家族の仇は、娘でした 作:樫鳥
比較的軽傷、重症ながら助かる者達。そういった者達には適切な治療と食料が与えられ、既に怪我人を集めた広間から各々の部屋やここよりは小さいものの複数人が寝れる大部屋に通されていた。
うめき声と咳。助かる見込みもなく苦痛を訴える声が響き渡る中、コボルトであるミルフは与えられた役目をこなそうとしていた。
石を削りだしたナイフを腰から引き抜き、雪を溶かした水にて刀身を清める。弱気な自分を叱咤するように犬歯で軽く唇を噛んだ。痛みで弱気が引くまで待ち、可能な限り穏やかな顔を浮かべるように努める。
衣装は、形からでも心身共に役目に入り込む為に必要なものだと考えている。ゆったりとした黒い、飾り気のないローブは相手に敬意を持ち送り出す為のもの。コボルトのシャーマンとして、その決意の表れであると信じている。
ここにいるのは主だってはコボルト達だ。他の種族には、異様な光景に見えるのであり最後は各々のやり方に任せているが、それでもちらほらと他種族の希望者もいた。誠意をもって、送らせてもらう。
「皆さん、大変お疲れさまでした。後のことは任せてゆっくりと休んでください」
祈りはいらない。ただ感謝の言葉を捧げ、命を見送らせてもらう。
照明代わりの蝋燭が揺らめく。その瞬間、横になっていた者達の影が引き伸ばされるように大きくなっていった。近くの一人に近寄り、感謝と労いの言葉をかけた後、石のナイフを影の中心部に突き刺す。
足をボルトで貫かれ、胸部に大きく歪んだ切傷をつけられ、喋るのが辛い程荒い呼吸で苦しんでいたコボルト。ナイフを影に刺された直後、息が徐々に穏やかになり目を閉じ眠りにつくように静かに息をひきとった。
代々、私の一族で継承を重ねて来た見送りの儀。コボルトに過度な装飾や演出、祝詞は不要。ただ感謝を伝え、安心を与え苦痛から解放し送り出す。普段ならば、もう年となり霊山の守護という役目を果たせなくなったコボルトがこの儀を受けて送り出される。
小さい頃から面倒を見てくれた者達を送り出すのは、役目を終えたと満足気に逝くとしても辛いものだ。それでも、限られた資源では役目を終えた者まで養うことはできない。辛くても、尊厳をもって送り出すのは役目なのだ。
そして今、こうして安楽の死を与え続けている。毎日毎日吐き気がする程のストレスであるが、この役目を放棄する訳にはいかない。
全ての者が、穏やかな死を迎えた後遺体は運び出されていく。コボルト族に墓はない。昔各地で生息していた頃はその土地に添った埋葬がされていたらしいがここ霊山では、最奥の神殿から溶岩の中に送るのが主流だ。
役目を終えた命は輪廻し、勤めを終えた身体は山に返す。無論エルフや半獣に同じ埋葬を強要することはないが、奇異にみられようがこれが私達の文化なのだから文句は言わせない。
「少し、興味はあるかな」
「ひゃひ!?」
誰もいなくなったと思っていたので、すぐ近くから響いた声に腰を抜かしそうになってしまった。影を司るシャーマンではあるが、まるでその影から這い出たように現れた存在に本気で驚いてしまう。
「影を斬って、対象を静かに殺める。良いな、欲しい技術だよ。今度教えてほしいな」
「こ、これはその、一族で受け継がれるもので、いろいろ鍛錬とか特別な技術とかその…」
「まあその話はおいおいしようよ。今は、伝言を頼まれてほしいんだ。良いかな?」
顔はにこやかであったが、目がぎらついている。目の前の少女、クーラ=ネレイスは先程まで敵陣地に偵察にいった時の様子を話し出した。自分で報告してほしいと思いつつ、間違えないようについつい覚える努力をしてしまう。ギラギラした目が怖すぎてお願いを拒否できなかった。
この子は、見た目は子供だ。でもある種信仰心に近い感覚を抱きランザ=ランテに尽くしている。
最初は小さな女の子の憧れかなと思っていたが、目を覚ましたランザを初めて見た瞬間色々と平穏な思考が吹き飛んだ。
私は影のシャーマン。多少なりとも、その人の人柄や性質等は影を見れば理解することができる。先代の母さんと違い、本当に多少なりともだが。
そんな私でも、ランザの影を見た瞬間全身が総毛立つ程おぞましい物を見た。人の姿をしているのに、その後ろの壁には大柄な狼とも歪な竜とも、醜悪な触手とも見えるなにかが蠢いていた。そしてその怪物からは、心が重くなるような悲しみと決意が渦巻いていた。
あれは、化物だ。直視できず、思わず逃げ出してしまう程に恐ろしかった。
正直今でも怖い。そんな存在に懐ききっているクーラも心配になってしまう。それでも、私からなにかをすることは余計なお世話なのだろう。まして、ランザから離れろなんて狂信に近い愛慕の念を感じるクーラに言える訳がない。冷静に見てみれば、彼女も彼女でちょっと怖い影の形をしているのだから。
怖いからこそ、一も二もなく私は二つ返事でクーラの願いを聞き入れた。これかランザもいる会議場に向かうのは気が重すぎるが、変にクーラの機嫌を損ねたくはない。
「じゃ、よろしくね。ああ後、今度その影の術について教えてよ。約束ね」
「はい……いやいいえ。あのそのこの術は…あの……えぇ」
素早く、行っちゃった。一子相伝の技なのだけど、今度教えてくれと言われたらちゃんと拒否できるだろうか。押しが強いし目が怖いから正直少し、自信がない。
大きくため息を一つ。もう今は、後のことを考えずにあの子に頼まれたことを済ませてしまおう。
「ミルフ!いるか!?」
会議場に向かおうとしたところで声をかけられる。呼びかけてきたコボルトの表情は切羽詰まっており、そんな顔で私に話しかけてきたということは要件はおのずと予想がつく。
「急変?」
「ああ、最悪また手を借りることになるかもしれん!すぐに来てくれないか!?」
クーラには悪いが、こちらの用事が私には大事だ。まあ会議が始まるまでもう少し時間があるのだから良いだろう。多少の遅れは目を瞑ってもらうことにする。
私の手が必要になるような、最悪がおこらなければ良いのだけど。そう願わずにはいられなかった。
古い仲を温める、なんて言うつもりはない。
ランドルフの野郎と腹の立つ会話でもしていれば、取り合えずは先程感じた気色のわりぃ感覚は薄れるんじゃねえかと思っただけだった。
半獣やエルフ共は距離をおくし、別段こちらから近づこうとは思わない。コボルトの連中は接触はしてくるものの妙に格式張っているというか気持ち悪い崇拝の延長線にいるような感じでオレが疲れる。ランザ本人だなんてもってのほかだ。
「しかしまあ、引きこもりにはたいした住処じゃねえか」
改めて地下、奥底にある神殿を見上げると荘厳なものだ。オレにもそんな遺跡はあったがほったらかしだったし、なによりここはコボルト共が改築や修繕を重ねているのだろう。
海竜や天竜にもそんな遺跡があるのだろうが、まあどうしているんだろな。海竜はほったらかしだっただろうし天竜はなんも考えてねーような奴だからやっぱほったらかしだろうな。というか、だいたい竜種は勝手に作られた遺跡や神殿なんてほったらかしだが。
神殿に行くまでの橋の中間、足を止める。背中に心地良さを感じるような、少し嬉しくなる気配。
「へぇ」
意外、と言えなくはない。だが、今の状況で仕掛けて来るとは後先を考えてないのがよく分かる。つまりそれだけ、一直線ということか。
尻尾を軽く薙ぐように振るう。刃と鱗が火花をあげる音が響き、軽い身体が弾き飛ばされる。溶岩までまっ逆さまかと思ったが、迎撃は織り込み済みだったのかいつの間に仕掛けていたのか橋の下に張り巡らされていたロープの上に着地をしていた。
「よう、クソ猫。この悪竜ジークリンデ様に喧嘩売る意味、分かってるんだろうなぁ?」
襲撃相手は予想外、いや予想内か?何時かはこんなことになるんじゃねーかなとは思っていたが、今来やがるとはな。きっかけは、まああれだろうな。
猫が、動く。溶岩上のロープ渡りをまるで地面に敷いた白線の如く素早く駆け、橋の下に潜む。
「隠れたつもりか?食うぞオラァ!」
背中に翼を開放し追撃、いくら溶岩の上に足場を張り巡らせようと、縦横無尽に飛び回る翼の機動力に勝てると考えているなら頭が足りない。その程度の浅知恵で喧嘩を売ってきたなら、溶岩の中に叩き落してやろうか。
羽ばたき、橋の下に突入しようとしたところ、半笑いのクソ猫と目が合った。橋の下には、縦横九列ずつ、八十一器もの大量のクロスボウガンがくくられて固定されており、引き金全てに紐が括られている。猫が手元にあった紐をナイフで切断した瞬間、歪な音と共に全てのクロスボウガンからボルトが射出される。
「野郎!」
尻尾、腕、背中から急遽出現させた連結刃で身体を巻き付けるように防御を固める。それでもガードの隙間から飛び込んできたボルトの矢じりが、皮膚を貫くのを感じた。
なんのつもりだったか知らねえが、クソ猫は帝国の連中が持っていたクロスボウガンを片端からせっせと集めていたらしい。それとも、半獣共が使う為に保管していたものを持ちだしやがったか。いずれにせよ、えげつねえ罠を仕掛けやがるものだ。
連結刃で動かしクソ猫に向かい攻撃を仕掛けようとするが、猫はボウガンの影に隠れる。薙ぎ払い、木々が砕け固定が壊れる音を聞くが猫の悲鳴も肉が裂ける音も聞こえない。
落ちて行くクソ猫は、途中あったロープを掴んで一回転。そのまま飛んで違う足場へと逃走していく。成程大したもんだ、身体能力は元より、溶岩に落ちるリスクを微塵も考えていねえ。ならばここからは自由な行動を許可しねえ。苦労して張った足場を連結刃で切断しつつクソ猫を追いかける。
連結刃の攻撃範囲は、奴の握る直刀やナイフなんかとは桁違い。そのうえ今隻眼である身の上、投げナイフなど投擲物の類は狙いに信頼性がないと話していた。すばしっこく動くが、刃の列がクソ猫の身体を削っていく。一撃で胴体を、或いは首を両断することも充分狙えたが今はそれをしない。
奴を壁際に追い詰めるように、足場を崩す。そうなればもう戦える場所は壁際にある狭すぎる自然の足場か橋の上くらいだ。そうなれば、こちらの機動力が物を言う為後は問題なく始末ができる。
残るロープは数本で、壁際のクソ猫。なに、落としはしねえよ、殺す前に軽挙な行いをいろいろ後悔させてやる必要がある。溶岩に落ちて死亡なんて、そんな面白くもねえ最後を迎えさせる訳にはいかない。
「もう逃げ場はねえぜ。こいつで楽しかねえ鬼ごっこもしめぇだ」
残り僅かな足場を崩す。斬られたロープが視界から消え、後はもう目の前の猫と対峙するのみとなった。最後の一本を足場に、今更ながら怯えと後悔の表情を浮かべている。
「袋の鼠だぜ。どうするつもりだ?」
「一応、聞いておくけど許してくれるつもりはある?今、凄く後悔している……本当に」
「どてっ腹に数本良いのもらったからな。これで許してやる奴がいたら、オレ直々にトドメ刺しにいってやるよ。それくらい、今ムカついている。楽に死ねると思うなよ」
身体が震えている……が、違和感。らしくねえ、今までランザにべったりだった関係上多少なりともこいつも観察していたが、命乞いをしたところを見たことがなかった。そして、気づく。怯えを含んでいたこいつの瞳の底にあるのは、悪意だ。
「……そう。なら、お前の負けだよ。悪竜ジークリンデェエエエ!」
視界の外から、なにかが飛んで来る音が聞こえる。最後に切った紐の先には、スリングショットに似た投擲機が固定されていた。どうやら、そこから飛んできたのか。
「あ?」
連結刃で、胸元に飛び込もうとしてきたそのなにかを斬ろうした瞬間、それより先に刃に赤く灯る火種がついた投げナイフが突き刺さる。そして次の瞬間、爆発音が轟いた。
悪竜ジークリンデ。正面から殺せるとはとてもじゃないが思えない。奴を倒すには、こちらを舐めている現状と相手の慢心をつくことが重要になる。
かつてランザが、悪竜を策にはめる為に死力を尽くしたという。ランザには申し訳ないが、それに関しては今の自分の方が上手くやれる自信がある。
必要な物は、侵入してきた帝国兵達の装備や蓄えていた洞窟の武器や道具をいただいて有り合わせで罠を作った。
特に最後の大袋は、中に大量の火薬と刃の欠片、エルフの矢から切り取った鏃、ボルトの鏃、鋭利な鉱石の欠片。殺傷能力を高める為にありとあらゆる物を詰め込んだ即席特大袋爆弾だ。ランザが煙玉と共に愛用していた物の、強化版。
これを確実に当てる為に、多重クロスボウガンによる一斉射撃でジークリンデを苛つかせ、簡単に崩れるロープの足場を用意して獲物を追い詰めるストレス解消の手段を与えてやった。アイツは合理性の塊ではない、愉快犯だ。そして悪意を発揮できる環境であれば簡単にこちらを殺さずに弄ぶように追い詰めるだろう。
だって、悪竜なのだ。のってこない訳がない。そうしてキルゾーンまで誘いこむ。
最後の袋爆弾の起爆だが、それは火種を仕込んだ投げナイフにした。投擲系に心配があると言っても、動く方向が分かるし的はデカいなら外さない。意図しないタイミングで袋が爆発しても困るし、ないより導線がない白い袋なのだから瞬時に爆弾だとは思わないだろう。
全ては、計画通り上手くいった。
壁に生えた避難予定の岩陰から様子を除く。悪竜ジークリンデは墜落し、溶岩溜まりの中にある点々と残る岩場の上でその身体を横たえていた。全身が赤く染まっており、その皮膚はズタズタ。だが、運の良いことにそのまま溶岩までは落ちなかったらしい。
ならば、確実に仕留めるだけだ。弱り切っても竜は竜、首を確実に落とさなければ意味がない。
ランドルフはあの遺跡から出てこない。邪魔することもできないだろう。ここから、自分の領分。暗殺、それが自分に最初に与えられた役目だからだ。
ランザを、誰かにとられるのだけは嫌だ。五年後、十年後まで待たなければいけないというのならば、五年後十年後まで彼を誘惑する全ての存在を排除する。例えそれが、伝説の竜だとしてもだ。
橋の上まで一度戻り、予備のロープを欄干に縛る。綱を降りる要領で下まで降りていき、足場の上に着地した。熱い、ここまで近づくとすぐにでも身体が危険信号を発してしまう。だがしかし、ここまで来たらトドメを刺した後遺体を溶岩の中に蹴り飛ばしてしまえば良いだけだ。
「ランザの傍にいるのは、自分だけで良いの。ジークリンデ、貴女はいらない」
よく研いできたルーガルーのナイフを、振るう。褐色の首筋に、ナイフが吸い込まれようとした瞬間、後数ミリというところで刃が停止。殺害を躊躇した訳ではない、押すにも引くにも一ミリたりとも動かない。
手首に強力な痛み。ジークリンデの伸ばされた腕に掴まれ、ギリギリと音をあげていた。
「悪いがそれを決めるのは、オレでもお前でもねえんじゃねえか?まあ、いらねえって言われても付きまとう気ではいるがな」
むくりと、ジークリンデが起き上がる。身体の前面から夥しい出血をしているのにも関わらず何事もなかったかのように平然な顔をしている。分かっていたつもりだけど、本当に化物なの!?
「いや、実際見事なもんだった。テメェを舐め腐っていたのは認める、最後の投げナイフを含めてな。ランザ相手にも、命中に不安があるなんてブラフかましていたとはな」
こちらを高く持ち上げ、顔を合わせる。自由な腕で直刀を引き抜き斬りつけようとしても、尻尾で阻まれた。蹴りを何度繰り返しても、体重が乗らず大した威力がでないうえに体幹が強いのかビクともしない。
「離……っせ!この!」
「だが、ちっと甘く見積もりすぎだ。この悪竜ジークリンデ様を、この程度の仕込みで勝てると思うなよ!」
腹部に、尻尾が鞭のように食い込む。内臓に絡みつく神経が軒並み危険信号を発し、胃液と血液が口内からあふれ出した。顔にかかるそれら体液を、ジークリンデは空いている手で大雑把にぬぐい取る。血塗れの顔に猛禽の笑みを浮かべた様は、悔しいけど、そんな場合じゃないのだけれども、一瞬でも美しく思えてしまった。
「せーっの」
身体が棒きれのように大きく振られ、岩に叩きつけられる。全身が痛みに苛まれ、逆にどこが痛くないのかが分からない。血反吐をせき込むこちらの顔を見て、「まだ余裕じゃねえの」と良い笑顔で呟かれた。これのどこが余裕だと言うのか。
後頭部を掴まれ、ジークリンデが翼を羽ばたかせる。浮遊感、首一つで全体重を支える感覚が辛い。なんて思うのも間もなく、顔面から橋の側面に叩きつかれた。そのまますりおろすように、押し付けられたまま引きずられる。失明している方だから視力は良いとして、皮と肉がこそげ落とされていく感覚が辛い。
「見れた顔になったじゃねえかクソ猫。ア?」
羽ばたき、高度が高くなったところからジークリンデが自分の顔を見てサディスティックにほほ笑んだ。舌をだして、こそげ落ちた顔面を舐めてやがった。痛いし気持ち悪い。
「まずい、やっぱり半獣なんぞ食えたもんじゃねえな。エルフとどっこいどっこいじゃねえか」
そのままゴミでも放り捨てるように、いや叩きつけるように橋の上に自分を投げる。背中から橋の石床に落ちて、勢いを殺せずしばらく慣性に従い滑る。摩擦で背中が鑢ですりおろされたかのようだ。
「がッ…ああぅ」
瞬時に起き上がれない。顔面の傷とか、背中の傷とか、今は色々痛むが気にしている場合じゃないだろう!起きろ!起きろ!動け身体!早く動け!
「そういえばお前、首絞めが好きだったよなぁ」
なんとか上半身を起こそうとしたところで、ジークリンデの足裏が首筋に食い込みそのまま石床にまた貼り付けにされてしまう。首の骨を折らないよう、呼吸器を圧迫。酸素を遮断され脳が危険信号を発し始めた。
「ランザ相手に何度、こいつで妄想した?それとも、苦しみを与えてくれる相手なら誰でも良いんじゃねえか?満更でもねぇ顔しやがってよお。ああすまんすまん、適当いった。さっきは良い面とかいったけどやっぱよぉ血塗れで皮も抉れて見れたもんじゃねえな、お前の面はよぉ!」
高笑いをするジークリンデ。
良いよ。殺そうとした、殺されるのも仕方ない。身体を削られるのも、顔を半分抉られるのも、仕方ないことだと受け入れてあげる。誰かが言っていたけど、戦場では、殺し合いでは、男も女も関係ないのだから。
だけど、その発言だけは許容できない。全身に力がみなぎる。
「へぇ」
ジークリンデの足に、握ったままだった直刀が突き刺さる。
「退けろよ……そこを……絞めて良いのは……ランザだけだ」
ジークリンデが直刀を引き抜き、刀が落ちる乾いた音が響いた。報復はない、まるでこちらが起き上がるのを待っているかのようだ。
「正直、何時ショック死しても良いんじゃねえの?てくらいは痛めつけたつもりだぜ。まだそんな元気があるのかよ。なあクソ猫、全身いてぇだろ。楽になっても良いころ合いじゃねえの?殺してくださいって言えよ、後はもう痛めつけねえ、楽に送ってやるよ」
コボルトの戦士長ロウザ。エルフのまとめ役エルバンネ。半獣のリーダーガラン。
会議室には三人の主だった面子が面子と、少数種族の代表達がとっくの昔に集まっていた。だがしかし、会議を始められずにいる。俺がストップをかけていたからだ。
クーラが、遅れて来るなんておかしい。彼女は自分で、情報を掴んで来ると偵察をかってでていた。かと言って敵に掴まった訳ではないようだ。現に、洞窟内でのクーラの目撃情報は出ている。
「遅い」
エルバンネが、沈黙を破り口を開いた。
「あまり時間に余裕がある訳でもない。今にも帝国兵が押し寄せて来るかもしれないのに、値千金の時間を無駄にはできない。話を始めるべきだ」
「待て待て、待てってエルバンネ。俺達じゃ掴めねえ情報をクーラ嬢ちゃんが掴んで来るからこそ、ちゃんとした方針決めができるって話だろうがよ」
「充分待ったつもりだ。これ以上時間を浪費しろと?」
ガランがフォローをいれたが、正論を返されてバツが悪そうに沈黙してしまう。ガランとしても、待ってほしいという俺の意見を汲んでくれているようだが本心ではエルバンネに同意なのだろう。困ったようにこちらを見てくる。
ロウザの沈黙も空気を棘のようにしていた。確かに、もうこれ以上は待てない。仕方ないが、始めなければいけないか。
「あ……あの~」
これから、という時にひょっこりと顔を出してきた。確か彼女は、ミルフとかいったか。最初は何故か叫ばれて逃げられたものだが、今では多少は慣れてくれたのか顔を見た瞬間逃亡することはなくなった。
「出ていけ、これから軍議だ」
「ひぃすいません!でも、クーラちゃんからの言伝が」
ロウザが追い出そうとしていたが、クーラからの言伝と言われれば疑問符が浮かぶ。何故わざわざ、人に頼んだ。
「言伝の内容は?」
「ああ、あのう。クーラちゃんが偵察してきた前衛基地の様子を…」
「すまんが会議を抜けさせてもらう。ガラン、後で教えてくれ!」
おかしいと同時に、とてつもなく嫌な予感がした。他のことならともかく、自分で見聞きした情報を人伝に頼むなんてらしくない。甘えたがりなところがあるクーラが、こんな間接的な手段をとるなんて考え辛い。
なにかがあったのかもしれない。それを確かめなければならないだろう。
嫌な汗が、額を落ちるのを感じた。この予感が、気のせいであってくれ。