家族の仇は、娘でした   作:樫鳥

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 ガランが率いていた半獣達には、設定だけでは色んな人達がいました。ですが、キャラが多すぎたのとテンポの問題で死に設定となってしまい上手く活かせることができませんでした。

 そんなキャラ達をだしたくて、本編とはほんのちょっとだけ離れたパラレルワールドでの出来事を考えました。メインストーリーには関係しませんが、壊滅してしまったハボックがどんな様子だったかを息抜きに書いていきます。

 二ページくらいになると思うので、お付き合いいただけると幸いです。なお、若干のBⅬ要素を含みますので微注意となります。苦手な人は申し訳ありません。

 


外伝 ガランの大変な一日


 「おーし、土嚢はこんなところで良いだろう。ここの最低限の備えはできた筈だ」

 

 最後の土嚢を積み上げて汗を拭う。帝国から奪ったハボックであるが、大爆発をおこした後始末には難儀している。なにせ住む場所ねえ、防壁崩壊、ついでに言うなら瓦礫の山ときたものだ。

 

 幸いなことに瓦礫の下から資材を掘り出したり、その瓦礫じたいも使えるものを吟味して再利用することはできるのだがいかんせん手間と時間がかかりすぎる。だがそれでも、なにもないよりは遥かにマシだ。

 

 まあ、なんだかんだ言ってはいるがなんだが、こうして住めるところを再建したり柵や土嚢詰みをしているのは開拓村を作っているような気分になる。楽しいとはまた違うが、遣り甲斐のようなものがあるのは確かだ。

 

 吹き飛ばなかった建物の方から鍋を叩く音と、昼食ができたことを伝えるミルフの声がした。寒い野外で炊き出しのように配膳される食事だがこれも再建が進めばなんとかなるだろう。調理スペースや食事スペースの関係で現在は肉体作業や戦闘訓練をしている者達が先に食事をとることになっているが、そのうち全員で食べれることもあるだろう。

 

 土木作業をしていた皆が先に食事を食べに行く。俺も続きたいところだが、まだやるべきことがある為保留。帝国軍が残したテントに向かう。

 

 「ウェル助、入るぞ」

 

 テントの中には作業机が並べられており、ウェル助もといウェルロンドが筆記用具片手に数字と戦っていた。少し眠たげな眼をしている為計算疲れをしているようにも見えるが、この顔はこいつにとってのデフォルトである。何時もの表情だ。

 

 「ガランリーダー」

 

 「おいおい、もう俺はリーダーじゃねえっての。というか、二人の時はそんなよそよそしくすんな」

 

 ウェル助は、俺が元々いたクソみたいな環境から蜂起した後、押し込み強盗先で出会った奴隷の半獣だ。まあ俺は炭鉱奴隷であったがこいつは、華奢で女みたいな見てくれとツルツルの肌から想像がつく。つまり、そういう奴隷だった。反吐が出る話ではあるが、こうしてついてきてくれてから冷静さと計算の速さで何時も困った時の最適解を助言してくれていた。

 

 先端が白色で薄茶色尻尾と三角耳。狐というのは頭が良いと聞いたことがあるが、頼りになる奴だ。

 

 「そういえば、君はリーダーと呼ばれるのが昔から好きじゃなかったね。まあ、癖というのは短時間ではどうにも抜けきれないものだ。許してくれよ」

 

 言いながらウェル助は計算が終わった紙を一枚渡してきた。内容は現在掘り出した物資と糧食の記録と、それを配分する為の計算表だ。

 

 「厳しいな」

 

 「うん、厳しいね」

 

 物資がほとんど吹き飛んだハボック。焼け残りを掘り起こし皆で共有しているが非戦闘員を含めて衣食住の面倒を見るとなると想像以上に頭が痛い。一週間はやりくりできるだろうが、切り詰めても十日は厳しい。

 

 「連合王国側が、後アブソリエル公国やオルレント自治州に渡りをつけてくれる予定ではあるが。それが締結するまで、そして物資が届くまでどれだけかかるかは分からない。可能な限り節約するしかないだろう。もしくは……」

 

 「帝国領から奪ってくるかだね。斥候をだして目ぼしい帝国の村落を探っておくよ」

 

 ウェル助の言葉に、歯切れよく答えることができない。俺達は可能な限り、奴隷や半獣を食い物にしているような連中から略奪を繰り返していた過去がある。だが、それでもまだ差別意識だけしか持たない平民や村落から奪ったことはない。

 

 義賊なんて言うつもりはないが、見境を無くし暴走したら俺達を支えるなにかが無くなるような気がしたからだ。だが今は、同盟が帝国に今日か明日にでも宣戦布告をしようという状態である。戦中、行く先々の村落から徴収や略奪は軍隊には付き物だ。

 

 いざという時は、襲撃と強奪も考えなければならないだろう。大義や手段よりも、今日の食事と寝床の方を優先させなければならない時もある。できうることならば、そのような最後の手段はとらないようにしたいものだが。

 

 「凄い紙の量だな」

 

 嫌な考えを棚上げし、テントの中を見る。情報を精査する為、ここにはハボックや拠点に残っていた資料をメモ書きレベルまで全て集めて運び込んでいた。中身に目を通さずなんでもかんでも集めたせいで、中には娯楽絵や小説のようなものまで紛れ込んでおりそれらは共用スペースに放り込んでいる。

 

 文字は読めないものが多いが、旦那やクーラ、一部の者は読み書きができるし人数は少ないもののここまでついてきた半獣の子供にそれらを教えている者もいた。娯楽が少ない現状、なにか楽しみがあるにこしたことはない。

 

 「目を通すだけでも、一苦労さ」

 

 「文字を読める奴が少ねえ。負担をかけるなっと」

 

 適当に紙を一枚とり眺め、半分くらいしか内容が分からず精査済みの紙束に戻そうとした。だが、戻し方が悪かった。積まれた紙はバサバサと地面に広がっていく。

 

 「すまん、散らかした」

 

 「良いよ、それより今はご飯の時間だろう?ボクが片づけておくよ。どうせそこら辺は、廃棄する資料だ」

 

 「これくらいはやるっての」

 

 安そうな黄ばんだ紙を集めていく。内容は帝国兵士の休暇と予備隊との交代期間や支払われる給料についての内容。やはり詳しい内容は半分くらいは分からないが、数字からしてあまり良い待遇ではないようだ。走り書きで、人手不足で頭を悩ませる様子が端にあった。

 

 帝国も大変だなと他人事のように考える。そしてそれとは逆に、真っ白な紙。戦場に娯楽として輸送を頼んだのか、お偉いさんにあてたワインとチーズの請求書だ。やはり数字だけは分かる為、高級品であることがうかがいしれた。先程の兵卒にあてる給料と比べるといろんな意味で泣けてくる。

 

 「たかが請求書なのに、紙まで高級品なんだからよ」

 

 裏面を捲り、固まる。今まで見たことがない、というか意味が分からないものを見て脳内が情報の理解を拒んだ故の硬直だった。

 

 「どうしたんだい?」

 

 異変に気が付いたのか、ウェルロンドが脇から覗き込んできた。そして、なんとも言えないような表情になり後ずさる。

 

 「なあ、ウェル助。質問があるんだが」

 

 「残念だけどガラン。君が言わんとする質問にボクは答えられないと思う。それでも、一応聞いてはおこうか。なにが聞きたいんだい?」

 

 「ウェルロンド×ガランって、どういう意味だ?教養のあるお前なら分かるだろう?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ガランが手に取り眺めていたのは、ボクとガランが絡み合う絵であった。ガランは酷くショックを受けているようだったけど、こういう趣味趣向が成金くらいの中流から上流階級にあることは知っている。

 

 ボクもそういう趣味で買われた過去があるからどうとかは思わないけど、まさかこちらが攻めとはねえ。

 

 「ガラン君?いらっしゃい、どうしたの?」

 

 という訳で、昼食そっちのけで訪れたのはテントを継ぎ接ぎして無理矢理広げた大テント。その中には布地や毛布、毛皮等衣類品や医療品の素材となる品が積まれていた。チクチクと手を動かしながら声の主はこちらに二つの視線を向けて来る。

 

 視線をこちらに向けても手にもつ針は止まらない。大きな二つの瞳の上、ショートの髪の毛に隠れるような赤い二つの眼球は編み物を、そしてその下にある六つの眼球は室内のあちこちを見ていた。目当てのものを見つけたのか下半身の長い脚でそれを持ち上げて優しく引き寄せる。

 

 黄色と黒のツルツルとした八つの足。蜘蛛の身体から白い人間の胴体が生え、そこから伸びた腕で寄せた布地をとり再度新しい冬服造りを進めていた。

 

 彼女はアリアドネ。人間とも半獣とも、コボルトとも違う存在であるが本人はアラクネーの末裔と話していた。もっともそれがどういう種族なのかはよく分かっていないのだけど。ただ、同族がおらず、その見た目からどこにも馴染めずに追い立てられ、捕らわれていたのは確かだ。

 

 両親は父が人間で母がアラクネー。母が扱えた糸を吐き出す能力は既に退化しており、もうずっと前にどちらも病死したという。戦う力はないが、母が得意だったお針子としての能力を活かして一団に貢献してもらっていた。

 

 人よりも多い眼球の視界を狭めないようにショートに切りそろえており、そこから優し気な表情が見える。初見でこそ恐ろし気だと敬遠する者もいたが、人当たりの良さと穏やかさから今では孤児もいる一団の良き母親役のような存在だ。相談を受けることも多い分、他者との繋がりが多い。本人曰く、それこそが私の巣である、ということらしい。

 

 「アリアドネ、アンタなら知ってるか?これを誰が書いたのか」

 

 「あー、これ」

 

 ガランが差し出した紙を見る。あらあらと言いたげな表情ではあるが、驚いた様子もなくニコニコと笑っている。

 

 「今流行っているわよね~。絵が上手だから数枚もらっちゃった」

 

 「え?」「は?」

 

 「はい、これ」

 

 数枚の紙を小物入れから取り出してこちらに見せて来る。いずれも重要度が低い廃棄予定だった資料の裏側であるが、そこには耽美に美化されているガランが登場する掛け算の絵が沢山描かれていた。因みに掛け算の絵と呼称したのは、全て絵の左腕で人物名と×が乗っていたからである。

 

 「成程ね」

 

 「なにが成程だよ。俺もう泣きそうだよ」

 

 「いや、傾向から考えてみてさ、名前と×印がどういう意味なのかなーって。これ見るとネコとタチで、前にある名前がタチ、後にある名前がネコってことだよね。因みにこれ、ランザ×ガランだと…」

 

 ガランが表情が蒼白になる。すぐさま紙を奪い取りぐしゃぐしゃに丸めて放り投げた。

 

 「洒落にならんわ!こんなもん旦那に見られてみろ!これが流行ってるなんて知られたらこの拠点終わるぞ!てか俺が終わらせる!旦那に終わらせられるくらいなら俺が幕を引いてやるー!」

 

 ガランが壊れた。まあ、絶望している彼は放っておいて改めて良く絵を見てみよう。なにが見落としていることはないだろうか?

 

 「大丈夫よ。ランザさんはそこまで器の小さい人じゃないでしょう?貴方と違って。それに女の子はみんな楽しんでいるんだもの。多分、ランザさんの耳にも届いているんじゃないの?」

 

 「み…ん……な?俺は…みんなに…?男に襲われるのを…良しとする変態…扱い……されて?」

 

 「アリアドネさん。今心理的ダメージを重ね掛けで与えるのはよしてもらって良いですか?それにしても妙だな。何故いきなりこんなものが出回るようになった?」

 

 名前の字は汚いものの、絵自体はかなりの描写力である。生々しい迫力に長けていた。しかし、こんな画力を持つ仲間がいただろうか?まあ全員の特技を把握している訳でもないから確実なことは言えないのだけど。

 

 「対価等の支払いは?」

 

 「欲しい人にはって配っていたようだけど。特になにかの支払いはないわね」

 

 「営利目的ではない?趣味の類?それならば分からないでもないけど」

 

 「分かるかー!俺はノーマルっだぁ!将来は年上で芯のある戦友のような姉御肌の異性と平和な家でのんびりと暮らすんだよ!子供は三人は欲しいっての!それなのに俺が、俺がホモなんて噂が出回って将来の素敵な出会いが消滅したらどうすんだぁこらぁー!あぁーーー!?」

 

 うん、ガランの趣味が取り合えずこの大声で広まりそうだね。まあそれはどうでも良いとして、確かに廃棄予定とはいえこんなものが出回るのはあまりよろしくない。無許可で資材を無駄に使われた、今は大した損害ではないがこれが常習化すれば無断使用されるものはどんどんと広がっていくことだろう。

 

 「無い無い尽くしで、これは困るなぁ。一応聞いておくけど、アリアドネさん。これを書いた画家は誰ですか?」

 

 「お話はしないわよ。みんな、こんな毎日を過ごしているんだもの、なに楽しみが必要でしょうから。良くないことかもしれないけれど、心のゆとりも時には必要じゃないかしら?」

 

 「です…か。まあでも取り合えず、当たれるところからは当たらないとな。アリアドネさん、悪いですけどこれは、預からせてもらいます。廃棄する物とはいえ、無許可で資材を横領されたとなったら、一応注意くらいはしないといけないですからね」

 

 「ウェル君は真面目ね。まあ、貴方の考えも分かるし、ガラン君の様子を見ると、被写体に許可をとってないようですからそれくらいは飲みましょう。でも、あんまり厳しくしないでちょうだいね」

 

 四つん這いになって絶望しているガランの肩を掴んで立ち上がらせる。

 

 「ほら、しっかりして。取り合えずこの件を調査する手段を思いついたから。なっ?」

 

 「ほんと?」

 

 「ほんとほんと、じゃあ行こうか」

 

 テントから出て向かう先は訓練場である。何人かの非戦闘員や女性達とすれ違うが、こうしてみるとガランにとっては誰にそんな目を向けられているか気が気でないだろう。解決手段があるという言葉に少しだけ持ち直すが、挨拶されても返す笑顔は引きつっていた。

 

 「ガラーン!」

 

 木の上から、小さな人影が飛び掛かってきた。上から襲い来る引っかきの一撃を避けながら、襲撃者を抱きいて勢いを殺す。

 

 「ガラン!きょうもよけた!スゴイな!」

 

 「ノラ!お前はまた懲りねぇなぁ」

 

 ガランは、ようやく一安心したような笑顔を浮かべることができた。亜麻色の髪の毛に茶色い瞳。野性味笑顔を浮かべた小さな子供は、エルフでも半獣でもないただの人間だ。

 

 獣に育てられた子供。そういう名目で見世物扱いされていた。全裸で首に鎖を付けられ四つん這い。髪の毛はゴワゴワでノミが飛び、全身に暴行や躾の痕が散見された。見物する者やショーの演者に飛び掛かり噛みつこうと暴れていたが、すぐに棒で痛めつけられ獣のように鳴き、呻く姿は悪趣味なショーとして人気だった。

 

 そのころにはボク達は十数人程度の仲間ができており、初めて作戦を言い合い襲撃して、趣味の悪い金持ち共から金品を強奪し捕らえられていた者達を解放した。その中でも、行先が無い者や解放された世界に馴染めない者達が仲間に加わった。その流れで、このままではどうなるか分からないノラを一団で面倒みることになる。

 

 ノラは、手負いの獣そのものだった。何度も噛みつかれたり引っかかれ、食事は四つん這いで口からでないと食べない。言葉も理解を示さず、皆手を焼かされたものだ。

 

 ただそれでも、気持ちはいずれ通じるものだ。用意した食事を誰もいなくなってから手をつけていたノラが、そのうち一番最初に飛びついて顔を引っかいた男、ガランが用意してきた時だけ近くに寄って食べるようになった。

 

 いずれ、他のメンバーにも慣れていき、何時しか食事を共に囲うようになる。食事マナーと言葉を覚えるのにはまだまだ時間が必要だったが、少しずつ信頼関係を築いていた。だが、言葉を覚えるまで成長しても、何故だかガランに飛び掛かり先制攻撃をしようとする癖のようなものは抜けなかった。

 

 信頼故のコミュニケーションなのかもしれない。あの時よりも成長し、少女から大人に向けて成長する最中であってもそれは変わらなかった。

 

 「ガラン、どこかイくのか?」

 

 「ん?おお…そういえばウェル助、どこに向かっているんだ?」

 

 「そういえば、行先は教えてなかったかな。訓練場だよ、あの二人は何時も一番最後に食事をとりに行くからね。まだ、いる筈さ」

 

 ノラの顔が曇り顔になる。エルフ達に対してもそうだが、あの二人に関しては慣れていない上に変な気配がすると怖がって近づかない。ハボックを占拠してから輪にかけて近づかないようにしており、喉元から小さな呻き声をあげていた。

 

 「ガラン、ウェル。ごハンイかないの?おナカスいたよ」

 

 「悪い、ちょっと野暮用がな。先に食べに行って良いんだぞ?」

 

 むぅ、と呻きながら困り顔をする。しばらく唸ってから、腹の音を鳴らして空腹を胃袋が訴えた。

 

 共に来てほしそうであるが、こちらにその気がないことはもう分かっているのだろう。仕方なく小動物のような鳴き声をあげて食事場の方に向かおうとする。

 

 「あ、そうだガラン」

 

 立ち去ろうとしたノラが、こちらに振り向いた。くったくのない笑顔を浮かべており、それを見るガランの顔も優しい。

 

 「ガランはエルバンネがスきなのか?」

 

 「ん?」

 

 空気が、凍った。雑に服の中にねじ込んでいたのか、クシャクシャになった紙を取り出し取り出して広げて見せる。それはガランとエルバンネの掛け算の絵だった。ノラは意味も分からず拾ったか持ち去ったのだろう。ニコニコしながら疑問をぶつけてくる。

 

 「ケヅクロいしあってる!ノラもしたい!」

 

 「「いけません!!」」

 

 絵の内容は、茨のようなものに両腕をあげられながら頬を赤らめているような拘束されるガランの胸元に襲い掛かるように顔と舌を寄せるエルバンネがいた。これは教育上に悪すぎる。ガランのみならず、変なところに悪影響が出始めていた。

 

 「ダメ?」

 

 「とにかく、今はご飯を食べてきなさい。邪魔になるから、それはボクが預かっておくよ」

 

 意味も分からずに首を傾げるが、クシャクシャと紙をまた丸めて放り投げていった。それを拾い、アリアドネさんから預かったものとまとめておくことにする。

 

 「なあ、ウェル助。俺さ、なにか悪いことしたかなぁ」

 

 「悪いことしたかは置いておいて。無作為にバラまかれて管理がなっていないようだと困るなぁ。見ちゃいけない子まで見てしまうとなると、問題しかないよ」

 

 がっくり肩を落とすガランの為にも、この問題の解決を急ぐしかないだろう。当初の目的地に急ぐことにする。

 

 ハボックの西端、元々建物もない土地には整備が行き届いてない為大きな岩が転がり地面に起伏がある為デコボコし、あまり建築には向いていない地形をしていた。現在はその一角を整地して畑にしないかという話も出ているが他にやることがある為検討レベルで保留されており、この場はむしろ訓練場として利用されている。

 

 訓練場の真ん中、ランザさんが佇んでいた。彼が訓練場を扱う時は、他の者達は極力入らない。恐れと敬いが入り混じったような感情を向けられるなか、こうして彼なりに気を使い食事は遅めに、訓練は他者と時間が被らないようにしているのだろう。

 

 ガランは出来れば仲間の輪に入ってほしいと考えているようだが、個人的には孤高の存在でいるのは、それで良いと考えている。

 

 ガランを中心に据えた際のリーダー像は、皆と楽しみも危険も共有して仲間意識の元に引っぱって行くタイプだった。自然とみんなの中心になり、頭として担がれいく。無意識ながらそれを行い、それがガランを半獣達が慕っている理由となっていた。

 

 一方ランザさんは、そういうタイプではない。平和な世の中でまともな職業についている際は話は別であるが、あの人にはあまり人を惹きつけるカリスマ性はないように感じる。もっとも一部の者にはクリティカルヒットをしているようだが、まあ例外であろう。

 

 ただあの人間離れした能力と、引きついだ悪竜ジークリンデの力。火竜ランドルフにも一目置かれているようであり、その神秘性と強力な武力はある種の切り札的存在。言い方は悪いが兵器としての価値がすこぶる高い。

 

 圧倒的な力はそれはそれで人を惹きつける。ガランは無意識に、エルバンネさんは意識してそれぞれの種族代表として旗頭に彼を据えたのはそういう理由であろう。ガランの統率力は、半獣だけを率いるならば問題はないがエルフまでまとめ上げるのには向いていない。

 

 岩陰からクーラが飛び出す。立ちながら目を閉じるランザさんの後頭部に襲い掛かる。

 

 「うお!マジか!」

 

 ガランが驚きの声をあげた。身体を捻りながら後ろ回し蹴り。格闘技の素人でも威力が乗りやすいうえに、飛び上がりながら捻りがついた一撃はクーラの体躯でも急所を打ち抜けばひとたまりもないだろう。大好きな対象であるというのに、容赦がない。

 

 ランザさんが腕で後頭部を抑えて蹴りをガードする。ギリギリで気配を捕らえて反射神経で技を防ぐが、カウンターで繰り出した振り返りながらの裏拳は避けられた。地面に線を引きながら手をつき着地するクーラが、反射神経と瞬発力で次の一撃を繰り出そうとした。

 

 「え?」

 

 「なに!?」

 

 動き出す前に、動いたとしか言いようがない。攻撃をしようとしたクーラの拳が、攻撃の前から読まれているかのようにランザさの手刀で手首を叩かれることで防がれた。そのまま二人の位置が一回転するように入れ替わったと思ったら、横倒しにクーラが地面に倒される。

 

 起き上がろうとする前に、拳が額の前に迫り寸止めをされた。拳がそのまま、差し出された手になりクーラの身体を引き起こす。

 

 「小手返し、と俺を鍛えてくれた人が教えてくれた技だ。相手の手首を叩き勢いを殺さずに誘導し、倒す技。掴むこともなく、膂力もそこまで必要ない。現に俺も今、ほとんど力を込めなかった」

 

 「掴まずに投げられたような気分だったよ。体幹崩しの体術なのかな。興味深いけど、今はもう少し分かりやすい攻撃が良いな。訓練時間も限られているんだし、打撃系で良いのはない?」

 

 「打撃系か。俺は、教わる時はまずその技をそのまま身体に受けた。そういう教え方しか分からないが、大丈夫か?」

 

 「望むところだよ。よろしくね、ランザ」

 

 クーラの瞳の奥に、怪しい喜びの光が一瞬横切る。ガランが隣でうへぇ、という顔をしていた為多分気づいているんだろう。彼女にとっては、ランザさんに痛めつけられることも幸福らしい。正面で対峙しているのに、ランザさんは気づかないのだろうか。

 

 「すいません。お二人とも、少し時間をいただいていいですか?」

 

 訓練が再開される前に口を声をかける。クーラの至福の時間を邪魔することになるが、今はこちらの用事を優先させてもらおう。

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