家族の仇は、娘でした   作:樫鳥

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戦争前夜


 遥か東方から来た騎馬民族の襲来。後に帝国の国父と呼ばれるギルバードが、群雄を纏め遠征軍を退けた後、民族の指導者が急死したことにより跡目争いがおき東方の脅威は自然消滅していった。

 

 混沌ととした大陸において、騎馬民族に臣従を強いられた五つの小国が独立宣言をし、外敵に対して団結して戦えるよう互助的な同盟を結ぶ。時代が進むにつれ、帝国にとっての国父ギルバードが現在の帝国領をほとんど制圧し、帝王を名乗り始めたことに危機感を覚えた連盟の盟主、剣王ドルエルは同盟関係を越えた一蓮托生の国家体制が必要と判断した。

 

 幾度かの内戦を経て、剣王ドルエルは反対派を駆逐し、弱小国家の同盟からより強力な一枚岩の体制となる連合王国を樹立。以来周辺諸国を併合し、大陸において二番目に巨大な勢力として帝国を相手に張り合っていた。

 

 連合王国の元首は伝統から代々盟主を名乗っており、初代盟主となったドルエルの主義は多民族の受け入れと技術、文化交流。これについては後世の歴史家から功罪両方の評価を下されるがやらざるをえない方針であった。

 

 強力な騎馬民族による蹂躙、巨大に成長する帝国。大きな力に抗うには、小さな力でも可能な限り集めて団結をするしかない。民族間にある差別廃止や、貧富の差に縛られず才能を試すことができるチャンスの平等を謡う。問題や衝突も多々あり血生臭い事件が起きつつも、そうでもしなければとても帝国に抗う力を養うことはできなかったと言われている。

 

 連合王国首都ガルウィナス。その中央には白亜の優美な城塞がたたずんでおり、様々な民族の文化が取り入れられた王国の象徴とも言えた。

 

 「以上が、帝国に送り込んだ草の者からの報告になります」

 

 東方系に多い黒髪黒眼の男が報告を終える。連合王国における最高指導者会議【円卓】において、普段はそれぞれの都市に赴任している指導者達が集まっていた。

 

 「竜狩り隊相手を退け、未だ独立を保つ反抗勢力。物資の援助もないなかで予想以上の活躍であるな」

 

 大柄で禿頭の男が蓄えた顎髭を撫でながら報告をまとめられた資料を読み終え机に戻す。連合王国軍事局代表であるエクスラム=マーゼは興味深そうに眉をよせた。

 

 竜狩り隊は他国にも名が知られた存在。連合王国にも表向きには第二十六山岳兵団や第七陸兵師団。裏側にも特殊戦術暗殺隊を始めとした秘匿された部隊が存在するがいずれもかの部隊と交戦しても苦戦を強いられるという分析が情報局と軍事局の共通認識であった。

 

 「それほどまでに、報告にあるこの人妖という存在は強力なのか。コントロール可能な代物であるならば、是非とも軍に組み込みたいところであるが」

 

 「エクスラム殿。残念ながら人妖という存在は、軍事的観点から見ればそこまでの脅威ではありません。それぞれが特異な性質をもち、画一化が尊ばれる軍隊では扱い辛く、実用化に向けた費用対効果を考えればあまり推奨できるものではありません」

 

 「ライエル殿はそう考えられるか。では、このランザ=ランテなる人物が特異だと?」

 

 黒髪の、ライエルと呼ばれた男はその言葉に頷く。諜報局局長兼円卓議会のメンバーとして参加をするこの痩せた男は、直属の部下より送られてきた情報を元にランザという人妖に関して独自に分析を進めていた。

 

 「ランザ=ランテ。元は我が連合王国の人間であるが両親が早くに他界した後はストリートチルドレンとして生活していたようです。後に新天地を求めて帝国に密入国、冒険者組合に参加をすることになり帝国の領土を広げる開拓調査に参加をしたという記録が残っております。冒険者組合を辞めた後の公的な記録には、後の行動は残ってはおりません。ですが、調べたところによるとある時期組合に再度参加をしずっと人妖と呼ばれる異形を狩る為に動いていたらしいです」

 

 「人妖なぁ」

 

 円卓の上に無遠慮に足をのせて、椅子の足を半分浮かせながらおおよそこの場には相応しくない態度をみせる男が一人。紙巻の紫煙を吹かせ、横暴な態度をとった無礼な若者といった様子であるがこの円卓で彼に注意をするものや苦言を呈すものはいない。

 

 その理由は、男の年は百を超えておりこの円卓において最年長であるという信じられないような理由があった。そしてその功績の大きさから、帝国に対抗するための力を求める連合王国において誰よりも重宝をされていた。

 

 「興味深いが不愉快なことに、人妖事件は帝国に集中しているようだからな。サンプルはともかく、生きた検体を捕獲したいところではあるのだがね。このランザという男、捕獲することは?」

 

 「クラルス殿。現地勢力にそこまで期待をしないでいただきたい。それに、今やランザは反抗勢力の目玉といえる戦力となっています。下手に刺激しない方が賢明かと」

 

 「悪竜が絡む人妖。興味深いは興味深いんだがねぇ。まあいいや、エンパス教とレント=キリュウインの調査はどうだ?久々の新たな外来人、是非とも動向が気になるところだが」

 

 「今回の円卓会議の議題から外れる為、詳細は後に」

 

 モノクルをの向こうに見える目から、興味が消えて行くのが分かった。研究対象の情報がほしいだけの人物だ。円卓の一員ではあるが、細々とした政治や情勢には興味が湧かないのだろう。

 

 クラルスの興味は、エンパス教とレント=キリュウイン。リスムにおける巨人事件の詳細において、奇跡と呼べるような現象も確認されており新たな研究対象を見つけそれ以外はどうでもよいといった雰囲気だ。

 

 人妖については多少の興味はあるのだろうが、彼にとっては二の次なのだろう。諜報部としては、彼の要望は可能な限り応じなければならない。草の者達の一部は、クラルスの研究成果であり安定して情報を送ってくれる優れた駒であるのだから。

 

 「メーテル殿。財界からだいぶ支援を回しましたが、そちらから見て、リスムの様子はどうですか?」

 

 王国の経済省から来たのは、この中では最年少の女性。本来の代表が病により行動が困難になっており、代理として訪れていた人物であった。

 

 メーテルと呼ばれる女性はおっとりとした笑顔を浮かべているが、油断できる類の人物ではない。帝国侵攻の為、必要な大義名分の確保においてその一翼を担っている存在だ。

 

 「リスムには、たっぷりと餌付けをさせていただきましたので。ええ、あくまでも人道的措置ということで。エルフ等という蛮族の暴挙で、苦しめられる人々のことを思うと今なお胸が辛く締め付けられますわ。少しでも速く人々の心に安寧と豊かさが戻ればよいのですが」

 

 心にも無いことを、と内心では思うが口には出さない。連合王国の意思決定会議円卓、その先代達の幾人かはこの女が裏から回した手により破滅をしている。連合王国の財政を支えつつ、他国の外貨や不動産を多く持ち合わせる実力を持つ裏には、底知れぬ暗部が隠れているものだ。

 

 これで、敬虔な宗教家であり寄付の総額は文字通り桁外れ。どこまでが国民に向けたアピールでとこからが真意なのであるか。まあ、それを探ったところでなにか価値がある訳ではないが。

 

 「わたくしにはリスムに多数の友人がおります。その友人達によると、今は連合王国派が政治家や資産家のみならず民衆にまで広まっているとか。嬉しい限りですこと」

 

 「帝都事変の反動、であろうな。あろうことか帝国は、首都でおきた事件の対処に失敗したのみならずその下手人さえ未だ仕留めてきれてはいない。悪竜は倒れたようであるが、ランザの生存はそのまま帝国においては汚点だ。早急に首級をあげねば、国の内外問わず求心力の低下は避けられまい」

 

 エクスラムの視線の先には、壁に貼られた大陸図が広げられていた。赤々とした広大な領土を誇る帝国ではあるが、その威光は数々の事件により陰りつつある。

 

 「気が進まぬがやるならば、このタイミングでしかない訳か」

 

 「ほう?エクスラム。軍務の長としての発言にしては、やや好戦性欠けるような口調であるな。やる気がおきんかね?」

 

 「盟主の命令ならば、従うのみ。だが戦争とは何時の時代においても下策とも、進言しよう。外交をミスした際のしりぬぐい、それが軍事による力の使い道だ。そしてその暴力性は、多くの悲劇と嘆きを産むことになるのだ。クラルス殿、研究畑の貴方には分からない話であるかもしれないがな」

 

 「ああ、エクスラム。感情等という些細で稚拙な論にもならない反論をださないでもらおうか。戦争というものはな、人類の進化において必要悪だ。いつの世でも、技術革新は戦争による発展が関連しているのは見過ごせるものではないのだよ。闘争こそ人類の根幹、私はその本能に相乗りさせてもらうだけであるよ」

 

 大柄な軍務局代表と、斜に構える若者の対立にしか見えないが、場の空気は冷え込んでいく。メーテルは可愛らしい子供の喧嘩を見るように微笑みながらそれを見守っていた。

 

 エクスラムの懸念は、王国がどのような形であれ帝国と戦争を始めた時のことである。大陸最大の二国が交戦を始めれば、連合王国と同盟を結ぶ国々と帝国の植民地軍がつられてあちこちで交戦を開始する。そのようなありよう、世界大戦とでも呼ぶべきであろうか。

 

 「双方、落ち着くがよい」

 

 重厚な木製の扉が開かれ、訪れたのは現連合王国の盟主、総帥たるダグラス=オウルベアが現れた。

 

 齢にして三十を過ぎたばかりである若き指導者ではあるが、経済省を支えるメーテルと我等諜報部を抱き込み、年功序列の成り上がりや保身を第一に考える今よりも不要な人員が多数を占めていた円卓を改革した傑物だ。

 

 先代が総帥は、まさにそんな円卓の傀儡といっても良い人材であり、事故に見せかけた工作により排除をし、一時は十二人にも及ぶ数が円卓にいたが今まで甘い蜜を吸うだけの者達を表から裏から粛清した。現在の円卓は彼が必要だと判断した人材のみを集めた王国の為の意思決定機関。産まれ変わった王国の心臓部であった。

 

 「エクスラム。増長した帝国を叩くタイミングは、今この瞬間しかない。残念な話であるが、我等と彼等の地力が違う。このままなんの対策を打てずにおれば、いずれこの王国は歴史の闇に消えるであろう。貴殿が戦争という手段を忌避するからこそ、そこらの夢想家にはできない地に足がついた軍略を練ってくれると期待をしているのだ。国の為、尽くしてはくれぬか」

 

 「盟主たるダグラス総帥のご命令とあれば」

 

 そう、帝国は力をつけすぎた。増長する勢力の波は、いずれ周辺国全てを呑み込み覇者として大陸に君臨するであろう。それだけの力が、かの国にはあるのだから。それを分かっているからこそ、エクスラムもそれ以上の言葉を並べ反論することはしなかった。

 

 「来るべき日は、リスムの住民投票開票日だ。表からも裏からも手を回した。無論、我等が手をだしやすくなるストーリーもな。そうであろう?ライエル長官」

 

 「既に劇団として役者を派遣しております」

 

 弱体化している帝国が、立て直す前に攻撃を加える。そのためには、大義名分が必要だ。少なくとも、正義はこちらにあると他国や民草に示すことができる動機がだ。その為の手は、回している。

 

 「ご期待に添える結果となるでしょう。ご安心ください」

 

 諜報部長官、私のような諜報や工作が似合いの人間がこの円卓にいることじたい、ダグラス総帥の鶴の一声であった。ここで期待に添えなければ、なんのための諜報部長官か分からないであろう。

 

 戦争に向けた第一段階は、問題なく進行していた。帝国一強の時代を終わらせる為に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 リスム自治州、掲げる大盾本部。普段ならば、自治州各地でおこる揉め事の解決や警備の依頼に散る団員達であったが、この日はほぼ全団員達が港湾都市リスムやモスコー、または経済特別区に詰めていた。

 

 前日に行われた住民投票。リスム自治州はこの先どうしていくのかの民意を問うための投票が行われ、明朝より結果待ち望む住民達によって一団と早い朝を迎えていた。

 

 前日とこの日ばかりは捕鯨船も漁を控え、経済特別区も普段程の活気を感じられない。それだけに、この投票結果に自治州民達と諸外国は注目しているととれた。

 

 勢いを増す連合王国と、近頃斜陽といえる帝国。吸血鬼の登場で半壊したモスコー事件に、エルフの暴走による巨人事件。二大国と挟まれ、それぞれの国から甘い蜜を吸いつつ、緩衝地帯として二国の暗闘の舞台として、不自然ともいえる不幸な事故がおこり続けていたリスム自治州。

 

 それでも、長い間保たれていた仮初の平穏な日々が終わりを告げたことは全住民が分かっていた。

 

 掲げる大盾は帝国に母体を持つ組織であり、リスムはその支部であったが団員の達には帝国人以外にも自治州出身者の他に連合王国が故郷のものも多い。これは多民族の集まるリスムにおいて馴染みやすくなるための先代支部長が提示した方針であり、跡を継いだグローもその路線は護っていた。

 

 故に、団員達の中でも意見が割れていた。帝国を宗主国として従うか、連合王国を宗主国として慕うか、あくまで自治州として誇りをもって独立路線を貫くか。この三択であるが、もはやリスムに独立自治を叫ぶ勢力は少数派だ。

 

 なので主だっては、帝国と連合王国のどちらの庇護下に入るかが、議論の的になっている。

 

 その背景には、リスムとモスコーを襲った悲劇。そして、強大だった帝国の陰りが見えるようであった。

 

 「グロー支部長」

 

 執務室の扉が叩かれ、マリアベルが入室する。街全体が浮足立つなか、リスム自治州の中でも小さな宿場通り出身の彼女はいつも通り、落ち着きはらっていた。

 

 「現在まで、リスム及び経済特別区に目立った異常はありません。些細なトラブルの話さえおきず、まるで嵐の前の静けさですね」

 

 「どのような結果であれ、問題が起き始めるのは投票結果の発表後であろう。迅速に対応する為に、情報収集を引き続き怠らないようにしてくれ」

 

 「はい。そして、最大の懸念である行政庁舎周辺ですが、人が早くも大勢集まりすぎております。ドラエフ警備保障が応援として出向き、警備隊と混乱を防ぐように動いていますが……」

 

 「ああ」

 

 言わんとすることは、分かる。ドラエフ警備保障は民間武装組織としてはまだ産まれたばかりであり、警備のノウハウで言えばこれまで培った経験が違う。配置や装備が些か頼りなく思えるが、掲げる大盾は直接介入できない。

 

 帝国系である我等が組織が行政の警備を担当すれば、結果によっては非難の的となる為だ。票数の操作、投票妨害、無論そのようなことをする輩は掲げる大盾にはいないと自負をするが、不必要な争いの種をまきかねない。

 

 そうである為、投票場や会場の警備は可能な限り中立なリスムで発足した組織に任せるしかなかった。無論、その組織であっても公平とは言えない面もあるだろうが我等がやるよりは、住民の評価はマシというものだ。

 

 とはいえ、仮に暴動がおこったらすぐさま出動する必要があるだろう。問題はドラエフ警備保障が、問題がおこった時に適切に対処できるかどうかである。不必要に住民を傷つけながら制圧してしまえば、後々問題になりかねない。

 

 いや、後々どころではなくすぐさま暴動が過激に暴発する危険性すらあった。そのようなことはないと願いたいが、最悪を常に考え続けるのは冒険者組合時代からの習慣だ。

 

 だが、最悪と言うのであれば一つの看過できないミスを犯してしまったことが悔やまれる。

 

 ランザ。我が友を、どうしてあの時力づくでも止められなかったのか。彼の復讐が巡りに巡り、様々な思惑を動かし世界情勢すら崩れるきっかけとなろうとしている。

 

 「支部長」

 

 マリアベルの声に、思考が中断された。

 

 「支部長は、帝国出身者であり、帝国国民ということでこの度の投票は、公平性が欠ける判断となるということで投票辞退を余儀なくされました。ですが、支部長は今回の住民投票をどうお考えでしょうか?」

 

 自治州民であるマリアベルと違い、未だ国籍は帝国にある俺は投票権利を与えられることはなかった。そのことに関して文句はないが、上司の考えを聞いておきたかったのだろうか。

 

 「あくまで、リスム自治州は公平な独立自治を保つべきだと考えている」

 

 「意外でした、やはり帝国側に肩入れするものかと」

 

 「この自治州の魅力は、あくまで独立自治に力を入れているということ。鯨油産業を始めとし、あまり認めたくはないが経済特別区の発展等住民達の向上精神と活力は他の自治州にはない魅力があるからだ。二大国に挟まれることで、逆にそれに呑まれまいとする意志が魅力としてこの自治州を輝かせていたからな…だが」

 

 そう、少し前までのリスム自治州は二大国に翻弄されながらも、独立自治を貫くという気概があった。しかし今のリスムはその屋台骨となる気質が骨抜きにされている状態にあった。

 

 大まかな理由は二つ。リスムを半壊させた巨人事件の他に、ネズミ算式に広がったエンパス教による布教。

 

 事件時は、モスコーの救援に訪れていたのでイマイチピンときていないのだが、奇跡と呼ばれる現象を目の当たりにした者達とは考えが違うのかもしれない。だがしかし、人知を超えた力を目の当たりにした人達からは新たな教えが広がると同時に強い意志というものが抜けているように感じた。

 

 あくまで感覚ではあるのだが、まるでなにか強大な力に頼るのが正常であると言わんばかりというか。現実に、当時リスムに居残っていた掲げる大盾の者達にもそういう思考を持つ者が現れていた。中には、エンパス教の熱心な信者になる者も。

 

 宗教の選択において強制力はないものの、名状し難い忌避感と違和感のようなものを感じていた。寄らば大樹の影とも言うが、大きな力には逆らわず従うことこそが常識であると考える者が確実に増えている。雑に言えば、長い物には巻かれろの精神性か?

 

 その思考が浸透していないのは、港湾都市であるリスムにおいて経済特別区くらいであろう。皮肉なことに、今やあのならず者の島がこの自治州の中で一番リスムらしいと言えるほどであった。

 

 しかし、こんな状況であくまで独立自治路線に票を入れる住民が、はたして何人存在するか。あまり考えたくないものである。

 

 「だが?」

 

 「いや、あくまで本籍を帝国においている出稼ぎ労働者のような立場での発言だ。自治州のことは、自治州内の人間が決めるのが妥当である。これ以上、あまり無責任に口出しすることもあるまい」

 

 「この場では私と貴方しかおりません。団員達の主義主張もあるでしょうが、私には遠慮をしないでいただきたのですが」

 

 まっすぐとこちらを見つめて来る。掲げる大盾支部長としての意見や、帝国民としての意見ではなくあくまで個人としての考えが聞きたいということか。

 

 「この度の住民投票、親帝国、親連合王国。どちらに転んでも自治州は荒れる。それを回避するにはあくまで独立自治の宣言を貫き通すしかない。そもそも、誰が言い始めた?この住民投票自体、リスム自治州においてなんの得がある?」

 

 「自治州代表の声明では?混迷する時代の中で、方針を固め困難に対処する為自治州民一丸となり物事に当たる為の取り組み、その一つであると」

 

 「住民の真意な意見を問う。だが、帝国が荒れて連合王国が野心をみせ、深く傷ついたモスコーとリスムという現状だ。平常ではないうえに、仮初の平和が暴かれ始め各々の不安が表面化してきている。団結が必要なこのタイミングで、対立を煽るような投票等本来ならばするべきではない。仮にいずれ必要になるとしても、現状では悪戯に二国を刺激するだけだ。今のリスムは、帝国と王国どちらにも良い顔をして支援を引き出すだけで良いのだから」

 

 親帝国派に票が流れるようになるのならば、連合王国にとっては痛手だ。帝国が混乱に揺れ求心力が低下している今切り取れるところは切り取ってしまいたいのに関わらず、世論が帝国に流れるとしたらどんな無茶をしてもリスムを切り崩しにいく可能性がでてくるだろう。

 

 逆に王国に票数が集まるとなれば、大陸最大を自負している帝国にとって、王国の方が安全保障をしてくれるという自治州民の声に面目がさらに潰れてしまう。これ以上の求心力の低下は、帝国にとっては痛手であり二国間の緊張はさらに高まるだろう。

 

 どちらにせよ、緩衝地帯であるリスム自治州にとっては良いことがない。

 

 「いや…まさかそれが狙いか?」

 

 言葉が自然と、口から洩れた。戦争にとって一番必要なものは、自国民の納得による継戦能力の確保だ。この不自然な住民投票自体、仕組まれたものだとしたら?

 

 「しまった!すぐに団員達に武装をさせろ!リスムの行政施設まで向かう!」

 

 マリアベルが驚いたように目を見開くが、理由を聞く前に頷いた。最悪の想定ではあるが、すぐに行動をとらないと取り返しがつかないことになる。

 

 この住民投票、仕掛け人にとっては結果なんてどうでも良いのだ。ただ、その後におこることの方が大事なのだから。人手が必要だ、市内に散らばる者達はともかく、ここに詰めている者達だけでも向かわねば。

 

 「支部長、報告があります!」

 

 「どうした!?」

 

 肩で息をする団員が、ノックもなしに執務室に入り込んだ。顔色が悪い、最悪が当たってしまったか。

 

 「リスム行政庁舎前で、大規模な暴動がおきています!ドラエフ警備保障の人間では対処できず、負傷やも多数出ている模様です!」

 

 頭の回転が鈍い自分が怨めしい。黒幕の計画は、既に始まってしまっていた。

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