家族の仇は、娘でした   作:樫鳥

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災害


 大陸最大の都市と呼ばれる帝都。人口はおよそ六十万人。交易と娯楽を重視したイルドガルや歴史と遺物の都市である地方都市クスのように、帝都はなにかが尖っているような都市ではない。

 

 しかし広大な都市と人間の流入、そして巨大な城に初代帝王ギルバードが成した歴史のバックホーン。帝王御用達で酒造で精製された蒸留酒の酒蔵に、イルドガルの競馬とはまた違う国営カジノの存在。複数の大商会が鎬を削りあい、帝国戦争博物館にはかつての敵国の品が並べられて観光客を集めていた。

 

 なにかが尖っている訳ではなく、全てが満遍なく充実した帝都。帝国市民にとって、帝都で暮らすことはある種のステータスとして語られることもあったが、それも今や昔と言われていた。

 

 帝都の五分の一が、悪竜と四足獣の獣による戦闘の余波で壊滅された帝都事変。それは表面上の人的資源や建物の崩壊以上の損失を産み出した。

 

 激しい戦場となった場所は、主に富裕層よりの中間層が住まうエリアであり、帝国で二番目に巨大な大商会の本拠地を構えていた。老舗と呼ばれる店や都市開発により産み出された時計塔を中心に活気がついていたエリアであり、皇帝肝いりの政策として善政が推し進められていた。

 

 別エリアから労働に訪れる労働者達や都市開発を推し進める為の職人達が集う癒しの場である酒場通り。外から訪れた商人達が泊まる宿泊施設。シンボルマークとなった十五年かけて建造された時計塔周辺の広場では催し物もよく開催されていた。近頃はやや過激な新興宗教が進出してきていたが、治安も良好でありここに住居を借りることは成り上がりを狙う者達にとってまず目指すものであった。

 

 娯楽、環境、雇用、住居。なにもかもが揃い、瓦礫の山と化した区域は既に封鎖されていた。

 

 経済の停滞と住民の不安もさることながら、最悪な話題は居残り組の予備部隊とはいえ竜狩り隊を名乗る者達が呆気なく一蹴されてしまったことであった。戦力の低下以上に、この事態は政治的な不安要素を産み出してしまった。

 

 情勢不安とあいまり、不都合な情報は七都市同盟は仮想敵国のスパイによって拡散されてしまう。竜狩り隊とは、帝国軍の象徴であり傷一つつくことが許されない金看板。無敵であることが義務付けられた、負けを許されない集団であった。

 

 「失礼しました」

 

 既に夜分遅くだというのに、謁見の間から一人の男が退室する。近衛兵達が重厚な扉を閉める音を背に歩く男の左腕は存在せず、なにも通されていない袖がぶら下がっていた。

 

 白髪交じりの頭髪と日に焼けた厳つい表情。一度は前線を引退した身であるというのに、再度槍を持った帝国最強の男。悪竜ジークリンデを葬ったガルシア=ニコライは眉間に深い皺を寄せていた。

 

 海竜リヴァイアサン、悪竜ジークリンデで渡り合いトドメを刺した大陸で、人類で唯一の男である。世が世なら歴史上に英雄として名を残すであろう偉業をなした者とは思えない程に苦悩と労苦が身体と精神を蝕んでいるようであった。

 

 「やはり、受け入れてはもらえないか」

 

 帝国参謀局、臨時戦争大臣、果ては皇帝まで直訴陳情をしたがその全ては思うようにいかないものであった。やり残したことの後始末。北の地で、猛威を振るう悪竜の後継と噂されるランザ=ランテの討伐。それこそがこの老体の最後の奉公であると考えていた。

 

 人々は、特に苦しい現状が続く帝国は士気高揚の為プロパガンダの意味も含め悪竜ジークリンデの討伐を褒め称えた公表するもあの仕事は目的の半分も達成できていないのが現実だ。あの悪竜に後継者ができるとは考えていなかった、ランザ=ランテを討ち取れないまま引かざるをえなかったのは痛恨の極みであった。

 

 北部の対帝国戦線で脅威となる、単独で兵器なりえる存在。奴を倒せるのは我々だけと掛け合うものの許可がおりることはない。

 

 周囲からは、片腕を失い息子の復讐を未だ果たせぬ老人の面倒な執念と煙たがられている節さえある。大きく間違ってはいない為否定はできないがなにもそれだけではない。

 

 竜が帝国と敵対している。敵勢力の旗印となり、一部勢力のみとは北部の精神的主柱になりつつある。敵の心を支える希望は、早くにへし折らなければならないというのに。

 

 帝国で英雄ともてはやされようが、立場だけで言えば一部隊の隊長であり政治的権力は脆いものである。そしてなにより、奴等は帝都死守を建前に竜狩り隊を飼い殺しにする方針を固めているようであった。確かに、次敗北するようなことがあれば帝国軍の士気は大きく落ちるだろう。だが勝てば良い、新たな竜を討ち取ったとなれば士気は向上し北部の戦乱地域は瓦解するだろう。してみせる。

 

 城内から見える景色。戦争の影響で復興が停滞している区画を見て拳を握りしめる。帝都事変、原因の一端は息子の軽挙さと愚かさが原因であり、それ故の光景とも言える。それを見る度に、後継ぎを無くす悔しさと犠牲者に対する申し訳なさ。そして無念さが胸中を支配した。

 

 いったい我々は、なにをしているのだろうか。

 

 「お戻りになりましたか、隊長」

 

 兵舎につくと、臨戦態勢で常に待機している部下達に出迎えられる。政治局や財務を無視した皇帝の懐金にて、鉄馬も装備も充実してきた。戦時中故人的資源の補充はままならないものの、装備に関してはかつて海竜と戦った時のように充実している。

 

 だがしかし、やることと言えば敵の来ない帝都の空を護るのみだ。すっかりと癖になってしまった歯痒さを感じながら執務室に入り、かつての私、そして息子が座っていた椅子に背を降ろした。

 

 「失礼します」

 

 部下の一人が、気を利かせ湯気の立つコーヒーを運んで来た。ミルクも砂糖もない黒鉛を溶かしたような黒色が、テーブルに置かれる振動で小さく波打つ。一口呑んで、戻す。味に僅かに違和感。

 

 「何時もの豆じゃないね?」

 

 「申し訳ありません。本日からしばらく、代用豆を使用しています」

 

 「制海権の問題か?」

 

 大陸西方。リスム自治州の周辺の帝国軍と連合王国軍は膠着状態になっているが海洋上では激しい海戦が行われていた。西と東から来る同盟軍の海軍の対応に追われ、海上巡視や海上警備がおなざりとなり民間の商船等の海上被害が増えていると聞く。

 

 お気に入りの豆は南方大陸から仕入れているものであり、つい最近商船団が無法者に襲われ品物が鹵獲されたと聞く。また、大型の海洋生物が血や遺体の臭いに引き寄せられ近海に出没し始めたとの情報がある。

 

 海竜程の脅威ではないであろう。しかし、リスム自治州のベテラン捕鯨員が執筆し帝国で大ヒットとなった、化物鯨との闘いを描いた『白鯨』のようにまだまだ海には謎と危険が残されている。未だ海上封鎖のような危機的な危険ではないものの、真綿で首を絞めるように、海上の不穏は帝国の経済を締め付けつつあった。

 

 「しかしよく気づきましたね。舌が肥えた者でも、味の違いが分からないと言われる品種ですが。恥ずかしながら自分には、違いが分かりませんでした」

 

 「何年も同じものを飲んでいたからね」

 

 杯をテーブルに戻す。再度黒色の液体が波打った。

 

 「よく似ているが、やはり違う。あまりコーヒーの豆に煩い方ではないが、何年も飲みなれたものと別種ではやはり味の違いがあることには気が付くよ」

 

 机の上には報告書が並んでいた。戦地から届く最新情報。特に北の地からの情報を重視して集めた情報収集の結果が積み上げられている。

 

 報告書を一瞥して、頭を抱えたくなる気分に襲われる。自分に左腕が残っていれば、間違いなく抱えていたところだった。

 

 「宗教家の力を借りる等、情けない話だ」

 

 事態は公になってはいないが、件の帝都事変では奴等が関与されていた可能性が浮上している。人手不足から調査は遅々として進んではいないが、息子は奴等を見張る為の人員を張っていたという話もある。なにかと黒い噂のある組織だが、某大物議員を後ろ盾につけ上手いこと追及を退けている。

 

 そして奴らの義勇兵である宗教的な民兵部隊は強力かつ、リスム自治州の治安維持に一役買っている。猫の手も借りたい現状、使い潰しも可能な組織を下手に失う訳にはいかないという事情もある。

 

 「嫌な予感がするな」

 

 「それは、北部戦線の話ですか?」

 

 「それもあるが、この手の組織は増長すると厄介だ。我々信仰を広める為のトラブルや他宗教との衝突の事件もあるという。教義の広め方も金に糸目を付けぬような強引なものも多い。本来宗教観というのは生活の一側面にすぎず、個人の心持ちにおける癒しと手助けになれば良い。社会的弱者に対するセーフティーネットとなる社会的意義となる一面もある。だがしかし、聖職となる者を除けば個人の価値観や生活を潰してまでのめるこむようなものではない。それは、狂信だ」

 

 かつて連合王国が宗教的価値観、或いはアニミズムという自然崇拝的な原始宗教まで一切を禁止してそれは数百年単位で長い間続いたと言われている。今では宗教弾圧等は行わないようだが政治的配慮も無ければ援助もなかいそうだ。

 

 いったい過去になにがあったのかは誰にも知られていない。連合王国は、黒歴史として過去の宗教関連の記録を封印、或いは燃やしてしまっている。真実を知るのは歴代の総帥とその周辺の人間のみと言われているが真偽の程はどうなのだろうか。

 

 コーヒーの杯に手を伸ばす。指先が持ちてを掴み喉に熱い液体を流し込み、戻す。濃い香りと鼻腔を、酸味が喉元を潤した。

 

 しかし、味の違いは分かるもののこれはこれで良いものだ。指摘しておいてなんだが、本当に代用豆なのだろうかと疑いたくなってくる程の味わいだ。杯が置かれ、再度黒い水面が波打つ。

 

 「これはどこの豆かな?」

 

 「はい。お恥ずかしながら、私の実家で栽培した豆です。ディノ商会に卸しております」

 

 「君の実家というと、確か南方大陸に居を移したバーノン家だったね。南方大陸での気候を活かした商品開発を命じられているという」

 

 「覚えていてくださいましたか」

 

 隊員一人一人の経歴と戦歴は頭に入っている。息子が集めた二線級達のこともプロフィールは頭の中に叩きこんでいた。竜狩り隊の強みは、貴族だろうが平民だろうが平等かつ厳しい適性検査で選び抜き、正気ではないと陰口を叩かれる訓練によって選び抜かれた精鋭達だ。一人一人、把握することなど造作もない。

 

 彼はまだ若いが、まだ青年期と少年期の境目のような年齢において血反吐を吐くと言われる古い竜狩り隊の採用試験に合格した当時の最年少隊員だった。その槍捌きは、もう一つの精鋭部隊である皇帝直属の近衛兵団との模擬試合においても遺憾なく発揮していた。

 

 「これだけ美味しいのに、代用豆扱いなのは不思議なものだね。なにかあったのかい?」

 

 「はい。隊長の愛飲する豆は高級品として市場に出ておりますが、別の品として出す筈のこの豆を名前を偽り偽物として市場にだしてしまった不届き者がおりました。悪事がバレてしまってからは偽商品のレッテルを貼られなかなか在庫を捌くことができず困り果てていましたが、似た味わいがこの戦中において日の目を浴びたのです。今では人気商品として、飛ぶように売れております。不謹慎ですが、独立した品種として改良したこの豆が日の目にあたり少し嬉しい気持ちでもあるのです。家族と現地の方々の苦労が報われたと」

 

 南方大陸では、現地の住民を抑えつけるような者達が多いと聞くが彼の実家は雇用主と雇用人という間柄を厳守している。儲けも少なくなるだろうに、見る者が見ればお人よしと言われてしまうだろう。だが、その家の教えが根底となり、彼を誠実な騎士へと成長させてくれた。

 

 「人気商品となるのだな。それは大変だ、今すぐディノ商会に大量に発注をかけたいものだね」

 

 他愛のない会話をしながらコーヒーの杯に目を落とす。違和感。

 

 「はい、ガルシア将軍からの注文であれば私達の家族も喜ぶで」

 

 「退避するぞ!建物の外へ出ろ!」

 

 こちらの声に反応し、彼が年相応の若者から竜狩り隊の顔へと変わる。窓から飛び出し、着地。ガラスが割れる音に周囲の者が反応しすぐさま臨戦態勢に移行する。

 

 「鉄馬用意!第一種警戒態勢に移れ!」

 

 敵襲による警報もない。周囲に変わった様子もない。だがしかし、待機していた竜狩り隊の動きは速かった。元々北部に張り付いき、悪竜ジークリンデ討伐後戻された部隊。そして、息子が先発した者達の生き残り達。前線に出られない代わりに訓練の時間は大量にあった為誰もが素早く危機行動の対応を始める。

 

 だがしかし、危機はそれを上回る勢いで訪れた。

 

 違和感を感じたのはコーヒーの杯。視線を向けた瞬間に気が付いた。置いてからしばらく時間が経っていたというのに、極僅かではあるが何時までも水面が海岸における波のように揺れていた。

 

 指示を出してからほんの数秒後、大地が脈動した。まるで巨大な生物が、地の底から地面を無造作に叩きつけたかのような衝撃が揺れとなり帝都を揺らした。体幹を鍛えていないものならな、立ってられない程の衝撃。夜の暗闇のなか、物が落ちる音や瓦が落ちて割れる音が響いた。

 

 最初の揺れから数秒後、連続した揺れが帝都を襲った。訓練を積んだ者ですらなにかに捕まらなければ立っていられないような大きな揺れ。帝都のあちこちで建物が崩れる大きな音や悲鳴が聞こえ始めるが、それよりもうなり声のような大地の咆哮が耳をつんざくように響いていた。

 

 「隊長!鉄馬の用意ができました!」

 

 「合図を待つな!装備も良い!各自即浮遊せよ!」

 

 それでも竜狩り隊はなおも動く。地面が揺れ動く中支えられた鉄馬に乗り込み内部の魔具を起動。揺れる地面から何名かが浮かび上がった瞬間、天変地異がおきた。まるで地面が荒れ狂う海原のように隆起と沈殿を繰り返し始める。建物の類は軒並み崩壊し、先程までいた竜狩り隊の本部や丈夫に造られた兵器庫もひしゃげて崩壊する。何名かが巻き込まれ、悲鳴が響いた。

 

 崩落に巻き込まれなかった者達もいたが、とてもではないが鉄馬に乗れず起動もできない。鍛えられた精鋭といえど、立つどころが地面に這いつくばるのが精一杯の有様となった。

 

 何時までも収まらない揺れ。不動であった地面の脈動という天変地異が続くなか、空が夕焼け色に染まった。光源の方向を探ると、帝都から離れた山脈が火を噴いていた。

 

 「あれは、火山ではないぞ」

 

 空に飛ぶことができた誰かが言った。休火山どころではない。標高は高いだけのなんの変哲のない山だというのに、山頂が割れ炎が舞い上がっていた。山頂から溢れた炎と溶岩が流れて来る。高温により炙られ焼けた木々が火をあげ、鳥達が飛び立つのが見えた。

 

 あそこの山と周辺の木々は皇帝や貴族達の古い遊びである狩猟の場であった。伝統である鷹狩り、狐狩りは廃れていったものの王侯や貴族の土地であることには変わらない。なので管理をする山番と森番が今も常駐しており、季節となれば山菜取りや狩りの場として一般市民に提供をしていた。

 

 生い茂る木々が燃え始め炭化していく。獣たちが逃げまどい、小さな小川が土砂で埋め尽くされていた。地獄が現世に再現された、と考えるのは少し気が早かった。山頂が巨大な音と共に砕けて爆散、天高くまで溶岩と噴石が舞い上がり、巨大な岩石が空に舞い上がる。

 

 遥か昔、空から振ってきたという巨大な岩石が推力を失い、重力に従う。流星となった噴石が未だ揺れる帝都に降り注ぐ。

 

 「退避!」

 

 叫ぶ声が聞こえる。鉄馬を急稼働、落ちて来る巨大な岩石を避け、轟音と共に地面が抉れていく。まだ揺れが収まらないというのに、広大な帝都が的あての的のように降り注ぐ。

 

 「陛下をお救いする!ついてこれる者はついて来い!」

 

 これは、まずい。精鋭でも立っていられないような揺れだ、天変地異がおきたとしても、皇帝陛下を助けられる者はいない。

 

 地面からバキバキ、という音が響いた。大通りに巨大な裂けめが出現している。避けた皮膚から血液が溢れるように、ドプリと赤黒い液体が溢れ出す。帝国市民が知る訳もないが、かつてボンペイを襲った火竜のランドルフの怒りが再度顕現したかのようだった。

 

 だがそれを見たガスパルは、背中に大量に汗をかいた。一瞬、ほんの刹那程の間であったが噴出する液体が大口を開けた竜の顎に見えた。海竜リヴァイアサンの、悪竜ジークリンデの、そして出会ったことはない、火竜ランドルフの顎を想像してしまった。

 

 溶岩は形が崩れ噴き出し、帝都に降り注ぐ。雨となる溶岩流に家屋が燃やされ、人々の苦痛な悲鳴が帝都中に轟いた。かつてのボンペイの惨劇が、帝都で同じように繰り返されていた。

 

 「地獄か、ここは」

 

 阿鼻叫喚と化した都市を真下に城に向けて全速力で飛ぶ。限界を超える推力が機関を痛めつけるが気にしていられない。可能な限り全力で進む。帝都はもう壊滅と同じだ、だが皇帝陛下が生きてさえいれば帝国はまだやり直せる。

 

 「隊長!アレを!」

 

 巨大な複数の噴石が降り注ぐ。直撃するのは、陛下のおられる皇都。生存者は、絶望的な状況だ。

 

 「何故、なにがおこれば、このようなことになる」

 

 複数の噴石が皇都を砕く。巨大な大穴が直撃し、主塔が崩壊する。バラバラになった瓦礫が降り注ぎ、自重で崩壊するように崩れていく。絶望的な光景が、目の前に広がっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この日、大陸は巨大な災害に見舞われた。

 

 北部地帯、霊山より始まった天変地異は北部の国であるオルレント自治州、連合王国から帝国に寝返ったアレト共和国、そして北部最大の勢力である後アブソリエル公国が壊滅に追い込まれる。

 

 帝国北部にも甚大な被害が出たが、まるで更なる犠牲を求めるように災禍は南下していく。帝都を中心にするように地面は荒れ狂い、火山でも休火山でもない山々が一斉に噴火をした。大地が荒れたことが原因となり水脈が崩壊、各地で水害がおこり汚染された水が飲料に適さなくなる。

 

 帝国第三都市イルドガルでは、この水害に対して先人が残した地下通路のおかげで大きな被害を免れるが自揺れの余波もあり建造物に大きな被害が残る。

 

 地揺れ、水害、噴火の災害にて帝国は甚大なダメージを受けたが、生き残った者達が待っていたのは飢餓による地獄であった。

 

 大量の山脈が噴火したことにより、尋常ではない量の火山灰が太陽を覆いつくす。

 

 降り積もる灰色の雪。それは冬を越え春が訪れても終わらない。頻度は減っていったとはいえ、火山と呼ばれる本来噴火をする山々が断続的に火を噴いたことにより火山灰は収まらず、田畑は全滅し家畜は食い尽くされ、動物は痩せほとり植物は枯れていった。

 

 食うに困る者達により野党の集団が形成され治安は荒れる。しかし、皇帝以下貴族達や国政に携わっていた役人達が帝都にて死亡、もしくは行方不明となっていき対応できず、各地で地方貴族や有力者による軍閥がおこり国が割れていった。

 

 そうなった帝国に継戦能力はなく、政治的中枢もさだまらない為独自に連合王国や近隣の敵対国に降伏する勢力がおこり、そうでない者達も水と食料を求め争いが過激化していった。

 

 現在の帝国を占拠しても無意味。なによりも国境に押し寄せる難民の対処に各勢力が苦労をする為、連合王国を始めとした同盟勢力は会議の末停戦を表明する。未曽有の危機と被害は帝国のみに収まらず、北部以外の各国も影響があったことも大きい。

 

 そして帝国が崩壊したことにより、南方大陸の植民地勢力が独立を表明。南からの食糧や資源も経たれ、生き残りの帝国民達の飢餓は増していく。

 

 停戦協定が行われてから、更に一年が経過する。人々の怨嗟が蔓延る分裂した帝国領で、おかしな噂がまことしやかに囁かれた。

 

 それは、奇怪な人外な化物の噂。それは、神の奇跡の噂。縋る者なき絶望の土地に、二つの変化が起こり始めていた。

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