家族の仇は、娘でした   作:樫鳥

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 少し後書きがあります。本編と関係ないので、煩わしければスルーしてください。




 国境から旅立ち、十日以上が過ぎた。

 

 主要な通路から外れ旧道に入り、道すがらにあった廃村。家屋に大きな崩壊痕はなく、夜盗や害獣の被害を受けた訳でなく、自然と寂れ人がいなくなったような印象があった。

 

 まるでゴーストタウンのような不気味さはあるが、贅沢を言っている場合ではない。旅の道中、山道を進んでいる最中突如降り始めた大雨に足を止めていた。そこらの洞窟ではなく、こうして屋根のある場所で休めることは僥倖というしかない。

 

 普段は目立つ為脱いで旅をしている戦闘用外套を着こみ、村の中を歩く。わざわざ雨の中外出した成果物を片手にかつて宿であり、拠点としている建物内に帰還した。

 

 かまどに火を入れ、残されていた鍋を軽く水洗いしてから、必要分の水を入れて火をかける。

 

 近くに水源があり、人気が消えたなか、気ままに泉で泳ぐ水鳥を射殺するのは簡単だった。鳥類に身体の違いはほぼないため、獲物の大小以外解体の手順はほとんど変わらない。

 

 このカナールという小型水鳥は、というより鳥というのは死後すぐに内臓抜きをしないと肉に臭いがつく為手早く抜くのが重要である。鮮度が落ちるのも早いので、仕留めたならば処理は早めにすませるのが肝心だ。

 

 解体の専門家なら、腐敗をおこさないように肉を処理し熟成をさせることもできるらしいが、俺にはそこまでの技術はない。

 

 カナールの尻付近にある毛をむしり取り、レの字に曲がった小枝を臀部に突き入れる。腸内で枝を半回転、先端を上手く引っかけた後慎重に引っぱる。あとは黒い小腸が見えるまで腸を抜いていき自然に切れるまで引き抜くだけだ。

 

 羽むしりも早めに行わなければならない、時間が経ち亡骸が冷えると、毛穴が閉じて抜きにくくなるからだ。外が雨で今日はまた冷える為、急いで作業をする。

 

 毛を抜いたら関節を抜いて首を落としたら、食道と気道を外す。身体を上身と下身に分けたら、腸以外の残った内臓を全て引き抜いていしまう。

 

 あとは残った部分から、過食部位をよく洗い切り分けていくだけだ。

 

 鍋が煮えてきた。ここまでの旅中で購入した豆類や、食用の野草、小ぶりではあるが野生化して元気に根付いていた芋類も見つけたので鍋に投入していく。カナールの肉も煮込み、味付けは塩を使う。旅中の最中に食べる飯としては、悪くはない。

 

 食べるのには充分な柔らかさまで芋と肉は煮えたが、さらに煮込む。食感は悪くなるが、舌先でついただけでイモ類がほろほろになるまで柔らかくした。ここまで手間をかけるのには、理由がある。出来上がった鍋に平な蓋を被せ、その上に器と匙をおいて階段を昇る。

 

 元は宿だった建物だったのだろう、拠点として使わせてもらっていた建物は寝室が多かった。

 

 その中で、一番まともで隙間風が入らなかった部屋を選ぶ。暖炉の火が暖かく燃えており、室内の寝台ではクーラが小さな寝息をたてていた。

 

 帝都に入るには、道は悪いが山道を通る方が近道になる為、ある程度食料を買い足したうえで山越えを目指した。近くの街で聞いた話では、この時期は雨も少なく山越えを目指す者も多少はいるということなのでそちらのルートを選択したのだが、運が悪く天気が荒れてしまう。

 

 このまま雨が降り続くなら、遠回りにはなってしまうが一度下山し正規ルートを選びなおした方が良い。山に入り初日に滞在する予定の廃村に辿り着いた。一泊し翌日の天気を見ることにしたが、山道ルートは悪手だったと思い知らされる。

 

 急激に振り出した雨に山道。身軽なクーラだが、俺に合わせたスピードとルートで移動をしていたせいか彼女の身体に無理がでてしまい、翌日熱を出してしまった。

 

 クーラは、自身の年齢や誕生日は分からないと言うが、俺と親子だという演技が通じる程である。人並以上の身体能力に本人の頼もしさから意識の外だったが、まだ未成熟な身体であり体力も流石に成人男性に劣る。

 

 連日の旅で疲れもとれきれなかっただろう。そのうえで、身体を冷やしてしまう。体調を崩すのも無理はない。むしろ、今までこの小さな身体で頑張ってきた。

 

 他の部屋から持ってきた、頑丈なテーブルのうえにそっと鍋をおく。寝ているなら、無理におこさなくても良いかと考えたが、視界の端でピクリと耳が動いた。

 

 「お帰り」

 

 「すまん、起こしたか」

 

 「ううん」

 

 クーラが上半身をおこす。顔色は、出る前よりは良くなっているようには見えるが安心はできない。

 

 「食えるか?無理にでも食っておけとは言いたいが、体調と相談してくれ」

 

 「食べるよ。せっかく作ってくれたんでしょう?吐き気もないし、大丈夫」

 

 器にスープを盛り付ける。一応黒パンも用意はしてあるが、こちらは病んでいるなか辛いだろう。

 

 「ごめんね。近道する為に選んだ道で、足引っぱるなんて」

 

 器を受け取るクーラが、申し訳なさそうに首を垂れた。病は気からというが、落ち込んでいては身体も何時までも回復しないだろう。薬の類も胃腸薬の代用品や痛み止めの用意はあるが、解熱剤のようなものは準備していなかった。薬の類がないぶん、少しでも、元気を取り戻して回復に専念してもらいたい。

 

 気にするなと言っても、気にしてしまうような奴だ。となれば、どう声をかければ良いのか。

 

 クーラがスープをすする。猫舌で少し熱いのか、身体をプルプル震わせた後頬を少し赤くして舐めるように呑んでいた。

 

 「ふっ」

 

 「なに、どしたの」

 

 「いや、猫っぽいところもあるんだなとな」

 

 クーラを見ていると、前も考えたことがあったが昔のことを少しだけ思い出す。俺は猫を飼いたがっていた。だが、それと同時に家具をボロボロにされるため、飼うことについては同時に諦めていた。しかし俺以上に妻は熱烈に猫を飼いたがっていた。

 

 仮に飼うことになるならば、上手いこと家具から猫を離す方法はないだろうかと少し調べていたこともある。その知識が、生かされることはなかったが。

 

 「それ、場合によっては半獣差別になるからね」

 

 「っと、そうなのか。そいつはすまんかった」

 

 「んーどうしよっかぁ。自分としては、半獣差別にはノーと言わなきゃいけない立場だしぃ」

 

 クーラがわざとらしい膨れ面を見せる。尻尾が動き、傍らをツンツンと叩いた。

 

 「座るが良い。風邪うつしてやる」

 

 「仰せのままに」

 

 隣に座ると、器を持ちながら寄りかかってきた。体調を崩し今は心細くもなるだろう。何時もなら問題だが、今は好きにさせておこう。

 

 灰色の髪の毛が、肩に当たる。同色の三角耳がピンと立っており、肩に先端が当たりピンピンと跳ねていた。

 

 「そういえば、髪の毛で隠れているけど人の方の耳ってあるのか?」

 

 「見てみる?」

 

 クーラが手で髪の毛を持ち上げる。獣の耳がある代わりに、人の耳がある部位にはなにもなかった。もしかしたら、四つ耳があって人より広い可聴域があるのかとも考えたがそうでもないらしい。

 

 「ないのか。あるもんかと思った」

 

 「耳が四つあったら気持ち悪いから、無くても良いけどね。それとも、ランザには無いほうが気持ち悪い?」

 

 「いや、気持ち悪がる理由がない。ただの興味と言うか、好奇心だ。立派な耳がちゃんとあるから、良いじゃないか」

 

 口では少しネガティブなことを言いながらも、こちらの返事を聞きクーラは笑みを浮かべていた。下手に気遣うより、擁護したりするより、こうする方が良いのだろうか。食事を食べながら、他愛無い会話をする。それが一番気が安らぐだろうか。

 

 自分のスープをよそい、口に含む。肉の油が表面に浮いており、塩味とよくあっているとは思うが病人食として正解かどうかは分からない。

 

 「昔な、猫を飼うか飼わないかで、喧嘩とまではいかないが少し口論を妻としたことがあった。俺はこう見えて、半人前だが家具を作る仕事をしていてな、猫は好きだが作ったものを爪とぎにされちゃかなわないと反対したもんだよ」

 

 「そうなの?」

 

 「猫は好きだが飼うのは諦めていた俺と違い、妻は俺以上に熱烈に猫が好きだった。結局、俺も飼いたい欲が出てしまい最終的には根負けした。ただ条件として育児がひと段落して、俺が一人前の職人だと親方に認められ生活が豊かで、安定したらと話しをつけたんだ。猫を飼う機会はついぞ訪れなかったけど、ぺットがいる生活は良いものだったかもしれないな」

 

 しかし、結果的には飼わなくて正解だった。テンに殺された家族に、ぺットが一匹含まれていたかもしれない。

 

 「そうなんだ。でもランザ、猫飼ってももうなつかれないと思うよ?」

 

 「え?何故」

 

 「もうランザには、たっぷりとマーキングしてあるからね。猫はテリトリーに敏感なの、もうよその猫が介入してこないようにしてあるからね」

 

 頬を赤くしながら、熱でとろけた目でクーラは言った。風邪のせいで思考までとろけてきているのか、先程まで猫っぽいとかは半獣差別だと言いつつテリトリーだのマーキングだの言ってきている。

 

 「猫扱いは差別に繋がるんじゃなかったか。まったく、アホぬかしてないで取り合えず飯食え」

 

 額でも軽くたたいてやろうとも思ったが、病人にそこまでできない。代わりに頭をグリグリと撫でてやってから軽く押して距離を離す。俺によりかかるより、食べられるようなら食事を食べてほしい。

 

 「ランザ」

 

 「お?」

 

 「食べながらで良いから、話してほしい。自分が貴方を知る前のこと。美味しいと思ったもの、楽しかった思い出、奥さんとの出会い、家具のこと、グローとの思いで。自分には、話せるような楽しい思いでがない。だから、聞きたい。こんな機会じゃなきゃ、聞けないしね」

 

 「お前は、まだまだこれからだ。それに、わざわざ過去話なんて聞いても面白いことなんて…」

 

 「聞かせて」

 

 まっすぐと、クーラが見つめてきた。その視線に、思わず目をそむけてしまいそうになる。俺の思い出話なんて、ロクなもんじゃないというのに。

 

 「面白い、話しじゃないからな」

 

 グローと初めて出会った時の話、家具工房での仕事、狩猟解禁日に森でとれる獣肉、妻との馴れ初め。俺は、意図的にテンにかかわるような思いでを除いて話した。楽しいと思える思い出に、仕事での成功体験や失敗談。

 

 クーラの瞼がまた重くなっていくまで、とりとめのない話は続いていく。テンによる凶行後、エレミヤの館でも感じることができたなかった、穏やかな時間を過ごしていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 帝都メルキオス。帝国における軍事のトップクラス、戦争に関する各分野の専門家が集まり最新技術を研究する国防総局において災害対策室は上位に位置する部署である。

 

 今にも雨が降り出したそうな曇天の空から、小型犬くらいならその鈎爪で浚ってしまいそうな体躯を誇る一羽の鳥が対策室に面した窓辺に添えられた止まり棒に着地する。

 

 足につけられた手紙筒から紙を取り出し、暗号文を解読しガルシアは眉をひそめた。

 

 「廃村にて動かずか。妙な動きもなし」

 

 ランザの傍には、感覚が鋭敏な者が常に控えている。何時もはさらに遠巻きに見はるしかないが、その者が体調を崩しているからこそそれなりに草の物が監視をすることができた。

 

 だがしかし、報告は特に異常もなく穏やかなものだ。エンパス教を嗅ぎまわっていること以外は、特筆すべきことはなし。会話まで拾える距離まで近づけば、なにか情報がとも思ったがランザ自身も相応の修羅場を潜っているようだ。油断は、できない。

 

 「父上」

 

 扉が叩かれ、執務室に若者が入室する。訓練後であるせいか、竜狩りの証たる深紅の軽装鎧を身に着けたままだった。

 

 竜という、規格外の生物の一撃は軽い攻撃でも人体には致命的だ。竜狩りにおいては一部の者以外は基本的には軽装である。

 

 特別な訓練と、竜の一撃を受けても防げる重装備を着こみながら戦える頑健な肉体の持ち主でなければ、どのみち一撃で赤い花を咲かす。ならば、少しでも死の一撃回避する為に、特殊重装隊を除いては軽装備で戦場望むのが最適解と結論付けられている。

 

 鎧と同色の朱色の髪に、力強い蒼色の瞳。ついひと月前、自分の跡継ぎとし竜狩り隊隊長になった息子は心身充実しているようであった。実の息子でもあるが、贔屓めや不正による人事ではいっさいない。まだ若くとも、実力で掴みとった自慢の後継である。

 

 「ランウェイ、訓練は終わりか」

 

 「はい、ぬかりはありません。新制竜狩り隊、命令があれば何時でもいけます」

 

 ランウェイが近づき、運ばれてきた暗号文に目を通す。形の良い眉をひそめ、口を開いた。

 

 「例の男ですか」

 

 「ああ。モスコー事件や巨人事件の生き残り、というにはきな臭すぎる人物だ。探ってみれば、興味深い事実が次から次へと出てくる」

 

 懐からシガーケースを取り出し、葉巻を一本口に加える。喫煙は肺の活力を落とし行動力を落とす為、火はつけず香りを楽しむのみに留める。前線を退いたとはいえ、私はまだ現役でいるつもりだ。椅子に座って情報を精査するのみの詰まらない役に甘んじるつもりはない。きな臭いと思えば、自分の足で現地に赴き金より貴重な情報を集める。

 

 予想通りランザという人物、ただの生き残りではなかった。

 

 ここ最近数が増えている、人間が化物に変貌する現象を追い求め、それを打倒することに情熱を燃やし行動をしている。金銭が関りには関係ない、ただ闘争を求めるような、明確な目的意思があるようであった。この件に関しては、掲げる大盾のリスム支部にて人妖の情報を集めようとするなど裏もとれている。

 

 目撃情報から推測し、彼が立ち寄ったとある村にも足を運んだ。規格外の化物が暴れた痕が痛々しく残り、街のあちこちには惨劇を物語っていた。

 

 何故彼は、人妖を追い続けるのか。帝国入りしたのは、なにが目的なのか。見極めなければ、ならない。

 

 「父上、今なら」

 

 「ダメだ」

 

 「奴が怪しいのは明らかです。帝国でなにか災厄を巻きこす前に、捕らえてしまえばいいではないですか。奴がなにを企んでいるかなど、尋問なり拷問なりして吐かせればいい、わざわざ帝都まで来るのを指を加えて見ている必要はない筈です。今なら廃村にいる為、いかに暴れようが周囲に被害はない。ここでいかなければ何のための、対策室…竜狩りなんですか」

 

 「わざわざ我等の監視下、護りが硬い帝都で問題をおこすような奴ならば、ここまで私も警戒はしない。奴は無秩序な獣ではなく、考え行動をする人間だ。一連の事件におけるキーマンである以上、泳がせて情報を集めるのが一番だと何度も説明しているだろうが」

 

 「しかし父上!状況証拠から奴が、どのような方法かは定かではないがかの悪竜の力を振るっているのは明白ではないですか!眼前の竜を見過ごしてなにが竜狩りだ!我々はいったいなんの為に日々厳しい訓練を課していると思っているんですか!」

 

 「くどい!お前達はヤクザや半グレのような暴力装置ではない!然るべき時、然るべき情報に基づき武力を振るう竜狩り隊だ!弁えろ!」

 

 息子の故郷を思う気持ちと愛国心は強い。だがしかし、目の前の獲物に考え無しに襲いかかるような存在になってはならない。

 

 普段ならばもう少し冷静であるが新隊長となり、親のコネだの取引だの陰口を叩かれて実績を得たいと必死なのだろう。

 

 誰もが認め、納得をするような首級。海竜と並ぶ、悪竜の首をとる機会が巡ってきたと考えれば座して待つには、若すぎるかもしれない。

 

 気持ちは分かるが、断固として独断専行は止めなければならない。文民統制を外れた武力組織など、いかに理念や信念があろうと暴徒の集団と変わらなくなってしまう。民間武装組織でさえ、仕事を受けるのにはいくつもの審査が必要で現地の治安組織に許諾書と報告書を提出しているのだ。国家の組織たる我々が暴発する訳にはいかない。

 

 何度も教えてきたことだ。分かっている、筈なのだ。

 

 「失礼、しました」

 

 ランウェイが一歩後ろに下がり、頭を下げる。納得はできていないだろうが、それでも理性で自制できているならば良いだろう。

 

 外套を着こみ、扉に向かう。

 

 「お出かけですか」

 

 「少し城まで行ってくる。関係部署と情報共有、協力体制の強化の打ち合わせだ。ランザ=ランテは確かに懸念事項だが最近北方では休火山から、不自然な唸り声のような音が響いているという話もあり、怪しげな連中が動いているとの話もある。良いか、くれぐれも早まるな。我等が対応する事柄は一つではないのだ。視野を広くもて」

 

 「分かりました」

 

 ガルシアが部屋を出た後、ランウェイは長椅子に座り込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 腕を組み合わせ、目をつむりしばらく沈黙する。しばらく時間が経った後、窓から蒼く透明な鳥がすり抜けて室内に侵入してきた。テーブルの上に鳥が止まり、誰もいない室内に音が響き渡る。

 

 『ガルシア殿は予想通りの反応でしたわね。災害対策室の竜狩り部隊は、国内の特殊部隊では最大の大駒。迂闊に動かすべきではないというのは、現役時代とは変わらない。いえ、前線を退き情報畑に転身したことで、その考えは強くなっているように感じますわ』

 

 「父上の考え方じたいは間違いではない。だが、リスムやモスコーで深く事件に関り、悪竜との繋がりを臭わせるような男がこの帝都に近づいて来るのは災厄をただ待っているのと同じだ。北方には不安要素もあり、混乱に乗じて連合王国からの工作も増えつつある。確かに状況を見極めるのは大事だが、時には即断即決で動くことも大切だろう。根回しは?」

 

 『とある伝手から、ガルシア殿の足止めの段取りは既に組んでおります。少なくとも、予定通りにことを進めるならば問題ありません』

 

 「良いだろう、ならば利用させてもらおう。互いにな」

 

 『ええ、お互いに。そして成功の暁には、手柄は山分け。よろしいですわね。では、よろしくお願いいたします、ランウェイ殿』

 

 蒼い鳥が羽ばたき、飛び上がると同時に粒子となり消えていった。怪しげな連中だとは思ったが、利用はできる。我等竜狩りは、帝国に襲い掛かる災厄を防ぎ、その芽を摘み取ることこそが寛容。その為なら、利用できるものはなんでも利用する。

 

 俺は俺のやり方で、この国を護ってみせる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「功を焦るか、本心で国防に熱心なのか。いずれにせよまだまだ若い」

 

 連絡用の蒼鳥の消滅を確認してから、一人呟く。部屋の中には古いスクロールが床に散らばり、覚書が書かれた羊皮紙が大量に壁に貼り付けられ、分厚い書籍が本棚から溢れ部屋のあちこちに積み上げられていた。

 

 そのほとんどが年季の入った代物であり、見る人が見れば本の一部は装丁が人皮であることが分かるだろう。

 

 それは、魔術書と言われるものだった。魔王と呼ばれた覇道を進む独裁者がいた時代や、人類と吸血鬼が生存闘争をしていた時代より遥か昔。竜と神、悪魔が存在感を放っていた時代の代物であった。

 

 「だからこそやりやすい。私の目指す先は、エンパス教の目的とは似て異なる。レントの手勢を迂闊には使用できない。武力を行使する手段が必要だ」

 

 扉を開き、部屋から出る。岩肌にボウッと蒼白い光源が浮かんだ通路を進み、突き当りの扉を押し開く。

 

 「マスター」

 

 「当代」

 

 扉の先では数人のローブを着た男女が作業をしていた。こちらを見て立ち上がり、頭を下げようとするが手を前にだして拒否する。

 

 「エンパス教やレントの動きは?」

 

 「どちらも特に変化はありません。ここがバレている心配はないかと」

 

 「血の運用は?」

 

 「信者共で試してみますが、徐々に適正者が現れています。しかし、一度に沢山の人間が姿をくらませばそれこそ気づかれます。効率はあがっていますが…やはり劇的な変化は見込めないかと」

 

 「それで良い。効率の良い血の活用方法が見つかれば、後々我々の大きな推進力となる。今はまだ、帝国にもレントにも、バレないようにことを進めよう。なに、もうすぐ吸血鬼の血が混じり、狐の試練を越え、悪竜の改造を受けた良質の素体が手に入る。万が一に備えて予備戦力も用意した。ふっ…悲願成就は目の前、焦ることはない」

 

 「悲願成就…ですか」

 

 各々が感慨深げな顔を浮かべるなか、ウェンディ=アルザスはその中央を歩く。

 

 魔法使い。今や伝承ですらない作り話と思われている種族。

 

 魔術具という玩具に頼ることなく、自らの力で超常の現象をおこす人を越えた存在。

 

 魔術具を使える存在は、才能によるものと言われているがそれはかなり薄くなった魔法使いの子孫ではある。しかし、血を濃く保ち自らの能力で現象を引き起こす本物の魔法使い達はもうこの世界に二十人もいないだろう。

 

 ウェンディは、その一族を密やかに束ねる長であり、表向きはレントが率いる一団の一人として活動していた。

 

 成程、彼も確かに特殊な力がある。加護と魅了、それ以外にも多数の能力を持っている。しかし、魅了に関して言うなればあの能力は呪いに近い。冷静に解析をしていけば、解呪を行うことも私には可能だ。私に施された加護の力のみ、有用に活用させてもらう。

 

 頭にかぶる帽子をとり、短めに切りそろえた黄緑色の髪の毛を露わにする。見上げる先には、真の目的があった。

 

 「今の有象無象が支配する世の中は歪だ。エンパスが言う、真の神が人類を導くというのも間違っている」

 

 ウェンディは半月のような笑みを浮かべた。愛おしそうに、目の前の存在を見上げる。

 

 「有象無象の人類の上に立ち、正しく導くのは私達のような選ばれた存在だ。決して神などではない」




 閲覧ありがとうございました。お陰様で、UA五万を越えることができ少しづつお気に入りも増えている現状、お礼申し上げます。

 実際、投稿してみて思ったことがありますが、閲覧数やお気に入りも勿論ですが感想をもらえることがなによりも励みになると感じました。

 作品は続けていきますが、感想を書いていただけた時は「ちゃんと読まれてるんだな」と安心とやる気を感じる次第です。よろしければ、ボランティア気分でも少しだけ皆さまに応援していただければモチベがグングン上がるます。

 本編では帝国入国、帝都でおこる一連の出来事にて物語を大きく進める予定です。今後とも、お付き合いの程よろしくお願いします。

 
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