家族の仇は、娘でした 作:樫鳥
マリアベル=クロノスにはリスム自治州の命運等どうでも良かった。
リスム自治州、元々は帝国と連合王国の緩衝地帯としてただ小さな港町とモスコーがあるだけの、なんの力も産業もないようなところだった。
他所とは違い二大大国に挟まれたその土地柄故、時には帝国、時には連合王国に支持が集まり暗闘や諜報戦として不自然な事故や歪な投資が多く行われてきていた。ランドルフ支部長は独立自治こそリスムの姿と語っていたが、そんなものはここ数年鯨油産業が成功してようやく芽生えた仮初の自信に過ぎない。
外でおこる醜い言い争い。親帝国だとか、親王国だとか、やはりなにかに縋りつくのがクセになっているような、国民性が根底にあるのだろう。自治州が、聞いて呆れる。状況で風見鶏のように変わるのでなく心の底から本気で自治を志す者達が、幾人この街にいるのか。精々大海原に出る捕鯨職人か経済特別区の荒くれくらいだろう。
「我々は掲げる大盾リスム支部の者です!緊急事態、治安維持組織から交付された、略式委託権を行使し、強制調査に入ります!」
比較的騒ぎが薄い裏側方面から数名の隊員と共に突入をする。警備スタッフや職員に止められもしたが、上役が浮足立っている今大した抑止力にはならない。また、掲げる大盾は普段から治安組織とは友好関係を築くことに努め、苦心している。
例え、偽物の書状とはいえこの場を誤魔化すには説得力があり、日頃の行いが物を言うとはこのことだろう。しかし、いざという時この手の搦手を用意しているなんて抜け目のないことだ。
「目的地は?」
掲げる大盾は民間武装組織。時には武力に物を言わせる、市民が行使できる力だ。内部にさえ侵入してしまえば、外が混乱状態なこともあるが、いかつい武装をした戦士達を止められる者はいなかった。歩きながら、今回の民間投票という物証を手にする段取りを組んでくれた団員に話しかける。
彼は甥が行政庁舎の役員として勤めており、ランドルフ支部長の指示でいざという時、行政調査に踏み込む段取りを幾つか組むように指示を受けていたそうだ。それが、不発になることを祈っていたがそれがこうして有効手段となってしまっている。
物証を確保して、公の元再調査と間違いのない事実を公表する。それがこの混乱を早期に収まめる為の最善手となる。不正があったのなら、何時、誰が、どのようにを追求していく必要がある。時間をかければかける程、皆も多少は冷静に物事を判断できるようになるだろう。
「三階東側、奥から三部屋め。鍵がついているが俺の甥っ子が確保してくれている。三階で、合流するよう話は通しておいた」
「甥っ子君に感謝ね。後で礼を言わないと」
「あいつは、掲げる大盾……というよりはマリアベル、アンタのファンでな。モスコー騒動に巻き込まれ、瓦礫の下敷きになっていた時に、救助に来たアンタが瓦礫の隙間から手を差し伸べてずっと握っていてくれたことに感謝しているんだとよ。礼なら、後でサインでもくれてやれ」
あの時の男性か。よく、覚えている。助けた人達からの純粋な感謝は、素直に喜ばしく一つ一つが大切な思い出だ。そして、一番最初に掲げる大盾というものを始めて見た時は忘れることはできない。
掲げる大盾の支部がリスム自治州に来たのは、十年以上も前に遡る。経済特別区の法案が成立され、土着組織のレガリア、新興組織のハーウェン、地下迷宮の入口を一つ非合法に占拠するデラウェアが利権を争い暗闘に収まらない抗争を繰り広げていた。
本人達は、抗争を越えた戦争をおこしていないだけ行儀が良いとでも言いたげではあるがそれでも民衆にとっては恐怖の対象だ。そんな者達への牽制として、先代支部長の元掲げる大盾がリスムに設立された。
どうせ帝国系の組織だと、最初は誰もが思っていた。生命や財産の保護、依頼を受けるのは親帝国派だけで中立や王国には見向きもしないだろうと。だがしかし、掲げる大盾は違った。私は、それを目の前で目撃した。
リスムとモスコーの間は、徒歩で一日半はかかる。主要な街道は往来も多いが、時にそこは危険地帯になりえていた。
街道から東方には湿地帯が広がっており、そこにはエルフと同じく人類の敵対種と言われる二足歩行の爬虫類を思わせるリザードマンが生息している。時に連中は、気候条件等複数の条件が重なれば街道に侵入し宿場町を荒らしたり旅人や商人に攻撃を仕掛けてくることがあった。
幾度か大規模な討伐、殲滅も計画されていたが、足場が悪く湿地帯は自然と野生の宝庫である。環境の悪さと費用対効果の悪さから上手くいった試しがなかった。
私の産まれは、そんな街道に存在する宿場町の片隅だ。人通りが多く人気な街道沿いから外れた、安宿が集まる区域。安い夜鷹が往来に立っているような、そんなところだ。当然、犯罪の発生率も高くなにより、リザードマンが攻撃を仕掛けて来る時は常に防備が皆無なこの区域からだった。
父の顔は分からない。性病に侵され仕事ができなくなった母親の介護をしながら小さな畑作と物乞いや盗みをしながら生活する日々。なんの為に生きているのか分からないような毎日。世界がある日、ふと終わってくれたら楽なのだろうなと毎日のように思っていた。
古い伝承には、終焉の時とか審判の日とか最終戦争とか色々な世界終焉の物語があるらしい。本当に来るなら、急いできてほしいくらいだった。その時は、まっ先に訪れた時代に殺されるのだろうが。
だから、終焉の日より前にリザードマンが襲撃してきた時はようやく来たか、という気分だった。子供の耕せる限界の畑、その向こう側からのし歩いて来る武装した爬虫類共。宿場町の防衛組織は、もっと中央部に近いしここまではフリーでのし歩いてきた訳だ。いざという時に、まっさきに犠牲になるからこそ外周の宿は安い。
耕されたばかりの貧相な畑が踏み荒らされてもなにも感じなかった。どうせ、終わりなのだから。
『おい』
傍らから延びた腕が、緑色の鱗に覆われた腕を掴む。辺境警備隊に多い豚鬼程ではないにせよ、膂力に優れている筈のリザードマンが動くことができないところを見るにかなりの力で掴まれているようだった。
男が大きく腕を振るい、リザードマンを畑から叩きだすように振り投げる。その頭に、使い古された大きな山刀が叩きこまれた。
『人様が耕した畑を、踏み荒らす馬鹿がいるか…なんてお前等に言っても無駄だろうけどな』
『あの?』
『もう大丈夫だ、怖い思いをさせたな。すぐにこんな連中ここから叩きだして』
『貴方も、踏んでる』
男は決め顔のまま固まり、ゆっくりと左に動いて小さな畑から出た。前方から仲間を殺されたリザードマンが迫るなか、山刀を構えなおして男は声をあげる。
『弁償は、掲げる大盾のグロー=カザルタフにこっそりと請求してくれ。できたら、大将にはバレないように』
後に支部長に昇進する、まだ配属されたばかりの新人であるグロー。
この時点では、ただ単に助けてくれただけの人だった。こんな外周に駆け付けてくれる掲げる大盾じたいが変わっていたが、終わっても良いと思っていた私には感謝もあるかもしれないが余計なことをしなくて良いのに、という感じだった。すねた子供だと、今でも思う。
全てが終わりリザードマンの死体が集められて燃やされていた。歓喜も嘆きも、興味がない。ただ今日の食事と明日からの食事を確保する為、荒れてしまった畑を直すことからだ。盗みは最後の手段、常習犯となれば捕まる確率は高くなり抜け出せなくなる。
『請求書が来ないと思ったら』
グローは、しばらく宿場町に居残った。襲撃された箇所の復興と、しばらく街道の巡回警護をするということで掲げる大盾から派遣されてきたようだ。その評判は、こんな端っこにいても聞こえてくる。
『ここにはなにをうめて、育てているんだ?手伝えることはあるのか?』
忙しい筈なのに、彼は毎日のようにここに顔をだしてきた。
『おーい、水汲んできたぞ水。俺もさぼりに来たから、休憩しようか』
ありがたかったのは、顔を出したからといってなにか畑を手伝おうと無視するこちらに気にせずウロウロするだけだった。街道近くで物乞いをする時ならともかく、こんなところで施しを受けたら妬みの対象になる可能性がある。人の悪意は、どこから飛んで来るか分からない。
ただでさえこんなところに足繁く通い子供の相手をするだけの戦士なんて珍しいのだ。目だって良いこと等一つもない。
だが、それがあまりにもしつこい為尋ねてみた。本格的に口を聞くのは、初めてだった。何故こんなところに通うのか、何故助けてくれたのか。こんな終わって良い者達を助けて、なにか見返りを期待しているとでもいうのか。
植える為のレンズ豆の種子を見ながら、これはなんの種だと尋ねていた男は質問とは違う言葉が来たことに考え、少し困ったように考えてから口を開く。
『なにも考えてなかった』
訝し気な顔を浮かべると、グローは後頭部を軽くかく。
『誰かのなにかの助けになりたいなんて、ありふれたようで特別なことを考えるようになったのはつい最近でな。前職で、ちょいと色々あって足を洗ったものの技能なんざ暴力事だけ。掲げる大盾の理念には賛同しなんとか入れたものの、それを実践できているか怪しいもんよ』
麻袋に入っていた、安価なレンズ豆の種子を手の中にすくい転がす。
『俺にはこれが、なんの種かさえ分からない。これを植えれば芽がでるだろうけど、どう育てるのか、何時収穫できるのかさえな。そんな知識すらない、それでも誰かのなにか、力になりたいのは確かなんだ。心がぶっ壊れかけている友人を助けてやれなかった俺でも、誰かの助けになりたいんだけどな』
後に知ったが、掲げる大盾の理念は文字通り人々の盾とならんとする理念であり、思想であった。
暴力事しか能がないと言わんばかりであったが、その入隊は狭き門だ。だがそんな組織に入ってもまだ、このグローという男は悩んでいるようだった。
『手始めに、君の助けになりたいと考えたんだ。畑を踏んで、手助けどころか迷惑かけちゃったしな』
『レンズ豆』
『え?』
これは安価で、麦の四杯の収穫量を誇り、どの家庭でも出てくるらしいレンズ豆の種子。どこにでもある、どこでも育つ農作物。
『これ、レンズ豆の種子だったのか…マジか。』
掲げる大盾、リスム支部の敷地内には訓練用の中庭がある。その端っこには、グロー支部長の個人用畑としてあの時と同じほどの小さな畑が存在する。育てられているのは、勿論あの時と同じレンズ豆だ。
忠誠を誓った、感銘を受けた、まではいっていない。でも、人生早く終わることしか考えていなかった私に一つの目標を授けてくれた。人助けがしたくても、やり方が分からず畑の周りをウロウロするしかできなかったあの人を逆に助けてやること。
助け合い、そんな単純なことをできる環境とは言い難かった。そして、簡単なようで難しいそれを私はあの人にしてやりたかった。その最大の機会こそ、今である。
リスムが割れる騒動、戦争のきっかけ、どう転ぼうが多くの人間が悲惨なことになる。別にこの自治州がどうなってもそこまでなにかを思うところはないが、それを支部長が望むことはないだろう。
三階まで足を進める。例の甥っ子はどこにいるのか少し探す必要もあるかと考えたが、その必要はなかった。
三階廊下に充満する血臭、投票を管理していた職員達であろうか、綺麗に首筋を裂かれて血溜まりができていた。
「これは」
転がる死体に団員の一人が近づき、仰向けに倒れている男性の顔を確認する。見覚えのある後頭部、顔を見た後悲痛な顔をして顔を左右に振る。見覚えのある顔と、このような形で再開したくはなかったがやることはある。
「鍵は?」
「……持っていない。服の中にも無さそうだ」
身内が殺されている。それなのに、状況を整理して今は感情的になる場面ではないと静かに怒りを内心に隠す。冷静沈着なのはありがたい、民衆の盾たる者が浮足立つ訳にはいかないと常に訓練で叩きこまれていた成果が悲しい形ででていた。
「そう……瞼を閉じさせて」
手向けになるかは、分からない。ファンだと言われたが、この行為にどれだけの意味と価値があるかは分からない。ただ、私の荒れそうになった感情を宥める為だ。この静かな怒りを、可能な限り宥める為の。
行政庁舎の前で騒動がおこり、そこに注意が向いている間に何者かが侵入したのか、元々内部に下手人がいたのでこのタイミングに動いたか。
「素早く、静かに行くぞ」
レイピアを抜く。軽く、しなやかで、狭い通路でこそ真価を発揮するこの細剣は、体格的には普通の武器も銃器も扱うのに苦労するこの身体には合っていた。意図した訳ではないが、ハルバードに山刀といういささか屋内や狭い通路では扱いにくいグロー支部長の戦闘スタイルを補完することもできた。
三階、奥から三部屋め。目的地に向け進んでいる時、目当ての部屋からやたら腕が細長い人影が現れた。
見た瞬間、背筋に怖気と寒気。行動を見るより前に身体を停止させずスライディングをするように滑り込む。
その瞬間、人影の身体が軟体のように蠢きダランと伸びた両腕がその可動範囲を無視して枝分かれをしながら鞭のようにしなった。対応が遅れた後方の団員達の首から上が宙を舞う。しなる両腕には幾本ものナイフが突き刺してあり、腕が振るわれたことでその刃が肉と骨を両断した。
「なんだこいつは!……こいつが!」
銃剣突きのライフルで腕のナイフを弾き、射撃をすることで反撃を試みる。まるで骨等無いとでも言いたげに胴体をぐにょりと曲げて弾丸を回避する。飛び上がり、天井に足から生やした刃を突き刺して張り付く。
「何者かは知らんが、庁舎の職員を殺害した重要参考人として、掲げる大盾団員の殺害の現行犯として拘束させてもらう!投降しろ!」
本気で投降を狙っている訳ではない。だがしかし、少なくとも声掛けに対する反応で多少の人物観察はできる。
声を荒げるか、鼻で笑うか、無表情を貫くにしても表情の変化は感じ取れる。言語が通じなくても、異国の言葉を理解できているかいないかくらいの情報は、完全ではなににせよ顔から読み取ることができる。
その声に反応したのか、首の可動域を無視してグルリと能面のような無表情な顔をこちらに向ける。顔立ちは帝国系にも、王国系にも見えない。王国よりもさらに東方にある顔立ちに思えるが、リスムという土地は交易や鯨油の買い付けで異国からも人が訪れる。正確な出身地は分かりそうにない。
だがしかし、開け放たれた口からは『あ゛ー』といった獣よりも知性を感じない意味のない音声が漏れるのみであった。開け放たれた口から、ダラダラと唾液が垂れている。
『あ゛ア゛!』
天井をガサガサと蟲のように移動してきたと思ったら、四肢から生やした刃を振り回しながら錐揉み回転をしながら突っ込んできた。これだけの移動能力があるのならば、玄関等通らなくても壁を張り付いて昇り窓から侵入できるか。
後方に飛び回転を回避し、短く、素早く走る歩方で距離を詰める。東方武術にある刻み突きと呼ばれる技法を、レイピアの技術と組み合わせた。本来ならばちゃんとした技術があるのではと思うが、実戦では正確な技術を習得するよりも身近で見た動きを組み合わせた方が素早い。
競技用の技術ならば目にする機会もある。競技は競技で馬鹿にするつもりはないが、戦闘では身体のどこかにかすれば得点となる競技技量よりも踏み込みから深く突き刺す技術の方が重宝する。
ガチン、という音が響いた。レイピアの切っ先が前歯で止められた。こんなことをすれば歯茎と歯の方が砕け、顎が外れるとは思うが現実は押しても引いてもビクともしない。どれだけ頑丈な顎と歯をしているのか。
「なんて化物だ」
「そのまま動くな!」
左右の腕があげられるが、その前に後方から銃撃音が響く。ライフルの弾丸が能面のような表情に着弾、眼球を貫き脳髄と頭蓋の破片が血液と共に後方に飛び散った。
「っ!?」
絶命したかと思った瞬間、それでも切っ先を噛みしめる顎の力に緩みがない。それどころか、あげられていた左右の腕が急所を狙いそのまま振るわれてきた。
「マリアベル!」
ライフルにつけられた銃剣で、片方の腕を迎撃し腕についた手甲で刃のついた鞭を弾く。両の腕が軟体により防ぎきれないナイフに裂かれたがそれを気にせずに前進した。
「甥の仇だこの野郎!」
そのまま顎を蹴り上げられ、無防備な胴体を晒す。口内から抜けたレイピアを心臓に突き刺し、連続で首筋と股間も突き刺した。
異形のような男はビクビクと激しく痙攣し、ようやく動かなくなる。亜人とも人妖とも違う、既存の生命体とも違うようななにか。断末魔も漏らさず絶命するまで陸にあげられた鮮魚のように痙攣するなにかを、理解することはできなかった。
「クソ、薄気味悪い。なんなんだこいつは」
「分からない。人間なのかどうかも。医療協会や医療組合、もしかしたら私達よりも辺境や珍しい生物に詳しい辺境警備隊の豚鬼に見せればなにか分かるかもしれないけど」
だが今の最優先事項は、投票結果を確保し真実を明らかにして公表すること。目的の部屋の前に辿り着いた瞬間、嗅いだことのある臭気を感じた。
鯨油は日にちが経ち悪くなると、臭気を発するようになる。この臭いは、まだそんなに酷くはないがほんの微かにその香りが室内から放たれていた。
扉を蹴り開けると、男が一人立っていた。観念したのか、それとも勝ち誇りか、皮肉な笑みをニヤリと浮かべる。その手には、火がついた小さな松明が握られていた。
「やめろ!」
制止の声と同時に火が落ちる。モスコーや周辺の村から届いた投票結果が入った、こじ開けられた木箱が火により一気に燃え広がった。中央にいた男は、うめき声一つあげずに室内で倒れ、炎に巻かれ絶命する。どこの誰だかを分からせないように、声一つあげることなくその全身を火にうずめて下手人が誰なのか証拠一つ残さず共に消えるつもりのようだった。
「そんな!投票結果が!」
「こうなっちまえば回収もできねえ!ここにいたら火にまかれるより先に煙にやられる!行くぞ!」
「待てクスルド!せめてなにか一つだけでも証拠を持ち出せれば!」
「なにかもクソもあるか!グロー支部長だってお前の亡骸と引き換えの証拠が欲しいと本気で思っているのか!いますぐ、下にいる職員達を避難させて俺達も逃げるぞ!」
赤々と燃える炎の中、リスム自治州の全住民による投票は舌のようにうねる火炎で灰となっていった。リスムの住民はどのような道を選んだか、そして何者がこの投票結果を灰にしたのか。それは、誰にも分からなくなってしまった。
リスム住民投票。帝国派である現政党の代表ノストラ=トルメシアは改めて不正投票により票数が操作されたいたことを公式発表により改めて公表する。
野党議員はそれに反発。現政党の住民投票という自治州民の民意を問う為の手段を軽く見た故に、不正がおこったのではないかと意見をだした。さらには、帝国にとって都合の悪い結果がでた為もみ消したのではないかと追及がおこる。
掲げる大盾の代表、グロー=カザルタフはあの日リスム行政庁舎でなにがおこったのかを発表する。しかし、帝国に母体を置く組織から提供された、目撃情報のみという曖昧すぎる情報にリスム自治州の住民間でも議論が巻き起こった。
ありのままを全て公表したとしても、人種もあいまいな下手人に化物の存在はとても額面通りに受け入れられるものではなかった。あの化物も、火が燃え広がった行政庁舎三階の火事にて燃えあがってしまった。
連日のように現政党の帝国派閥に対して抗議を行うデモが起き始め、リスム行政庁舎前を埋め尽くす。鯨油産業を支える人員が連日のデモにまわったこともあり、ストライキまで起き始める加工場まで出始めリスムの経済と信用は破綻していった。
これに業を煮やしたノストラは、遂にデモを違法のものだという見解を示し解散を促す。しかし怒りに燃える市民に、法という観点からみれば正論ではあるそれが通じるはずもなかった。
事件から数日後、遂に警備隊や治安維持組織とデモ隊が激突。死者二名、逮捕者二十八名、重軽傷者は数えきれずにでる。掲げる大盾の指導のもと、ドラエフ警備保障やその他の民間武装組織が争いの仲裁に奔走し更なる犠牲者が出る前になんとかその日の事態を収めることに成功する。
その翌日、デモ隊が過激化すると同時に警備隊の半数以上の人員がストライキをおこす。足りない人員を埋める為民間武装組織を頼るもどこもこの依頼を受けることはなかった。
当然だ。民間武装組織は、例えそれが建前であったとしても市民を護ることを第一にあげている。どんなに大金を積まれても、護るべき市民とぶつかることはとても受け入れられるものではない。
追い詰められたノストラがとった手段は、更なる悪手であった。冒険者組合の人員を、足りない警備の穴埋めとしたのである。
冒険者組合の人員と、民間武装組織の人員を同一視してはいけない。統制がとりきれない有象無象により、デモの鎮圧に四十名を越える死傷者がでてしまう。これには、ストライキをおこしていた警備隊が反応、護るべき市民に武器を向ける冒険者組合から来た穴埋めの者達と市街戦がおこってしまう。
連合王国総帥、ダグラス=オウルベアはこの事態に一つの声明をだす。
連合王国を宗主国にしたい王国派閥、それが中心であるデモ隊に被害がでたということで、同胞を護るべきという声明をだしリスム自治州に王国兵を派遣し事態を収めることを公式発表する。
それに対して、帝国は非難声明をだす。国交断絶やあらゆる経済制裁案をだし王国を留めようとするが、それに王国が反応することはなかった。唯一届いた声明は、【自国民】を護る為ならばどうのような制裁も無駄であると。
王国派閥とはいえ、リスム自治州民。彼等を自国民と呼ぶことは実質リスム併合を叫んでいるに等しい。国交断絶と同時に、リスムの治安維持を名目に王国軍を派遣。帝国も遺憾を示し、実質的な強制的な支配をリスム自治州民は望まないと現政党から救援を要請され帝国軍を派遣。
こうして、リスムをきっかけに、戦火が各地で広がることとなった。
今日でこの作品も一年が経ちました。
一年前から作品を応援してくれた方、途中から読み続けてくれた方、本当にありがとうございました。
最初は閲覧数、お気に入り、評価、それらを気にせずに完結させようと考えていましたが、上を見ればキリがない状況何度も心が折れかけましたが、感想や評価に想像以上の支えになりました。
健康を害する等、よほどのことがない限り時間をかけて完結させるつもりでいます。今後とも、よろしくお願いします。