家族の仇は、娘でした   作:樫鳥

41 / 149


 「すまねぇな。突然訪ねちまって、忙しい身だろう?」

 

 「とんでもございません。レガリアのガルデ様をお迎えできて光栄ですよ。些か準備不足であり、もてなしが不十分なのを恥じるあまりです」

 

 大柄なガタイに似合わず長椅子に姿勢よく座り、出された茶を口元に運ぶのは経済特別区最大組織であるレガリア頭領、ガルデ=ウェンディだ。

 

 この島出身で元々は船乗りとして大陸各地に輸入品や輸送品を運んでいたらしいが、海賊に襲われた際ほぼ単独で奮戦し返り討ちにし、その時の乗組員と降伏してきた海賊を従え武装護衛船として独立。その後経済特別区成立と同時に故郷に帰りレガリアを設立する。

 

 地元の人間や彼の名声を慕い集まった人間とレガリアを動かし、リスムにおける表にはでない裏の名士として有名人だ。

 

 しかし、輸入品を運ぶという前職のせいか禁制品の薬物や奴隷の売買を行わないことで知られている。薬物は輸入品を仕入れる別大陸で中毒者の酷い末路を見たから。奴隷に関しては、商品の代わりに人間を詰めて運ぶ奴隷船をいやという程見たことがあるということでレガリアでは禁止されている。

 

 しかしその隙をついて、血生臭い興行である闘技場と禁制品売買や違法の奴隷売買を躊躇なく行い急速成長したハーウェンが島の東南に君臨していしまう。

 

 レガリアとハーウェンは当然険悪であり、互いに睨みあいや抗争が続く隙をついてとある一団が島西南の未開発地域において行政ですら把握していない地下迷宮の入口を発見。それを利用し武闘派組織としてデラウェアが旗をあげた。

 

 レガリアとデラウェアは一応は中立、相互不干渉を保ってはいるが、血気盛んで問題を多くおこすデラウェアの人間とは度々、喧嘩等の小競り合いをおこしているようだ。時には刃と血を見ることもあるらしい。

 

 ちなみにハーウェンとデラウェアもすこぶる仲が悪い。というのも、デラウェアの首領は元は闘技場での剣闘奴隷であるらしく、逃亡の際にギリギリのところで発見した地下迷宮に潜伏し生き延びた経緯があり、何時かはハーウェンを叩き潰すと敵意を丸出しにしているようだ。

 

 ならばレガリアと手を組んでハーウェンと敵対すれば良いとは思ったが、組織としては個人の戦闘力は高いがまだ総合力が劣る。いずれ島の頂点にと考えているのだとしたら、ハーウェイとレガリアはまだ存続し潰しあってもらい漁夫の利を虎視眈々と狙っているのだろう。

 

 三組織がいずれも仲が悪く、かつ均衡を保っているため時折小競り合いのような抗争があってもまだ島内はそれなりに平穏無事という訳である。

 

 「馴染みのない味だが、嫌いではないな。これはグリーンティーか?」

 

 「ええ、輸入をするとたいそうな値がつきますが、うちの警備主任が生産国出身でして、趣味で敷地内で栽培しているのですよ。お口にあうようで、安心しました」

 

 「成程、投げ鬼クダ=カンゼンか。良い仕事だ、素晴らしい」

 

 エレミヤの後ろで、護衛の代表として控えていたクダが頭を下げる。この場での騒ぎは早々おこさないだろうが、彼の後ろにいる双子の男女であるカイトとライトはレガリアにおける若手衆の中では二枚看板と呼ばれている凄腕の双剣使いだ。

 

 線は細いが背の高い兄カイトが手を後ろで組み姿勢正しく立っており、妹のライトは黒い長髪をボサボサにしながら眠たげに、立ちながらこくりこくりと舟をこいでいた。

 

 あの二人が万が一でも主に牙を剥いたら、ギリギリ対応できるかもしれない。それにガルデも加われば、時間稼ぎが精々だ。レガリアに対しては好意的中立であるため、流石に暴挙はしないとは思いたいが。

 

 「こちらも手土産を用意したかったが、急な話なもんでな、申し訳なかった。さて、本題を単刀直入に行こうか、今日の正午近く、露店街の辺りで騒ぎがおきて子供が人質にされる事件がおきた。ご存知かな?」

 

 「勿論、うちの新人が関りあった件ですから。お騒がせいたして申し開けありません」

 

 「いや、幸い巻き込まれた子供は無事。成果としては上々ではあるが…解せないのは何故犯人をこちらに匿った?そちらにかかわりがある訳でもない借金まみれのどこにでもいる男だ。君の親族や身内という訳ではないだろう」

 

 「私の親族だったら、匿うどころか街のど真ん中で公開処刑にしてやりますよ。フフフ、エルフがここにいたら、私はそれを狩りとる為に手段を選びませんよ。……まあ、それは置いておいて、現状あの男に関しては、残念ながら我々には価値があるものとなっているのですよ」

 

 クダが黙礼をし、懐から紙を数枚取り出しテーブルに広げた。

 

 「時に、ガルデ様。赤い服の亡霊を知っておりますか」

 

 「そいつはまた懐かしい話だな、俺がガキの頃からこの島にある噂話だ。本当に何時からこの島に根ずく話しかは知らねえが…な」

 

 「その赤い服の亡霊が、なんの関係があるのやら私の娼館に度々出現し、更には被害がでています。しかし、私ははこの事件を亡霊の仕業ではなく何者かの悪意ある行為ではないかと推測しております。そちらの報告書、医療組合、医術教会からの報告書です」

 

 ガルデは報告書に軽く目を通す。専門的なことはある程度の知識ではないが、身体特徴として、二の腕に複数ある注射痕に目をつける。

 

 「恥ずかしい話ですが、なまじこの島に古くから根付く赤い女の亡霊という言い伝えにより先入観が働いてしまっていました。目撃者は暴れだし、そして気を失い昏睡状態になる。目は充血し、鼻血をだしたものすらいる。まあ暴れた人間に対処するため鼻血の方はうちのスタッフが手荒なことをした可能性もありますが…注目すべきは女よりもその目の方でした」

 

 ガルドが報告書から目を離し、こちらに興味深げに視線を向ける。この御仁が、娼館でおこる騒ぎや不始末を知らない訳ではないだろう。なにがおこっているか既に知り得ている、その答え合わせを求めているようだった。

 

 「我々は、違法薬物によるなんらかの幻覚作用の可能性があるかと考えております」

 

 ガルドの薬物嫌いは有名な話だ、彼の眉がほんの少しだけ吊り上がるのが分かった。

 

 「南大陸には、とあるシャーマニズムに基づき幻覚による奇妙な世界の中神と通ずることができると信じられている宗教があり、その為の植物が盛んに栽培されています。この大陸にも小麦を蝕む麦角が原因で聖アントレリウスの業火と呼ばれ様々な疾患の中に幻覚、幻聴作用が確認されています。その報告書でも、主に医療教会から気を失う前の様子からの推測でその可能性が示唆されています」

 

 小麦に黒い爪のようなものが生じる麦角と呼ばれる症状は、古くは堕胎薬としても使われていた。

 

 しかし、アントレリウスの業火はそれで終わるような生易しいものではない。

 

 痙攣性の発作、呼吸困難、手足の焼けつくような痛み。症状が進むと幻覚や幻聴といったものが出始め、手足が壊死によりボロボロに崩れていくと言われている。

 

 その惨さはすさまじいもので、当時の画家である混沌派のエイル=クレッセラーが描いた『業火と悪意の導き』が凄まじい画力と共に患者の苦しみと混乱を描き出していた。

 

 「原料がその類のもの、それをちょっと弄ることができれば…どうですか?複数の注射痕、中毒性のある幻覚作用を持つ薬物が精製できるのではなと思いませんでしょうか」

 

 「君が言いたいのは、それを注入して中毒者にした後ここに送り込んでいる奴がいると」

 

 「その通りです」

 

 「ならばことの震源地はハーウェンだな。あの蛇女が使う手にしては些か稚拙だが、薬物となると出所が知れるというものだ」

 

 レガリア内部では薬物と奴隷売買は御法度。その隙をつかれハーウェンの魔女、蛇使いカナリア=ウェリアには出し抜かれてしまったがそれでも成立当初から続くその方針は変わっていない。

 

 あそこなら、薬物の研究も非合法に行われていると噂されている。闘技場に出てくる理性を失った、死ぬまで戦うことをやめない狂戦士達は、そんな薬物を注入されているという話はよくあがっている。

 

 「いえ、薬物の出所はハーウェンでほぼ間違いないでしょうが、震源地はレガリアにあると考えております」

 

 「なに?」

 

 ガルデの呟きで、室内の重力が増したような錯覚。背後にいる双子も兄の姿勢は変わらないが、妹の鼻から出てきていた提灯がパチンと音を経てて割れた。

 

 「あの男は、どこかの施設から隙をついて逃亡したと話しておりました。だがしかし、幸運にも施設から抜けだせたとしても、前後不覚で冷静を欠いているのに無傷でハーウェンの縄張りから出てきたとは考え難いのです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「俺は…嫁が借金を作ってそれを押し付けたうえで男と逃げたんだ。なんとか働いて返そうとしたが、複数からの催促で利子を支払うだけで精一杯、元金を払う余裕なんてない。そんな時、藁にも縋る思いで副業を探しに訪れた、非合法な冒険者ギルドに治験の依頼を見つけたんだ」

 

 子供を人質にとった男は、大人しくベッドの上で語り始めていた。万が一に備え手足を縄で拘束していたのだが、暴れだす出す気配はみられない。

 

 「副業でも金を稼ぎたいなら、合法的な冒険者ギルドでも良いだろうが。別にそういう奴はそれなりにいるし、わざわざアングラなところを当たらなくてもいいだろ」

 

 「分かってないな、冒険者ギルドは大量の借金があるやつは入れない。過酷な肉体労働や危険な調査前の露払いが多いだろう?首が回らない奴は、そういうところで事故で死ぬ。そうするとほんのスズメの涙だけど遺族がいればそこに雇い主から見舞金がはいることがあるんだ。そんな金でも、とってこいと入らされる奴が昔から多くいたんだとさ。だから、行政が運営する冒険者ギルドは身元チェックは厳しいし登録後でも大量の借金を抱えた奴は追放される」

 

 俺がいた頃もたいがいだったが、家具職人として働いていた期間にも色々なことがギルドにはあったようだ。

 

 冒険者ギルドとは底辺達の最後の受け皿でも、その受け皿に入りきれない奴はどこまでも落ちていくしかない。そこまでの落後者を救える程、今の世の中は優しくはないという訳か。

 

 「それで、治験とやらに手をだしたか。半ば自暴自棄になっていたようだな」

 

 窓辺に座りながら、エイラが呆れたように呟いた。普通の冒険者ギルドでさえ、地下迷宮探索前の生贄調査のようなろくでもない依頼があるというのに、裏ともくればそれこそ非合法組織の使いっ走り以下の扱いだ。

 

 「治験か」

 

 「おかしいだろ、医療教会でも医術組合でもないのに新薬の治験だぜ。ぜったいろくでもないと思っていたけど提示された報酬に目がくらんでな。それこそ何度か足を運び、報酬をもらった。最初はぼろいと思ってたけど、何時の頃からか薬を打ってない状態が続くと心臓がバクバクと動くし身体が妙に暑い、酷いときは鼻血まででて来るんだ。もう治験関係なしに、施設まで向かったら急に襲われた。それで逃げて来たんだ」

 

 「逃げてきた?あんたわりと限界近くにみえたけど、よくもまあハーウェンの施設から露店通りまで逃げて来れたな。逃げ出すことすら奇跡に近いのに、そんなことがあるのか?」

 

 「ハーウェン?あんたなに言ってんだ」

 

 「え?」

 

 「俺がいた場所は…ええと、娼館通りから北にしばらくいった場所だから…あそこは確かもうレガリアの縄張りじゃねえのか?まったく、万が一は確かに何度も考えたけどさ、レガリアは違法薬物に手をださないって噂を聞いていたから、治験もちょっと怖いけど最悪はないと思って受けたってのに、ショックだったよ。」

 

 俺とエイラは、互いに顔を見合わせた。薬物嫌いのレガリアに、違法薬物を打つ施設がある。これはいったい、どういうことなのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「それが君達が監禁、いや保護した男の証言か」

 

 「ええ。これは私も経営方針を考え直すタイミングがきたかと頭を抱えるところですよ。今後は、この娼館は会員制もしくは紹介制にした方がいいかもしれないとね」

 

 バレバレではあるが、エレミヤはまったく気づいていないといった様子で肩をすくめてみせた。それはバレることが前提の演技ではあるが、こちらから下手に向こうの危険物を触ることはない。

 

 おそらくは、ハーウェンの組織から手引きを受け、レガリアの何者かが違法薬物を取り寄せ利用している。

 

 目的は、レガリア側とエレミヤ側の不仲を招く為の工作か。それとも親レガリア路線をとっている、娼館街の顔とも言えるエレミヤの資金源を潰し、ハーウェン派に属する何者かがレガリアの違反者を利用して成り代わろうとしているのか。少なくとも、それが組織に所属していないチンピラでもレガリアの裏切者だとしても、ハーウェンから薬物供与を受けているのは間違いないだろう。

 

 この島で継続して違法薬物を供与できる能力を持つのは、現状ハーウェンしかいないのだから。

 

 「男の証言では、治験には複数の男が参加をしていたということ。薬を投与して頃合いとなったものから薬物の供給を経ち、こう囁いたのではないのでしょうか」

 

 「エレミヤの娼館に行け。そうすれば追加の薬を打ってやるとな…か。成程、だがしかし、妙な話がまだある」

 

 「妙な話ですか」

 

 「その男は冷静を欠いていた。ハーウェンの組織から逃げ出すのも奇跡だが、それは同様にレガリアに属する者が持つ施設から逃げ出すのも困難を極めるということだ。そりゃハーウェンの縄張りから露店街まで向かうよりかは距離的にも楽だろうが、そこは解せない」

 

 「それはまだ私にも分かりかねます。わざと逃がした、とも考えましたがそれをする意味が分からない。私の娼館も多少経営にダメージはでていますが致命傷とはいえないタイミングです。まあ、そこでなにがおこっているのかは私の組織の者が明かしてくれるでしょう」

 

 クダが深々と頭を下げる。そして、視線を鋭く尖らせた。

 

 「今回の事件、裏がどうであれ喧嘩を売られたのは私達です。ケリは私達がつけます、その報告をこの場でさせてください」

 

 「俺の縄張りでおきているなにかを、お前達が解決するというのか?うちの問題はうちで処理する。それが組織の裏切者だろうが、無謀な外部の馬鹿かは知らないがそれが筋というものではないか」

 

 「いえ、筋というならば被害がこうむったこちらが正当な報復を果たす為にあたるのではないかと考えております。私の経営する娼館を攻撃した、これはまさに宣戦布告です。敢えて口に出させていただきますが、これがレガリアからの工作という可能性も僅かとはいえあるのですよ」

 

 刃が引き抜かれる音。双剣士ライトが、長椅子を蹴りエレミヤに向け刃を振るっていた。瞳孔が開きぎみの表情を迎え撃つのは、クダ。

 

 テーブルの上で交差される刃は振るわれる前に、クダが両手首を掴んで阻止する。この反応の速さは、動いてからの対応ではなく動く前の対応。クダは寝ぼけ半分なライトが突如この凶行を及ぶというのを読んでいた。

 

 クダは、硬直する隙すら与えずライトの頭に頭突きを喰らわせる。怯んだ隙に両手をまとめて抱え床の上に背負い投げた。

 

 鈍い音が響き、ライトはうめき声をあげる。カイトが双剣を抜こうとしたがガルデが手を上げて静止。

 

 「流石は投げ鬼だな。若手衆とはいえ、将来の幹部候補が子猫扱いとは恐れ入る。非礼を詫びよう、お前等、少しは大人しくしておけ」

 

 ライトが唸り声をあげなら起き上がり半獣のように牙をむきだしにしながらクダから離れる。カイトも双剣を鞘に戻し元の直立不動の姿勢に戻った。

 

 「信頼されるかは知らないがね、少なくとも薬物絡みの命令は、徹底的な排除以外はこの口からは命令を下すことは過去にも未来にもない。それだけは、信じていただきたいものだ」

 

 「それは間違いないと考えております。ただ、もし相手がレガリアの裏切者だった場合、被害を被った私達か、それとも裏切者あるいは余所者の始末をするべき貴方達どっちが報復、あるいは見せしめをするか。私は、こう見えて頭にきています。私には、倒すべき敵がいるというのに、こんなことで手を煩わせるなんてとね」

 

 テーブルの上で騒ぎがあったというに、置かれた紅茶も緑茶も杯から零れることなくたたずんでいた。紅茶の杯を手に取り、エレミヤが一口飲む。

 

 「奴らの縄張りを駆逐し、この世から絶滅させ、文化も森も燃やし、そこに小麦と紅茶の耕作地を作ってやる。それを邪魔する奴は許さない、絶対に」

 

 殺されかけた直後だというのに、エレミヤは笑みを浮かべながらその目は鈍く輝いていた。

 

 「成程、度胸に分析能力、そして良くも悪くもその内心には一本の芯がある。前任のご老体がエルフで娼婦の君に後を継がせた理由が分かったよ。あの人のことは昔から、俺がガキの頃から知っている島にいた人だ。ご老体の後任、こうして話を交わしてみて成程と納得したよ」

 

 ガルデはカイトに目配せをした。それに頷き、カイトは鞄の中から紙を数枚取り出しそれを広げる。紙の一枚は男の似顔絵と、その経歴が書かれていた。

 

 「その男の名前はデル=エンパイアー。レガリア幹部の一人だが、最近はきな臭い動きが多いしハーウェイの者と密会の席を設けていたのも知っている。与えた縄張りも、娼館通りから近い。十中八九この男が事件の主導者だろう」

 

 「……人が悪い、初めて聞いた話のように振る舞っていたのに、ある程度目星をつけてからきたのですか?」

 

 「奴がなにをしているかまでは、まだ調査途中だった。まあ粛清まで秒読みといったところではあるが、新たな娼館街の主に敬意を評そう。この件、我々は君達が失敗するまで動かない。ことが成功したら、我々から君達にさらなる便宜を図ろう。無論、派閥に加われと言う訳でも組織に入れという訳でもない。ただ、我々から君の不利益になるようなことはいっさいないと責任をもって宣言する」

 

 「ありがとうございます、ガルデ様」

 

 「しかしだ、相手は腐りきった下衆に落ちたような奴だが、それでもこのレガリアの幹部だ。強さはそこらのチンピラとは比較にならないし、その部下も多く詰めている。だが対抗するだけの人員を動かせば、その行動は筒抜けだ、逃亡なりなんなりされるだろう。本当に大丈夫か?」

 

 クダが一礼をして、部屋から出ていく。紅茶に再度口元まで運んだエレミヤは、ゆっくりと微笑んだ。

 

 「ええ、私達は少数精鋭。私がスカウトした、人材達の働きを是非ご覧ください。とても楽しいことになると、思いますよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 娼館街から北にしばらく進んだ場所。開発から取り残された、ややさびれた住宅街のなかひと際大きな三階建ての建物の内部にて、男の怒声が響く。

 

 「馬鹿野郎ォ!」

 

 巨大な錨がが、男の脳天に突き刺さる。錨の先端が脳を砕き身体を潰し、肉塊と成り果てた身体をミンチにしながら床に突きたった。

 

 「おめぇ等それでもレガリアの一員が!薬中のボケ野郎一人掴めることができずに身柄を確保されましたなんぞ、笑い話にもならねえぞ!」

 

 「で、ですが兄貴、あの男が逃げた時も追いかける時も妙な連中の妨害が」

 

 「あんな借金まみれのクソボケに護衛がいたとでも言いてえのかぁ!ふざけるな、言い訳にしてももう少し足りない脳みそ働かせてからもってこいやぁ!他の薬中どもと、薬の廃棄はすんだのか!」

 

 「え…廃棄するんですか。あんなに金かけて買ったのに」

 

 「当たり前だぁ!クソ…新レガリア派のエレミヤを潰して、俺の息がかかった奴を代表にしその売り上げを手土産にハーウェイに寝返る計画が台無しだ。情報が渡ったらすぐにでもレガリアの連中は粛清しにくる!本部の動きはどうだ!?」

 

 デルの叫びに、部下はまだありませんと泣きそうな声で応じた。

 

 レガリアにおいて、海賊あがりのデルは現状に不満を募らせていた。確かにガルデはクソみたいに強い。その強さは掲げる大盾にて頭角を現し始めているという、まだ新人ながら部隊長を任されるグローと互角以上に渡り合える程だ。

 

 奴に負けて軍門に降るのは良いが、その甘いやり方のせいでこの島の統一ができずハーウェンやデラウェアにでかい顔をされるんだからたまったものではない。俺ならもっと上手く、使えるものは何でも使いこの島を牛耳れたはずなのだ。

 

 まずは手土産を持ちハーウェイに寝返り、そこでやりたいようにやり成り上がり長の側近となったら蛇女の殺し地位を奪う。組織力を身に着けてガルデとレガリアを葬り、勢いのままデラウェアも傘下におく。その計画が破綻しかけている。

 

 「レガリアが動く前に証拠を全て廃棄するんだよぉ!さっさとやれ、ぶち殺されてぇか屑共!」

 

 錨を向けて叫ぶと、部下達は散っていった。まだだ、証拠さえ見つからなければ俺はレガリアにて成り上がりのチャンスを狙うことができる。次こそは上手く、使えるものはなんでも使いこの島の王として君臨してみせる。

 

 「なんだお前!」

 

 「何者だぁ!」

 

 二つの声とが外から響くと同時に、なにかが砕ける音が響いた。まだレガリアは、動いていない筈なのに。

 

 「なんだぁ!」

 

 「兄貴ィ!妙な黒服のオヤジが正面から!」

 

 「黒服ゥ?エレミヤからの刺客か?殺しておけぇ!銃だろとなんだろうと使っても構わねえ!レガリアが動く前に手早く片付けるんだ!」

 

 デルが唾を飛ばしながら指示を飛ばす。その様子を天窓から眺める視線が、一つ。部下が離れたと同時に、その陰は窓を突き破り三階に侵入した。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。