家族の仇は、娘でした   作:樫鳥

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 太平洋戦争。大東亜共栄圏を目指した日本は、アメリカとの戦いに敗北した。

 

 誰もが教科書で戦争についての授業を受けたし、その後の混乱期と長野オリンピックを開催するまで復興したことは歴史の教科書でチラリとでも見たことがあるだろう。

 

 戦後、配給では支えきれない市民の食生活を支えたのは、闇市と言われる非合法な市場だった。そしてそこは、日本の表舞台には語られない裏の戦場であったという。

 

 戦後GHQの指導により、日本は軍隊どころか警察まで銃器で武装をするのは禁止された。治安が揺らぐ中そこに流れて来たのは。愚連隊に博徒、中国系や朝鮮系の外国人組織等々だ。

 

 日本の警察が武装力を落とした傍ら、下手をすればあちら側から拳銃やライフルが出て来るようなとんでもない状態のなか、ヤクザな連中と警察は協力関係を結んでいた。表と裏から、協力して治安を維持しなければならない程追い詰められていたという。

 

 七条警察署襲撃事件等、少し調べてみればこの手の話がすぐに出て来るくらいだ。長野オリンピックが開催される辺りまで、この協力関係は続いたと言われている。

 

 そして、その混乱期である裏社会の戦国時代を利用しのし上がったのは西日本最大のヤクザ組織である清雅会。最近は暴対法による締め付けで事情が厳しいようだが、それでも裏社会の最大組織ということには変わらない。

 

 『ここか』

 

 時間は遡る。同窓会を行う二月程前、僕はとあるビルに訪れていた。

 

 楓花ビル。表向きはなんら問題ないビジネス街のオフィスビルに見えなくもないが、その内部はとある組織によって運営されている。清雅会直系組織、北村組。表向きは北村興行という看板を掲げているが、ここの自動ドアは間違いなく裏社会の入口だ。

 

 ビルの外に備え付けられているインターホンを鳴らす。まるで待ち構えていたように、ほとんどすぐと言えるタイミングでスピーカーから男の声が聞こえた。

 

 『どちらさまでしょうか』

 

 『霧生院蓮人と言います。西田さんとこの時間にアポをとっています』

 

 『お待ちしておりました。ロックを解除しますので、エレベーターで四階までお越しください。そこからは案内の者がおります』

 

 自動ドアが開かれた。ビルの一階はホールとなっており、清潔な受付に花を活けた花瓶が置かれている。壁には絵画が飾られ、別の来客もあったのか綺麗な女性受付がスーツを着た男性と話をしていた。

 

 すれ違う人物に頭を下げられる。サラリーマンのようにバチッとスーツを着こんでおり、テレビで見たヤクザのように代紋を掲げている様子もない。なんの変哲もない、会社に間違えて入ってしまっのかと錯覚してしまいそうになった程だ。

 

 エレベーターに入り四階まで昇る。四階廊下は幾つかの部屋の入口があり、やはり清潔感があると感じるくらいには丁寧に掃除がされている。エレベーターのすぐ脇には、それこそベンチャー企業でも立ち上げてないですか?と言いたくなるようなツーブロックの爽やかな男が笑顔で立っていた。

 

 『お待ちしていました。社長の元へ案内します』

 

 『社長…ですか?』

 

 『ええ。このビルの内部にいる時は、社長は自分のことを親父と呼んだり、目上の者を兄貴と呼ぶことを禁止していますので。今はおおっぴらにヤクザの看板を掲げて商売できる時代じゃありませんからね』

 

 暴対法は年々厳しくなっている。時流に合わせて、形が変わっていっていいるということなのだろうか。いっそ、ヤクザを辞めてまっとうな企業になれるのではと考えてしまうが、まあしがらみとかもあるのだろう。

 

 『社長。お客様をお連れしました』

 

 『入れ』

 

 ツーブロックの男が扉を開けて、どうぞと笑顔で語り掛ける。

 

 扉が開いた瞬間、木刀が飾ってあったり【仁義】とか書かれた掛け軸が飾ってあったりしているだろうと考えていたが、そんなイメージも吹き飛ばされた。

 

 大きくて立派なテーブルを挟むように置かれた数人がけの革張りのソファー。活き活きと葉を生い茂る観葉植物。棚にはファイルや経済学のものと思われる資料が綺麗に並んでいた。デスクの上には内線だろうか、固定電話とデスクトップにノートパソコンが置かれていた。

 

 『何年ぶりかな。正直君から連絡をしてくるとは意外だったよ。名刺を渡したことはあったけどね』

 

 『父の墓前以来でしたね。西田さん』

 

 西田成之。出会ったのは、中学を卒業してから間もない頃だった。梓の墓参りをしたついでに、父の墓を参ろうとした際墓石の前に立っていた人だ。なにかあったら連絡をしてほしいと名刺を渡されたが、北村興行になにかを相談するつもりはなかった。

 

 北村興行。不動産の扱いを中心に取り扱うヤクザのフロント企業だ。表向きは上場も果たした優良企業のようにもみえるが、裏側ではそれなりにあくどいことをしているらしい。

 

 何故そんなことを知っているかと言えば、震災関連の復興事業。跡地の区画整理で相当に幅を利かせていたという話を被災者の立場としてよく耳に届いていたからだ。元からそこに住んでいた人間を追い出し、その跡地を高く転売したり産業廃棄物の投棄場にしたりしている。

 

 震災で放棄された人目の付かない廃虚の管理者になりそこを立ち入り禁止とし、そこで非合法な薬物を売買しているなんて話もまことしやかにささやかれていた。それが真実であり虚実であれ、今まではこちらから積極的に関わろとは考えたことがなかった。

 

 『驚いた顔をしているね』

 

 『ええ、まあ。噂とはだいぶ印象が違うなと』

 

 『その噂も、虚実織り交ぜ敢えて流しているものだ。時には多少は情報を流し、警察さんに手柄をあげさせることで良い関係を築くこともできる。それに今のご時世、単純にヤクザ屋さんの看板を掲げるよりも動きやすい』

 

 『社長、それは』

 

 『良い、彼は全て分かってきている。電話でもう話してくれていたよ。ようこそ、北村興行改め北村組に。座ってくれ、あの日の約束通り話を聞こうじゃないか。蓮人君』

 

 金を手に入れてからまず行ったことは、北村興行について調べてみることからだった。なにせ、色々と都合の良い土地を探すにあたり、これから行おうとしていることに理想的な土地というのはだいたいはこの組織が所有していたからだ。

 

 どれだけ看板をすげ替えようが、所詮はヤクザ組織。縄張り意識に関してはそこらの野生動物よりも敏感であろう彼等を無視することは、万が一がおこった時の対応が厳しい。それでも普通なら、そのリスクを呑み込んで計画を実行するところだが、なんの偶然か繋がりが一つだけあった。

 

 父に世話になったという西田成之。どういう繋がりで助けになったか、その詳細までは流石に分からなかった。だが、墓前でこの西田という男が父をアニキと言いかけたことから推測はできる。どういう風に足を洗ったのかは分からないが、要は父もその手の組織にいた人間だったのだろう。

 

 そして今は、それをわざわざ嗅ぎまわるつもりはない。重要なのはここからだ。

 

 『場所と人手を貸してほしいという話だったね。何故そんなことを?』

 

 『何故、ですか。貴方も持っている土地の活用方法を考えれば自然と分かる話だと思いますが』

 

 『あまり腹の中を明かしたくないのは分からないでもないが、そういう態度は感心しないね。少なくとも君は、頼み事をしにきた立場だ。いくら君のお父さんに借りがあるとしても、今時は仁義という言葉の価値と価格は大暴落している。それが分からない程、世間を知らない訳ではないだろう?』

 

 『……緊張しているんですよ。この手のことは初めてなもので』

 

 鞄の中から、写真を一枚取り出す。桐野鳴と、付き合っている男が肩を組んで街中を歩く姿だった。

 

 『写りが悪くてすいません。今時は興信所も、金を積めばなんでもしてくれるという時代でもないようで』

 

 写真を一瞥した後、西田はこちらを見た。顔にはまだ笑みが張り付いているが、その目は笑っていない。

 

 『真実を知りたくて。その結果によっては、あまり人には言えないようなことも』

 

 『詳しく話を聞こうか』

 

 梓の遺書を目にした瞬間、僕には確信と衝撃があった。あの遺書は、よく似せて書かれた偽物だ。

 

 高校受験の為に梓と長い間共に勉強を教えあっていたからこそ分かる。そして、その遺書は誰が書いたのかも。大学試験勉強で、そちらにも長い間勉強を教えていたから。

 

 あの遺書には、隠そうとしても隠しきれない桐野鳴が書く文字の癖がほんの僅かに、しかし確かに出ていた。梓の死が飛び込み自殺だと判断されたのは、荷物に残されていた遺書とそれに書かれた中学時代の虐めが原因であったと判断された。だがもし遺書が偽物だとしたらその前提が壊れる。

 

 梓は、殺されたのではないか。だがなんの為に、殺された。

 

 動機が分からない。証拠もか細いものだ。だがだからこそ、納得を求めたい。彼女はもう、後は幸せになるだけだった。人生、ようやく不幸の取立から解放されて僕が幸せにしてやるだけだった。その為に、中学時代は歯を食いしばり努力を続けてきたというのに。

 

 西田には、僕が桐野鳴が三好梓を殺害したことを確信に近い形で目星をつけていることを話した。震災を生き延びた、これから幸せになる筈だった最愛の人がどうして殺されなければならなかったのか。

 

 警察も司法も、探偵と呼ばれるような人種だってもう何年も前におきた自殺事件の調査に手を貸してはくれないだろう。真実を手に入れる為なら、非合法の手段に手を借りる必要がある。その為には、必要最低限のラインとして彼等が持つ土地が必要だ。人員を借りることができれば、なお良い。

 

 『まずは、お茶でも飲んで少し落ち着きなさい』

 

 話している間に視界が狭まっていたのか、目の前に置かれた紅茶に気づかなかった。品の良いカップの持ち手を掴み、一口だけ呑み込む。

 

 『話しを聞いて分かった。君が何故最愛の人が殺されたことに確証をもてたのかは聞かないうえで、なおかつそれが本当だったとしよう。その上で、私が言うことは一つだ』

 

 西田が両手を組みながら前に乗り出す。顔には笑顔は浮かべず、これはおかしな話ではあるのだが裏の社会で生きる人間にしては良識が前面に出た表情をだしていた。真剣に、心配して伝えているような。勿論、そういう仮面が役に立つ時が多いので、演技が上手いだけという可能性もあるのだが。

 

 『短絡的に行動に移さず、私の管理地でこれから行うことの協力を、もしくは見て見ぬふりをしてもらおうと交渉に来るのは、その慎重さから少なくとも考えを絶対に成功させようという気概も見て取れる。でもね、私がこういうのもなんだが、非合法というのは手を出せばリターンは大きいがリスクがあるからこそ非合法なんだ。得にならないことで地に足のついた生活をしている君が、わざわざ汚れる必要はない』

 

 『それは一般論ですか?』

 

 『一般論、もしくは世間では常識というがね。それで納得できないのであれば言い方を変えよう、我々のリスクとメリットが噛み合わない。我々は暴対法の中でも警察組織とも、多少持ちつ持たれつの関係を築いているのは知っているだろう?土地を貸すだけでも、万が一なにかあったら鼻薬の代金も安くないんだよ。日本は世界中でも、賄賂が効きにくい警察組織と言われているくらいだしね』

 

 山で死体遺棄をしようとした犯人が通報されて逮捕されるまでが、僕が住んでいるこの地域では非常に多い。それに適した場所は北村組が管理ないし監視をしているのだから、警察に情報提供をしているのではないだろうかという話すらある。

 

 そして、その噂は事実なのだろう。先程話にあった、警察にあえて漏らす情報というものにはその手の事件情報もあるのだろうから。だからこそ、少しでも警察に嗅ぎ付けられるのを遅れるように、もしくは完全に見つからない前提をだすならば北村組に話を通すしかない。レンタカーを借りて県外まで捨てに行くという手段もあるかもしれないが、可能ならば人手がほしいのも確かだ。

 

 『私が君にあの時名刺を渡したのは、早くにお父さんを亡くしてしまった君達のなにか助けになればと思ってのことだ。生活費とか学費、もしくは母子家庭故におきてしまう問題などを解決する為にね。いいかい?人を…』

 

 『その鼻薬代、用意できると言えばどうですか?』

 

 鞄からA4用紙をしまうことができる茶封筒を取り出し、テーブルの上に置く。茶封筒は長方形の形に複数膨らんでおり、封を解いて少し揺すれば百万単位でまとめられた札束が姿を現す。

 

 『これは?』

 

 『場所のレンタル代金と、考えてもらえれば。迷惑料金と、少し手を借りるうえでの手間賃として納めてもらえれば』

 

 全てを言い切る前に、身体が横に薙ぎ倒される。衝撃が頬から伝わり、少し遅れて殴り飛ばされたことが分かる。血がソファーのうえに垂れた。殴られたことで鼻血が出て来たのだろう。

 

 『お前、俺達を殺し屋とか掃除屋かなにかと勘違いしているんじゃねえか?金を積めば、言うことを聞くとでも考えているのか?』

 

 殴ってきた相手は、傍らで待機していたツーブロックの男だった。胸ぐらを掴まれて脅しをかけられる。秘書かなにかかと考えていたが、護衛でもかねているのか?先程の爽やかな笑顔がまるで嘘のようだった。

 

 『やめろ』

 

 『しかし社長、こいつの言い方は』

 

 『やめろ、と言っているんだ。二度言わせるのか?それに、そいつの目は怯えてもいないが死んでいない。腹を括っている相手に恫喝が通用しないのは、お前が一番よく知っているだろう』

 

 渋々と言いたげな様子であるが、胸ぐらから手を離される。改めて、僕が向かい合うのはこの西田という男だ。

 

 『ティッシュはいるかい?』

 

 『いえ…ハンカチがありますので』

 

 『ならば良かった。血が服を汚す前に使いなさい。だけど、部下が行った蛮行を謝罪するつもりはないよ。私達はこれでも社会の端くれだという自覚はあるんだ。殺しの片棒担ぎ等、はした金でやるとでも?まして君には、いくら動機があろうと泥の中に浸かるような道を歩むのはどうしてもお勧めできない』

 

 西田が紅茶を一口飲む。大金を見せれば、協力関係はともかく、少なくとも好意的中立くらいは築けると計算していたのだが対応を変える様子は見せない。どちらかと言えば、部下のことも考えれば大金を見せたことで心証を悪くしたような感じすらある。

 

 『人を呪わば穴二つ、なんて言葉もあるけどあれは決してオカルトではない。後ろ暗い過去がある者はこの先の人生、それをずっと引きずって歩くことになる。殺しともあればなおさらだ、殺人の時効が無くなりもう何年経つと思っているんだい?今時、十五年や二十年で逃げ切ればなんて話もないんだよ。この先君は、公権力の陰にずっと怯えて暮らすことになる。それを手助けすることは、君のお父さんには勿論お母さんにも申し訳がない。まだ帰る場所があるのだから馬鹿な考えは…』

 

 『母は亡くなりました』

 

 『それは、知らないかったな。申し訳ない』

 

 『西田さん。僕には引き返す道はありません。生きる意味が無くなったからこそ、僕自身が生きる理由を問いたいのです。その為ならば、貴方がたの助けを得られなければ僕は一人でもやるつもりでいます。どうしても僕は知りたいのです。なにが、どうして、何故、梓が死ぬことになったのか。その為ならば、金も惜しまないし先の心配も必要ない。警察や司法、探偵はすでに過去の、自殺として片づけられた過去を調査等してくれない』

 

 テーブルに拳を叩きつける。紅茶の杯が倒れ、握りこぶしから滲んだ血が液体と混ざり広がった。

 

 『その生きる意味を問う手段、君には本当にもうこんなことしかないのかい?』

 

 『残念ながら。今は真実を知ること、そしてその真実によってはいかに落とし前をつけるか。それ以外、なにをしていいのか、なにをしたいのか僕にはもう分からないのです。』

 

 『そうか……おい。若くて暇しているの、何人か動かせるか?それと、最近使っていない処理場の準備をしておけ』

 

 西田の言葉に、ツーブロックは驚いたように眉を動かすがすぐに表情が仕事のものに戻る。

 

 『問題ないです。しかし、多少金はかかりますよ』

 

 『かまわないさ。必要経費を払えるくらいの金銭は、彼が用意しているようだからね。さて、蓮人君』

 

 柔和な笑みを浮かべながらも、西田の表情は驚く程変化していた。優しい顔をしているのに、静かな威圧感がある。ここから先は、恩人の息子ではなく交渉相手としてこちらを見ているということか。

 

 『ここから先はビジネスの話に入ろうか。取り合えず、必要な物と人員、場所を言ってごらん。人を動かすには経費がかかる。分かりやすく、見積でも用意しようかな』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 六日後、僕は宿泊したホテル近くにある古い喫茶店に入る。

 

 待ち合わせを伝えると、奥のテーブル席に案内されそこにはスーツを着た男性が二人がおり立ち上がりこちらに会釈をした。代紋のバッチがないせいか本当にヤクザには見えない。

 

 『霧生院さん。頼まれていた男の調査が終わりました』

 

 『ありがとうございます。興信所も動いてくれない今、貴方達の情報が頼りです』

 

 茶封筒が受け渡され、中身を軽く確認すると数枚の紙と写真が数枚入っていた。

 

 『河野楽斗。城戸大学在学中で、来年には大手自動車メーカーに就職が確定しています。在学中はクラブに通ったりビリヤードのサークルに入り楽しんでいたどこにでもいるような気楽な大学生というところです。だけど、金遣いが荒く女癖が悪いという話もよく聞きますね』

 

 紙には、河野楽斗というあの日僕と完全に分かれを注げた桐野鳴が連れた男の詳細が書かれていた。交友関係によく出入りする店。周囲の評判に、おこしたトラブルの詳細やよく行くデートスポットまで。そして、笑えることにこの男はどうやら三股までかけているようである。数枚の写真はその証拠でもあった。

 

 『この短期間で、よくもまあここまで調べられるものですね』

 

 『ビジネスは情報が大事です。それに、多少非合法な手段を行使できるのが我々ですから』

 

 真面目な若いサラリーマンにしか見えないこの男も、ヤクザ組織の一員だと考えれば油断できない相手だ。インテリヤクザなんて言葉もあるが、北村興行では上から下までその手の人員がいると考えれば恐れ入る。

 

 『桐野鳴は、どうやら本命ではなく金を引いたり遊びの関係であるようです。就職しての行く引越し先の物件選びは、本命と探しています。これを暴露するだけで、相当なダメージになりそうですね』

 

 『いえ、それはしません。ですが、これで方針はだいぶ塊ました。考えていた作戦が使えそうです』

 

 桐野は、僕が大学の進学を諦めたことで捨てる決断をした。そして、貧乏だったり低学歴相手はしたくないという魂胆がある。チャラいが顔が良く、城戸大学卒業見込みで大手の就職が決まっている河野楽斗は是が非でも捕まえておきたい相手なのだろう。下手をすれば、別の相手がいると分かっていながら略奪愛を狙っている可能性すらある。

 

 『作戦ですか。我々としては、もう少し直接的な手段をとっても良いと思うのですが。その方が経緯もかからず、なによりてっとり早い』

 

 チラリと外に止まっているハイエースに視線を向けた。まあ、つまりそういう手段をとるならば余計な手間も時間もいらないと言いたいのだろう。

 

 『僕だけの行動ならば、リスクを計算して、充分に考慮したうえで短期の決着狙いに実行するかもしれません。ですが、今は人手がある。ならばじっくりと見極めたいのです。改めて、桐野鳴という人間を。もしかしたら、これから手にかけるかもしれない人物を』

 

 『そうですか。まあ、我々は社長の指示に従い、危険がない程度に手を貸すだけです』

 

 『ではさっそくお願いがあります。如月市で別荘を建築している伊藤建築。建築業と不動産や土地に強いそちらとは蜜月の関係と聞きます』

 

 『そうですね』

 

 『その建築物件、依頼主を一時的にでも良いので僕名義になるように工作をお願いします。かかる費用はまたこちらで、できそうですか?』

 

 『一時的にだけならば、いくらでも誤魔化すことができますよ。その後のっとるのでもなければ』

 

 『僕に別荘なんていりませんよ。あともう一つ、噂をばら撒いてほしいのです。僕が、成功したという噂をね。特にこの、河野楽斗の周辺で』

 

 黙っていたもう一人の男は、どこか呆れ顔のようなものを浮かべていた。自分がもし相手の立場ならばそれも分かるというものだ。だがしかし、これも桐野がどう動くの、どのような人間なのか本当に見極める為である。

 

 作戦は固まった。後は、準備をするだけだ。

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