家族の仇は、娘でした   作:樫鳥

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 身体が軋む。だが動けない程では、ない。

 

 腕を伸ばすと、なにかに当たる。暗闇に包まれた視界が戻ると、それはジークリンデの肩だった。

 

 「相棒、目ェ覚ましたのか」

 

 「頭がいてぇが…」

 

 「色々ありすぎた。すぐ慣れるよう祈るんだな」

 

 肩を借りて、上半身をおこす。それと同時に、戻りつつある聴力になにか風切り音のようなものが響いた。

 

 「ああァ亜あああアあ!邪魔なヤツらァ!キエロキエロ消えろ消えろォ!」

 

 身体を揺らしながら暴れ、髪の毛を振り乱し触手があちこちに暴れ苛立っている様子だ。どうやら、向こう側でなにかアクシデントにみまわれているのだろうか。

 

 「その色々ってのを聞きたいところだが、今は好機だな。なんだか知らんが、いくぞ」

 

 「半死人が、ちっとは身体を労われ。と言いたいところだが…良いぜ、むしゃくしゃしてたところだ」

 

 戦闘態勢に入る前に、クーラの位置を確認。もう少し離れた位置にいた筈だが、いつの間にか傍らにて横たわっていた。傷ついたクーラが自ら来た訳じゃないので、ジークリンデが運んできたか。

 

 「フッ…は」

 

 「んだよ、なにがおかしいんだ」

 

 「いや、クーラを連れて来てくれたか。お前も意外と面倒見が良いんだなと思ってな。この礼を言う」

 

 他者に対して辛辣な面があるジークリンデが、この一日に二回もクーラの面倒を見た。それは以外だったし、素直に感謝するべきことではあるが、それを聞いたジークリンデは苦虫を噛み潰したような顔をして、うるせえとだけ答えた。

 

 相当苛立っているのか、背中から伸びる連結刃が荒ぶっている。

 

 「んなどうでも良いことより、行くぞボケ」

 

 ジークリンデがこちらの手に手を絡ませる。それと同時に出現するのは、赤黒い禍々しい刃の列。心なしか、以前よりも手になじむ感覚がある。

 

 横に大振りに刃を振るうと、大振りの刃が分離し鞭のように振るわれる。それに気づいたミハエルがこちらを憤怒の視線で射抜くように睨み、髪の毛を変異させた触手で迎撃。

 

 切断力がある刃が触手を斬り裂くが、刃の軌道は変えられる。首を刎ねようとした一撃は上にそれ、外れてしまう。

 

 戻った刃を上段から振るうが、今度は身体を横にずらし回避をされた。ミハエルが大口を開くと、喉の奥から芽がでるように緑色の蔦が伸びて来る。蔦の先端からは、毒々しい紫色の花弁が咲き誇り、周囲に種を振りまいた。

 

 地面に置いた種は、それが土か石かなどお構いなしに根を張り急速成長していく。常識外れに成長していく種子は、蕾を作りカラフルな花弁を生成していった。

 

 『相棒』

 

 「ああ、ただお花畑を作る為の技術じゃないだろう」

 

 『散らしてやろうぜ。花には嵐が必要だろうが』

 

 蕾を伐採するように、超低空に刃を振るう。洞窟の戦闘範囲ほぼ全てを包み込む伸縮力で蕾を根こそぎ刈り取り美しい花弁を散らしていった。

 

 ミハエルは低く唸り、歯で喉から伸びる紫色の花弁を切断。再度喉奥から花が産まれ始め、今度は地面だけではなく側面の壁にも種子を飛ばし始める。

 

 壁にのめり込む種からはすぐさま緑が伸び始める。

 

 「壁だ!」

 

 『分かってる!』

 

 周囲の岩壁を削り取るように刃を振るうが、いかんせん地面に生えたもののように一度に刈り取ることは困難を極めた。全てを抉りだすことはできず、赤、黄色、青といった色彩豊かな花が咲き始める。

 

 ひと際大きな、人の顔以上の花弁を持つ花が震えた。花弁の中央に穴が開き、粘着質なねばっこい黄色い液体が放たれる。

 

 クーラを抱えて飛びのく、先程までいた場所に液体が着弾した液体は岩肌を音をあげて溶かし始めた。甘ったるい臭気と岩をやくたびにあがる蒸気の香りが悪い意味で鼻孔をくすぐる。

 

 「白い花は前後不覚になる毒!赤い花は酸みてぇな液体!色合いで効果が違うってか!?」

 

 『花ばっかに気ィとられんな!あの髪の毛も来るぞ!』

 

 ジークリンデが自動で動き、触手と化した髪の毛を迎撃。一対一の筈が、これでは一対多の集団戦だ。そのうえまだ特性を見極めた花弁は二つしかない。

 

 エルフ達が贄を捧げ続けながら護り続けた人妖。あの巨人も規格外だろうが、やはりこいつ自身の戦闘能力も他の人妖とは違う。

 

 黄色い花弁の中央から触手が伸びる。先端は液体を滴らせた針がついており、そこからあふれ出る液体は麻痺毒か弛緩薬か、シンプルに劇毒か、考えたくはない。

 

 棒剣を投擲し針を劇劇。細いゆえに脆いのか、棒剣は針を砕きそのまま花弁の中央に突き刺さった。

 

 だがそれと同時に、肩に衝撃。青い花から放たれたなにかが右肩に命中した。血を啜われる感覚。恐らくは先端が鋭利に尖った種が深々と突き刺さり身体の中に根を張っているのだろう。

 

 体幹がぶれるのと同時に、赤い花弁からの酸性の液体が発射された。やや手荒ではあるがクーラを投げるように手放し、上空に飛ぶ。だが上に飛ぶという選択は、悪手だった。足元に輪を描くように大量の触手が集まり、それが追いかけてくるように浮遊する。空中で両腕ごと捕縛され、そのまま固定された。

 

 ジークリンデは手元にあり、蔦を裂こうとするがそれより前に肩口から高速で花が生えてくる。青色の花は植物の癖に、中央に牙が生え唾液のように液体を眺め首筋に噛みついてやろうと大口を開けていた。

 

 『相棒』

 

 落ち着き払った声でジークリンデが語り掛ける。その瞬間、身体の中から激痛。無理をおして戦ったからかと思ったが、そうではなかった。

 

 『使えよ』

 

 そう言われた瞬間、まるで脳髄になにかを直接打ち込まれたかのように頭痛が酷くなる。脳には痛覚が存在しないと聞いたことはある。本当かどうかは分からないが、存在しない筈の痛覚が悲鳴をあげているように頭を揺さぶられた。

 

 それはまるで、新しい神経を作られているかのような。今までなかった、身体のなにか一部を動かす期間が製造されたかのような感覚だった。

 

 意識か無意識か、急造された神経系に命令が伝達される。身体の中で蛇のようななにかが蠢き、肩に到達。青色の花弁が根を張る肩口を突き破るように、ジークリンデの連結刃が現れた。

 

 背中からも刃が露出、拘束する蔦を斬り裂き、身体が地面に落ちる。肩口と背中から生えた、ジークリンデの身体の一部である筈の刃の群れは、まるでかつてから俺の一部だったかのように命令に従い動いていた。

 

 「たまげたな、こいつは。……?もう痛みも感じねぇ」

 

 『お前の四肢を繋げるのに、俺の身体の一部を植え込んで譲渡した。そいつはもうお前の神経系や脳髄から命令を受ける、立派なお前の一部だ。粗末にしたらぶっ殺す』

 

 悪竜の一部が、人の身体の支配下に入る。このところイレギュラーが多すぎて、驚きも慣れてきたと思ったが何時まで経っても慣れることはない。ただ、説明をするジークリンデの口調はどこか苛立たったものだった。

 

 こういう時は、この苛立ちは、自分の思い通りにいかなかった時の苛立ちだ。死にかけた俺は藁をも掴む思いでジークリンデに全てを委ねたが、それが気に食わなかったか。それとも、施術の際になにかイレギュラーがおきたのか。

 

 だが身体の変化に対する考察は後だ。

 

 ミハエルは苛立たしげに、頭をかきむしる。両腕を大きく振るうとそれが枝分かれし触手に変化し、髪の毛と合わせて今までよりも大量の触手を精製し襲いかかってきた。

 

 手に持つジークリンデ本体と、肩や背中から生えた連結刃、三本の刃が触手群を迎撃、切断する。奥の手とばかりに手数を増やしてきたようだが、それが全て迎撃されてミハエルは吠えた。

 

 「うえあああああああああああああああああ!」

 

 口から巨大な、緑色の花弁が生え始める。花弁の中央には見ているだけで呪われてしまいそうな巨大な目玉。黒目の周辺に、よくよく見ればまるで布を押し付けられ絶叫をしているような人の顔が大量に浮かんでいる。刃を急いで花弁に向かわせ切り取りたいか、次から次へと襲い来る触手群のせいでこれでもまだ手が足りない。

 

 だがその花弁が能力を発揮する前に、歪な形状の刃が突き刺さった。ルーガルーの牙を削りだして精製した短刀が、深々と突き刺さる。

 

 クーラがうつ伏せになったまま顔をあげ、刃を投げつけていた。背中から青い花弁が咲き誇ろうとしていたが、その痛みで目が覚めたのか。背中の変異を無視して、まずこちらの援護に短剣を投擲してくれた。

 

 最大の攻撃であると共に、弱点でもあったのか。ミハエルは硬直し、触手の全てが動きを止めた。

 

 三本の連結刃が、渦巻く竜巻のようにミハエルの胸部に突き刺さる。そのまま脳天、左右の下腹部へと広がり、流れるように身体を斬り裂き人妖の肉体を五分割にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『エレミヤァああああああああ!どにいッタァあああああああああ!』

 

 リスム西部、大量の触手が迎撃されているのに関わらず、巨人の額でナロクは雄叫びをあげエレミヤを探し続けている。

 

 巨人の行動は、ナロクの意思に左右されていた。いざという時はミハエルにさらりと支配権を奪われる程度の権利であったが、それでも今は怨みをまき散らしながら逃走し隠れたエレミヤを探している。彼女を殺さないかぎり、人を食う邪魔者が増えたところでそれの相手は二の次でしかない。

 

 そんな巨人の進行方向、建物の上に二人の人影いた。人影の傍ら、レント=キリュウインは大剣の柄に手をかけ大きく息を吸う。

 

 「スキル発動、空渡り」

 

 レントが走り出す。建物の端からから空中へ足を踏み入れた瞬間、まるで見えない階段があるかのように巨人の額へと駆け上がっていった。

 

 急速にこちらに近づく空を浮かぶ人間。それに触手が反応し、四方から迎撃に襲い掛かる。

 

 「うおおおおおおおおおお!」

 

 熱い雄叫びと共に、大剣が連続で振るわれる。四方から近づく触手群は裁断され、四散し、バラバラと地面に落ちていった。

 

 『なんだァああああ貴様ァアあああああああア!』

 

 「エンパス教の名の元に、悪しきものよ!裁かれろ!」

 

 空中で飛び上がり、大剣を上段に振り上げる。大剣に赤い魔力が充填し一回り巨大になり、まるで炎のように魔力が揺らめき切断力をあげた。

 

 「るあああああああああああ!」

 

 大剣が巨人の頭部から股間にかけて刃で切断していく。着地をした瞬間、二つに裂かれた巨人が左右に倒れ始めるが、その前に切断面から触手同士で繋がり癒着をし始めている。

 

 だが、動きが止まる。癒着や再生が止まり、巨人そのものが静止した。

 

 「司祭様!今です!」

 

 「主よ、エンパスよ。我らが羊は貴女にその命運を貴女様に託します。どうか、我等に悪しきを払う導きの光をお与えくださいませ」

 

 司祭服に身を包んだ女性が、高々と声をあげる。両手を空にかざした瞬間、雲が黄金色に輝きそこから円柱状の光の柱が降り注ぐ。轟音と地揺れ、巨人を包み込むその光は衝撃力となり地面に神の怒りの如く着弾した。

 

 『馬鹿なあああああァ!こんなことが…我等の復讐がァアああああああ!』

 

 「そんなことの為に無辜の民を傷つけることなど僕が許さない!消え去れ!」

 

 『うがあああああああああああああ!』

 

 触手の巨人が光の柱の中に消え去り、光が消え去った後にはなにも残らなかった。リスムを襲った謎の巨人は、神の裁きにより消滅した。

 

 「奇跡だ」「なんだ…あれは」「神の御業?」「助かった…の?」

 

 街のあちこちから生き残り達のどよめきが、強化された聴力に聞こえる。好機だ、すぐに強化した身体能力で司祭の傍まで行き、ひざまずいて肩で息する女性を立たせる。ここからが、本番なのだから息切れしてもらっては困るのだ。

 

 「この街を襲う悪魔は討滅した!我らが神の加護、エンパス様の裁きによりこの街は救われたんだ!」

 

 「た…み達よ」

 

 司祭がなにかを言いかけている。すぐに魔道チートから拡声魔法と映像魔法を使用。美麗な司祭の顔が空に浮かび上がった。

 

 「民達よ!」

 

 今度は張りのある声で、司祭が告げる。

 

 「危機は去りました!しかし今は、目の前の危機を退けたのみにすぎません!今日のようなことが何時おこるのか分からないのです!どうか我等と一緒に、祈りを捧げてください!我が神に、エンパスに感謝の祈りと導きの訴えを…私と共に、どうかお願いします!」

 

 奇跡と、可憐な司祭の訴え。膝をついて両手を握り頭を垂れて祈る司祭に、それを見て感化された者はすぐさま同様の祈りを捧げた。戸惑っていたものも、同じように祈りを捧げる。祈らないのは、この大陸に広く信仰される教団の教えに傾向している者達であろうか。困惑した様子であるが、突如沸いた異教徒の宣言に文句を言う者はいない。そしてチラホラと、同じように祈りを捧げる者が出始める。

 

 「カハッ…カハッ」

 

 司祭がせき込みを始めた。慌てて映像を消し去り、様子を尋ねる。

 

 「大丈夫ですか、司祭様」

 

 「大丈夫、ありがとうございますレント。エンパス様の加護を受けた身であるも、非才なこの身体には少々荷が重かったようです」

 

 「なにを言っているのですか、貴女以上に神、エンパスに愛された者はおりません。今は身体をお休めください、誰か来てくれ!司祭様を建物の中へ!」

 

 すぐに来た僕の僕達が、丁寧に声をかけながら司祭の両肩を支える。

 

 司祭は丁寧に二人に礼を言い、建物の中へ支えられながら歩いていった。それを見送りながら、建物の外に残るレントは呟く。

 

 「司祭か、茶番もいいところだな」

 

 司祭は、エンパスと同じ顔を持つ者は。いや、エンパスにのっとられた操り人形たる彼女の元の人格がどれだけ残っているのだろうか。今のか弱いが芯の強い女性といった見せかけも、いったいどこまでが彼女の元の人格で、どこからがエンパスのそのものなのか。

 

 「まあ、なんだかんだ言いつつも効果は絶大だな。銃とかあるから近世くらいの年代なんかなとも思ったけど、信心深いのは古い時代の人間の特徴かな」

 

 祈りを捧げる生き残り達を見ながら、レントはぼやいた。そして考えるのはもう一つのこと。

 

 「ミハエルを倒したのは、僕の送った保険か、それともランザ=ランテか。死んでるといいなーランザ=ランテ」

 

 巨人が動きを止めたあれは、僕の力ではない。本当ならもう少し苦戦する演技をしても良かったが、動いを止めてしまったのでそのままトドメに移行した。

 

 結果としては八十点以上九十点未満の出来といったとこか。ランザが死んでミハエルの首を持ちかえれば、百点満点となる。

 

 「精々さっさと信仰を広げてくれよ、信者ども。信者と書いて儲けると読むって聞いたことがあるけど、精々僕の儲けになるようにさぼらず動いてくれよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ランザ!」

 

 目を覚ましたクーラが、起き上がり駆け寄る。背中から生えていた花は枯れ始めており、走る最中に花弁や茎が下に落ちていった。

 

 「大丈夫!?というかその身体…なに!?…って…いてて」

 

 「説明はおいおいしてやる。というか俺自身まだなにがどうなっているのかよく分かっていないのが現状だ。とにかくお前も無事じゃないんだから、無理するな」

 

 刺さったままのルーガルーの短刀を引き抜き、クーラに渡す。クーラはそれを受け取り、腰にしまった。

 

 「俺達もボロボロだが、街が気になる。今すぐこの洞窟を降りて、エレミヤの元へ向かうぞ」

 

 クーラから眼を離し死体に目を向けた瞬間、驚愕した。フード付きのマントを身に纏う何者かがミハエルの死体をしゃがみながら見下ろしていた。何時からここにいたのか、まったく分からなかった。

 

 「標的、既に死亡。任務続行は不可能」

 

 男は女か分からない、少し低めの中性的な声。マントの人物は立ち上がり、数歩歩いて離れる。

 

 「何者だ、何時からそこにいた」

 

 「……」

 

 「おもいきり声をだしていたな。お喋りできない訳じゃないんだろう?」

 

 お互いの視線が交差する。動いたのは同時、身体から生える刃を振るい、マントの人物はそのマントを外し横に振り払った。

 

 石壁に咲き誇っていた、既に萎れつつある花弁がマントの人物を背後から狙うように種を飛ばしていた。それを肩から生えた刃で迎撃、種を斬り裂き無意味なものに変える。

 

 一方マントの人物は、振り向くと同じように萎れかけた赤い花弁から発射された最後の酸性と思わしき液体を、マントの布地で払い叩き落としていた。

 

 「え?」

 

 クーラが困惑したような声をあげる。銀色の髪の毛を短いテールのように縛り上げた人物の顔が、フードがとれたことで明らかになったが、これまた男か女か分からない顔をしていた。その顔には深い切り傷が残っており、片方の瞼が眼球ごと潰れている。

 

 華奢な男にも、それなりに鍛えた女にも見える人物、そのままなにも言わずに飛び上がる。天井に空いた穴から洞窟を抜け出し、こちらを覗き込むこともなく去っていった。

 

 「なんだったの彼…彼女?……あ、あの人」

 

 「さあな、少なくともお友達になりたいって雰囲気はなかった」

 

 「そうだね…ってランザ!」

 

 「ん…ああ。しくった」

 

 突然の事態に無意識に行動してしまったが、種の迎撃に使ったのは肩から生えた連結刃。意識をすると背中と肩から生えた刃はスルスルと身体の中に戻っていったが、これを見られたのは非常にまずかった。

 

 こんなバカみたいなミスを犯すとは、疲労かなにか、頭が上手く働いていないのか。

 

 頭の中でジークリンデのため息が聞こえたが、今回ばかりは俺の落ち度すぎる。ミハエルを倒し、気を抜いてしまったか。

 

 「なにがあったかは知らないけど、それ悪竜の刃だよね。そんなの身体から生えているのが見られたら…」

 

 「情報の回り具合によっては、帝都の竜狩り隊が出向いてくるかもしれないな。最悪だ」

 

 過ぎたことを悔やんでも仕方ないかもしれないが、気を抜いてしまった自分に腹が立つ。この油断が何時、災いになって襲いかかってくるか分からない。

 

 「とにかく今は、エレミヤのところに戻ろう。可能ならしばらく匿ってもらいたいところだな。迷惑はかけるが」

 

 「うん…身体、支えるよ」

 

 クーラがこちらに寄り添い、肩を支える。洞窟の外へ向け歩き始め、最後にチラリと残骸を見た。

 

 植物のような風貌の髪や身体が元に戻り、そこにはバラバラにされたエルフのみが残る。

 

 タイミングが良くというか、天井がまた崩れ岩雪崩がその死体に覆いかぶさるように落ちた。まるで山が墓を作ってやったように。

 

 エルフ達の執念は、あそこまでの化物を産んだ。結果はとしては失敗だったのかもしれないが、その信念までは否定できるものではない。俺自身、特にだ。

 

 やり方を間違えていた。人妖となり思考回路が当初の思惑から外れてしまった。だがしかし、人妖になってもかまわないと思うほどの復讐の念は、敬意を評するものであった。

 

 俺はどうなのか。テンを追い求める為に、奴が産みだした惨劇を片付けていくだけの毎日、少しでもテンを倒すことに近づいているのだろうか。

 

 竜狩りに狙われるという最悪のシナリオまでが頭をよぎるなか、自分にどれだけの時間が残されているのか。

 

 下山したあとのノックの山は、それ自身がエルフの墓標のようだった。俺は目的を遂げる。ベレーザの、エルフの復讐の念を踏みにじった今、前に進むしか道は残っていないのだから。

 

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