家族の仇は、娘でした   作:樫鳥

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 『嫉妬?』

 

 意味が分からない。

 

 桐野にはなんでもあった。ダンス部でエースを張れる身体能力も、多数の友達を持つコミュ力も、温かい家庭や金持ちの両親だってなんでも持っていた。そこからなんで、嫉妬なんていう言葉が出てきたのが理解ができない。

 

 『まさか』

 

 信じられないという感情が表情に出たのか、こちらの様子を見て少し桐野の雰囲気が変わった。

 

 『三好梓は、協調性もないし喋りかけてもボソボソと話してこっちを避けるだけ。それなのに冷めた目でこっちを見下しているような雰囲気があった。自分はここの連中の誰とも違う、特別な存在なんだと言いたげのね。そんな陰キャなのに、なんでアンタはアイツを構ったのか』

 

 『梓は、僕と同じ震災被害者だ。だから…』

 

 『当時のアタシは本当に貴方が好きだったの。周囲と上手く馴染みながらどこか遠くを見ているのが魅力的だった。それに正直言って、あの子に負けているところは一つもないのになんでアンタが三好梓に惹かれているのか理解ができなかった。あんな子がアタシのほしいものを奪っていくなんて許せないでしょう?』

 

 こちらの動揺をとったのか、急に堰を切ったように話し始めた。桐野が梓を虐めなかった理由は、単純に関わるまでもないと考える程見下していたからか。そして、手に入れられないものがそんな見下していた相手にとられそうになっていたことがそんなに悔しかったのか。

 

 『このままだとダメだと理解したから、強硬手段をとらせてもらったのよ。でもさ、アンタって外面は良くても中身はなんにも詰まっていない。それでも、将来性に投資していたつもりが気づけば要介護の親を持つ高卒なんてそんなオチがある?お金にも苦労して、介護に時間をとられて、そんな将来、労力と対価が伴わなくて全部後悔した。自慢できるアクセサリーにもならない。今している、しみったれた面を見ていたらなおさらそう思う』

 

 『……はは』

 

 中身はなにもないか。確かに今まではバイト尽くしで青春を蔑ろにしたかもしれない。これから幸せにしたい人達はみんな亡くなった。そうなってやっていることと言えば、こんな薄暗い地下室でもう出会うこともないと考えていた女に大金使って過去をほじくり返していることくらいだ。

 

 桐野の無念を晴らそうとか、そういうことすら考えていなかった。何故とどうしてが氷解した今、僕がこの先やりたいこととはなんなのだろう。

 

 『お前の言う通りかもな』

 

 部屋の隅にあった鉄パイプを拾う。

 

 『殺すの?考えなおしてよ。殺したら後悔する。今のアタシのように、過去がいきなり襲ってくるよ。きっと逃げられない。殺さない方が良いと、殺さなくて良かったと絶対思うよ』

 

 『梓の手向け、なんて考えてもしょうがない。これで過去との決別がつくのかと考えてみたけど、多分失ったものは一割も戻らないだろう。ならば自分の為にこれ以上罪を重ねてしまうのは良くないからやめようか?今なら刑期も十年以内ですむかもね』

 

 梓のことはこの先も引きずるだろうし、こいつを殺したところでその瞬間だけ気持ち良いだけだろう。自首なりなんなりしたところで、どうせこの先のことを考えたら刑務所にいるのも外にいるのも代わらないか?なら大金でも使って無意味に豪遊する?いや、あの金は富田さんのものだ。これ以上無駄に使えない。

 

 『そうだよ、だから』

 

 『でもさ、例え刑期が十年だろうと無期懲役になったとしても僕はこの先なにも代わらないよ』

 

 せめて劇的な動機があったのならば、殺さなくてはいけない理由があったのならば、誰もが同情するような背景があったのならば。何故梓が死んだのか、その死に意味はあったのか?何度も自問自答していた解答を求めていたが、考える限りのくだらない理由だった。

 

 梓は、無駄死にした。その解答が僕が生きて来た理由、最後の疑問の答え合わせだ。

 

 『無意味に殺したならば、無意味に殺されるべきだ。僕も、そうなるかもね』

 

 握った鉄パイプを振り下ろす。悲鳴のような、制止の言葉が途切れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『やったのか?』

 

 やることをやり終えて外に出ると、ツーブロックの男がいつの間にか来ていた。取り巻きの者達も、会社で見たのとは違いどこかチンピラ風だ。こういう汚れ仕事なら、それに相応しい人材がいるということか。

 

 鉄パイプを放り投げる。ライトに照らされたそれには、赤いものと髪の毛が巻き付いていた。殴打している最中、殴る感触が耐えず手に伝わっていたのだけを覚えている。顔面の原型が無くなったから、一度手を止めたら深呼吸のような変な息を二回して動かなくなった。

 

 何回か命乞いをしたような気もするが、もう意図して聞かないようにした。どうせこの先、ここまで顔面が変形したらこの女は生きてはいけないだろう。これでも、昔は好きだったなと考えるくらいには気持ちは摩耗していなかった。逆に言えば、それで手を止めない程度には摩耗していたか。

 

 無意味に殺した者は、無意味に殺されろ。

 

 頭に衝撃。正面から倒れ込み、地面に生えた草が口の中に入った。液体が後頭部から垂れる感覚がある。

 

 『社長が何度も言った筈だ。最終手段は可能な限り避けた方が良いとな』

 

 ツーブロックに髪の毛を掴まれ、持ち上げられる。ヤンキー座りをしながら口に煙草を加えている様は、ヤクザっぽくて様になるものだ。どうでも良いが。

 

 『うちの管理で運営している処理場での殺人だ。足がつかないように、外部のもんはこうすると決めている。自分で手をだした、下手人ならば尚更な。どこからか足がついて捕まっても、自首されても、困るしな。おい、トドメさせ』

 

 再度衝撃が頭を襲う。後頭部がえらいことになっているせいか、視界に赤色が広がり光がチカチカし始めた。

 

 『おい、こいつの家の鍵と財布にカード類はちゃんと確保しているか?まだたんまり金を持っているだろうから、それも有効活用するぞ』

 

 ポケットから財布を抜かれる。強盗殺人、でも僕の遺体は見つからないから失踪扱いか。

 

 どこまでも金か。口封じも目的だけど、それならば死人を増やして負担を増やす代わりにひと稼ぎしようとも思ったか?どいつもこいつも、似たようなことで他人を蹴落とせるものだ。それとも、それはそんなに良いものなのか?偶然僕が手に入れたこれは、そこまで良いものなのか?

 

 誰もかもが自分勝手に生きた。そのツケを払わされた梓は、なんの為に産まれたのだろう。そして僕は、なんの為に生きて来たのだろう。

 

 急に視界が明るくなった。山の向こうから、太陽でも現れたかのように周囲が照らされる。足と手に力が戻った。僕は、その明かりに向かい歩きはじめる。理由は特にはない、どこにいっても同じならば前に歩いてみようと思っただけだ。

 

 想像以上に足裏に力が入った。身体が軽く、ついさっきまで頭を殴られ這いつくばっていたとは思えない程だ。いつの間にか、頭の痛みも引いている。これは、僕は死んで幽霊のような状態にでもなったのだろうか?

 

 『おい、なんで動けるんだ!殺すつもりで殴ったんだろうな!?』

 

 『クソ、なんだこいつ!明かりもなしにどこにいくつもりだ!?』

 

 『逃がしたら殺される!捕まえてトドメを刺せ!』

 

 後ろから声が聞こえるが、ドンドン離れていくのを感じる。光はいつの間にか夜の闇を晴らし昼間よりもなお明るく周囲が輝いていた。

 

 【決めました】

 

 頭の中で反響するような声が聞こえた。やまびこのように、山々をこだましているようにも聞こえるが、それは大声のようなものではなく耳元で囁かれているようにも感じる。とにかく、不思議な声だった。

 

 『なにが』

 

 【レント=キリュウイン。人の業に触れ続けた青年。人の欲に絶望した人間よ。貴方を招きましょう、全ての人間にあまねく福音を届ける為に。人が真の姿、清く正しい存在に昇華させる為に】

 

 『……はっ』

 

 気の利かない幻聴だ。そんなどうでも良いことを頭の中で囁くくらいならば、出来るならば父や母との思いでや梓と過ごした時間を走馬灯で再生してほしかった。それに、こんな状況だというのに反論だって湧いてくる。気持ちが妙に軽いせいもあるだろうか。

 

 【なにか?】

 

 『別に、欲に絶望なんかしていないよ。むしろ、今は興味をもったくらいだ』

 

 他人を蹴落とし、金を稼いで好き勝手使い、身勝手な理由で場合によっては命すら奪う。その快感というものをまだ僕は知らないのに、勝手に欲望に絶望してはいけないだろう。

 

 『清く正しいってどういう意味だ?』

 

 人間がそんなものであるとは到底思えない。逆に、清く正しくないから人類はここまで発展してきたのではないだろうか。例え人間が土くれから生まれようが、猿からの進化だろうが、その他の要因からだろうがそれは変わらないのでは?

 

 『福音だとかいうのなら、神様かなにかなのかな?清く正しい人間ってアンタから見れば、どういう人間なんだ』

 

 地面が斜面となる。獣道のようなところを昇り続け、光に照らされる方向に向かった。足を止めれば、追いつかれて今度こそ殺される。殺される前に、この幻聴がなにをほざくのか聞いてみたくなった。

 

 その解答を聞きたいが為に、足を進める。信仰心にでも急激に目覚めているのかもしれないが、聞いた言葉に……神言に僕は笑った。

 

 心の底から笑った。流石は神様、傲慢で力づく。いやはや、こんな戯言を聞くことになるとは思わなった。こんなに愉快な妄言を聞けるならば興味範囲の外だった宗教学でも勉強しておくべきだっただろうか。

 

 『そんなことが可能だとは思えない。まるで原始共産主義よりもタチの悪い荒療治、いやユートピアか。確かにそれは、神様が真に臨んだ人間なのかもな。リンゴを食わなかった世界線でもあるのか?笑える』

 

 【人は間違った方向に進んでいます。それを正すには貴方の言うところの荒療治が必要なのですよ。そして、貴方はその使途となれる。私が世界を除き続け、選んだ貴方ならば】

 

 『悪いけど、慈善事業はできる身体に見えるか?』

 

 【貴方にはあらゆる力を収める為の器がある。怪我等問題にすらなりません。貴方は力を好きに振るえば良い。その代わりに、私の行いに協力をすれば良いのです】

 

 『僕がやりたいことは、神様のやりたいこととは真逆のことだけど?』

 

 誰もがかれもが惹かれる欲望。金や、裏切り、使い捨て、甘い言葉で誰かを囁きそれを利用し裏切る。やられたことを、やり返す。それを果たさないと、神様とやらが語る大層な妄言には付き合えないだろう。

 

 いつの間にか、光の発する終点に辿り着いていた。終点があったことに驚きながらも、古めかしい鳥居が見えた瞬間どこか納得してしまった。八百万も神がいればとんでもないことを言いだす者がいても不思議ではないだろう。もっとも、この幻聴と幻覚が頭に受けた衝撃ではないとしたらだが。

 

 光は古い、管理を何年もしていない神社の中から漏れていた。扉を開くと、内部も光のことを考えなくてもだいぶ奇妙だ。

 

 神社の祀られていたのは、井戸だった。床の一部がくり抜かれており、一段低くなっていた場所に、まるでホラー映画に出てきそうな古めかしい井戸だ。

 

 【経過は好きに過ごせばいいのです。最終的に、貴方も納得する。いや、せざるを得ないでしょう。さあ、こちらにおいでなさい。人類史に偉大なる一歩を刻む為に】

 

 『前向きに自殺させてくれるとはね。至れり尽くせりだ』

 

 不思議となにも感じない身体が最後に見せた奇妙な現象。僕はそれを受け入れることにした。どうせ、このままでは死ぬのみだ。僕を終わらせる要因は、僕自身が良い。こんなことでまで、誰かに振り回されるのはごめんだ。

 

 ただし、本当にこれが神様の示した道というのであれば。

 

 『僕は僕の好きにやらせてもらう。体験もしていないことに否定はできない。ひとまず、誰かを利用して、蹴落として、甘言を囁いて、快楽にふけるような生活でも送ろうかな。その上で、その目的とやらに付き合わせてもらうよ。最終的にどうなろうが、どうでも良いしな』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『いたか!?』

 

 ツーブロックの男が叫ぶ。後頭部に致命傷を二発もらった半死人が、まるで明かりの中を歩くように足取りを確かに暗闇を駆けて行く。西田より裏側の仕事を任されていた男にとってそれは初めてのことだった。ここで取り逃してしまうのは、過去最悪の汚点だ。

 

 血痕が廃神社にまで続いているのが見えた。鳥居はなにがあったのか半分焼けて崩れており、その神社の名前を確認すらできない。

 

 部下がライトを照らしていくと、苔むした石床に血が続いている。神社の本殿に逃げ込んだか。

 

 追いかけながら、本殿の扉を開ける。誰かがその不気味さに呻くような声をだす。

 

 かつてカルトがここにいたと聞いたことはあるが、連中がやっていったのか本殿の中は古めかしいお札が大量に張られており、そのうちの半分以上が火であぶられたかのように焼け落ちている。

 

 祭殿がある筈の場所には黒塗の井戸が存在していた。注連縄もライターで焙られたかのように焼けて落ちている。所詮それだけの狭い空間だ。だがそれなのに、奴の姿はどこにもなかった。

 

 『いない』

 

 『血はここにしか残っていないのに』

 

 軋む床を歩む。血痕は、井戸まで続いておりそこで途切れている。もしや井戸の中かと考えたが、井戸じたいが頑丈な石の蓋で封をされており更にその上を古いが頑丈そうな木材を釘で打ち込んで誰にも開けられないように封印されていた。よくみたら、コンクリートも使い執拗にあかないように補強もされている。

 

 『まさかな』

 

 聞いたことがある。ここで活動していたカルトは、山岳信仰の類を盲信していたと言われている。そして、ガキの頃祖母によく聞いていたが山岳信仰には神隠し伝説がセットになっていることも多い。悪いことをしている子は、山の神様に連れて行かれるとよく脅されたものだ。

 

 『知恵の回るガキだ。よく探せ、必ず近くにいる筈だ』

 

 男はそう言いつつ、背中に一筋の汗をかいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「今日もお仕事頑張ったぞいっと」

 

 独り言を言いながら、鍵を開ける。ただのバイトから雇われとはいえ店長になった手前これまでのように好きにはできなくなった。だがしかし、思いのほか今の生活も悪くない。

 

 悪いところは少しづつ改善、良いところは更によく。そんなものは誰もが考えることではあるが、それを鼻で笑うか少しでも考えて実行するかは別問題だ。少なくとも、バイトの離職率を少しでも下げられるようになってくれないかなと思っている。

 

 「あ、どうも。富田光宇さんですか」

 

 マンションの部屋に入ろうとした瞬間、声をかけられる。丁度配達をしてきた配達人の兄ちゃんがデカい段ボールの大荷物を抱えながら額に汗を浮かべていた。いやはや重そうだ。

 

 「実はそれ、コウじゃなくてピカチュウって読むんですよ」

 

 「へ?え?ピカチュウさん?」

 

 「配達お疲れさんでーす。でも、誰からだそんな大荷物」

 

 今の俺にそんなデカい荷物を送る人がいるだろうか。アマゾンで買い物をした覚えもないし、詐欺みたいなもんだろうか。

 

 「えっと、霧生院蓮人さんって人から。支払いは既にされているので、受取の印だけお願いします」

 

 「は?レント?分かりました。とにかくサインで良いですかね」

 

 兄ちゃんからボールペンを借りて受取受領に名前をかく。部屋の中に荷物を運びこむと、ようやく重さから解放された兄ちゃんが怨めしそうに荷物をみた。確かに受け取ったが、かなり重い。なんだんだこれ。

 

 段ボールには、キャリーバックと書かれていた。カッターで中をのぞくと、赤色の馬鹿デカいキャリーバックがスペースのほとんどを占拠していた。いや本当にでけーなこれ。特注?こんなの普通の店では見ないぞ。

 

 だがそれにしても、この重さは不自然にすぎる。バックの中にはなにかが詰まっているように感じた。

 

 鍵を使いバックを開けると、中には万札が束となり限界近くまで詰まっている。驚きで短い悲鳴をあげてしまいそうになったが、よく見るとバックの内ポケットに茶封筒が入っていた。嫌な予感がして、金は一度置いておいてその茶封筒を開く。

 

 【万が一、僕が戻らない時に備えて手つかずだったお金をお返しいたします。もしも、最悪なことがおこれば、全額返金はできないでしょう。最後まで迷惑をおかけして、本当に申し訳ありませんでした。どうか、姿を暗ましたなら探さないでください。警察にも相談しないでください。今後、霧生院蓮人は死んだものと考えていただければ幸いです。僕の人生で、家族や三好梓以外でここまで僕のことを考えてくれた貴方だけでした。貴方の今後を、心の底から祈っています。本当に、本当にありがとうございました】

 

 手紙が、水滴で濡れる。力を込め過ぎたようで、クシャリと紙が歪んだ。

 

 「生きて、金返しに来いって言ったじゃねえか」

 

 確定はしていない。だがしかし、蓮人はもうこの世界にはいないだろうということは直感で分かった。それも、あまり良くない形で。

 

 ただ積まれた紙束が、無意味なものに思えてしまう。友達を無くす方が、これが全部燃えてしまうよりも辛かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目の前で殴り合いに応じるのは、ランザ=ランテ。

 

 こういうのも気持ちの悪い話かもしれないが、人の親なのに何故かその顔は父さんを思い出すものだった。顔立ちなんて、全然似つかないのに。

 

 それでも、自分のしたことと歩んできた人生が間違いだらけで、それでもなんとか前に進もうとあがく様は今にしても思えばあの時の父さんだったかもしれない。親父と息子は喧嘩をするものというが、流石にこの感傷は我ながら気持ちの悪いことだ。

 

 「お前の考えだと?」

 

 この世界に来たことは、結果として間違いではなかった。

 

 大して深くもない正義感を振りかざした。名声を得たし、それに付随してきた金銭も莫大なものだった。

 

 ハーレム遊びもした。その為に、手っ取り早い手段として洗脳のようなことも行った。だけど気づけば、僕はなにをやっている?

 

 いつの間にか、ハーレム遊びもしなくなっていた。金も派手に使ったことはあったか?正義感も特に発揮できる機会もなくなった。甘い言葉も、奴隷解放も、派手な遊びも、僕にとっては欲望を知る為のうわっ面だったということだ。どうせなら、そんなことも考えられないような悪辣な人間だったら良かったものを。桐野、お前は正しいな。僕はなにをやっても、中途半端なものだ。

 

 ランザになんとなく父さんの面影を思い出したように、テンになんとなく僕は梓の面影を見ていた。

 

 どんな表情をしていても、あの眼は見たことがある瞳だったからだ。自分を壊すようなことがあって、一刻も早く大人にならなければいけなかった少女の目だ。

 

 最初は分からなかった、何故あれ程テンに惹かれていたのか。最初はまるでアニメの世界から出て来たような美女に心が動かされたのだと思った。だがしかし、幼児退行した彼女を見ていたらそれは勘違いであると気づいた。

 

 俺は、僕は、三好梓に顔向けできるような人生を送っているのだろうか。最近は、そればかりを考えてしまうようになっていた。

 

 「貴方とテンの間になにがあったのかは、この際問いません。しかし、これだけは言わせてください」

 

 「言ってみろ」

 

 言わせてくれるんだな。優しいこって。所詮僕は貴方の敵だぞ。

 

 「テンは幸せにしてみせます。貴方はそのテンを殺そうとしている。全力で、止めさせてもらいます。どんなに歪んでいても、どんなに間違っていても、なにがあったのか僕には分からなかったとしても…あんな子供であることを諦めた目をしている子が不幸せになることは許さない」

 

 ランザさんは、戦いの最中であるというのに目を閉じた。そして、腕を軽く振るい赤黒い、悪竜の蛇腹剣を出現させる。

 

 「どんな理由があるにせよ、テンは様々なものを踏みにじってしまった。俺とて、似たようなものだ。アイツは幸せになることはできない。俺はテンを幸せにはできない。出来ることは、親として今のアイツにしてやれることをしてやることだ。それは、お前とは相いれないことなのだろう」

 

 重い言葉を吐いた。殺意はあるが、敵意はない。そんな感情が、言葉にのっている。

 

 「だがアイツの育て親として、今のテンにそんな言葉をかけてやれる相手がいることは感謝するべきかもしれない。それを言うのが、クーラやそのほかに酷いことをしていた人間が吐く言葉だと思わなければな。それが本心だと証明したいならば、今一度来い。こういう場でしか、見極められないこともあるだろう」

 

 「分かりました。行かせてもらいます」

 

 大剣を握り、光が放たれる。正面から走りあうが、互いが衝突することはなかった。首都全体が、まるで地震のように大きく揺れている。あまりの異変に、互いに動きが止まり顔を見合わせる。

 

 「ランザ!」「レント隊長!」

 

 互いの味方が駆けつけてきた。ほぼ、同時にだ。

 

 「鳥が急報持ってきやがった!ヤベーぞ!ハボックが襲撃を受けている!」「カナリア副隊長が一部隊を率いて独断で攻撃したもよう!目標は、ハボックです!」

 

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