家族の仇は、娘でした 作:樫鳥
「こんな戦中の環境で、行き倒れなんて拾ってくるんじゃない。近頃は落ち着いてきたが、病床が何時も開いているとは思うなよ」
後アブソリエル公国、国境沿いの砦。倉庫の道具を端に寄せ木箱と薄いシーツで無理矢理造られた寝台に年をとった大男が横になっていた。街道沿いで生き倒れとなっていたあの男の人だが、今はなんとか規則正しい呼吸をとっていた。
病床とは名ばかりの酷い部屋ではあったが、意外にも軍医の用意してくれた煎じ薬は効果があったようだ。顔色は、道端で倒れていた時よりもだいぶマシになっている。
「でも良かったです、一時に比べれば顔色もだいぶ良くなりましたね」
「ただの対処療法、症状を見てから患者の口に直接ぶち込んだだけだ。この爺さん、先行き長くはないのは変わらないよ。まあ、それでも生きる気力はありそうだが」
今はまた静かな寝息を立てているが、先程僅かに意識を取り戻したタイミングがあった。顎を動かして簡単な質問に対する返答くらいならできていたが、薬を飲んでからすぐに気を失うように寝息をたてていた。
「身元は?」
「いえ、分かりません」
「こんな状況なら、聞き出せる訳もないか。まあ、恐らくまともな人種の類ではなさそうではあるが」
恐らくは臓器に関係する病気の類と思われるが、その肉体は頑健であり筋肉を束ねたかのような太い四肢と、古傷だらけの拳や肉体は殴打に突化しているように思えた。そして同時に、肩を貸した時に気が付いたのだが関節に柔軟性があるように感じる。
殴るとか蹴るとかは素人だけど、なんとなくこの筋肉の付き方に近い人をどこかで見たような気がする。つい最近の話だし、誰だったっけな。
「どちらにしろ、この状況なら悪さもできないだろう。一応アンタ等解放軍の面々は客として扱うように命令されているが、犬猫じゃないんだし今度は人間なんてホイホイ拾ってきてくれるなよ。攻勢にでるなんて話もあるんだ、余所者にあまり関わる余裕はないんだからな」
軍医が扉を開けて出ていく。急ごしらえであるが一応扉には外から鍵がかけられるようであり、私は彼の監視役兼介護要員として一緒に中にいるように言われた。だがこのような状況なら悪さもないであろうということで鍵はかけられていなかった。
「そろそろ、俺はいなくても大丈夫そうだな。ランザは首都の方に行っているようだし、そちらに向かわせてもらう。時間くっちまったしな」
木箱に座っていた先輩が、尻を叩きながら立ち上がる。なんだかんだお人好しだ、急ぎなのにここまで付き合ってくれたのだから。
「あまり良い症状ではないらしいが、あのままあそこで野垂れ死にしていた。なんにせよ、助からないにせよ地べたで死ぬよりゃ良いだろう」
「ありがとうございます」
一方でこちらはただの自己満足だ。少しばかり自己嫌悪があるが、それでも行動したことに意味があると信じ込むことにしよう。
少し木窓を開けて、外の空気を取り込んでおく。元々倉庫であった関係か、少し埃っぽいような気もする。
心地の良い冷機が頬を撫でる。ここから見えるのは幾つかの農村と、ひときわ目立つこの国の首都。私達の山も厳しい自然環境で雪景色、動植物には厳しい環境であるがそんな中でも逞しく育つ種類はある。だがあの首都は遠目でも分かるが、開発と様々な噴煙にまみれ岩と汚れた雪しかないような場所になっているようであった。
周囲の木々も、元からないようなものであるうえにか細い資源も根こそぎ切り取られているのであろう。ちょっとした小話に程度に聞いていたけど、この国の輸入物で多いのは木材だというのもどこか納得だ。入ってくる風は冷たいが、どこか悪臭が混じっていた。
「なんとなく…」
なんとなく、嫌な感じだ。異臭やその他の不快感だけでは説明がつけられないが、なんだろうな。しばらく考えをしていたが、ランザさんとクーラちゃんがあそこにいるんだよなと思った瞬間脳内にある記憶が浮上した。
「……あ、そうだ」
忘れていたことがあった。荷物の中から取り出したバスケットには、クーラちゃんに向けたお弁当が入っている。どうせランザさんの近くにいるんだろうから、二人前…いや三人前だ。ランザさん二人分くらいは食べるだろう、多分。
「あー先輩に頼もうと思ってたのに。私ここから離れられないしなぁ」
「困りごとか?」
「む…エルバンネさん!ノックしてくださいノック!具合が悪い人がいるんですよ!」
扉を無造作に開けたエルバンネさんに注意をしておく。エルフにはノックという習慣がないようであり、ようやくみんながひと纏まりになってきているのにエルフ全体は文化的交わりや交流を拒否するような言動が多い。一番交流が多い筈の代表であるエルバンネさんでさえ、ノック一つしないのだから。
「もう…大したことがない話ですよ。クーラちゃん達に渡すはずのお弁当、どうやって届けようかと思って」
「噂で聞いたぞ、病人の介護で動けなくなったってな。致し方ない、寄越せ」
「……あげませんよ」
「……お前は俺をなんだと思っているんだ」
ため息をつきながらエルバンネさんが近づいてきた。お弁当が入ったバスケット手に持ち、顔をしかめる。
「首都の方に向かおうかと思っている。ついでになら、届けてやっても良い」
これはまたなんというか、意外な申し出。それでもありがたい申し出ではあるし、断る理由もないかな。
「それじゃあお願いします。でもエルバンネさんが首都に向かおうなんて。……あまり大きな声では言えないけど、エルフにはちょっとアレな感じの場所じゃないですか」
「妙な胸騒ぎがしてな。少し、あちら側の情報が気になったというところだ。近くに帝国軍もいないから杞憂だとは思うが、首都側でどういう話が行われたのか少し早めに情報共有がしたい」
「ふぅん。まあ、とにかく助かります。ついでにお二人に、よろしくお伝えください。先輩が先にランザさん達のところに向かっていますから、コボルトは目立つしすぐに見つかるかも。……ああ、でも先輩迷ってないかな、ただでさえ馴染みのない土地なのに悪臭とか噴煙とかありそうだし…」
「それは先輩とやらの面倒もみてやれということか?意外と図太いな君は」
察しの良い人だ、流石エルフ達の纏め役ということかな。小さくため息をついていたが、それでも拒否の言葉は出ない。なんだかんだ人が良いとも言えるだろうか。でも『人』が良いなんて言ったらこの人怒りそうなんだよね。
「重ねて、よろしくお願いしますね。先輩今頃…えっ!?えええエエ!?」
扉にエルバンネさんが手をかけた瞬間、突然大きな揺れがおこった。立っていられないとは言わないが、棚に置かれた工具類がカタカタと動き梁の上から埃が落ちて来た。
地面が揺れるなんて現象、産まれて初めて体験した。揺れ自体にそこまでの影響や危険はないが、大地が揺れるという現象には一つだけ心当たりがある。
開け放たれた窓から外を見る。古い時代、ランドルフ様がある一つの古代都市を滅ぼした伝承。その一連の流れはある種の歌として、コボルトのシャーマンに延々と語り継がれている。その中にあるのだ、不動の大地が揺れ動くというものが。
揺れはすぐに収まった。すぐにあちこちを眺めてみるも、山が火を噴く様子はどこにもない。揺れる前と揺れた後、大して風景に違いはない。
「良かったぁ。よく分からないけど、ランドルフ様があまりにもランザさんが遅いから、万が一でも癇癪でもおこしたのかと……でも…んぅ?」
でもなんだろう。今の揺れ、なんだか他人事と言う気がしない。自然現象なのだとしたら、そう思うことじたいがなんというか、お門違いではあるのだが妙な違和感を拭えなかった。砦の周囲がざわつくような声が聞こえるが、今それは関係ない。
なんだろう、なにが違うんだろう。馴染みがあるような、でもないような?私の周囲でおきた今までの経験と関係があるのかな。……ううん、分からない。
「え?なんで?」
なんだろう、少し強い風が吹いてきて鼻孔をくすぐる。最近は嗅いでいなかったけど、でもこれは馴染みのある臭い。冷えた岩と砂、それが冷気で冷やされた香り。
「なんなんだ今のは。なにか、見えたのか?」
「洞窟の香り。これ、例えば採掘とかして居住区を増やす時によく嗅ぐような…」
でもまさか、ここは洞窟なんかじゃないし普段からちょっと噴煙臭いような空気であるが、こんな異常なことがあるのかな。
あ、先輩だ。遠くの方に雪原を歩くコボルトが見えた。今の地揺れでやはり異常を感じたのあろう、どこか急ぎ足だ。私って、視力は良い方なのかな。あんまり遠くの方を見ることは少ないのだけど。
ただ今度は、ドンッという音が聞こえた。今度は最近よく効いた音だ、東の方向、人工的に造られた木組みで補強された洞窟の入口から噴煙が噴出している。風にのって流れて来たのは火薬の臭いだ。連鎖的に幾つもある入口が破壊され、何事かとこの国の人間と思わしき者達が様子を見ている。
「ウソ」
大口が幾つも開かれた洞窟から、赤い国旗を掲げた旗手を先頭とした一団が現れた。それと同時に別の入口からは白い軍服の軍勢が出現する。旗手の存在は見当たらないが、今まで攻めて来た者達とは気色が違う。
「何故あんなところから帝国軍が。いや、今はそんなことを考えている場合じゃない。首都と、主力軍が集結しているこの砦が分断された。これは非常にまずい」
上から見ていてエルバンネさんが気づいたようだ。帝国兵は南部に進軍、白い連中は首都側に向かっているようである。恐らくは足止めの軍勢と首都直撃の精鋭隊。でも、精鋭といっても竜狩りとかいう人達とは違く感じるけど。
「先輩、あんなところにいたら危ないんじゃ!」
「おい!お前が行ったところで!」
窓から飛び降りて走る。二階くらいの高さなら段差がないのとあまり変わらない、私にもコボルトとしてそれくらいの身体能力はある。
先輩のことも気がかりであるが、先程の妙な気配が気になる。なんだか分からないけど、エルバンネさんが言うように慌てて軍隊を動かしたらいけないような気がする。いや軍事的なことは分からないけど、そんな気がするのだ。コボルトなら、みんなそう思うかもしれない。
だからこそ、先輩は逃げないかもしれない。でもあんなところにいたら、ただの一人がどうなるかなんて目に見えて明らかだ。
ざわつく砦の城壁から飛び出して外に出た瞬間、あることに気が付いた。ごく自然、当たり前の話ではあるが今更だ。
「確かに私一人で行ってもどうしようもないじゃん!あー…ああ~!もう!」
でも急いで向かわなきゃいけない。この不思議な気配が、私の背中を押し出しているようだ。悩んだが、今は進むことにした。その気配は、今は帝国兵達の傍から感じていることに気が付いたからだ。
「ひぃ!…ひぃいい!?なんでここにいるんだ化物!」
時間は遡る。アレト共和国政治中枢である北幹院と呼ばれる建物に、侵入者が訪れていた。
「一つの国旗、二つの文字、三つの国境、四つの部族でしたっけ?いやこれで国という体裁を保っているんだから凄いものですよね。連合王国が後ろ盾についているせいかな?犬とか巷では言われているようですが大したものですよ。まあ、上には上がいますけどね」
七つの国境 六つの共和国、五つの民族、四つの言語、三つの宗教、二つの文字、一つの国家。この手の混雑ぶりでユーゴスラビアに並ぶ国はそうそうないのではないだろうか。でも日本だって負けてない、流石に国家と比べるのもどうかとは思うが、兵庫県が規模こそ小さいものの似たようなものである。
確か、七つの県境、六つの方言……後は申し訳ないが覚えていない。もしも、日本に帰ることがあったらググってみようか。
そんなどうでも良いことを考えつつ、アレト共和国代表であるルッカネン=イシルに近づく。潜入には向かない背中の大剣を戻す。
「初めましてルッカネン代表。夜分不躾な訪問申し訳ありません」
「キ…君は何者だ!?何故こんなところにいる!」
ルッカネン氏が怯えるのも無理はない。国の規模と比べ酷く豪勢な寝室には護衛の両断死体があちこちに転がっている。大声を叫んでも、通路の巡回や警護の兵達も全員もれなく死んでいる為意味はない。
大方狭い国境で大軍が攻め寄せ辛いのをいいことに、護りを固めきって安心していたのだろう。帝国軍でさえ、国力とは半比例したその攻め辛さに後回しにしていたようであるしなによりも隙を見せれば後アブソリエル公国の兵達に柔らかい脇腹や無防備な背中を突かれかねないからだ。
「俺…だけでもないですよ」
寝室の、バルコニーに続く大きな窓を開ける。それが合図となり、ほぼ都市国家といえる首都アレトのあちこちからなにかが打ちあがった。それは夜空に満開の花を広げ、キラキラと輝く色付きの火薬は共和国を散らしながら消えていく。
「あれ、花火って言います。遠方にある葦の国で催し物に使われる見世物です。いやあ、取り寄せるのに苦労しました」
「はぁ!?」
「おや、お分かりになりません?自国の軍事力にさほど興味はありませんか?」
花火の打ち上げ地点はアレト共和国の軍事的中枢だ。共和国軍駐屯地に、軍の司令本部である共和軍事本部、戦闘物資の生産場やついでに新兵の訓練所からも花火はあがっていた。
諸々既に制圧詰みという訳だ。既に各施設の幹部や代表は抵抗の末亡くなったか、抵抗する暇もなく拘束されている。
まずは弱気を攻めよ、みたいな言葉があった。後アブソリエル公国よりも、その後ろ盾である連合王国との繋がりを強化するアレト共和国は命綱であると同時に北部連合にとっての弱点だ。
「何故、何故あれ程の数、敵の手の者がこのアレトに?国境の防備はなにをしていたというのだ」
「方法が無い訳でもないですよ」
「なんだと?」
腰が抜けたような状況になっていたルッカネンであったが、状況があまりにも異常にすぎるせいか一周回ってどこか目に冷静さが戻りつつあるように見えた。流石に、伊達に複雑な立場であるアレトを曲がりなりにもまとめてきた男ということか。これならば少しは理性的に交渉に入ることができそうだ。
「ルッカネン代表。帝国の代理として貴方に交渉を持ちかけにきました」
本当はそこまでの権限は与えらえていないのだが、目の前の男は俺がエンパス教の代表、所謂義勇兵達の長とは気が付いていない。後で揉めそうな話ではあるが、後のことなどわりとどうでも良い。口からの出任せをホイホイと吐き出す。
「アレト共和国の継戦能力は破壊しました。残る手駒は国境に張り付く兵隊だけです。ですが、その兵達を呼び戻すこともできないし、例え戻したところで貴方の命はこのままでは助からない」
「恫喝を含めた…交渉ではないか。言わんとすること、分かるぞ。降れというのだな」
「今ならこの首都はほぼ無傷だし、人民の被害もないままです。ここでその選択肢をとることができれば、民の為を思い恥辱を呑んだ者として皇帝陛下の覚えも良く帝国国民も貴方達を良い立場で迎えることでしょう。だがしかし、断るようであればすぐさま国境に攻撃が始まります。軍事的中枢を破壊された今、どれだけ耐えられるものか見物ではないでしょうか。そしてなにより、貴方の命はここで終わる。頭脳を失った国の末路等、気持ちの良いものではないと思いますよ」
「………」
ルッカネンがヨロヨロと立ち上がり、豪勢な腰かけに座り込む。その目には生き残りの為の計算と帝国に降るメリットの皮算用。それと同時に、連合王国を敵に回すことの危険性を考えているのだろうか。それとも、降伏という札を選んだ時後世における自分の名誉がどうなるかを想像しているのか。
関ケ原の合戦、豊臣側の小早川秀秋のように、裏切りのせいで後の世に延々と小馬鹿にされるのはなにもこの世界でも珍しいことはない。なんせ小早川は徳川の世となった後々、現代においても裏切者と罵倒されたりゲームで小物キャラみたいに描かれるくらいだ。
「悩めるようでありましたら、こちらの札を一枚お見せしましょうか。彼女さえいれば、後アブソリエル公国、鉄の国も、簡単に落とせるでしょう」
指を鳴らす。通路に控えていた人物が室内に足を踏み入れた。
「な、なあ!?半獣ではない、化物!?」
「そう、かつて貴方方の祖先が化物と罵り追い出した存在達です。逃れた大多数の者達は逃れ、北の火竜を頼り集まりましたが中には逃げ遅れた者もいた。そんな者達が残した最後の子孫が、彼女です」
出会いは偶然であった。
掲げる大盾、リスム支部に潜り込んだ目的は、フリーパスでリスムの地下迷宮に潜り込む為である。エンパスの企みを効率よく遂行する為には、どうやらあそこがドンピシャであったからという理由だ。拠点確保に資材搬入に、エンパスと俺以外は本当に一部の者しか伝えなかった場所だから苦労に苦労を重ねたものだ。
そんな中で出会ったのは、彼女。
墨のような濃い黒に覆われた毛並みと、それと呼応するように同色の肌。純粋なコボルトと違い比較的人間に近い顔立は、爛々とした黄色い瞳に、口をへの字に曲げたようなどこか苛立ったようにも見える表情にも見えた。
「マスター。ルノをお呼びでしょうか」
日々減り続ける同種。なにがなんでも子孫を残そうとした先祖達が、時折人間でも浚い孕み孕ませたのだろうか。人に近いが半獣よりも歪だ。哺乳類に近い肉球のついた足には柔毛が太腿の付け根まで生えており、腰布を巻いてはいるがその下もまるで長毛種のように覆われている。
胸部を中心にそちらも毛が生えており、まるでマーメイドが貝殻で乳房を隠すように毛で覆い隠しているようであった。だがなにより目立つのは、その右手は人の手に近いものが伸びているのに対して左手はまるで獣のそれだ。そちらは見たことがないが、ランザが対峙したというルーガルーに近いかもしれない。
「見せてやれ。小規模でも良い」
ルノはそれに頷くと、壁に獣の手を添える。石で木材そして塗装された壁が瞬時にサラサラと砂になり崩れ、通路がその向こうに見えた。
頭に手を置いてやると、凛とした表情を浮かべるが尻尾は揺れていた。モンスター娘、性癖外であったつもりだがいただいてみると悪くはないどころか好物であったものだ。
「今のは出力を調節してのデモンストレーションですが、本気の彼女は強力な力をもっています。首都の機能を即麻痺させるだけの軍隊を気づかれずに首都にいれるくらいに便利で特別な力です。この力をもってすれば、後アブソリエル公国は瞬く間に陥落し連合王国からの横入りですら恐ろしくはありません。そして協力さえいただければ、後アブソリエル公国陥落後その支配権を貴方が握ることだって夢ではない。皇帝はそれだけ、この北部に注目しているのです」
「……何故、皇帝がこの北部に注目しているのだ。主戦場はあくまで東部、連合王国側の筈だ。たかが一小国、裏切ったところでそのような大きな見返りがあるとは思えん。口先で出任せを並べるな」
「そんなことはありませんよ。なにせ今、後アブソリエル公国にはあの帝都事変を引き起こし、帝国最強の竜狩り隊を退けたランザ=ランテが向かっています」
「あの、悪竜を継いだという」
「ランザの首を獲れれば、皇帝も枕を高くして眠れるというもの。国家の恥辱を拭うと同時に、首都直撃の危険性まで無くなる。この大きな戦果、貴方の英断によるものと強く宣言させていただきます」
「貴様は、それほどの立場なのか?」
いえ、全然。だがしかし、ここは演技のはりどころだ。もう一度青春ができたならば、演劇部に入っておこうかなと意味のないことも考えておく。
「北部軍勢の指揮権を預かっております。その意味をお考えになられては?」
正確には、『一部』の北部軍勢とエンパス教の加護持ちや組織した僧兵のみであるが、嘘はついていない。ハッタリは大きく自信満々に…だ。
「返答はこの場でお願いします。さあ」
「乗った。だが、具体的な話に入るその前に、貴様の名前を教えてくれ」
「レント=キリュウインと申します。名乗り遅れてしましましたね。ですが、長居付き合いになるであろうことで、是非お見知りおきを」
さて、これで連合王国との繋がりは絶った。ランザ=ランテ、次の一手で、貴様を追い詰める。