家族の仇は、娘でした   作:樫鳥

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 逃げ惑う住民達の中、甲冑姿の女性騎士がただ一人逆流しながら歩いていた。背中には巨大な円錐形の槍である馬上槍を背負い、手には巨大な盾を持っている。

 

 住民達が途切れ、その向こう側からは触手の群れが迫りくる。騎士は大盾を石畳に突き刺し、大きく息を吸った。最後尾には、掲げる大盾の戦闘員とみられる者達が絶望的な殿を勤めている。銃器は効果が薄いとみて片刃刀や双刃を振るい、盾で触手を払いながら懸命に犠牲者を増やさないよう奮闘していた。

 

 「ここで犠牲を更に増やしてみろ!支部長が帰ってきたら、夏の賞与が吹き飛ぶぞ!死ぬ気で踏みとどまり、一人でも逃がせ!」

 

 リスムに必要最低限の備えとしてグローが残していた精鋭であるが、決定打がないうえに住民を護りながらの防衛線ではいささか以上に分が悪かった。顔には疲労が色濃く見える。それでも軽口混じりの檄を飛ばし、遅滞戦闘を行うあたりは冒険者ギルドや警備兵とは練度が違った。

 

 「戦士達よ!ご苦労だった!あとは私に任せろ!」

 

 突然現れた、重装兵の言葉に掲げる大盾の戦闘員は場違いな奴が来たと舌打ちをする。どこの馬の骨かは知らないが、この触手は捕まるとアウトだ。鋭くなった先端に貫かれ、血液や臓物を吸われ殺される犠牲者をもう何人も見ている。あれは分厚い盾はともかく、鎧でどうにかなるものでない。必要なのは俊敏性だ。

 

 「無辜の民を貪る暴魔め!我が信仰、エンパス教の加護!抜けるものならぬいてみろ!」

 

 下がるように声をかける前に、騎士が盾を石畳に再度叩きつける。盾と同じ色をした純白な膜が現れ掲げる大盾の戦闘員や逃げ遅れた市民達を保護するように広がった。

 

 触手はその膜に突き刺さるが、膜を貫けず電撃がはしったような衝撃と共に弾かれる。何十何百という触手が突き刺さるも、膜が貫通するような様子はない。

 

 「なんだこれ…魔術具なのかあの盾は」

 

 「いや違う。普通の盾だし魔術具を使っている様子はない、なんだこれは…お前は何者だ」

 

 「これが奇跡の力だよ。私は元グロルダール騎士団団長、カナリヤ=エルだ。レント=キリュウインの元信仰を護る騎士をさせてもらっている。疲れているところすまないが、力を貸してほしい。仲間がいるとはいえ、広大なリスムを護るのは少々手が足りなくてな」

 

 「仲間だって」

 

 結界上空。空を漂う触手が白い防壁を破ることを諦め迂回を選択した触手達が漂っていた。逃げ惑う住民に襲い掛かろうとした刹那、猛禽の速さで人影が飛来。素早いなにかが、触手を切断し無力化していく。

 

 「ヤッホー♪」

 

 空を舞うのは、両腕を翡翠色の翼に変えたハイピュリアの少女。厳密には違うが広義においては半獣と同じような存在とされているが、違うのは凶暴性。エルフ同様人類とは敵対種族として扱われている有翼種が、空を飛んでいた。

 

 上空を飛ぶ生命体に向け、触手が四方から伸ばされる。それを見て、少女は舌をだしながら小馬鹿にした笑みを浮かべた。

 

 「バーカ。お前達の動きで、ボクを捕えられる訳ないじゃないか。遊んであげるのはいいけど、ボクのダンスに何人付き合えるんだい?」

 

 四方から伸びる触手を上空に蛇行しながら飛んで避けていく。雲近くまで飛び立った後、反転。ハイピュリアには背中の他、腕を任意で変異させ四つの翼を広げることができる。その翼が鈍い煌めき放ち始めた。

 

 鋼鉄化した翼は、一本一本が刃のように鋭くなり錐揉み回転をしながら一個所に集まった触手群を斬り裂いていく。触手達は、空舞う猛禽を捕えるどころか散々に散らされ残骸を地面に落としていった。

 

 「さあまだまだいこうよ。ボクのブレードダンス、付き合える自信があるならね♪」

 

 少女はカラカラと笑い、目に愉悦を浮かべながら、触手の塊に突貫していった。

 

 「あの馬鹿はまた、考え無しに」

 

 屋根の上からそれを見上げる魔導士が一人。

 

 そう、魔導士。まるで物語の世界から出てきたような、尖り帽子にローブ、杖を持った奇怪な姿の人物がそこにいた。仮装にしたって、今日日昔話でも、こんなスタンダードな魔女は出てこないと、人が見たら痛々しさに失笑を誘う姿だ。

 

 呆れた顔で上空で舞い踊るハイピュリアを見上げていたが、彼女自身に心配はいらないがやはり体積の大きい巨人から放たれる触手群。しかもそれは、やられた端から再生し街中に広がっていっている。

 

 撃墜の心配はなくとも、手が足りない。

 

 「この街が発展した街で良かった。石材には困らない」

 

 屋根から飛び降り、石畳みの上に着地。

 

 なにやらブツブツと呟きながら石畳みや家の石壁に杖の先端でコツコツと叩きながら歩く。奇怪な姿をしていようと、歩く生命体がいればそれは獲物。魔女に向け触手が襲い来る。

 

 なにか硬い物に、触手が直撃。地面から石畳みがめくれ上がり魔女に襲い来る触手を防いでいた。杖で叩く素材が多くなればなるほど、空中に石畳みが浮かび上がりそれはやがて一体の岩人形となり咆哮をあげる。

 

 魔女が歩いた後ろから、次から次と人形が製造されていき、攻撃へ、壁へと石を持つように行動を開始する。しばらく歩行が続いたと思えば、その前後左右にはあっという間に岩人形の一団ができていた。

 

 岩人形の護衛達がガードをできない、直上から触手が襲来。それに帽子を少しずらして見上げると、その杖の先端を上空に向ける。

 

 「ハイ・サラマンダー」

 

 杖の先端から、蜥蜴の形をした炎が出現する。襲い来る触手を逆に呑みこみ消し炭にし、上空で消滅をした。それはまるで、今時子供でさえ鼻で笑う、滑稽な童話や御伽噺に出てくる魔法使いの業だった。そんな存在を実物で見て、笑う者はいないが。

 

 「馬鹿ウェンディ!あっぶないよー!ボクに当たるだろうがー!」

 

 「ついでに焼け死ねば良かったのに」

 

 「聞こえてるぞー根暗魔導士!」

 

 ゴーレムが散開する。それぞれリスムの重要拠点を防衛する為に散っていった。

 

 街中には、あちこちで戦闘がおきていた。特殊な力を振るい町民を救うのは、いずれも美女、或いは美少女と呼ぶに相応しい容姿をしていた。

 

 それは、特殊な才能を持つ者を集めたというよりは、容姿を優れたものを集め特殊な才能を施したといった表現の方が正しい。平時であれば、そんな戦闘集団、なにかのくだらない思惑で編成されたお飾り部隊かタチの悪い貴族のお遊び集団にしか見えなかっただろう。だがしかし、今は緊急事態、それもかなりの町民や警備隊に犠牲が出た後の救世主達だ。

 

 ある者は刀剣で、盾で、籠手で、銃で、特殊な能力を行使して街中で市民を救う。その彼女達が口を揃えてこういうのだ。『エンパス教の救いの元に』と。

 

 街の為に戦う、特殊な力を持つ美少女や美女達。それは『宣伝効果』としては確実だ。

 

 彼女達はレント=キリュウインが集めた私兵部隊。本当は好青年風のイケメンを中心にした美男子達がいればなお効果は高いだろうが、いかんせん野郎に加護を受け渡すのは気がすすまない。

 

 しかしそこまでしなくても、これだけ犠牲が出た後だ、名前を広げるには充分だろう。

 

 元の世界でもかつて某国の独裁者は、美少女と美女だけ集めた応援団を組織してオリンピックで歓声をあげさせていた。とある国で開催されたさいなど、ボランティアの名目で集められたスタッフが全員美男美女であったことさえある。

 

 そこまで大規模に考えなくても、宣伝にアイドルや俳優を使うのはありふれたことだ。偶像崇拝を禁止している宗教もあるが、やはり磨かれた偶像というのは効果がデカい。

 

 「趣味と実益を兼ねるって、こういうものだよなぁ」

 

 大剣を背中に担ぎ、誰にも聞こえないようにレント=キリュウインは呟いた。こちらに転生させた女神がある程度、僕を自由に動かしていたのはこの為だった。

 

 信仰を集める方法、信仰を取り戻す方法。それには地道な布教活動でもしていれば良い。僕には関係ないことだと言いたいが、拒否をすればチート能力を全て没収すると言われれば従うほかない。

 

 まあ異世界でハーレムなんて、誰にだって思いつくものだ。どうせならそれを使って、なにか大きいことをしてみたいとも思ったため、強い拒否はしなかった。

 

 別に元の世界で熱心な宗教家だった訳ではないが、どうすれば大衆の人気が集まるかはなんとなく経験則で知っている。

 

 例えば、戦隊ヒーローものや魔法少女ものは、ある程度怪人や化物が街や人々を襲った後に助けに入り救済をしている。そうすることで、前半のピンチや危機といった苦難を、解決後には苦難の突破に対する快感や街の住民の感謝といったカタルシスに繋げることができるのだ。

 

 そう、人気集めだ。

 

 信仰なんて政治の選挙と同じだ、自分がどこの政党に支持をしているかというのを、自分がどこの宗教に支持をしているかに置き換えるだけで良い。選ばれるのは、人気者。

 

 容姿も重要だ。以前駅前で新興宗教の信者集めをしていた三人組を見たことある。そのうち一人は自称大学教授のおっさんだったが、自称その学生の二人がとんでもない美人だったのを覚えている。ちょっと意味は違うかもしれないが、これがハニートラップかと感心したことすらあった。

 

 閑話休題。まあ、だからこそ、ねらい目は港湾都市リスム。鯨油産業を発展させ貿易都市として二大国を中心に人の往来が激しい街に狙いをつけた。人の噂は悪性の感染症のように広がっていくものだからだ。これで圧倒的に足りないエンパス教という新興宗教の知名度を広げることができる。

 

 当初の作戦は、地下迷宮を刺激し中にいる異形や害獣を街中に解き放ち、人々の犠牲が広がったところでそれを討伐する、いわばマッチポンプの計画だった。

 

 だからこそ、ある程度の情報を集め街や地下迷宮を下見し計画の細部を詰める為に掲げる大盾に入団した。正義感に燃える青臭い若造として。

 

 しかし、幸か不幸かそんな計画が台無しとなる。地下から異形を溢れさせるまでもなく、エルフ共が暴発させた人妖が街の半分に壊滅的被害をもたらしてくれている。

 

 ここまで犠牲者が増えれば、それを信仰という信念の元人を護る為に戦った英雄達として感謝の念を集めるだろう。

 

 「エルフさん。黒服さん達も早く逃げてください。ここはまだ戦場だ」

 

 「君は、何者だ?助けてもらって感謝はするが、あれに正面立ち向かうつもりか?」

 

 「弱き者に加護と庇護を、それがボクの信仰するエンパス教の教えですから。さ…僕が戦っているうちに逃げてください」

 

 ちゃんと宣伝も、忘れない。黒服が軽く頭を下げ、エルフを抱えたまま去っていった。

 

 しかしエルフ、エルフか。奴隷市場でもめったに見つからない希少種族。僕の下で一度は喘がせてみたいものだ。しかし今は、一番の狙いがいるから後回しだけどね。

 

 「と…仕事仕事」

 

 大剣を頭の上で振りながら、前進を開始する。ステータス強化のチート能力、筋力操作で常人なら持ち上げるのも困難な大剣もまるでチャンバラで使った木の棒のような軽さだ。

 

 しばらく歩くと。革装備を身に着けた冒険者風の紫髪の美女が槍と銃を構えながら戦闘をしていた。確かあの子の名前は…付与した加護は…忘れた。ただマグロ過ぎて退屈で、一度しか抱いていないことだけは覚えている。周囲の気配もないし、丁度いい。

 

 「レントさっ!…ま?」

 

 こちらに気づき、歓喜の表情に染まるがその刹那、その顔に鮮血が飛ぶ。

 

 「ど…して」

 

 「質の良い果実を作るには、間引きが必要なの。信仰を集めには、殉教者も必要。でもみんな加護持ちだからなかなか死なないしね、君くらいなら死んで良いから、死んで僕の役に立って」

 

 冒険者風美女の胸部に、大剣の切先が突き刺さる。それを引き抜いた直後、抵抗を無くした彼女に触手が何本も突き刺さり内臓や血液、脳漿を啜り上げていった。

 

 「うわえっぐ、間近で見ると死に際キモイな」

 

 街の為に戦い、命を落とした英雄。その存在が、信仰の次元をより高次元に導く。元の世界のとある宗教を参考にしたものだ。殺したやつも、名前も与えた加護も思い出せない程の存在なので別に心も痛まない。

 

 この調子でもう何人か間引いていく必要があるだろう。この大惨事で、犠牲者が零というのはそれはそれで神の加護と言えるかもしれないが、世間の目を引くには偉大な奇跡よりも同情の力の方が強い。

 

 「でもまあ、しかしなぁ」

 

 思い返すのは、僕のところから出奔していった猫。あの夜名前を思い出せなかったが、あまりに腹が立ってしまいその衝撃でか思い出すことができた。

 

 クーラ。ベタベタと慕ってきたくせに、いざ抱いてやろうとしたら人間がまだ恐い、こんな身体見せたくないと拒否をしてきた駄猫。

 

 仮にまだこの場にいたら、彼女も間引く対象だっただろう。だがしかし、僕の元からランザ=ランテの元に行くのは腹立たしいことこのうえない。NTRを楽しむ趣味嗜好があれば一興だったかもしれないが、そんな性癖は残念ながらなかった。一度ボクに助けられておいて、加護を与えられておいて、恩知らずめ。

 

 「なにを遊んでいる」

 

 背後から、尊大な口調。僕に対してそんな口をきくのは、今のところ一人しかいない。

 

 緑の瞳に同色の髪の毛。雪のような白肌に鋭い目つき。ボクをこの世に異世界転生させた女神、エンパスがそこにいた。

 

 「遊びって心外だな。仕事ですよ仕事、貴女の加護集めの為にせっせと知恵を絞って、ついでに間引き作業もしているんだから。人聞き、悪いですよ」

 

 「そのわりには、なにやら余計なことを考えていたようであるが?」

 

 「チェ…物思いくらい自由にさせてくださいってもんですよ」

 

 紫髪の美女を吸いつくした触手が、背後でこちらに襲いかかる気配を感じた。後ろを見ずに大剣を一振り、充填された魔力が衝撃となり背後の建物ごと触手を散り散りに吹き飛ばす。

 

 「あんたは僕をこの世界でやりたい放題するだけの力を与えてくれた。僕はその見返りに、僕がいた世界でのやり方を参考にあんたの信仰を取り戻す知恵と力を貸す。それは良いですが、やることはやってんだ。過干渉は気持ち悪いですよ女神様」

 

 「報酬と引き換えに…であろうが」

 

 「ええまあ。信仰を取り戻し、神の時代が来ればその力で僕はもっと美味しい思いができる。だいたい僕は元々、宗教とか信仰とか欠伸がでるくらい面倒くさいのは大嫌いなんですよ。でもそういうあと腐れなさそうな人材と望んだからこそ、僕が転生対象にされたのでは?」

 

 「さあ、どうであろうな」

 

 そのすました顔も何時か快楽と歪ませてやりたいが、ここは内心舌打ちにするだけに留めておく。

 

 「それよりも、あの巨人の本体であるエルフ殺害の方はどうなっているのだ。あれはそちらを叩かねば無限再生する。消滅させることができんでもないが、我の身がもたんぞ」

 

 「問題ありませんよ。僕の部隊から腕利きを一人、そしてその保険にもう一人遅れて派遣させましたから」

 

 「そのうちの一人は、これですか?」

 

 どこからか響く声。女神エンパスと僕の間に、死体が落とされ転がった。

 

 「ラミーネーダ」

 

 異国の風貌を持つ曲刀使い。近接戦においては、加護を与えた部隊の中ではトップクラスの腕を持つ女性の頭が、泡を口から吹きながら恐怖に歪んだまま絶命していた。

 

 上を見上げると、建物上には扇で口元を隠す妖艶な狐。何故か僕の故郷、日本の着物を身に包む、最高級の美女が怒り交じりの視線をこちらに送っていた。

 

 「狐か」

 

 女神が興味も無さげに呟くが、僕は違う。今すぐにでも襲い掛かり叩き潰し、そのボロボロの身体を抱きしめたい衝動にかられた。それは本気になれば可能かもしれないが、どうせなら確実な状況で、なるべく無傷で捕獲をしたい。

 

 「一物を斬り落とし、引き裂いてやったというのに生きているなんて。ゴキブリでももう少し可愛げのある生命力をしていますよ」

 

 「あの時のことかい。あいにく僕はあの程度では死なないよ、少し違う次元で生きているからね」

 

 「やれやれ、興奮して生死確認を怠ったのも悔やまれますが、それだけに腹が立ちますよ。あの巨人は、このリスムは、ミハエルを起点とした一連の事件は全てお父様の為の捧げものだったのに。横合いから尻馬に乗る形で計画を利用するなんて、気分が悪い。本当にあの時殺しておけば良かったですよ」

 

 三人の視線が交錯する。女神が手をあげると、ランザが時折使用する棒剣のような形状をした光の刃物が高速でテンに飛んだ。

 

 しかしそれがテンに届くことはなく、空中で弾かれる。光の剣を弾いたのは、無骨な鉄鎖。鉄の輪が引き戻されていく先には、くたびれたコートを着た男がたたずみ、その袖の中鎖が消えていった。

 

 「ガスパル」

 

 「神さんどもはみんな隠居状態ってのに、わざわざ異世界からクソみてぇな指定外来種連れて来るなんてな。そこまでして、かつての絶頂を取り戻してえかい」

 

 「ガスパル、悪魔、忘れはせんぞ。貴様が施した入れ知恵のせいで、人間達の信仰は離れ我等は零落していった。貴様等悪魔が人類を無用に進化させたせいで、我等全てがこのような有様になっているのだぞ」

 

 「ハッ…そうまでしてかつて手前等が目指した楽園を実現させたいか。人が真に従順に、盲目に、ただ神のみを信頼し信仰し生きて行く。そこには発展も進歩もない、この世の始まりから終わりまで平穏無事な世界。そんな退屈な世界、今の人の世を見てまだ目指したいというつもりか」

 

 「貴様等発展を好む悪魔も、進歩した人類に対し必要とされなくなり落ちぶれたではないか。人類は何時か発展のすえ身を滅ぼすぞ。自分で自分の首を締めた阿呆共が、したり顔で説教の真似事をするでない」

 

 レントとしては、少し身に覚えがある話だった。まあ確かに、原子爆弾とかどっかの国が発射すれば、報復合戦で世界中で核が爆発して、北斗の拳が始まるんだろうなと呑気な考えが頭に浮かぶ。

 

 テンとレント、ガスパルとエンパス。それぞれの間に圧が産まれる。しばらくの対峙の後、口火を切ったのはガスパルだった。

 

 「不毛だ、やめやめやめ」

 

 両手を広げやれやれとため息をつく。三人の視線が、ガスパルに集まった。

 

 「ここで喧嘩しても、互いに無傷じゃないうえ無意味にすぎる。今のところランザをいたぶることと、信仰を広めること、二人の目的は互いに干渉せずに進んでいるんだ。俺達が今目くじら立てる必要は、感情を抜きにすればあまりねえ」

 

 「痛めつけてなどいませんよ師匠。あれは私からのお父様への試練です」

 

 「……面倒くせぇな。まあとにかくそういうことだ」

 

 ガスパルが頭をぼりぼりとかく。どこか弛緩した雰囲気に、戦闘の空気ではないと、互いに警戒しつつも一触即発の雰囲気だけは消えた。

 

 「信仰集めも勝手にやればいい。おそらく企みは上手くいくだろうさ、十全ではないにせよ」

 

 「ええ、十全ではないにせよ…ね。ミハエル、敵の首はお父様が落とします。貴女達はその首も利用して信仰集めのダメ押ししたかったでしょうが、それは上手くはいきません。まあ巨人を倒した功績じたいで、民草の人気は集まるでしょうが」

 

 テンは、扇に隠した口元でクスリと笑った。

 

 「事前に準備に準備を重ねた計画が十全に上手くいかなかった。予言します。このほんの僅かな綻び、それは後々貴女達の首を締めることになる。私とお父様の関係に余計な茶々を入れたバツ、その時支払ってもらうことになりますよ」

 

 「お父様、ランザ=ランテか。娘に愛情を注がなければならない親と殺し合いをする為に計画を進めるなんて、とても健全じゃないな」

 

 「そういう貴方も健全には見えませんよ。私の眼からはとても…ね」

 

 「くだらん」

 

 エンパスが一言で斬って捨てる。ミハエルの存在なんて公表しなければ民衆が知ることはない、それでも一部情報が早いものや勘の良い者は、エルフがノックで出没している情報から勘ずくかもしれないが、それでも大多数の住民には関係ない。

 

 ただエンパス教の加護を受けた信者達が、民を護り、あの巨人を屠ったように見せればそれで充分だ。ミハエルの首級など、ただのオマケだ。

 

 「貴様等の無知蒙昧には嫌気がさす。悪魔に狐よ、見ているが良い。神代の時代をこの我が取り戻す。地上に楽園を築いたさいは、貴様等の居場所はないと思え」

 

 「俺は飼いならされた人間なんぞに興味はない、発展し、争いあい、時には自滅する人類を見るのが好きなんだ。平凡で退屈な楽園なんぞ願い下げだね。まあもっとも、そんな世界が来るとは思えんがな。人類を、あまり甘く見るな神様よ」

 

 互いの口撃が、終了の合図となった。テンは、相手の目的が確認できた成果とし扇をパチンと閉じた。その瞬間、ガスパルとテンはその場から消え去った。

 

 テンは、間違っている。親子で殺し合いをするなんて、間違いの極みだ。それは正さないといけない、寝台のうえで忠誠を誓わせ、ランザのことなんて二度と考えられないようにしなければならない。

 

 今はやるべきことをやりにいこう。あの澄まし顔を、何時か歪ませ僕に対して忠誠を誓わせる為に。

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