家族の仇は、娘でした 作:樫鳥
「主や、何故こんなところに!だが丁度良い、想定外の出来事がおこっているでな、手を貸してたもれ!」
陣営に近づいた時、乗ってきた馬がこれ以上は近づきたくはないと拒否反応を示した。私の故郷が経済崩壊から続く一連の出来事により国家としての枠組みが消滅する以前からの付き合いであり性格はよく理解している。そんな愛馬が拒否をするというのであれば、やはり尋常ではないことがおきているのだろう。
下馬をして、歩を進めようとした時にこちらに踊り子が走り寄る。およそ戦場とはかけ離れた、相応しくない出で立ち。ことその特殊な才能から、隊長に選ばれ部隊に組み込まれることになっていた。
「おお副長よ!連合王国の連中、奇怪な生物を駆使してきよってな。残念ながら我々には手に負えん!だが団長補佐である副長であればこれくらいは……」
後ろを見て、追跡者がいないことを確認しながら喋る。安心しながらこちらを見た表情が、安堵のまま固まる。腹部の衝撃、貫通した騎士槍が信じられないといった様子で目を白黒とさせていた。
「何故貴様はここにいる」
「……は?…なにを……わちを殺したら…レント殿が……」
「敵前逃亡。私達に果たされた神命は、前進制圧の筈だ。貴様はエンパス様の、レント隊長の命をなんと心得ている」
騎士槍が引き抜かれ、踊り子が膝をつく。目の前に投げ渡されるのは、慈悲ではなく両刃のナイフであった。
「せめて生き恥を晒さず自害せよ。汚点を自ら拭いさってこそ、贖罪だ」
傍らを通り過ぎ立ち去ろうとする。自ら首を掻き斬る強さが無ければ、そもそもエンパス教えを支える武力となることじたい間違いであるのだ。あの傷では馬にも乗れなければ、そのまま血を流し死ぬしかない。生き恥を晒しその生が冒涜となるのならば、自害による殉教の選択肢を与えたのだからまだ情けを与えた方だ。
一歩進み、その次の行動で騎士槍を背後に突き刺す。舞う鋼鉄となる花弁を寄せ付けず、槍の尖端が吸い込まれるように額に突き刺さり頭部を破壊した。
「逆怨みか、愚かなものだな」
怨みをこめてせめて、道ずれにでもしようとしたのか。だが、殺気が漏れている半死人の攻撃等いかに異能があろうと恐ろしくはない。
「だからレント殿には言ったのだが、大道芸人や趣味人を戦線に出すべきではないと。いや、失っても痛くないもので威力偵察ができたと思えば御の字か」
先発隊で使い物になりそうなのは、東方二十八ヵ国の槍使いクルーとアサシンのはみ出し者メリオーネくらいなものだ。それらを除けば、誰も彼も戦場を体験したこともない市民あがりにすぎない。せめて、信仰心を胸に果敢に立ち向かえば認めなくはないがこのざまである。
訓練もロクにしたことがない市民が初めて銃を持つ時、その万能感に近い遠距離からの一撃必殺の性能に酔いしれる。だがしかし、何時どこで、なにがおきるか分からない戦場では練度を高めなければそんなものはせいぜい自害用に使えるかどうかにしかならない。
本質を突き詰めれば、レント殿から与えらえる加護とてそれと同じものだ。モスコーで亡者に殺されたカリナ=イコライや巨人事件で命を散らした者達もいるというのに、自分だけはそうはならないという精神に侵された者達の多さには辟易していた。
「生き残れそうな者は、精々数人だと思ってはいたが」
動揺し、冷静さを欠き、対応が可能である能力を有しているというのに、陣営に辿り着いた際目に入ったのは蟲にたかられるかつての仲間達だ。生理的嫌悪に呑まれず、冷静に対応していればある程度は助かる目もあったものを。
浸食された幾人かが、目を、いや眼球をギョロリと動かしてこちらを見る。曲剣を持つ者が、躍り出る。光を透過する程の透明な刃は、あらゆる防御能力を無視して敵に斬撃を与える異能だ。そして、手にもつものの重量を軽減もしくは消失する能力を持っていた。
生前よりも動きが素早く鋭い。筋肉の肥大具合から、恐らくは脳を犯す侵入者になにかしらの制限を介助されたのだろうと推測はされる。
「防御を無視する加護、だがやはりそれは使い手が成熟してこそだな」
だがしかし、これよりも速い存在等いくらでもいる。噂によるところ、辺境警備隊を一人残らず首を刈り取り殺した人妖がいたようであるが、かのウォーリアバニーよりも強力な存在ともなれば是非一度遭遇してみたかったものだ。
曲剣の一振りよりも早く、騎士槍の三連撃が心臓、首筋、脳を貫く。身体能力を解放してもやはり遅い、この程度か。
仲間が一人やられたことに、蟲に侵入された者達がまるで意識を共有するかのようにこちらに注目する。それと同時に、身体全体に負荷がかかるような感覚。縄で無理矢理拘束し、両肩に凄まじい重量がかかり、腕が捩じられるような圧が感じられた。
動きが止まったところで、飛びかかる蟲と乗っ取られた傀儡達。遠距離からも鎌鼬や魔法のような蒼い閃光、大量に増殖したナイフ等が飛ぶ。新たな宿主にたかろうと、足元からは無数の蟲が這ってきていた。
「ほう、やられていたか。少しだけ以外だったな。いや、たかだが暗殺者、戦場ではこのようなものか。それとも、相手が悪かったか?」
襲い来る者達中で、黒装束のアサシンであるメリオーネがいた。二十を越える分身と共に迫りくる。この者を狩れるものがいたことを警戒するべきか。
身体を拘束する不可視の荷重を跳ねのけ、槍の一振りで分身や遠距離攻撃が軒並み薙ぎ払われる。正面から来たのが偽物ばかりであるならば、背後か側面狙いか。
分身一体一体に体積は存在しない、なんて甘い加護ではない。一人一人が質量を持ち、本物の刃と運動能力があり、分身を何体潰しても本体には効果が薄いというものだ。だが、今回は質量があるのが良い。
「全ては不可能だとしても、なるべくならばこの鎧を蟲ケラ如きで汚したくはないのでな」
武器を持たない側面から襲いかかってくる分身の一体を掴み、蟲共の上に叩きつける。何体かが潰れ、隙間から這い出た蟲が悶えていた。
分身の背中を踏みつけて、前進する。ルルミアがこの光景を見ていたら…否、まともな感性と考える脳が残っていたならばこの光景を見て驚愕をしていただろう。
彼女がレントから受け継いだ加護。本人の慢心や生死の危機を感じる程の苦戦を経験したことがないということを除き、その能力の脅威だけを考えれば、高位のものであった。
超能力、サイコキネシス。あらゆる防御を無視して、不可視の圧力で荷重をかけ、力で捻じ曲げ、その気になればその四肢や首を簡単に捩じ切ることができる。そんな能力こそが、慢心に繋がったのだろうが戦うものにとってその異常性は脅威そのものであった。
「信念と信仰心。その御心に従う者に障害はありえない」
ルルミアをのっとった存在が、どれだけの力を行使しようとその前身は止まらない。巨大な騎士槍を縦横に振り回し、飛びかかる蟲を薙ぎ払う。その攻撃一つ一つにまるで不可視の能力が付加されているように、鎌鼬も閃光も掻き消える。
「あれが、我等がナンバー2なのか」
槍を携える、東方二十八ヵ国の少女クルーは同じ槍術使いとして格の違いを感じていた。古い時代において、馬上で馬の突撃と共にでなければ重量のせいでロクに扱うこともできない馬上槍を更に巨大化させたような騎士槍。
四方から襲い掛かる蟲共とそれに操られた者達を蹂躙させていく様はまるで、ただの一人だけなのに歩く重騎士隊だ。蒼い魔術や鎌鼬を弾き返す様は加護の力を少しだけ応用しているだけなのだが、ただの一槍でまるで彼女の周囲だけ不可侵の領域が出来ているようだ。
レント殿の信頼が一番熱い、エンパス教の聖騎士団において副長を務める身。それは、彼の寵愛を一番に受けているという証である。それも、実力でだ。状況が状況であるにも関わらず、ここでこの槍を打ち込み隙をついて殺してしまわなければ永遠にその座は手に入らない。そんな邪な考えまで浮かんでしまう程である。
「クルー」
ただ悠然と、戦場を歩いていた重騎士がいつの間にか目の前まで来ていた。兜の奥に光る金色の瞳がこちらを見下ろしている。
「まだ無事な者達もいるようだ。貴様なら、彼女等を纏めてこの戦場から離れることもできるだろう。この首を狙う気概、この状況でもある貴様ならな」
槍を握りしめる手のひらが、ジットリと湿っていた。それだけ告げて重騎士は前進をする。気づいたら、私自身蟲や操られていた者達に包囲をされていたのだがその者達は全滅していた。ほぼ、加護の力を使っていないというのに。
「我等は天上の者に仕える従者。奉仕をし、この世界を導く偉業を手伝うか細い力。出来うることをするが良い、我等が神の為に」
腰が抜けそうになるが、ここでへたり込んではあの槍が頭をめがけて飛んできかねない。クルーには、もう頭を空にしてその言葉に従うしかなかった。
クルーから離れて重騎士が前進していく先には、ルルミアがいた。まずはこの荷重をなんとかするべきと考えたのだろう。
ルルミアが両手を広げる。浮遊する陣営を構築していた木材や異形の者の死体、テントに武器の類が浮遊をしルルミアの前方に壁として積み上げられていく。そして、残骸の一部が宙に浮遊したまままるで投石機で飛ばされたかのような勢いで叩きつけるように落ちてきた。
「ふむ」
重騎士は両足をしっかりと地面に縫い付ける。重心を低くしたと思ったら、その荷重に縛られた途轍もなく負荷がかかっている筈の身体で駆け出した。それはまるで、古い時代の重騎士突撃。銃、というものが産み出された現在では埃を被った古くシンプルな戦術。
木材や武器が鎧に叩きつけられるが、騎士の突撃は止まらない。多少の衝撃をものともせずに突き進んでいき、その槍の一撃が残骸の壁に突き刺さる。
それはまるで海を割ったとされる聖人の神話のごとく、残骸が吹き飛ばされその向こう側にいたルルミアに届いていた。巨大な槍により、その頭に突き刺さったというより、首の上にあった頭が吹き飛ばされ破片しか残っていなかったと表現する方が正しかった。
重騎士が腕を軽く動かし、荷重が消えたことを確認する。
「何時もの負荷訓練より、流石に荷が重かったな。だがまあ、こんなところか」
手に持つ騎士槍を、片腕で地面に深く突き刺す。手応えがあったのか、引き抜かれた槍には暗殺者であるメリオーネの死体が突き刺さっていた。乗っとられたものの中に、土に関しての加護を扱う者がいた筈だ。その者の能力を使い土の下に潜んでいたか。
「下からという狙いは悪くはない。必殺のタイミングを計っていたか。確かに、我が加護の特性を考えれば最適解と言える」
槍を雑に振るい、頭上から股間まで貫かれた者の残骸がテンとの布地に叩きつけられる。
「だが、無様に敗北をし敵の手先にのっとられる等唾棄すべき信仰心の欠如だ。少々買いかぶっていたようだな、メリオーネ」
重騎士が本陣の方角を見上げる。空を飛ぶ半獣の少女が、連合王国軍の総大将と戦闘をしている光景を確認した。
「未だ首級をあげられていないととるべきか、それとも敵ながら加護を持つ者相手によく粘ると褒め称えるべきか」
「そこは素直に我が軍の総大将殿を褒めてはくれんかね騎士殿よ。あれは我とは違い生粋の武人あがり、叩き上げというものでな」
第二陣へ昇る為の坂道。木門の上、薄汚れた毛皮のコートを身にまとう男が見下ろしていた。
「生憎我が褒めても、皮肉としか受け取ってくれんのだ。野蛮な脳筋なら脳筋同士の方が話が合うだろうよ」
「成程、その出で立ち、貴様がクラルスか。エンパス様から名指しで連合王国の危険人物だと聞いている。私としては、貴様さえ葬ればこの戦場での役目は終わるが、貴様がわざわざ出て来るというのことは罠なのだろう?」
重騎士が前進を開始する。
「蹂躙する」
「ならば良し。死ね」
クラルスが指を鳴らした瞬間、連合王国兵士達が二段目の陣営を取り囲む土壁の上を囲むように現れる。全員がライフル銃や弓矢を装備しており、ただ一人に向けて照準を合わせていた。
だがしかし、奇妙なことにその顔は引きつっていた。敵に関する恐怖だけではない、それはまるで、逃げるに逃げられないような、敵に銃口を向けながら背後から銃口をつきつけられているようであった。
弾丸や矢が射出させる。殺到する飛び道具は、分厚い鎧の装甲に火花と散らした。
「無駄に硬いではないか。このご時世、わざわざ重装甲を着込むのはそれなりの理由があるということか?それが噂に聞く、オルレアン鋼か。サンプルは手に入れているよ、我が国の鍛冶技術では加工不可能と言われているがなぁ。普通の鎧と比べても重量は凄まじい、本当に人間か貴様は」
「呪われた金属だ。これのせいで我が国は滅んだ」
「ああ、旧グロルダール公国か。さしずめ、資源の呪いという奴だな」
旧グロルダール公国は、かつて帝国の南西に位置していた小さな王国であった。国と名乗っていても、国民の総生産量は帝国の大都市一つと同じ程度であり人工の面ではリスム自治州以下の所謂小国である。主な輸出産業は豊かな大地で育てられる葡萄とそれから製造されたワイン、良質な豚肉くらいなのどかな国である。
なんのことはない小国であったが、その国でとある産出物の大鉱床が発見される。
この世界でも価値があり、また生活とは直接結びつくことはないが貴重な鉱石。それは、ダイヤモンドであった。
「なんのことはない小国が、世界中から注目を集めることとなった」
旧グロルダール公国では、ボ…じゃなくて俺がいた世界のオランダやナイジェリアと似たような悲劇を辿ることとなる。いや、ナイジェリアよりもさらに酷い惨状になった。
オランダ病。
天然資源の輸出により製造業が衰退し、結果的に失業者を多く生み出し国力が傾く現象が経済用語としてそういわれている。
オランダは北海に膨大な天然ガスの資源を持っていた。1973年の第一次石油危機がおこった際にエネルギー価格高騰に伴いそれを輸出することで莫大な利益を得ることができた。世界中が必要資源に苦しんでいる時に『うちの敷地から資源出てるんで売りますよ、足元は見ますけど』を文字通り行った訳である。詳細は違うかもしれないが、ざっくり言えばそんな感じだ。
政府はこの高額収入を高度すぎる社会福祉にあて、国民の暮らしを向上させた。しかし、天然ガス輸出拡大で通貨の為替レートが上昇。労働者賃金上昇と共に上がる輸出製品の生産コスト上昇。工業製品の国際競争力が急速に落ち経済が悪化してしまう。そこに経済成長で上昇した社会負担が国の財政を締め付け財政赤字が急増してしまった。
ナイジェリアでは、1970年代の石油輸出で大きな利益をあげたが、通貨高で以前の輸出品であるココアとピーナッツの収益が暴落。農家の衰退と、国家収入の多くが石油の輸出により課税が減る。税の使途の説明責任が薄れれば、そこから始まるのは悪徳政治家達の利益誘導政治だ。少数の利益を産む人間を抱え込む賄賂が横行し、適切な投資や公共事業が衰退する。
1986年、世界的な原油価格暴落がおこると国民からの税収が軒並み下落していたナイジェリアはあっとう間に衰退していった。一つの資源に頼り切り、それ以外を蔑ろにしてしまった末路である。
要するにオランダ病とは、豊富な天然資源により大きな貿易黒字を叩きだすことで自国の通貨高を招き、資源以外の輸出品は国際競争力を失う。製造力が衰退し働いていた人間が失業者になるが、高すぎる社会保障や蔑ろにされた国民達により国家が苦しめられるということに繋がってしまう。
専門分野ではないが、ざっくりと思い出すとこんなところだったか。
資源輸出で得た利益の投資とそれのみに頼らない産業の多角化がその罠をかいくぐる手段だ。資源弱国の日本には贅沢な悩みに思えるが、持つ者は持つ者で選択肢を誤れば苦労が待っているのだろう。
ではこの世界の、グロルダール公国はどうなったか。
希少で巨大なダイヤモンドは公国の巨大な収入源となった。国民はダイヤに夢中になり、その採掘の人員が回され他の産業は蔑ろにされる。それはそうだ、呑気に葡萄を作ったり豚を育てるよりも何倍や何十倍にも膨れた収入が手に入る。民衆や土いじりや家畜の世話をやめ鉱山に殺到することとなった。
巨大すぎる収入により外国からも出稼ぎの労働者まで訪れ、末期にはかの有名なアホウドリの糞で出来た国と言われるナウル共和国のように働くことを忘れてしまったという国民までいたと言われている。
しかし、事件がおきる。海竜リヴァイアサンの討伐だ。
元々南方大陸には、調査により様々な資源の鉱床が存在することが確認されていた。ダイヤモンドも、その資源の一つである。
開発が進まなかった理由は、かの海竜が君臨する限り大量の開発人員や道具を送り込むことも、採掘できた資源を帝国に輸入することも難しかったからである。かの海竜であろうと、海原を通過する船を全て沈めることはできない。しかし、多い時には年間で海に出た船のおよそ六割を沈めるという圧倒的な被害があればだれもが開発に及び腰になろうというものだ。
しかし、海竜は討伐され海の支配者は人間、とりわけ強力な海軍力を持つ帝国の物となる。目論見通り南方の弱小国家を踏みつぶし、現地人を使い採掘された資源が帝国に流れ込むこととなった。傀儡国でプランテーション農業を行い砂糖に困らなくなったように、帝国はその強大な体躯を支える鉱物資源にも困らなくなったという訳である。
帝国で安価にダイヤモンドが出回り始めると、当然グロルダール公国のダイヤモンドの価値は下落した。価値が下がったものに何時までも人は群がらない、ある程度の利益はでるが、一時の輝かしいダイヤの輸出利益に頼った経済は破綻する。
そんなグロルダール公国の最後の切り札は、国民にも明かされていないとある鉱床の存在であった。加工すら覚束ない、しかし恐らくこの地上でかなりの上位に位置するであろう硬度を持つ、まるで花弁のような奇妙な形状で洞窟内部で咲き誇る巨大な鋼鉄の花。オルレアン鋼である。
加工技術が開発され、この鉱石から出来る武具を販売できるようになればかつての栄華を取り戻せる。少なくとも、公国の指導者達はそう判断していた。そしてそれは、半分だけ実現をしていた。
「あの鉱石は、俺にも訳が分からない程硬いからな。だが悪魔の力でも借りたのか、それとも技術的な特異点でもおこったのか。とにかく、あの鎧と槍があるということは加工には成功したんだろうなぁ」
だが、時は既に遅し。国家の経済悪化は大量の失業者を支えきれるものではなかった。暴動と反政府デモ、過激化したテロリストが産み出されグロルダール公国軍と幾度か激突までしている。民衆には、経済が分からない。ダイヤモンドで得た莫大な富を、国家が独占し始めたようにしか見えなかったのだろう。
最終的には、グロルダール公国の貴族による裏切りによりオルレアン鋼の秘密が漏れてしまう。すぐさま帝国が介入し、平和維持の名目で表から内政干渉、裏からはテロリストに援助をして親帝国派閥を増やしていく。
工作によりグロルダール公国軍にも不満が広がり始める。軍とはいえ、彼等も人だ。民衆による暴動の鎮圧。しかしあの中には、自分の家族や恋人や友人達がいる。配慮はしても死傷者をだしてしまう暴動鎮圧や手段を選ばないテロリズムに、軍も疲れきっていたのだ。
『レント殿。ダイヤモンドも、オルレアン鋼も、我がグロルダール公国には必要なかったのだ』
部下の裏切りにより降伏せざるえなくなった、旧グロルダール公国軍騎士団長カナリヤ=エルは、絞首台から助けだされた時憔悴しきった顔でそう言っていた。
資源の呪い。産み出された大量の高級資源により、小国には度が過ぎる強力な新資源により、グロルダール公国はこの大陸から消滅し帝国の一部となってしまったのだ。
余談ではあるが帝国の誤算は、テロリストに率いられた暴動の集団が公国から大金をもらい、準貴族のような生活環境を与えられたお抱え鍛冶職人。つまり、オルレアン鋼の加工に成功した唯一の技術者達をも感情のまま殺してしまったことだ。必死に書類等が残っていないか等の調査を開始するも、唯一無二の加工方法は闇に葬られてしまった。
暴走した民衆程、コントロールが効かない者はない。その根底に怒りがあるならなおさらだ。それが例え、自業自得であったとしても人々は誤りを認めない。国全体が、間違っていたというのに。
ダイヤモンドの利益により腐敗した政治。伝統や矜持を捨て金儲けに走り、最終的には働くことすら放棄して不良債権同然となった国民達。それでも護るべき国民達相手に武器を向けざるえない状況となり、矛盾した行為に苦労する日々に彼女は疲れきった顔をしていた。
『誰も彼もが、自分のことしか考えていなかった。あの、牧歌的で私が護りたい民たちも民衆を考えた政治を行う為政者もどこかに消えた。助けだしてもらったところ申し訳ないが、私にはもう生きる希望はないのだよ』
俺が彼女を助けた理由、それは容姿であった。というか、輝かしい美貌を持つ幸薄い女騎士を堕とすなんてそれなんてエロゲ状態だ。これが醍醐味で異世界転生を楽しみ、エンパスに協力しているといっても良い。
だが話と状況を聞き、この女であればエンパスの秘密を明かしても良いと考えた。実力もそうではあるが、この女ならばあれが目指す世界に共感を得て、捨て駒ではない便利な手駒として利用しつくせるかもしれない。
そして、天性の身体能力と努力に裏打ちされた戦闘能力。俺が思う最強の加護を与えたとしても、肉体に負担なく使いこなせることができるだろう。その予想は、大当たりであった。
「連合王国には、昔何度もエンパスに煮え湯を飲ませた奴がいるらしいが今回はそうはいかねえよ」
かの陣営に、心技体に異能を揃えた最強が向かったのだ。連中を蹴散らして我々の力を示す、デモンストレーションとして連合王国軍は最適だ。
この戦い、連中に勝ち目はない。
不慣れながら、資源問題の話をこのページではだしました。
自分なりにかみ砕いてみたつもりですが、詳しい人がいたら、もし間違っていても寛大な心でスルーしてほしいです。