家族の仇は、娘でした   作:樫鳥

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 リスムの国境から帝都まで徒歩で半月程かかる。所々で馬車を乗り継ぎを行ったり、各地の街で名物を食べながら帝都を目指していた。

 

 帝国の食文化は、連合王国側と違い麦文化だ。思えば今では世界中にある冒険者ギルドも発祥は帝国だった。

 

 未開地の調査と大規模小麦畑の開拓。帝国の辺境にてかつての不明瞭な未開地は延々と農場が広がっている。

 

 「はむ」

 

 崖のような地形に埋め込まれるように作られた昔の砦を見上げながらベンチに座り、クーラは油で揚げて砂糖を振りかけたリング状の揚げ菓子を口に含んだ。しかし、食文化の豊かさが国力の証拠というか、食べ歩きが目的の旅ではないものの食材の豊富さとそれに裏打ちされた料理の数々は多少は目移りしてしまう。

 

 海岸部は魚料理、内陸部に進むに従い肉料理が増えてくる。しかし、ここに来る途中何台もの馬車に海水の入った壺を用意し、中に泳ぐ魚を入れた行商隊に出くわすこともあった。長持ちするように加工した魚ではなく、生きたまま鮮度を保ちながら運ぶとなればいくら荷馬車を大量に用意しようがそこまでの輸送量は稼げない。

 

 つまり、鮮魚一匹に輸送量という高額な金額が上乗せされるのに需要があるということだ。中層から富裕層が買うのだろうが、金回りも良さそうである。

 

 そしてなにより、砂糖だ。クーラが食べているリング状の揚げパンにも降りかかっているその粉は、バブル景気に沸くリスムでもまだ高い嗜好品であり、連合王国ならともかく他の中小国では未だ金持ちや貴族しか手が出せない高級品という立ち位置だ。

 

 こんな話がある。とある国の上流階級では、歯が黒く染まり食物を食べると痛みやしびれがはしる歯黒班病がステータスの一つという扱いを受けていた。この病気は、誰にでも起こりえることであったがなりやすくなる条件として、毎日のように甘味を食しているというものがあった。

 

 私は甘いものを毎日のように食べている、というアピールは財力を魅せ付けるのにもってこいであったのだ。

 

 しかし帝国では、そんな砂糖を扱った品物をそれなり程度の値段で食べることができる。

 

 リスムで聞いたことがある話ではあるが、帝国は南方大陸と呼ばれる異国の地にて中小の国を支配下において、砂糖等の嗜好品農業を拡大させている。

 

 その国には雀の涙程の賃金を与え吸い上げたそれを、自国に還元し他国にも貿易品の一つとして売買をしているという話だった。

 

 南方大陸とこの大陸を結ぶのは海路。成程、帝国がリヴァイアサン討伐を強く推し進める訳だ。海竜という壁が無くなった以上南方大陸に対する帝国からの介入は激しくなっていくだろう。そして、帝国以外の国々もそれに追随していくことは想像に難くはない。

 

 それが良いことなのか、悪いことなのかは置いておき、それだけこの大陸において帝国という国力は群を抜いているのが揚げパン一つからでも容易に想像ができてしまった。

 

 その帝国で幅を利かせる二つの組織に注目されてしまったことを考えると頭が軽く痛くなる。

 

 災害対策室のことは今更考えることも億劫ではあるが、エンパス教も放っておくには地雷にすぎる。

 

 レントのこともそうであるが、一番致命傷なのは、人妖ミハエルとの死闘を制した後あの場に現れた男のようでもあり、女のようにも見える中世的な彼(または彼女?)である。

 

 あの戦いにおいて致命傷を負った俺は、ジークリンデの処置により命を繋ぎあの戦場を切り抜けることができたが、身体の中に悪竜の一部を組み込まれてしまった。

 

 今でも意識を向ければ、まるで身体の中に腕かなにかがあるようにグルリと動くのを感じる。不思議と痛みは感じず、出そうと思えば寄生生物のように肩や背の皮膚を裂きながらも露出できてしまうだろう。

 

 それを、見られてしまった。

 

 あの状況でノックの山に刺客として送り込むことができたのは、十中八九でレントが引きつれたエンパス教の戦闘部隊くらいであろう。つまり、俺の身体の秘密は早くもエンパス教の構成員に漏れている可能性が高い。

 

 しかし、それを利用した脅しもなければ災害対策室に情報が渡ったような気配も感じなかった。切り札のつもりで情報を温存しているのか、それとも、もしかしたらではあるが残りの一割か二割の確率であの刺客がエンパス教の関係者ではなかったのか。

 

 経済特別区に長期で滞在したのは、布教活動に勤しむエンパス教の動きを見る為でもあった。だが、レントが一度接触してきた以外では大人しいものだ。

 

 分からないことが多すぎる。

 

 二つの組織の内情と方針を探りたい。エンパス教についてはただ教団の教えを広めるのみに専念するならば、レントのことは抜きにしてもこちらからはあまり干渉する意味はない。災害対策室については、距離をおいておきたいところではあるが人妖という存在についてなにか情報を握っている可能性も多少なりとも考えられる。

 

 レッドアイについては、深く考えなくても良いだろう。頼まれているとはいえ、期待はするなと返答をしておいた。なんらかの成果をあげれば、レガリアに対して多少なりとも恩を売れるかもしれないが、現状優先度で考えれば低く見積もるくらいで丁度いいだろう。

 

 体よく利用した形になり、相手の顔を潰したと思われるかもしれないが、組織の指針として調査をし成果をあげていない事情に対して専門家ではない一個人がどうしろというのだ。向こうも、ダメで元々くらいの感覚なのだろうと思う。

 

 「食べ終わったら、お祈りに行こうか」

 

 「うん、お父さん」

 

 クーラが、屈託のない笑みを向けてくる。少女のような年齢の子供と、かつては一児の父だった男の二人旅だ。奴隷を連れて歩いている訳でもなければ、従者というふうでもなし。まあなんとうか、余計な注目を無駄に集めてしまうものだ。

 

 観光客で賑わうモスコーや、拡充を続けていたリスムにおいてそれほど目立つものでもなかったが、帝都ではない中小規模の村や地方都市では妙に人目を引いてしまう。

 

 ということで、クーラと俺は教団の巡礼を行う帝国民、敬遠な信者という立場をとっていた。

 

 今では廃れていたり簡略化もされているが、教団には巡礼祈祷という儀式が存在している。各地の教会を回り複数の箇所で神に祈りを捧げ、大事な故人の冥福を祈ったりこれからの人生が満ち足りたものになるよう導きを願うことを期待して行う儀礼である。

 

 妻が早逝し、彼女の冥福を祈り娘のこれからを改めて神に祈りをあげるという名分で各地を巡るのだ。

 

 教団の教えは世界中に広がっているが、帝国においてもっとも信者数が多い宗教である。過激な過去とうって代わり他宗教を認めていない訳ではないようであるが、急速に成長しているエンパス教とその信者に対しては面白く思っている訳ではないだろう。

 

 祈りを捧げていると同時に、各地でエンパス教に関しての別宗教から見た情報というものを集めていた。

 

 しかし…クーラと話し合って決めたこの役割分担ではあるが、彼女を娘扱いする度になんとも言えない不快感のようなものが胸の中にずっしりと積もっていくのを感じる。

 

 頭をよぎるのは、当然実の娘であるミーナのことだ。成長したところでクーラとは髪の色も顔立ちも違うだろうが、お父さんと呼ばれる度にまるで金属をひっかく音を聞くような気持ちの悪さを感じた。

 

 クーラが悪い訳ではない。この作戦が有用であることは理解している。感情をコントロールできない自分が悪いのだ。

 

 そんな心の内を知ってか知らずか、演技ではあるがクーラはニコニコと笑っていた。皮肉ではなく、大した役者だ。

 

 「はい!」

 

 「え?」

 

 「半分こ…は出来ないけど、最後の一口はおとーさんにあげる!とっても美味しいよこれ!」

 

 父に懐いている娘。その眩しい笑顔が胸の重責をさらに重くする。周囲の反応を見ると、歩いている中年の女性が微笑ましそうにこちらを見ているので効果はあるのだが、だからこそダメージがでかい。

 

 「お父さんはいらないから、食べなさい」

 

 いらないというか、喉を通る気がしない。

 

 「ううん、お父さん元気がないから甘いもの食べて元気になった方がいいよ!なら…食べさせてあげよっか?ほら、あー…」

 

 やりすぎだ。しかしここまで来たら娘の好意を無下にする父親として変に注目を集めかねない。

 

 揚げパンを摘まむ指がもう口元まで近づく。手で受け取り食べようという作戦も考えたが、ここまで近ければもうどうしようもない。

 

 なるべく重たい気分を顔に出さないようにしながら揚げパンを口に含む。クーラも、この手の行為に慣れていないのか口内にまで二本の指が入ってきた。噛まないように、素早く口を離して抜いたがなんだか益々口の中の物体が喉を通る気がしなくなった。味すら、感じない。

 

 口の中に指が入ったことなどお構いなしな様子で、年相応の笑みを浮かべながら「美味しい?」と聞いていた。

 

 なんとか美味しいぞと返事をするが、未だに口内に小麦と油の塊がへばりついている。いっそ、酒で流しこんでしまいたい気分だ。

 

 なんとか飲み込んで立ち上がる。多少厳しくはなるかもしれないが、この作戦の変更を今夜提案しよう。やたらノリノリなクーラも、なんだか怖い気がする。一生懸命演技をする彼女には申し訳がないが。

 

 街の一角にある教会に入る。リスムにあったものと比べれば質素なものだがそれでも教会は教会だ。重厚な石作りの建物であり、信者が座り祈る椅子と蝋燭をたてる燭台、立派な祭壇と聖像がキチンと鎮座していた。

 

 テンを預けようとしていた教団の教会も、規模は二回りくらい落ちるがそれなりの祭壇が準備されていたのを思い出す。予算不足を嘆いていたが、神が降りる場に金をかけているのはどこも変わらないようだ。

 

 「ようこそ、見ない顔ですね」

 

 神父が話しかけてきた。周囲には祈りを捧げる人物がチラホラといるが、見慣れない顔なので声をかけてきたのだろうか。

 

 「ええ、妻の供養とこの娘の行く末に幸が多くあるように巡礼の儀を行っております。本日は、こちらで祈りを捧げようと考え足を運びました」

 

 「敬虔な信者でも今はあまり行われない儀を行うとは、神もその行いには祝福をしてくださるでしょう。さあ、お祈りください」

 

 さて、巡礼の儀の都合の良いところは聖句を唱える必要がないことである。

 

 祈るのは死者の冥福と生者の幸福。それは、口に出さず神のみに自らの祈りを届けるのが美徳とされていた。

 

 死者の話を口に出して祈るのは周囲の同情を買おうとするあさましい行為、生者をことを口に出すのはその気がなくてもその人物に恩を売ろうとする卑しい行為とされているからだ。

 

 ただ神を賛美する言葉だけは口に出して祈るのが美徳、マナーとされているがそうでないならばただ黙って祈るふりをしていればいい。そうすれば、敬虔な信者ではないとバレるリスクも低い。

 

 注意をするのは、ただ数分で祈りを終えることがないようにすること。心をこめて祈れば、三十分くらいは経つだろうし、それがある種の暗黙の了解となっていた。なぜそうなっているのか、詳細まではよくは分からない。

 

 妻は信心深い方であり、それらの教えも彼女に教わったものだ。生憎こちらはそこまでのめりこみはしなかったので、上辺のみの知識だけしか蓄えてこなかった。

 

 テンを殺すまで、俺は二人の冥福を祈ることができない。幽霊だとか霊魂だとかの存在を信じていなくとも、神に祈りを捧げてしまえばある種の決着を宣言しているような気がしてしまうのだ。

 

 恐らくは、三十分は過ぎだだろう。祈りを終えて、指を解きほぐす。

 

 傍らのクーラは、とっくに祈りを終えて足をぶらぶらと揺らしていた。子供にとって、祈りというのは退屈で長いものだ。騒がないだけ、教育が行き届いていると言われるくらいであり早々に祈りを終えてしまってもまあ多めにみてくれる。

 

 そこまで計算ずくで彼女は行動している。なんというか、国境越えのこともそうだがこの手の欺瞞活動や諜報に繋がる活動、演技力に関しては頼りになるものだ。

 

 「お父さん!終わった?」

 

 「ああ、終わったよ」

 

 「じゃあお外行きたい!山の砦もう少し見てきたいの。良いでしょう?」

 

 「珍しい建物と景色だからな、あんまり遠くに行くんじゃないぞ」

 

 クーラは二カリと笑いながら、分かっていると頷いた。もう遊びを許可されて我慢できない子供といった様子で扉にかけていき、外に出ていく。

 

 ここからはまた、別行動ということだ。

 

 「元気なお子さんですね」

 

 祈りを終えたのを見計らい、神父が語りかけてきた。初老の好々爺といった外見と表情をしており、きっと本当に神に対して祈りと感謝を捧げている人なのだろう。

 

 「ええ、元気すぎるくらいです。ですがあれくらいで丁度いいのかもしれません。あの娘には、何時までも元気に健康でいてほしいものですから」

 

 「ええ、お父さんの気持ちは神も聞いてくださいます。将来のある若者を、これらも見守ってくださることでしょう」

 

 「神父様にそういっていただき、安心しております。あ…そういえばなんですが」

 

 本題に、入る。

 

 「エンパス教というのを、神父様はご存知でしょうか。実はここに来る旅すがら、人を集め説教をする姿を幾度か目撃しています。教団は、あれをどう見ておられるのでしょうか」

 

 神父は一瞬忌々しそうに眉をひそめたが、すぐに穏やかな顔に戻る。嫌悪はしているが、それをどうどうと人に見せるのはよくない行為であると自制しているのだろう。

 

 「なんというか…あまり良い話ではありませんが」

 

 「と、言いますと?」

 

 小さく、ため息をついた。

 

 「エンパス教の教えは、新興宗教としては地に足をつけた教えを広げています。いたずらに布施を巻き上げるようなことはせず、基本的には隣人愛と家族のへの愛を重視し創造主エンパスに対する祈りを捧げるようにしているようです。ただ一つ問題が」

 

 「問題、ですか」

 

 「ええ、エンパス教は一神教を重視しており異なる宗教を認めてはおりません。特に、我々教団には敵意を剥き出しにしているようであり、過激な一部の者が名指しで批判しているという話すら届いてくるのです」

 

 新興宗教が、この大陸で一番の勢力を持つ教団に喧嘩を売っているのか。教義故致し方なしとでも言うつもりか。確かに、教団もかつては遠征軍を組織し異教徒に対して喧嘩を売っていた歴史はあるがそれも遠い過去の話だ。現在帝国においては政教分離が原則となっており、異教徒狩りのような暴走もみられなくなっていた。

 

 それどころか、地方の土着である精霊信仰のようなものにも寛容の姿勢を見せており、上手いこと共存している。そしてそれこそが、弾圧し反発心をおこすよりも教えを浸透させることに繋がっていた。

 

 しかしエンパス教は、その真逆を進んでいる。

 

 規模の違いすぎる教団に批判と否定を繰り返し、この様子では地方の宗教にさえ寛容な様子は見せないだろう。こういうのもなんであるが、まるで狂犬だ。確かに教団にかつての勢いはないにしても、噛みつく相手を選ばないとはこのことである。

 

 「それは、なんとまあ。しかし、そんな動きをしていれば冷めた目で見る人物も多いのではないでしょうか?」

 

 「当初はそうだったとうかがっております。しかし、都市では信者の数は日に日に増えていっているような様子すらある。帝都では、既に立派な神殿すら立っているようであり、災難見舞われたリスムでもすさまじい勢いで教えが広がっているようです。我々としては本意ではありませんが、この街ではまだ人気は下火とはいえ、このままではどこかでぶつかりあうことにもなるかもしれません」

 

 奇跡と呼べるような現象があったリスムならば、まだ話は分かる。しかし、よりにもよって教団が一強であった帝都で、名指し批判を繰り返すような過激な宗教が人気を集めているのはどうにも解せない。なんかしら、絡繰りがあるのだろう。

 

 「そうだ、過激と言えばですが」

 

 一つ思い出したことがあったのか、神父は言葉を続けた。

 

 「かの教団は、魔術具についても否定をしているということを聞いたことがあります。よりにもよって、最大の開発室と研究施設がある帝都でですよ。エンパス教の教義は、我々のみではなくその分野に進む者達にも争いの芽を育てているのです。何故あそこまでと…私には理解ができませんよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 教会を出た直後から、クーラの顔が引き締まる。

 

 まだ規模は小さいようであるが、この街にもエンパス教の連中が来ていたのを確認できている。まだ、ただ教えを広げに来ただけの下っ派なのだろうが様子を見ておいて損はない。

 

 熱狂に沸くリスムではエンパス教の教えを受け入れる者が多くみられていたが、帝国においてその拡大具合はどうなのか。組織をしるからには、まずはその組織の下層部や基底部を知るのが重要である。どうのようなものか、見ておく必要がある。

 

 唇から、水音。考え事をしているうちに指先にいつの間にか舌を這わせていた。ランザの口内に侵入した指、唾液の一部を体内に取り込むことに喜びを感じるが今は我慢しなくてはならない。いくら子供でも、挙動不審がすぎる。

 

 街の端まで歩いていき、対象を見つけた。まだ年若い神父とシスターが一人ずつ見つけることができた。

 

 「これは」

 

 繰り広げられていた光景は、想像とは違うものだった。若者は精一杯といった様子で説教をしているが精々聴衆は二人か三人程、それも冷やかしといった様子が見てとれた。

 

 帝都で飛ぶ鳥を落とす勢いという噂のエンパス教が、こんな人気のない新興宗教の布教活動と同じような成果しか叩きだしていないなんて。

 

 しかも様子を見ていると、過激な思考を垂れ流す神父に対して聴衆は批判的だ。情熱だけでここまでやってきたのだろうが、それが空回りしているのも現れては消える新しい宗教ではよくあることだろう。

 

 では何故、帝都では教えを受け入れられたのか?大きな矛盾がある。

 

 もしかしたら、レントの仕業だろうか。彼の、洗脳術にも近い奇妙で魅力であるならば壇上で演説をすれば信者を集められるだろうか。いや、そもそも彼は演説や説法を広げるようなタイプではないように思える。

 

 そもそも自分は、レントの取り巻きの中では比較的新参だ。それでもあの頃のレントの口からエンパスや宗教の言葉をあまり聞いたことはなかった。つまり、エンパス教を作り上げる過程で下地作りはしたのだろうが、信者を獲得するための方法は彼主導ではない。

 

 彼の役目は、恐らくは劇薬。リスムの巨人事件を利用し、街を襲う絶望を払ったヒーローとヒロイン達という武力を伴う広告塔。

 

 ならば、なんだ。帝都でエンパス教が爆発的に広がる要因というのは。

 

 しばらく彼等を観察したが、得る者はなさそうなのでその場を離れる。あまりこの手の説教は聞いたことがないが、熱意だけの素人演説。それも被せものなく批判されがちな別の宗教批判に魔術具批判まで絡めるものだから、空回りも良いところである。正直、三流以下だ。

 

 「帝都でも、リスムと似たようなことがおきた?」

 

 いや、いくら帝都を長く離れていたとしても大陸最大の都市が危機に陥るならその噂を耳にしないのはおかしい。

 

 なんだか、気味の悪さすら感じる。そろそろランザの元へ戻った方が良いだろう。

 

 教会から出たランザと、丁度鉢合わせをした。今晩とる宿に向かうまでは仲の良い家族を演じ、部屋の中に入ったら情報交換を行う。

 

 実のところ、この演技には熱も入れてはいるが、気が進まない面もある。年の差から不自然じゃない方針ではあるが、娘と呼ばれるよりは妻と呼んでほしいものだ。

 

 あ、でも手を掴んで歩けるのは良い。手汗がにじみ出ているのが、ランザの皮に浸透し混ざるであろうことを想像すると暗い愉悦が浮かび上がる。

 

 この前戦闘用の外套を借りてお楽しみをした後から、この手の接触ですら喜びを感じるようになってしまった。確実に変態への道を突き進んでいる。まったく、ランザはこんな女の子の性癖を狂わせて無自覚なんだからタチが悪い。

 

 ああ、あとはあれだ。父と娘という立場から無理なく同部屋に入れるのは素晴らしい。反抗期を迎えた娘ならともかく、父と娘が別部屋に泊まるなんてありえないからね。寝台が二つの部屋を泊まるしかないのは残念だ、今度は混み合っていて寝台が一つの部屋しか開いていないようなところを探してみるか。

 

 まあ、自分がランザの娘なら反抗期なんてこないかもしれないが。

 

 同室に入り、べッドに座り込む。隣に座りたいところだが、反対側に腰を落とす。深入りしすぎて変に警戒されるのも嫌だからね。

 

 「それじゃあ、エンパス教についてだが」

 

 ランザは、こちらが演技をといたと思っているが、まだ演技中の最中だ。今はまだ、気づかれてはいけない。親指と人差し指が、無意識に動く。大事な話をしつつ、洗うのが惜しいと考えてしまっていた。

 

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