家族の仇は、娘でした   作:樫鳥

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反撃


 明朝、霊山の天候は荒れていた。山頂から吹き降りる風は、雪と共に容赦なく体温を奪う。

 

 雪山の危険というのは、雪崩やクレバスのような分かりやすいものとは限らない。連合王国所属の山岳師団の者は、風こそが一番の障害だと語るという。

 

 容赦なく吹きすさぶ風は雪を浚い容易に視界を白一色に染め上げる。そしてその風は、その地の気温よりも一段と身体を冷やす。体温が冷えると、筋肉や身体を震わせ身体を温める機能が人間には備わっているが、それでもなお身体が冷えれば必要な内臓器官に熱を集めるように動き血流が抑えられる末端から冷え凍結していく。所謂、凍傷の症状だ。

 

 帝国側は、雪山に対する知識が不足していた。支給された装備には、雪に覆われた山岳で過ごすには心許なく岩と雪ばかりの山岳では現地の燃料補給すらままならない。必然、補給物資の兵站は険しい山を昇りながらとなるが、牛馬では進行に難航する山道では必然人力のみでの輸送となった。

 

 事故も多発し続け、荒れた天候ではそもそも輜重隊が出ることすらできない。痩せた平野でもそうであったが、成程、これならば長年放置されるたけの理由もあると言うものだ。土地も山も、苦労して開発したところで得る物が少なく費用も人的資源も無駄になるだけだ。

 

 「なにも見えねえよ」

 

 なにか喋らないと、口まで凍ってしまいそうだ。現に急激な天候変化のせいで、眉からツララが垂れさがっている。

 

 見張りに立つ兵士達には、特例として防寒具が重点的に支給されていた。数に限りがあるので見張りの交代ごとに防寒具を受け渡しているのだが、動き辛いことこのうえない。平野部で投石機を置いた拠点を護っていた時の方がまだ良かった。あの時はあの時で、降り続ける雪に悪態をついたものだがここと向こうじゃ環境が雲泥の差にすぎる。

 

 恐らく気のせいではあるが、物見やぐらの上は下に比べてさらに一回り寒いような気がする。ここまで山の上まで来れば、櫓の上と下くらいの差はあって無いようなものだとは思うが。

 

 「クソッ。ガルコス将軍の話じゃ例の作戦完了後は数と武力をもって早晩に叩き潰すって話だったのによ。こんなところにもう数日もいたら、手の指全部無くなっちまう。むしろそうなったら、傷病で負傷療養ということで更迭されるかな?」

 

 「たかが亜人の反乱で負傷更迭されても、見舞金なんて雀の涙どころかなにもないぞ。傷害を負って、故郷に返され厄介者扱いされるのがオチだ」

 

 「畜生。新隊長のガルシアとやらはなにを考えてやがるんだ。ただ、敵を見張っていろなんて時間の無駄だぜ。ガルコス将軍さえ暗殺されなければ、今頃故郷に戻っていたものを…ご自慢の竜狩り隊とやらはなにをしているんだ」

 

 「竜狩り隊はどもかく、故郷に戻ってのんびりできるとは思えないけどな」

 

 白色で覆われた景色から視線をそらし、今日の見張りを共にする相方を見る。そういえばこいつは、帝国で二番目に大きい都市の出であるらしい。港町で貿易が盛んなところだったらしいので、田舎者である俺とは見て来たものが違う。

 

 「嫌なこと言うなよ。でも、どういうことだ?」

 

 「帝国と連合王国の間にある、リスム自治州は知っているか?ほら、捕鯨と鯨油を起動力にして成り上がってきたあの」

 

 「いや、あんまり」

 

 帝国でも北東、すぐ近くに連合王国どの国境はあるもののこことは別ベクトルで危険な、毒ガスや毒虫蔓延る人の手が入っていない山岳が横たわるっているので交流等皆無。まして、離れに離れたリスム自治州等名前もうろ覚えだ。

 

 鯨油等も噂で聞いたくらいで、領地の主であったガルコス将軍が個人的に輸入していたくらいである。次世代資源の研究として、新たな兵器の構想を練る為であるらしいが遠い分輸送費が嵩む為庶民には手がだせない代物だ。

 

 「連合王国が自治州の正当な宗主国であると宣言をしたらしい。当然、帝国側もそれに非難声明をだしている。自治州内部でも、親帝国と親王国がいて政治屋共が民衆を巻き込んで内部分裂をしているそうだ。悲しいことに、中立やリスム独自路線を貫く政治屋は少ない。リスムを襲った巨人事件もあいまり、強力な国の軍事支援や独立保証を考える者が増えたのだろうが、ここである事件がおきた。帝都事変、竜と狼による帝都の六分の一が壊滅したあれだ」

 

 政治の話はよく分からないが、巨人事件はともかく帝都事変については流石に情報が届いていた。大陸最強を謡っていた帝国、皇帝のお膝元である帝都で巨大生物が暴れ鎮圧に出た竜狩り隊が返り討ちにあったという。

 

 まあ隊でも補欠みたいな連中らしいが、それでも他国にまで名を轟かす竜狩り隊が成す術もなく敗北したこと、そしてその巨大生物に逃走されたことが既に他国にまで広まっている。これはまあ、現地にいた密偵が広めたんだなと思うがネガティブキャンペーンとしてはこれ以上ないだろう。

 

 「帝都での事変に無力であったことが、既に周辺国に蔓延している。特に、似たような巨人事件があったリスムでは一気に親王国派に支持が傾いたようだ。過激な連中は自治州を辞めて王国の一部になろうと発言しているらしい。どちらを宗主国として選ぶか住民投票までするなんて噂もあるくらいだ。そうなると、帝国は黙っていられない。有用な資源以外にも、リスムという緩衝地帯が消えること。なにより、世界有数の貿易港を持つリスムを奪われることは宗主国を狙う帝国にとって国家的な損失だ。王国の挑発に、武力行使も辞さない構えだと聞いている」

 

 「マジかよ。でも殴りにいったら」

 

 「ああ、王国も全力で殴り返しに来るだろう。以前から帝国は中小国で包囲網のようなものがしかれているし、帝都事変で混乱し竜狩り隊の名声が落ちた帝国に襲いかかるのは今だと考えているだろうさ。そうなると、帝国対世界だ。僕が歴史家なら、世界大戦とでも名付けるね」

 

 世界大戦。スケールがでかすぎて学の無い俺には頭がついていけない。ただその名前のフレーズは、不吉すぎて理屈を追い越し頭を直に殴られたような感覚になる。

 

 「最悪、対帝国戦線の包囲網の一角にこの反乱組織の亜人軍がなるだろう。帝国としては、不安の芽は一つでも早く潰したいところだろうね」

 

 「敵を作り過ぎだろう。お上ももっと上手くやれってんだ。ガルコス将軍も死んだのに、なんでこんなところで鼻水凍らせながら見張りをせにゃならんのか」

 

 愚痴をこぼした次に、ため息を吐こうとした時その吐息は急な鬨の声にかき消される。敵が攻めてきたのかと、意識が覚醒したが妙なことに気づいた。

 

 「おい今の!」

 

 見るべきは、外ではなく内。連中が投石機から放たれる飛来物から身を隠したであろう退避壕から、コボルト共が湧き出してきていた。完全に内部から急襲され、迎撃準備が間に合わず混乱がおきている。

 

 「連中、退避壕と地下を繋げてきやがったか!」

 

 「早く応戦を!」

 

 『オオおおおおォオオオオオオォオオゥン!』

 

 山々に響く人外の咆哮。それに合わせるように、白い視界の向こうから武装した集団が現れた。先頭には、半獣から解放者と呼ばれる過去に奴隷市場襲撃等の実積があるガラン。

 

 侵入を阻む柵が、赤黒い奇妙に連結した刃の群れで破壊される。開いた穴からなだれ込む半獣達と、退避壕から湧き出たコボルト達に陣営は混乱しきっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 体躯を誇る騎士の頭が吹き飛んだ。視界が悪い中、銃火器やボウガンの類の効果が半減されても元より近接兵器の延長線である散弾銃は効果抜群だ。元々は人妖を相手にする為に用意したものの、人間に使うにはいささかオーバーキルにすぎるが。

 

 長年山に住まうコボルト達には、天候を見ることなどお手の物。坑道を作る技術もあいまり、前衛基地に造られた退避壕とこちらの地下を繋げてしまうという奇策が成立する。視界を絶たれた状態で、前から半獣達。そして中からコボルト達による挟み撃ちをかければいくら帝国軍とはいえ一溜りもない。

 

 退却の合図と思われる角笛が響くと同時に、這う這うの体で帝国兵が逃げて行く。

 

 「戦果と被害は!?」

 

 「雑魚を蹴散らしただけだぜ!敵大将首を落としたという話は聞いていねえ!被害はほぼなし、全員意気揚々!どうする旦那!?」

 

 半獣達を率いていたロウザが応じる。先の戦いと比べ、策のおかげで楽なもので戦意がみなぎる獰猛な表情をしていた。

 

 奪われた山の領地を取り返すということで、コボルト達の協力を得られるのはここまで。勢いに乗れる時は乗れ、というのは攻める側としては大切なことだがここからは全力で当たることはできない。幸い、空読みが得意な者によれば麓の天候は悪くはないそうなので今度はエルフ達を動員できるのでここで追うことは悪いことではないのだが。

 

 「ロウザと…ランザ」

 

 「エルバンネ!お前は来ていたのか!?」

 

 「戦況を見定める為にな」

 

 エルフの得意な弓矢では、この視界では役に立たない。体温が高い半獣や柔毛に覆われたコボルト達程寒さに強い訳でもないため拠点の護りを任せていたのであるが、彼だけはついてきたようだ。

 

 「ここは、押そう。攻撃側はイニシアチブをとれる。こちらに勢いがあるうちに、敵がなにを企んでいようが圧し潰してしまえばいい。逆に守勢に回ったところで、また投石機による雨が降るなか耐えるだけだ。今までは決め手に欠ける為手がだせなかったが」

 

 エルバンネがこちらを見た。

 

 「竜と人妖。忌々しいが手札としては上等だ。ここで追い打つ為の、札として酷使させてもらう」

 

 「嫌な言い方しやがるぜ。だが旦那、俺が昔聞きかじった話にも似たような言葉があった。巧遅は拙速に如かずだったか、とにかくみんな狭い洞窟でずっと耐えたばかりで鬱憤を晴らす好機に沸いていやがる。敵が準備を整えきる前に押し切ろうぜ」

 

 エルフと半獣のリーダーが同じ見解を示した。集団を率いたこともなく、まして軍略等勉学をする機会はなかったがこれは押し時かもしれない。

 

 コボルトという戦力は除くことになるが、半獣とエルフ達が同じ方向を向いている。一時的にも、一枚岩となり敵に攻め寄せることができる機会を得た。伸るか反るか、で言えば伸るのは悪くない。

 

 「分かった、逆落としをかけよう。まだ点在する幾つかの投石拠点の護りは薄いだろう、勢いで挫く」

 

 「ほいきたぁ!西側の陣営は俺が受け持つぜ!エルフ共は東側を攻めやがれ!」

 

 「指図をするな。だが良いだろう、今すぐ集結をかける。中央は……」

 

 「俺が行こう。先に出向き、ひっかき回す」

 

 ジークリンデの連結刃が唸る。これからひと戦行うのに、昂ぶりを見せているのだろう。せっかくの機会、エルフの集結を待つまでもなく攻め寄せてしまい敵戦力を中央に集めれば、両翼の負担を減らせるはずだ。

 

 「追撃をかける為に先に行く。戦力が整い次第来てくれ」

 

 「先に行くって…おいおい旦那!」

 

 雪が深い、だが走るのに苦にはならない。動けないクーラの安全を確保するには、まずは帝国連中をこの地から叩きださせてもらう。護る為の戦いに、自然と闘志が湧いてくる。駆けているうちに、熱が沸き上がるのを感じた。目の前には、逃走していく帝国兵達の背中。

 

 夢魔の触手が袖から現れる。こんなものを皮膚から生やす等、とは思わない。使い方は、ウェンディの火蜥蜴と同じく頭の中で理解している。もっとも、見た目が気味が悪すぎるので味方の前では極力使わないようにしたいが。

 

 触手で拘束した、敗走する帝国兵をなぎ倒す。数人を連結刃で散弾銃で屠り、背後から背中に飛びつき、首筋に食らいつき頭をねじ切った。血しぶきが、噴水のように吹き上がる。

 

 『全滅させるなよ、相棒。程々に殺し、程々に逃がせ。良いか、恐怖は伝染するもんだ。連中にたっぷりと恐怖を植え付けてから、敵陣営に逃がしてやるんだ』

 

 悪竜からのアドバイス。確かに、敵の戦意は無い方がやりやすい。それが毒になり帝国軍内部で広がってくれればこれ以上楽なことはないだろう。

 

 「ほら、忘れ物だ。お前の仲間だったやつだろう」

 

 反撃に出ようとした帝国兵の胸元に、千切れた頭が投げられる。それを取り落とし、声にならない悲鳴をあげて逃走した。

 

 『クカカッ。悪役が様になってきたなぁ相棒。それでこそだぜ』

 

 「こんなざまだし、なに一つ建設的なことができていない俺だがまだ護る者がある。外道にも人外にも堕ちてやるさ」

 

 『護る為には手段を選ばないか。人類の敵としちゃ、上等だな』

 

 楽し気なジークリンデの声を聞きながら駆ける。道がなだらかになり、下山したにも関わらず息一つ切れていない。ジークリンデの言によれば、この身体はテンが俺と殺し合う為に計画を進めていた結果ということだ。大事なものを幾つも無くした代わりに得た力。

 

 テン、お前はそんなにも求めていたというのか。殺し合いという、歪んだ交流を。

 

 いや、今はテンのことを考えるのは後回しだ。平野部の天気は、コボルトの空読みが見た予報と一致していた。逃げていった兵士達が、投石拠点の入口近くまで逃走するまで待つ。恐怖を、伝染させる為に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 平原の中央に位置する投石拠点。

 

 馬鹿みたいに巨大化した投石機を運び込まれた時は、これからは大砲と火薬の時代なのにどうしたものかと頭を抱えたものだが使い方を誤らなければ存外悪いものでもないようだ。

 

 ガルコス将軍が暗殺されたものの、まだここは弛緩した空気があった。敵の迎撃拠点は奪い本拠地とそこは目と鼻の先。将軍最後の策となってしまったが、計画が上手くいきあとは最前線にいる連中が亜人の巣穴を攻撃するだけだ。

 

 ガルコス将軍が暗殺された後、後任となった竜狩り隊のガルシア隊長は亜人の巣穴がどれほどの規模でどれだけ出入り口があるのか調査しきるまで攻撃はしないと指示をだしていた。敵を包囲して一網打尽にする為の指示とは聞いているが、些か慎重にすぎると思う。

 

 投石拠点を任された百人長、ドルエルは大きくため息をついた。

 

 もうこの戦いで、自分の出番はないだろう。亜人相手の反乱鎮圧等大した功績ではないが、小さな戦果でも積み重ねていける。何時か故郷に錦を飾り、武勇伝の手記でも書いて暮らしたい身としてはこんなところで震えているよりは前線に赴きたいという気持ちがあった。

 

 帝国の寡兵は、まずは志願制である。その年によりノルマとなる人数がいるのだが、基本的には志願で集めた兵隊でノルマを超過することはない。地方によってはくじ引きだったり、行政指示で強制徴兵される者のいるが自分は志願者だった。軍に入り偉くなれば、食うに困ることはないだろうと。冒険者共のように、夢を語り現実の仕事に挫折する愚か者共のようになりたくはない。

 

 やる気と訓練の成績が評価され、中隊を任される程には出世できた。だが平民での自分ではここが限界、ここから上は士官学校を出た者や貴族のエリート達が蔓延る世界だ。

 

 平時ではここまで、だが戦時が近づいて来る。戦場で活躍できれば、さらに上級になることも夢ではない。成り上がりの物語として、後の世に一世を風靡させる伝記を出すのが夢だ。

 

 ああ、クソ。戦争なのに、こんなところでなにをやっているのだか。

 

 「ドルエル隊長!」

 

 部下の慌てた声が、思考を中断させる。慌ててテントに飛び込んで来たその顔は、寒さとは別の要素で青くなっていた。

 

 「どうした?」

 

 「我が軍の兵士が逃走してきました!恐らく前線にいた者達かと」

 

 「前線に?反撃を受けて、軍が壊滅したか?すぐに私も門に向かう!」

 

 丸太を積み上げて並べた壁の向こう側を見る為に、木製の階段を昇る。敵が来た際、ここから銃火器で迎撃する為の足場であるが今や用を為さないものになる筈だった。

 

 「助けて!入れて!早く入れてくれ!」

 

 「貴官の所属を確認したい!どこの部隊か!?」

 

 万が一、変装した半獣やエルフであるという可能性もある。エルフによる暗殺騒動もあったので、必ず所属先を確認する通達がだされていたのだが顔面蒼白の逃走兵達は口から泡を吐きながら叫び返した。

 

 「バカヤローそれどころじゃないんだよ!」「山にいた前線のもんだよ!壊滅したんだ。頼むから早く開けてくれ!」「化物が、化物が来るんだ!皆殺しにされる!」「お願い助けてください、助けて!あんな死に方いやだ、食べられたくないのおお!」

 

 兵士というより、まるで恐怖に侵され暴走した暴徒のようだ。木門をガンガンと叩き、必死な形相で中に入ろうとしてくる。

 

 「開けてやれ!」

 

 「隊長?良いのですか?」

 

 「尋常の様子ではない、良いから開けてやれ!開門だ!」

 

 五人がかりで門を押し開ける。ゆっくりと開いていく木門に我先にと身体を滑り込ませようとしてきた。統制が、まるでとれていない。

 

 「隊長!」

 

 部下の一人が叫ぶ。

 

 「なんだ!?」

 

 「あれを!」

 

 山側の地平、遅れて逃げ延びて来る兵士の胴体になにかが貫通する。異形の刃が空を舞い、胴体を貫かれた兵士達が空を舞う。一、二、三……五人程の大人がまるで玩具のように飛んだ。

 

 赤黒い刃が、空を飛ぶ兵士を執拗に切り裂く。空中で細切れとなった者達が、赤い血しぶきと肉片になり雪原に降り注ぎ、白と赤のコントラストを奏でていた。それを見て、退却して来た者達が悲鳴をあげる。

 

 「開けろ!早く開けろ!」「殺される!」「喰われるのだけは、嫌だ!死にたくないいぃ!」

 

 「じゅ…銃士隊集合!本部にも伝令をだせ!恐らく、奴が現れた!」

 

 ランザ=ランテ。帝都で暴れ、竜狩り隊の分隊を壊滅せしめた男。まるで化物のような体躯の話を聞いており、まさかとは思った。だが、距離を開けていても分かる。体躯こそ噂で聞いたものではないがその雰囲気は人外のそれだ。

 

 「収容急げ!銃士隊、射程距離に入ったと同時に一斉射撃だ!奴の首には多大な恩賞がぶら下がっている!必ず仕留めろ!」

 

 逃走して来た者達を収容し、木門がしまる。一安心と言えるかは分からないが、なんとか迎撃準備はできた。相手は怪物という話だが、伝記を書くにあたりこれ以上の獲物はいない。出世物語の大きな一歩、自分をそう鼓舞しなければ逃げ出してしまいそうな圧力だ。

 

 「放て!」

 

 ライフル銃が火を噴く。ランザの周りを件の刃がかこみ、火花をあげていた。効果は、薄い。

 

 「次弾弾込め!…はな」

 

 ランザの背後に、奇妙な揺らめき。揺らめきは徐々に明るくなり、巨大な陽炎となっていく。

 

 「神よ」

 

 誰かが、呟いた。巨大な炎でできた蜥蜴が、踊るように空を舞う。上空から飛び込んで来た火蜥蜴が木門に直撃、爆風と共に肌が焼ける音と何人かの悲鳴が聞こえた。風圧で吹き飛ばされ、地面に転がる。顔に火傷の痛みを感じながらなんとか顔をあげたところ、鉄門程ではないにせよ簡易拠点には上等な木門が綺麗に穴が開き焼け落ちていた。

 

 「来るも、逃げるも。好きにしろ」

 

 宣託のような言葉に、なんとか生き残った者達の間に恐怖が伝染する。

 

 「構わず、殺す。平等に殺す。死にたくないなら、他人よりも早く駆けることだな」

 

 こいつは、危険だ。話に聞いていた以上に。

 

 号令をかけようとしたが、炎で喉が焼かれたのか声が上手くでない。呼吸も苦しく、支持を出そうとしたところで咳き込むのが精一杯。そんな自分の頭上に、奴の足裏が見えた。最後に見た光景はそれで、かろうじて拾えた音は果実が踏みつぶされるような音。

 

 走馬灯を見る暇もない。まるでゴミのように、殺される。この化物めと、思う暇もないままに。

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