家族の仇は、娘でした   作:樫鳥

44 / 149
帝都へ


 「どうぞ」

 

 「いやいや、お食事前に申し訳ありませんねぇ。突然の訪問、お許しください」

 

 長椅子に座るガルシアに暖かい紅茶が出される。ガルシアの後ろには護衛が二人直立不動の姿勢で立っており、威圧感があった。もう一人は、外で待機をしている。

 

 こちらは一人のみ。エレミヤやクーラには別室にいてもらっている。紅茶をだしてくれたエレミヤの警備隊長は一礼をして、退室いった。

 

 「これは美味しいですなぁ。私紅茶には疎い方ではありますが、味の良し悪しくらいは分かりますよ。流石に良い茶葉を使っておられる」

 

 社交辞令を口に述べながら、さてさてとこちらに向き直った。視線が細くなったのを感じる。

 

 「いやしかしランザさん、貴方も災難でしたなぁ。モスコーの食屍鬼騒動に、リスムの巨人騒ぎ、立て続けに危険なめにあうとは」

 

 帝都災害対策本部、或いは災害対策室。帝国にとってありとあらゆる災害の予兆を調査し、未然に防ぐことやおこった災害に対する情報収集を行う部署として知られている。

 

 かの高名な竜狩り隊が所属をしていることから、その活動範囲は自然災害の類に囚われず竜やその他危険性物に対する対抗や、他国からの防諜のような役割まで担っていると言われている。

 

 噂では、民間組織や治安維持組織では対抗できない大規模犯罪組織や危険思想の個人を捕縛または殺害する部署まであると言われている。

 

 活動について、記憶に新しいところではかの海竜討伐のさい主導となったのは帝国だがその主力としての中核は竜狩りの連中が絡んでいると言われているそうだ。

 

 「人生、ツキのない時もあるもんですよ」

 

 「言えていますなぁ。いや実はこう見えて私、妻と子供がおりましてね。子供にのびのび育ってほしいと、その資金の為に一念発起して外国から輸入される果実の取引に一枚噛んでみたんですがね、なんと船が沈没してしまい金をかけた分が全ておじゃんですよ。いやはや、ツキが無い時におもいきったことをするものではありませんなぁ」

 

 「それはまあ、ご愁傷さまです」

 

 にこにこしながらまったく関係ない話を挟んでくる。

 

 リスム自治州でおきた内容である為、まだ探りを入れつつの対応になるのか?これが帝国内でおこった事件や、俺が帝国民だとしたらもっと直接的にくるのだろうか。

 

 「時にランザさんは、冒険者ギルドに所属しているとか。それも過酷な、本物の危険な冒険が行われていた時代から。その後に一度、引退をされているが最近また複帰しているようですね」

 

 こちらの素性は、調べているということか。これはますます、二つの事件に偶々関わった人間に対する聞き込みではないようだな。

 

 「モスコーの冒険者ギルドには、寄られましたか?当時のモスコーは祭りの真っ最中でしたからねぇ、臨時の雑務が依頼としてだされたり、格安の宿を目当てに詰めていたギルドの所属員達も多かった」

 

 紅茶の杯を片手に、ガルシアの目が細く鋭く尖る。

 

 「モスコーの冒険者ギルドは壊滅しました。そのことはご存じで?」

 

 「ええ、街で騒動がおこった際真っ先に向かいました。たどり着いた頃には、もう職員や冒険者達は死んだか動く屍になっていました」

 

 「貴方はその後どうされましたか?」

 

 「冒険者ギルドから飛び立つなにかを見ました。それと追いかけていこうとしたら、辺境警備隊や難を逃れたギルドの生き残り、街に訪れていた戦闘の心得のある者と合流したのでしばらく共闘をしました」

 

 飛び立つなにかを見たという嘘を一つだけ混ぜる。冒険者ギルドは、サグレが早い段階で襲撃をした施設だ。俺がたどり着いた頃には、とっくにサグレの姿はなく動く屍と死体のみの状況だった。

 

 サグレの名誉と、俺自身の保身為に彼女のことは話せない。彼女が自殺をし損ね、俺が殺してやれなかったことでおこった事件なのだ。この事実は、隠し通しておきたい。

 

 「おお、成程。それで貴方は、その場にいた使役獣の使い手に、今回の元凶が飛んでいった方向を話して連れていってもらった訳ですね。モスコーで生き残っていた、使役獣使いのお仲間様がそのようなことを話していたと記憶しておりました。その飛んでいった先が、モスコーの古城だったと。それで、飛び去った何者かはいたのですか?」

 

 「いえ、ただ争いの後のみがありました」

 

 あの戦い、サグレの隙をついてギリギリ勝利をおさめたものの、こちらとしては出せるものはほぼ全て出し尽くした死闘だった。

 

 ジークリンデもフルに活用して、吸血鬼に勝利をしました等口が裂けても言えるものではない。ジークリンデの力とは、竜の力だ。こいつらの背後に情報が渡ってみれば、面倒なことになるのは間違いない。

 

 だからといって、ただの人間が道具も頭数も事前準備もなく吸血鬼に勝てる訳がない。俺はそこまで英雄的な力を持っている訳ではない。

 

 サグレの遺体は、ベレーザと共に山の中に埋葬をした。死体が残っていないということは、俺がたどり着いた頃にはなにも残っていなかったといってもまあ、恐らくは矛盾はない筈である。

 

 「信じ難い話ではありますがね、ランザさん。我々としてはモスコーの騒動は現代に蘇った伝説、吸血鬼の可能性が高いと踏んでいるのですよ。かの生物が伝承通りの存在であるならば、我々対策室としては野放しにはできません。理解してくださいますか?」

 

 「帝国国民ではありませんが、災害対策本部の噂はかねがね。苦労されているのではないかと、想像はしております」

 

 「ではそれを踏まえて、聞かせていただきたい。吸血鬼はどこに消えたのですか?ランザさん、二つだけどうにも我々にも腑に落ちないことがあるのですよ」

 

 「と、言いますと?」

 

 ガルシアが杯の中身を呑み干す。小さな音をたてて、杯が受け皿の上に戻された。顔は相変わらず柔和であるが、それだからこそ不気味な雰囲気で穏やかに言葉を続ける。

 

 「かの使役獣使いですが、彼とその魔獣はまるで怪腕で引き裂かれたかのように絶命しておりました。とても、人間や食屍鬼の仕業とは思えません。あんな真似ができるとなれば、豚鬼以上の腕力と傷の大きさから、信じられないことにそれに半比例する細腕が必要になります。ランザさん、貴方がいた時にはまだ吸血鬼はいたのではないのですか?彼、或いは彼女が魔獣とその使い手を殺害した」

 

 「亡くなったのは、残念な話です。彼とは自己紹介もロクにしませんでしたが、死んだ事実には心を痛めました。モスコーの古城は、規模の話をすれば比較的小規模かもしれませんがやはり城は城です。元凶を探す為に、二手に分かれました。それきりです、彼が吸血鬼を見つけてしまい殺害され、吸血鬼はその場を飛び去ったのではないのですか?」

 

 「かもしれませんね。ああ、それと我々としてはもう一つ気になることがあるのですよ」

 

 「気になることとは?」

 

 「貴方が向かったモスコーの古城ですが、戦闘の跡がみられました。ですがその戦闘というのが、なかなかに奇妙なものでしてね。例えばですが古城の一部はまるで抉られているような跡がみられました。鋭利な刃が凄まじい力で壁を削り付けたようなね。我々としては、今は行方不明の吸血鬼よりはそちらの方が気になるのです」

 

 心当たりがあるかどうかと言われれば、ありというしかない。ジークリンデの連結刃の威力は、有象無象に使えば雑に殲滅できる威力がある。例えばキラービーをクイーンごと斬殺した時のようにだ。

 

 その分、人目につくところでは使えない。悪竜の伝承を知らずとも、異物のような力であるとは誰でも予想がつくからだ。隣国の事件ということで調査に訪れた災害対策室の連中から注目されるのは致し方ないことか。

 

 しかし、あの場ではジークリンデの連結刃を十二分の活用しなくては生き延びることはできなかった。痛し痒しか。

 

 「ランザさんもご覧になりましたか?たどり着いた頃には、全てが終わっているというのなら、その跡をご覧になったことは?」

 

 「全てではないかもしれませんが、多少は。吸血鬼とはかくも化物なのかと驚愕したものですが」

 

 「その化物と相対する別の化物が存在いたということですよ、ランザさん。心当たりは本当にありませんか?」

 

 穏やかな質問であるが、感じるのは重いプレッシャー。他国の人間に強く出れていないだけで、これは尋問だ、間違いなく。

 

 一問一答、返事を誤れないことは分かってはいるが、この手の会話は得意な方ではない。ボロをださないように気をつけなければ。

 

 「私にはなにも。ただ荒れた古城といくばくかの戦闘の後、血痕くらいしか見れませんでしたよ」

 

 「現場には多量の出血あとがみられたりもしました、人一人バラバラになったような派手な飛び散りようでしたが肉片すら落ちていません。何者かに持ち去られた可能性すらあるのですよ。吸血鬼か、それに相対した化物か、何者かが地に潜っているのです」

 

 「そんな相手に鉢合わせしなくて、良かったと思っていますよ。あの時は異常事態すぎて、ギルドを壊滅させた相手を追いかけるなんて無茶をしたと今では思います。こうして生存しているのは、あの時なにも見ていなかったから、それ以上は話せることはないのですが」

 

 二人の間で沈黙が流れる。重苦しい空気に、肩の力を抜くこともできない。

 

 「そうですか。良いでしょう、モスコーの件についてはそれ以上は今は聞きません」

 

 「今は、ですか」

 

 「ええ、調査が進めばまたお話を伺うこともあるかもしれませんからね」

 

 さて、とガルシアが明るく言い空気を換えようとした。温度差が激しくて、思わずこちらも肩の力を抜いてしまうところだった。

 

 「リスムの巨人事件。痛々しい事件でした、リスムの港湾都市はかなりの被害をこうむっております、人命に対しては言わずもがなでありますが、建造物に対しての被害で考えてしばらくは家を失った者や職を無くした者が大勢でています」

 

 「モスコーの救援活動で戦えるものの人出が裂かれたのが被害を拡大してしまいました。せめて掲げる大盾のメンバーがそろっていれば、民衆の犠牲を抑えられたかもしれませんが」

 

 「そうですね。さてでは、その巨人がどこから出て来たかはご存知ですか?まあこれはもう噂でかなり出回っていますし、ご存知でも不思議ではありませんね」

 

 「ええ、ノックの山から現れたのですよね」

 

 ノックから脱出した際巨人が抜き出た山の一角を見た。今まで見たどの人妖よりも異質、恐らく昔から人を吸い続け力を蓄えたのだろう。まるで自然が驚異として形をもった痕を見ていたようだった。

 

 あれはノックの森林道から見ても充分見える。知っていても、問題はないだろう。

 

 「こんな話をご存知ですか?事件がおこるしばらく前からまことしやかにあの山にはエルフが出現すると言われていました。調査によって浮き彫りになったのですが、あのノックの山や付近の道では行方不明者が出ているようであり、帝都側の商人組合やリスム側の冒険者ギルドと情報の調査や精査、統合をするとかなりの人数が行方不明になっていることがうかがえました。これはご存知でしたか?」

 

 「そう言われましても。エルフがでるという噂じたい、初めて知ったのですが」

 

 「そうですか。ではあの事件があった日、何故リスムの山道で貴方によく似た人物が目撃されているのですか?」

 

 あの日、確かに行商人とその護衛達とすれ違った。彼等を見つけ、話しを聞いたということか。

 

 これはどうするか、よく似た別人だと嘘をつくか。いや、向こうは恐らくモスコー事件と巨人事件で注目すべきポイント二か所にいた俺という存在に完全に目星をつけている。どうするか。

 

 「ランザさん、正直に話してもらえますか?リスムから帝都方面への道を進んだ貴方は、帝都の国境を通過したり近づいたという証言はとれていないのですよ。ならば、貴方は件の山に入った可能性が高い。そして、あの山には干からびちゃいたがエルフの死体もそれなりの量見つかっています。大半は化物、人妖の仕業でありますが、中には人為的な傷で殺された死体もあった」

 

 「ノックの山は、ハイキングにも向いている道があります。少し自然を満喫しにいったといっても、信じてもらえるでしょうか」

 

 「ええ、信じますよ、信じますとも」

 

 信じていない目だ。厄介な連中に目をつけられたものだ。自治州とはいえ他国でおこった事件を、ここまで早い段階で俺と言う重要参考人を炙り出すまで調査をしたというのか。だが他国の人間だという事情を抜きにしても強制連行されないということを考えても、まだ俺は黒に近いグレー、なにかを知っている可能性が高い人間だということくらいしか掴んではいない筈だ。

 

 「では貴方は、エルフや行方不明者続出の噂も知らずにただ自然を満喫しにいったと。お一人で」

 

 あの時クーラには、見つからないように姿を隠しながら尾行してもらっていた、あの場に彼女がいたということは知られてはいない。

 

 「ええ、少し酷い思いをモスコーでしましたから、少し自然に癒されたいと思いましてね」

 

 「モスコーではお連れ様がいたようですね。彼女を連れてはいかなかったのですか?」

 

 「山登りやハイキングは、私の気分転換です。連れはその手の趣味はなかったものですから」

 

 ガルシアが唇を歪ませる。また少し沈黙が続くと思ったが、ガルシアが笑みを浮かべた。

 

 「いやはやそうでしたか。エルフの集落と交戦経験がある貴方が、エルフの存在を嗅ぎつけたのかなぁなんて面白い推理が頭を浮かんでいたのですがね」

 

 「あまり、良い思い出ではないです」

 

 「そうでしたか、失礼しました。ああ、そうだそうだ。先程の口ぶりから察したかもしれませんが、冒険者ギルド時代の貴方の経歴も調べさせていただいたのですよ。とある遺跡にて、お仲間を全て失った。その遺跡ですがね、今では開拓も進んで、護衛さえ雇えば研究者達もなんとか頑張れば行けるくらいにはなったのですよ、ご存知ですか?」

 

 背中に嫌な汗が流れ始めた。こいつ、急になにを言い出すつもりだ。

 

 「いやあ、考古学というのはロマンがありますね。これは私の趣味で、過去に資料を取り寄せたのですよ。昔の人がなにを思いなにを考え、そこで暮らし信仰をしていたのか興味が尽きないものですから。偶然ですがねぇ、その資料の中には悪竜ジークリンデを恐れ敬い、同時に封印することを模索していた一族の祭壇兼研究施設のようなものが見つかったことが書かれていました。ランザさん、貴方が最後に訪れた遺跡ですよ。そこで仲間が全員殺され、三番探索隊はただ一人を除いて全滅をした」

 

 表情筋が引きつりそうになる。あの光景を他者から聞かされて、脳裏によぎるのは残酷な映像だ。表情を、崩せず保てなくなるかもしれない。

 

 「そこにはなにやら、恐ろしい魔獣がいたと当時の報告には書かれていましたな。魔獣はどこかに消えてしまったと。まるでおぞましい刃のようなものが、壁面を抉り地面を穿ち、それはまるであのモスコーでの壁にできた傷によく似た…」

 

 「やめてくれ!」

 

 テーブルを叩きつけて立ち上がってしまった。即座に護衛二人が動き、首筋と胸元に瞬時に刃が突き付けられる。

 

 「おい、大丈夫だ、やめろ。刃をおさめろ」

 

 ガルシアが手をあげ、護衛を静止する。

 

 「狙われているぞ」

 

 護衛の一人と俺が、ハッと部屋の角を見た。

 

 クーラが、天井の僅かな装飾品や壁のくぼみに手や足をかけ、ルーガルーの刃を口に加えているのが見えた。異様な雰囲気に、飛び込んできたのか。それでもこの男、護衛や俺でも気づくのが遅れたクーラに瞬時に気が付いてみせた。ただの調査員じゃない。

 

 「はぁ…すいませんねぇランザさん。貴方の古傷を抉ってしまったようだ、その点に関しては謝罪をします」

 

 ガルシアが頭を下げる。俺が腰を降ろしたのと同時に、護衛二人が剣を収めて元に位置に戻った。

 

 クーラに視線で合図をすると、彼女も少し悩まし気に頷き着地をし、護衛達に威嚇をしながら俺の隣まで歩み寄る。

 

 「ランザさん、腹芸はなしにしますよ。貴方にはなにかがあると睨んでおります。それももしかしたら、とんでもない秘密を隠しているのではないかとね」

 

 威嚇するクーラには目もくれず、穏やかな顔にガルシアは語る。自然と、膝の上で拳に力が込められるを感じた。

 

 「まだそれがなんなのかは、憶測の域を出ず測りかねています。しかい、私の勘が正しいのであればその秘密はいずれ周囲を全て巻き込んで破滅する類のものです。ここは一つ、対策室として我々にお話しをしていただけないでしょうか。我々は、噂程非情な組織ではないと自負をしているつもりです」

 

 「お断りいたします。私には、貴方がなにを言いたいのかはさっぱり分からない」

 

 認めるのは悔しいが、ジークリンデの力はテンを倒すには必要不可欠となる。さらには俺の身体の中にはもう既に、悪竜の一部が入り込んでいる。こいつらにとっては、災害の芽であると同時に研究対象にもされかねない。そんなことになれば、テンを追うことすら不可能になる。

 

 「困りましたね。今を逃せば、次我々が貴方の前に現れる時はそれこそこちらも引くことのできない確信をもった情報を抱えて訪れることとなる。そうなれば、貴方は身の破滅は免れませんよ」

 

 「帝国の方の冗談は恐ろしいですね。しかし、身に覚えのないことで連れていかれることはできません」

 

 「分かりました。平和的な解決は、我々の間では望めないかもしれませんね」

 

 ガルシアが立ち上がる。服装をただし、出口の方へ向かっていった。

 

 「ああ、そうだ」

 

 出ていく前に振り替える。護衛二人の間で、ガルシアは口を開いた。

 

 「かの遺跡は、悪竜ジークリンデに関する遺跡なのは間違いがない。もしもかの悪竜に縁があるならば…こう伝えておいてもらってもよろしいでしょうか」

 

 ガルシアの目が細く鋭い刃のように尖る。傍らにいたクーラが、緊張感からか尻尾を膨らませピンとたてていた。

 

 「死にぞこないの時代遅れは、今の世の中には不要だと。今度は確実に息の根を止めると、そう伝えてください」

 

 扉が開き、僅かな風を室内にいれてしまる。しばらくしてから、クーラが大きくため息をついた。

 

 「なにあれ…いや、肩書は知っているんだけどなにあれ」

 

 「帝国で一番強力な暴力装置を持つ、面倒な奴等だよ。あんな連中に目をつけられちまうとは、遅かれ早かれかもしれないが困ったことになったもんだ」

 

 緊張感からか飲み物に手をつけられなかった。落ち着かせるように杯をつかんで口をつけるが、すっかりと冷めてぬるくなっている。

 

 「エンパス教って問題もあるし、あんな面倒な奴らにも目をつけられた。新しい人妖の情報はないし、これからどうするのランザ」

 

 「帝都に向かおう」

 

 「え?」

 

 クーラが、なにを言っているのか分からないといった様子でこちらを見た。俺だって考え無しで言った訳ではないが、よほど予想外だったのか目を丸くしている。

 

 「モスコーでお前と俺に狙撃してきたカリナは、帝都の上院議員の娘さんでなにかとレントに融通していたらしいな。だがしかし、そのカリナは死んでレントの後ろ盾はなくなったが、エンパス教という宗教組織想像よりも大きく感じる。恐らくは、何者かのバックアップがあるのだろうと踏んでいるんだ。俺達がモスコーにいた間、レントは帝都にいたらしいじゃないか。自然と帝都でエンパス教が拡大もしくは産まれたんじゃないかと推測ができる。どうせ連中に目をつけられたら、しばらく派手な動きはできないんだ。こうなったらいっそコソコソ逃げ回らずに、帝都で連中のことを知っておくのも良いだろう」

 

 災害対策室にレントが所属するエンパス教。仮想敵となる組織が多いのならば、少しでも敵の情報を掴んでおいた方が良いと考えている。帝都ならば、今まで概要しか知らない災害対策室の話も掴めるかもしれない。

 

 どうせ人妖の情報はないし、ここはおもいきって動けるうちに敵の懐に飛び込んでみようと考えている訳だ。

 

 「分かった。ランザがそうしたいなら、ついていく」

 

 「悪いな。テンからかけられた呪いを早くなんとかしてやりたいのに、今回ばかりは回り道だ」

 

 「言いっこなしだよ。それにエンパス教について、古巣が関わっている以上自分にも関係ある話だから」

 

 「ならば、休憩は終わりだな。明日には動くぞ」

 

 敵は三つ。テン、レント、災害対策に所属している竜狩り隊。どれも一筋縄ではいかないだろうが、どのみち引き返す道はないのだ。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。