家族の仇は、娘でした 作:樫鳥
なんだか生暖かく、心地の良い感覚。身体全体がなにか暖かいものに包まれているような、まどろみの中でそのまま溶けていきそうな。
半分とろけた頭で、思考が巡る。ランザはもう起きただろうか、この寝心地はギルドの安宿のような硬くて薄い寝台ではないから、ひょっとしたら疲れが蓄積して彼も眠りこけているかもしれない。だとしたら、寝顔の一つでも拝めるだろうか。
半目を開けると、褐色の双丘が目に映る。目の前になにがあるのかよく分からない、触ると柔らかい。かすかな声が聞こえる。そちらの方に目を向けると、女が寝息をたてていた。見覚えがあるような、ないような。はて自分はいったいどこでなにをしているのやら。
しばらく呆然とし、二度寝をしそうになったがその前に頭脳が急速覚醒。目を見開き改めて女を見る。女はランザの腰に何時もぶら下がっていた連結刃、その正体。悪竜ジークリンデが人の姿を真似たものだと分かり、喉奥から声が溢れた。
「ぎにゃあああああああああああ!」
「うおおおおおおおおおおおお!?」
思わず爪が伸び、ジークリンデの頬を引っかきそうになるが、その前に身体を包んでいた暖かいものから放り出され石床に転がった。全裸!?全裸だ今これ!
「なななななにゃななにしてるのほんと!」
「うっるせえ!でけえ声だすなボケ!」
気を失っている間になにをされた?貞操は無事?なんで悪竜が自分を抱いて寝ている?頭の中で疑問がグルグルと巡るが、なにより一番大事なことを思い出す。そうだ、全部思い出した。寝ぼけている場合じゃない!
「ランザは!?ランザはどこに!?どうなったの!?」
「こっちから声が聞こえた!生きているぞ!」
ランザのことを尋ねようとしたが、その答えを聞こうとした瞬間洞穴の外から男の声が聞こえる。ジークリンデが面倒くさそうに額に手を当てる。迫る危機を前に急速に、強制的に冷静さを取り戻すことができた。
隅に追いやるようにぐちゃぐちゃに濡れて団子のように丸まったまま放置された衣服から突き出る直刀と投げナイフを一本を回収する。洞穴の入口に張り付き、息をひそめた。足音は…近くを流れる渓流の音で聞き分けることができない。
「クソ猫が騒ぎやがるから」
胡坐をかきながら頭をかきむしるジークリンデは無視。
洞穴を覗き込んだ最初のエルフが、ぎょっとした顔をした。そりゃそうだ、全裸の女が胡坐なんぞかいていたら色々丸見えだ、隠す気もないらしい。
だが想像外のものに出くわした時の驚愕は隙としては致命的だ。柄に掌底を添え突き出された直刀の切先は滑り込むように首筋に吸い込まれる。派手に斬り裂くと飛び散る鮮血は、後続にいたエルフ数人に向け血の目つぶしとして飛び散った。殺した奴を除いてここにいるのは、2…いや3人。
「この害獣が!」
エルフの装備は全員が短弓。あとは腰に、恐らくはエルフの噂を聞きつけ森に踏み入ったものが身に着けていたと思われる統一感のない近接用の武器がぶら下がっていた。
だが距離があるならともかく、この間合いは自分のものだ。弓弩に優れたエルフだが、近接戦闘で半獣についてこれるものか。
地面を蹴って飛び上がる。目を覆いうずくまるエルフの頭上に直刀を突き立てる。モスコーに向かう途中に遭遇したリザードマンとは違いこいつらには強固な鱗も頑丈な鎧も、ついでに膂力もない。油断はできないが、あの時程の脅威は感じない。
直刀を引き抜く前に投げナイフを投擲、目つぶしの効果が薄かった者が柄に手を添え剣を抜こうとするが肩にナイフが突き刺さり痛みで怯む。その隙に懐に潜り込み腹部を突き刺す。
背後になにかが動く音。振り向いた瞬間、血を拭いさった瞼から覗く充血した瞳と目があった。向こうはナイフを握っておりこちらに突き立てようとしたが、腹部から連結刃が生えた。触手のように動く刃が踊り、目の前で八つ裂きに引き裂かれ血と臓物が飛び散る。
顔や胸に血が飛び散る。舌打ちをし、頬をこすりのっそりと出てきたジークリンデを睨みつけた。
「かかったんだけど」
「るせぇ我慢しろ。気になるお年頃か?」
直刀を刺したままのエルフを蹴り倒す。まだ息があるのは、わざとだ。色々と聞きたいことがある。
「獣……か…好き…の……ケダ…ノ…一族が」
「どいつもこいつも罵倒の際は必ずそれね。人間もエルフも、もうちょいレパートリー増やしてくれてもいいんじゃない?まあいいけど。それよりも聞きたいことがある、答えたら楽に殺してあげるけどどうする?」
投げナイフを抜き首筋に添える。エルフの憎悪の視線は、弱まらない。
「あっそ。じゃあこいつに食わせる。こいつはこんななりをしているから分かると思うけど、結構な淫姦好きでね、死にかけた奴の男性器はよく精がでると大好物なんだ。エルフは他種族と交わるのは禁忌とか、魂が穢れるから死ぬより恐ろしいとかって聞いたことがあるけど本当?試してみたいんだよね、知的好奇心的に」
「お前も今オレと似たような姿だろうが、人を好き放題言いやがって」
「まあそうだね。じゃあ自分が食べちゃおっか」
舌なめずりしてみせると、エルフの顔が歪み瞳が恐怖で濁る。本当はランザ以外となんて死んでもごめんだが、ランザやエレミヤから聞いた話から考えると下手な拷問よりはこの手の脅しの方が効果的だ。なにせ向こうにとっちゃ自分や自分の祖先は獣姦好きの穢れまくった魂の持ち主である。脅しの効果も二倍以上だ。
しかし、なんで半獣なんて存在がこの世界に存在するのだろうか。俗説にすぎない獣姦という話も強ち間違いではないのかもしれない。豚鬼の一族だって、その巨体と猪に近い顔ではあるがあれは一族特有のものであり妙な伝承も存在はしない。
「それじゃ、死んじゃうまえに最後におもいきり気持ちよく…」
「待って…話す…話すから」
手をズボンの方に動かそうとした瞬間、懇願するようにエルフが口を開いた。それにしても、こちらも死ぬほど嫌だったが、向こうから泣きそうな顔で拒否されるとそれはそれで堪えるものがあった。そんなに嫌か、まあそれを目当てにした脅しだったけど。
気持ちを、切り替える。
「ランザは、自分といた男はまだ生きているか?今どうなっている」
「生きて…る。アジ…ト」
生きていると聞き、取りあえず一安心。街道を通ったものは攫われていた。攫うということは、人目のつかない場所で殺したいか、もしくはしばらく生かしておかなければならない理由があるかだ。そこは不安だった後者のようだった、だが胸をなでおろすのはまだ早い。
「アジトの場所は」
「洞く……おく」
洞窟。エルフの連中は森の中ではなくそんな洞穴に拠点を構えているのか。なにか理由があるのかもしれないが、森の中に居を構え自然と調和するという事前の情報とはまた異なる状況だ。向こうは、まるでゲリラ兵のように潜んでいる。
「洞窟の入口は?そしてあの触手はいったいなんだ」
「………」
反応がない。調べると、既に絶命していた。ため息をつき立ち上がる。流れが速い渓流に向かい、落ちないように気をつけながら水を掬い身体についた血を洗い流していく。
「なんだ、お前サラリと殺せる方か。相棒とは違うな」
ジークリンデが腕を組み、壁を背に寄りかかりながら話しかけていた。水で身体を洗い流して、最後に頭を濡らして振り払う。血の臭いはこれだけでは完全に落ちないが、今はこれでいい。
「クソ猫の分際で害獣呼びがそんなに堪えたか?罪悪感も無しでさらりと殺せるくらいには」
「うるさいよ、悪竜の分際で。伝説ではとんでもない数の生贄を殺したんでしょ。お門違いな非難でもしたいの?」
ジークリンデは、命の恩人だ。ランザから助けるように頼まれたのだろうが、それには変わらない。だがランザのことを気安く相棒呼ばわりするこの竜の存在は正直疎ましい。イライラするし、内心舌打ちが止まらない。
「いんやあ別に。それに贄が必要なのはオレが悪竜たる所以だからな。それよりもありがとうございましたの一言も、聞いちゃいねえんだがよォ」
「ふざけるな!」
ジークリンデに近づき。直刀の先端を向ける。にやけ面を浮かべこちらを見る悪竜は意にも返さないが、敵意だけは向け続ける。
「相棒呼ばわりするなら、なんでランザをすぐに助けにいかないんだ!自分は足を引っぱった。そんな奴見殺しにしてランザを早く助けに行けばいいのに、なんでこんなところでそんな余裕そうな顔を浮かべているんだ!」
あの瞬間、飛び込む前。自分が躊躇して足を止めてしまったため結果的にあの触手に空中で捕まってしまい、ランザのみ攫われた。もし自分が泳げていたら、いや泳げなくても怯まずに躊躇せずに飛び込んでいたら少なくともランザは攫われることがなかった筈だ。
自分を助ける為に強力な武器であるジークリンデまで手放し、彼は捕まった。自分が足を引っぱったせいだ、責任を他人に求めるのは間違いであるのは分かる。だが、だからこそ自分なんて見捨てて早く彼の元に向かってほしかった。悔しいが、いくら全盛期から遠ざかろうと悪竜ならばそれができる筈だ。
「オレはわざわざ尋問なんてしなくても、野郎がまだ生きているのは分かる。焦る必要もねえ」
「焦る必要はないって…それでも!」
「勘違いすんなクソ猫。お前如きが野郎と天秤にかけて助ける価値があるかどうかと聞かれちゃ、こう答えるしかねえ。ある訳ねえだろうがボケ。お前の価値は雌狐の因子が入った入物としての存在価値しかねえよ」
分からず屋な子供の癇癪に、辟易するようにジークリンデはため息をついた。無意識に、お腹を触っていた。狐の因子、自分に中にあるよく分からないなにか。それは悪竜にとっても考慮、或いは監視せざるえないなにかなのだろうか。
「今のお前は情報の宝庫だ。あの雌狐をぶち殺す為に必要な観察体、そうじゃなければ俺が半獣なんぞ助けると本気で思ってるのか?おめでてえクソ猫だな、そうじゃなきゃ今のやり取りの間に三回くらいは殺している。いや…」
ジークリンデの目が鋭くなり、頬が笑みの形に歪む。悪寒、後ろに飛んで間合いを離すがすぐ目の前にはもう連結刃の先端が迫っていた。直刀で防ごうとしたが弾かれ、身体ごと薙ぎ払われる。軽い身体が吹き飛び河原を転がり、起き上がろうとした瞬間首筋近くに刃が突き立てられた。
ジークリンデが悠然と近づき、腹部を踏みつける。踵がグリグリと押し込められ、苦し気に呻き声があがる。足を両手で掴み退かそうと力を込めるが、びくともしない。
「いっそ殺しかけた方があの雌狐の力は出て来るか?そうすりゃよりよく観察できる。ほら、ドンドン力を込めていくぞ、内臓潰されたくなきゃとっととひりだせよ」
この細い足にどれだけの筋力があるというのか、押し込まれる踵に全力で抗うも意に介する様子もない。自分は痛いのが、好きな訳じゃない。ランザが与えてくれるあの痛みが好きなのだ。似たようなものと人は答えるだろうが、雲泥の差がある。
できることは睨みつけることだけ。テンの因子はうんともすんとも言わない。向こうにしても、自分は偶々ランザの近くにいただけで入物なんてなんでも良いし誰でも良い、遊びにすぎないのだろう。特別な力とやらが顕現する様子は微塵もない。
「くだらねえ。やっぱり殺しちまおうか?」
「殺し…たら……後悔…するよ」
「ほざきやがる。なにを後悔するって?」
痛みというより、感じるのは苦しみ。だが頭を働かせろ。理由ありきで向こうは自分を助けたが、気分次第では別に殺しても構わない言わんばかりなのだ。ここでなにか、自分を生かすメリットを言わなければこのまま殺されてしまう。
「エルフ……洞窟…それだけで…ランザを見つけられる?」
「ほお」
「どうせ…悪竜様は追跡術も…知らないでしょう。自分は都市が専門……だけど森でも多少は行動ができる。洞窟の場所、割り出すことが…できるのはここでは自分だけ」
笑みを顔に張り付けろ。気を強く持て。相手は竜とはいえ、怯んだらその場で命が終わる。お前なんか怖くない、自分を殺したら困るのはお前だ。傲岸不遜にいくしかない、例えそれがハリボテの強がりだとしても。
さあどうだ。考えろ、悪竜ジークリンデ。
「まあ良いだろう。多少の度胸は認めてやるよクソ猫」
踵が腹部から退かされる。鈍痛が酷いが何事もなかったかのように立ち上がってみせ、洞穴に残る自分の服を着に向かう。冷静さを顔に張り付けているつもりだが、内心は心臓が張り裂けそうだった。
向こうは殺気さえ発していない。つまり、虫を殺すような手軽さと心持ちで殺されかけた。それを行うだけの実力と冷酷さが向こうにはある。今はこの内心だけは、悟られないようにするのが精一杯だ。
濡れた衣服を確認する。装備を身に着けていき、ブーツを引っくり返し中に残っていた水分をなるべくだしておく。道具袋の中は、想像していたが火薬袋や煙袋の類は完全に濡れて使い物にならなくなっていた。平パンなどの携行食も軒並みやられている。使える装備は、直刀と投げナイフくらいだ。
せっかく買い足したばかりなのに、ほぼ全てが駄目になってしまった。手持ちの札を大量に失った現状はよろしくないが、気にしても仕方がない。
装備を整え終えると、悪竜は足を汲みながら大き目な岩に座っていた。連結刃をエルフの死骸を突き刺しており、自分の目の前まで引き寄せ持ち上げている。
エルフの首筋に噛みつき、食いちぎる。しばらく咀嚼をしたあと喉を動かし肉と血を呑みこんだ。そのまま腹部に顔を近づけ皮膚を裂く。ドロリと小腸と大腸が溢れだすし、それを乱暴に放り捨てると骨にこびりついた肉を食い始めた。
腹ごしらえという訳か。正直見ていて気分が良いものではなかった。
「エルフ連中は味が淡泊なんだよな。どいつもこいつも似たような味しやがって、半獣同様オレの好みじゃねえ」
貪った死体を放り投げる。ぐちゃ…と胸が悪くなるような音が響き、岩場の上に死体が落下した。
「だが好みじゃなくてもオレは食える。好き嫌いはあるが、だされた肉は取りあえず食うのがオレだ。精々役に立てよ、ランザを見つける為にな。クソ猫」
これは脅しだ。役に立たなければ、次こうなるのは自分だと。忌々しい悪竜め。お前もいずれ、テンと一緒に無力化させてやる。
鼻で笑ってやり、歩き始める。その後ろを悪竜が続いた。あの触手に最大限注意をしながら、エルフの痕跡を辿り洞窟に辿り着く。今はランザを助けることだけに集中をする。まずは彼を、助けなければ話が始まらない。
一冊の、古びた本。それがすべての始まりだった。
私は他のエルフと違い弓は扱えない。薬草の調合も分からない。里の掟とやらもほとんど理解できていない。ただ他のエルフと違うのは、幼少期に外の知識を与えられていたということだ。
その書物は、だだの娯楽小説だった。実在の人物をモデルにした貴族漂流譚の一つであり、さる高貴な家柄の男児が権力争いに巻き込まれそうになったため、殺されそうになりながらもなんとか乳母が小舟で川から男児を逃がした。
その後、川下にて洗濯をしにきた老婆に拾われ老夫婦に育てられるが、自身の生家であるとは知らず、悪政をしく領主を倒す為に各地で仲間を集めて領主を討ちに向かうという物語である。
史実ではもっと残虐な行いや政治的駆け引きを多分に含んだ話ではあるが、子供向けに脚色されたそれはとにかく明るくシンプルな勧善懲悪ものにしあがっていた。
外で遊ぶことを両親に固く禁止された私はその本のみを与えられた。それが読み終わればまた別の本、別の本と里の外の話ばかりを読まされていた。
そんな日が何年か続いたある日、急に両親は私を外に連れ出し他の同年代の子供達と会わせた。
本の中しか知らない私と違い、同世代の子供達はみな弓弩の技術にすぐれ、森という環境で年月を過ごしておりみな立派な体格をしており、弓も薬草も森のこともほとんど分からず、身体能力では劣り、話しといえば人間達の娯楽小説しか語ることができない私は蔑まれた。
後で知った話ではあるが、私の世話をしてくれた二人は本当の両親ではなかった。
エルフ達は種族としての数が絶対的に他種族に劣る為、団結や結束を重んじる。だが狭い集落だとしてもどうしても爪弾きや対立はおこるものだ。鶏ですらおこる問題だ、エルフであってもその問題から逃れられない。
だからこそ、対立というものをおこさないようにわざと村八分を作り上げる。他の子供達には外の世界がいかに酷いものかを教育し、外の文化しか話すことがない様々な面で劣る子供を一人作り出すことで、その子供を虐げる対象とし全体の結束を高めるのだ。
何故私がその白羽の矢に立ったのかは分からない。本当の両親がいないからか、それともなにか罪をおかしその子孫にもバツとしてその損な役回りがまわってきたのか。
本来であれば、その子供は村八分にされながら、それでも慈悲とか情けとかそのあたりの理由付けをされ餌を恵んでもらい、死ぬまでただ生き延びていく。逃げさそうにも、里の外を出ようとすれば防人に連れ戻されてしまう。
私は、里に迫害を受けながら毎日のように外での生活を夢想した。そして夢想すると同時に、何時か来るかもしれないチャンスの為に考えて考えて、考え抜いた。
防人に連れ戻されない程度に森の中を歩き回り、大人達の訓練風景を観察し、その全てを知識として頭の中に叩き込んでいく。例えば、エルフは弓弩に優れる防人達がこの森の中ではどこに陣取れば最大のパフォーマンスを発揮できるか。逆に、どこから攻められれば脆いのか。
射られるやすい道はどこなのか、逆にどこからなら逃げること、或いは外部から近づくことができるのか。幸いなことに私は、成人してからは最底辺の下働きのようなことばかりをさせられていた為、自ずと里の中を右へ左へと駆けずりまわることになったため特に怪しい目で見られることもなかった。
どいつもこいつも呑気な顔でこちらを嘲笑する。私の幼少期、外の古い本ばかり読まされていたことは里でも一部の者しか知らない。外の世界などに憧れた恥知らずの落ちこぼれ、それが私の里での評価だった。そんな低能が、里から逃げるには。いや、里を滅ぼすにはどんな方法を使えば効率が良いのかなんて毎日考えていたなんて夢にも思わないだろう。
かくして機会は訪れた。ランザを含めた探検隊、その役目というのは土地の情報を持ち帰り、人が入植に適した開拓地であるかどうかを見極めること。
相手が開拓団であるならば、先住民族とは必ず争いになる。そしてエルフは人類所属を見下し、人類所属はエルフを同等の銀塊並みの価値があるとみていた。これを利用しない手はないだろう。
罠にはまり攻撃を受ける開拓団を導き、情報を渡して里から立ち去らせる。後は渡した情報から作戦を立てた、争い慣れした戦士団さえ来てくれれば、地の利と弓弩の技術しか取り柄がないエルフに勝てる道理はない。そして、笑いだしそうになるほど思惑通りにエルフ達は死に、そして捕まっていった。
ざまあみろ、それしか思い浮かぶ言葉は存在しなかった。
だがしかし、高揚していて気付くのが遅れてしまったな。後から気づいたのは、捕虜の列を見ていた時だ。若いエルフがいない。人間にはエルフの見た目から年齢はまったく分からないそうだが、私から見れば一目瞭然だった。
その頃には、もう逃げ延びた連中は里から遠く離れていただろう。いざという時の落ち延び場所等があるのかもしれないが、爪弾きにされていた私にはそれを教えてもらっていなかった。
まあ、二度と会うこともあるまい。私は報酬金をもらい、この大陸を巡る旅に出た。
「館長、失礼します」
ノックされた扉が開き、黒服の男が入室する。手には大きなケースを持っており、応接用のテーブルのうえにおいた。
「ああ、ありがとうね。しばらく触っていなかったけど、どんな状態だったかな?」
「ランザ殿が利用していた武器工房に依頼をだして、整備をさせました。状態は元々悪くはなかったのですが、新品以上の質になっていますよ。しかし良いのですか?我等は原則非武装、こんな物誰かに見られたら、変な噂の一つや二つたちかねませんよ」
「君達みたいに争い慣れしていないからね。それに館長の前に私は女の子だ、護身用くらい必要だろう?」
「はあ、護身用というにはいささか物騒なブツではありますが」
視線がテーブルの上に注がれる。ケースにいれられたものは、護身用と言い張るには言い訳にしても無理がある代物だと黒服は内心呟いた。
「しかし今更何故このようなものを?」
「予感がしたんだ。使う機会が来るってね。ふふ、近頃女優にデカい銃器や大剣を持たせてポーズをとらせる遊びが流行りだけど、うちもレプリカとかとりよせてみようかな」
ケースを開ける。中には分解された凶器が、軟かい素材でできたくぼみの中に綺麗に磨かかれしまわれていた。表面に彫られた彫刻が、高貴さまで醸し出している。
「問題を、退けたらね」
パーツの一部を手に取り頬ずりをする。これを使う機会が来たとしたら、それは私にとっては喜びだ。