家族の仇は、娘でした   作:樫鳥

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 攻撃が通用しない。坑道を爆破し、足止めすることは多少の効果はあったが、逆に言えばそれだけで充分に時間を稼ぐことは不可能だった。

 

 狭い洞窟で、振りやすい短い石斧。地の利もある以上多少の分はあると踏んでいたが素の戦闘力が違いすぎる。

 

 「止めろ!ここで止めろォ!」

 

 「点火しろ!」

 

 火薬が爆発し天井が崩れる。粉塵が巻き起こり落盤がおこり、通路が一つ潰された。これで多少は時間稼ぎができる、そう考えた瞬間導火線に火をつけたコボルトの首と火がついた導火線がズルリと落ちる。

 

 クーラよりも一回り小さい小柄な影が走る。後先考えない遮二無二の特攻、本来ならば周りを見えていない勇み足の愚か者と嘲笑する程度の敵であるが今回は違った。油断ならぬ、自死をもいとわぬ捨て身だ。

 

 「ここは通さん」

 

 壁を殴りつけ、拳程の大きさに砕けた岩石を握り込む。手の中で岩石が砕け、細かい破片となる。両腕を背後に回し、遠心力をつけてそれを投擲。狭い一直線の通路で上下左右に逃げ場はない。細かい破片が人体を削り取り、子供と思える背丈のような存在が穴だらけの肉となり地面に転がった。

 

 ランザ=ランテが持つ散弾銃から着想を得て試してみたことがあったが、威力が過剰でありこれを生身に当てた時の光景が容易に想像できた為いざという時にしか使わないと決めていた。そのいざという時が来てしまったが故の解禁であるが、痙攣する子供の死体には眉を顰めてしまう。

 

 「総力戦で当たる我等が言えた義理ではないかもしれないが」

 

 このような子供を特攻にあてる等、狂気の沙汰も良いところだ。だがしかし、襲ってくるからには容赦をする訳にはいかない。

 

 「状況はどうだ?」

 

 「居住区、及び訓練施設側は既に連絡がとれません。振動から恐らくは…」

 

 大抵の通路は帝国が残していた火薬を使い落盤を引き起こした。敵に内部を分かっている者はいない筈だ。だからこそ、袋小路に追い込ませそのまま共倒れを狙った者もいるだろう。ハボックがたかだか半刻で壊滅したのだ。戦うまでもなく、彼我の実力差は目に見えている。

 

 「恥じぬ戦い方をせねばならんな」

 

 火竜ランドルフ様の命もあるが、それと同じくらいにはハボックで死んでしまった者達の為にも。そう考えていることに自嘲をする。霊山の守護者が、いつの間にか外部の者に毒されてしまったものだと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ガロンは戦士だった。産まれた時からそれは決まっており、死んでしまうまでそれは変わらない。

 

 先祖が受けた恩を返す為、それを先祖代々続けてきた。我々には選択の自由は望まない。戦士は戦士として、シャーマンはシャーマンとして、穴掘りは穴掘りとして産まれた時から与えられた役目を遵守する。

 

 それを疑問に思う者はいなかったし、次世代にもそれが受け継がれていくものだと考えていた。だがしかし、秋の終わりかけ。北の大地にはよくある早めの小雪がチラつき始めた時に状況が変化する。

 

 エルバンネ率いるエルフ達が、南方から追われ落ち延びて来た。連合王国側に逃れることもできず、泥の中で眠り人目を偲んでなんとか逃げ延びたのだという。我々としては受け入れるか否か、議論は紛糾した。

 

 逃げ延びて来た者を受け入れないことは、ランドルフ様に受け入れてもらえた先祖がいたからこそ今があるのに、我々が見捨てるようなことをしても良いのか。これから厳しくなる冬季が訪れるのに、余計な人員を増やしてしまい苦境が訪れてしまうのは愚かではないのか。

 

 どちらの言い分にも一理はある。主たるランドルフ様は、受け入れるのも拒むのも自由にしてほしいと話していた。

 

 『まずは、対話からであろう』

 

 議論は平行線。折衷案として、まずは対話をしエルフという種族がどういった存在なのかを理解する必要があるのでは、という結論に落ち着いた。我々は洞穴を好み、彼奴等は森林に住む。平時であれ交流する機会もなくこんな機会でなければ交わることもない。

 

 だがしかし、その結果理解できたことは他種族とはこうも扱い辛いものなにか。その一点に尽きた。

 

 やれ寝床が硬い。食事が受け付けない。文化の違いが想像以上である。これはこの先、受け入れるとしたら相当に苦労をするだろうことは想像に難くない。個体差は多少はあるが種族的にやや傲慢な面がある。

 

 なにより、湯の沸く泉に対しての拒否感が強い。我々コボルトの生活と密接に関りあっているのだが、それを拒まれるとすればどうしようもない。

 

 頭を悩ませる日が続く、ある日のことだった。

 

 『苦労をかけるな』

 

 石斧を素振りしていた時に声をかけられる。エルフ達を率いてここまで落ち延びて来た集団のリーダー、エルバンネが声をかけてきた。

 

 『そう思うなら、少しは大人しくするように言っておけ』

 

 『返す言葉もない』

 

 落ち延びて来たストレスも溜まっているのだろうが、隊の統制はお世辞にもとれているとは思えない。先も見えずただただ逃げて来ただけの者達にとって、希望的観測すら持てないのだから致し方ないのだろう。そうでなくても、最近は跳ね返りが多く手を焼いている様子もある。

 

 『何故追い出さない』

 

 『我等の意見が未だまとまらないからだ』

 

 エルフ達と過ごすことになり、悪い面ばかりが浮き彫りになるようであるが良い面というのも出て来ていた。

 

 我等の基本的な食生活は、寒冷地や高山に生息する山羊や猪に穴蚯蚓といった食肉の類。後は洞窟内に自生しているキノコといったものである。調理方法は基本的には焼くか茹でるかかの何れかだ。

 

 臭くて喰えない、獣肉等と文句を言っていたエルフ共であるが、そのうちどこからともなく雪中植物や高山植物を持ち込むようになってきた。

 

 この草と煮込むことで臭いを消せないか。血生臭いのだから血を抜いてから調理をしろ。少しは緑色のものも食べれる環境にしろ。自分達の環境向上の為ではあるが、奴等が来てから調理方法の改善等が行われ食肉の過食部位が増えたり多少の保存がきくようになっていた。そしてなにより味の向上だ。

 

 狩猟等野蛮だと言いつつも、自分達の存在が食料事情を圧迫しているのを理解しているのだろう。今までは狩れなかった大鳥のような存在も射止めてくることもあった。手先が器用であるが為、冬を越す為の毛皮の加工も多少教えたら我等以上に効率も質も向上していた。

 

 そういった利点から、未だに議論は平行線である。私としても決めかねていた。多少なりとも食料事情が解決しようと、ギリギリなことには変わらないのだから。

 

 『追い出してくれなかったおかげで、すっかり肉食にも慣れたものだ。これでも感謝はしているがな』

 

 『これからどうするつもりだ?何時までもここにいる訳にもいかないだろう』

 

 『冬を越したら、出ていく。我等の住むべき場所を、探す為にな』

 

 住むべき場所を探しに行く。かつての我等が先祖が住処を追われ、放浪していたようにこのエルフ達も今その只中なのだ。だがしかし、遥か昔に比べれば人間はその数を増やし、未開地と呼ばれる場所も徐々に開拓されていっている。

 

 我等が世情に詳しい訳ではないが、帝国内を通過してきたエルフ達の話から聞くに最早行き場等無いに等しいと容易に想像がつく。

 

 『戦うべきだと主張する者もいるようであるが?せめて、人間に一矢報いるべきだと』

 

 『戦いは必要であれば行う。だがしかし、一部の過激な者達が言うような、報復戦等最早意味をもたない』

 

 詳しくは聞いていないが、南方にて人間相手に大規模な戦いを挑んで自滅に近い形で壊滅に追い込まれたらしい。その場で若き指導者と、大半の同志を失い種族としての力を大きく削がれてしまった。

 

 『我等が皆が復讐を叫んだが、復讐なんてものは一族が生きていく上にはなんの意味ももたない。私とて、それを理解しても止められずに感情に従った同じ穴の狢だ。幼い子供を悪戯に苦しめてまで掴んだ結果がこのざまだ。いや、そもそも閉じられた環境で過ごしていたが為に新しい時代に対応できなかったことこそが問題かもしれないな』

 

 エルバンネは遠い目をしていた。過去の光景と、それよりも遥か過去の光景。後になって知ったことではあるが、それは人妖という化物に変えてしまったエルフの少女と、一族の団結を促す伝統で迫害した一人の女性を思いだしていたことを知った。

 

 『人間達の生活様式を見たことで文化の違いを思い知った。貴様等との生活することで新たな発見を得ることもある。閉じこもっていた我等は、ずっと停滞していた。文化とは過去の前例を何時までも繰り返すことではない。交流とは、どちらか片方が高圧的に接し排除を前提にしたものではない。長く生きてきて、そんなことも気づかなかった。時代に遅れるのも無理はないのかもしれない』

 

 彼はあくまで非戦派。人間に関わることをやめ、種族全体を生かす方向に意見を発していたようであるが人間憎しの流れに逆らうことは難しいかった。ならばせめて、最悪を想定して動き生き延びる者を増やそうと奮闘していたということを生き延びたエルフから聞いている。

 

 とはいえ、その彼自身消し去ることも忘れることもできなかったのだろう。焼け落ちる森、同胞の亡骸、全てが灰になる光景を。だからこそ、最後まで反対しきることができなかったのだろう。その影が、エルフには似つかわしくない煤けた背中に被さっていた。

 

 『新しい時代か』

 

 山岳から見える景色。ここからでは小さいが人間達の開拓村が出来上がっていた。最初はほんの小さな小屋が幾つかしかなかった景色が、いつの間にか数百人単位は暮らせるような集落となっている。それは、いよいよ帝国が北側に資源と住処を求めて進出してきた証拠であろう。

 

 『伝説では神は信仰を失い、悪魔は知恵を乞われることが無くなり廃れたという。それから訪れたのは人の世、さて次は何者世界になるかと思ったが、新しき時代を迎えても人間の隆盛は衰え知らずということか』

 

 『コボルトも、他人事ではあるまい』

 

 『かもしれぬな。だが我等はこの山から離れることは出来ぬ。例え一族皆が尽きたとしても、この霊山を護ることを使命と定めているのだ』

 

 『そうか……使命か。羨ましいものだ。ガラン、お前ならば、我等の立場となってもその指針は変わらないのだろうな。いや、それは悲劇なのかもしれない。いずれにしても、余所者が口をだすことではないか』

 

 火をつけても良いかと、聞かれた。口に加えた香木は最早数の少ない希少品の為時折香りを楽しむ為に加えているというが、煙を吸う為に火をつけるということはそれを使い切ってしまうための行いだ。

 

 火をつけて、煙を肺に吸い込む。口内から紫煙を吐き、険しい表情が少し和らいだ。思い出を削り、現状の苦しさを紛らわせていた。

 

 『雪解けと共に立ち去るという条件ならば、通らなくもないであろう。私の発言にはそれなり以上の決定権がある』

 

 『良いのか?反対派から突き上げられることは?』

 

 『かまわん。だがそれまでは貴様等にもこの洞窟の為尽くしてもらうぞ。それが条件だ』

 

 長い冬が訪れる。エルフ達は自らが選び取る道を考える時間は山ほどある。エルバンネは悲劇なのかもしれないといったが、それならば選択の自由がある彼等はどのような道を辿るのか。

 

 妥協か、全滅か、逃走か。最早共存という選択肢が絶たれた今エルフ達がどんな選択肢を選ぶのか、見届けたくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「未知の能力に恐れおののくな!奴等とて同じ生物だ!不死身の化物でもなんでもない!」

 

 洞窟のあちこちから音が反響する。崩落した場所も、何らかの方法で道をこじ開けられたのだろう。我等とは違う足音が多く、同時に同胞の血臭が濃くなっていく。

 

 岩を砕いた散弾をばら撒こうと、腕を振りかぶった瞬間火薬の破裂音が響いた。二の腕に命中した弾丸は、皮と肉の内部で更に火薬が爆ぜたかのように爆発する。血霧と共に、腕が落ちた音が響いた。

 

 「オオオオオオオオオオオオおおゥン!」

 

 残る左腕に石斧を握りしめる。暗闇に向けて、斧を投擲。暗闇の向こうから放たれた弾丸が、洞窟の天井に突き刺さり爆発する。手応え、アリ。

 

 目をこらすと、闇に潜んでいたのは半獣の娘であった。だが何れも変わらぬ恍惚とした表情で、息絶えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『すまん。匿ってくれ、他に行き場が無くてな』

 

 ハボックの集落が騒然としていたのは、物見の報告で来ていた。集落から抜けるように落ち延びて来たのは、ボロボロのハイエナを先頭にした老若男女の半獣達であった。

 

 『俺はガランってもんだ。一応、こいつらの代表を務めている。アンタ等で、代表をしているモンは誰だ?』

 

 『ガランか。噂で聞いた、西方で虐げられた半獣達が蜂起をして奴隷解放を行いから連合王国方面への亡命をしようとしていると』

 

 エルバンネが言葉を放つ。獣の部位と人の形を持つ異形。ここにいる者達の中で、誰よりも崩れた者達。

 

 よく見れば、半獣のみならず彼が率いていた者達には様々な姿を持つ者達がいた。

 

 褐色肌の異国の者。下半身がまるで蜘蛛のような女性。どう見ても人間なのに、まるで獣のように四足歩行で唸り声をあげる者までいた。

 

 『代表とは言えないが、話しは私が聞かせてもらおう。ガラン、何故貴様はここに来た?』

 

 『俺等は帝国で煮え湯を飲まされ続けてきた者達だ。奴隷解放の運動してくれていたお偉いさんが暗殺されて、どうにもならなくなった連中を纏めて連合王国に亡命しようとしているが、この冬の環境と巨人事件だかなんだかで帝国内の締め付けや情勢悪化でどうにもならなくなってきた。ガキや女だけでも、なんとか飯を食わせて寝床を与えてやりてえ』

 

 流石に受け入れるかどうかの議論は、受け入れない方に傾いた。エルフ達が来て、様々な工夫をこらして冬越えがギリギリであるというのに、女や子供の分の食料を配給するだけでもそのラインを超過してしまう。

 

 更に今度は、帝国内の奴隷を解放して回ったお尋ね者だ。早晩帝国軍がこちらに軍勢を向けて来ても不思議ではない。こればかりは、どうにもならない。

 

 だがしかし、ここで思わぬ転機が訪れた。人間達の間で帝都事変と呼ばれている帝国史上最大の事件がおきたからだ。帝国内部で悪竜ジークリンデと、巨大な狼の人妖が戦いあい、そして北の地に逃れてきた。

 

 ランドルフ様は、今後おこることを予期していた。ランザ=ランテとクーラ=ネレイス。そしてジークリンデ様の保護と治療。更には、半獣達を受け入れることを頼み込んできた。命令とはいえない、お願いだ。だがあの方から頼まれたからには、我等は喜んで応じる。

 

 エルフ達からの反発は当然出た。だが、それも致し方ないことだと分かりながらもこの決定は変えなかった。

 

 その後、襲撃を乗り越え、ハボックは陥落した。残された鹵獲品の糧食や衣服、住処を建てられるハボックという前線拠点が手に入り半獣達とエルフはそちらに移動した。我等も誘われたが、その提案は受け入れることはなかった。

 

 エルフの反乱分子は消えたようであるが、それは逆に言えば頭数が減ったということ。ランザ=ランテがいるとはいえ、頼りになる仲間は多い程ありがたいと彼は話した。

 

 『何故あんなに大勢連れて、連合王国に亡命しようとした?』

 

 『あん?』

 

 『戦え、動ける者達だけならば帝国国内を抜けることも可能だっただろう。何故足手まといとなる者達も連れて、勝算の低い戦いに赴けてたのだ?』

 

 エルフ以上に半獣達は個性の塊だった。性質が近いようで遠い存在、彼等からは学ぶことは多くはなかったが、それでもなお不可思議な存在として興味を持つ者もいた。特に、彼等が語る体験や物語を知りたがる者は多かった。

 

 特にコボルトのシャーマン、その末裔であるミルフは傾向が強く今ではハボックの方に入り浸っている始末だ。私も、このようなことを尋ねるからには彼等に興味を持った者の一人と言えるかもしれない。

 

 『あー、まともに生きてぇって思ったからかな?』

 

 『どういう意味だ?』

 

 ガランは後頭部を軽くかく。

 

 『まともに生きるってどういう意味かって考えたら、学がねえ俺には分からねえ。アンタ等みたいに使命を持っているのがまともかもしんねーし、エルフ共みたいに小難しいことを言ってるのがうざく見えて実はまともなのかもしれねー。ランザの旦那とクーラはまともなんて言えねーだろう。てか俺なんて、ある日プッツンして殴り続けたらいつの間にかこんな状況になってただけだ』

 

 ガランという人柄を見ていて分かったことは、人の上に立つ者に必要な自己肯定感が低いという面があるといえる。普段は気を張ってはいるが、疑問に応じようと頭を捻る様はただの青年のようにも見えた。

 

 『人間共みてーに奴隷を囲むのはまともか?なにかの為に生きるのはまともか?犯罪に走る者はまともじゃない?じゃあ今の俺は人間視点から見たらまともじゃねー異常者っつーことかもなぁ。なんて思ってたら分かっちゃったのよ!俺なりの解決法!まともってのはそれぞれで違うんだよ多分。半獣同士でも違うし、文化がちがけりゃまともも違う!クーラの気持ち悪い発作だって、ランザの旦那だって本人実はまともだって思い込んでる可能性だってある訳だ。つまりまともには、不正解はあるかもしれねーが正解はないっ!俺にとっちゃこのハイエナの耳と尻尾は誰からから見たら異常だが俺からみたらまともの証明なんだとな!』

 

 ガランが嬉しそうに手を広げた。成程、私は初めて彼を見た時人間と獣が入り混じった異形の存在のように見えたが、ガランにとってはそれがまともだ。排他するべきではないが、異様であると考えていた。奴から言わせれば、向こうから見たこちらが異常でありそう考えることが本人のまともかもしれない。

 

 『俺はな、自分のまともを大切にする連中を大事にするぜ。まああくまで他人に迷惑かけねえ程度ってのはあるけどな。だけどそれを実現するのは容易じゃねー。ならばよ、それを可能にするには沢山のまともを受け入れる枠組みが必要じゃねえか。自分のまともを大切に、他人のまともを尊重する場所だ!ならば拾えるもん拾っていくしかねーだろうが。自分達さえ良ければ、それで良いなんて考えてちゃこれは実現しない。俺の最終目標は自治州を、そんで国をつくることだ!今は足手まといでも、デケーことするには人手はいるからな。精々、後でこき使わせてもらうぜ。それが、俺が皆を連れてる理由だよ』

 

 どうだ?とばかりにドヤと言われる表情を浮かべてこちらを見て来る。彼が語る理想に、沢山の者が続いているのかもしれない。

 

 『私にとって、こんな状況からそんな大仰な夢を語る貴様はまともではないな』

 

 『それでいい訳よ。だが無理とかいうなよ?これでも頑張ってるんだからよ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 死にゆく者も、襲い来るものも。同じ表情を浮かべている。人間も異国の者も半獣も、みなが同じだ。

 

 ガランが言う、それぞれ違うまともというものを、こいつらからは感じない。ひたすら、ただ一つの目的を目掛けて進んでい来るのはまるで意思の無い亡者のようだ。

 

 ランドルフ様は、こ奴等を最大限に警戒している。以前の私ならば、ただ主の言葉に従いここを守護するだけだっただろう。

 

 エルバンネは、他の種族と関りを持つことでエルフ達の過ちを考えた。ガランは、様々な思考を持つ者も弾圧されずに暮らせる自治州、引いては国が欲しいと考えた。それぞれが、自らと違う考えに触れ生み出した解答を心に秘めて戦っている。

 

 だがこいつらはなんだ。違いも、個性も感じない。まるで意思のない人形のような者達だ。誰も彼もが、それに疑問すら抱いていない。

 

 「グルアアアアアアアアァアア!」

 

 腕を振るい、敵を退ける。ランドルフ様に言われたからではなく、私は自身の意思でこの者達の好きにさせる訳にはいかない。

 

 エルバンネ、ガラン。私には無い者を持つ者達。先に進むべき者達。そいつらの為に少しでもここで…

 

 「……っ」

 

 背中と正面から刃で貫かれる。口の端から、内部からあふれ出した血が漏れた。

 

 気づけば、戦っているのは私だけだった。皆がそれぞれ、使命を果たして床に倒れ伏している。どうやら、これまでか。

 

 「先……人達よ!共に戦えた戦友達よ!火竜ランドルフよ!照覧あれ!」

 

 胴、首筋、足にも刃が突き刺さる。前身に痛みが走るが、もはやそれは問題ではない。身にまとう、毛皮の防具を残る手の爪で破く。内部に仕込んでいたのは、大量の爆薬。薄笑いを浮かべる連中は、それに見向きもしない。

 

 松明に腕を入れ、燃える炎で毛皮に火を灯す。導火線に炎を移し、逃れられないように数人を抱き込む。

 

 「達者でな……ミルフ、後は頼む」

 

 閃光が、暗い洞窟内部で炸裂した。

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