家族の仇は、娘でした   作:樫鳥

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 帝国の西南にある地方都市クス。特筆すべき産業はないが、古くから続く歴史のある都市であり街のあちこちには古い意匠が施された様々な遺跡や遺物が出土していた。

 

 この地方都市、考古学者達や歴史にロマンを感じる者にとっては夢のような都市と言えたが、領地を治める帝国貴族には悩みの種でもあった。

 

 クスという土地は、なにを隠そう初代帝王である国父ギルバードが忙しい日々を最中、遊興の為に訪れていた都市であり、当時から古代の出土品が多いということでそれを保護する法律を直々に成立させた経緯があった。何百年も前に成立されたカビの生えた法律であるが、それでも今なお効力を発揮する現行法でもあった。

 

 少し地面を掘り返したら遺物、都市を開発しようとしたら遺跡、どこをなにしていじろうと太古の存在がわんさかと出て来る始末である。あっちで保護、こっちで開発中止、遺跡が見つかる度に計画していた都市開発もパーになり雇用も増やせず人口も流出していく始末。

 

 地方都市とは言うが、帝国では下から三本の指に入るような力の無さであり、いっそ観光業を中心に展開しようとしていたが帝都事変と連合王国との開戦を経て政情不安によりその計画も暗礁に乗り上げていた。

 

 だが、連合王国との戦い等遠い東の出来事でありまだ戦争の不安感等はクスの住民とは無縁なものである…筈だった。困ったことは輸入品や保存がきく食料が品薄状態、物価高となっていったが逆を言えばその程度だ。他は強いて言うならば、志願兵募集の張り紙や活動が多くなっているくらいか。

 

 「おい聞いたか、グルト王国とキシミ連邦国が連合王国に呼応して帝国に宣戦布告しやがった」

 

 「大陸西側の中小国とはいえ、連合王国相手をする為に人員がある程度東にいったばかりだし、国境は大丈夫なのか?傭兵を雇うなんて話もあるが…」

 

 「徴兵制度を再導入するなんて噂もあるし、これ以上物が高くなると」

 

 「北の反乱勢力が地方都市を一つ落としたらしい。遠い場所の話とはいえ、大丈夫なのか」

 

 大通りを少し歩くと、漏れ聞こえるのはこんな話ばかりである。帝国の影響力の陰りは、こんなところまで広がっているようだ。クスに入ったのは早朝であるのだが、別の都市や街でもこのような状態だった。まだあまり開戦の影響を受けていないのは、小さな山奥の村落くらいである。

 

 帝国と連合王国がリスム自治州の平野で開戦、帝国が快進撃で王国に痛打を与えたらしいが、戦場からの情報が正しく民衆に伝わることなど、優勢時以外まずはない。戦争という巨大事業は、足元が定まらなければ勝てるものではないのだから。

 

 まあ、今の俺にはさして関係のない話である。やるべきことが、まだ残っているからだ。

 

 「ご婦人、よろしいか」

 

 声をかけられた中年の女性はギョッとした顔をした。自分で言うのもなんだが、異国の偉丈夫というあからさまな不審者相手に声をかけられたのだから驚かない方が無理はないであろう。

 

 「このクスに、エンパス教の神殿はあるだろうか。巡礼の最中であって、出来れば場所を教えてほしいのだが」

 

 「ああ、巡礼の方でございましたか。このご時世、ご苦労様です。私も今からお祈りに行くところで、よろしければ道中案内いたしましょう」

 

 当たりを引いた。目的地の神殿に辿り着き、更なる幸運に恵まれれば良いのであるが。

 

 「私はゲルダ=ヒルと申します。巡礼者様のお名前は?」

 

 「クダ=カンゼンと申す。異国の産まれなれど、この地でエンパス教の救いに触れ感銘を受けた者でな。この出会いも、良い導きであろう」

 

 帝都事変から、三か月の時が過ぎていた。あの日、かつて仕えていた主君、その忘れ形見である蛇女レジーナ、いや漣の姫と異国で再開し負い目と義理により協力。エレミヤの元、同僚であったエイラと共に鍛えてやった弟子であるランザを急襲し裏切った。

 

 その後漣姫は、エンパス教の地下に向かう隠し通路にランザへと降りていきそこから先は部外者である俺は通してはもらえなかった。だがしかし、なにがどうなったのか急にエンパス教の神殿が崩壊、地下からドーム状の異物が湧き出たと思ったらそこから異形の狼が出現しどこからか現れた悪竜と交戦を開始する始末である。

 

 怪獣クラスの巨体が争う余波は、帝都の一角に深刻な打撃を与えた。帝都におけるシンボルマークの一つであった時計塔は崩壊し、かなりの民衆が争いに巻き込まれ家を失い命を落としてしまったのだ。人命救助に可能な限り手を尽くしたがこの手で救えた命はたかが知れている。数人の帝都市民と、猫二匹といったところだ。

 

 竜は狼を連れて、北へと去った。エンパス教の神殿があったところは崩壊し、帝国軍が封鎖を行いなにがあったか調査を続けているようであった。

 

 謎めいた地下空間が見つかったようだが、掘りだしを進め全容を解明するのには年単位の時が必要となる。そのうえ、戦が始まったことでそちらの調査に人手を避けず今は区域の立ち入りを禁止することが精々であるようだ。

 

 あの後、地下でなにがったのか。恐らくは生きてはいないであろう漣の姫は、どのような最後を遂げたのか。竜を追おうと北に歩を向けようとしたが、厳重に帝国軍が封鎖をしており近づくことすらできない。ならば、関係性があったエンパス教から情報を得ようとこうして帝国をあちこち行脚している。

 

 「ゴホッ!グッ!」

 

 「大丈夫ですか?巡礼者様」

 

 「ただの持病故、心配無用」

 

 手の内に吐き出された血は隠すように拭う。死病とは言うものの、人間やることがあれば早々死にはしないらしい。身体が苦痛のサインをだすが、これくらいならば顔に出さずに行動することは可能だ。

 

 他愛のない話をしながら訪れた神殿は、商館かなにかか、建物を改築した建物のようであった。この街にも教会はあり、信者の数はトントンといったところであるらしい。しかし、エンパス教の教えは他宗教の排他、一神教を主眼においている為どこにいっても仲はすこぶる悪いようだ。

 

 なんとなくではあるが、布教において元から根付く宗教に喧嘩腰であるところなど効率を重視しきれていないあたり、どこか個人的な悪意を感じる気がするものだ。もしかしたら、エンパスなる神が教会の教えを個人的に嫌っているのかもしれないとどうでも良いことまで頭に浮かぶくらいである。この辺は、他宗教にも寛容な教団とは正反対だ。

 

 産まれの国にある宗教も多神教。異国からも様々な宗教が流れ混沌とした様相になっていたが、神様なのであればそれくらい寛容でいた方がらしいのではないかというのが個人的な考えである。まあ、今は情報を集める為敬遠な信者のふりをしておこう。

 

 可能であるならば、神殿の司祭殿。もしくはそのうえにいると言われている者達まで取次、話しを聞きたいものである。漣の姫はエンパス教と無関係ではあるまい、少しでもなにかを知りたいのだ。そして、可能であるならばあの夜なにがおきたのか。あの地下に、なにがあったのか。

 

 信者達には、芋をこねて作った菓子のようなものを渡される。少々ではあるが塩気も効いており、これくらい素朴な味わいな方がかえって好みである。

 

 さて、まずは形だけでも祈りを唱え説教を聞かなければ。椅子に座っていれば良いだけなので、休憩にもなる。その後司祭を捕まえてエンパス教の上層に繋がるような情報聞き出そう。藁にも縋る思い出あるが、武一辺倒の半生、搦手の類は不得手であり調査は足を使うしかない。できれば身体のガタが誤魔化せなくなる前になにかしらを掴みたいところだ。

 

 レジーナと名乗っていた漣の姫が根城にしていた、リスムの経済特別区。ハーウェンに向かえば更なる情報を得ることができるかもしれないとは幾度も考えた。だが、雇用主であるエレミヤのお嬢。それと懇意にしてたランザを裏切る不義理を犯したことで万が一でも顔を合わせてしまうことがあればどの面を下げれば良いことやら。

 

 それに、あの可愛らしい殿の娘子が異国にてどれだけの苦労を身に浸し、悪事に身を染めたのか考えたくもなかった。あの経済特別区で、ハーウェンという三組織の一角を為す程だ。並みの労苦ではなく、その手は血にまみれたであろう。

 

 なにがあったのかを知りたい反面、そんな過去を知ることは可能な限り避けたかった。これ以上、罪悪感のようなものを背負い込みたくはない。主家滅亡の折、主と最後まで戦い城を枕にできなかった不義理者は、どうやら逃げるのがクセになってしまったようだ。死後ご先祖に、合わせる顔もない。

 

 「どうしたのですか?今は大事な話をしているので、着席なさい」

 

 説教をしていた、三十代と思われる司祭の話が中断された。目を開き見てみると、そこにはフードを深く被った小柄な体格の者が中央の祭壇に通じる通路に立っていた。

 

 「いえ、司祭様。生憎ですがそれはできません」

 

 「何者だ!よせっ!」

 

 危うい気配を感じ立ち上がり叫ぶが、フードの人物はまさに疾風迅雷という速さで祭壇まで走りよる。大きく跳躍すると、腰から直刀が抜かれすれ違いざまに一閃。ゴトン、という重い者が落ちた音と共に祭壇の上に生首が転がった。

 

 首の断面、太い血管から噴水のように流血が溢れだす。フードと祭壇周辺、最前列まで血が届き身体があおむけ倒れて見えなくなった。

 

 「さて」

 

 フードの人物が生首を掴み、無造作に蹴りつける。通路の中央、信者達の中央に司祭の首がまるで玩具のように転がった。

 

 「死にたくないなら、逃げた方が良いよ」

 

 その一声で、非現実な惨状を呆気にとられて見ていた者達が叫び声と共に逃げ出していく。説教台に座り足を組み合わせながら笑う者は、聞き覚えのある声をしていた。いや、聞き覚えがある声なんて漠然としたものではない。エンパス教上層部よりも、話しを聞きたかった者の声だ。

 

 信者達がいなくなった神殿の中、席から離れ中央の通路に歩みを進める。

 

 「帝都事変の夜を、覚えているか」

 

 「……あー、そりゃあね。凄い偶然、こんなところで、顔を知る人に会うなんてさ」

 

 フードをとる。灰色の髪の毛に同色の獣耳、眼帯をしており短くなった尻尾を振りながら女は対峙した。

 

 「話は、ランザから聞いているよ。帝都事変の夜、彼を拉致してウェンディ=アルザス……いや、あの時点では蛇女レジーナかな?まあ、彼女に彼を渡した師匠さんとやら。クダ=カンゼンさんだったよね」

 

 「話は早いようだ。あの日の夜、気紛れでランザと関りがありそうなお主を地下へと送った。生存者は絶望的かと思っていたが、こうして再開できたのならば僥倖であろう。あの日、地下でなにがおきたのか。お前の言う蛇女レジーナがどうなったのか教えてほしい」

 

 「無理、と言ったら?残念だけど時間がないんだよね」

 

 「ならばその時間、こちらの都合の合うように作るまでだ」

 

 刻むような運足。距離感を誤認させるように速度を調整し、相手の目には即座に間合いを詰めてきたかのように誤認される縮地の技術を応用し詰める。正拳の一打が説教台に当たり、木片がバラバラに砕けて飛んだ。

 

 「最低でも、お主の名前くらいは吐いてもらうぞ」

 

 背後の祭壇に飛び移る灰色の半獣の目付きが変わる。

 

 「速いね。流石は、ランザの師匠だよ」

 

 「流石に最高速度はもう一人の師匠には劣るがな。瞬発力では、まだ大抵の相手には負けん自信があるさ」

 

 「ううん。羨ましいなぁ」

 

 頭に疑問符が浮かぶ。羨ましいという言葉、何故今このタイミングで彼女の口から放たれたのであろうか。

 

 「クダ=カンゼンさん。貴方は自分が知らないランザを知っている。あの経済特別区、エレミヤの娼館で過ごしたランザをね。話には聞いていたけど、断片的な思い出じゃ自分は物足りないからさ。そういう話を教えてくれるなら、ゆっくりとお話ししても良いけれど…」

 

 祭壇の、エンパスを象る木造を蹴り半獣が急接近。両手には直刀の他歪な形状のナイフが握られており、回転するように斬りつけてきた。半歩後退して初撃を回避、直刀が振られ急所を狙った斬撃を容赦なく連続で繰り出して来る。

 

 「ランザを裏切り、引き渡したのはないかな。死んで償え」

 

 まだ子供と言える年頃に見える少女から放たれる言葉は、暗い憎悪とそれを乗せた殺意。繰り出される斬撃の数々も、運足と身体の使い方から鑑みて相当に鍛錬を積んでいるのがうかがえた。

 

 「奇妙な縁があったらしいな。だが、殺さなくてもいずれ死ぬ中年男性だ、そこまで殺意を向けることもあるまい?」

 

 「かもね。でも関係ないよ!」

 

 横ぶりの裏拳を飛び上がり回避し、半獣が足を振るう。仕込まれていたのか、フードの下から棒ナイフが放たれガードをした腕に突き刺さった。それを好機とばかりに、直刀を頭に突き立てようと空中で水平に構えていた。

 

 「温い」

 

 ガチ、という音が響き直刀が止まる。

 

 「え!?……嘘でしょ?貴方人間だよね」

 

 半獣が驚愕に目を見開く。直刀のきっ先を、前歯で挟んで止め緊急停止。この武技は、島野の国で狂犬と呼ばれた、この半獣と同じ眼帯の男が敵の刀を歯で挟んで受け止めカウンターを決めた逸話から着想を得たものだ。

 

 離れようとした半獣の足を掴んで地面に叩きつける。逃げられないように首元を腕で抑え、過度に締めすぎなように固定。身体能力はともかく、この体格差と力の差だ。逃げられるものではない。

 

 「あの日、地下でなにがおきたのか知っていることを話せ。そうすれば、これ以上危害は加えない」

 

 「流石は…ランザの師匠だよね。でも、知ってどうするの?レジーナの知り合いみたいだけどさ」

 

 「あのレジーナと名乗っていた者、彼女は俺の昔仕えていた主家にいた一人娘だ。どうなったのか、まだ生きているのか、知りたいのだ。本当の名を、漣という」

 

 「ハッ…ハハ……アハハハハハハハ!」

 

 嘲笑するような笑い声が、半獣の口から溢れる。なにも知らない目の前の人物に対し、怨みある者に対し、嘲り罵るような笑みを浮かべた。

 

 「レジーナ?漣?なーんにも知らないのに、ホイホイランザを裏切ったんだ。麒麟も老いれば駄馬に劣るなんて言葉もあるけど、その年で耄碌しちゃった訳?それとも、元々頭は緩いの?憐れだよねぇ……ウェンディに、都合よく踊らされちゃってさ」

 

 「やはりなにか知っているのか!?言え、あの地下で、姫になにがあったんだ!」

 

 「残念だけど、それを話す時間はないかな」

 

 頭部を横からなにかに殴られた衝撃がはしる。拘束が緩んだ隙に半獣は抜け出し、ステンドグラスの方に逃れていた。周囲をよく見ると、半獣から延びた影が砕けた説教台の木片を掴んでユラユラと揺れていた。

 

 油断した、異端の術、予想の外からの攻撃、ダメージは軽微であるが意表を突かれたのは否定できない。情報源を逃してしまうとは。

 

 「一つ教えてあげるよ。レジーナだか漣だかなんて、もうこの世にはとっくにいないんだよ。貴方に再開するずっと前からね」

 

 「どういうことだ!?なにを知っている!?」

 

 「時間がないって言ったよね。ランザの裏切者に、これ以上話すことがある訳ないじゃん。今の情報は、あの日地下に通してくれたぶんのお返しだよ。じゃ、二度と姿を現さないで。どんな汚い手段を使ってでも、次は必ず殺すよ」

 

 ガラスを割って、半獣がその場から逃れる。追いかけようとした瞬間、神殿が大きく揺れた。祖国では地揺れの災害はあったが、この大陸に来てそのようなことは一度も経験をしていない。

 

 急いで出口に向かおうとした瞬間、天井が崩れ木材や石材がバラバラと落ちて来る。大きく建物が崩れ出入り口の前に瓦礫の山が積みあがるが、ここで焦っても仕方がない。

 

 気を練り込む、という考えがある。特殊な超能力の延長線なんじゃないかと訝しむ素人もいあるがなんのことはない、集中とそれに呼応する身体能力のコントロールだ。

 

 どっしりと構え爪先から両足、上半身に向け身体の筋力を連動し、ひねりを加えて正拳が六発放たれる。頭から下半身までの急所を全て穿つ勢いで放たれる一連の技は、本気でやらなくても下手をすれば人一人殺しかねない武技だ。

 

 退路を塞ぐ障害を弾き飛ばし外に出る。そして、その時に感じた強大な気配に視線を向けた。

 

 神殿を踏みつぶすように君臨するのは、黒き竜。かつて帝都事変の元凶となった災厄の片割れがこちらを見下ろしていた。だが、姿かたちは近かろうが、よく知った気配が竜から放たれている。

 

 「とんでもない姿になったものだ、ランザよ」

 

 暗く濁った眼だけは、どのような姿になっても変わらないものだ。

 

 『グルオオオオオオオオオオォオオオオオオ!』

 

 騒然とするクス中に、凄まじい竜声が響く。帝都事変の再来かと混乱する声があちこちから響いたが、それに構わず黒き竜は羽ばたいて北の空へと去っていった。そして、その背中にはあの半獣の少女が乗っている。

 

 全壊したエンパス教の神殿。クス自体には手をださず、司祭を狩りとるものの信者は避難をさせてから狙い撃つように建物だけを倒壊させた。そして自らの存在を誇示するように鳴き声をあげて北に向け去っていく。

 

 まるで、エンパス教を狙い撃ちにした挑発のようであった。なにを考えているのかは知らないが、知性を失った獣と化しているならば無意味に暴れるのみであったであろう。

 

 「北か」

 

 街の治安組織が駆けつけてくる前に、その場を離れる。あの半獣の娘は、地下での出来事を知っている。そして、ランザは恐らくそれ以上のことを。

 

 そして、漣の姫は、再開する前からこの世には既にいなかったということ。その意味は、いったいどういうことなのか。少なくとも、俺には姫が偽物とは思えなかった。ウェンディ=アルザスとやらが何者なのかも探らねばならない。

 

 事態が、動いた。想像よりも斜め上の展開ではあるが、ようやく手掛かりを得ることができた。

 

 現状、北の地へと向かうのは想像以上に困難である。戦争が始まり各地で警戒状態となり、各所で検問もしかれ草の者、スパイを見つけようと表と裏で諜報戦、暗闘が行われている筈だ。異国の者が一人旅をしている等、怪しいことこのうえないうえに反乱勢力がいるという北の地へと向かうのは困難を極めるであろう。

 

 だが行かなければならない。そして、例え筋が通らないとしても聞かねばならないのだ。それを知らなければ、勝手な話ではあるが一人の男として死んでも死にきれない。急がなければ、ならない。

 

 歩き出す。最早、寄り道をしている訳にはいかない。この身体には、時間がないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

    年  月  日

 リスム自治州、デアド平原にて連合王国軍と帝国軍が激突。小競り合いではなく、大軍同士の戦闘が行われ連合王国軍が優先となる。既存の生物とは一線を画した異形の生物が連合王国軍から放たれ、帝国先鋒が混乱したことにより撃滅されることとなる。

 帝国軍、貴族であるレゾン=バレエッタ将軍が混戦のなか討ち死に。指揮権が下士官に譲渡される。

 

    年  月  日

 連合王国軍陣営より緑色に着色された煙が放たれる。風にのった煙は、帝国軍陣営に襲い掛かり複数の人間が嘔吐、鼻水、涙が止まらないといった状態に陥る。陣営が壊滅状態になったところを連合王国軍が急襲。帝国軍が退却したことにより、デアド平原の戦いは連合王国軍による快勝に終わる。

 その戦果呼応するようにグルト王国、キシミ連邦国、アレト共和国、後アブソリエル公国、オルレント自治州が連合王国を宗主として連合軍樹立を宣言。集団安全保障をかけ、帝国に宣戦布告を行う。

 余談ではあるが、デアド平原で巻かれたガスは連合王国の最新兵器である兵器であり、生き残りの帝国軍、そして突入した連合王国軍兵士達は失明等の後遺症で長く苦しむこととなった。

 

    年  月  日

 帝国各地でエンパス教の神殿が竜により襲われる。北の反乱勢力とのつながりが、まことしやかにささやかれるようになる。

 

    年  月  日

 帝国に、エンパス教幹部であるレント=キリュウインが接触。とある条件と引き換えに、エンパス教から派遣された義勇軍が支配されたリスム自治州にて抵抗を続ける帝国軍に援軍として派遣される。

 

 著者、製作年月不明。走り書きのメモより一部抜粋。

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