家族の仇は、娘でした   作:樫鳥

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 道を進む足が重い。それは決して、山道が険しいだけではない。精神に気持ちが引っぱられ、まるで足枷がついているような気さえしていた。

 

 だが、萎えそうになる筋肉を無理矢理動かし山道を登っていく。俺が目指す先は、村が一望できる断崖。

 

 アリアも、ミーナも、テンにすらも教えたことがない場所。一人になりたい時に、時折訪れていた所だった。暗くなるまで空を見上げ、これからのことに思いをはせていた場所だ。

 

 そして、記憶が戻った今なら思う。あの場所にこそ、二人がいるのだと。俺が二人の墓を作ったのは、あの断崖だからだ。

 

 「予想通りの展開で、残念に思えたのは初めてだ」

 

 幻想的な月明かりのなか、崖際にたたずんでいたのは二人の家族。手をつなぎながら月光を背に受けこちらを見る様は、どこか美しいものもあり、まるで扉を護る番人のようでもあった。足元には布に包まれたなにかもあったが、今は気にしていられなかった。

 

 アリアは運動音痴だ。育児をしている間は母親としての自覚からかあまりなかったが、子供の手がかからなくなるのに連れそれに比例してつまずいて転ぶことが多くなっていた。正面から放物線を描いて飛んでくるボールもキャッチできないし、走らせれば息切れも早い。

 

 ミーナはそこそこの運動神経を持ち合わせているが、当たり前だが武道の類をたしなんではいないしどこにでもいる女の子だ。荒事とは、とんと無縁。酔客の手のひらを摘まんでねじる程度である。

 

 だが、俺が対峙してきたなかで一番のやり辛さがあった。当然の、話ではあるが。

 

 「ここにいると直感した。だからここにきた、でもやはり後回しにしたい、目をつむりたいとまだ考えていたんだろうな。心底、いてほしくなかったとも、考えていたよ」

 

 「らしくないね、ランザ。残念なのは私の方だよ、もう少しだけ、気づかないでいてくれたら。……ううん、全てが分かり気づいても、選んでくれると思っていた」

 

 「悪いな。どうやら俺は、そこまで器用じゃないらしい」

 

 アリアが寂し気に顔をうつむかせ、ミーナが前に出る。その瞳は怒りに燃えており、こちらを糾弾するように鋭く睨みつけてきた。視線がまるで、短刀のように突き刺さる。目に見えない痛みに、思わず足を一歩下げてしまいそうになった。

 

 「悪いと思っているなら、なんで器用になれないの!?あたし達との数十年はどうでも良いの!?一年にも、半年にも満たないようなその娘の方が大事!?」

 

 そんなことはない、と言おうとしても喉奥から出る言葉を飲み込んだ。大義名分はあるが、逆の立場だったら俺はどうなんだ。

 

 アリアを、ミーナを、似たような言葉で責めるだろう。明確な裏切りにも感じるであろう。不貞や虐待等ではないが、ある意味それ以上に重い裏切り行為。なにも言い返すことが、できそうにない。

 

 そんなわけがない、お前達の方が大事だなんて言えない。そう思っていても、行動がこの言葉を虚しいものに変えてしまう。家族よりもクーラを助ける。理屈では命ある方を優先したいが故ではあるが、こと生き死に関しては理屈で割り切れない。

 

 「ああ」

 

 ミーナの言を、肯定する。

 

 「大事に、なってしまったんだ」

 

 一人で生きていく、つもりだった。ジークリンデが傍らにいた旅路ではあったが、それでも連れ合いを作らないつもりだった。テンとの殺し合い。なにも産まない、生産性がない、自己満足で修羅の道を歩いていただけだ。

 

 それでも、理由づけはしていた。テンが先々で作り出す人妖を狩る。だが俺は本当に、本心では、人妖を狩ることがテンを殺すための近道と思っていたのだろうか。

 

 人妖という存在は行く先々で不幸を巻き起こしていた。それを止めてやり、テンを追いかける。その気持ちじたいに嘘はない。だが同時に、身体能力が格上の化物相手に幾度も挑み続けるなどどこか自暴自棄になっていた一面もあるようだと、今なら思えた。

 

 平和な生活をし、幸せをかみしめ、今突然記憶が戻った今、俺は俺自身をかつてない程客観的に見つめることができた。

 

 ああ、もしかして俺は、死にたかっただけかもしれない。

 

 テンの撒いた災禍を摘むのを言い訳に、ここでは死にたくないと幾度も呟きながらも、死んでしまえば二人に会えるかもしれないと幾度も考えたことに否定はできない。あの時、モスコーでベレーザに殺されても良かった。あの最後なら納得できると内心喜んだのは確かだ。

 

 だが、転機はあった。

 

 クーラ。かつて命を狙われ、首を絞め殺しかけ、それでも奇妙な縁により後をついてきた半獣。身体中傷跡まみれ、周囲から忌み嫌われ、恩返しの為に人殺しという道を選んでしまった少女。

 

 その半生に、過去の境遇に、俺は少しだけテンを重ねていたのかもしれない。クーラの幸せをと願うのを建前に、遠ざけたかった。

 

 だがそれは失敗におわった。手放したかった少女を、手放すことができなくなった。だが申し訳ないと思うのと同時に、心のどこかでどこかホッとしていたのではないか?事情を知り心を許すことができる、仲間であり道づれがほしかったのでは?

 

 テンに介入された、爆弾を抱えたクーラ。彼女なら、理由をつけて共に地獄に引きずり込んでいくのも悪くないと考えたことはないか?

 

 そんな負の面を見て見ぬふりして、俺は彼女を護ると誓った。罪悪感から目をそらすように、どこかで苦行めいた旅路に引きずり込むことができたと仄暗い喜びを抱きながら。

 

 動機としては、最低だ。そして今になって初めて自分の弱い本心に気づいた俺も、ただのクソ野郎だ。

 

 だがそれでも、最低の動機でもクソ野郎の決意でも、誓ってしまったんだ。

 

 護る誓い、逆にこの世界では護られ続けてしまった。今度は俺が、本当にこの子を護る番なんだ。

 

 どこまでも自分勝手、妻と娘には悪いがこれだけは曲げられない。

 

 「死者よりも生者が大事だって、今更言うつもり!?あたしはなんなの!?父さんの慰めの為だけにここまで生かされてきたとでもいうつもり!?ふざけるな!だったらあの火事に巻かれて死んでしまいたかった!人の人生を慰めの為の玩具扱いして、不要になったら捨てるつもりか!?どれだけ最低なことをしているのか、分かっているの!?」

 

 「怒りはもっともだ。俺がいた世界でのお前は、ほんの赤ん坊の頃に斧で殺された。そんなお前よりも長く長く生きて、今更だよな。その弁明はできない、許さなくていい、謝罪をすることすらできない」

 

 ミーナが足元に這いつくばるようにしゃがみ込む、手に握られていたのは拳程の大きさがある石ころだった。それをこちらに投げようとして固まり、落とす。石は、手の内から転がり崖の下に落下していった。

 

 涙を流しながら、膝立ちになる。絶望が顔を覆っていた。

 

 「ねえ、父さん」

 

 絞りだすように、かすかな声が響く。虫の鳴き声すら聞こえないなか、それでもかすかに耳に届くような呼びかけだった。

 

 「祝言まで、一週間もないんだよ。今まで家族の為に身を粉にして、火事の現場であたしを庇って大怪我して、そんな父さんに見せたいんだ。あたしの花嫁衣裳」

 

 地面についた手のひらが、土を握り込む。あげられた顔は、願いを聞いてほしいと訴えていた。

 

 しきたりで、花嫁の衣装は旦那とその父は当日まで見ることができない。だから、どんな姿で晴れの日に望むのか、それが大きな楽しみの一つだった。この子が赤ん坊の頃から思っていた気持ち。立派になった家族を見送る、俺の大事な夢。

 

 「フェル君も昔からの知り合いで、晴れ舞台に二人に望めることが本当に嬉しかった。せめてそれくらい待てないの?どうしても、どうしてもダメなの?あたしはそんなに、父さんの邪魔になるの?」

 

 例え祝言が、明日の朝一番に始まるとしても、ダメなのだ。時間がない、間に合わない。

 

 俺の夢とミーナの願い、その代償はクーラの命。どちらかを選べと言われてしまえば、どんなに苦しくても選ぶしかない。勝手な思いでクーラを護ると決めた俺だ。苦痛と非難は受けるべくして受けなければならないだろう。

 

 言うしかないのだ、残酷な宣言を。

 

 「すまないとは、言えない。俺は謝れない、許されちゃいけない。お前の祝言は、衣装は、晴れの姿は見ることができない」

 

 「あ……ああああああああああああああ!」

 

 ミーナが大声で泣き声をあげる。辛い、近くに駆け寄れないのが。先の言を撤回してミーナの晴れ姿を見ることができないのが辛い。だがこの辛さこそ、俺が背負うべきものだ。

 

 父親失格の、娘『二人』を不幸にした俺が甘んじて受けなければならない。勝手に胸が痛む。そんなことも許されないというのに、本当に、自分勝手な話だ。

 

 アリアがミーナの肩を叩いた。優し気な顔をし、軽く頭を抱き寄せる。

 

 「こうなると思っていたよ。折れてくれるのを、期待していなかった訳じゃないけどランザなら、貴方ならそちらを選ぶとね」

 

 「お前達はなにも悪くない、悪いのは全部俺だ」

 

 「そうだね、知っているよ。でもさ、私は怨まないし責めないよ」

 

 「え?」

 

 アリアの一言に、間抜けな声をあげてしまった。

 

 「皆が灰猫に理由もない嫌悪感を抱いていた。理由を知れば、平和な日常に綻びが出るから、何故そんな気持ちが湧き出るのかは誰も知らなかったでしょう。でも私は、貴方と一番近い私は多少差異がでたのか予感があった。あの灰猫は、貴方にとって良くも悪くも重要な存在であるということに」

 

 諦めたように語るアリア。淡々としつつも、優しくミーナの頭を撫でつつも彼女は語り続ける。

 

 「灰猫は貴方の付近や家の付近に何度も何度も何度も現れた。でもその度に、私が妨害した。殺そうと思ったことも一度や二度じゃない。現に、殺せる機会も何度もあったと思う。いくら私が運動能力皆無のドン亀でも、あれだけチャンスがあったら不可能じゃなかったよ……でもね。できなかった」

 

 顔をあげるアリア。その視線は、上着に包まれたクーラを見つめていた。

 

 「もしかしたら、ランザがやりたいことは、進まなければいけない道筋は、その子が鍵かもしれない。今の生活を壊されるのはごめんだけど、貴方のやるべきことまで奪うことはどうしてもできなかった。惚れた弱みね。まあ、こんな大掛かりな話だとは思わなかったけど」

 

 クーラの、猫の身体を見る。灰猫と化した後もボロボロの身体であったが、このうちの少なくない傷はアリアがつけたものだった。あのアリアが、他の生物を傷つける。素直に信じられない気持ちだ。

 

 「ごめんなさい、灰猫……いえ、クーラさん。夫を支えてくれた貴女に、私はこんなことしかできなかった。でももう、それも終わり。私は貴方達を見送ることにします」

 

 「母さん!?」

 

 「死者よりも生者の為、理屈のうえでは正しい。ミーナ、貴女を巻き込んでしまうのは申し訳ないけれど、死んだ者の悲しみは早く無くしてしまい、思い出になってしまうにかぎるの。サグレさんもベレーザさんも、フェル君だってそう思ったからこそ力を貸した筈。テン、あの娘だって父離れができた。私達も送ってあげなければいけない」

 

 アリアが、傍らに置かれた布に包まれたものを取り出す。それは、半ばから刀身が折れた悪竜の封印剣だった。

 

 両手に持つそれを、こちらに差し出してくる。ジークリンデの気配は感じない。封印してから長年生贄による供物もなく、恐らくはこの世界において不純物に近いものとして制限されていた彼女はルーガルーとの戦いで敗れてしまったのだろう。

 

 片腕を切断されたルーガルーを思い出した。敗北したものの、かなり食い下がったのだろう。

 

 「貴方の世界では存在しない筈の存在こそが分岐点。それを、この世界では存在しない刃で破壊しなさい。やり方は、この剣が教えてくれるんじゃないかしら?」

 

 剣の柄を掴む。

 

 背中側の骨に、違和感。思い出したかのように身体の内側から、皮膚を破り二本の連結刃が現れる。

 

 エルフの人妖との対決時に、四肢を切断され死にかけた際に埋め込まれたジークリンデの一部。これも半ば透明ではあったが、腕を伸ばして刃に触ると確かに感触があった。

 

 分岐点、分水嶺。この家族と過ごした幸せは、当然ながら家族がいたから得られたものだ。テンが動揺しながら止めた、この世界から出る為の方法。自分の幸せを、自ら否定する為の手段。

 

 「なに泣いているの?」

 

 「……え?」

 

 「泣くことが、許されるとでも?」

 

 ミーナの声に、頬に触る。濡れていた頬は、涙を顎まで伝わせている。

 

 「殺すんでしょう、あたし達を。ならせめて、そんな情けない顔で殺さないでよ。心配になるじゃん」

 

 「ミーナ?」

 

 ミーナの顔はまだ、怒りに満ちていた。立ち上がり、目の前まで来て胸元を殴りつける。

 

 「あたし達よりその猫を優先する父さんも、その父さんを送りだそうとする母さんも嫌いだ。あたしの人生は、ここで積み重ねたものなんだ。元の世界の記憶なんて、赤ん坊だったあたしにはない。いかに幻でも張りぼてでも夢でも、こここそがあたしの真実の世界なんだ。それを壊す父さんを許さない。でもね」

 

 胸倉を掴んで、顔をこちらにむけさせる。乾いた頬を張る音が、夜の空に響いた。

 

 「あたしの人生を踏み台にして進むのに、そんな顔をして進むことはもっと許さない。あなたはどうしようもないクソ親父だよ、それでもあたしが大好きな父さんには変わらないんだ。お別れが、そんな腑抜けた顔だったなんて、死んでも死にきれないよ。ねえ、父さんの普段の顔を見せて、せめてそのままあたしを殺して」

 

 「すまな」

 

 「すまないなんて言わないで、謝らないで。絶対に許さないから。苦しんで、苦しんで、苦しみながら全てを終わらせる為に生きて、長生きして。待ってるから、父さんが全部終わらせてからこっちに来るのをみんなで待っている。その時に、謝って……でもさ」

 

 ミーナが、怒り顔から二カリと笑みを浮かべた。酒場で酔客相手に楽しそうに接客をする、明るく朗らかな笑顔だ。

 

 「テン姉さんは、どうなるんだろ。もしかして、二人に分裂してくるのかな。こっちはともかくあっちの姉さんはまだ生きているんでしょう?」

 

 「ああ、生きているよ。俺は彼女を追って旅しているんだ」

 

 「一発は確実にぶん殴るから、よろしく伝えておいて。じゃあ父さん、全部終わらす前にこっちに着たら、それこそ絶対許さないんだから。精々、長生きしてよね」

 

 そう言って、ミーナが俺に抱き着いたまま目をつむる。アリアも、こちらに近寄り肩に手をまわして抱き着いた。

 

 話し合いは、終わった。二人は覚悟を決めたようだった。あとは、俺が実行に移すのみとなる。

 

 すまないとは、言えない。ミーナが言う通り、今この場での謝罪は俺が楽になるだけのものだ。腹はもう、とっくにくくった筈だ。あとは、俺がやるしかないんだ。

 

 二人の軽い身体が、揺れた。胸元を貫く二本の連結刃が、夜の空に血を飛ばす。

 

 血が落ちた端から、世界にヒビが入り始める。殺した感触を、温もりを感じながらガラスに入った亀裂のようなヒビが世界に広がっていくのが見えた。

 

 木々に、山に、家々に、海に。全ての幻がまるで引き裂かれていくようだ。

 

 崖下から見える家々のうち、自宅が見えた。その屋上には、サグレと彼女に肩を組んだベレーザがこちらを見上げていた。視線が交錯したことに気づいたベレーザが、棒を持つ腕を振り上げて見せる。サグレは小さく手を振っていた。

 

 互いに声は届かないが、ベレーザがなにかを叫んでいた。サグレがベレーザの側頭部を軽く小突く、なにを言ったのだろうか。それでも、二人は笑顔だった。

 

 「間ぁに合ったああああああああああ!」

 

 ひび割れた木々が、それとは別の要因で斬り倒される。背後を見ると、片腕を無くし左耳が千切れたフェルが大鉈で乱暴に木々を斬り倒し道を無理矢理作っていた。

 

 「お父様!」

 

 その道をテンが走る。地面から亀裂が靴を伝い、その身体に這い登るように広がっていった。テンという存在にも、例外なく崩壊が訪れようとしているようだった。

 

 「テン!」

 

 「私の、最後のお願いで我儘ですお父様!どうか……どうか!」

 

 テンの口が動く。耳に届いた声に、俺は刹那の間固まり、それでも硬い首を縦に動かして頷いて了承した。

 

 それと同時にテンが足を止める。肩で息をしながら、身体全体まで昇ったひび割れを見つつも、安心したように微笑んだ。

 

 「ありがとうございます、お父様。本当に……安心しました。お父様、私は、テンは、本当に……」

 

 幸せものでした

 

 テンが笑いかけながらそういった瞬間、身体がまるで落としたガラス製品のように砕け散る。フェルも、木々も、村々も世界も。

 

 ただ暗闇のみが覆う世界で、最後まで残った二人の亡骸もまるでガラスの破片が散るように崩れていく。拾い上げようとしても、まるで地面等がないように二人だった破片は深淵に落ちていった。

 

 「うっ……ああぁ」

 

 膝をつき、あふれ出る涙が落ちる。液体は二人のように深淵まで落ちず、まるで透明な板のうえに落ちたように広がりをつくった。涙すらも、二人を追うことができなかった。

 

 殺した、殺した、殺した、殺した、殺した、殺した、殺した、殺した。

 

 俺が殺した、ベレーザもサグレも、フェルもテンも、アリアもミーナも。本当にこれが正しい選択だったのか、間違っていないのだろうか。

 

 だが間違いだろうが、正解だろうが。俺はもう選んだ。

 

 「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」

 

 泣いている場合ではないことは、分かっていた。泣く資格がないことも、分かっている。

 

 ただ今は、今だけは、感情が崩壊するのを押しとどめることができなかった。

 

 暗闇に、光が溢れだす。終わった世界から、戻るべき場所に戻る為に。目的を果たす為に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この子を護る。この身全てを投げ出してでも。悪魔に魂を売ってでも。

 


 

 必要なのは力だ。

 

 必要なのは体躯だ

 

 必要なのは俊敏性だ。

 

 必要なのは意志だ。

 

 必要なのは、必要なのは、必要なのは、必要なのは。

 

 『そう、なにもかもが足りません』

 

 そうだ。なにもかもが足りない。

 

 『ここまでの旅路、悪竜の力を借りたとはいえ人の身の限界を超えてまで踏破をしてきた。しかし、やはり人間には限りがあります。ふふ、お目覚めのところ悪いですが、お父様はもう死んでしまうでしょう。全てを踏みにじり戻ってきたのは良いですが、さらりと死ぬでしょう』

 

 『さあ、今こそ私達の終幕を迎えましょう。お父様、私の愛おしいお父様。どうか気持ちを楽にさせてください』

 

 『堕ちてしまうのは、存外心地の良い気分ですから』

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