家族の仇は、娘でした 作:樫鳥
「それは、なにかの間違いじゃないの?」
「俺が知るかよ!クソッたれ!どうなってやがるんだ!?」
緊急を伝える報告が括られた鳥が到着したのは、イリーナルを撃退した後、内部から公国軍を崩そうと狙う鼠を片付けている最中であった。前線はランザが抑えてくれている。脇をすり抜けて来た連中を排し、ノルンと中枢を護ることに専念をしていた。
例え気になる気配を職人街の方で感じたとしても、イリーナルのように強行手段をとれる存在に心当たりがある以上後方を磐石にする必要がある。そしてその読みは、大まかには間違えていなかった。予想をしていたような大駒はなかったものの、ガラン達が頑張ればなんとかなるレベルくらいの存在しか来なかった。
ひと段落をつけたところで、ランザの元に援護に向かおうと考えた時に飛び込んだ急報。殴り書き、血が一部に染みたその紙はすんでのところで情報を飛ばしたことが分かるものだった。
「何故?」
軍勢とは大飯ぐらいだ。群れが動けば、それを飼育する為の兵站線が必ず必要になる。中世よろしく先々の略奪で賄うという方法もないことはないが、この北の地でそれを期待する将校が存在するものか。
大規模な兵站線は隠しきれるものではない。だが、その兆候はみられなかった。だからこそ、こうしてアブソリエルの方に援軍に迎えた。
では少数精鋭、レントの持ち駒はどうだ?でも、元々在籍している身として言えるとしたら可能性としては高くはないと思う。本命のレントがこちらに来ているらしいという情報もある。レントを囮として、ハボックを襲撃する旨味がエンパス教にはあるのだろうか?
「いや、ありえるか」
そういえば、一番危険な人物がいた。単独でも要塞のような鋼の騎士が、独自に動いたとしたらありえるかもしれない。あれが踏み込んで来たら、例え一人で来たとしてもハボックの居残り戦力では突破されることもありえる。
「すぐに旦那に知らせに行く!ここは任せた!」
ガランが城下に向かって走っていく。本当ならランザの元に飛んでいきたいところだが今の自分だが、元レントの駒でエンパス教に所属していた自分にしか見えないことがきっとある筈だ。現状を俯瞰して見ろ。何故、エンパス教はハボックを襲った?カナリア=エルの狙いはなんだ?
あの地に戦略的な価値は正直あまりない。こうして、後アブソリエル公国に王手をかけている状況、帝国と連携していることを前提に動くならばこの地に戦力を集中させれば良いだけだ。ここが落ちれば、分断された北の勢力は容易く各個撃破されるだろう。
ならば戦力的ではない意図を考えてみるか。ランザや自分の帰る場所を潰す為?いや、所詮今の自分達は元々ただの根無し草だ。それに、エンパス教がランザにこだわるのは、レントの個人的な意思が強い。
自分に対して、裏切者として制裁を与えるといった意図もないだろう。なにより手段が遠回しだし、やはり今更ハボックに奇襲をかける理由にはならない。揺さぶりをかけるにしても、下策だ。
ならば、策に寄らずハボックを襲撃しなければならない理由があったとしたら?
【まず一つ目の質問ですが。今私は、この場を動くことができません。この土地は、いえ……この大陸は壊滅します】
「あっ」
その時に脳裏に浮かんだ。火竜ランドルフと初めて出会った時、ランザの質問に対しての返答。あの時は、すぐに帝国の部隊が奇襲をかけてきた為忘れていた。その後もジークリンデとの戦いとか、帝国軍の竜狩り隊とランザ達が衝突あの悪竜が死んだりとか色々ありすぎた。
そういえば、ジークリンデはあの時言っていた。
【かつての世界最大の都であるボンペイを、噴火からの災害で都市の全部を灰と岩の下に沈めやがったじゃねえか。ああ、あの時は地揺れのせいで高波までおきたっけなぁ。十万人、少なくともそれだけの人間やその他種族を虐殺した。そんな奴の言葉とは、思えねぇなぁ】
火竜ランドルフは、ジークリンデの話によればかつて大規模な噴火で人間を都市ごと皆殺しにした過去がある。ハボック襲撃に旨味はないとなれば、連中の狙いは更にその先ではないか?
「エンパス教は、ランドルフに用事があるとしたら?」
そうだとしたら、ハボックで最大戦力であるランザと主力級がいないタイミングを狙い急襲してきたことにも説明がつく。こちらとしては、最大に警戒していた敵の主力が後アブソリエル公国に来ているという情報を元に動いているのだから騙されもしよう。
とてつもなく嫌な予感がする。今すぐにでも、ハボックに戻った方が良いのではないか。例え既に手遅れだとしても。
考えを伝えに行こうとした瞬間、胸元に妙な感覚が叩きこまれる。無理矢理心地良さを流し込まれているような、それでいてなにやら気持ちの悪い感覚。まるで全てを、何者かも分からない他者に委ねたくなるような脈絡のない感情。
「フー…シュー」
だがそれは瞬時に消え去った。少し足元がよろけ、呼吸がやや乱れたが何事もなかったかのように感情から奇妙な感覚が霧散する。吐き気に似た感覚が胃の中からこみあげてきたが、なんとか気分の悪さで抑え込むことができた。
「なに、今の」
心臓が妙に高鳴る。瞬間的に何者かに頭の中をジャックされかけたかのような感情だ。首筋に指を寄せることで、奇妙な感情の残滓を追い払う。あの夜、ランザが絞めた部位に親指を押し込む。幾分か気分が落ち着いてきたが、こんなことは初めてだ。
反転。ランザの元に向かうのをやめ、走り出す。頭の中に気分が悪くなるような気持ちを抱えながら。ある予感を確かめる為に進む。それはきっと重要なことだと、揺れた脳内では確信をしていた。
「ああああああああああああああああああああああ!!来るな来るなやめろォ!入り込むな、あたしに入り込むなぁあああああああ!いぎゃあああああああああ!」
外壁沿い、簡易的な処置としてイリーナルを拘束した場所へと向かった。空を飛び、翼を凶器へと変身させることができる彼女にはただの拘束ではなく、壁に貼り付けの状態で動けないようにしていた。
両足には罪人がつける枷と重りを。両手には鎖を。翼にも、大小問わず雑ではあるが鎖を巻きつけとにかく飛ばないようにしておいた。彼女の翼は名刀の切れ味ではあるが、それはあくまで推力がある状態での話。果実ならともかく、密着している状態で鍛冶技術に優れる後アブソリエル公国の鎖を寸断することはできない。
もっとも気絶させた今逃げられることはない。少なくとも、この騒動が終わるまでは熟睡してくれるくらいには痛めつけたつもりだ。エンパス教でレントのお気に入り、中枢に近い為情報を引き出す為に生かしておいた。楽しい尋問会、或いは拷問劇場までおねんねしてもらうつもりだった。
だが、そのイリーナルが頭を振りかざし叫んでいる。凄まじい形相で、目を見開きながらあらん限りの大口を開けていた。
「なにがあったの!?」
「いやそれが、いきなり叫びだして…」
一応見張りを頼んでおいた、後アブソリエル公国の兵士が困惑しながら答えた。原因は不明。いや、もしかしたら、自分と同じタイミングで発狂したのか?よく見たら、翼が通常のものと鋼鉄のものに忙しなく入れ替わっている。
「加護か!?」
レントから与えられた加護。その大本は、元はエンパスの力であるという。自分でさえ一度くらいしか会ったことのない引きこもりだが、なんらかの手段でそれを利用している?
恐らくその力には、なんらかの細工があったのだろう。自分は加護の力を剥奪された。それなのに、瞬間的にとはいえ心臓がざわつく感覚があったというのに、現役で力を行使し続けているイリーナルに対しての負担はデカいということか。
翼がバタバタと羽ばたかれようとするが、頑丈な鎖に阻まれ火花をあげていた。驚くべきことに、刃と擦れるごとに鎖の方が千切れてしまいそうな程耳が痛くなる悲鳴をあげている。このまま暴れられれば、逃がしてしまう可能性すらあるだろう。
「イリーナル!」
何故か自分は、イリーナルの名前を呼んでいた。なにか異常事態がおこっている。それには、加護が関与している可能性が高い。それだけ分かれば良いのに、これ以上イリーナルのことなど放っておけば良いのに。
「イリーナル!無視しろ!心を強く保て!流されるな!」
「嫌ああああああああああ!あだじはあんだなんかじらないィイイイイ!?やめてぇえええええええ!かき回さないでぇええええええ!あ゛だじの好きな人を塗りづぶずなああああああああ!」
いや、分かった。この叫びを聞いて、なんで今自分は、あの憎たらしいイリーナルをなんとかしたいと考えているのか。
自分はランザのことが大好きだ。心の底から好きだ。ランザを手に入れる為ならば、あの人の人生を台無しに、無茶苦茶にしたいと考える程に、大好きだ。この気持ちは、誰にも否定されたくない。
あの気持ち悪さの正体は、恐らくは自己の感情を無理矢理書き換えるもの。敬愛の対象を、尊敬の対象を、無理矢理何者かにすり替えるもの。いや、おそらくはエンパスに変えてしまうもの。
自分にとって、ランザを慕う気持ちがあるようにイリーナルにとってはレントがその対象なのだ。例えレントが、洗脳のような怪しげな方法を使っていたとしてもだ。ただの洗脳のようなまやかしから生じる感情ならば、イリーナルがここまで抗うことはできない。根拠はないが、自信をもって言える。
それは、始まりは歪んだものであったとしても。絞殺しようとするランザに倒錯してしまったような、自分のようなきっかけであったとしても。レントが私欲でイリーナルを助け、その後は玩具のようにしか見ていなかったのを理解してなお好きだという褒められたものではない感情も。
それでも、誰かが誰かを好きという感情は、否定されて良いものではない。
「イリーナル。取り合えず、レントは最低のクソ野郎ってことは分かっているよね。でも、そのクソ野郎をアンタは大好きなんだね。それだけ、耐えているんだから」
直刀とルーガルーの短剣を引き抜く。すっかり使い慣れた二刀は、もはや腕の延長線だ。
「鎖を解いて」
「は?」
「良いから解け!」
なにを言っていると言わんばかりの兵士の顔がたじろく。兵士が身に着けた胴鎧に反射した、黄金の瞳が、ジークリンデの眼球が愉快そうに瞳を細めていた。この眼は、まるで自分の一部であって一部でないようだ。この中には、まるでまだあの悪竜が息づいているのではないかと思うような錯覚を覚えてしまう。
瞳に威圧されたのか、すぐに兵士が鎖を外す為のレバーを引く。自由になったイリーナルは、痛みで自分を取り戻そうと凄まじい速さで飛び出し城の外壁に激突した。足枷等まるでないかのような速さだ。
幾度かそれを繰り返し、血塗れになってなおその感情の慟哭は収まらない。彼女の動きは素早い、発狂しようとそれは変わらない。巻き込まれてはかなわないと言わんばかりに、兵士が逃げていく。
加護の力に抗うイリーナルの翼は、また変化と退化を繰り返していた。
ジークリンデの瞳がギョロリと動く。分かっているよ、次がその時だ。
次の突撃先の斜線上には、自分がいる。前身を血塗れにしながら突撃してくるイリーナルに相対するように、二刀を構えた。狙い目は、退化。鋼鉄の刃となるのが加護ならば、元の翼は彼女自身のもの。こうなってしまえば、加護の力を物理的に切除するしかない。今の自分にはそれくらいしか思いつかない。
安心しろなんて言えない。もしそれでも駄目ならば。レントへの感情が塗りつぶされてしまう前に終わらせてやる。それが、一時は同じ相手を好きになった憎たらしいライバルに向けての手向けだ。
交差する刹那、竜眼に神経を集中する。彼女を捕まえた時もそうであったが、このジークリンデの眼球は見えすぎる。まるで、時間の流れがゆっくりになったかのような錯覚を覚えるように。それだけに、本来竜ではないこの身体には負担が大きい。自分には過ぎた力だ。
こちらに飛び込みながらも、鋼鉄の翼から通常の翼に戻る瞬間。二刀の刃がそれを根元から切断した。少しでもタイミングを間違えていたら、両断されていたのは自分であっただろう。この瞳が無ければ、できない芸当だ。
イリーナルの身体が、地面の上を転がる。前身血塗れであり、まるでボロ雑巾のようである。自慢であった翼が、落下した。
身体をもがくように動かしていた。二本のナイフをしまい、改めて彼女を見る。あれは、多分ランザに出会えなかった自分だ。それだけに、その姿を目に焼き付けておく。
イリーナルに近づき、髪の毛を掴み持ち上げる。意識を失いかけているが、その目に既に狂気を宿してはいない。多分、上手くいった。
「後は好きにしろ。もう、加護の呪縛もエンパス教に仕える義務もないだろう。多分、レントも利用された。あの好色家が、こんな副作用まで許容していたと思えないからね。アンタの象徴を、自慢を奪った、自分を怨みたいなら好きにしろ。だけど、もしランザに手を出すようなことがあったら今度こそ殺してやる。自分の視界の片隅に現れても殺す」
イリーナルの自慢たる、翼を、空を奪った。もしかしたら、自我を汚されることよりも堪える行いだったかもしれないが知ったことか。感謝される為に、やったことでもない。
「二度と、姿を見せるな」
その場から立ち去る。この奇妙な異変、すぐにランザに報告しないといけない。エンパスが、動き出したことを。恐らくは、レントは既に蚊帳の外であるということを。
城下に向かう途中、山と大地が大きく震えた。地響きのようなものがおこり、まるで大地が脈動しているかのような鼓動が響く。軽い身体では、立っていることすら覚束ない。一度足を止め、近くの壁に手をおく。今度は、なにがおこっている。
「ようクーラ=ネレイス。ランザは別行動か?あの鳥のお嬢ちゃん相手に苦労したな」
「ガスパル!?」
急に声をかけてきたのは、テンと共謀しながらずっとランザを欺き続けていた悪魔であった。遥か遠くの尖塔に座っていたが、その声はいやによく響いた。
「なにがおこっているの!?アンタの仕業!?」
「いやいやいや、か弱い俺にこんな芸当が出来る訳がないだろう。こんなおっさんに仕業とか企みとかあっても、大地が揺れて脈動するなんて超常現象はおきねーってば」
尖塔には、凄まじい数の鎖が繋がれていた。大小問わず様々な鎖が、下目掛けてピンとはった状態で伸びている。
「火竜ランドルフさ」
ガスパルは、楽し気に言葉を放った。尻を叩きながら立ち上がり、西方へ目を向ける。
「アイツが大地を封じ込めた力を解放し、自身に戻している。この揺れは、抑えていた地殻が自由を取り戻し暴れだそうとしている前兆だな。この地面、大陸の暴走じたいを抑え込んでいるのだから本当に、竜ってのは化物だよな。そんでもって、断言できるがアイツはその中でも、別格だ」
「やっぱり、エンパスの狙いは火竜。でもなんで?ランドルフは、霊山に引き込もりだしエンパスの邪魔になるようなことが……いやでも、まさか」
この大地の揺れ、ランドルフの言葉、抑えていたという地殻。もしかしたら、エンパスの目的は…。
「物事を大きく変革するには、まずは当たり前にあることをぶっ壊すのが肝心だ。そして政情不安である程、他力本願や神頼みって奴は効いてくる。エンパスは狙ってやがるのさ、既存の宗教の役に立たなさと新たな宗教の革新。所謂、奇跡って奴をおこそうとしている。その為に、今までずっと準備してきたってことだ。失敗も込々にな」
「馬鹿げている」
「そいつには同感だ。だが、馬鹿げたことをするには馬鹿げた手段が必要だってことだ。ついでに俺も後付けな動機だが、尻馬に乗ろうって企みがあってな」
ガスパルが指を弾く。繋がれていた大小問わずの鎖が分断され、先程の地揺れと同等の振動が城内に響いた。城の所々が爆薬で吹き飛んだような音を上げて岩が飛び、鎖が何十にも巻きつけられた巨大な大砲が複数あちこちから出現する。ここから見えるだけで、ざっと数えて十を超えている。
「なあ…あ」
「大きいのは、男の子のロマンでな」
ガスパルは軽く言うが、大きいなんてレベルじゃない。目算だが全長四十メートル以上はあるんじゃないか?前高も十二メートル以上ある感じがする。大きすぎて、距離感が良く分からなくなりそうだ。調べる時間がなかったとはいえ、こんなものが公国の地下にあるなんて。
「弾だけでも確か四トンくらいはある。俺があれこれ口出ししたとはいえ、人間の技術者はスゲーよな。本当は帝国首都まで射程に捉えて砲弾ぶち込んで威嚇する為の、文字通り切り札運用の兵器だけどよ」
城に向かう為のトロッコ乗り場、自分達が乗った乗り物の近くにあった巨大なトロッコには大量の硫黄と鉄鉱石が積まれていた。立派な鍛冶場街がある中層エリアがあるにも限らず、城の方向に向かって運ばれていた。城内にも巨大な溶鉱炉が存在していたが、そこで鋳造された鉄資源はこの砲に使われていたのだろう。
「俺には竜の戦闘力も無ければ、天使の馬鹿げた能力はない。やっぱり皆に知恵を渡して、一致団結して頑張るのが性に合っているんだよなぁ。うん、これが人間の可能性って奴だ」
袖から伸びた鎖を引く。まるでガスパルに調教された獣達のように、巨大な方針を一斉に西方に、ハボック…いや、霊山の方向に向ける。
「なんだこれは!ガスパル、貴様なにをしている!このようなことは許可していないぞ!」
この異変を確認する為に、ノルンが城内から走り様子を見に来たようだ。報告は行っていたとは思うが、あまりのことに信じきれなかったのだろう。
「まあちょっと個人的事情で拝借拝借。レンタルに料金いるなら、支払うから領収書きってもらって良い?」
「拝借だと?馬鹿なことを言うな!この砲の運用にどれだけの人員が必要だと思っている!第一それはまだ未完成品だ!」
「未完成品?いやいや、アンタは自国の技術者を信用しなさいって。設計図は俺が描き、製作は職人達がやった。これはもう完成品だよ。例え多少の誤差で弾道計算に狂いがあろうと、俺ならば計算しきれる」
通常サイズの大砲の知識はないが、あれだけ馬鹿みたいなサイズを単独で運用できるとは常識的には思えない。いや、多少の協力者はいたかもしれないが少なくともあちこちで人手が足りない修羅場な現状、それだけの人員を動かせばいやがおうにも目立つものだ。
だがしかし、奴ならばそれを可能にするだろうという嫌な信頼感がある。あのテンの協力者で、人ならざる者であるならば。
「さあて、せっかくだ。お集りの方々に宣言させてもらいますか。えー時代には変革期というものがあります。例えば神様連中を駆逐するきっかけとなった、新しい宗教ができた時。吸血鬼との生存競争の勝利。騎馬民族との戦争と虐殺。この大陸の人間達は、そういう大きな出来事を乗り越えて成長してきたのですが…まあ残念なことに、嘆かわしいことに、最近はそれが停滞気味でした。なので俺は、無理矢理にでも時代を動かそうと思います。上手くいけば人類史にも多大な貢献ができるから、まあ勘弁してね」
ガスパルが腕を大きく背後に振った瞬間。まるでそれが指揮棒だったかのように砲身部が赤熱色に輝き始める。多量の爆薬と、恐らくは内蔵された魔具が互いに反応しあっており、初めての砲撃に期待をし興奮しえているようにも見えた。
「さてエンパスよ。互いに協力できるのはここまでだ。歴史を動かすか留めるか、精々楽しい勝負にしようや」
十を越える砲門が、耳をつんざくような轟音を上げた。弾丸は、遠く霊山に向け射ちだされてしまった