家族の仇は、娘でした   作:樫鳥

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 『まさか、お前から飯の呼び出しを受けるなんてな。しかも、こんなしっかりした個室で…金あんのか?ここの奢りは無理だぜ』

 

 静かな音楽が小さな音でゆったりと流れている。小窓からは小さな中庭のようなものが見え、ししおどしが溜まった水で傾いて音をあげている。丁寧に裁定された松がライトで照らされていた。

 

 『あまり人には知られたり、聞かれたりできない話があるもので。家で話すのも良いかもしれませんが、壁が薄いもので。来てくれてありがとうございます』

 

 『正直店を見た瞬間、回り道して帰りたかった。でも、なんか話があるんだろ。取り合えず一番安いのでも頼むか』

 

 場違いな雰囲気に財布の心配を富田さんはしているが、その前に差し出すものがあった。前にポケットの中に突っ込まれ、グシャグシャになってしまった紙切れをテーブルの上に広げる。

 

 『あん?』

 

 『当たりました』

 

 『……一万くらい?』

 

 『一等くらいです』

 

 富田さんが睥睨する勢いで、同時に理解不能なものを見る目で宝くじを眺めた。そりゃそうだ、今このテーブルには宝くじではなく億の札束が積まれている。

 

 『マ?』

 

 『マジです』

 

 『お前、なんだ。今日は自慢しにきたいのか?一番高いの頼むぞ』

 

 ドサリと座り込み、天井を仰ぎながら大きくため息をつく。現実感が湧かないのだろう、でてきた言葉は案外軽いものだった。

 

 『好きなものをどうぞ。それにこれは、返そうと思っています』

 

 理解不能なものを見る瞳が、今度はこちらに向いた。目に見えて困惑している様子であり首を可能な限りひねっている。

 

 『これは、お前にあげたもんだぞ』

 

 『それでも、元手は富田さんのものです。こうするのが筋だと考えています。ですが、もしも許されるならばこの資金、しばらく僕に借してほしいと思い、今日はここに来てもらい、お願いをしに来ています』

 

 『そりゃ喉から手が出る程ほしいがー…なんだ?事業でもおこしたいって……か?いや、違うな。レント、なにを考えてやがる』

 

 富田さんの表情が引き締まる。その視線はもうクシャクシャになった宝くじには目も向けず、こちらをじっと凝視するようだった。

 

 『急にこの紙切れを返すといったり、可能ならば貸してほしいと言ったり。本当ならばこんな大金手に入れたら狂喜乱舞するだろうし、経緯が経緯だから俺から金の無心をされない為にとんずらこくのが普通だ。てか、それが人間ってもんだろうがよ。だがお前はちょっと馬鹿正直すぎるし、こんな大金手に入れても目がちっとも浮ついていねぇ。なにがあった、こいつでなにをしようとしているんだ』

 

 『今の僕には、これは目的を助ける為の手段にすぎません。そして、この紙切れじたいに僕は執着はあまりない。所有権は富田さんにあると思いこうして返しにきただけです。僕は、貴方にだけは不義理を働けない。そのうえで、もし可能ならばこれを貸してほしいとお願いしているだけです』

 

 『なあ…お前今ちょっとズレてんじゃねーか?まともな感じがしねーよ』

 

 『利子とかそういうのは、時間がかかるかもしれませんが可能な限り…』

 

 『だからちげーって言ってんだろうが!』

 

 テーブルに拳が叩きつけられた。最初に運ばれた湯呑が転がり、緑茶がテーブルの上に広がった。何故かお茶は二股に分かれるように広がり、宝くじを濡らさない。

 

 『お前の面は、なにかやらかそうしている奴の面だ!ムショにぶち込まれた昔のツレと似たような顔してやがんだよ!なにがあった!?なにをやらかそうとしていやがるんだ!』

 

 『言えば、貴方に迷惑がかかります』

 

 『なのに金だけだせってか?虫のいい話だと思わないか?それとも、俺はそんなに信用ねぇかよ』

 

 個室とはいえ、大声をだされると漏れる。だが、なにも言い返せなかった。お人好しなこの人のことだ、理由と用途を話せば全力で止めに来るだろうと思う。

 

 それでも想像外だったのは、借りれないなら借りれないでこの宝くじを返すだけだと考えていた。だが、富田さんの視線はまっすぐこちらを見ている。テーブルに置かれたクジには目も落とさない。これは、馬鹿正直に話し過ぎた僕の落ち度か。適当に海外旅行をしたいからとでも言えば良かったか?

 

 でも、正直に答えることこそが、この人に対しての義理だと考えている僕もいる。

 

 『僕は西日本大震災で、片親となりこっちに引越してきました。ここまでは以前、話したことがあると思います』

 

 『そうだな。だが震災関連でこの金を使いたい訳でもあるめぇよ』

 

 『はい。ここには、僕以外もう一人震災で両親を亡くした女の子が越してきました。名前は三好梓と言い、中学までは同じところに通っていました。今は、鬼籍に入っています。動機は、虐めを苦にした自殺。死因は電車に飛び込んだと、目撃者の証言がとれています』

 

 『そいつは、また気の毒な話だな』

 

 『僕は今、そうは思っていません。気の毒な話、そんなことで片づけられるものではないと』

 

 三好牧氏が見せてくれた遺書は、梓の筆跡で自殺の動機について書かれていた。行われた虐めの内容と何人かのクラスメイトの名前があげられており、当時は何人かの生徒が槍玉にあげられ、一部の者は進学できなくなったとも聞いている。

 

 そんな虐めっ子の末路なんて、僕は当時まったく気にしていなかった。どれだけ考えてもやはりあの時期に、虐めで自殺といのは動機としては弱すぎる、そもそも梓は虐めなんて最初から気にしておらず、どちらかと言えば家庭内不和でストレスを溜め込んでいるような様子だった。

 

 環境を変える為に受験勉強を誰よりも努力していたし、共に勉強をしてきたからその必死さはよく分かっていた。第一志望に落ちての衝動的な飛び込みならば、まだ話は分からないでもないが、高校受験に成功したうえでこのタイミングでの命を絶つなんてやはり考えられない。

 

 それでも、僕が知らない苦悩や考えが彼女にはあったのではと、納得できないまでも呑み込むしかなかった。それしか、足を引きずりながらも前に進む方法がなかった。

 

 だが、実際に遺書に目を通してその考えは吹き飛ぶことになる。遺書にあった小さな癖字。いかに注意して書いたとしても、ほんの僅かに顔を除く綻び。それはここ最近よく見て来た癖であったからだ。

 

 あの後、家に急いで帰り埃を被った卒業アルバムを引っぱりだして三好家に戻った。突然飛び出していったかと思えば、アルバムを片手に戻ってきた三好牧氏の顔は怪訝なものとなっていたがそれを気にしてはいられない。

 

 各クラスメイトの顔写真がのったページ。目当ての人物の写真を指差して、こう聞いた。

 

 『葬式に訪れたのは、この子ですか』と。

 

 肯定の返事を聞き。まだ根拠は薄すぎるものの、確信に近いものを得ることができた。

 

 これを警察に持っていくことを考えたが、今更過去の処理された事故を事件として調べなおしてもらえるだろうか。目撃者すら曖昧になった何年も前もの事件だ、仮に奇跡的に全てが上手くいったとしても、子供の時に犯した事件が大人になって逮捕された場合、少年院送りはないものの減刑という扱いが多くなるようだ。

 

 僕の考えたことが全て真実であったとする。人を一人殺したというのに、法は充分には裁いてくれないとなると腹の底で黒いものが残る。いっそ全てを忘れてしまうということも考えてはみたが、それをしてしまうと今後二度と梓の墓を参ることはできない。

 

 まずは真実を見極める。個人で確信を得たとしても、客観視できる確定要素も必要だ。そしてそれを行う方法等、素人の僕には考えが及ぶものではない。やろうと思えば個人でやることもできるだろうが、時間がかかりすぎるし失敗する可能性も高くなる。

 

 餅は、餅やだ。そのためには金がいる。

 

 『……お前はその、三好梓とやらが実は殺されたと確信している訳だ。犯人の目途がついているようにも見える。だが確証はなく、それが唯一のブレーキになっている。違うか?』

 

 『いえ、その通りです』

 

 『そしてそのブレーキを、壊したくてたまらねぇってか。黙って金持ち去って勝手にやれよ、そんな話されたら、俺としちゃ止めるしかねえだろう……が』

 

 富田さんは言葉を選んでいるように見える。そして、ため息を吐いて額を抱えた。

 

 『浮かぶかよそんな言葉。陳腐な言葉しか出て来やがらねえ。お前の人生はこれからだ、手に入れた金で好きに遊べ。なんなら忘れちまえくらいだ。たく…嫌になる。肉親がいなくなって、もう止める相手もいないんだよな。俺がなんと言おうと、どうしようと止まらない。金が無ければ金がないなりに危険な橋を渡るだけ。……元カノがいた時、ぶち殺されたりでもしたら俺だったらどうするんだかねぇ』

 

 富田さんは店員の呼び出しボタンを押す。お茶が零れてしまったことの謝罪と、ついでに酒を頼んだ。料理の方を聞かれたが、も少し考えてからと断りをいれる。

 

 無言の時間が続く。零れた湯呑は回収され机の上は拭き取られる。その代わりに並んだのは、日本酒のとおちょこが二つだった。店員の気配が消えてから、富田さんは口を開く。

 

 『俺には、服役した友達がいる。いや、向こうは友達と思ってくれてるかな?とにかく、懲役は十年だったか十二年だったか、まだムショから出てこない。理由は単純に、彼女をレイプした連中を一人殺して残りを半殺しにしたからだ。本当は全員殺すつもりだったみたいだけど、騒ぎが聞かれたのか警察が来て逮捕された。そいつがおこした事件、良いとか悪いとかそういうのは別にして今でも思うことがあるんだよ』

 

 酒を杯に注ぐ。酒精が立ち昇り、それが目の前におかれた。

 

 『俺は止めたんだ。協力を求められた時、警察に任せろ、お前の人生を棒に振るなってな。そいつは怒りと憎悪と悲しみで、全員殺してから自殺しそうな勢いだったのを覚えている。当然だよな、廻された彼女、ドアノブにロープかけて逝っちまったんだ。でも、俺はそいつの悲しみを理解しきれなかったんだよ。どんなに親しくても家族でも他人のことなんざ理解できない。今でも忘れられねえし夢に見るよ、そいつは仇の連中と同じ目で俺を見やがった。それくらい、奴は本気でキレていた』

 

 『もしかして』

 

 『ああ、どこからかなんて言ったけど、警察にタレコミしたの俺だよ。レイプ犯共はどうでも良いとしても、アイツ等が全員死ねば、そのまま本当に自殺しそうな勢いだったからな。俺には、正面きって止める度胸はなかった。でもよ、俺がしたことは本当に正しかったのか?アイツが自殺したとしても、願望を叶えてやるほうが本当は正しかったのか?殺し損ねたことを気にして、自殺もできず、まるで抜け殻のようになった奴と面会してそう思った。正しいのか間違いなのか。そんなことを考えてたら、なにもする気がおきなくてね。それで、長いことフリーターやってたよ』

 

 『僕のことも、警察に話しますか?』

 

 『……いや』

 

 酒を飲み干す。テーブルに力強くおちょこを置き。どこか悲し気な視線をこちらに向けた。

 

 『お前は前からアイツそっくりの目をしてやがった。最近は何時にも増してそれに近い。だから、放っておけなかったが他人のお節介はここまでだな。金に関しちゃ俺はなにも言わねえ。お前を警察にもチクらねえ。だけど、一つだけ約束してくれ。逮捕されたとしても。どんな形であれ、生きて金を返しに来い。その券は借したものとして考えておいてやる』

 

 『分かりました。感謝します、富田さん』

 

 『誓えるんなら、その酒呑み干せ。今日はお前の奢りだ。今度は、返ってきた金で俺からお前に奢ってやる。必ずな』 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『久しぶりー』

 

 『ちょー懐じゃん久しぶりー。中学卒業以来?』

 

 ホテルのパーティー会場。披露宴を行う為に貸し出されたり、発生会や多目的スペースとしてサービスが提供されているエリアは今回は同窓会の会場となっていた。

 

 鳥次中学高、第●●期卒業生同窓会。長期休暇のタイミングも重なり、県外に進学や就職していた面子も集まり七割近く出席していた。

 

 スーツやドレス姿の元クラスメイト達がシャンパンを片手にオードブルを楽しみながら、あちこちのテーブルで会話を楽しんでいる。

 

 『きーりの!』

 

 『舞じゃん元気だった!?ちょー美人になったじゃん!』

 

 『えー桐野には敵わないって!さらに磨きがかかったんじゃない!?そうだ、蓮人君元気?今日は来てないの?彼氏になったって聞いたよー。でも別に、婚約とかしてないんだよね』

 

 『もーなにそれ、古い情報。あんなにとっくに別れたって!それよりも今はね、新しい彼氏がいてー見てこの人、城戸大学に通っている今カレ!イケメンっしょー!頭もちょう良くてー来年にはもう、四菱に就職が…ん?』

 

 桐野鳴は、久しぶりに会った旧友に自慢気に話しかける。しかし、その友達は、どうやら反応が悪い。せっかく新しい彼氏を紹介したかったというのに、せっかくスマホで画像を見せているのにそちらには興味もしめした様子もない。そりゃ他人の彼氏自慢なんて…と思うかもしれないが、目は爛々と輝いていた。

 

 『じゃあ蓮人君とは別れたの!?もー桐野!それなら早く言ってよ!蓮人君、まだフリーだよね。今日本当に来てないのかな?遅れているだけかな?』

 

 『ちょ…ちょっとちょっと舞。あんなのやめときなって。親の介護とか就職とかで、大学にもいけず工場なんかで働いているんだよ。あんな油臭い男と付き合うなんて、舞がもったいないよ。確かに顔は良いし勉強もできたけど、詰まんない男だよーあれ』

 

 『えー。そっか、知らないんだ桐野。実は今日、女子何人か蓮人君狙いだよ。願わくば寝取りを狙う勢いで』

 

 『なにそれ。ちょっと舞、どういうこと?』

 

 舞と呼ばれた元同級生が、はにかんだ。周囲の様子を気にしてから、静かに近づき耳打ちする。

 

 『如月市の別荘街。新しい豪邸建設されているって知ってる?』

 

 『え?それと蓮人がなんの関係か』

 

 『あれ、蓮人君のものなんだよ』

 

 『嘘!?なにそれ!?』

 

 あまりにも突拍子もない話で、つい大声になってしまう。あの霧生院蓮人が、将来を詰まらないことで棒に振り底辺に落ちた男がそんなものを建てられるなんて聞いていない。母親の介護で金が必要になるから、今すぐ就職しなければならないと焦る程だったはずなのに。

 

 『マジマジ。それ、マジでだ。建設している伊藤建築って、俺の叔父さんやっているところなんだよな』

 

 スーツを着た男が話に割り込んできた。桐野は思い出す、確かこの男はあの蓮人と同じクラスメイトだった筈だ。少し地味すぎて今この瞬間まで忘れていたが、衝撃で脳が何時もより覚醒したのかスルリと思い出すことができた。

 

 『てか知らねーの?今蓮人マジでやべーことになってるんだぜ?』

 

 『なによ、それ』

 

 『確か二年前か三年前くらいだったかな。アイツ、宝くじで滅茶苦茶な金額当てたらしいんだよ。それで、そいつを元手に投資だったか株だったかFXだったか始めたんだ。嗅覚が鋭いっていうの?とにかく滅茶苦茶稼いでるらしくてよー。いやー、てっきり今頃お前セレブ妻にでもなっているもんかと…ておい』

 

 伊藤が声をかけるが、桐野は離れていく。他の同級生に聞いて回っても、返ってくる内容は伊藤が話していた内容に尾ひれがついたかついてないかくらいの話だった。何故自分が知らないのか意味不明であるが、それでも嘘やただの噂と流すことはできない程話が広がっている。

 

 曰く。母親が死んだ後、宝くじで一等が当たった。

 

 曰く。今世界中で使用し始めている某AI産業に投資をしてリターンが莫大なことになっている。

 

 曰く。最近は東京で暮らし始めており、港区に本宅を構えている。

 

 どこを聞いても、霧生院蓮人が成功した話で溢れかえっていた。どこからが本当でどこからが噂か分からないが、それでも落ちぶれたなんて話はいっさい聞かない。

 

 逆に桐野に関しては、呆れや同情の言葉が投げかけられる。これでは、今カレを自慢して人生の幸運を皆に自慢する筈がこれではあべこべだ。

 

 『ああ、アタシ今東京の大学通っててさ。偶然会ったよ、蓮人君。ほらこれ、キャバクラで現役女子大生っての売りでバイトしてたけど、四菱のお偉いさんに接待される側で来ててさー。これ、記念の写真。ラインも交換してくれたし、アンタと別れたならアタシってもしかして脈あり?』

 

 そこには、テーブルでくたびれた服を着ながら、自動車整備工の本を広げていた蓮人の姿はなかった。スーツを着てネクタイを締め、高級そうな腕時計を身にまとっている。

 

 『……嘘』

 

 絶望と怒りが沸き上がってきた。だが、足はツカツカとある男に向かう。サッカー部の男達と話し合っていた伊藤の肩を掴み無理矢理振り向かせた。

 

 『馬鹿お前!酒が零れる!』

 

 『伊藤建設が別荘作ってるなら、蓮人君は今こっちに戻ってきてないの!?建設中の現場を視察とか色々な打ち合わせとか!』

 

 近くにいた何人かの視線が冷たくなるのを感じたが、桐野は気にしなかった。怒りが身体を突き動かし、外野の話など耳にも入らない様子である。

 

 『あ…ああ、そうだよ。確か今月末まではこっちにいるとかなんとか。自宅作業だからホテルでも仕事出来るって、そこのロビーで打ち合わせを』

 

 『どこのホテル!?』

 

 『伊佐ロイヤルプリンスホテルだよ!やべっこれって個人情報かな?』

 

 ツカツカと、桐野鳴は会場を立ち去っていった。馬鹿な女だ、半分本当で半分は嘘の噂話。もう少し、冷静に頭を働かせてから動けばこんなに悪目立ちしないものを。

 

 『ああ、もしもし蓮人君?伊藤だけど、こんな感じで良かった?』

 

 『ありがとう伊藤君。舞さんも名演技だったよ』

 

 監視カメラの映像で、伊藤君がこちらに電話をかけていた。舞さんも、手を軽く振っている。

 

 『いやマジ女ってこえーな。彼氏自慢したかと思ったら、それよりも良いご身分の相手を捨てたなんて話聞いて半ばヒステリーだよ。でも、わざわざ手間賃払ってこんなことさせる意図が分かんねーなぁ』

 

 『ちょっと、桐野鳴の本性というか確認したくてね。ちゃんと彼氏さんを愛しているならば、残念がりはせよ、こんな短絡的には動かないだろうよ』

 

 『違いねぇ。でもさ、蓮人君。噂ってどこまでマジなの?君に雇われた人達で、適当に噂話まででっちあげたけど。少なくとも、あの別荘が蓮人君依頼で建設ってのはマジだから、宝くじ当てたまで本当?』

 

 『半分本当くらいかな。じゃあ、皆には手間賃振り込みしておくから、後は同窓会楽しんで。ここは僕の奢りだから』

 

 通話を切る。今から伊佐ロイヤルプリンスホテルに移動しなければならない。伊藤君のすっとぼけ加減には感謝しなくちゃな。お陰で誘導が容易にできた。

 

 これからのことを考えれば、こんなやり方をすれば簡単に後で、警察でも介入すればすぐに疑いの目を向けられるだろう。だが僕は、そこまでは気にしない。

 

 桐野鳴は大学卒業と共に、結婚をする予定だということが書かれた報告書を鞄にしまう。人生の絶頂期に不幸のどん底に叩き落してやるつもりだ。仮に彼女が無実だとしても…梓を殺した犯人じゃなかったとしても、こんなに簡単に別の男になびくようならば残党な末路だろう。あの日、喫茶店で言われた言葉も忘れていない。

 

 さて、始めるか。

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