家族の仇は、娘でした 作:樫鳥
「お初にお目にかかる」
エルフ、半獣はともかく、まっ先に声をあげたのは獣人と言える存在であった。
コボルト。人類による地下資源の開発が進む遥か昔、各地の山や洞窟にて採掘をしながら居住区を確保する存在がいたという。古い資料に存在が示唆されており、リスム自治州にあったノックの洞窟もかつてコボルトの住居であったらしい。
集団の先頭、巨大な石斧を背中に背負う、筋骨隆々でいかにも戦士と言えるコボルトに声をかけられる。柔毛に覆われた犬のような顔からは、表情が読み取れない。声は重厚で威圧感もあるが、ここに来る以前にこの会議場は殺気立っていたせいもあるかもしれない。
特に今でも、エルフ連中からは敵意をひしひしと感じる。襲いかかってこないのは、他の連中の目があるからだろうか。
「私の名前はロウザ。霊山の守護を司る一族の、戦士長を務めている。ランザ殿、悪竜殿から貴方のことは聞いている」
「ご丁寧にどうも。自己紹介は必要なさそうか?」
「アンタのことはだいたい聞いているぜ。主にはそこの嬢ちゃんにだが」
続いて声をあげた男は、クーラの灰色の髪の毛よりもさらに濃いグレーで、犬や猫のそれよりも少し丸みのある獣耳を生やしていた。クーラよりも年齢は上に見えるが、二十代前半くらいの年に見えまだ若い。腰にはククリナイフを二本ぶら下げている。見た目通り、速さを売りにしていそうだ。
「自己紹介はともかく、一つだけ聞いておきてえ。アンタの産まれはどこだ?帝国人か?」
「何故そんなことを聞く?」
「俺等にとっちゃ重要な話だからだ。それで、どうなんだ?」
帝国は人類至上主義が強い国柄だ。半獣というだけで軽視されるのはよくある話ではあるが、積もる怨嗟は他国の比ではないのだろう。
「連合王国の端っこにあった、田舎の出だ」
「そうかい。帝国人でないのなら、俺から言うべきことは特にねぇ。ガラン=イグザード、後ろにいるのは俺の愉快な仲間達だ。時間があったなら、後で話を聞かせてくれ。王国に興味を持つ奴が多くてな」
ガランという男が、少しだけ緊張を解いた。だがしかし、その発言に少しだけ気にかかる。ガランは自分の後ろにいた一団を仲間と呼称した。つまりグループを作り、他の連中とは一線を引いている。帝国から逃れて来た者達であるようであるが、一枚岩とは言い難い雰囲気だ。
最後にエルフの一団と目が合った。先頭の男は、苦虫を噛み潰したような表情をしている。
「一応、一つ確認しておく」
こちらとは会話もしたくない、とでも言いたげだが、それでも重い口を開く。言葉の端からも圧を感じた。
「ノックの山で、ミハエルを殺害したのはお前か?」
ミハエル。リスムを半壊させた巨人を含めれば、かつて戦った人妖の中では被害規模という意味では断トツの存在だった。吸血鬼として覚醒したサグレとどちらがマシかと言われれば、判断に困る程だ。
結果的にはエルフ共も何人かあの山で犠牲になっている。もっとも、テンの知恵にそそのかされて同胞を化物に変えたことは浅慮としか言えない為同情はできないが。俺とこいつらの、背景を別としてもだ。
「ああ、強敵だった」
「そうか」
目を瞑り、もう一度同じ言葉を静かに呟く。その苦々しい顔はなにを考えているか分からないが、表に出ようとしているものを理性でねじ伏せようとしているのが端から見ても分かった。
リーダー格とみられる男が抑えている以上、奴の下にいるエルフ共も動かない。殺意や敵意はヒシヒシと感じるが、唇を噛みながら抑えていた。
「すまないが、離席させてもらう。少し頭を冷やさなければ、冷静な話し合いを出来そうにない」
こちらとすれ違うように、男は出て行った。後ろに続く何人かの顔は、あの拷問部屋で見た顔だ。しかし、一番怒りをにじませているあいつの顔は見覚えがない。復讐の為行われた拷問等、ノックで奴等が企んでいた計画にはなんの関係も無ければ進展する要素もない。
個人の考えを抑えて、組織の為に行動できるタイプというやつか。腹のうちは煮えているのに、理性で抑え込んでいる。まだ敵意を剥き出しにしてくるエルフの方がやりやすいというものだ。なんの事情があり、ナロクが指揮をとっていたかは分からないが奴がエルフのリーダーであればやり辛さがあったかもしれない。
「勝手な連中だぜ。結局なんも決められていねーじゃねーか」
ガランが悪態をつく。三つのグループと、三人のリーダー格か。
「差し支えなければ、なんの話し合いか教えてもらいたい」
「ああ、良いぜ。ここから南下したところに、人間の街がある。両隣を高い山脈に囲まれた土地柄、北平原と北方の山岳地帯から出る一番安全で大きなポジションだ。ここに人間の軍勢が集まり、街を要塞化している。平原にも前線基地になる拠点を幾つか造り攻撃の機会をうかがっているんだ。丁度、一月前くらいからだぜ」
ガランが壁に貼られた地図を引きはがし、机の上に広げる。地図には赤いインクで幾つかマークがついており、グルリと山脈に囲まれた平原には敵が徐々に近づくように拠点を築いているのが分かった。
「規模、兵力は?」
「とにかくいっぱい。っと…んな顔すんなよ、場所調べてきただけでも、命がけだったんだぜ。まあ分かったのは、連中にとっちゃ俺達は反乱をおこす可能性がある危険組織で、山ごと潰そうと画策していることだ。現にここにいる面子を見て見ろ、人間世界、特に帝国では生きられない連中ばかりだからな」
「だから、連合王国にすがると?それこそ愚かだ。貴様自身言っているではないか、人間世界では生きられないと」
ロウザが口を挟む。ガランが耳を動かし、威嚇するように声をあげ腕を組み合わせるコボルトを睨みつけた。
「黙ってろや穴掘りども。連合王国は俺達の庇護を約束してくれた。あの国は、強大になりすぎた帝国に対応する為に様々な力を集め、敵から逃れてきた者を庇護している。協力をしてくれるなら、人並みの生活を保障してくれるとな」
「半端とはいえ同じ野生を持つ者。人間に飼われるのをよしとするか?」
その一言に、ガランの顔が一気に赤くなる。地面を蹴ってロウザに向かい、腰のククリナイフを引き抜き上空から襲い掛かる。迎え撃つロウザは、腰の石斧を盾にガード。鍔迫り合いがおこる。
「ざけんな!こんな荒れ地に引きこもり、満足に作物を作れず、生息域を広げられず、いずれ数を減らすことを良しとするようなお前等と一緒にするんじゃねえ!俺達に必要なのは思想や矜持じゃねえ!住む場所と飯と、迫害されない環境が必要なんだ!それも今すぐにな!ここまで来るのに、何人も、何十人も死んだ!ここじゃないところでも玩具にされて死に続けている!せめて俺は、俺について来てくれた奴等を安心して生活できる環境を用意してやりたいんだよ!霊山だか知らねえが、価値のあやふやなもん護る為に死ぬことを良しとするお前等と一緒にするんじゃねえ!」
「連合王国に頼った時点で、お前は飼われることに変わらない。奴らの言うこともどこまでが真実かなど分かる訳もない。貴様になにがあったか等知らんが、少々盲目になりすぎてはいないか。哀れだな、利用されるのを良しとされる者達は」
コボルト、半獣。互いの殺意が膨れ上がる。互いの仲間達を敵意を剥き出しにしているのが分かり、今にも殺し合いがおきそうだ。少数種族達の様子を見ると、コボルト側と半獣側に、どちらともいえない者達に別れている。
「こんな感じ。エルフに、半獣に、コボルト達。みんなみんな、敵が同じというだけで見ている方向はテンでバラバラ。内部分裂待ったなしなのよね」
クーラはこの惨状を見せたかったようだ。呆れたように、止めるでもなく頭の後ろに手を回しながら静観をしている。
「お前は、どっち派だ?」
「ランザの傍」
「つまりどちら派でもないと」
所詮俺達は外様の存在。観賞するのは良くないかもしれないが、このままでは本格的に殺し合いがおきかねないしそれはそれで目覚めが悪すぎる。止めようとした矢先、か細い声が聞こえた。
「あ……の~」
振り向くと、見覚えがある白毛のコボルトがそこにいた。先程、何故か悲鳴をあげて逃げて行ったコボルトだ。目があった瞬間、ヒッと身体を縮こませる。
「ラ……ンザ=ランテ……さん?」
「俺だが」
「主様がお呼び……です。是非一度、面会したいと。それと、ロウザさんはもう一度ジークリンデ様に声をかけてほしい……と」
石斧を持つロウザが、構えを解く。背中に戻し、一礼をしてからすぐに退出していった。対峙していた相手の変わりように毒気を抜かれたのか、ガランも鼻で笑いククリナイフを腰に戻す。
「化物からのお呼び出しねぇ。まあいいや、ランザさん。端とはいえ連合王国出のアンタがいるなら、少しは交渉も優位に進むかもしれねえ。出来れば、俺達の味方についてくれると嬉しいぜ。その半獣の子も懐いているなら、信用できる」
ガランも部屋から、仲間を連れて退出する。自分達とそれに賛同する者以外に敵意を振りまきながら。
「ご案内しま……す」
すれ違いざまにガランに威嚇され、さらに縮こまりながらもなんとか声をあげた。エルフ達はよく分からないが、半獣達にはあまり好かれてもいないようだ。状況から考えるに、元々ここを根城にしていたコボルト達の長というところか。
しかし、そうであるならば内部で殺し合いがおきかねない現状にストップをかけにこない理由が分からない。化物と呼称されるからには只者ではない筈であるのだが。それとも、居場所から離れられない理由があるのかもしれない。病か怪我で、寝たきり状態等が考えられそうだが。
「待ってくれ、その前にジークリンデに一度会いたい。そちらの主には悪いが、先に案内してもらっても良いか?」
記憶に残るのは、帝都でのジークリンデとの戦い。あの時は、とにかく周囲の敵対者を全て潰さなければならないと考えていたのを覚えている。攻撃をしてくる気配から、彼女も敵だと考え交戦をしたが今思えばあれは暴走した俺を止める為だった。
あのままあそこで暴れていれば、どうなったかなんて分からない。かの悪竜には、詫びと礼を言う必要があるというものだ。そして、問うてみたい。
悪竜ジークリンデ。彼女は【元の姿】で俺と交戦した。封印剣の力で、封じられていた筈の存在がだ。土壇場で剣が限界を迎え封印が解かれたとしたら、もしくは竜狩り隊が余計なことをして封印を解いてしまったとしたらあの状態で現れることには納得ができる。
だが、もしも……もしもだ。封印等とっくに機能をせず、もしくはかなり前からそんなものは効力をもっていなかったとしたらどうなんだ?
違和感は、前からあった。特にモスコーで、サグレを監視していた俺の前に串焼きを手にしながら現れた時だ。心のどこかで考えていた、もしかしたら封印等、とっくに意味のないものになっているのではないかと。
だとしたら、俺に拘る必要なんてない。好きなように暴れて逃走なり殺戮なりをすればいい。何故悪竜は、俺の旅路についてきてくれたのか。今までは、自由に行動できないぶん、暇つぶしか気紛れで同行していると考えていた。
思えば、俺はジークリンデのことも、クーラのこともなにも分からない。悪竜の思惑も、クーラが腹の底でなにを考えていたのかも。
「ランザさんが来てくれれば…ジークリンデ様もおこしになるかと。申し訳ありません、今は…こっちを優先…させていただければ」
普通に尋ねたつもりであるが、肩をびくつかせかなりの怯えを見せている。この手の相手に、無理強いをしたら収拾がつかなくなりそうだ。
「分かった、案内してくれ」
ペコリとお辞儀をした後、部屋を出て地下に続く通路を降りる。洞窟内はまるでアリの巣に入ったかのようであり、地下に降りるに連れ幾つかの部屋が存在していた。少しのぞき込んでみると、それは居住区だったり物置だったり様々だ。
下に降りるに連れ、暑くなっていくのを感じる。額が汗ばむほどであるが、長毛である筈のコボルトは慣れているのかどこふく風といった具合だ。
「クーラ、ここまで降りて来たことは?」
「いや、初めてだよ。探索するにしても、エルフがちょっかい出しに来るからランザから離れたくなかったし」
熱気による汗を拭いながら、クーラも告げる。いったいなにが待っているのか、未知に向かっていく感覚は、初期冒険者ギルドの探索を思い出す。あの時は、こんな案内人等いなかったし濃い緑の中でもあったが。
「おぉ……」
案内された先で、思わず感嘆の声がでた。降りて行った先、急に開けた空間に辿り着いたがそこには広大な空間が広がっていた。広い人工的に造られた石でできた通路が奥まで続いており、その下にはドロドロとした液体が流れ炎が所々から炎が噴き出している。
通路の先には、空間の天辺まで届きそうな巨大な建造物。帝国式でも王国式もない、教会との様式が違い、未知の彫刻が刻まれた大木のような柱が幾つも立ち並び天井を支えている。屋根に当たる部分には、巨大な竜が見下ろしている。迫力があるが、白亜の色をした石像だ。
入ったことはないが、リスムの地下迷宮にあるという遺跡もあのような感じなのだろうか。
「いや、違う」
確かにかなりの迫力があるが、どこかで見たことがあるような気がする。歩きながら少し考えたが、すぐに思いつくことができた。悪竜ジークリンデ、彼女がいた遺跡とは保存具合や手入れのほどが違うがどこか似たような気がしている。
「竜神信仰」
「なにそれ、そんなのあるの?」
「いや、分からない。だが昔ジークリンデがいた遺跡になんだか似ているような気がするんだ。もしかしたら、昔は圧倒的な存在である竜に対して神様のように信仰する文化があったのかもな」
しかし、こうなるとここから先で待っている存在に対して、腹をくくる程度ではすまない覚悟がいるかもしれない。ここから先にいるのは、悪竜ジークリンデ、海竜リヴァイアサンの同類だ。
遺跡の柱を越えた先には、巨大な祭壇が存在していた。まるで巨大な寝台のような祭壇の上には、巨大な赤い竜が横たわっている。その身体には、荒く削りだしたような石でできた槍が突き刺さり天井に繋がっており、赤熱したエネルギーのような熱が天井に向かいゆっくりと蠢くように流れていた。
圧倒的な存在を前にして立ち尽くしていると、背中に重さがかかる。後ろを見てみると、ジークリンデがこちらに体重をかけるようのしかかってきていた。
「ジークリンデ」
「あー互いに言いたいことがいろいろあるだろうけど、今は取り合えず後回しにしようや。しかしまあ、なんつーざまだよランドルフよ。オレが言えた義理でもないだろうが、見る影もねぇじゃねえか」
「自分で選んだ結果ですよ、ジークリンデ。私は自分で選んでこの姿になりましたのでね」
ジークリンデに意識をとられていたなか、誰もいなかったところから少年の声が響いた。火炎のようなオレンジと紅蓮が混じった髪の毛に紅色の瞳。鱗を組みながら編んだ防具のような服を身にまとい、身長は低いが存在感のある子供が目の前に現れた。
背中には熱した鉄のような色をした頑強そうな翼に、両腕と両足は鱗に覆われ小さな鈎爪がついている。
「初めまして、ランザ=ランテさんにクーラ=ネレイスさん。私はランドルフ、この休火山にて長い眠りについているただの老いぼれた竜種です」
ペコリと小さく、少年が頭を下げる。つられてこちらも、頭を下げてしまう。これはもう、職人時代に培ってきた対人スキルが自動発動してしまった。なんだか場違いなような気までしてくる。
「これは、ご丁寧に。ランザ=ランテです」
互いに頭を下げ、社交辞令的に握手をする光景にクーラとジークリンデは、そろって呆れた瞳で見つめていた。
「おい、ランザ。なにがどうなってこんなガキになっているか知らんが、本当のこいつはかなりのおっさんだからな」
「そういう貴女は、若作りとでもいえば良いですか?私と同年代なんだから、互いに良い年齢でしょうに」
「殺すぞクソ野郎」
物腰柔らかだが、竜同士はそこまで仲は良くないようだ。キレ顔のジークリンデと何事もなかったかのような顔をしたランドルフであるが、少なくともジークリンデはランドルフを敵視しているように見える。
「言いたいことは、いろいろあるかもしれません。しかし、まずは私からお願い……いえ、懇願を聞いてくれないでしょうか」
ジークリンデとの軽い牽制合戦を終え、ランドルフがこちらを見つめる。火竜相手から頼みごとをされることなど、人生であるとは思わなかった。思わず身構えてしまいそうになる。
「私は自由に動くことができない身です。しかし、竜に関りがある貴方が来てくれたことは天啓に近いものを感じています。どうか、私が護ってきた彼等を……いえ、半獣達も、エルフも、みんなを救っていただけないでしょうか」
「かの山脈に根城を構える反乱勢力を駆逐する。それだけの為に、あの量の爆薬はいらないのでは?貴方はいったいなにを考えている?ガルシア」
帝国にとっての最北の街ハボック。本来土地に住み着いていた住民の大半は避難させており、軍事拠点となっていた。この街で一番大きな建物である市民会館は拠点の中枢である指令室が設けられ、反乱勢力の討伐に来た将軍ガルコスと竜狩り隊の長に復帰したガルシアが向かいあっていた。
「むろん勝利の為の策で使うものですよ、将軍。我々は主目的は、ランザ=ランテですから。かの存在に、まともな方法で当たるつもりはありませんので」
「竜狩り隊の独自行動権は知っているが、あくまでこの軍勢は、帝王より勅命を受けた私の指揮下で動くことになっている。あまり勝手なことをされると、こちらとしては困るのだが?」
「将軍はなにも心配することはありません。あくまで、我等の主目的は帝都で暴れた怨敵、ランザ=ランテと悪竜ジークリンデの討滅ですので。そちらも、こちらの邪魔だけはしないでいただきたいものです。我等当てに運ばれてきた補給物資を、自軍の強化に充てているとか。困るのですよ」
「人外どもの一揆を収束することが主目的だ。必要だと判断した物に関しては、ここに流れてくる以上我等の管理下にあると考えていただきたいな」
ガルシアが、わざとらしくため息をつく。
「ならなおさら、早めに動いてほしかったものですな。芽は早いうちに摘むにかぎる。私が何度連中の討伐を上奏しても、それを握りつぶしたのは貴方方だ。仮想敵国である連合王国に対する備えを優先し、益のない痩せた土地の支配等構ってはいられない?連合王国と対峙するならば、なおさら後顧の憂いを絶つべきだというのに」
「竜狩り隊とはいえ、たかだが一部隊の隊長風情が偉そうなことをぬかすな。そもそも貴様等が帝都で奴等を討滅できなかったことが、問題ではないのではないか?分かっているのかいないのか、奴は山に逃げ込んだ。帝国で大立ち回りをした人材を旗頭に掲げれば、たかだが一揆とはいえ面倒な存在になりかねない。貴様等が仕事さえこなしていれば、私が出張る必要もなかったのだ。あまり自分達のことを棚上げするのはやめてもらいたいものだ。貴様が皇帝のお気に入りでも、あまり自由な発言をしすぎるなよ?」
互いに互いが、自分にもある程度の否があることは分かっている。だがそのうえで、譲れない一線を護ための舌戦が続いていた。
一揆勢力の鎮圧。ランザ=ランテとジークリンデの討滅。それぞれ思惑は違う。将軍であるガルコスにとっては、自由行動権があり指揮下にない強力な部隊等、全体の足並みがそろわなくなる厄介なずれた大砲である。そして竜狩り隊の長に復帰したガルシアにとっても、名目上の将軍であり自分よりも立場が上なガルコスは捨て置くことができない存在であり様々な面で摩擦がおこっていた。
帝都事変。かの混乱おかげで帝国中に不況の和が広がり始めており、それを好機と見た連合王国をはじめとした隣接国家が強気な外交姿勢を見せている。国境警備に予算や人員、物資を広げざるをえなくなり、大罪人ランザがいようと戦線として重要度を下げざるをえなくなっていた。
皇帝としては、信頼のおける竜狩り隊とガルシアがいることで安泰と思っているようだが、ガルシアにとっては子の仇であり、なにより油断ならない怨敵であるランザに対して少しでもバックアップと資源、対応策となるカードを用意しておきたいところである。
こうして準備を進めるうち、それは互いの思惑とは反するとガルコスとガルシアの間で衝突が度々おきていた。
「ガルシア、もう最初の手は打ってある」
「中途半端な手段では、奴らの結束を促しますよ」
「なに、役立たずの竜狩り隊はもう終わったと皇帝には報告できるだろう。精々、邪魔だけはしてくれるなよ」