家族の仇は、娘でした   作:樫鳥

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 「避難壕に潜れ!今すぐだ!」

 

 隕石の如く落下してくる落石から逃れる為に半獣とエルフ、コボルトの一団は監視用トーチカや射手狙撃位置、投石台を用意した迎撃線から地下にめがけて掘り進めた避難壕に潜り込んだ。

 

 命中精度を犠牲に、魔具による補助動作により射程距離を従来の二倍以上伸ばした投石機による一斉射出。銃器、大砲が開発されたと共に時代の流れの中で消えゆく兵器であった筈のそれは、オーデン技術連合により、さらに遠く、より高く放てる距離を競うという開発者同士のお遊びにより魔改造と称される勢いで進化を遂げていた。

 

 何故かそこに貴族から多額の予算がおり、魔具の研究開発者も加わり、悪乗りを重ねた結果時代遅れの兵器はとんでもない長射程を持つほぼ別物と言うべき兵器と化していた。

 

 大砲の方が破壊力と精度の方が優れてはいるが、平原に築かれた拠点から定期的に放たれてくる岩石や爆発物の他、糞尿や蠅のたかったなにか腐ったもの等大砲では放てないものが降り注いてきている。殺傷や拠点破壊を目的としたものというよりは、嫌がらせのようなものだ。死傷者は特にでず、たまたま迎撃拠点に命中しない限りはさして被害がある訳でもない。

 

 そのうえ奴等は、決められた時間通りに投石を繰り返している。今では退避行動も慣れたものであり、危機から逃れてきたというよりは緩んだような、戦場とは思えないようなどこか弛緩した空気すら流れていた。

 

 「敵軍が動く様子もなく、今日も投石だけか」

 

 「投石と同時に攻め寄せて来るとしたら、多少なりとも動きはある筈だしな。毎日毎日、嫌がらせばかりでご苦労さんってとこかよ」

 

 上の連中はいがみ合うように互いに意見をぶつけているようだが、前線で敵を監視して何時攻めて来るかも分からない敵に備えているうちに、見張り達はある種の仲間意識が芽生えていた。それは良いことなのかもしれないが、悪い面に作用することもある。

 

 毎日行われるハラスメント攻撃に、全員がどこか弛緩した雰囲気で対応していた。危険でこそあるが、精度が低く対応が容易な攻撃。種族間の軋轢がでていたうちは、ある種の緊張感が常に保たれていたといえるが、それも弛緩した空気によりどこか危機感が薄れていた。

 

 そして、戦争において慣れと弛緩はどんな結果を生み出すのか、彼等の上層部を含め誰一人として分かっていなかった。投石開始の伝令こそはでていたが、それだけだった。

 

 「あと数十分もすれば、何時も通り攻撃もやむだろう。そうしたら一応は配置について被害が出ているか確認を…」

 

 避難壕の中に、なにかが投げ込まれた。岩が剥き出しの床に瓶が当たり、黄色の液体が周囲に広がり刺激臭のする煙が巻き起こる。

 

 最初に異変を感じたのは、コボルトであった。直後半獣でも、嗅覚に優れた者が口と鼻を抑え始める。眼球の充血と痒み。涙と鼻水がボロボロと溢れ、嘔吐感が身体の内側からこみあげてくる。エルフが吐き気に悶え苦しむ頃には、症状が早い者は喉を抑えながら苦しみのたうち回っていた。

 

 「ぞどだっ!どぐ…ぞどにでれば!」

 

 動ける者が避難壕から出る階段を昇り始めるが、先頭を行く者の頭に風穴が開き脳髄が弾け飛ぶ。その者が最後に見た光景は、雪原に溶け込めるように白色の衣装を着た一団が火薬臭のしない弩をこちらに向けている光景であった。

 

 そして、火薬の臭いは別の場所から流れていた。

 

 「準備良し……3……2……1……っ」

 

 爆発音が幾つか響き、避難壕の出口が塞がれる。穴掘りが得意なコボルトが中にいようが、有毒ガスのおかげでロクに動くことすらできず、なまじ嗅覚が優れている為真っ先に症状が現れ沈黙していった。

 

 同じことが、一部の防衛線で、複数の避難塹壕にて巻き起こる。絶望のうめき声は地下の中で響き、地上に届くことはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 北部反乱軍鎮圧部隊隊長、ガルコス=フォーネ=シュネルウ。伯爵の位を持ち帝国では北西、連合王国との国境に領土を持つ帝国貴族の一人だ。

 

 国境沿いの領土と言っても、壁のような山脈地帯に深すぎる渓谷、毒虫や有害ガスがあふれ出る地形であることもあいまり対連合王国との関係においてさほど重要視される土地ではなかった。

 

 表面上とはいえ、平和な時代が続いたこの時世において齢五十にしてようやくの初陣を果たすこととなる。帝国では十五年前に初の士官学校が開校してはいたが、戦争経験がなく年が行き過ぎたガルコスがそこに通うこともなく連合王国との戦争が予想されるポイントに派遣されることはなかった。

 

 老将軍には、反乱鎮圧をしてもらいそれで戦争貢献ということで納得してもらおう。幸いにもガルコスの持つ部隊は質が悪い訳ではない。むしろ、武装の種類という面では役に立たないと思われることでも投資を続けてきた故に使えるかどうかは別問題として充実はしていた。

 

 「慣れは油断を呼び、油断は死を呼び寄せるというものだよ」

 

 馬に跨り望遠鏡を覗くガルコスは、浸透打撃小隊が敵が作り出した防衛網を破ったという報告に満足げに頷いていた。

 

 「例え蛮族の寄せ集めとはいえ、地の利に加え身体能力を考えればまともに当たれば軍にも被害がでる。まずは防衛網に穴を開け、そこを中心に攻撃を加える。特別に訓練を重ねた浸透打撃小隊は敵本陣にて攪乱し脆弱な伝達システムをさらに破壊する。奴等は上の指示をうかがうこともできず、孤立してバラバラに動く者達を討ち滅ぼす。机上の空論と笑われたものだが、試してみるものだな」

 

 軍史を研究するのが趣味なだけの素人だと考えていたが、存外に策略に関してよく考えられている。時代遅れとなった投石機の研究投資をする等奇特と思えるような行動をおこすこともあるものの、長年領地を平穏無事に運営してきた実績から無能ではないということか。

 

 だがしかし、この方法では奴を戦地に引きずりだすことができない。この山々に連なるコボルトの洞窟、出入り口が幾つあるか等想像もつかないし短時間で調べられるものでもない。そのうちの一つから、ランザ=ランテやジークリンデが抜け出し空に飛び立てばその後の捕捉はまた困難を極めるだろう。

 

 勝ちすぎては、いけないのだ。

 

 勝利に絶対はない。だがしかし、やるからには極めて高い値まで可能性を高めておきたい。この作戦ならば確かに反乱勢力は駆逐できるかもしれないが、それまでだ。こちらの目標を果たすことはできない。奴をこちらが有利な戦場まで引きずりださなければ、次の機会が何時になるか分からない。

 

 今帝都の人心は大きく乱れている。連合王国とそれに続く同盟国の圧力に対抗するのは、人心の心に自信を取り戻すことと、国民の愛国心を回復させ帝国と軍に対する信頼や支持を回復させる必要があるのだ。反乱勢力征伐等、今となってはなんの意味があろうものか。

 

 必要なのは、帝都の五分の一を潰した二体の首級。私はそれを手に入れる為に、手段は選ばないと決めたのだ。それでこそ、愚かな行動をとってしまったが、愛国心こそ本物であった亡き息子への手向けともなる。

 

 ガルコスの近くから離れ、天幕の裏に向かう。

 

 「計画通り、動いてはいるか?」

 

 「ああ、勿論。だが本当に、大丈夫なんだろうな?このままでは、お前の策が上手くいくとは思わんぞ」

 

 「余計なことは考えずとも良い。時期が来たら動け、以上だ」

 

 「時期……ねぇ。まあいい、俺達はアンタとの取引に乗ったんだ。精々、期待させてもらうさ」

 

 手を汚し続けてきた。そしてこれからも、汚し続けるだろう。全ては、帝国の繁栄と人類の誇りの為に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ハッ!ハハハハッ!……はっ~…馬鹿かお前」

 

 しばしの沈黙の後、声をあげたのはジークリンデだった。手のひらで片目を抑えるように、顔を上にあげて嘲笑する。そして、前を向きなおしたその瞳には侮蔑の色が含まれていた。

 

 「寝ぼける前のお前はそんな詰まらん願いをするような阿呆じゃなかっただろう。巖のように動かず、されど一度動けばなにもかもが灰燼なる。トータルの殺害数はオレやクソアサンよりよほどぶち殺してやがるクセによ。かつての世界最大の都であるボンペイを、噴火からの災害で都市の全部を灰と岩の下に沈めやがったじゃねえか。ああ、あの時は地揺れのせいで高波までおきたっけなぁ。十万人、少なくともそれだけの人間やその他種族を虐殺した。そんな奴の言葉とは、思えねぇなぁ」

 

 十万人。現在の帝都に等に比べれば劣る数ではあるが、それでも桁違いの人数だ。少年の姿と丁寧な物腰で緊張感がもてなかったが、ジークリンデの言うことが本当だとしたらとんでもないことになる。

 

 「まああん時はオレも驚いたぜ。てっきり溶岩でも垂れ流すのかと思ったら、ガスや灰、岩石で住民が逃げ出す間もなく都市を埋め立てるなんてなぁ。いやあ、悪竜なんて名乗っちゃいるが悪意の意味ではオレよりもよほど」

 

 「過去の、汚点です」

 

 なにかを堪えるような表情をしていたが、それでもランドルフは口を開いた。その目は、まっすぐ前を見ている。

 

 「彼等はやりすぎ、私の我慢も限界だった。しかし、皆殺しにするのではなくなにか他に方法があった筈なのです。それに気づくことができなかった、私の若さと愚かさに責任の全てがあります。ランザさん、クーラさん。確かに私は竜種の中では人を殺しすぎた存在です。身勝手な話ではありますが、出来ることならば、先程の懇願とは分けて考えてはくれないでしょうか?」

 

 「まあ、オレが言うのはお門違いって話だけど、見た目通りの善良さじゃあねえよ。反省とか、自戒なんて検討外れなことでもしていやがるのか?追い詰められたひ弱な連中を助けて、罪悪感でも拭いたいのか?どのみちくだらねぇ、やるなら手前等でやりやがれ」

 

 嘲笑混じりの悪竜の言葉に、否定も肯定もしない。ただこれ以上口を開いても、なんの意味がないことを理解しているのだろう。ただ、俺の返答をランドルフは待っていた。

 

 「事情は分からないし、知らなくても良いと思っている。だが、二つ教えてくれ。過去の話が本当ならば、別に俺達の力なんざ借りなくても良い筈だ。そしてなんでお前は、この地に逃れて来た連中に肩入れするんだ?」

 

 「まず一つ目の質問ですが。今私は、この場を動くことができません。この土地は、いえ……この大陸は壊滅します」

 

 どういうことかを問おうとした瞬間、悲鳴に近い声が響いた。声の主は、俺達をここに案内してきたコボルトのものだった。

 

 振り返ったクーラの目が、鋭くなる。背中に、弩から放たれる短いボルトが大量に突き刺さったコボルトが、フラフラになりながらこちらに向かってきていた。この神殿と入ってきた穴を繋ぐ橋の途中で、コボルトは倒れる。

 

 駆け寄り、状態を確認するが助けることができそうにもない程重症だった。ここから回復するとなれば、ジークリンデの贄と引き換えにする回復術くらいではあるが、悪竜は特に動く様子はない。もっともここまで来たところで、それを行うとは到底思えないが。

 

 「敵……強い…助けを……ラン…フ……さっ」

 

 「ダメ、死んだよ」

 

 限界だったのだろう。息をひきとる様子を見て、クーラが首を左右に振った。背中に突き刺さるボルトを一本引き抜き、確認する。

 

 「ここまで小さいボルトは初めて見た。重量を軽くして、携行量を増やしているのかな?重鎧は貫通できないかもしれないけど、原始的な装備や軽装備のコボルトや半獣、エルフには効果抜群だね。本気で来たみたいだよ」

 

 「戦争に備えているのならば、当然防御陣地はあっただろう。なんでまた、こんなにすぐ攻め込まれちまったんだ」

 

 まったく話が進んでいなかった会議の場では、敵の陣地に攻撃するか否かを論じていた筈だ。つまり、まだこちらから先制攻撃ができるチャンスと余裕があったという話になる。殺伐としてはいたが、そこまで余裕がない訳ではないように思えたが。

 

 「まあ、相手は大陸最大の国が持つ軍隊。こっちは団結もできない寄せ集めでできた烏合の衆。帝国が本気になればこんなもんかもしれないけどさ……どうする?ランザ。逃げるなら混乱しているだろう今のうちだと思うよ」

 

 「ここには半獣、お前の同族だっているだろう。逃げても良いのか?」

 

 「別にさ、だからってわざわざ助けなくたって言い訳じゃない?希望にすがりたくなるのも分かるけど、連合王国についたってなにもかも上手くいくとも限らないしさ。ただまあ……」

 

 複雑そうな表情を、クーラが浮かべる。言うべきか、言わないべきか悩んでいるようだ。クーラの心境を多少は垣間見た身ではあるが、大きな感情を理解できただけで本人が隠していることまでは分からない。

 

 「言いたくなければ、言わなくても良い」

 

 頭をグリグリと撫でてやると、クーラが顔をあげた。本当に良いのかと、口に出さずとも顔が語っている。

 

 「ここの連中には、世話になった。火竜の思惑があろうがなかろうが、それに間違いはないんだからな」

 

 振り向くと、肩をすくめるジークリンデが見えたが、なにも言わずに歩み寄ってくる。

 

 ここに俺を運んで飛んできたのは、彼女だ。口では憎まれ口を叩きながらも、見方によっては火竜を頼りに俺を運んできてくれたと言えるだろう。そうなのだからこそ、これ以上はなにも言わないのかもしれない。

 

 「馬鹿な連中だぜ、どいつもこいつも」

 

 「わざわざ付き合う、お前もじゃないのか?」

 

 手を絡めた瞬間、舌打ちが聞こえた。いつの間に手に握られているのは、古ぼけた封印の剣だ。そして剣は、連結した刃となる。やはりお前は、封印なんかされていないのだろう。俺は、この悪竜にずっと護られてきたという訳だ。

 

 そして、それがバレているであろう今もそのスタンスを変えるつもりはないらしい。積もる話は後回しになってしまったが、どう切り出せば良いかも分からんなこれは。

 

 重い物が落ちる音。発生源を見ると、これまでの旅をずっと支えていた散弾銃が落ちていた。帝都にて紛失したものだと思っていたが、このタイミングで現れるということはジークリンデが持ち続けていたのだろうか。あんなにこの銃を、毛嫌いしていたのに。

 

 鈍器にくらいはなるだろうと考え拾うと、少しだけ重量がある。よく見ると、切り詰めた木製のストックは黒く変色し触り心地が鱗のように滑らかになっていた。銃身の内部を見ると、既製品ではない見覚えがない弾丸が詰まっている。骨のような、白色の弾丸。あの戦いで、悪竜が放ったブレスを思い出す。

 

 片手で連結刃を握り、片手で散弾銃を持つ。今まで、ジークリンデを扱う際は毛嫌いしていた散弾銃を使えなかったものだが、何度か思い浮かんべていた戦闘スタイルではあった。

 

 「ランドルフ!」

 

 神殿の入口でこちらを見るランドルフに声をかける。苦渋の表情から、こちらに駆け寄りたくても近づけないことがよく分かった。

 

 「アンタの話は今は置いておかせてくれ!だが今は、俺をここに置いてくれた恩に報いようと思う!まずはそれで、問題はないだろう!」

 

 「ええ、よろしくお願いします。どうか、みんなを助けてやってください」

 

 深々と頭を下げるランドルフに背を向け、クーラと共に走る。彼女も既に直刀を握り腰に差したルーガルーの短剣も何時でも抜けるようにしている。

 

 「片目だが、支障は?」

 

 「慣れるまで流石に時間はかかったけど、問題ないよ。遠近感が掴み辛いから、まだ投擲の精度はそこまで良くはないけど、近接戦闘なら前と同じくらい」

 

 「そうか。背中は任せた、クーラ」

 

 「オーケー。任さーれーたっと」

 

 連結刃を握る拳の甲と、直刀を握る拳の甲を叩き合う。本当に、頼もしい子だ。

 

 戦地に向け、来た道を登りながら戻っていく。その足取りは、想像以上に軽かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ククリナイフの、滑らかにカーブを描く刃が首筋を裂く。血を浴びるのもいとわず、その死体を盾しながら後退。飛んでくるボルトを防ぎながら、岩陰に身を隠す。

 

 「女子供の避難は!?」

 

 「コボルト共の住居にひとまず向かってもらっているが、芳しくねえよ!なんでまたこんなに急に敵が来るんだ!前線の連中はどうしたんだ!?」

 

 「俺が知るか馬鹿野郎!とにかく連中を足止めしろ!なんにせよ、いざという時の避難路に向かわせるにも時間がかかる!」

 

 「分かってるよ!……ガラン!左の通路からも!」

 

 複数の通路からの挟撃。刺突剣や短槍、火薬つきの手投げ弾で反響する音が洞窟に響き渡り、耳がいかれるかと思えば今度は音が小さい弩弓からボルトや投げナイフが飛んでくる。

 

 波状攻撃に、仲間も随分やられただろう。当たり前だ、前線崩壊どころか帝国軍攻撃の報すら来ていない。せいぜいいつも通り、精度の悪い投石が嫌がらせ程度に飛んできていただけだ。洞窟を護る為の配置や武装、迎撃準備などできていない。せいぜい戦えない連中を奥に逃がすだけが精一杯だ。

 

 「手前は行け!」

 

 「は!?なにを言ってやがる!?」 

 

 「ここはもうダメだ!せめて山の反対側に、女子供だけでも連れて逃がしてやるんだ!指揮はテメェがとれ!生き残りをかき集めて落ち延びろ!」

 

 「ふざけんなガラン!お前がいなければ…」

 

 口答えしようとした半獣の首筋に、ククリナイフを添える。突然のことに怯んだ隙に蹴り飛ばし、洞窟の奥におしやる。

 

 「お前等じゃ足止めすらロクにできねえだろうが!それにいると邪魔なんだよ!気が散るからとっとと失せろ雑魚が!」

 

 「ガラ……っ…すまえねえ!」

 

 半獣が、走り去る。二方面から敵は来るが、狭い通路だから迎撃はできなくもない。一度に二人を相手にすることにはなるが、囲まれるよりはマシだ。思い出せ、奴隷商人から仲間を開放した時は今以上に敵の数が多かっただろう。

 

 まあ、その時の敵は目の前に迫る脅威よりも練度が低かった訳だが。

 

 遠距離攻撃をしよと弩を構えた兵士の首に、投擲されたククリナイフが突き刺さる。腰から新たなナイフを引き抜き、構えなおす。

 

 「どうした腰抜け共!チマチマ遠巻きから打ったって俺は殺せねぇぞ!金玉ついてんならかかってこいやぁ!」

 

 刺突剣と短槍を迎撃する。空間の狭さで囲まれる心配はないものの、逆に言えば回り込むことや跳躍により上方からの攻撃ができない。贅沢は言えないが、やり辛さがある。

 

 「っらぁああああああ!」

 

 刺突剣を弾き、懐に斬り込み白く塗装された軽鎧の隙間に刺しこむ。相手が怯んだ隙に壁を蹴り、頭が天井にぶつかるギリギリの低空三角飛びで短槍持ちの頭に蹴りをぶちこんでやった。

 

 二人の兵士が倒れた合間をぬって、ショーテルを構えた兵士が突撃してくる。足元に転がる岩を蹴り飛ばし、そのうちの一つが股間に命中した。

 

 「しゃおらぁ!これは効いただ…ろ?」

 

 スピードを落とさず向かう兵士。僅かに女性から放たれる臭いが嗅覚をとらえる。

 

 「こんなところに、金玉ねぇのいるのかよ」

 

 迎撃、間に合うか?体制が悪い、無理矢理ククリナイフで防御をしようとするが弾かれて飛ばされてしまう。体幹がぶれた隙に、半月のような刃が首に迫る。ざまあねえ、戦場は雄の世界だと思っていた思い込みで、こんな死に際を迎えるのか。

 

 すまねえみんな、大言吐いて行かせたってのに、足止めすらロクにできやしねえとはよ。

 

 ざまあねえ終わり際だが、せめて瞼は閉じない。首一つになっても、その喉笛に食らいつき噛み千切ってやる。

 

 世界がゆっくりに見えたと思い、迫る刃を見ながら走馬灯が駆け巡りそうになった刹那、急激に世界の早さが変わる。

 

 一枚一枚が独立した、黒と赤の禍々しい刃。太い幾本もの太い血管のようなものに繋がれた異形の武器が、迫る兵士を両断した。

 

 「世話になった恩を、返しに来た。微力ながら、助太刀する」

 

 散弾銃と、見たこともない剣を構えたあの男が。凄まじい圧を放ちながら立っていた。




 都市ボンペイの元ネタは、イタリアにあるポンペイ遺跡です。凄まじい悲劇と災害に見まわれた古代の都市ですが、現在は発掘作業が進んだり観光地となっています。一度観光に行ってみたいですね。
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