家族の仇は、娘でした   作:樫鳥

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 「旦那!」

 

 ハボック急襲。気になることは多いが、今はこの状況を無事に切り抜けることが肝心だろう。レントとのどーのこーのの言い争いや、見知らぬ炎で象られた女がいていつの間にか消えていたがそれも些事だ。そんなこと気にしていて死んだら元の子もない。

 

 本能的にはここから、山から一メートルでも遠くに今すぐ離れろと警告を繰り返している。尻尾の毛も逆立っているのを感じるし、上に向かって走っているなんて考えたら眩暈がしてきた。それでも歯を食いしばる。

 

 「ガラン、先に逃げても良いんだぞ。ここはもう崩壊する」

 

 「お言葉に甘えたいところではあるけどな!ちょいとばかし気になることがあるんでな!まあ、死なないように気をつけるよ!先に行くぜ!」

 

 ランザの旦那が頷いたのを確認して、両の足に力を込めてスピードを速める。岩石が雨となり振ってくるが、まだ散発的だ。足の速さ的には今のところ俺の方が旦那よりも上だし、待っていることもない。

 

 しばらく道を走ると、兵隊共が張っていた拠点にたどり着く。神殿騎士と戦闘していた主戦場であり、この門を超えた向こう側が中層の職人街にであり、奥に山頂に続くリフトが存在するエリアにたどり着く。

 

 「はぁ?」

 

 なにをやっているのか、最初は分からなかった。双方勢力にて死者が転がるなか、両膝を手を上空に捧げるようなものが複数人存在していた。噴石が落ちるなか、逃げ出しもせずにただその場で空を仰いで笑っている。

 

 山が再度大きく火を噴いた。頂上から崩れた岩石が降り注ぎ、急いで建物の軒下に身体を滑り込ませたが固まった連中は動く様子がない。噴石の一つが跪く騎士の頭部を破壊して流星のように石畳みに落ちる。それなのに、周囲の連中はピクリとも動かない。

 

 「なんなんだよ、おい」

 

 奇妙な光景に吐き気すら覚えた。こいつらは、なにかおかしい。人間としての正気を、保っちゃいねえ。

だが死にたがりを気にしている様子はない。取り合えず噴石の雨が一度落ち着いたら上層部の方に行くしかねえ。上手いこと、アブソリエルの連中が非戦闘員やみんなを保護する為に動いていれば良いが。

 

 バリッという音が聞こえた。噴石があちこちに落ちて建物や物が壊れる音はこれ以上ないほど響いているのに、その音はやけに異質で、変質で、生々しさを持っていた。それ故に音が、耳にこびりついた。

 

 「あ…あんた」

 

 逃げ込んだ建物の奥に、転がる兵隊が一人。アブソリエル公国軍に身を包んでいることから、味方側の歩兵であることが分かる。腹部を負傷しているのかあおむけの身体から血が流れており、近くには銃剣がついたライフルが折れた状態で転がっていた。

 

 「おい!しっかりしろ!なにが…」

 

 なにがあった、と勢いのままに言いかけた。だがその瞬間、思考の中である疑問が急浮上してしまう。

 

 「なにが…あった?」

 

 この道は、両軍の主力部隊がぶつかる主戦場だった筈だ。それなのに、何故アブソリエル公国軍の姿が見えない?噴石から身を隠していることを考えてもまったく無音、気配の一つ、呻き声一つ聞こえない。

 

 「逃げろ…化…物……が」

 

 バリ、バリ、バリ。背中に冷や汗が溢れ出て来るのを感じた。もしかして、もしかしてなのだが、俺か感じていた一番の悪い予感、ここから逃げ出せと本能が警告していたのはこれなのではないか?

 

 「ぐうお!?」

 

 振り向きと同時にククリナイフを抜いて臨戦態勢をとった。これでなにもなければ大間抜けも良いところだが、どうやらまだ俺は阿呆でも間抜けでもなかったらしい。そっちの方が、何倍もマシだったが。

 

 骨が球体関節で幾つも接合されたような物が伸びていた。先端が刃物となっており、ナイフを構えて急所を庇った瞬間火花が散り身体ごと大きく弾かれる。弾かれたなら、無理に体制を立て直さずに勢いを殺さずに大きく後退し壁を蹴り着地する。噴石も今は落ち着いているようであり横に逃れる。

 

 「……おいおいおい」

 

 半獣の大多数に信仰心等ない。神に祈る暇さえあったら行動をした方がなにかしらの成果がある。仮に神様がいるとしても、一部の者達が不遇を囲うことを良しとする者が神であるならば噛み殺した方がマシだとすら思う。所詮宗教等、政治的駆け引きを孕んだ一つのアイコンだなんて、昔の知り合いが言っていた。

 

 祈りを捧げる神殿騎士の首は、噴石がモロに直撃したせいか飛んでいた。その背中から現れたのは、まるで蛹から抜け出た蝶のようだった。男とも女とも分からぬ中世的な容姿。サラサラとしたセミロング程の白い髪の毛。広げた純白の翼は白鳥のように美しい。左手が異形化して伸びてはいるが、右手は深窓の令嬢のように白く艶のあるものだった。

 

 膨らみかけた乳房、女性かとも思ったが玉はなくても棒があり奇妙なことに穴もある。天使、なんて言葉が脳裏をよぎる。ニコニコとこちらを見ながら微笑みかけていた。右手から白く薄い布が出現し、それが自動的に身体に巻き付く。天使、なんて言葉が無宗教な俺でも頭によぎった。

 

 前進。なにがなんだか分からないが、背後からの一撃は敵意あると判断してい良いだろう。球体関節が稼働して刃付きの骨が蠢く。鞭のような一撃であるが、ランザの旦那が振るうあのとんでも武器よりは圧力も攻撃範囲も少ない。

 

 ククリナイフを左手から右手に投げる。空手の右腕が輝き、盾のような膜を生成し始めた為攻撃手段を変更。近づきながら再度持ち手を入れ替え、敵の視線がナイフの方に集まるのが見えた。

 

 「おらぁ!」

 

 飛び上がり、両足で蹴りつける。誰が呼んだか、ドロップキックというやつであり戦場ではあまり見ないが格闘技の野試合で偶に見かけることがあった。練習はしていたが、まさか実戦第一号が得体のしれない化物相手になるとは思いもしなかった。

 

 「にやけ面しやがって。可愛いお顔に靴痕がついた気分…は……」

 

 やけに軽い身体が吹き飛んだが、飛ばされた向こうで奴、仮で呼称しておくが天使ということにしておこうか。とにかく、天使が笑っていた。ニコニコという慈愛と博愛に満ちた笑顔ではなく、今度は粘質気味なニヤァという擬音が付きそうなほどネチっこい笑顔となる。なんだ、ドМがこいつ。

 

 近づくのは嫌だったので、棒ナイフを投擲する。こういう小技はあれば便利だと聞いていたが、俺にはどうやら旦那やクーラ程の器用さはない。だが、動かない標的ならば当てられるだけ、とりあえず真っ直ぐ投げるやり方だけは教えてもらっていた。

 

 腕と足にナイフが突き刺さり、額にも深々刺さる。なんだか凄く痙攣しているが生死確認をする程時間がある訳でもないし、これ以上構っている暇は無さそうだ。仮に死んでなかったにしてもこいつは後から来るランザの旦那に押し付けることになりそうだがここはさっさと山頂を目指そう。

 

 「あー…クソったれ」

 

 こいつは祈りを捧げていた神殿騎士の躯から現れた。あの噴石の雨で避難しなかったんだ、他の連中がどうなったかなんて遅かれ早かれ分かりそうなものだ。例えば、祈りを捧げている最中に死ぬことがこいつらが現れる条件だとしたら?

 

 死体から次々と、白カビの発芽みたいに沸いて出てきやがる。さて、祈りを捧げていたのは何人いただろうか。数える暇もないので、一息に走り抜けることにする。

 

 「は?」

 

 全員がギロリとこちらを向いた。ほぼ同時に、それも同じ顔でだ。産まれたばかりの時に浮かべた慈愛の顔はどこにいった?全員が全員、折り曲げた骨を伸ばし刃をこちらに向けて来る。どいつもこいつも、似たようなツラしやがって。個性が髪の毛の長さくらいか手前等は。

 

 「冗談キツイってえええええ!」

 

 受けきれる訳がない。避けて、避けて、どこまで持ちこたえられる?とにかく足だ、急所と足だけはやられないようにしないといけない。俺から機動力をとったらなにが残る。旦那とクーラがおこす厄介の問題解決能力くらいか?今は役に立たんだろうに。

 

 棒ナイフを投げるも少しでも標的が動いたら俺の技量じゃほとんど当たらない。でもとにかく、防御なり回避反応なりで少しでも姿勢を崩してくれれば僅かでも隙が産まれる。身体が刃で削られる感覚がするが、致命傷でなければどうでも良い。多少の出血くらいくれてやれ。

 

 「そこ!」

 

 瓦礫の上に飛び、門の上にあるバリケートの奥に逃げ込もうとした瞬間背後から衝撃。まるでなにかが、それなりの大きな塊がぶつかったような。でも痛みはそんなに感じなかった。

 

 うつ伏せに地面に崩れる。仰向けになり起き上がろうとするが、ククリナイフを握る手を抑えられた。今日は随分と手を抑えられる。というかいてぇ!華奢な身体でなんつう力してんだこいつ!

 

 何度か顔面を殴りつけてみるも、怯む様子がない。どうにかしてここを逃げなければならないと、相手を観察しようとしたところ気づきたくないことに気付いてしまった。

 

 「はあ?」

 

 陰茎部が、盛り上がっている。髪型から判断するしかないが、こいつさっきぶっ飛ばした奴だよな。顔に靴痕ついてるし。え?どういうこと?え?はぁ?布地の先端がじんわりと濡れている事に気づいてしまった瞬間、考られる最低の事柄が頭の中で浮かんだ。それを裏付けるように、こいつの視線が下半身に向かっているのも怖気が走る。

 

 「ちょ!いや!無理矢理はやめてぇえええええええ!」

 

 覆いかぶさられる。こんだけ軽いのだから突飛ばせそうなものだが、万力の阻まれるような妙な力に力づくではどうにもならない。というかそもそも俺は、熊の半獣やコボルト共みたいに力自慢が売りではない。もっと筋トレしておけば良かったか?

 

 唇が触れ合う。柔らかな口腔から蛭のような舌が侵入してくる。牙で噛み千切ろうとしても、歯が立たない。というかさっきから全身の力が抜けているような気がする。頭がチカチカするし、表現が難しいが白いなにかが思考を侵食していくようにも感じる。

 

 これは、ヤバい。俺が俺で無くなるような、そんな違和感。それでもなんとか抵抗しようとする。時間がたてば立つだけヤバくなる。棒ナイフを引き抜き、首筋に突き立てるがまるで意に返していない。そこ、一応は急所だと思うのだが、どうなっているんだおい。

 

 「手を地面にピタリとつけていろ」

 

 声と同時に、赤黒い刃がうつ伏せにこちらにのしかかる天使の足元から胴体を切断した。血液ではない白い液体が全身にかかるが、力が戻ってきたのでなんとか這い出す。

 

 「お楽しみ中だったら悪かったな」

 

 「だ、だんなぁ」

 

 連結刃を握るランザの旦那が追い付いてきたようだ。散弾銃を牽制気味に構えながらこちらに声をかけてくる。ちょっと泣きそうだった、というか少し泣いている。ああいう事態も今日で二回めだぞ、厄日か今日は。

 

 乱された服を整える。頭から股間まで水平に切断されたのに、いまだにビクビク痙攣している様はいかにもまた復活してきそうな気味の悪さがあった。というか、頭がまだボーッとする。首を振るい、奇妙な感覚を追い払うように努めるが、あれ以上されていたらなにも考えられない廃人にさせられそうだった。

 

 「で、なんだんだこいつら」

 

 「知らねえ。祈りを捧げていた自殺志願者の中からズルズルと出て来やがった。首ぶっ刺しても死ななかったんだ」

 

 天使共の視線が、俺よりも旦那に向けられた。クスクスと、淫靡な笑みを浮かべながら球体関節をコリコリと鳴らし骨の刃を向けてくる。

 

 「他に情報は?」

 

 「性器がどっちもあった」

 

 「そいつは貴重な情報だな。身体を張った甲斐があったか?」

 

 皮肉を飛ばされても、知らんものは知らん。この訳の分からん生物を解説できる有識者がいたら是非とも名乗りでてほしいもんだ。

 

 「そうだ!あいつ!」

 

 建物の方で倒れていた兵士を思い出す。駆け寄ると、息も絶え絶えであったがまだ意識があった。こいつならば、なにか知っているかもしれない。

 

 「おいアンタ!あれはなんなんだ!なにを知っているんだ!?」

 

 「突然……だ、戦の最中…どつぜん…奴ら祈りだした。眼前の我等を無視しで…だから、押し返す為に殺めたら…中から化物が溢れて…でだ。皆殺され…一部の者は犯された…男女問わずだ」

 

 「犯された?マジかよ、あれマジでヤルつもりだったのかよ。なにが目的でそんなことしやがるんだ!おい!」

 

 「……じょ……王…みる……様を……たの」

 

 事切れた。元々長くなりそうだったが、情報を伝える為に体力を使い果たしたのだろう。目を閉じてやることしかできないが、やるべきことをしきった兵士にしてやれるのはこれだけだ。

 

 「ていうか、なんでこんなところで強姦紛いのことなんざ」

 

 そりゃあ戦場につきものの一面ではある。生物が命の危機に瀕すれば生存本能から性欲が高まるとはよくいうし、ある種この手の話はつきものだ。だがしかし、弾丸飛び交い剣戟の音が鳴る戦場のど真ん中で下半身丸出しにしてことに及ぶ馬鹿がいるのか?

 

 「生殖の目的は、当然繁殖だろう」

 

 旦那の冷静な声が響く。そういった旦那が後ろにとんだ瞬間例の刃とがそれこそ先程の噴石のように旦那がいる場所に降り注いでいた。先程とは数が違う、外に出て見てみると天使共の数が増えていやがった。さっき俺を取り囲んでいた規模じゃない。五十近くは飛び交っている。

 

 「引き受ける!クーラ達と合流して逃げろ!」

 

 「旦那!?数が違うだろうが!」

 

 「どのみちこいつらをなんとかしないと逃れられるか分からん!邪魔だから早くいけ!」

 

 天使共の意識は、旦那に向かっているようだった。どいつもこいつも股間をギンギンにさせているのが気色悪い。旦那が後方に跳ねながら袋から煙玉を複数取り出す。導火線を着火版に充て、火花を散らしてから投擲。着弾点に散弾銃を向けたが、射出されたのは弾丸ではなく火蜥蜴であった。煙と炎が周囲を包むように充満する。

 

 「行け!時間がない!ここは退路として確保しておくから全員連れてこい!」

 

 「た…頼むぜ旦那!」

 

 炎と煙幕に紛れて場を逃れる。瓦礫を昇り門を超えて先に行くと、想像してしまった風景が存在した。転がるのは神殿騎士の死体ばかりではない。ただ殺された者と、半裸に剥かれ背中を裂かれたかのように死んでいる者がいた。

 

 「ヴ…オオぇぇ…」

 

 喉元から吐き気がこみあげてくる。黄色い吐しゃ物があふれ出し、服と地面を汚したがそれでもこのゲロはありがたかった。なにせ、あんな得体のしれない天使の唾液が咥内で混ざり合い幾分か摂取してしまったことに今更ながら気づいてしまったからだ。

 

 それが今の嘔吐で口内の残留物ごと出ていってくれたのならば、これ以上にありがたいことはない。

 

 「あぁ?」

 

 背中が裂けた存在は、ざっと見では五十を超えた数はいる。腹が裂けている者もいる。雑に数えても八十は超えている気がする。嫌な予感しかしない。門の上から走り出した。

 

 「マジかマジかマジかよ!」

 

 遠目で天使共がたかっているが見えた。交戦しているのか、重火器から出る煙と銃声も聞こえるが旗色がここからでは分からない。というかあそこは、確か住民たちが避難しにいく地下に通じる入口だった筈だ。奴等、後アブソリエルの連中を皆殺しにしようってのか?

 

 「陣形を立て直せ!闇雲に動けば狙われるぞ!」

 

 ノルンの声が聞こえた。両手剣を構えながら周囲の護衛達に指示をだしている。終結し長槍とライフルでハリネズミのように陣形を設けているが、苦戦しているのは明らかだ。

 

 なにせ敵はライフル弾程度では致命傷になってはいないようであり、散弾銃でも使わなければ効果が無いように思え程の耐久力を見せている。それぞれが長槍以上の長距離から球体関節の骨を動かし刃で一人一人狩りとっていた。天使の数は少ないが、それでも普通に戦っては勝てない。

 

 「ノルン!直上!」

 

 真上から狙う天使に気づく。建物の上に飛び上がり煙突を足場に跳躍。こちらに目もくれない天使の脳天にククリナイフを突き刺し、翼を両手で掴んで根本から片翼を噛み千切る。空中で背中を蹴り飛ばしてやる。それに気づいたノルンが大剣を腰だめに構え、背後に飛んでから落ちて来る天使の胴体に両手剣の刃を振るった。

 

 胴体に横一文字、脳天から股間まで縦一文字。十文字に切り裂いた死体は地面に落下しビクビクと痙攣している。

 

 「ガラン。また助けられたか」

 

 「いやあ、助かったってのはまだ早いぜ。ノルンさん、ここには民を?他の城仕えは?」

 

 「城の非戦闘員は護衛をつけ、各々信じる道で逃げるよう伝えた。先程からの山の脈動で城の避難通路は全てやられてしまったのでな。我々だけで大人数は見られない為、各々の行きたいように逃げることを勧めた。後はここにいる民衆達を逃がすだけだ。今、クーラが内部に潜って様子を見てくれている。我々は足止めだ」

 

 「アンタだけ逃げるって選択肢は?国の代表なんだろう?アンタが死んだら国が終わるぞ」

 

 「城主が、国の主が民よりも先に生き延びろと?我が同胞は、可能な限り助け出す。このような無様な状態をさらそうと私は国の主だ。庇護すべき民がいるならば助け出すべきだ。それが最後の役目となろうとな」

 

 意思が硬い。親衛隊連中も決死の思いだ。

 

 「チィ!なんなのほんと」

 

 開け離れた鉄扉、その向こうは非戦闘員の避難所であった。クーラがそこから、後ろ向きに跳ねながら逃れてくる。血の唾を吐きながら、身体は裂傷にまみれまるで血の霧を引きながら飛ぶようだった。

 

 「クーラ!中の者は!?」

 

 「聞きたい?自分がすごすご引っ込んで来た理由を考えなよ。まあ頭が悪くても聞きたくなくても、見れば分かるよ。すぐにね」

 

 暗闇の中からニヤ付いた天使の顔が湧き出てるように現れる。一体、二体、三体。後は数えるのがやめた、判子みたいなツラ並べやがってこいつら。

 

 「悪魔に手を貸した国とその一族は皆殺しってやつ?容赦ないねこいつら、基本的に悪趣味だし」

 

 「そんな……まさか……殺してやるぞ貴様等ァあああああああ!」

 

 「いけませんノルン代表!怒りを抑えてください!」

 

 ノルンの怒りが頂点に達した瞬間山が大きく火を噴いた。今度は噴石どころではない。山頂から、山と一体化したかのような城から赤黒い液体がズルッと噴出している。目視でも分かる程の速さ、ここまで流れて来るのに時間はたいしてかからないだろう。

 

 「この先で旦那が退路を確保してくれている!走れ!」

 

 「続け!親衛隊は続け!この化物達を皆殺しにする!」

 

 「ノルン様!?」

 

 「おいこら!死ぬぞここにいたら!あの赤黒い水…溶岩か?とにかくそれが見えねえのか!?」

 

 「同胞を、民を皆殺しにされ引き下がれる国主がいるものか!ここで果てようとも必ず仇を!」

 

 最後までは言わせない。顎を殴り、脳を揺らして身体の自由を奪う。クーラ興味なさげでとんずらこくだろうし親衛隊の連中がそれをできるか分からない。だから、俺が殴りつけてやった。

 

 「抱えろ!行くぞ!」

 

 「ガラン……貴様」

 

 「熱くなって周りが見えないのは分かるけどよ。ここにいるのだって、アンタの大事な同胞だろうよ。仲間の命を背負った大将が、そう簡単に死ねると思うな!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ガランは、拳を強く握りしめている。そりゃそうだろう、ハボックが異常事態となったということは居残り組も恐らくは全滅。仲間達は半数近く死んでしまい、残りは前衛砦にいるエルバンネ達くらいだろう。

 

 今のガランは大将ではない。でも、長いこと仲間を引き連れて流浪してきた半獣だ。ハボックにいた者達がどうなったか想像できない訳がないだろうしなにより仲間想いな彼が堪えていない訳がない。

 

 「しょうがない」

 

 翼を生やした異形共。イリーナルと殺しあったばかりなのに、今日はこういうのが絶えないね。ガランはノルンを守るだろう。生き残り達をまとめるのにはこの男が必要だ。面倒な話だ、ガランだけだったら放っておいても大丈夫だから走って逃げられるものを。

 

 「走れええええええええええ!」

 

 ガランの声とともにノルンを担いだ親衛隊が走る。それを追いかける天使達は、やはり殺意を向けて追撃をする。

 

 洞窟内で見た。こいつら、性器が男女どちらもついている。住民が避難した場所で、大抵者は殺されていたが中には奇妙な死にかたをしている奴がいた。民を護っていた隊長だったのだろう。下半身を丸出しにされ、挿入された跡を見つけた。他にも何人かにも強姦された痕跡がみられる。

 

 女は腹、男は背中から割れたかのように死んでいた。見た目の割に増え方がえぐいものだ。もっとも、殺害対象を一人減らして仲間を一人増やすということを考えれば効率がいいのかもしれないが。

 

 「自分も候補なの?」

 

 股間が膨らんでいるのを見ると、まあそういうことか。やれやれ、ランザ以外にそういう対象に見られるのは怖気が走るね。

 

 刃と刃がぶつかりあい火花を散らす。ノルンを守る肉壁は何人か犠牲になるだろうが、自分がここにいるだけで劣り役をこなせガランが逃げ延びる可能性があがるならば仕方ないか。

 

 でもこのまま走り続ければ、あの山頂から噴き出す溶岩よりは早く下山できるだろう。

 

 だがその考えは甘かった。自分達のすぐ背後、通った道の石畳みを貫いて溶岩がまるで間欠泉のように噴き出した。

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