家族の仇は、娘でした 作:樫鳥
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西日本大震災。兵庫県の沖合が震源地となり、西日本に壊滅的打撃を与えた歴史に残る大地震だった。兵庫県に近い某県にいた僕だったが、父の小さな自動車整備工場のみならず街中の建物が崩壊していたことを覚えている。
沿岸地域に近い街にいた僕は、父を探すことすらできず、近所に住んでいた顔見知りの大人に抱えられ、高台まで浚われるように避難させられた。
ありふれた言葉ではあるが、自然の驚異は人間にはどうしようもできない。津波により文字通り街が流されるような現実離れした光景は、あまりにも想像を超えている為呆然とそれを見ていることしかできなかった。
母はどうしているのか、父はもう助からないだろう、これからはどうなるのか。色々なことが頭の中で浮かんでいたが、涙は出なかった。隣で震えている女の子がいたから、変なところで男の子のプライドが邪魔をした。『大丈夫だよ』なんて薄っぺらいセリフが、あの時の精一杯だったのを覚えている。なにが大丈夫なのかも、分からないのに。
でも身体の見えるところに生傷と、頬に青あざがある子の隣で情けない姿は見せたくない。ただ、それだけが理由だった。
そのまま非難した高台の公園で一夜を明かすことになった。波は引いていったのだが、恐らくはどこかから燃料が漏れたのかそれが引火して街が火の海に包まれていたからだ。そこまで行くと、もう街を見ることもなくただ寝ころびながら空を眺めていたのを覚えている。
初夏の出来事、気温はやや暑い程度。隣の子とただ誰かがどこかから用意したブルーシートの上に寝転んでいた。ずっと女の子手を握っていた。
『これからどうなるんだろう』
分からないよ、とは言わないようにした。とにかく別の話をして気を紛らわせてやりたかったが小学生の知識量と語彙力ではすぐに話に詰まる。不安にさせないようにしたかったが努力も虚しく、ついには泣きじゃくってしまった。無理もない、逆になんで僕はこんなに呆然としているのだろうか。多分、まだ目の前ことが現実として処理しきれていなかったのだろうとは思うけど。
『そうだ、名前は?』
そういえば、聞いていなかった。初対面の人と話すときは名前からだというのに、まあこの状況じゃそこまで頭が回らないのは仕方ないかもしれないけど。
『僕は霧生院漣人、君の名前は?』
『……三好梓』
あの後は自衛隊の人に助けてもらい、全国から救援物資やその他資源が集まり災害を免れた高校に避難することができた。
プライバシーのない辛い生活だったが、なによりも悲惨だったのは掲示板に張られた行方不明者についての安否情報だ。ずっとは見ていられなかったが、時折掲示板の前で泣き崩れる人を見るのが子供心には辛かった。
母もその一人だったのが、余計に辛かった。やはり父は助からなかったようであり、見つかっただけでも幸運だと自分を騙すしかなかった。自然と泣かなかった。僕まで泣いたら、色々なものが終わってしまいそうな気がしたから。
『梓ちゃん』
校庭の隅で座り込んでいた少女に、カレーを差し出す。こんな辛く心細い生活、なにが心の支えになったかと言えば個人的には暖かい料理だった。豚汁やカレーを自衛隊の人や、駆け付け始めた全国から来たボランティアの人が炊き出しを行ってくれた。
『今日はカレーだったよ。食べよう』
『うん』
返事に声の張りのようなものがある。違和感があった、顔をあげた時の表情と声がどこか朗らかに感じたからだ。もらってきたカレーの紙皿を渡してあげる。何故高校にあるのか分からないが、駄菓子屋でよく見た覚えがある雪印のマークが描かれた長椅子に腰を降ろした。
梓ちゃんは、湯気をたてるカレーの紙皿を手にとったままじっとそれを見つめていた。食欲がないものかと思っていたが、その横顔には口角があがっていた。
久しぶりに見た笑顔だったが、その笑顔にはどこか薄ら寒いものを感じざるえなかった。何故そんな表情をしているのか理解ができなかった。
『なにか、嬉しいことでもあったの?』
聞きたくないと思ったが、聞かなければならないとも思った。良く分からないけど、この表情は多分あまり良いものではない。話し合うことで、なにかが変わらないかと少しでも期待したという意味もある。それでも、聞かなきゃ良かったと少しだけ思ってしまった。
記憶が鮮明になる。それだけ強烈な記憶だったのだろう。一言一句、当時の風の強さやカレーの香りまでよく覚えていた。
「どうして私があの日助かったと思う?」
「え?」
「お母さんが知らない男の人連れ込んでいて、そんな日は何時も外に出されていた。あの日はお父さんが、早く帰ったせいで家の中で殴り合いになったの。私はそれを窓の外から見ていたから助かったんだ」
彼女の目にはカレー等映っていなかった。透き通った眼球には、恐らくはあの日の光景が映し出されているのだろう。
「蓮人君には教えてあげる。私ね、お母さんもお父さんも助けなかったの。お母さんが瓦礫の隙間から、助けてって手を伸ばしたけど、私はそれを踏みつけたの。だっておかしいよね。私が助けてって言ったりお家にいれてって言ったら叩いたり踏みつけたりしたんだから、私も同じことをやっても良い筈だよね」
「じゃあ、君のお母さんとお父さんは」
「うん、死んだよ。今日死体が瓦礫の中から出て来たってさ。私、お母さんの手を踏んづけてから逃げたんだ、怖くなってさ。生きていたらぜったいにお仕置きされちゃうと思って。でもそれはもうおこらないみたい。嫌いな人がいなくなるのって良いものだね」
梓はそういってから、カレーを一口食べる。美味しい美味しいと、まるでこんな美味い料理食べたことがないと言わんばかりの喜びようだった。僕もカレーを食べてみたけど、逆に味を感じなかった。なんとか喉を通らせるのが精一杯のありさまだ。
「レント君のお父さんは?」
「……ダメだったよ」
家族の為に歯を食いしばって生きてきたが故、建物の崩落に父は巻き込まれた。素直に悲しかったし、こうして幾日か経ってもあの日父が伸ばした手を避けてしまう夢を見てしまう。どれだけ意識しても、これが夢だと分かっていても身体は自動でそれを行ってしまっていた。
「悲しいんだね」
梓の手が僕の頭を撫でる。水滴がカレーに落ちたことで、ようやく僕は泣いていることに気づいた。あの日以降、色々ありすぎて涙も流れなかったのに、なんで今更こんなところで流れるのだろうか。
「蓮人君が、羨ましいよ」
顔は笑っていたが、梓の目は笑っていなかったことを覚えている。そういえばこの子は、助からず亡くなった人の遺族がすがりついて泣く様子をどこか冷めた目で見ていた。震災のストレスで感情が乏しくなった人が何人かいたからそれと同じだと思っていたけど、今にして思えばそれとは違っていたのが分かる。
「本当に、羨ましい」
薄ら笑い、とでもいえば良いのだろうか。それでも、僕は逃げることはできなかった。このままでは、梓をひとりぼっちにしてしまうから。そうなったら、それは悲しいことだと分かっていたからだ。
でもだからといって、それ以上なにができるものなのか。僕は彼女の気持ちをどうあがいても汲んでやれないのに。
季節は過ぎ、僕と母は仮設住宅を経由して国が指定した団地に移り住むことになった。梓は親戚の叔母が面倒みることになり、偶然にもそれは僕が引越した団地のすぐそばだった。このころには小学校を卒業し中学生にあがっていた。
中学に入ってから二年間、自分のことを特別視するつもりもなかったが、どこかクラスに馴染めないような微妙な疎外感があった。辛うじてクラスで孤立しなかったのは、母が多少以上に無理して携帯ゲーム機と大剣とか大槍とかでモンスターを狩りまくるゲームを買ってくれたこと。それと、勉強に関しては特に苦ではなくクラスで三位以内には入っているということだ。
部活動は金がかかりにくい文芸部に所属していた。お世辞にも、これは本当にくだらない話ではあるが文芸部に入部した男子のクラスカーストは低い。だが、取り繕う能力と成績のお陰で特に舐められることなく無難に過ごすことができた。
僕は別にいい、問題は三好梓の方だった。どうやらクラスに馴染めない様子であり、そしてそれを取り繕うこともできていなかった。別クラスであったが、外から分かるくらいには孤立気味であり、虐めの標的にもされている様子もあった。
具体的には掴めてはいない時期もあったが、一度だけトイレからずぶ濡れになって出て来た三好を見たことがある。僕と三好はあの地震の生き残り同士、近くにいれば話題は自然とあの時のことが多くなり、悲しい過去を振り返らない為に意図して距離をおくようになっていた。
だがしかし、そんな光景を見ておいてそんなことを言っていられる状態ではないと理解した。
『三好』
『蓮人君、声をかけてくるのは久しぶりじゃない?』
この頃三好の髪の毛は伸びきっていた。腰まで伸びた髪の毛に常に片目は隠れており、少し髪を乱せば両目が隠れてしまうくらい髪を切っていない。後から知った話ではあるが、当時の彼女は貞子とあだ名されていた。思わず、頷いてしまいたくなりそうだと内心思ってしまいそうな程だ。
どうやら叔母ともあまり上手くいっていないようであり、美容院に行く金も渡されていない。ギリギリ育児放棄と言われないくらいの関係性であり、だがそれを本人は気にしているような様子すらなかった。母である姉と叔母である妹、そもそもこの二人の仲もよろしくはなかったようだ。
『これ?』
『その、大丈夫なのか?』
『ああ、別に』
三好は、両親が死んでしまったことが確定してからほとんど笑顔を見せなかった。いやほとんどなんてレベルじゃない、僕が最後に見た三好の笑顔はあの日両親の死を笑いながら話していた時くらいだった。
『子供のすることじゃん』
なにも知らない人が聞けば、中二病をこじらせているとか、必要以上に背伸びしたがる年頃とか言い始めるのだろう。だけど、僕は知っている。彼女の言葉は強がりだとか、自分を特別視しているとかそういうものではない。
他人よりも、早く大人にならざるえなかった人間の浮かべる目をしている。そんな人達を多少なりとも見て来たが故に、すぐに気づくことができた。そして同時に擦れて、疲れているようにも見えた。彼女は今後虐めがおきようと鼻で笑って気にもしないだろう。
『貴方は上手くやっているみたいね』
友達は多い方だと思っている。それでも、申し訳ない話ではあるがどこか上っ面での付き合いになってしまっているのは否定はできない。幸いなことにみんなにはまだバレていないが、何時かは気づかれるものなのだろうか。
まだバレてはいない、それを上手くやっていると言っているようである。それもいずれ限界があると、その目は語っているように見えた。
『なあ』
『……なに?』
『三好は気にしていなくても、面倒だろう?色々気にしながら生きるのは。大変じゃないのか?』
『……どうだろうね。私には分からないけどさ、家にいる時より大変じゃないなって思うと、自然とね』
『やっぱり、まだ叔母さんとは上手くいってないのか?』
引き取ったことじたい、世間体というものが影響しているのがでかいのだろう。中途半端に関わるくらいなら、施設にいれた方が良いんじゃないかと思うものだがそう簡単な話でもないのだろう。僕達はまだ子供だった。世の中の仕組みを理解しきっている訳でもない。
でもただの子供とも言えなかった。ただの子供でいたかったのに、中途半端に境遇と苦労で歪に大人の世界に、我慢とか忍耐とかを得る為に足を踏み込んでいた。僕は周囲に溶け込むことができるように、彼女はストレスに耐えることができるようになるように。
『東公園に何時もいるよね』
『家に、あまり帰りたくないからね。その方が、叔母さんも喜ぶ』
『だよね、もし良かったら』
『レーント!』
背中から肩を叩かれた。同じクラスの生徒で桐野鳴だった。クラスカーストでは上位層に位置しており、中学一年生の時に同じ考えを持つ者同士を集めてダンス部を部活として認めさせたくらいに行動力がある。発育も良く容姿も優れており大人びたタイプの美人系。男女ともに人気も高い。
『今日金曜日だし、部活終わりにみんなでカラオケ行くんだけど、レントもいこーよ。黒崎と峰も来るっていうしさーアタシも誘われたんだよね。でもレントがこねーといかねーって気分でさ。クラスの懇親会だと思ってどーよ』
会話中に躊躇なく割り込んできたが、彼女の目には三好は映っていない。まるで最初から存在しないかのような振る舞いだった。
『ああ、ごめん今は今日は少し』
断ろうとした瞬間、三好は踵を返して歩いていった。腕を伸ばしかけるが、もうここに用はないと言わんばかりの態度が声となり聞こえてくるようであった。
『あれ、二組の貞子じゃん。どしたの?用事?』
『お前、貞子って…』
『暗いしクラスに溶け込む努力もしないし、名前一つ教えてくれないんだよ?陰キャでも必要最低限のコミュニケーションくらいとれってのー。あんなんだから虐められるんだよ』
『その虐め、お前は混ざってないよな』
『アタシはダンス部で忙しいし、陰キャに構ってらんないって。それよりレントー部活終わりに来るよね。みんなにはレントも来るってアタシから』
『悪いけどキャンセル。今度埋め合わせするから許してくれよ。ああ、ついでに部活もサボるって言っておいてくれ』
優しく、だが意思をもってからんで来る彼女を振りほどき三好を追う。少なくとも、このまま三好をそのままにしておくのが良いこととは思えない。背後から呼び止める声も聞こえたが、このまま走る。
東公園。駅から少し歩いたところにあり、近年少子化による統廃合もあり一部の学生は電車も使い通学してくる者もいる。
小さな東公園、木製のベンチで三好は座っていた。そのまま暗くなるまで、いや暗くなってもそこで座って過ごしており時間を潰してから家に帰っている。
『三好』
『蓮人君、ここにいて良いの?カラオケ、誘われたじゃん』
『放っておけないって言ったら、迷惑か?』
隣に座るが拒否の声はなかった。そのまま夕焼けを見ながら、沈黙して時間を潰す。会話はないが、心地良いものだった。無理に会話を探さなくても良い、沈黙が続くのは本来ならば居心地の悪いものであるが今はそれが一番丁度良く感じた。
そのまましばらくそうしていたが、公園の街灯に明かりがともる頃、三好が口を開いた。
『蓮人君の足は引っぱりたくない。貴方は上手くやっているし、それで良いと思う。私は弱かっただけ』
『弱い?』
『弱いよ。私が虐められているのは、勘づいているでしょう?でもそれは、私が悪いんだから』
『どういうことだ?』
三好が空を見上げた。避難所の夜、夜空の星くらいしか楽しみもなくよく夜空を見上げていた時のように。
『クラスのみんな、幸せなんだなと思う。親に愛されて甘やかされて育ってさ。いろんな悩みや考えがあっても、結局この人達には打ち明けられないし、分かり合えないんだなー…なんて思うとね。やる気もなくなって、関わる気もおきなくて。そんな社会不適合者なのは私の方、でもやっぱり羨ましいものは羨ましいしそれが憎たらしくも思える。レント君も苦労しているけど、上手く溶け込んでやってる。貴方は強いよ』
『……そんなことないよ。それに虐めって、悪いのはクラスの連中の方じゃ』
『知っている?虐めってのは人間の本能に基づく行為なんだよね。集団の和を乱す異物を排除することで結束を高めるの。所詮人間は、のけ者がいた方が上手くいく生物なんだよね。だから、虐めは無くならない』
三好はこちらをようやく見た。暗く落ち着いた瞳は、吸い込まれそうな程綺麗だったが悲しい輝きだったなんて言ったら、気持ちが悪いだろうか。
『私は溶け込める程強くなかった。だからのけ者になった。さっき迷惑かどうか聞いたけど、迷惑かな。私のせいで蓮人君まで虐められたら、そっちの方が申し訳ない。私は私を許せなくなる。それは悲しいことだしね』
三好は僕と距離を取りたがっていたようだった。自分は弱いから群れに馴染めない。だから、わざわざそれに巻き込みたくないという。ならばこちらから言う言葉は、一つだ。
『舐めるなよ三好』
『え?』
怒気も少し含んだ声に、三好は驚いたように目を丸くした。滅多に怒ることもなかった僕のその言葉に、少し顔が引きつったようにも見える。いや、僕は怒っていた。自分自身にもそんなことで距離をおこうとする三好にも。
『僕が強いっていうなら、三好と仲が良くてもなんとでもなる。三好を護ってやれるくらいには強いつもりだ。だから、一つだけ僕の言うことを聞いてほしい。それでその結果、どうなるかを見てからでも遅くはないんじゃないか?』
『でも、ダメだよ。蓮人君が孤立したら学校生活が』
『どうせ卒業したら大半の連中とは連絡もとらなくなるんだからさ、問題ないよ。だから三好、今度からは俺と一緒に帰ろう。確か三好、今所属している部活では幽霊部員だよな。文芸部に移れないか?迷惑じゃなければ休みも会おう。母さんも、ずっと三好を心配している。今でも様子を聞いて来ることもあってさ。顔を見せてやってほしい』
『虐められたら?』
『連中の虐めなんて大したことじゃない。避難生活の方がずっと辛かったし、どうせい今だけの付き合いな連中との縁が少し早めに切れたところで問題ない。逆に三好を虐める奴に睨みをきかせてやる。それを迷惑なんて今の俺は絶対に思わない。頼む三好、僕とこれから仲良くしてほしい』
それを聞いて三好は、見えている瞳から一筋の涙を流し始めた。手の甲に落ちたそれを不思議そうに見た後、こちらの方に顔を向けて来る。涙はどんどん溢れて来て、顔がクシャリと歪み声をあげて泣き始めた。
ずっとずっと、辛いことを溜め込んでいたのだろう。それが、溢れてしまったかのようだった。
『ごめんね…ごめんね……私にはそんなこと言われる…資格なんてないのに。自分の面倒さえ…みれないのに……蓮人君の足を引っぱりたくなんてなかったのに……そうしてほしい。その優しさに甘えた私がいる』
『もっと早く言っておけば良かった。僕も、弱いよ。自分が安全になる環境を整えるのに精一杯だった。でもよく言うでしょ?護るものがあると強くなるってさ。だから、僕は三好と…梓ちゃんと一緒にいたいんだ。これは同情なんかじゃないよ。僕がそうしたいからそうするんだ』
三好とはその後、同じ部活に入り。同じ活動をし、帰る時間まで公園で過ごした。些細なことで笑いあい、色々なことを話した。同時にクラスメイトとの時間は減っていった。元々カラオケや他の金がかかる遊びは、家庭事情であまりお小遣いを多くもらえない僕の負担は大きかった。
特に桐野からの誘いが激しかったが、三好との付き合いを優先する為にほぼ全て断った。彼女が自分を弱いと思うなら、護ってやらなければいけない。彼女の味方は、僕くらいしかいないのだから。
『レント!いい加減にしなよ!』
何時だったか、桐野に怒鳴られた。何度目かの遊びの誘いを断り、金銭的な理由も含めこれ以上誘いをしないでほしいと言った後だ。
『うちら友達じゃん!アタシだけじゃない、そんな断り続けて貞…三好さんばかり構ったら、今度はレントが孤立するよ!本当に良いのそれで!』
『桐野には、友達がいっぱいいるだろ。僕にそんなにこだわらなくても良いじゃないか。そういえば、告白されたってこの前言っていたらしいじゃん。彼氏の方に時間を使ってあげたら良いんじゃないかな?』
『っ……人が心配して言ってあげてるのに!』
『僕は大丈夫だよ、ありがとう。でも、今は大事な人がいるから、申し訳ないけど構わないでほしい。ごめんね』
こんなことがあったから、クラスの孤立具合も加速してしまった。でもその分、三好との仲が深まっていった気がする。
中学卒業まであと少しというところ。僕は、卒業と同時に彼女に告白しようと思っていた。細かい境遇は似て非なるでもあるが、あの地震と避難生活を共に送った仲であり、傷の舐めあいかもしれないが、それでも居心地も良かった。三好も笑顔が増えてきており朗らかに笑うようになっていた。高校も同じところに進むことが決まっていた。
結果から先に思い返せば、僕が彼女に愛の告白をすることはなかった。卒業まで後指折り何日かというところ、彼女が駅のホームから飛び降りて自殺をした。叔母さんが遺品のカバンから遺書を見つけた。その遺書には、虐めを苦にした自殺という内容が書かれていた。