与える性がある悪魔だと言うことは知っています!ですが、何故それ以上にテンという存在に固執したのですか!暇つぶしくらいの動機であるのならば、その干渉は程度を越えています!」
「程度か」
柱の上で立ち上がり、ガスパルは尻を軽く払う。パラパラと小石が地面に、そして背後の遥か下である溶岩溜まりに落ちて行った。
腕を軽く振ると、その手には手品のように何時もの薄汚れた上着が出現した。高級な外交官が着るような衣服の上にそえを躊躇なく羽織り袖を通す。その顔は、やはりこれじゃないとやる気がでないとでも言いたげな満足そうな表情であった。
「俺は人類の進歩が好きだ。最初期の連中が火を扱い始めたのを見て、昔の先代達は興奮したらしいが気持ちは分かる。人妖ってのもそうだ、本質は火と同じ。先駆者が危険を顧みずに使用したと思えば、いつの間にか普遍的なものになっていく。例えば、人類全員人妖化がおきればどうなると思う?既存の技術、文明、歴史、国の荒廃を招くかもしれない。だがそれ以上に人という種の進化とも言えるんじゃないか?テンとランザに俺はその可能性を見出した。連中は、歪みつつも人の器を超越したとも言えるんじゃないか?」
「大言壮語を。人類全ての人妖化等…」
「すぐには無理だろう。それこそ何百年かに近い準備が必要不可欠だ。だが、それだけにやる価値はある。俺は進歩が好きだ。だが技術や創作等あらゆる分野が例え荒廃したとしても、国や歴史に文明が幾つか消失したとしても…人間が次のランクにあがるとしたらやりがいがあるだろうが」
「そんな混沌とした世界に意味があるとでも言うのですか」
「ある」
小汚い上着の中から鎖が数本飛び出す。鞭のように振るったそれは、石柱を数本なぎ倒しながらランドルフに向かった。竜の腕でその一撃を防ぐが、本調子を出すことができない軽い身体にその衝撃は酷だったようであり、表情が苦痛に歪む。
「お堅い神さん連中や世情に対して興味が薄いアンタ等には分からんだろうがね、良くも悪くも事態を大きく動かすのは環境の変化とそれに伴う変革だ。カッチリと固形化したもんを変えるのは難しい。大規模なパラダイムシフトが必要だ。それをおこすことで、二度と神の残党如きに好き放題させねえ」
「そういう貴方は悪魔の残党だ。無理矢理な変化についていけない者達のことを微塵に考えていない」
「それはこの世界の常だ。ビックファイブ、大規模絶滅は遥か昔から幾度もおこっていただろう?その度に既存の生物は種を変え形を変えて生存してきた。人類にもそういう転換点が必要となっただけの話だ。ついていけないもんは死滅するだけ。だが人類はそうならない、テンを見て来た俺はそう確信しているからな」
「傲慢だ、神の行いもそうではあるが、貴方の行いも人は誰も望んでいないでしょうに。そして、その変革の為の一手めが、僕の命ということですか」
神殿の遥か下、火山孔の溶岩が大きく荒れ狂う。北部にて局地的な地揺れがおこり、パラパラとあちこちから石の破片や岩石が落下した。溶岩から赤い気流が上昇し、ランドルフを帯のように包み込んでいく。
「舐めるなよ若造」
まるで間欠泉が噴出すように溶岩の一部が柱のように飛び散る。小汚いコートを幕のようにしてガードしながらガスパルは移動するが、勢いの範囲から逃れるのが難しいと考えたのか鎖を天井に向けて放ち上空へと逃げていく。
下の神殿では、子供の身体がはち切れるのではないかと思うほどのエネルギーが集中していた。余波だけで燃え尽きてしまうほどの暑さには、熱だけではなく別の汗もかいてしまっている。
「どうどう、抑えろ抑えろ。ランドルフよ、アンタはクールでいなくちゃならない。それに今は時期じゃない、近くまで来たから挨拶がてらちょっと様子見に来ただけだからよ」
「なに?」
「この北分戦乱地帯。俺はエンパスに招待状を送った。向こうも向こうで目論見があるらしくのってくれている。引きこもりの火竜さん、アンタが動けないって言うんだからわざわざこの北地にしたんだぜ?まあ、後アブソリエル公国が足場に丁度良っていうのもあるが」
「貴様等の目論見で、この霊地を荒らすか。御しがたい狂神共め。やはり、世界にとっては神だろうが悪魔だろうが不必要な存在だ」
「クソ真面目だねぇ昔から。ま、アンタはアンタでそこで待っていろ。前座の代役、そいつはランザが勤めてくれるだろうからな。んじゃ、さいなら。暑いところは苦手なんだよな」
袖の鎖が伸びていき、ガスパルを包み込んでいく。火孔から噴出した溶岩がそれにぶつけるが、刹那のタイミングで間に合なかったのか影も形もなく消え失せた後だった。
『ちっとは楽しもうぜ引きこもり。そんじゃお疲れさん』
その言葉を最後に、ガスパルの気配は消える。ランドルフは大きく二回深呼吸をすると、腕にまとわりついた鱗が剥がれ落ちて地面に落ち、消滅する。荒れ狂いかけていた溶岩も、今更重力を思い出したかのようにドロドロと火孔に落ちていった。
しばらく時間が立ち、神殿全体がなんとか元の落ち着きを取り戻したタイミングで様子を恐る恐る遠巻きにうかがっていたコボルト達に声をかける。
「申し訳ありません、取り乱しました。どなたか、こちらに来ていただいてもよろしいですか?」
睥睨するように頭を下げた一団から前に出たのは、コボルト達のまとめやくでロウザであった。ここから出る洞窟の穴から神殿まで続く、かつてジークリンデとクーラが激突した橋の中央まで歩き膝をつく。
まだ余波の熱が残っているのか、ロウザの表情は重苦しいものだった。いや、熱だけではなく主と崇めている相手から放たれた初めて感じる殺気に身体も強張っている。
「ありがとうございます。外の様子を教えていただいてもよろしいですか?特に、戦線の様子やランザさんにクーラさん、半獣の皆さんの様子も」
「戦線を押され孤立していたオルレント自治州の増援に赴き、帝国軍と衝突しました。今朝前線基地であるハボックに届いた急報によれば帝国軍を撃退し、自治州の孤立を解消。ハボック、自治州、後アブソリエル公国へ効率よく移動する為の街道を抑えたようです。解放軍や半獣やエルフにその他少数種族達がランザ=ランテを旗頭にして結束しています」
かつて帝国軍に霊山を踏み荒らされることを防ぐよう、昔この地に逃れて来たコボルト達と今ここに逃れていた半獣を護るように、ランザ=ランテには協力を頼んだ。
だがしかし、その結果はランドルフ自身にも思いもよらぬ最後を迎えていた。あの我儘で気紛れ屋、自己中心的なジークリンデが思いもよらぬ行動をおこす程ランザに入れ込んでいたこと。そして、彼に悪竜としての存在を託しこの世を去ったこと。
リヴァイアサン、あれが殺されたという話を聞いた時にも感じたことだが、それに続いてジークリンデまで亡くなったことで古い時代は終焉したのだということをつくづく実感したものだ。
もうこの世界は人の世界。神だろうが悪魔だろうが、竜だろうがおいそれと邪魔をしていいものではなく、できないだろう。だがエンパスもガスパルも、数多の命を踏み弄ってもそのうえで自身の理想世界をかなえようと動いている。なにもできない、自分が歯痒い。
「ランザさんとの面会は可能ですか?」
「オルレント自治州から帰還する手筈にはなっています。使いをだしましょうか?」
「よろしくお願いします。もしすぐにこちらにこれないとしても、最低限伝えたいことを伝える為一言そえてくれるとありがたいです」
「……はい」
ロウザの顔が更に強張った。竜を崇めるコボルトの一族にとって、ランドルフの言葉は絶対である。だがしかし、悪竜を継いだランザも彼等の教義に絡めるとしたら崇めるべき一柱と言えるのだ。だが内心は複雑だ、元が人間である存在が火竜の呼び出しを後回しにするような言動をとるならば感情的には腹立たしくて仕方ない。
だが、主命は主命だ。その伝言をしかと伝える為、ロウザは静かに気持ちを押し殺した。
「して、どのような内容でありますか?」
「ガスパルに気をつけろ。そして、可能ならばエンパスを止めてほしいと」
ガスパルの目論見がどうのようなものかはまだ分からない。だが、わざわざ招待状を送ったということは、少なくともエンパス配下である特異な者達を呼びよせる必要があるのだろう。
淡い期待ではあるが、北上してくるエンパスの尖兵を早いうちに止めることができればガスパルの企みに頸木を打ち込むことができるかもしれない。あくまでも僅かな可能性であり、他人任せであるということに申し訳なさと歯がゆさを感じるが。
「霊山周辺の護りも固めてください。必要ならばハボックの彼等と協力して。この山だけは、いかなる勢力相手にも踏み荒らされる訳にはいかない」
「承知しております。我等の土地を護る以上に、この大陸の為に」
「苦労をおかけして申し訳ありません。では、よろしくお願いします」
頭を下げてから下がるロウザに続き、コボルト達が去っていく。
いざという時は、僕自身も出なければならないだろう。そうなれば、限界を見極めつつ行動をしなければならない。昔の自分が怨めしい、こうなると分かっていればあんな無茶苦茶をしなかっただろうに。
「いえ、過去を自罰をしている場合ではない。今は考えなければ」
ランドルフは小さくため息をつく。そして、火孔上空。この霊山の頂上を見上げた。
「僕もガスパルを責めらられない、結局貴方に押し付けようとしている。ランザさん、申し訳ありませんが、よろしくお願いします」
あのジークリンデが認めた人間に、少ならからず期待をしてしまうのは都合が良い話だろうか。すっかりクセになってしまっていた軽い自嘲を心中で噛み殺しながら、考えにふけることにした。
「え?ランザさんにクーラちゃんですか?」
ミルフは豆が沢山入った鍋をかき混ぜながら応じる。ハボックに残るエルフや半獣達への昼食だ。それにしても、豆は凄い。痩せた土地でもよく育つし、栄養もある。エルフ以外の皆さんには不評も良いところであるが。
「なんだか、ハボックには寄らずに後アブソリエル公国に向かうみたいですよ。なんでも今度はあっちの方で帝国軍の攻勢気配があるとかで」
「そうか、タイミングが悪いな。主より承たまわった急ぎの話であるのだが」
「え?ランドルフ様から?それはまた、珍しいというか本当にタイミングが悪いというか」
スープの味をみる。岩塩が効いていて喉越しの良い味が身体に沁みる。うん、美味しいと思う。
「味見しながら言うな、大事な言伝で大切な呼び出しなのだ。お前という奴は昔からのんびりしすぎだ。取り急ぎの主命なのだぞ」
「はぁ、すいません」
だってランドルフ様の影って物凄く怖い。怖すぎて純粋に敬えないのだ。感謝も信仰もしているのは確かだけど、ちょっと私には恐れおおすぎるというかあまり近づいたことがないから雲の上の存在すぎて一周回って存在の実感がわかない。
「致し方ない。すぐに後アブソリエル公国とやらに向かうとしよう。方角はどちらだ?」
「ああ、それじゃあ半刻後に公国から融通してくれた物資が積まれた馬車が戻るみたいですからそれに乗り合わせてはいかがですか?」
「人間に頼れというのか?」
「どうせ先輩、公国の場所なんて分からないでしょう?それに歩くよりずっと早いんですよ、どうせカツカツなこっちから公国に送り返す物資なんてないですしね」
ぐぬぬ、という表情を先輩が浮かべた。まあコボルトは人類との敵対種族扱いだしこちらも敵視をしている面はある。これが普通な反応だ。だが私はクーラちゃんに影術を教えている間ここに滞在しているうち、私は半獣のみならず同盟関係の勢力から来た人間とも多く接していた。
向こう側からちょっと悪意や嫌悪感ににたものはあるかもしれないが、それでもランドルフ様やランザさんの背後に映る陰と比べれば遥かにマシなものだ。個人的には、すっかり慣れてしまった。
「それじゃあ先輩、私もいくからちょっと待っていてくださいね」
「なに?必要ない。というか、お前は部族のシャーマン。ここにいることじたいあまり歓迎できるものではない、山に戻り主のお力になるのが筋だ。余計なことをするな」
「いやランドルフ様私の力なんてあてにしていないでしょう。それに、気づいたんです。山に閉じこもっていても力になれることなんてたかが知れている。それに先輩、後アブソリエル公国になんか言って本当にランザさん探せるんですか?山から出たことなくて、人間嫌いで、ついでに言えば公国の場所すら知らない先輩が!」
「う…うむぅ。しかし……だが何故お前がそんなに気にするのだ」
「クーラちゃんに着替えを持っていってあげようと思って。あの子色々無頓着だし、戦場に出たならば服もボロボロになる筈なので。あとお弁当!あの子偏食なんですよ!野菜食べないしランザさんも年長者なのにそういうのは無頓着だから注意もしない!冬場なんてむしろ、野菜類食べないと身体は悲鳴をあげるのに」
クーラちゃんも最初は…いや今も怖いっちゃ怖いけどシャーマンの秘術を教えている間に気が付いたことがある。ああ見えてあの子も、年相応なところがまだあるみたいだし、時折それが零れ落ちて表情に出ることもある。
それに、私には化物にしかみえないランザさんに凄い恋心で迫っている。年齢差とかそういう壁が色々あるみたいだけど、純粋に成就してくれれば良いなーなんて。
コボルトは結婚相手を、親をすっ飛ばしてガランが決めてしまう。だから恋心なんてよく分からなかったしランザさんとクーラちゃんの関係は異質で気持ちの悪いものにもみえた。
だけど色々慣れた今になってみていれば、なんというか…キュンキュンきちゃうのだ。年齢差も種族差も越えた恋愛という感情。私には到底無理な芸当だけど、なんだか応援してあげたくなっちゃうというか。
最初は嫌々だった術の指導も、クーラちゃんの呑み込みが良さと熱心さもありまり最近は楽しくなってきた。私があの二人の仲を取り持つ一助になれるならばこんなに嬉しいことはない。
ハボックに残っていた、半分焼けた本にこんな言葉があった。流石に半分焼けただけあってストーリーの全貌は分からないが、断片的な情報を抜き出して今の私の境遇と重ねると、どうやら『尊み』『押し』という感情らしいこれは。
「お弁当は皆さんのお昼ごはんからちょいちょいと引き抜いていけばすぐにできますので時間には間に合わせます。それじゃ先輩、半刻後に南門で合流しましょう」
「う…うむ」
「ではいろいろ準備があるので後で。ああ、そこにいるとご飯を食べにくる半獣やエルフの皆さんに邪魔扱いされるからすぐに退いてくださいね!やー忙しくなるぞー!」
調理場から先輩を追い出して、お弁当の準備をする。公国から物資が届いたばかりだし、ちょっとくらいちょろまかしてもバレないかな?
「頑張るぞいーおー」
この戦乱がどう転ぶかなんて分からない。世界の裏側でなにが暗躍しているかなんてもっと分からない。でも、自分がやるべくことは分かっている。
押しの恋を応援すること!二人を戦いが終わった後でも前でもくっつけること!二人が死なないようにすること!
こんな状況で言うべき言葉ではないが、楽しいのだ。今が生きてきた中で、一番楽しい。コボルトの境遇は分かるが、もっと外に出てこんな楽しみを見つけることができたらいいなと思う。
だからこそ、頑張ろう。戦うことは苦手だけど、出来ることが絶対にある筈なのだから。