家族の仇は、娘でした   作:樫鳥

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 奴を殺す為にはなにが必要か、考えるべきはまずそこからだ。その思考の道筋は、軍略を練る軍師というよりは獲物を駆り立てる狩猟者としての考えが必要となる。狩る為にはなにが必要で、なにを対価として支払うか。ただその支払いが、通常よりもかなり大きいということだけだ。

 

 まず第一にランザという男の能力はなんなのか。大柄な狼の体躯に背中から生える連結した刃。現在の魔具技術では再現不可能と専門家が判断した自立したように動く蜥蜴の火炎。大量の石材さえあれば自身の分身を精製できる能力も帝都では目撃されていた。

 

 そして奴の傍らにいるのは悪竜ジークリンデ。余興や娯楽で国家単位を振り回し、その信念は皆無。他者を贄として吸い上げ、その力を行使する化物だ。

 

 相対するなれば、なにが必要か?十重二十重と陣を築き、無数の将兵と資源を磨り潰す覚悟で当たらなければまともに相対等できないだろう。竜狩り隊単体の戦力を考えても、分が悪いと見ている。

 

 「ああ~最高だよ~。もうエンパスも帝国もどうでも良い気分~」

 

 思考中、聴覚を通じて言葉が意味として伝わった。言葉を思い浮かべるだけで思考共有できるというのに、わざわざ言語化するということは要するに独り言だ。よほど『私』は温泉が気に入っていたようである。

 

 『暇さえあれば温泉入りやがって。確かにしばらく暇だったちゃあ暇だったが、気を抜きすぎだ』

 

 「相変わらず『俺』は真面目だよね~。まあまあ良いじゃん、ここからならロケーション抜群だし、のんびりしながらハボックを見れるんだからさ。観戦だと思ってのんびりしようよ」

 

 『私』がレントから授かった加護は、おおよそ戦闘向けとは言い難いがなによりも有用だ。闘争に関しては僕や『俺』が矢面に立つこともできるし、なんなら加護によらずとも異能というものはあるものだ。人妖も、広義の目で見れば異能と言えるものであろう。もっとも上の人間は人妖化に関してはあまり興味はないようではあるが。

 

 『私』が遠くを見た。その惨状の凄まじさたるや、一個人にここまでの手段を叩きこむかと言わんばかりの質量攻撃と波状作戦が行われていた。

 

 『あの大量すぎる爆薬はこの為か。思いきりの良いことだ、ランザ=ランテとジークリンデを葬ることができれば犠牲は必要経費と割り切り、後のことは気にしないと見える』

 

 帝国軍将の暗殺。護りを考えれば杜撰な陣形。その全ては、人妖と悪竜をおびき寄せる為。ついでに反乱勢力の主力部隊も一網打尽に出来れば儲けものといったところか。

 

 鬱屈した状況のなかで、起死回生の奇襲攻撃。それが大成功となれば、現状打破の為にイニシアチブを握る手段として攻勢に出るだろう。籠っているだけでは負けることは、目と鼻の先まで攻め込まれることで充分に理解できている。勢いを止めるな、というのは戦争においては基本でもある。叩き潰せるうちに叩き潰してしまおうと欲もでる。

 

 投石拠点や前衛基地に物資が少ないのは恐らくわざとであろう。反乱勢力の懐事情と台所事情はジリ貧だ。喉から手が出る程鹵獲品がほしいというのに、攻勢に見合う戦果が無ければ次はハボックを狙うだろう。そのハボックすら、まともな防衛を放棄しているのだから。

 

 しかし、竜狩り隊の理念というものを見誤っていた。確かに民衆の命を保護することに関しては問題はない、ハボックには軍事関係者以外の残留はいない。

 

 ただ、あの街に残留を希望する者も強制的に避難させたのは序の口。命の保証まではするが、住居及び財産の保護や保証のいっさいはする気はないようだ。そして、街があのざまではしばらくの間人が過ごせる環境に戻すことはできないだろう。最北の街ということで、気象等も考えれば、もしかしたら数年単位でも復興は難しいかもしれない。

 

 「お?」

 

 『私』が声をあげた。共有する視線の先には、重症の半獣がフラフラとハボックに向かっていた。顔の半分を包帯で覆われており、骨折箇所を庇いながらなんとか歩けているといった様子である。ただその顔は、喰いしばるように顔を歪めていた。

 

 「クーラちゃんだ」

 

 『クーラ…ああ、元加護持ちの。今はランザについて回っているっていう』

 

 「なかなか可愛らしい子だったから、レントから離れた時は寂しかったものだよ。うーん……よいっしょ」

 

 『私』が温泉から上がる。用意してた手ぬぐいで身体の水気を絞り、男女どちらでも使える下着を身に着け厚い外套を身にまとう。温泉は、もう良いのだろうか。

 

 「うん。もう良いかな、どちらにせよそろそろケリがつくころだしね。ランザがくたばるか、それとも返り討ちにしてしまうのか。それによって亜人の反乱勢力がどれくらいの戦力になるか、見捨てるのか利用するのか見極めることができるでしょ。じゃあ、後は『僕』に任すからよろしくね。エンパス教にいた私が目の前に出たら、混乱するだろうしさ」

 

 腰に差していた鞘からナイフが抜かれる。切っ先が皮膚を突き破り、頭を支える首の筋肉に穴を開けて突き進んでいく。首の骨に先端が当たる感覚、震える手に力を込めて、重要な血管を何本も斬り裂きながら首の四分の一を切断。呼吸器を破壊しながら、ナイフは引き抜かれていった。

 

 岩場の上に倒れ、痙攣する身体。『私』から支配権を譲渡され、急速に治癒される傷口に軽く手を当てながら起き上がる。やれやれ、温泉に入っていたというのに部分的ではあるが血塗れだ。人格変更の為に仕方ないプロセスだとしても、いちいち死ななきゃいけないのは考え物だ。

 

 「まあ、僕もノックでランザとは出会っているんだけどね」

 

 山や森と一体化したようなミハエルにトドメを刺す。リスムの巨人騒動の際、レントに依頼はされたが『私』では少々荷がかちすぎる為道中で交代し、先に交戦していたランザとほんの僅かな間とはいえ共闘したこともあった。

 

 顔見知り、とは言えるだろうか。それとも、余計混乱させてしまうかな。まあ、『俺』と交代しても良いかもしれないがもう一度死に直すのも面倒くさい。そもそも、たどり着くころにはランザもくたばっている可能性が高い。そうなったら、分析した情報だけ持って本国に帰還しよう。

 

 『生き延びていると思うか?俺は死んだと思うが』

 

 「正直僕もそう思うけどさ、まあ答え合わせと行こうよ。死体の一部でも回収できたら、良い手土産になるだろうしさ。そろそろ半獣達にも、恩を売っておいて、取り込むならば後に介入しやすくする必要もある」

 

 国土、経済、人口、軍備。大陸一番の国家である帝国とそれに続くといえる我が連合王国であるが、その差は凄まじく開いている。国力の差を埋め合わせようと、倫理観を無視してでも追いつこうとする頭がおかしい連中が連合王国には存在するのだ。

 

 その証明こそ、この特異な肉体だ。だがこの身体、どうやら量産は不可能な奇跡の産物であるらしくもっと応用の効く汎用性のある効果を求めている。その足掛かりとなるかもしれない、人妖のサンプルは喜ばれるだろう。

 

 まあ、出来れば生き延びていてほしいものだが。例え低い可能性であったとしても。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 地面に亀裂が走ったと認識したその直後、ハボックの大地が轟音をあげ地底から吹き飛んだ。オレがギリギリまで確認した限りでは、爆ぜ割れたのは大地だけじゃねえ。住居、倉庫、巻き藁の束、樽の中身。おおよそありとあらゆる場所から過剰ともとれる量の爆発が確認できた。

 

 「ざ、ざまあねえぜ!なんてありさまだ、こいつはよ」

 

 たかが爆発。オレを殺しきるには流石に威力が足りないが、それ以外はそうもいかない。

 

 深く抉れた地面や崩壊した家屋のあちこちに、悲惨に弾けた肉の塊や欠片が散らばっていた。死体というには部位が散り散りすぎて、まるで肉屋の廃棄場だ。

 

 ハボックの街ほぼ全域が、凄まじい大爆発に包まれた。住民の住処かどうとか財産がとうとか、考えは皆無らしい。その思いきりの良さは評価に値するが、やることが気持ちの良い程躊躇がねえな。

 

 敵は、それだけの覚悟を用意してきた。同じ帝国兵を捨て駒にし、街を廃虚と化し、悪意と敵意を持ち敵をここに招いたのだ。ランザの野郎を。

 

 破壊し尽くされた街の中央で、ランザはまだ息をしていた。本能による反射か、瞬時に人妖となることで即死をしないように動いたのだろう。それまでは良いが、巨大な狼の体躯に庇われるようにエルバンネとその護衛が凄まじい衝撃破で気を失っていた。

 

 クソ馬鹿野郎が、護ることを決意した果ての人妖化。そのサガがこんなところで出ちまった。

 

 護った連中は確かに生きちゃいる。だが奴の身体は、後ろ足が千切れほぼ全身に巨大な裂傷と火傷、聴覚にもダメージを負ったのか耳孔から血を垂れ流し、裂けた口からは血が溢れ出て流れている。目に意思の力はなく、死んじゃいねえがどこを見ている訳でもなく意識が飛んでいやがる。自己の再生も間に合わねえ。

 

 助けられるか、こんな状況のランザを。オレだって身体がバラバラになりかねないと感じた程の大爆発だ。今から治癒をほどこしても、どこまで癒すことができる?

 

 「クソったれが、とにかくここから離れる方が先か?待っていろ、今」

 

 もう一度、こいつを掴んで飛ぶしかない。今一度力を振り絞り元の姿に戻し、帝都での退避を再現するしかないが今度はどこまで飛べるのやら。

 

 「ってぇえええええええええええええ!」

 

 どこからか響く掛け声と共に、砲撃音。南の空から飛来する砲弾が、ランザを中心に炸裂音をあげた。数発をとっさに連結刃で迎撃したが、着弾と同時に破裂して無数の鉛玉が周囲に飛散しやがった。迎撃したとしても、全身を穿つ鉛の雨が容赦なく肉を抉る。例え人妖であっても、その効果は絶大。

 

 「オオオォォォオオラァアアアアアアアアアァ!』

 

 砲撃音と共に、砲弾が続けて飛んで来る。いつの間にか、上空には鉄馬にまたがった帝国兵がこちらを観察していた。位置情報が大砲射ちに届いたのか、先程よりも精度があがった第二派が飛んで来る。飛散した破片だけでも危険なのに、直接砲弾を喰らえば今度こそランザはくたばっちまう。

 

 竜の巨躯で、野郎を庇うように立ちふさがるしかないとるべき手段がない。飛んで来る砲弾は連結刃で迎撃をするものの、完全に無力化できず炸裂する榴弾でこの身体でさえ削られていく。砲撃後の弾込めの間、さっさと離脱しなければ鱗に覆われた身体はともかくこの羽が穴だらけになっちまう。

 

 『チッ…苛立たしいな。長居はできねえ、さっさと』

 

 翼膜が、斬り裂かれる。

 

 長く生きて来た。国の軍団とも戦った。救国の英雄と呼称される傑物とも戦闘した。オレを撃退にまでおいやった、指揮官でありながら前線で戦う人外じみた人間とそいつが率いる精鋭部隊とも三日三晩激突した。

 

 だが今までただ一人、接近すら気づくこともできず、オレの翼膜を傷つけ反撃する暇もなく離脱する敵とは出会ったことがなかった。速い、そして鋭い。少なくとも、帝都でランザに襲いかかった鉄馬集団とは比べ物にならない。

 

 故に、リアクションが遅れる。反撃に繰り出した連結刃は、凄まじい速さで動く鉄馬により回避され攻撃射程圏外まで逃れられた。巨大な馬上槍の下部に無理矢理刃を継ぎ足したかのような、血に濡れた特異な得物を持つその人物は、殺意を込められた視線でこちらを見下ろしてくる。

 

 『何者だ、テメェ』

 

 問いに応えることもなく、鉄馬が上空に退避した。それと同時に砲撃音が響き、榴弾が襲い来る。迎撃に手をとられると、痛みを感じる間もなく今度は先程の奴を先頭にした鉄馬の集団が殺到し的確に護りが薄い個所を削り取っていく。

 

 せめて動ければとも思うが、そうすれば未だにくたばってやがるランザは砲撃にさらされるか突撃してきた連中に串刺しにされるだろう。そうなってしまえば、ここまで面倒な思いをしている意味がねえ。

 

 この悪辣さ、成程。こいつらがあの、リヴァイアサン討伐の中核をなしたという。

 

 『竜狩り隊か』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ハボック。最北端の街として、寒さと闘いながら五千人にも満たない住民達が助け合いながら暮らす土地。

 

 帝国政府が打ち出した土地の開発と開墾事業の一環として、少しでも税収と食料生産律をあげたいが為に開かれた街に集まった者達は、それでも自らが暮らしやすいように痩せた土地を耕し、家畜を育て、山を切り開き、長い年月をかけて最北の街として少しでも暮らしやすい環境にしてきた。

 

 開拓民の者は皆、食い詰めた者や農家の次男坊や三男坊。疫病や災害で故郷を捨てざるをえなかった者。不退転の覚悟で集まった者達の努力こそがこの街であり、自分達の手で切り開いた故郷といえるものであったのだろう。その努力は、賞賛に値する。

 

 だが、関係ない。ガルシアはそう呟いた。

 

 人命は保証しよう、その後の生活もしばらくは工面できるように行政に申請はしてある。だがしかし、開拓民である以前に帝国臣民であるならば苦渋を呑み込んでもらうこともある。傲慢か?強権か?開拓の苦労を知らない者の非情な強制?それで災厄を摘み取れるなら安いものだ。

 

 「けして焦るな。今回は海竜討伐時のように速さを求められるものではない。少しづつ、削り殺せ。動かない標的の刃に捕まる薄ノロはいないだろうな」

 

 帝国軍地開発局が発明したシュネラップネル砲弾。従来の砲弾は石弾や鉄弾の球体を飛ばす貫通力が強いものが主流であったが新開発されたこの砲弾は中身が空洞であり内部には鉛玉が大量に詰められている。

 

 リスムの巨人事件において、警備隊が放つ大砲の砲弾は巨体を貫通する威力をもったが、すぐに対応され致命傷を与えるどころかすぐに無力化されたという。ならば、点での貫通力よりも面での破壊力。発想としては散弾銃等の既存兵器と同じだ。

 

 これはまだ試作品であり、時限信管なるものを開発できれば着弾時に限らず、標的の前で破裂することも可能になり戦略性が増すものであるらしい。

 

 「だが今は、これで充分。効果は大なり」

 

 信じ難い話ではあるが、悪竜とランザの間には友好関係があるようだ。馬鹿な話を鼻で笑いそうになるものではあるが、帝都事変においてジークリンデがかの人妖を殺すでもなく大事そうに連れて行く様子は私のみではなく誰もが目撃したところだ。今回はそれも利用する。

 

 快勝を味合わせ反乱勢力を調子づかせ、このハボックに招き寄せる。勘の鋭い者は罠の可能性も疑うだろうが、反乱勢力が一枚岩ではないことはこれまでの情報収集で把握済みだ。エルフでさえも、反乱勢力の戦力強化よりもランザ憎しという理由で命を犠牲にしてこちらに近づく者がいたくらいだ。

 

 街に入りさえすれば、中にあるのはたっぷりの餌。燃料、食料、衣服。どれも喉から手が出る程欲しいものであっただろう。この北の大地、厳しさを考えればなおさらだ。

 

 だがその中にも、毒は紛れていた。鯨油の樽、小麦の袋、民家の床下や屋根裏、露店の覆い、厚い毛布の下。そしてこの街の地下には、それこそ地形が変わってしまうような量の爆薬を隠し、仕掛けさせてもらった。

 

 古来より城攻めをする際、地中を掘り進め地下から攻撃する戦術が存在した。ましてこの街の家は、外が雪に覆われ外出すらままならなくなる気候もある為に燃料や食料の貯蔵用にどこの過程にも地下室が存在する。穴掘りはコボルトの専売特許ではない、数日で蟻の巣のように地下通路を張り巡らせ爆薬を仕掛けることなど軍隊には容易な話だ。

 

 これで致命傷を与えることができれば、逃走も難しくなる。悪竜ジークリンデ、人妖ランザ=ランテ。街一つを犠牲にこの二体が葬れるものならば安いものだ。

 

 だから、私は断行する。住民に怨まれようと、帝国兵の犠牲をだそうと。確実に災厄をしとめる。後に続く、数百、数千を超えるかもしれない犠牲を抑える為に。我が息子の行動、その後始末をする為に。

 

 大砲部隊からの榴弾攻撃は、少しでもその場から動いたら面での破壊力で半死半生のランザを八つ裂きにするぞ。さあ悪竜ジークリンデ、お前が動けばランザは死ぬ。動かなければ、お前もランザも死ぬ。打つべき有効な策は、早急に我等竜狩り隊を殲滅し砲撃の隙間で大砲部隊を蹴散らすことだろう。

 

 だが、容易くはないぞ。古い英雄達のような超絶技能や能力は持たないが、我等には最新の技術と魔具を使用した戦術兵器と兵装が存在する。

 

 ハンドシグナルで部隊に指示、四散した鉄馬隊が砲撃された後の悪竜を休ませないように一撃離脱の戦法をとる。確かに、背中に蠢く連結刃の群れは恐ろしい。だがしかし、あくまで攪乱と消耗が目的の攻勢。無理攻めせずとも、攻撃姿勢を見せ相手に警戒をさせ注意を反らすことができればそれだけでも成果的だ。

 

 数機が攻撃と見せかけて刃の群れを引きつけ誘導し、がら空きとなった胴体を斬りつけて離脱する。やり辛かろう。そうなるように計算した、突撃形態だ。

 

 悪竜と、目が合う。斬りつけて離脱した竜狩りの隊員ではなく、司令塔を叩くべきだと判断したか。口腔を大きく開き、放たれるのは骨欠による散弾砲。

 

 「ガルシア隊長!」

 

 機動変更で散弾の効果範囲から逃れるが、待ち伏せしていたかのように襲い来る三対の刃が渦巻いていた。誘導し、なます切りするつもりか。

 

 「舐められたものだ」

 

 帝国が誇る最新式の魔具兵装、鉄馬。使い手の能力により、その加速性と精密性は見違える程に変化する。空中を上昇しながら逃走し、刃の追撃を受けながら急転回。ジークリンデの頭部に突撃するように、垂直落下をし重力の味方を得ながら加速する。

 

 ジークリンデ、悪竜の連結刃は確かに強力だ。刃の精密性、頑丈さ、そして竜の膂力から放たれる斬撃は下手に魔具である赤盾を構えようと貫通するだろう。ならば、軌道を読んで受けながす。剛を筋力で受け止めようとすれば、人体も武器も破損する。だから、力には逆らわず鉄馬の軌道を微調整しながら直接ぶつからないように刃を反らす。

 

 次の散弾を放とうと悪竜が大口を開けるが、こちらの方が早い。突撃槍の先端が悪竜の眼球を貫き、そのまま脳髄まで抉ろうと力を込めたくなるが、その前に顔面と瞼を斬り裂きながら離脱する。先程までいたところに刃の列が通り過ぎていった。トドメを刺すことに固執していれば、身体が二つに割れていただろう。

 

 真に恐ろしきは悪竜か。普通の生物ならば、眼球を貫いて平然としている者はいない。慎重に慎重を重ね、削らなければ人間等あっという間に血と臓物を散らしてしまう。

 

 ……だが。

 

 「視界を半分奪った!攻めるも退くも、死角からだ!健全な視界の方角は私が受け持つ!」

 

 「「ハッ!」」

 

 「我等人類の反撃だ!時代遅れの竜と治安を乱す人外に、人間の底力を見せてやれ!」

 

 砲撃のタイミングと共に離脱。追撃をしたくとも、追えない悪竜が咆哮を放つ。

 

 だがしかし、何故貴様はそこまでランザに固執する。悪竜には、かの竜には我等には想像もつかない事情があるのか。

 

 人と、共に動いた竜。その考えを、知ることはこの先無いのであろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「急げお前等!ランザの旦那とジークリンデを救出する!エルフ共もだ!」

 

 待機を命じられていたガラン達半獣の一団が、雪原を走る。突如ハボックから天まで爆風が昇る程の爆発がおこったかと思えば、断続的に響く大砲の音と竜の咆哮を聞きただ事ではないと独自に行動を開始した。

 

 エルフ共につられ、俺等もハボックに踏み込んでいたらあの爆発に巻き込まれていたかと思うとゾッとする。旦那の生存も絶望的かもしれないが、悪竜がついているうえに戦闘音が聞こえるということはまだ希望はある。

 

 「だが、間に合うか?」

 

 舌打ちをしそうになったが、それよりも先に視界が奇妙なものをとらえた。足のない馬の上半身を象った、奇妙な物体が空を飛んでいる。それに跨るのは、竜の頭部に斜めから直剣を突き刺したような紋章を左胸につけた軽装の人間達。

 

 「ライフル銃だ!」

 

 「テメェ等、気をつけろ!」

 

 数十騎の空飛ぶ騎兵から、弾丸が放たれる。幾人かの頭部が吹き飛び、胸に風穴が飛んだ。投石、ブーメラン、弓矢。各々が反撃に出ようとするが、射程距離が違いすぎるうえに機動力が高くとらえることができない。

 

 「なんなんだこいつら、なんだあの珍妙な乗り物は!」

 

 「ガランやべぇ!反撃手段がねえ!逃げた方がよくねえか!?」

 

 「分かってんだよそんなことは!クソッ……だが、どうする?ここで引いたら」

 

 奴らの装備は射程が長い長距離銃のみ、こちらに近づく理由はないし、鴨射ちだ。弓矢に秀でたエルフ共ならば対抗できたかもしれないが、無い物ねだりをしても仕方ない。このままではハボックに辿り着くまでに多大な犠牲がでるだろう。旦那達を見捨ててでも、引くしか、ないのか?

 

 「受け持とう」

 

 肩を、叩かれる。聞き覚えがある声にそちらを振り向くと、そこにいたのは顔に深い切り傷を負い、瞼まで傷が到達した人物。銀髪を短いポニーテールでまとめた、華奢な男とも精悍な女性とでもとてる中性的な顔立ち。

 

 以前から接触持ちかけてきた、ミツラギを名乗る連合王国の使者がそこにいた。

 

 「街に入ったら、可能な限り隠密に徹し、瓦礫に身を隠しながら中心部を迂回してその先にある砲兵隊を叩いてくれ。君達の機動力なら、上手くいく。今なら手薄、ランザとジークリンデを助けるのはそれしかない」

 

 「隠密にって、アイツらにはもう捕捉されているし」

 

 「受け持つと言った。君達に僕の……いや、連合王国が長年追及してきた技術の一端を見せてあげよう」

 

 ハボックの向こう側、砲兵隊の砲撃恩によりそれに続く独り言はガロンの耳には届かなかった。もしも、読唇術を会得している者がいたとしたら、こう読み取れたであろう。

 

 『百年も前、王国が異界から来た外来者を騙し討ち、解体し、研究を重ねた血生臭い御業さ』

 

 腰に吊るされていた革袋から、角ばった見慣れない言語のような模様が描かれた細い符が取り出される。それを空中に放った瞬間、符は分裂し空中に足場のような白い光の板を出現させた。

 

 長くて細い長剣が魔法のように鞘から瞬時に引き抜かれ、ミツラギは天へと飛び上がる。光の板を足場に距離を詰め、真下から長剣を一閃。鉄馬の胴体を分断させ、一騎撃墜してみせた。

 

 「君達の上空は僕が護る!こいつらには追わせない!さあ、突撃してくれ未来の同胞達よ!」

 

 分裂する符が、上空に膜を張るように展開された。見た目によらず強固なようであり、ライフル銃の弾丸は光の板を弾けず火花をあげる。天井に張られた奇妙な傘が、進軍の安全を確保してくれていた。

 

 「訳が分からんがなんにせよ、助かる!行くぞみんな!」

 

 ここさえ超えてしまえば、事態は好転する筈だ。旦那を救い出し、生き残りがいたら全員救う。それだけを考え、両足を前に進めた。

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