家族の仇は、娘でした 作:樫鳥
「何故ですか」
扇がひらりと宙を舞う。手から零れ落ちたそれは、静かに石床の上へ落ちた。
お父様の目には殺意も、敵意も、憎悪も感じない。あれだけ強く繋がりを植え付け、育て上げた感情が霧散している。私だけが持つ、お父様との強くかけがえのない意志がどこにも見当たらない。
まるであの猫にでも向けているような、憐れみの瞳。どうしてこうなったのか見当もつかない。
殺意すら感じられない。動揺するこちらを、ただ眺めている。私が丹念に丁寧に育てあげたお父様の瞳じゃない。貴方はいったい誰なのですか?
「まだ足りないのですか?」
あんな誰にでも、それこそ道端に捨てられた畜生に向けるような視線など求めていたものではない。唯一無二の、誰にも真似できない立場をもってこその私とお父様なのだ。まだ足りないとしたら、その分また積み上げなければならない。
でも、これ以上お父様のなにを奪えば、踏みにじればいいのだろう。
「あの、猫ですか?」
そうだ、あの灰猫。お父様に拾われた駄猫。使い道があるから放置していたが、目的の一部を果たした今となっては用済みである。くびり殺したところで問題はない。
そうすればまた、お父様は私を憎んでくれる。悲しみから、怒りを生み出してくれる。そうでなければならない。そうしなければならない。もう、誰かの代用品扱いされるのは嫌だ。
ふと、気づいた。気持ちが昂っており、興味すらなかった為注意をしていなかった。あの灰猫は、いったい何処にいったのだろうか。
気配を探るも近くにいるような様子はない。地下に死体でも転がっているのかとも考えたのだが、お父様の落ち着きぶりから死んだということもないと思う。だとしたら、いったいどこに消えてしまった。
なにかしらのイレギュラーがおきたことは間違いないと思う。だが本来そんなものは誤差の範囲である筈。この場に猫がいようがいまいが、関係はない話なのだ。
耳がピクリと動く。風を斬る音が響き渡り、東の空から空を飛ぶ天馬達が飛来してきた。
月明かりの中矢印のような陣形で飛び込んでくるのは鉄の軍馬達。魔術具の開発を専門としているオーデン技術連合の最新兵器である、飛行する騎兵部隊が迫りくる。
「災厄め!帝都を荒らすことは許さん!」
竜狩り隊、新隊長とやらが突撃槍を片手に叫んでいるのが分かった。それに反応し、お父様が私から顔をそむけそちらに注意を向ける。
仇を、憎むべき仇よりもたかだか火の粉に注意を向けるのですか。私の中で、今まで自分を支えていたものが崩壊していく音が、頭の中で喧しい程に響いていた。
「クソッ!」
ランウェイは壁に大きく拳を叩きつける。城にて前隊長であるガルシアに成果を報告しにいく途中で巻き起こった異変。監視していたエンパス教の拠点が崩壊、地下より巨大な建造物が出現し周辺市民に害を及ぼしているという。
父であるガルシアは、ランザは監視に留めておき下手に触れるなと告げていた。彼は個人意志で動いており、信じ難いことに悪竜と共存に近い小康状態を保っている。竜狩り隊の一員として接触したのも釘を刺しておく為であると父は語っていた。
父は最後の仕事として、北方に注意を向けていた。休止していた火山活動が徐々に活発化している異変と、その周辺に集まりつつある謎の勢力。そして非公開ながら連合王国の草を重要施設等なにもない筈の北方で捕らえている。
大規模な一向一揆か。連合王国が接触しているということは、もしかしたらレンドリースや軍事顧問派遣、義勇兵派遣等目立たない形で帝国の背後を脅かすべく暗躍をしているかもしれない。そして北方の休火山といえば、火竜の伝説が残る地でもある。父は最後の大仕事として北に残る不穏分子を排除しようと戦力を傾けていた。
私を次代における竜狩りの長にしたのも、後方を磐石にしたかったとも言えるだろう。竜狩り隊は曲がりなりにも帝国最強の部隊。その隊長が帝都を長く離れたとあれば民衆の動揺は避けられない。それは帝国になにか、対処しなければならない大きな災厄が近づいているのを予告しているようなものだからだ。
海竜討伐の際も、貴族院は元老院にはリヴァイアサン討伐の利益を説いて根回しをし、民衆には帝国が千年先まで続く繁栄の為と演説をしていた。こういうのは政治屋共の仕事であるのだが、父はそれに同行して演説をしていたのを覚えている。
父が私の意見案である新規隊員採用条件に賛同したのも、竜狩り隊の主力が出払っている間に帝都に置いておく、竜狩り隊という名前のついた兵隊たちがいた方が政治屋共を説得しやすいと考えたからであろう。ついでに私を新隊長に任命したのもその意図からかもしれない。
だが父には父の考えがあるように、私には私の考えがある。第一このままでは竜狩り隊は分裂したままではあるし、指揮系統が二本あるようなものだ。古参共は新隊長である私を認めない。
手柄が必要なのだ、大きな手柄が。長年行方不明となっていた悪竜の首ならばその手柄には申し分ないし、討伐した悪竜から情報を集めれば今後戦力増加の飛躍に繋がる。
「市民の避難と護衛を優先させろ!治安部隊や駐屯部隊とも連携をとり帝国市民の犠牲を防ぐんだ!」
「しかし、父上!あの異変を止めることこそが我等竜狩り隊の」
「黙れ!我等は討伐隊ではない、その本質は竜のみではなくあらゆる災厄に対する帝国の盾と心得よ!民衆を護れずしての竜狩り等認めん!分かったらなら早く行け!」
父は、皇帝からの勅命により避難までの護衛を受けたようだ。竜狩り隊の新隊長は私であるのに、その信は父に寄せられている。
拠点に戻るその道すがら考える。本当に我等が行うのは、避難誘導か?今こそが竜狩り隊の役目ではないだろうか。
迫りくる脅威の矢面に立つのが我等の役目。それこそ災厄の盾ならんとする信念に基づくと考えるのは間違いだろうか。
「ランウェイ隊長!」
同行していた部下の声が響いた。拠点に辿り着き、目を見開く。地下にジークリンデを監禁していた建物の扉が、無残に破壊されていた。
中に踏み込むと、血と糞尿の臭い、死の臭いが鼻につく。誰かがいる気配はない、勿論悪竜のものさえも。
壁に走る巨大な亀裂と、散弾銃で弾けたような身体の破片。腹を捌かれ食された臓物としゃぶりつくされた肉がついていたであろう骨。武器を持ち最後まで抵抗した者が多かったようだが、それでも蹂躙されていた。
「心眼のデルシアがいたんだぞ。奴は……」
言わずとも分かる。敵前逃亡をするような男でもないし、地上か地下かに無残に殺された死体が横たわっているのだろう。この新メンバーでの戦力が充実してきたら、いずれ分隊長や副長として押そうと思っていた男だったのに。
地上階に生存者はいないかを見て回るが、徒労に終わる。壁に幾つもの裂けたような穴が開いているのを見るに、恐らく悪竜は連結刃を使い壁等関係無しに範囲攻撃を繰り出したのだろう。装備や死に方から近接戦を試みた者もいたようではあるが、散弾銃による射撃で脳漿が吹き飛んでいた。
長大な攻撃範囲と引き換えに近距離での戦い向きではない連結刃。その欠点を埋める為に散弾銃という選択肢をとったのだろうが、悪竜が人の武器を使うとは思えない。もしやランザ=ランテと行動をすることにより心境の変化があったとでもいうのだろうか?
地下に降りる。拘束具に拘束用の魔具、切断された鉄格子の内部は当然ながら空室であった。一歩足を進めるごとに、ねちゃりと音をたてて血液の水たまりが跳ねた。
「ランウェイ隊長!デルシアが」
「皆まで言うな!」
隣室を調べた部下が、デルシアの遺体を見つけたのだろう。万が一に備え、この拠点には半数以上の竜狩り隊を詰めていたというのになんというざまだ。
しかし、対峙した悪竜ジークリンデはランザ=ランテを罠にはめたうえで追い詰めたとはいえ大した圧力を感じなかった。だからこそ、この警戒で封じ込め、研究や解剖終了までは生かしておけると考えたのであるが。
竜という存在を侮っていた訳ではない。海竜との戦闘には私も参加したし、背筋が凍える思いを何度したかも分からない。だがしかし、所詮は遥か昔に人類に追いやられ辺境で過ごしていた存在だと高を括っていたか。
「隊長!すぐに外に!」
地上を見張っていた部下から声をかけられた。急いで上にあがると信じ難い光景が目の前に広がっていた。
エンパス教の神殿があった場所の建物が、まるで花開くように展開されておりそこから巨大な狼が姿を現していた。水色の毛並みで、背中から悪竜の連結刃を二対生やしている。三回建ての建物とほぼ同じか少し大きいくらいであろうか。
「ランザ=ランテ」
「は?」
「分からんのか!?奴だ!あれが奴だ!」
背中から生えた二対の連結刃。あれこそが悪竜に魂を売った人間の証拠だ。いかにして悪竜に取り入り、かの竜が人に力を与えたのかは定かではないがあれこそが全てを物語っている。やはりランザ=ランテは放置して良い存在ではなかった。
「動ける者は全て動くぞ!第二種武装で直ちに出撃!誰か帝国砲兵部隊にも声掛けをするんだ!持てる全力であの狼を叩き潰す!」
「しかし先代は市民の避難と護衛を優先しろと」
「あの災禍を取り除くことこそ盾としての我等が行うべき役目だ!さっさと動け!」
武装保管所に用意されていた第二種装備。第一種は平地での白兵戦、第三種は海上戦を考慮された武装が竜狩り隊には用意されている。ならば第二種はなにか、それは市街戦。建物が密集した市街地にて、地上と空中からの波状攻撃により敵を飽和状態にして壊滅させることに主眼をおいている。
それを考慮して産み出されたのが、帝国のオーデン技術連合が誇る最新式魔術具たる鉄馬の存在だ。従来の馬とは違い、浮遊の魔具が組み込まれたそれはべらぼうに体力や精神力を消耗する代わりに三次元的戦闘を可能にすることができた。
初陣は海竜討伐の際だ。現在人類に多大な被害を出しつつも誰しもが討伐できなかった海竜。その理由はフィールドが敵に有利過ぎたからだ。狭い船の上でしか動けない我等と違い、リヴァイアサンは縦横無尽だ。空を自由に飛行するこの新兵器が無ければ、どれだけ軍艦を集めようと相手にならなかった。
「人員が足りない!全員が鉄馬に騎乗しろ!現地の状況から顧みても、地上からの攻撃が意味のあるものになるとは思えん!」
鉄馬にまたがりながら、そんなことを言ってみたものの実際は全員乗れるほと鉄馬が余っているとも言えてしまう。ただの高級品であれば一人一馬は確実にそろえることができる。しかし最新技術の塊であり数を急激に増やすことができないうえ、北方にかなりの数を持っていかれてしまった。
だがそれでも、残ったその数に全員分が騎乗することができてしまったということは、それだけ人員がいなくなってしまったということだ。なんたる失態、作戦に不成功で壊滅してしまったならばまだしも、戦闘前からこの有様だとは。これは、父の指示を無視してランザ=ランテと悪竜ジークリンデに手をだした報いだとでもいうのか。
「疫病神め」
並べられた鉄馬に全員が騎乗する。出撃する前に、一人の伝令が駆け寄ってきた。砲兵隊へ支援を要請しに走った者だ。
「砲兵隊の援護支援は!?」
「現場が建物密集地、それも帝都の中央部に近い位置では展開も難しいと返答がありました!避難する市民が混乱状態になっており、治安部隊も手が足りず軍部も思うように部隊を展開できないでいます!首都は混乱状態です!」
「どいつもこいつも使えない!いや……私がその筆頭か」
反省すべき点は幾つもあるが、今はそれを嘆いていても仕方ない。事件が無事解決できたとしても、責任をとることになるだろう。よくて更迭か職務剥奪、最悪は軍事裁判行きか?いや、今は証拠のもみ消しや後のことを考えるべきではない。やるべきことは、帝都の脅威たる災厄に立ち向かうことだ。
「皆聞け!言いたいこともあるだろう、同僚が大量に死んで動揺するのも分かる!責任の所在を求めるというのであれば、全責任は指揮者である私にあるだろう!だが今は、今だけは少しだけ力を貸してくれ!あれをなんとかせぬ限り、誰それの責だと問うこともそれを禊ことすらできないだろう!行方不明となっている悪竜ジークリンデのこともある!今や帝都はかつてないほどの混乱に覆われた!マッチポンプと揶揄されようが、我等しかこの事態を収拾できる者はいないだろう!竜狩り隊、出撃するぞ!」
鉄馬の腹を叩くと同時に、魔術具を起動する。鉄製の蹄が地面を蹴って走り、充分な速度を確保した後飛び上がり、宙に浮かんだと同時に役目を終えた脚部が腹部に収容される。腹部の底面が紫色に光り輝きすさまじい風圧が噴出される。
オーデン技術連合渾身の兵器は、不具合一つなく全員を空の戦場へと導いた。技術屋に感謝をしながら、武装を引き抜く。
銃器が登場してからは時代遅れになりつつあるが、戦場で本物の馬を使った重装騎兵が使うような巨大な突撃用の馬上槍と、腕につけたリングに力を込める展開と同時に盾になる技術連合製の赤盾。
厳格な採用試験を突破し、さらにそのうえで魔術具の扱いに長けたものは私と同じ敵に突撃する為の装備を身につけている。他の者は、特注品である口径の大きなライフル銃と、対竜用のニードルガンを装備していた。
近接用装備六騎と、遠距離からの攪乱用装備が七騎。市街を巡回していて、私の護衛とジークリンデからの殺戮から逃れた者を集めてもこれだけしか揃わなかった。だがしかし、泣き言をいっても仕方ないだろう。
計十三騎が、混乱する帝都の上空を飛ぶ。徐々に近づいていく巨狼の近く、奇跡的に崩壊を免れた建物の上に、見慣れない民族衣装を身にまとう女性がいたが今は保護をしている余裕もない。
「災厄め!帝都を荒らすことは許さん!」
手を掲げると同時に、後方の七騎がライフル銃を構える。幾度も訓練をした動きなだけに、よどみがない。
「ってぇーーー!」
射撃音が響き、特注のライフル銃から大口径の銃弾が放たれる。背中の連結刃が蠢き、その銃撃を弾き返された。動きの速さから考えて、弾丸を見切ったというより射線から直撃位置を計算し刃で防いだような形だ。
狼がこちらに向き直る。女性がなにかを叫んでいたように聞こえたが、なにを言っているかは分からなかったし気にしている余裕はない!
「来るぞ!散会!」
二対の刃が真っ直ぐ斬り込んで来た。いずれも斜めに切断をするように振るわれたそれを、上下左右それぞれに別れるように回避をする。先程の射撃から同時射撃では対応される可能性が高いことは分かった。ならば射撃要因は各々好ポジションを確保して、自由射撃によるランダム性を重視させ注意を四方に向けてしまうのが良いだろう。
鉄板すら貫通する特注ライフル、喰らえば無傷とは言わせない!そして注意が四方に向けられた時こそ、この突撃槍で奴の頭部が心臓部を貫く。いくら形状が変わろうと、四足歩行獣と酷似した形態をとるならばおのずとその弱点も共通している筈だ。
「がぁ!」「なんっ!」
声が背後から響いた。後方を確認すると、全員が回避した筈の刃がまるで蛇のように急激な方向転換をし、背後から射撃要員二名の心臓を貫いている。刃が無造作に振られ、一人は地上に向けて叩き落とされもう一人は鉄馬もろとも切断された。
鉄馬を切断した刃が近くにいたもう一人に向かい伸びていく。
「させるかぁ!」
近接要員の一人が空中で反転。赤盾を起動し壁のような障壁を展開しながら割り込みをかけるが、接触と同時に盾がガラス細工のように崩壊。二名の隊員を貫いて空中でその内臓と血肉を四散させた。
「赤盾が効かない!?」「こいつ、力が尋常じゃないぞ!」
「慌てるな!犠牲は分かりきっていたことだ!赤盾に過信せず回避行動に全力をかけろ!ランダム起動!動きを直線的にして読まれるな!」
迫りくる連結刃を乱数回避で退ける。仲間が四人も犠牲になった攻撃だ、適応しなければその瞬間死神の鎌により餌食となる。恐るべきはその攻撃能力だが我等も、伊達に竜狩りを名乗っている訳ではない!
指示を飛ばし巨狼の顔を見た瞬間、背筋に嫌な予感がはしった。この狼は、笑っていた。『おいおい、そこは退却指示じゃないのかよ』とでも言いたげにだ。
狼の毛並みに覆われた胸部が開く。赤黒い肉の壁が露わになり、そこから同色をした肉のような色をもつ人間の上半身が生えていた。
『獲物を追い込んでくれたのかい?鴨射ちだねぇ』とでも言いたげなにやけた顔。
赤黒い肉の塊となった女性の上半身は、数時間前に見た筈の顔が頭部についていた。悪意に満ちた表情を浮かべるのは、ウェンディ=アルザス。腹部や胸部、後頭部にさえ複数の管を繋げられ、悪意に満ちた笑みを張り付けたまま彼女はその身体を隠すことなく両手を広げる。
「せきっ!」
複数の火蜥蜴が、放たれる。獲物に向かい追尾をする複数の火炎生物は、二対の刃から逃れ、いや誘導された隊員達は火炎に呑まれ叫び声をあげて落ちていった。あれは、あの生物的な動きは魔術具ではない!オーデン技術連合ですらあの域まで火炎魔具を発展させてはいない筈だ!魔法だとでもいうのか!
ウェンディ=アルザスはランザを追い詰める為に手を組んだ者だ。不可思議な力を行使していたが、魔具を用いたトリックだと本人は言っていたし、その範囲も確かに再現ができる範囲であると魔具技術に詳しい隊員は語っていた。理論上は、と付け足してはいたが。
だがあれは、トリックの範疇を越えている。力を隠していたことを責めるつもりはないが、なにがどうなれば、ランザに組み込まれてあんな状態になるというのだ!
「常識を……越えているかッ!」
「ランウェイ隊長!生存……四名!」
飛来する火蜥蜴の速度は、鉄馬の最高速度を超えていた。あれに対応できるのは、噂で聞くところエンパス教、レントとやらの私兵部隊にいる空を飛ぶハイピュリアくらいだろう。現状、この鉄馬では連結刃のことも考えると逃げきることすら難しい。
「突貫する!せめて一太刀、手傷を加えるぞ!」
絶望的な状況ではあるが、懐に潜り込みさえすれば、奴の脳天か胸部のウェンディを破壊することができる。いや、頭部が難しいにしてもあの魔法……仮として魔法砲台となっている人型を壊せば奴の戦闘力が半減くらいはする筈だ。そう信じるしかない。
「申し訳ありません父上!だがせめて、奴の力を削ぐ為に!続けぇえええええええええ!」
あとは、竜狩り隊や帝国軍がなんとかしてくれるだろう。罰を受けずに死ぬのは本望ではないが、無駄死にではない。やり方は間違っていたのかもしれないが、国土を、民衆を護りたいという心は誰にも負けないと自負をしている。自分の汚点とはいえ、今こそがその命を使う時だ。
「ならばこの命、くれてやるのも本望だぁああああああ!」
慢心するその顔に、身体に、全身を叩きつけてやる。
後先考えない全力のスピードに、鉄馬は悲鳴をあげ空中分解しそうになる。オーデン技術連合から、これ以上は危険だという出力などとうに超えているのだ。だがこれでいい、もう帰ることはないのだから。死兵となった生き残り達、私を突撃させてその隙に逃げても良かったのだが、良い部下に恵まれたものだ。
「くぅうううううたぁああああああああヴァああアああああれェえええええええええええええ!!」
突撃していく私の槍が、回転した。何故?手でしかと握っていた筈なのに。
槍の柄には、腕がついていた。なにがおこっているか分からず、それをとろうとして初めて腕がないことに気づく。その瞬間目の前に刃の列が出現した。
身体が縦に切り裂かれていくのが、私の最後の感覚になった。その時、一つの声を絶命直後の聴力が捕らえた。聞いた、声だった。
『二線級虐めて優越感か?ストレス溜まっていやがったんだなぁ相棒』
悪竜ジークリンデの、声が重く帝都に響いた。