家族の仇は、娘でした 作:樫鳥
モスコーの古城、その裏山は遊歩道も整備され観光客が自然を楽しみながら散策をできるようになっている。
途中ある東屋からは、景色がよく街が一望できるため平時の休息場所としては、もってこいの環境だ。
しかしそんな東屋から見える景色は半焼し、いまだくすぶる火のてから煙が巻き起こる街並みだ。騒動から二日、街には各地からギルドや個人事務所からの応援が駆けつけ生存者の捜索や瓦礫の撤去が行われているのが見える。
この街が再建することがあるだろうか。少なくとも、以前のような古都として魅力は取り戻せないかもしれない。この街に滞在した時間は短いが、それでも多少なりとも思うところがある。
東屋がある道から少し外れ、遊歩道から外れた細い道の先に歩みを進める。遭難防止の為の柵を乗り越えて飛び、着地をした拍子に手に持つ紙袋がガサリと音を立てた。商魂逞しい商人達は、この惨劇の後でも自らの店内をひっくり返しながら使える商品を見繕い天幕を張って商売をしている。そんな連中から、買ってきたものだ。
森の中をしばらく進むと、開けた場所に辿り着く。崖際に、盛られた土と墓標代わりに刺された半分に折れた棒。その前には、シャベルを片手に汗を拭うランザの姿があった。
「ランザ」
声をかけ、紙袋の中から水の入った革袋を投げ渡す。掴んだランザは、蓋を開けて中身を一気に飲み干した。一つ大きくため息をつき、革袋を自身の子袋の中にしまいこむ。
「手間をかけさせたな」
「ううん。それよりもこれ」
酒瓶を取り出し、封を開けて近づく。ランザがそれを受け取り墓に琥珀色の液体を振りかける。最後にほんのわずかに残った液体を、目をつむり黙とうをしてから飲み干す。それに習い、自分も黙とうをした。
サグレとベレーザ。二人の墓は静かで誰にも邪魔をされない、そんな空間を探した。自分からの提案だったが、ランザもそれには頷いた。共同墓地に葬るのは二人は望まないように思えたし、それ以前に下の様子からとてもそんなことはできそうにないと感じていたからだ。
しばらくの沈黙。サグレとベレーザがどんな宗教を信仰していたかは聞きそびれたし、もしかしたら自分と同じように無宗教なのかもしれないが、とにかく天国とか来世とかあるならば二人ともそこで幸せになってほしいと願う。
生き延びた者の傲慢な願いかもしれない、殺した相手への罪悪感を軽減する為の行いかもしれない。だが、この悼む気持ちは本当である。誰にも文句は言わせはしない。
サグレもベレーザを愛していたからこそ、ベレーザの求婚を一度断ったとランザに聞いた。自分は、ベレーザの心中を深く本人から聞いていた。ベレーザが本当にサグレを好いており、どんな決意を持って求婚をしたのかを。
ベレーザを吸血鬼にして共に愛し合おうとしたサグレと、街一つ滅ぼしたサグレを変わらず愛しランザに仇を求めたベレーザ。二人の愛は最終的に歪んでしまったのかもしれないが、それでも自分には眩しく思える。歪んだ愛を抱えるのは、『同じ』だからだ。二人を見て、自分も一つの感情と歪みを自覚してしまった。
「クーラ」
しばらくしてから、ランザが呟くように名前を呼んだ。ピン、と尻尾と耳が跳ねる。ランザに対しても、話すことが山積みとなっていた。
テンのこと、レントのこと、自分のこと。どれからまず話せば良いかは、分からない。
「悪かったな」
「え?」
「半獣呼ばわりして、傷つけるようなことを言った」
しばらくキョトンとしてから、記憶を巡らせてようやく思い出す。サグレがベレーザの血を初めて吸い飛び去った後、ランザは自分に半獣に対する差別発言をしてから追いかけて行った。あの時は少しショックだったかもしれないが、その後がその後なのですっかりと忘れていた。
そんなことは、こちらとしてはもうどうでも良いが、それでもしっかり覚えていて謝らずにいられなかったのだろうか。ランザという人物の人柄が、少しだけまた理解できた気がした。
恐らく彼は全部、覚えているのだ。自分が行動したことに関しての過程と結果を。
あの夢を思い出す。小さな家屋の中に転がる人妖の死体達と、二つの人間の死体。あれがもしランザの内面を現した世界だとしたら、あの中にサグレとベレーザが加わるのだろうか。そして、自分が死んだら、その死体も。
それを全て引きずって、また次の人妖の元へ向かう。テンを倒すか自分が死ぬまで、その歩みは止まらない。ひょっとしたらランザは、自分でも気づかないうちにそれに疲れているのかもしれない。
ベレーザはサグレの仇を討とうした。だがそれは、あのクイーンビーの人妖を討ち取った時に扱った連結刃を扱えばいくら手負いでも容易く返り討ちにできただろう。同じ仇討ちという志を目の前に、終われるなら、ここで終わっても良いと無意識に考えたのか。だとしたら、救われない。
自分は、ランザを殺そうとしたベレーザを殺した。だとしたらベレーザ、化けて出るなら自分のところに出てきてくれ。人一人、背負える人数にも限界があるというものだ。負担を少しでも、背負うことができるならば願ったりだ。
「許さないって言ったら?」
「どうするかな、少し分からん」
「嘘、許すよ。でも教えてほしいことが沢山あるし、こちらから伝えることもある。ランザ、あの褐色の女性は誰なの?テンという女は何者?なにを…目的で人妖を狩ってまわっているの?」
弱ったような表情を浮かべ、しばらくなにかを考えているようだが小さくため息をついた。手近にあった丁度いい大きさの岩に座り込み、スコップを地面に刺す。
「話したくはないが、話さなければならないか。本当はクーラ、お前にはこんな話を伝えずにどこかに根を張ってまともに暮らしてほしかった。だが、お前はもうテンに目をつけられ、なにかを身体に埋め込まれている。ならばもう、ついてくるしかないだろうしな」
ランザにとっての私は、得体の知れない爆薬を埋め込まれた時限爆弾か不発弾のようなものなのだろう。今までは、どこかで安心で平穏な暮らしをしてほしいと考えていたようだが、今は近くに置くしかないと、腹に決めたようだ。
テンが、捨てられないようにとこの身体になにかをほどこした。そのなにかは、今は沈黙しているが内部で未だに奇妙なものが渦巻いているような感覚がある。また時と場合を見てそれは出現するのだろうか。それとも、何時でもこの身体を自由にできるのに敢えて泳がせているのだろうか。不安がない訳ではない、むしろ積もるばかりだ。
だが、同時にある種の安心感があるのも確かだ。これのせいで、少なくともランザは自分を切り捨てるという選択肢をとることはできなくなった。望むとも望まぬとも、その旅路に同行することになるだろう。
話せば長くなる、という前置きをしてランザは自分のことを話し始めた。
若き日に冒険者に憧れ、未開地の探索に足を踏み入れたがそこで尊敬していた隊長と苦楽を共にした仲間達を全て失い、その代わり伝説に残る悪竜ジークリンデを封印したこと。
冒険者を引退してから、しばらくなにもする気がおきず抜け殻のような生活を送っていたが、ある日浜辺で子供を拾いその子を育てる為に手に職をつける努力を始め家具工房に努めながら娘と二人暮らしを始めたこと。
好きな相手ができて、なんとか口説き落とし紆余曲折をへて結婚をし、人生において一番幸せな期間を過ごしたこと。
そして、その生活のなにが気に入らなかったのか。テンが自分の伴侶と血を分けた実の娘を斧で斬殺したこと。そして、狐の人妖に変貌し各地で人妖を量産し災いを振りまいているということ。
浜辺で倒れており、二人で生活をし、実の妻子の命を奪ったのはテンというあの占い師に扮していた人妖。そして腰にぶら下がる切れ味も見た目もひどいボロ剣こそが、悪竜ジークリンデを封じた剣であり、もしかしたらその封印はもうほとんど解けかかっているかもしれないという疑念がある危険物。
遥か格上の仇をとる為に、何時暴発するかも分からない爆弾を抱えながら旅をする。ランザは、自分を旅に同行させたくなかった訳だ。ともすればこの人は、周囲を巻き込みながらともうすればあっさりと死ぬだろう。
いや、逆か。周囲の全てを犠牲にしてでも二体の人外は何時までもこの人を生かすかもしれない。自分達の愉悦の為に。
テンは謎の執着をランザに向け、ジークリンデは甘言を囁きランザを誘惑する。二つの大きな力に板挟みになり、何故擦り切れていないのかが不思議なくらいだ。奴隷となった半獣、自分の人生もたいがいだと思っていたがランザには負けるかもしれない。
だからこそ、その瞳に惹かれたのかもしれないが。
そこまでランザは話し終えた。ランザにとっては、全てを打ち解けたのは二人目だそうだ。一人は掲げる大盾、リスム支部長のグロー=カザルタフ。冒険者時代からの顔なじみで親友。そしてもう一人は、自分だった。
まとまりがなく脱線も含んだ話だったが、ランザにとってはあまり他人には話したくないし、話す気もない内容だからだろう。その全てを傾聴し終えた頃には、すっかり太陽は低くなり夕日となって輝いていた。
「これが俺の半生でおこったこと、そして旅の理由だ。こうなってしまった以上、クーラには否が応でもこの旅に付き合ってもらうことになる。もしくは、その身に降りかかっている、テンの呪いをどうにかできれば話はまた別になるが」
「そんな充てはない、めどもない、そうでしょう?」
「俺達家族の問題に、お前を巻き込んだ。本当に申し訳ない、全ては俺の責任だ」
ランザが深くため息をつき、頭を下げた。何時までも頭をあげる様子を見せないランザに、近づく。
「ランザ」
悲痛な表情のランザが、呼びかけに応じて顔をあげた。責任を感じているようだ。その責任に、漬け込む。
「自分は、テンになにかされた。それは、自分も人妖になってしまうということなのかな。テンは人妖を各地に造っているんでしょう?ならばその可能性は…」
「残念だが、ゼロとは…言い切れない」
「怖いよ、ランザ」
嘘だ、怖くはない。むしろ感謝をしているくらいだ。ランザはもう自分を切り捨てることは絶対にできない。狐と竜に占拠されあえぎもがくその心中に、罪悪感というスペースをつくりその中に自分を刷り込んでいける。
宿敵たるテンにも、強者たるジークリンデにもそれはできない。自分だけに許された、武器だ。内心ほくそ笑む。
テンは殺意を自分に向けさせることで、それがなによりも代えがたい強固な絆だと思い込んでいるイカレタ女だ。余裕綽々で、自分の優位性を微塵も疑っていないだろう。
ぺットとこちらを呼び、ご褒美なんて言葉を使ってくるあたりこちらに対する認識など文字通り愛玩動物と変わらないだろう。つまり、障害としての自分はほぼ眼中にないとみえる。
ジークリンデはどうだ。悪竜の格は落ち、長く大海に君臨をしていた海竜すらも人の手で倒されたが、それでも人間と比べれば頑強で強力な種族だ。甘えと罪悪感をつくことで感情を占拠することなどできはしない。治癒等のメリットを適度に与えながら、悪竜としての存在を加害という形で表し自分に注意を向けている。
甘言で、力をつけそれを施すからと贄を捧げさせようとしているということから、もしかしたら、自分の力に依存させて関係をつくるのが目的かな?これは女の勘だが、ジークリンデはランザが思うように封印を破り元に戻りたいなんて今は二の次であまり考えていないだろう。こちらは、共依存の関係を作ろうとしている。
そんな二人には真似できないもの、それは庇護欲。半獣の身も奴隷の身分もレントとの確執も、全て利用する。変異に対する怯えを見せる。それは妻子を失ったランザに対し、新たに護らなければならない存在だと認識させることができるだろう。
正直傍から見れば自分の行いは浅ましい屑の行いだ。演技をし、ランザの妻子が殺されたことにすら漬け込んで、その心中に居場所を広く大きく作ろうとしているのだから。あんな過去を聞いた後にそれを利用する、最低も良いところだ。
だが、止められない。なにもかも出遅れ、周回遅れも良いところな自分にとってはそれがすべてだ。そして然るべき時に全てを打ち明けようか。ランザと自分の関係が、切り離せない程深くなったとしたら。
その時ランザはどんな顔を浮かべるだろう。どんな感情を抱くのだろう。どんなおしおきをしてくれるのだろう。考えただけで、口角が上がりそうになる。表情筋を全力稼働させ、不安な顔を維持。苦労するよまったく。
「テンは必ず俺が殺す。お前は助かる。なにも心配しないでくれ、クーラ」
「うん……ううん。やっぱり今は無理、怖い。だからせめて今は、落ち着くまで抱きしめてほしい。それで、大丈夫だって言ってほしい。お願いランザ」
ランザの手が、躊躇するように背中に回される。少し触るだけで、思いきり抱き締めるような真似をしないのは悩んでいるからだろうか。それとも、まだ少女といえるこの身体に対する配慮か遠慮からだろうか。もう十年、いや五年分身体が成長すればと歯がゆい思いでいっぱいだが、今はこれが限界か。
その代わり、こちらから背中に手を回し胸板に頬を押し付ける。鼻いっぱいに香りを吸い込み、陶酔してとろけそうになる頭を必死に回転させにやけ面が浮かぶ表情を阻止。今はまだバレる訳にはいかない。
新たな決意を腹に決め、どこかにいるテンを睨むように宙を見つめるランザ。テンが死んだ後、仇を果たしたランザはその怒りや決意の分中身が空になるだろう。その時、その心中に滑り込むのは自分だ。その内心を制圧した時全てを打ち明け、浅ましい思いや今の心中を全て語る。
当然ランザは怒るだろう。愛する妻子を出汁にして自分に取り入った自分に対して。だがその頃には、自分はランザにとって離れがたい存在になっているように仕込み、仕向ける。
愛憎混じるランザとの交わりは…暴力的で、救いようもなく、悲観すら混じり。そして自分の望んだものとなる筈だ。その手でもう一度あの夜を、今度は男女の関係となった後で再現してくれればこれまでの人生全てと交換でお釣りがくる。
ただ暴行を受ければ良いという訳ではない。そこに愛が伴って、それでもなお加害に走らなければならないという止められない憎しみがほしい。
それはテンが持つもの。ジークリンデが、ランザに向けるもの。そしてサグレとベレーザの間にあった、形は変えてはいるがある種純粋な、しかし最後には歪んでしまった愛情だ。
サグレ、ベレーザ。自分は失敗しない。どんな手を使ってでも、テンを倒し、ジークリンデを抑え込み、ランザを自分の物にしてみせる。
首にかけられた、サグレが彫った馬のお守りに意識を向ける。形見分けとして、生前くれると言っていたそれはちゃんと加工され首にかけられるようになっていた。目的地まで無事にたどり着く願いがこめられたお守り。ちゃんと、自分の願いの果てである目的地にたどり着くように気持ちを込めて祈る。
胸板から顔を話し、肩に首をおくように首の真横に顔を近づけた。ランザの視界から外れたその時、表情筋が崩壊。顔が緩まってしまう。
そのまま暗くなるまで、ランザを抱きしめ続けた。自分の顔が、見られてもよくなるように戻るまで。
「君か」
質の良い調度品、高級な革張りの長椅子、棚に飾られた高級酒とガラスのグラス。全てが質の品の良い品物で囲まれたシャンデリアに照らされた部屋にて、男は不機嫌そうに口を開いた。
「こんばんは、イコライ上院議員。夜分突然の訪問、申し訳ありません」
四十半ばを過ぎた帝都のやり手政治家バザード=イコライはこの数日間、非情に不愉快な感情が心中渦巻いていた。政敵との暗闘や市民の人気取り、政策についての駆け引きなどもそうだがそれ以上に、実の娘であるカリナ=イコライが自治州の一都市であるモスコーに消息を絶っていた。
娘はどうやら祭りに参加したいが為に一人でモスコーに向かい、暴動に巻き込まれて行方不明になっている。それだけでも気に病む事態だが、目の前の男がモスコーに向かい娘の安否確認をするでなく悠々と帝都に残りこうして顔をだしてくることが心底気に入らない。
娘であるカリナは、この男にいれこんでいた。甘いと思いつつ色々優遇をしてやっていたのだが。そんな献身的だった娘を放りだしてまでこの帝都でなにをしているのやら。
「正直私は君に失望している。君に時間をとりこうして室内に通した理由は、もう二度と君に援助をする気も助け船をだすつもりもないと伝える為だ。分かるかね、レント君」
「それは、娘さんを探しにいかない僕に対する憤りでしょうか」
「分かっているじゃないか。ならばもう失せたまえ、これ以上君に時間を使う訳にはいかないのでね」
「本当にそんなことを言って、よろしいのでしょうか」
レントは鞄の中から、紙の束をとりだしテーブルに投げる。それを見て、バザードの表情はみるみるうちに青ざめた。
「貴様…これは」
「連合王国の大物議員との密会や裏取引、非合法組織との繋がり、政敵暗殺の証拠、選挙やその他不正に献金賄賂などなどなど。本当に大した大物議員ですねあなたは、これだけの悪事を同時に進めているのだから」
「何故分かった、どうして」
「娘さんですよ。彼女はボクには非常に従順、貴方の不利になる行いも、喜々としてやってくれましたよ。あとボクには特別な力とそれを分け与えた仲間がいる。その気になれば、この手のスキャンダルを掴むこともできる。まあ、それでもなかなか骨が折れました。流石はイコライ上院議員。凡庸な他の議員と比べ、場数を踏んでいますね。あ…ちなみに仲間も写しを何枚も持っているので、僕を殺しても意味はありませんよ」
警護を呼ぼうとして、半殺しにして仲間の居場所を吐かせようか…とまで考えてやめる。地下迷宮をはじめ相手は数々の功績と人脈を得てきた存在だ。下手に警備を読んで返り討ちにされ、相手を怒らせるよりは交渉事に持ち込んだ方が傷は浅いかもしれない。その可能性に、賭ける。
「告発をするつもりか?それとも、脅しか?」
「いえ、これまで通りの協力を…ああ、脅しになってしまいますね、これは。ならば脅しということで」
「なにをさせる、つもりだ」
レントの背後で扉が開く。ノックもなしに不躾に入ってきたのは緑髪を背中まで伸ばし、バカみたいに薄いスケそうな布地のみで身体を覆う女性だった。緑色の瞳と目が合うと、自然と足が一歩下がってしまう。
「真の信仰を取り戻すのだ、人の子よ」
尊大な口調から、有無を言わせぬ迫力。魑魅魍魎渦巻く政界に長年席を置き、あらゆる策謀を競わせてきたがそのどんな相手にもこのような迫力を持つ者はいなかった。
「今ある宗教は、かつて神の存在を嫌った愚かな背信者が人々を欺いたもの。人々に真の信仰を取り戻させる必要がある。その為に、そなたの力が必要であるようでな。光栄に思え、我に仕えることに」
「ボクは、彼女を信仰の対象とした古い宗教の復活を目指しています。その為に上院議員、貴方には表から裏から強力にサポートをしてもらいたいのです。現存する宗教に対して古くからあるとはいえ、世間的には新興と思われてしまうこちらはあまりにも無力、しかし政治的な後押しがあれば、そのスタートの不利を払拭できます」
「馬鹿な…政教分離がこの国の基本政策の一つだ。政治家の立場でどれだけの役に立てるかなど」
「裏から手を回す手段は、いくらでもお持ちですよね」
レントの言葉に、歯ぎしりをする。こちらに不利な情報を大量に握られている現状、協力するしかないのか。
「ボクはボクの約束を果たす為に彼女を押し上げます。そしてそのあかつきには…いえ、今はやめましょう。具体的な方針の提示は後日、おやすみなさいイコライ上院議員」
レントが芝居がかった仕草で指を弾くと、二人の人影が部屋から消失した。テーブルに残された不正の証拠を、片端から破り捨てる。
娘を失い、その娘に暗部を暴かれた。怒りと憤りのまま、散り散りに紙を破り捨てていった。