家族の仇は、娘でした 作:樫鳥
ランザの噂は、いろいろ聞いていた。主だってはエルフの連中からだが、まあ侵略者だの略奪者だの血も涙もない卑劣漢だの散々な言われようだ。
まあ過去に色々あったみたいだから、話半分くらいで丁度いいとは思ってはおり、あまり悪印象は持てないでいた。クーラ=ネレイス。同じ半獣であり、その風貌から幸せとは言い辛い半生をおくってきたのは想像に難くない。そんな彼女が、懐いているくらいなのだからそこまで悪い奴には思えなかった。
なんだかんだ言って、俺達半獣は人間全員が敵等とエルフ共みたいに排他的な思想を先鋭化するつもりはない。極少数派ではあるのだが、まあ中には嫌悪や敵意以外の感情を向ける存在だっている。それに、この世界の覇者は間違いなく人間だ。最低でも交易や取引等の干渉を受けつつも敬して遠ざけるくらいの関係性を築けなければ、半獣という存在に未来はないだろう。
だからこそ、多かれ少なかれ打算や政治的配慮はあろうかとは思うが、受け入れを表明してくれた連合王国には多少の期待はしている。この男が王国出であるのならば、口利きとまでは言わないが友好関係を築ければ向こうの使者に対してもアピールポイントになるのではないかという打算もあった。
それだけの、存在だった。悪竜とかいう女と帝都の五分の一を崩壊させたとかいう話は聞いたが眉唾ものだ。確かに鍛えられてはいるが、そんな馬鹿なことを生身の人間が出来る訳がない。
俺には理想がある。何時か半獣と、居場所がないと思う者達を集めた、自治州のようなものを打ち立てたい。だが、追いたてられて食うにも困る生活を送る現状ではそれも夢のまた夢だ。何者にも干渉されない力さえあればと、歯噛みしたことが幾度あっただろうか。
そして今、目の前でその力が振るわれていた。それは技というには荒々しく、暴力というには美しく、戦いというには残虐すぎた。
蛇のようにうねる刃が狭い通路で渦巻き、敵を近寄らせない。胴体を貫通した刃が花開き血の雨を降らす。刃と刃の打ち合いさえも許さず、ガードをかいくぐるように敵の急所に吸い込まれていく。まるで刃がそれを望んでいるかのように、派手な流血が周囲に飛び散った。
仲間の犠牲をものともせずに前進をしてくる敵。異質な攻撃に多少は怯むかと思っていたが、目の闘志は消えていなかった。むしろ、殺意と憎悪が増しているようにも見える。
クロスボウによる援護を受けながら、敵が前進を開始する。成程、確かにあの連結した刃は本来なら広範囲に敵をなぎ倒すことができるのが強みの武器だ。リーチの長さに気をとられそうになったが、この狭い洞窟では強みを発揮できない。
数人を犠牲にしながら、兵士の一人が肉薄する。通常の刺突剣よりも幅が広い、斬撃にも対応できる剣が突き出されるがそれを顔を反らして回避する。連続で攻撃をしようと剣を一度引いた瞬間、ランザは踏み込んだ。
頭突きをするのかとでも思った瞬間、顎が裂けその顔は柔毛覆われた狼のものに変化する。大口を開けて鎖帷子で覆われた首筋に食らいつき、引きちぎる。唐突な変化に、束の間訪れた静寂。ただ、肉を咀嚼する音だけが洞窟内で反響した。
『いけねぇな』
血と肉の塊が口から吐き出され、壁にへばりつく。咀嚼された肉が、ぐちゃぐちゃになったそれが粘着質な音をたてて地面にずれ落ちる。
『なかなか美味くてつい呑み込むところだった、そこまで人間やめたつもりもねぇのによ』
それは、本心か、それとも士気を落とす為の演技か。食われてしまうかもしれないという、原初的な恐怖。後ろで見ていた俺ですら怖気がはしるというのに、それを目の前で見せつけられた者達の表情は、兜から覗く目からでも分かる程凍り付いていた。
こうなると、もう近接戦に持ち込もうと考える者はいない。遠巻きにクロスボウを打ちながら少しずつ引き始めている。
ランザは手元の死体を持ち上げ盾とする。その腹部に散弾銃を突き付け、射撃。肉と鎧を貫き散弾が舞った、と思った瞬間銃弾の破片の一つ一つにオレンジ色の光が灯る。
小さな火の蜥蜴達が、生命を与えられたように自立して飛び回る。それは動く者に殺到し、軽装備等軽く貫通し人体の内部から炎を揺らめかせた。まるで人間一人一人が、松明になったかのように燃え上がる。こうなれば、もはや敵に戦意はない。中には武器を投げ捨て逃げ出す者もいた。
そして、恐怖と悲鳴は伝播する。狭い洞窟内に、人間の悲鳴が響き渡った。
「数人間引こっか?」
『任せる』
どこからか現れた、灰色の影が走る。直刀と歪なナイフを手に持ち失踪するのは、ランザと共にここに逃げ込んで来たクーラだった。鎧の隙間に刃を滑り込ませ、血を流す。痛みによる苦痛の声が恐怖を増長し、もはや戦闘どころではなかった。
「追撃、どうしよっか?」
脇腹から刃を引き抜く。飛び散る血が顔にもかかるが、平然と話しかけていた。
そりゃあ、人殺しなんぞこなれていればこれくらいは平然としているだろう。それに年齢なんてものは、関係ないかもしれない。半獣というならば産まれた時点で多かれ少なかれ苦労はしているし、犯罪に手を染める者や俺等みたいに奴隷商人を襲撃したりして人殺しをすることだってある。
だがしかし、その隻眼は輝いていた。まるで児童が親の仕事を手伝って褒められたかのようにだ。
『放っておけ、それよりもこの蜘蛛の巣か蟻の巣みたいな洞窟だ。分散している連中がいるだろうしさっさと仕留めにかかろう』
「オーケー、なら手早くいこっか。一応自分が把握している限りだけど、他に敵が集まってきているとしたら……って、もしかして臭いで分かる?」
『鼻が利くからな』
次の敵がいるであろう場所に、二人は歩く。その後ろ姿を、俺は呆然と見送るしかなかった。
あの二人は、もっている。暴力や理不尽に、屈しないだけの力をだ。
俺自身、最初は周囲にただ反発していただけだった。底辺の肉体労働が気に食わないから労働施設から脱走し、ただ単に半獣を利益として懐を温めている奴らが気に入らないから襲撃し、飯が食えねえって痩せている奴の近くに不健康な脂肪をぶら下げた奴がいたから金や飯を強奪しただけだ。それが気づけば、大所帯を引き連れて歩くことになっていた。
だが本来、俺には群れを率いるカリスマも実力もない。他の連中も、別に立てるやつがいないから暫定的に俺を頭目に据えているだけだ。いざという時、みんなを護れる器じゃないのを知っている。現に、当時異国にいた際、帝都にて有力議員が半獣をはじめとした亜種の保護政策をだした時は後のことまで考えず色めきたったものだ。
だがしかし、そんなものは反対議員に潰される。現にそれを提唱した男は、暗殺により命を落とした。結局それにより勢いを殺され、反対派に法案が叩き潰されてしまう。政策の発動まで秒読みというタイミングでだ。
そのせいで、帝国で集まった俺と仲間達はまたも逃亡を余儀なくされた。それも、今度は袋小路になるこんな北の山脈地帯にしか逃げることができなかったのだ。
本心を言えば、連合王国の甘言だって信じ切れちゃいない。だがしかし、疲れて、心身共に傷つき、飢えた仲間達には希望が必要なのだ。例えその希望が、苦しみを長引かせるようなものであってもだ。ここが最後の山場であると皆に伝えないと、瓦解してしまうのは目に見えている。
「……はっ」
人となりを見た訳ではない。どんな過去があるか等分からない。腹の中になにを考えているのか等、さっぱりだ。
だがしかし、担ぎ上げるだけの価値はある。あの人間であり、人外である男には。幸い同族もよく懐いている。みんなを説き伏せる材料にはなる筈だ。
「どのみち手詰まり感があったんだ、賭けてみるのも悪くはねえだろう」
どうせ、ここで終わりなら後はもうなにも残らない。有り金全部つっ込むのは、悪くないと思っている。みんなには、俺の賭けに付き合ってもらうことになるが、どうせ泥船だ。船に火をつけて敵に突っ込ませるくらいの覚悟が無ければいけないだろう。
「おい!待ってくれ!俺も行く!」
ならば、やってやろうじゃねえか。見極めてやる。この男の行動、戦い、思考を。そして仲間を説き伏せる材料をそろえる。それだけの価値はある筈だ。
本気じゃない。クーラは、肌で感じていた。
この山脈はコボルトが掘りまくった洞窟が複雑に入り組んでいる。その内部を理解していなければ、どう攻めようが不利だろう。現に、今洞窟内では敵を押し返し始めていた。
コボルト達の住宅地。広い空間に幾つかの階段が作られており、まるで一階、二階、三階と別けられているようだ。壁に添うように幾つかの穴が掘られ、そこに避難した非戦闘員達が隠れている。
「射て」
その段差に、エルフの射手が並ぶ。空間は広くても、入口は狭い。押し込んで来た者達は、交差するように射撃され死体の山を築いている。
「この調子なら、突破されることはないだろうよ。上手く切り抜けられそうだなエルバンネ」
「……」
「エルバンネ?」
難しい顔をしているリーダーを、怪訝そうに見つめる。勝てる戦いでなにをそんなに不満そうにしているのか、彼には分からなかった。
別の場所では、兵士の一団が洞窟を進んでいた。前方には石の盾を並べたコボルト達が槍と石斧を構えている。そのまま突き進むよりは煙幕かなにかで視界を遮った方が良いと判断したのか、それとも火炎瓶のようなものでも投げて来るつもりか。
その瞬間、足を止めた一団の背後にあった壁が崩れる。振り返った兵士の頭上に、巨大なツルハシが突き刺さった。
「我等の住処に押し入って、生きて戻れると思うなよ」
先頭のロウザが突き進む。手に握る石斧を振り上げ、ガードごと敵の身体を叩き割りながら進む。前後から挟まれる形となった兵士団は、圧搾されるように叩き潰されていった。
地形を知り尽くしている上に、その構造すら自分達の有利なように掘り進むことができる。防衛にも奇襲にも、いかようにも状況を変えることができた。
「次に行くぞ。侵入してきた連中に地獄を見せてやれ」
咆哮をあげ三部隊に別れる。ここに初めて来た敵が、どこから来てどこに逃げていくのか、理解しきっている。為すべきことを為す。何故ここに敵が来たのか、考えるのは後で良い。聖地を護る、それだけが吾の行動原理であった。
所が変わり、洞窟で一番広い通路。不揃いの得物を持つ半獣部隊が敵に襲い掛かっていた。その中心には、ガランと彼が強制労働施設から脱走する時について来た仲間達。そして、奴隷商人を襲撃し続けた際に解放した仲間達が並んでいた。
「続けや野郎共!今なら押し切れるぞ!」
ガランの指示で、失いかけていた士気が戻る。先頭にて刃を振るう男のサイドを固めるように、半獣が前進。近接戦闘になれば、普通の人間よりも潜在的身体能力が高い半獣達がものを言う。
形勢逆転することで、逃走する兵士達。敵の撃退に関してはこれで良いのだろうが、襲撃にしては手抜きにすぎる。敵の諦めも、早いように感じる。
そもそも、この装備だ。転がる一つの死体を確かめる。鎖帷子を主にした軽さを重視した鎧に、重火器が遠距離戦の主流になりつつある今のご時世には似つかわしくないクロスボウガンはまるで大きな音を出すことじたい嫌がっているように思える。そして何故、わざわざ鎧に白い塗装を?帝国兵士の様式は、基本的には赤色であったはずだが。
「いや、違う。これは、時間稼ぎだ」
やられた。ここは、ほぼ一年中雪が降る、大陸最北の地であることを忘れたか。白い塗装というのは、つまりそういうこと。自分の得意分野ではないか。
「ガラン!ここの出口ってどこ!?できれば高いところから南側を眺められるようなところに出る道を教えて!」
敵を蹴散らしたことで、一時の歓喜による歓声をあげる半獣達をかき分け、リーダー格であるガランに声をかける。
「早く!取り返しがつかなくなる!ランザも来て!」
「え?お…おお!こっちだ!」
ガランに案内されるまま、駆ける。上へ上へと昇る通路を進むに連れ、最悪に向かっているだろうが、確信を得ないことにはどうにもならない。最悪、ここで臨終となる前になんとしてでも逃げ出すべきなのだ。
光に目が焼き付く。いざという時ここから逃げ出す為に、ある程度の抜け道は把握していたがまだ来たことのない出口に到着することができた。静かに降り注ぐ雪原の情景は、下に広がる景色と半比例したものだった。
帝国軍に対応する為に、有り合わせ、間に合わせで築陣した防衛地帯。そのほぼ全てが、帝国兵の赤い装備により染まっていた。限られた状況と資源でも、地の利を活かして戦えば互角以上に渡り合える。そう考えられた基地は、さらりと陥落したのだ。
「やられたな」
「ごめんランザ、この可能性に気づけなかった」
投石が同じ時間に繰り返され、軍が動く様子はない。その情報だけで、こうなることは予想ができた。
同時刻による投石による嫌がらせ。何時もと同じ行動だろうと高をくくり避難壕に退避した者達等、もう袋の鼠だ。白装備の連中は、雪山という背景に溶け込む為の装備だろう。だとしたら、素早く動く為細剣やクロスボウガン等の軽量装備なのも頷ける。
小部隊であちこちの防衛線を崩したら、そのまま止まらず本陣を襲撃。混乱する本陣から指示が降りる訳でもなく、戦うのも引くのも統制がとれきれない穴の開いた防衛線にいた者達は、時間をおいて押し寄せて来た敵本体により蹂躙されたか逃げ出すしかないだろう。戦っても、足止めすらロクにこなせない筈だ。
たかだか亜人の反乱勢力と油断し、力押しをしてくるような者達ならば話は楽であった。それならばいずれ突破されるにしても防衛線は持ち堪えたであろうし、なによりもそれならば姿をくらます時間が充分にあっただろう。
もう一度あの姿で、空を飛べればまた逃走できるだろうか。ジークリンデが、再度手を貸してくれるのだろうか。時間さえあれば、安全なルートを探索し確保したものを。
あそこでたむろしていた連中が陣形を整えなおし進軍すれば、今度こそひとたまりもない。いくら洞窟内がこちらに有利であろうが、もう今度は力押で充分すぎる程引き潰されてしまう。
「エルフだ、コボルトだなんだ言ってる場合じゃねぇなこれ」
すぐに情報を伝え、即防衛準備に取り掛からないと今度こそ殺し尽くされる。
大きく、角笛が吹き渡る。いよいよ総攻撃かと舌打ちをした瞬間、軍の動きが奇妙なことに気づいた。観察をしていると、奴等前進してくるどころか最低限の備えを残し、退却していっている。防衛線を叩き潰したところで、目標達成とした?だとしても、備え以外を引っこませる理由はない筈だ。
理由は分からないが命拾いはいした、釈然としないものではあるが。
「なにを考えているんだ?」
雪山の中腹にて、ランザの呟く疑問が響く。それに答える声はなく、ただ深々と積もる雪の中に問いかけは溶けていった。
将軍、ガルコスは部下の報告を聞いて小さく息を吐く。
「想定通りといえば想定通りだが、思ったよりも浸透打撃小隊の損害が大きいか。上手くいけば敵の大将首をそのまま狙えるとも考えていたが、それは高望みしすぎか?」
軽装備なれど、領地の兵士の中から戦闘力が高く行動力がある者達で編成した小隊だ。蛮族相手と言えど、奇襲さえすればそのまま本陣を斬り潰してしまうこともできるのではとの考えもあったがどうやらそこまで上手くはいかないらしい。
まあ、研究中の戦略ではあるしこの戦史も後に解析され、後に続く者達の分析や参考の一助となるであろう。計画通り前線基地は潰せはした、ここから先は力攻めで充分にすぎる。
敵は穴倉の中にこもるであろうが、無駄に多い洞窟の入口だ。多数の方面から休ませないように攻め続ければいずれは陥落するであろうし、ここからは火器や魔具の使用も許可できる為陥落までさして時間はかからないだろう。
「私も前線に赴き指揮をとろう。後方はガルシアに任せることにする。ガルシアはどこにいった?」
「天幕の方向に、探してまいります」
側近の一人が、ガルシアを呼びに向かう。やれやれ、作戦が上手くいき気に食わないのかもしれないが、部隊の長が戦場を見ることができない場でなんの判断ができようものか。皇帝は奴を気に入っているが、ここでは役に立たなさどころか足を引くことしかしていない。今回の件をありのまま伝え、いっそ竜狩り隊を一新するべきなのかもしれないな。
「ガルシアを待つこともない。誰か奴に、後方で裏方をしていろと伝えるのだ。護衛官、これより前線に向かう。ついて来るが良い!」
「悪いが、アンタに向こう側行かれちゃ、困るんだよ」
ガラの悪い、反発の声。なにを…と言う暇もなく、ガルコスの背中に数本の矢が突き刺さり、落馬する。
弓矢をつがえる護衛官達が、各々の兜や鎧を脱ぎ捨てた。金髪碧眼、白い肌をしたエルフの顔がその下から現れる。
「なっ……何故……エルフが」
「一枚岩じゃないのは、お互い様らしいな。内部に手引きがいる状況で潜り込むのは、簡単だったよ」
「ガルシア……奴か…何故」
ガルコスの額に、矢が突き刺さる。胸、首筋、心臓。あらゆる急所に至近距離から射貫かれ、老将軍はあっという間に命を落とすこととなった。
「ご苦労だったな」
「アンタか」
現れたガルシアに、エルフが応じる。彼等の目には悲痛な覚悟が現れており、これからおこることに抵抗する様子を見せることはなかった。
空を飛ぶ鉄馬が、周囲から現れる。帝国最強の竜狩り隊、その中枢をなす古参の本隊に囲まれようが、エルフはガルシアから目を反らすことはなかった。
「殺す前に、改めて誓ってくれ。降伏してくる同胞がいれば、受け入れをし人道的に扱うこと。なるべくエルフの連中は殺さずに生け捕りにし、奴隷商人に売買等せずに後に解放してやること。そして」
「ランザ=ランテの確実な討伐。逃がすことなく、この場で確実に決着をつけさせてもらう。ガルコス将軍が戦死された際は、私がこの軍を引き継ぐように皇帝から勅命を受けてはいる。二つの約束、必ず守らせてもらうぞ、勇者たちよ」
「頼むぞ。俺達はやはりランザ=ランテが憎い。二度も俺達の仲間を殺し尽くした相手に頭を下げ、共同戦線等死んでも無理だ。だが、俺達程度では奴を殺せなかった。付き人の、猫にすら妨害された。頼む、奴を必ず殺してくれ。アンタ等の遺恨ついででいい、俺達の怨みも晴らしてくれ」
「承った……エルフだ!エルフ共がいるぞ!将軍が射たれた!」
ガルシアの叫びと共に、エルフ達が竜狩りに襲い掛かる。無抵抗に殺されたのでは疑いがかかる為、最後まで全力で抗うことまでがこの演技の終幕だった。
槍で、銃器で、最後の抵抗をしにくるエルフ達が蹂躙されていく。帝国兵達が駆けつけて来る頃には、暗殺者達の死体が積みあがっている状況ができていた。そして、エルフの矢で死亡したガルコスも。
「将軍……クッ」
ガルコスの生存を確認する様子を見せ、首を横に振る。その顔には、悲痛さも織り交ぜる。
「将軍はお隠れになった!臨時で私が指揮をとる!エルフかコボルトか、まだ周囲に潜んでいる可能性がある!軍を一時下がらせろ!撤退の笛を吹け!」
追い詰めすぎたランザを、二度も逃がす訳にはいかない。奴を確実に殺す為に、将軍の死も利用させてもらう。
将軍の仕事である、反乱分子の討伐も完遂する。貴方の犠牲は、無駄にはしない。
撤退の角笛が響き渡った。ここからは、仕込みが重要だ。時間が惜しいが、全力で取り組ませてもらう。
私の所業は、許されるものではない。死後煉獄生きは避けられないであろう。だがその時は、ランザ=ランテの首をぶら下げながら胸を張って地獄の門をくぐろう。それだけの覚悟は、擁している。
さあ、ここから反乱分子討伐の戦ではない。竜狩りの戦を、始めるぞ。