家族の仇は、娘でした   作:樫鳥

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 「デルのクソ餓鬼はいるかぁ!?礼参りに来たぞぉ!」

 

 見張りのため入口近くにいた二人組が投げ飛ばされ、建物の入口が粉砕した。クダが叫びながら中に侵入し、にたりと笑みを浮かべる。

 

 「正面から来るとはな!馬鹿め!」

 

 何時本部からの探りが来るかと臨戦態勢だった組員が、ライフル銃を構える。銃持ちの警戒体制が四人と近接武器を手に持つごろつきが二人。階段の上や地下に通じる降り口。またはあちこちの扉から複数人の気配を感じる。

 

 「死ね!」

 

 放たれた弾丸がクダの背後に流れる。当然ライフルの弾丸よりクダが素早かった訳ではなく、敵の行動を読んで直立不動の姿勢から相手の行動前からトップスピードで移動したにすぎない。だがそれは、組員にとってはまるで瞬間移動のようにも見えただろう。

 

 「この!」

 

 続いて放たれる三発のライフル弾丸も壁や棚に穴を穿つのみに終わる。巨体に似合わぬ速さで近づいた、ナイフを持つ組員の目の前で歩みを止める。

 

 反応して振るわれようとしたナイフは、その刃を身体に食い込ませるどころか振るわれる前に静止。

 

 「我が投げ術、極意は先の先にあり」

 

 「このオヤジ!」

 

 足払いで組員の身体が宙に浮き、まるで子供がぬいぐるみを振り回すように大の大人が片手で宙に浮かび上がり振り回される。勢いをつけ、組員を投擲。ライフルを持つ二名を巻き込み壁に激突した。

 

 まだ無事なライフル持ちが次弾を慌てて装弾しようとしている間に、クダは次の武器持ちを狙う。シミターによる首を狙った薙ぎ払いを回避し、握られた拳で頭蓋と鼻、顎を殴打。速さのみで衝撃力が少ない連撃ではあるが、急所を三発撃ち抜く拳にシミターの組員がふらつく。

 

 そのまま首に手をかけ、背後から拘束。弾丸を装填したライフル持ちが銃口を向けるが、拘束した組員を盾にして向ける。

 

 「ほーれ、お仲間に風穴があくぞ」

 

 「人質かよ…卑怯だぞ!」

 

 「待て待て待て刺激するなってというか、撃つなよ撃つな!」

 

 動揺からか、銃口が微かに揺れたのを確認し腕に力を込めて盾にしていた組員の首をへし折る。

 

 「殺しやがった!」

 

 ライフル銃二丁、慌てたように発砲されるが僅かにでも先端を狂わせたら直線で飛ぶ飛び道具等当たらない。一階の隅に備え付けられていた長テーブルを掴み、強引に振り回し放り投げる。

 

 テーブルと壁に挟まれ、残りのライフル銃持ちも沈黙。手を軽く叩く。

 

 「それでもレガリアの一員名乗ってやがるのかぁ!もっと本気で来いガキどもぉ!」

 

 地下から、階上から、凶器を手に持った組員が現れる。クダは大きく両手を広げ、それを迎え撃った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 木窓が破壊され、昏倒した組員の上半身が突き出てきた。そこから中を覗き込むと、多数の武器持ちや銃器持ち相手にクダが大立ち回りをしているのが見える。

 

 ガルデからの資料にて、デルの拠点に少数精鋭にて気取られないように襲撃をかける。その作戦じたいに特に思うところはない、俺が何故かその襲撃役に組み込まれていることを除けばだが。

 

 「館は今日も通常営業だよ。まあ君達三人いればなんとかなるだろうし、頑張ってねー」

 

 指示をとばしたエレミヤが笑顔で手を振りながら見送る姿を思い出す。調査と称してカジノで博打に励んでいたクダはともかく、エイラは仮眠を少し挟んだだけなのにもうやる気満々であった。

 

 館での夜勤、ともかく警備の副主任となれば通常業務だけでも相当ハードなのにどこからその体力が湧いてきているのか不思議でしかたない。愛の力だとでも言うつもりなのか。

 

 作戦は至極単純だった。ガタイがでかくて目立ち、制圧力のあるクダが正面から殴り込みをかける。注目がそこに集まっている間に別の入口からエイラが潜入し敵の首級をあげる。俺は取りあえず、裏側から逃げないように見張りをし場合によってはフォローに入るという訳だ。

 

 「敵の目がクダに向かった。遅くても三分で戻るから、そこであたしが手柄をあげてくるのを指をくわえて見ているんだな」

 

 「見ているもなにも、ここで見張っているから見れないんですが」

 

 「詰まらん奴だな。ああ、もし戻らなかったらその時は一時撤退しなよ。奇襲は、即効だからこそ意味がある。腐っても敵の拠点、ダラダラと時間をかければ全員が危険になるからね」

 

 エイラが裏口に回り込み、エイラの蹴りが扉のロックを蹴り破る。扉の向こう側は廊下となっており、銃器で武装した三人組と目が合った。大きな袋を背負っており、なにかを運び出している最中にも見える。

 

 「なっ…おま!」

 

 相手がなにかを言い切る前に、エイラが動く。飛び上がり側面の壁を蹴り勢いをつけた膝蹴りを一番近くにいた男に叩き込み着地。慌てて銃口を向けようとする二名の間を側転しながら抜け、背後に回る。

 

 振り向こうとした男の一人が顎が蹴り上げられ、宙に浮かび通路に倒れふした。息つく暇もなくもう一人にも連打を浴びせる。速さ重視の軽い拳であるが、顔面と喉元に計五発の乱打を喰らえばタダではすまない。怯んだ隙に股間を蹴り上げ、声にならない悲鳴と共に三人目も倒れた。

 

 「速い」

 

 エレミヤから聞いたことはあった。クダが投げ技の専門家なら、エイラは打撃戦、特に閉所での戦闘が得意分野だという。

 

 狭い通路や空間では、武器持ちが逆に不利になる。それを逆手にとり壁や天井等の行動を阻害する要素を逆に利用し敵を翻弄し打ち倒す。

 

 これはなにも建物内や室内だけではなく、場所によっては入り組んだ構造になっているこの経済特別区のあらゆる場所や港湾都市であるリスム内での戦闘でもいかんなく発揮することができるという。

 

 それでもフィジカルや単純に経験の差でクダの二番手として副主任という立場に甘んじているが、本来ならばどこにだしても一番手を狙える戦力であるのだ。

 

 「これを見ろ」

 

 エイラが気を失った男の袋から、瓶を取り出す。透明な液体が入っており、瓶にはなにも記入や記述はないがこの状況下で運び出そうとしていたのならこれがハーウェイから降ろされていた薬に間違いないだろう。

 

 「これは、もしかしたらレガリアとハーウェイの本格戦争の引き金になるかもね。やれやれ、蛇女は勝てると踏んでいるのかな」

 

 「少なくとも、こうならないと予想はしていない訳ではないとは思いますが…どうでしょう」

 

 「まあ少なくとも、あたしがやることには変わらない。エレミヤ様の敵対者は滅殺する。精々誰も逃げださないように見張っていろ」

 

 エイラがそういって、階段を昇っていく。大多数の戦力をクダが引き連れて、敵のボスをエイラが倒せばこの騒動も決着となるだろう。落とし前に関しては、上の人間同士で話し合ってくれればいい。

 

 しかし、こうして改めて規格外の二人を見ると自分の力の無さを実感できて辛い。素手で多数の敵相手に大立ち回りを行うクダと、素早さや柔軟性を持ち息つく暇なく複数人を無力化するエイラに比べ俺の技量はさしたるものではない。

 

 この三人だって、やれないことはなかったかもしれないが無傷ではすまないだろうし時間も食うだろう。

 

 「銃が、通用しない相手か」

 

 倒すべき敵は人型ではあるが、得体がしれないなにかに変化してしまっている。攻撃手段として銃を選ぶにしても、薄く広くでも良いから一撃で面としての攻撃ができるものが良い。近くによる必要があるというならば、足腰周りと間合いの詰めかたを学びなおす。その為に格闘技術を学ぶのは決して間違えていない筈だ。

 

 最初は借金の代わりだと思ったが、やはりここで二人の戦い方を吸収するのは遠回りに思えて案外目的の為の近道かもしれない。

 

 その為には、まず自分の役割をまっとうしよう。三分、彼女の宣言した時間通りに物事が進むことを祈りながら、ここに来る敵を迎え撃つ。ゆっくりと呼吸をする、一番楽な役回りを与えられた俺が、しくじる訳にはいかない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 筋力、体格、体重。格闘戦においてあたしのなにもかもは男に劣っている。

 

 ならば必要なのは速さか。その回答としては間違ってはいないが正解でもない。

 

 筋肉達磨は鈍重、なんてことはまずほとんどない。結局のところ身体を瞬間的に動かすのは筋肉の増量は必要不可欠だ、つけるべき個所を見極める必要はあるが。

 

 なら必要なのはなにか、それは身体の柔軟性だと考えた。それと頭からつま先まで精密に動かす身体コントロール、意外と人間というのは自分の身体を思い通りに動かせていない。

 

 眼前に迫りくる刃を身体を後ろに折り曲げ回避、毎日かかさず行う柔軟運動により、間接を柔らかくした蹴り技で側頭部を抉る。死んでもおかしくはないが、生死確認をする程気になる訳でもない。

 

 この建物は三階建て、地下に一階もある。現在地は二階であるが、ここに残っていた連中は数が少なく特に労もなく制圧することができた。

 

 「クダに任せすぎかな」

 

 この程度の相手であれば何人いようが問題はない。

 

 幼少期から身体の柔軟性は高かった。それを活かす為に格闘技の道に進み、相手が誰であろうと何人だろうと特に苦労することなく蹂躙することができた。

 

 自分で言うのもなんだか容姿も、一般的な美人と呼ばれるものとはやや毛色が違うものも男にも女にもチヤホラされて生きてきたくらいには優れていると自負している。まあ男女関係或いは女同士の関係で長続きしたことはなかったが。

 

 だがここにきて、二人の高い障壁が目の前に立ち塞がった。一人はクダ=カンゼン。正面きっての戦闘で子供扱いされたのは、まだ武術の素人だったころ道場の指南役に手も足もでなかった頃以来である。

 

 急所狙いの一撃は的確に捌かれ、手数を増やして隙を作ろうとしたらそれがそのまま一撃必殺になる投げ技のチャンスを与えてしまうはめになった。急所狙い以外で、一撃で相手を沈黙させる手段が乏しいあたしには正直相性が最悪だ。

 

 警備主任の座を何度も狙いかすめとろうとしたが、その成果は一度たりともあがったことはない。

 

 もう一人の壁とは、雇い主であるエレミヤその人だ。多少人見知りでも異性愛者でも、声をかければそれなりの反応が返ってくる。幾度か繰り返せば、いつの間にか恋仲へとなることも容易であった。

 

 それがあれだけそっけなくされ、袖にされてたのは初めてだった。人生初の経験、屈辱的とすら言えた。

 

 あの二人を、片方は打倒しもう片方を恋に落としてこそあたしの人生における屈辱を拭いさることができる。そんなことを考えているからこそ、エレミヤ様にはそれを見透かられているのではないかと考えることもあるが…まあ、気にしても仕方がない。あたしは、あたしなのだから。

 

 そしてそこに現れたのは件の新人だ。エレミヤ様とは昔の知り合いらしいが、さらりと懐に入り込んできた。さらには、彼はクダにより確実に鍛えられている。

 

 戦えばまだあたしの方が強い、ただ彼は見た目以上にタフさと、あきらめの悪さがある。手合わせと称して少しばかり痛めつけようとしたが、いくら叩き伏せようとも立ち上がってくる執念のようなものには恐怖を覚えてしまった。だが必要以上に痛めつけてしまい、しばらく立ち上がれない身体にしてしまったのはいくらなんでも酷すぎたと今は反省している。

 

 超えるべき壁と、追いすがってくる後輩がいる職場。ストレスばかり溜まるものだと思っていたが、意外なことにそう悪い生活ではなかった。

 

 一つどころには留まらない生活をしていたが、これだけ長く同じ場所に滞在したのは、子供の頃を除けば初めてだった。それだけ、居心地が良い職場だ。

 

 だからこそ、あそこを攻撃してくる存在は許せない。敵対者とは、侵略者には全力で抗わせてもらう。

 

 階段を昇りながら周囲を警戒する。しばらく建物を監視し、デルがこの拠点から出た様子はなかった。ならば、だいたいお山の大将というのは高い場所に陣取るものだ。

 

 三階は幾つかの小部屋に入れる扉が見えるが、一番目立つのは最奥にあるバカでかい両開きの扉だ。扉を開けた瞬間、待ち構えていた銃によりハチの巣なんてことになりたくはない。

 

 狙われていると仮定をし射線が通らない隅により、拳で軽くノックをする。

 

 反応がない、ドアノブに触れてほんの僅か扉を押して開く。小さなドアが開く音のみが響くが、銃撃等が飛んでくることはなかった。

 

 不在の可能性を少し考えた、もしかしたら地下の方に避難通路のようなものを用意しておりそこから退避をしたのか。仮にもここはレガリア幹部が持つ拠点だ、その手の隠し通路があってもおかしくはないしハーウェンと裏取引をする際そんなものがあれば便利だからだ。

 

 だがなんにせよ、確認してからでないと引き下がれない。意を決して扉を蹴り開けて侵入する。

 

 中に飛び込んだ瞬間左右から息遣い。斧とハンマーの振り下ろしを前転して回避をし、床に手をつけ足を広げ逆立ちしながら回転蹴りを繰り出し顎に強打を加え昏倒させる。待ち伏せがあったことには驚かない。無い方が驚くというものだ。

 

 「たかが娼館の警備如きが俺の手駒を散々打ち破ってくれるとはな。お前等を褒めるべきか、部下の質の悪さを嘆くべきかどちらにしたら良いだろうか」

 

 「ここがレガリア本部だったらここまで容易くはないだろうね。それと渡り合うハーウェン、武闘派で鳴らしているデラウェラだったら更に酷い殺し合いになるだろう。要するに、君は部下の質を嘆くべきな方かな」

 

 「売女の蛮族に仕える尻尾を振る犬が、よく言うぜ。縊り殺してその首娼館に送り返してやる」

 

 デルが、一歩前に出る。百九十センチはありそうな大柄な男が手にする武器。部屋を照らす蝋燭の灯りを反射するのは、両手から生える鋼鉄製の四本の爪。

 

 一本一本をナイフのような斬れ味なるまで研いた、獣の武器を人間の拳に再現したクローが構えらえる。

 

 「ルアアァ!」

 

 突進からの薙ぎ払いを側転で回避し、壁を蹴り頭上から蹴り技を繰り出す。交差した爪により蹴りが防がれ、靴底を補強していた鉄具とかすれ火花が飛んだ。

 

 

 情報によると海賊時代から使っていた武器であるらしいが、流石に使い慣れてはいるようだ。蹴りを防がれた後連撃を繰り出してくるが、決して深追いをしないため回避をするだけでは隙をみいだせない。腐ってもレガリア幹部、やはりそれなりの実力を持ち合わせているようだ。

 

 大きく後退し、家具の近くに飛ぶ。椅子を足で絡ませ蹴り上げ、空中に浮かんだ椅子を相手に向けて蹴り飛ばす。

 

 「あめェ!」

 

 腕を交差させてからバツを描くように両腕を振るい、爪が飛んできた椅子をバラバラに引き裂いた。

 

 「どちらがだ?」

 

 だが椅子は、直接相手に当てる為のものではない。視界と注意を大幅に奪い、こちらが急速接近するのを気づかせない為だ。

 

 横薙ぎに爪が振られるが、スライディングをしながら懐に潜り込む。

 

 「あたしの間合いだ」

 

 睾丸狙いの一撃。当然相手はそれを警戒し護りを固めようとしたがそれは囮。防いだ一撃は想像以上に軽かったことに、デルは疑問に思うだろう。

 

 本命は、下半身に警戒がいき手薄となった上半身。肝臓を狙い拳を叩きこみ、体制が崩れたところに下腹部から額までかけて連続で拳打撃を叩きこむ。

 

 デルが吹き飛んだが、手応えがない。

 

 両腕を掲げ額と喉を抉る一撃を防がれた。肝臓から上半身にかけて連打で痛覚により怯ませ、隙だらけになった相手の喉と額を討ち抜き殺害する技だったが、それに繋げるための一撃一撃の威力が足りなかったか。

 

 「たいした…クソアマだな。徒手空拳でここまでやるとは、嘗めていた、娼館の警備にしておくにはもったいねえ実力だ」

 

 「殺し損ねたけど、格の違いは分かったんじゃないか?降参すれば、まあ死なないくらいの処罰ですむようお前等の頭に話しておこう。条件としては、先程のエレミヤ様を侮辱した言葉を取り下げることだ。無様に命乞いするなら許しても良い」

 

 「レズという噂は本当だったのか。これは驚いた…ならばやることは一つだな!」

 

 デルが立ち上がり、よろよろと壁に近づく。なにをするかは分からないが早々にぶちのめした方が良いのは確かだ。

 

 壁にかけられていた絵に、手をかける。額縁でも投げて来るのかと思ったが、手をかけた額縁が九十度回転し床が揺れ始めた。

 

 「追える度胸があるなら、追ってきな!」

 

 デルの足元にある床が開き、そこに滑り込むように逃走をしていった。

 

 駆け寄り覗き込んでみると、まるで滑り台のような斜面となっていた。ここからでは光が届かずに下がどうなっているのかは分からないが、いざという時の逃走経路だとしたら二階や一階に繋がっている訳がない。だとしたら地下だ、恐らくは地下牢や逃走用通路があるであろう場所に直通だと考えるのが一番しっくりくる。

 

 階段を経由して戻れば、逃れられるかもしれない。

 

 「三分、間に合うか?」

 

 飛び込み、滑り落ちる。一番下には着地用の衝撃吸収材が敷き詰められていた。

 

 牢獄が複数並んでいる。あちこちで照らされた蝋燭により灯に困らないが、現状目が届く範囲にデルの姿が見当たらない。

 

 「逃げても無駄だ!手間をかけさせるなよ三流ヤクザが!」

 

 「逃げる?もう既に、お前等が来た時点でレガリア本部からのバックアップも控えているんだろう?例え情報共有がなかったと仮定しても、この騒ぎが本部にバレない訳がない。こうなった時点で、俺はもう詰んでいる」

 

 「だったら何故こんな無様に逃げだした。お前も裏社会でそれなりに渡り歩いてきた者だろうが。引き際を弁えることくらいできる筈だ」

 

 「引き際だぁ?命乞いしたところで、ガルデは裏切者を決して許さない。例え命が助かっても、ハーウェンに命を狙われる。いや、ハーウェンにとって俺はもう切り捨てるべき駒なのだろう。だとしたら、露店通りでのあの騒ぎがおこることがなかった。薬の効果を確かめたなら、あとはレガリア同士で潰しあい戦力を潰し合わせれば手前の戦力と財布を削らずにレガリアに嫌がらせができるということだ。まったく、道化もいいところだったよ俺は」

 

 蝋燭の光が届かない奥から、デルが歩いてくる。片腕で女を捕まえ、その首筋に刃を添えていた。女の目は瞳孔が定まっておらず、口からなにかをぼそぼそと呟いている。全裸で手かせが片腕についており、複数ある痣と語るにもおぞましい行為をされた痕が見て取れた。

 

 「もう逃げ場も次もないとしたら、俺を追い詰めたお前を道ずれにすることに全力を尽くす。お前噂ではレズビアンなんだって?両刀という噂も聞いたことはあるが、どちらにせよこの現状、多少なりとも効果があるんじゃあないか?」

 

 デルが薄ら笑いを浮かべていた。

 

 こいつは、ゲスだ。やり方や末路はともかく、危険な橋を渡ってでも上を目指す心意気くらいは多少かっていたのだが、性根が腐りきっている。

 

 「ゲスめ」

 

 「おい!いるのは分かっている、出て来い!」

 

 デルが叫ぶ。一瞬ランザが隠れているのかと思ってしまったが、出てきたのはガラクタを積み重ねその隙間で布を被り隠れていた下っ端だった。

 

 「す、すまねえ兄貴。オレ死にたくなくて」

 

 「普段なら絶対ぶっ殺してやるところだが、今のお前はここにいたということで価値がある。ナイフくらいは持っているだろう!」

 

 「へ…へい!へへ、成程。オレが女を人質にとっておけばいいのでね」

 

 下品な、半ばやけくそじみた笑みを浮かべ下っ端が女の首ナイフを添えて後ろに下がる。あれが首筋にナイフをつきつけている限り、下手に動くことができない。

 

 「しかし、マジかお前。見ず知らずのヤク中くらい放っておけばいいのによぉ。あの女は借金まみれの屑だ。いくらレズでも見捨ててもあかまわないんじゃないか?」

 

 「………」

 

 「だんまりか、それはそれで選択肢としては嫌いじゃない。わざわざ俺の好奇心を満たす義理はお前にはないからな。だがしかし、大人しくはしていてもらおうっか!」

 

 腹部にデルのつま先が突き刺さる。腹筋に力を込めるが、衝撃を殺しきれる訳でもなく胃液を吐きそうになりながら床に転がった。

 

 「本当にやっかいなクソ女だよお前は、間違いなく俺より格上の戦闘力、それだけは認めてやるよ。こうして弱点つけなければ負けていた。だがしかし、こうして這いつくばる姿を見ているとあの世への土産というか、道ずれとしては上等にすぎる」

 

 デルの靴裏が腹部に突き刺さる。何度も踏みつられ、内臓が悲鳴をあげた。

 

 「殺す前に痛めつけて殺してやるよ。時間があるなら、最後に楽しむのもありかもしれないなぁ。両刀かレズビアンかは知らないが、本当のレズだったら男に挿入されるだけでも辛いだろう?」

 

 見上げたら、ズボンが盛り上がっていた。クソ、そんなところまでゲスなのかこいつは。

 

 「爪をつけたままズボンを降ろすつもりか?事故って傷つけてもげてしまえ」

 

 「例え死ぬ前でも、一物切断された死体なんざ笑い話にもなりゃしねえからな。まあいい、こいつを外すのも少々手間がかかる。あまり時間はかけられないから…」

 

 「時間か。三分どころか五分過ぎています。宣言よりかなり過ぎていますよ」

 

 「誰だ!?」

 

 デルが振り向く。後ろでは、ランザがナイフをつきつけていた下っ端を絞殺せんばかりに締め上げているところだった。手に握られていたナイフが床に落ち、乾いた音をたてる。

 

 「上にいったと思ったら地下にいる。どんな面白い動きをすればそうなるんですか」

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