家族の仇は、娘でした   作:樫鳥

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 「お邪魔しまーすと。うわ、無駄に豪華…てな訳じゃないのか。アンタ本当にこの国の代表なん?間違っていたなら手間だから見逃すけどどうなの?アンタ本当にノルン=ミルクエル?」

 

 「如何にも」

 

 「いや如何にもじゃーねですよ、嘘でも否定してくださいよ」

 

 状況はクソみたいなもんだ。なにが最悪かと言えば、愛用しているククリナイフは今頃城の武器庫にでも放り込まれているのだろう。同時に相手は得体の知れない存在だ。なにを食って生活していれば羽毛の一枚一枚がまるで刃のようにギラついた刃のようになるんだか。寝たらシーツがズタズタにならないか?

 

 この部屋になにか武器になりそうなものをざっと見で確認。壁に飾られた剣があるが手を伸ばすのには少し遠い。護衛が戻ってくるまでの数十秒かそれとも数分か、俺の役目はこのけったいな女王さんを護り抜くことだ。なんの因果で似たような存在から、人間を護るなんて事態になっているのか知らないがなるようになったのだから仕方ない。

 

 ではここで思考タイム、生身の俺があのいかにもヤバそーな相手から無駄にデカい胸を張りながら堂々と対峙しているこのミルクエルさんをどうやって護るか。クソ、本当に堂々としおってからに。牛乳エルさんとでも今度呼んでやろうか。

 

 選択肢1、徒手空拳。こう見えて身体能力には多少の自信はあったが、ここ最近その自信は現在下落し続けている。世の中にはなんとまあ化物が多いこと多いこと、馬鹿みたいなデカい突撃槍を駆使して鉄馬に跨りジークリンデと対峙をしていた竜狩り隊を思い出す。多分アイツ等の握力に腕力は俺なんか軽く超えている。

 

 そうでなくても、その手の技術は特に会得している訳でもなく良いところ喧嘩の延長線にある暴力行為止まりだ。ランザの旦那に組手をしてもらったことがあるが、気が付けば地面に転がっていることが多々あるし素手でもクーラに勝てるかどうか怪しいものだ。アイツも最近、打撃術にも磨きをかけている節があるしな。

 

 だが目の前の小娘程度ならなんとかなるか?答えはノーと言わざるを得ない。いや、単純に考えてあんな刃がびっしりな凶器をぶら下げた奴に素手で突っ込みたくはないってだけの話だが。

 

 では選択肢その2だが…

 

 「寒くてうざくて退屈なんだよね。さっさと帰りたいから、とっとと死になよ」

 

 考えがまとまる前に有翼の少女が飛翔、少し距離をあけた後猛スピードで室内に突っ込むように直進してきた。クソが!まだ考えがまとまってねえのに!

 

 「おんどりゃあああああああ!」

 

 適当な椅子を掴んで放り投げる。これに嫌がらせ以上の効果があるかどうかは分からないが、やらないよりはマシだろう。

 

 有翼の少女が、きりもみしながら回転。まるで刃物が対象をミンチにする為に動いているようだ。そして、翼からなにかが抜け落ちたように見え、それが飛来した。確認できたのは、まるで散弾銃でもぶち込まれたようにぶん投げた椅子が穴だらけになる光景。

 

 ノルンが壁にかけられていた剣に手を伸ばそうとしていたが、そんなことをしていたら死ぬ。再度強引に頭を下げさせ、胸元から頭蓋にかけて穴を開けようとする飛来する刃の群れを避けさせる。掴めたが、手放してしまい手から零れ落ちた鋼の剣が床に音を立てて落ち、回転した。

 

 堅い壁に深々と刃の羽が突き刺ささっていた。殺意マシマシの威力だが、幸いなのは俺のことは眼中にないようであり、ノルンを庇うことに全力で動くことができるということか。

 

 「あんな弾幕に刃の回転!剣なんて役に立たねぇ!」

 

 選択肢に2も3もない!とるべき行為は一目散逃げることだった!今の一連の動きだけで理解した、こいつはよくは分からんが化物の類と考えて間違いはないだろう。無理無理無理無理!これは死ぬ!

 

 「剣は役にたたんだと?」

 

 ノルンが伏せた状態からスッと頭を上げた。後ろ足を踏ん張り、前足を踏み出す。腕を大きく引いた後その表情には不敵なものが浮かんでいた。ただの一瞬であったが、その笑顔はいやに印象に残るものであった。

 

 きりもみ回転しながら飛んでくる対象、俺にはまるで断頭台が三つ回転しながら迫っているように見えたがノルンには違うようであった。凄まじい勢いで繰り出されたカウンターが、少女の顔面に直撃する。

 

 「はへ?顔、あれ?アタシの顔が?え?」

 

 間抜けな声が聞こえたと思ったら、有翼の少女の顔面部に拳がのめり込み、弾き飛ばした。窓際まで吹き飛ばされ、痛みというよりなにがおこったかも分からないといった顔をしながら頬を赤くしキョトンとしている。数瞬遅れて鼻血が噴出し、それで初めて自分になにがおきたか理解できたというような様子だった。

 

 「剣でダメでも、拳ならば役に立つだろう」

 

 回転しながら飛び込んで来る刃の渦。通り過ぎざまに斬り刻む刃の螺旋、だがその中央には隙があった。刃の渦の中に突っ込んだ腕と拳が数か所斬り刻まれて流血しているがそれを意識する様子もない。

 

 なんだ、この人。頭おかしーんじゃねえの。

 

 「殴られたのは初めてか?」

 

 困惑した顔をしながら横たわる有翼の少女に悠然と話しかける。先程までの肉食獣のツラではなく、毅然とし、凛とした上に立つ者の表情をしていた。

 

 「命を奪う立場の者が、反撃されないと本気で考えていたのか?命を奪う立場であることを甘んじているような顔をしている。対峙した者に、命を奪い奪われるということに覚悟を伴わなければ如何に異様な能力とて恐れるに足りずだ。そんな半端で私の首を狙うとは、三流めが」

 

 「さん…りゅう……はぁ?」

 

 ノルンの挑発がモロに刺さったのか、表情に怒りのようなものが混ざり始めた。

 

 「ありえねーん……ですけど。レントに認められたアタシが、三流な訳ないじゃん。ノルン、ガスパルを抱え込んだアンタを殺すのは確定事項だけどぉ…発言撤回させるからぁ!楽に死ねると思わないでねぇ!」

 

 「ノルン代表!」

 

 有翼の少女が怒りと共に立ち上がった瞬間、扉を蹴り開けて散弾銃を装備した護衛達が数人なだれ込んで来た。ノルンが軽く手を振ると、それに頷いた護衛達が散弾銃を敵に向ける。捕虜にして情報を引き出すのもありかもしれないが今は緊急事態でもある。最低限誰の差し金かこいつの口から聞けたし、生かしておくより殺しておくことにメリットを見出したか。

 

 「撃て!」

 

 散弾銃の射撃音が響く。手に持つ得物は、旦那が使っている散弾銃とは違いストックがついた、銃口が一つのスマートなものだった。生憎、帝国軍からの鹵獲品には散弾銃の類はなかったため、他とは比較はできないがあれが一般的な形状なのだろう。

 

 放たれた散弾が有翼の少女に殺到する。だが着弾前、確かに見た。二つの翼に生えた羽が急速成長。いや、翼じたいが巨大化しているのか?とにかくバカでかくなった鋼の翼が前進を覆うような盾となる。弾丸が表面で弾け、火花をあげた。

 

 「うざい!邪魔すんな雑魚共!」

 

 射撃が途切れたタイミングで、鋼と化した羽をむしり投擲。護衛二名の頭部に突き刺さり、リロードをした残りの者が二射めを放つ前に跳躍。天井は確かにある程度あるが、それでも室内等外と比べれば狭すぎる筈だ。だがしかし、小柄な身体と巨大な翼でどういう訳か室内を飛びながらグルリと回る。

 

 飛行線状にいた者達が両断される。綺麗な断面、というのがなんとなく分かった。あれは力任せで切断されていない、名刀の切れ味だ。

 

 「ここじゃまずい!」

 

 「逃げるの!?馬鹿じゃん!逃がすと思ってるの!?」

 

 普通に考えれば、背中を見せた瞬間追いつかれて切断されるだろう。だがどの道この部屋にいてもしょうがない。ノルンの手を掴み、部屋の外に出ようと駆け出すがその前に床に落ちた剣の柄を蹴り上げる。

 

 グルグルと回るそれを掴み取り、背後に思いきり投擲。狙いはあの少女ではなくそれよりも上にそれていた。下手と不釣り合いのシャンデリアの吊り下げ器具に剣が突き刺さり、ある程度の質量のものが重力に従い落下する。

 

 いかにあれが名刀の切れ味を持つ刃物の翼であろうと、空を飛び交う以上そこまで重くはない筈だ。小柄な身体もあいまり、上からの質量攻撃を喰らえば生身の身体はひとたまりもないだろう。

 

 「チッ!」

 

 苛立たし気な舌打ちと共に追撃を中止。その代わり、翼の羽ばたきを利用した羽の刃が放たれた。ギリギリで部屋から出て角を曲がり飛び道具を回避する。ここからはどうする!すぐに追いかけてくる!

 

 分かっていることは、丸腰でも愛用のククリナイフがあっても、帝国の最新式ライフル銃を持っていてもあの娘には勝てないってことだ。散弾銃の斉射を正面から耐えた化物とどうやって戦えと!?

 

 そこでかつて、とある人物が言っていた至言を実行するしかない。俺ができないなら、出来るやつに肩代わりしてもらうしかないのだ。曰く『化物には化物をぶつけるんだよ!』だ。選択肢は二でも三でもない、『逃げるんだよ~!』が大正解!

 

 ランザの旦那をこの少女とぶつけるしかない。俺の役目は、ノルン=ミルクエルを旦那と合流するまで無事に護りながら逃げ切ることだ。

 

 「文句ならばあとで幾らでも!今は我慢してれよ!」

 

 人間の足の速さと付き合っていたらなます斬りにされる。不敬は覚悟の上でノルンの背中と足の下に手を差しこみ持ち上げ、走る。

 

 「あれは何者だ?散弾銃を装備した者達が手も足も出ないとは、尋常ではない」

 

 意外なことに抵抗一つなかったが、その表情は思案と部下をあっという間に殺された怒りを覚えているようだった。

 

 そういえば……そういえばだが、ノルンが最初に言っていた言葉を思い出す。レント=キリュウインが降伏勧告の使者に来ていたという話だ。そして詳しくはないが、レントとかいうのはエンパス教の実行部隊を率いるお偉いさんだというではないか。

 

 「まさか」

 

 「なにか気が付いたのか?話してみよ」

 

 だがその前に殺気が背中に氷柱を突っ込んだ。左の壁を蹴って右側の窓から飛び降りる。背後で再度あの刃の弾幕が通り過ぎる気配を感じた。ガラスで頬を斬ったようだが、とっさに庇ったのでノルンには怪我はない、よし!

 

 三回から飛び降りたが、すぐ下には料理を作る馬鹿でかい調理場が入った建物があった為大した高さではない。屋根の上を駆けて再度飛び降り地面に着地する。

 

 上空を見ると、案の定追跡をかけてきた。翼を羽ばたかせ、直進で向かってくる!うおおお怖えェえええ!

 

 身体を横にそらすのが精一杯、だが両断はされずに済んだ。代わりに右腕にぶっつりと切断された感覚があるが鋭すぎる刃物のせいか興奮のせいか痛みはあまり感じない。腕が落ちてないなら、無傷と同じだ。

 

 「エンパス教だ!」

 

 「なに?」

 

 「レント=キリュウインの私兵部隊が所属している新興宗教だ!話には聞いていたがこんなクソ化物がいるなんて聞いてねぇぞ!」

 

 旋回して再度突進してくる有翼の少女。あのまま通路で直進していれば背中から大量に串刺しにされていたとはいえ、空が見える場所は奴の天下だ。このまま調理場の裏口から建物の中に飛び込むか!?

 

 足を踏み出そうとした瞬間、調理場に入る為の木製の扉が開く。給仕服を着た使用人が、恐らくは先程の地揺れで落ちて、割れてしまった皿などを廃棄する為に外に出たのだろう。タイミングが最悪なことに、これでは押しのけて入るしかなくなる。

 

 聞いたことがある。戦場で活躍する調理人達は例え城が陥落間近でも料理をする手を止めないという。軍艦同士の砲撃戦でもそうだ。料理人の戦場は調理場、緊急事態だからこそ兵士達が万全に戦えるように料理の支度を続けていたのだろう。現在は戦中であり、砦が陥落前とはいえ常在戦場を宣言していたノルンの部下達ならばこうするように教育されていても不思議ではない。

 

 すぐにでも調理が再開できるようにする為に、この事態でもすぐさま現場を効率的に動かせるように掃除と作業をしていたのだろう。だけど、今ここで鉢合わせになるのは不運というしかない。

 

 押しのけて中に入る。ただそれだけのことに躊躇をしてしまった。ここでそれをしてしまえば、この非戦闘員は両断されてしまう。だがその躊躇いが足枷となってしまった。飛んできた刃が左足に突き刺さり、体勢が崩れる。転倒してしまえば仲良く両断されてしまう。クソが!躊躇った代償がこれか!

 

 「おい!頼む!」

 

 もう手荒とか不敬とか事前謝罪する余裕もない。体制が崩れつつあるなか、手に抱えたノルンを給仕に投げ渡した。女性には抱えきれず、給仕は手に持つ割れた皿が入った木箱を落としながらノルンを受け取りつつ建物内に倒れる。

 

 開いた扉を乱暴にしめるなか、ノルンと目が合ったような気がした。ああ、一国の代表放り投げた訳だからなぁ、万が一ここで生き延びても処刑台かねぇ。でもなんだか、あの人は死んじゃいけないような気がしたから別に良いか。

 

 あの人が生き延びて、ランザの旦那がアレを倒してくれるならまだ半獣達や多分、エルフにも希望はある。彼女は俺達半獣を毛嫌いしている訳ではないということが分かった。一国の指導者が半獣を嫌っていないのであるのが分かれば、それだけでも収穫だ。

 

 なにより、同胞の為に帝国と戦うのは楽じゃねえよなぁ。俺は、そんな連中の頭を張るだけの器じゃなかったがノルンはしっかりと苦難の道と分かりつつ代表という道を選んでやがる。それもオヤジを殺してのし上がる覚悟付きでだ。

 

 旦那、後は上手くやってくれ。生憎と俺は、もう仲介できないぜ。だがそれと、面倒ごとを背負わせた罪滅ぼしだ、相打ち覚悟で手傷くらい負わせてやるよ。

 

 「あああ!クッソいてぇ!」

 

 足に突き刺さった羽の刃を引き抜く。持ち手がなく扱い辛そうだが丸腰よりはマシだろう。さあ着て見ろ化物、ただで死ぬと思うなよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ほい姉ちゃん!この規格ならば帝国製ライフルにも対応できるぜ!」

 

 弾薬袋から取り出したライフル弾を確認する。確かに、帝国で製造されたものとほぼ同じに見えるので、問題なく使えるだろう。

 

 「エルフの連中には悪いが、矢の類はないんだ。狩りが趣味の懐古主義なお貴族様でもいたら話は違うんろうが、もう扱う者がいなくて武器庫をひっくり返しても出てこなかった」

 

 「ありがとう、問題ないよ。彼等は彼等で弓と矢を製造している。まあ、少なくともランザさんやガランが敵主力を蹴散らしてくれるまでの間はなんとかなるよ。元々戦争の援軍に来た身、大量のストックは持ってきたからね」

 

 「信用しているんだな、お仲間を」

 

 「どの道あっちで負けたらこっちもどうしようもない。出し惜しみしてもしょうがいないし、全力を尽くすだけかな。ああ、後俺は男だから。名前はウェルロンド、男っぽい名前だろう?」

 

 弾薬を持ってきてくれた公国の兵卒は信じられないといった顔を浮かべていた。まあ、こういうリアクションは慣れたものだ。

 

 「これで男とかもったいねえ…なんて言ったら失礼か?」

 

 「さあ?別にあんまり気にしないけどね」

 

 そう、俺自信は別にあんまり気にしない。生まれ落ちた時、性別が雄なのに偶々顔立ちが雌に近かっただけの話だ。だがしかし、世間というものはそう単純には事と話が進まないものだ。過去の出来事を、思い出してしまう。

 

 ある程度の金と権力があり、女をいくらでも侍らせることができるような輩は、時折なにを倒錯してしまうのか美少年や美青年に食指を伸ばすことがある。俺はそういう需要の元で生きてきた。

 

 他の半獣達と比べれば身体は貧弱だし筋肉量も少なく、傷も少ない。だがそれは、半獣でも容姿が良ければ構わないという男に玩具として飼われていたからだ。独り立ちする気力もなく、世間での半獣という存在の扱われ方を幾度も幾度も夜伽の旅に囁かれ、この境遇がまだ幸せだと信じ込まされた。

 

 この窓から見える景色の外にいる仲間達は、飢えに苦しみ寒さに震え、過酷な労働に駆り出され酷使されている。それに比べれば、三食の食事と暖かい寝床を与えられ夜ごとのストレスに耐えれば良いだけの自分はなんと幸福なのだろうか。

 

 そんな日々を粉砕してくれたのが、あのガランだった。同族の扱いと自信の境遇に怒りが頂点になった彼は賛同者と共に反旗を翻し、襲撃を繰り返していたのだ。

 

 『お前は一度でも、嫌だとかやめろとか、言ったことがあったのか?』

 

 ククリナイフを手に持ち、ぎらつく瞳をした男が立っていた。傍らには半殺しにした俺の元飼い主が、痛みに喚いてたるんだ腹をよじりながら這いつくばって逃げようとしている。

 

 『お前は俺に「やめて」とか「殺さないで」とか言ったが、この男に拒否の言葉を投げかけた記憶はあるのか?』

 

 『え…いや…わたし、わたしはこの人の所有物だから、き…拒否なんて』

 

 『くだらねぇ。言葉の取捨選択さえ狭められて、テメェの自由を縛る存在を庇い立てするなんてな。確かに趣味はわりぃがここは良い部屋だ、隙間風がなく暖炉がでかくて暖かい。飯もきっと良い方だろ、お前の身なりみりゃ多少は分かってもんだぜ。だが環境は下の下だ、手前の意思を縛りあげられてまでいたいもんかね』

 

 無様に逃げようとする飼い主の腹を、彼は蹴り飛ばした。唾液を飛ばしながら、肉団子が無様に転がり悲鳴をあげる。

 

 『お前がそれを願うならば、この豚は生かしておいてやる。これまで通り鎖に繋がれているんだな。だが自由が欲しいなら、それを得る為に戦うならば俺達と来い!半獣が虐げられない自由を俺が必ず作ってやる!その鎖、自分で断ち切って来るかここにいるか選べ!』

 

 この人は、暖かい寝床も過酷な環境も自分で得ようとしている。ただ与えられる者を貪っていただけの自分が、それだけの為にこびへつらう自分が酷く矮小でくだらないものに思えてしまった。

 

 そうだ、わたし…だなんて男の俺がそもそも使っていた言葉じゃない。その方が興奮するからと、躾られた結果なんだ。いつの間にか、それを意識しなかったくらいには飼いならされていたんだな。

 

 ランザさんという旗頭を添えた今でも、半獣達はガランを信じている。彼が何時か、俺達半獣達が安心して自由に生活できる自治州を作ってくれると、本気で信じているのだ。

 

 彼が自分の器に悩み、それでもあがき続けていることを知っている。本当は勢いでここまで来ただけで、自分には集団を率いて夢に連れて行く力はないのではないかと苦心していた。だが半獣達はこういうだろう、アンタだからついてきたと。

 

 ガランが死んでしまったら、ガランが信じたランザさんを信じるという前提に亀裂が走る。なにより、夢破れた半獣達は依然のままではいられないだろう。自然とこの解放軍は、瓦解してしまう。

 

 「俺の容姿云々はともかく。俺達は俺達の仕事をしよう。ランザさんやガランがなんとかしてくれる。首都は絶対に落ちないから、ここを防衛しきれば俺達の勝なんだから!」

 

 「ああ頑張ろうぜねえちゃ……兄ちゃん!」

 

 だからガラン、首都がやばくても絶対に死ぬんじゃない。俺達半獣にとっての旗頭は、実のところ今もお前なんだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ガランを覆うように、陰ができる。空中で複数に火花が舞い、有翼の少女の進む道は逸れ直撃を免れた。

 

 「久しぶりだねイリーナル=フレスト。悪いけどこの人は殺させない、ランザの足場が崩壊しちゃうからね」

 

 刃に巻き込まれズタボロになったフード付きのマントを破りながら脱ぐ。直刀と歪なナイフを両手で回しながら、乱入者は舌を舐めた。

 

 「クーラ=ネレイス。裏切者の野良猫め」

 

 イリーナルと呼ばれた有翼の少女は憎悪を込めた視線を向けていた。その殺意は、まるでもうこちら等眼中にないと言わんばかりであった。

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