家族の仇は、娘でした   作:樫鳥

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何時の間にか滅茶苦茶UA伸びて、お気に入り数が百を超えていました。

急激に伸びたので驚いています。皆さんありがとうございます!




「あーあ、今夜は宿なしかぁ」

 

 三人の人影が、夜の道を歩んでいた。有象無象とはいえ多勢に無勢、頬が赤く張れ、鼻血を拭った跡もあり、身体の所々服をめくれば青痣ができているだろう。最後の一人をクーラが後ろからビンでぶん殴った後、肩を軽く叩かれ、ギルド職員に三人ともつまみ出された。

 

 この時期はモスコーにおける祭りの期間に、出店や芸で稼ぎを出す為に訪れる外部の者が多くこの宿場通りを利用する。ギルドでの宿泊施設が使えない以上は野宿がほぼ確定だ。赤髪の男は、清々しい声で大きく伸びながら宿なしを嘆く。だが声色は、宿を嘆くより暴れたことによりストレス解消ができたと言わんばかりだった。

 

 「巻き込んで、すまなかったな」

 

 「首突っ込んだの間違いだ。大勢で少数をボコろうとするのが気に入らねぇ。あとは差別もだ」

 

 ランザの謝罪に、男は笑いながら応じた。自分も続けて頭を下げ礼の言葉を言ったが、気にすんなと男くさい笑みを浮かべる。極めて稀ではあるが、人の中にはこういう人物もいる。後先考えず、自分がしたいと思ったことをする者。非常に好感がもてた。

 

 「ああそうだそうだ。俺はベレーザ=ハルベルト。この先宿場通りから先にあるモスコー街出身で、街に帰る道中だったんだ。アンタ等は?」

 

 「ランザ=ランテだ、こちらもモスコーに向かっている最中。こっちは…訳あって共に旅をしている」

 

 「クーラ=ネレイス。よろしく」

 

 ネレイス。奴隷あがりであることがバレると、珍しくはないものの色眼鏡で見られることも少なくない。奴隷が持たないファミリーネームは偽名であるが、詳しく調べようとしなければ分かるものではない。ネレイスというネームは、わりとこの世界には溢れかえっている。

 

 「行き先が同じなら丁度いいな。道中一緒しても良いか?モスコーは古い街だが、だからこそリスムにはない名所が数多くある。良ければ道中語らせてくれよ」

 

 ベレーザは好意からか、道中ではあるが街の紹介をさせてほしいと切り出した。そういえば、目的地はモスコーであるとは聞いていたが、何故モスコーに向かうかの理由はランザから聞きだせてはいなかった。祭りを控え活力が満ちた街に、人妖の情報やそれに準ずる怪しい話はない。まさか本当に観光しにいくとは思えないが。

 

 もしくは人が集まるからこそ、モスコーで情報を集め精査し次の目的地を決めることに主眼をおいているのかもしれない。祭りとなれば、それこそ各地から人が集まってくる。もしかしたら、人妖が絡んでいいるだろう話の一つでも聞けるかもしれない。

 

 宿場通りを抜け、近くにある村落近くまで足を延ばす。水場が近いためか、村落と宿場通りの間の短い道の間にはテントが立ち馬車が止まっており、宿からあぶれたか金銭をケチった者達が野宿の準備に勤しんでいた。

 

 薪となる枯れ枝の確保、水汲み、野宿の準備をする者達に対して食料を売ってもらう交渉。各々が役割を決め行動を開始する。二時間程経った頃には、焚火の上の鉄鍋。鶏肉と人参、玉ねぎやジャガイモを煮込んだトマトのスープと保存用の堅くて平べったいパンが各自の手元に行き渡っていた。

 

 あぶれた旅人に対する商売をやっている、少し足元を見た商人から仕入れた食材類。普段ならばこんな贅沢はしないと呟くランザであったが、それでもわざわざ半獣の為に厄介をこうむったベレーザに礼の意味を込めての夕食であるのだろう。資金を出すと言い出す相手の言葉も、丁寧に断る。一番時間がかかる薪探しにベレーザを割り振ったのは、食材購入時に気まずい思いをさせないためだ。買ってしまえば、目の前にある料理を平らげない訳にはいかない。

 

 「ま…まあそういうなら」

 

 声は遠慮がちだったが、目は輝いていた。胸元を護る鉄具を外し、背中の棒を地面に置き手近な岩に座り込む。堅く味気ない平パンであるが、塩気がきいたトマトのスープに浸すとジワッと浸透し柔らかくほぐれる。熱々のそれを口に含めば、トマトの風味と野菜の味、鶏肉の旨味が染みたスープの味がし、かみしめることで味蕾が喜んだ。

 

 「今日の礼と詫びだ、遠慮なくいってくれ。生憎酒はないが」

 

 「ランザ。酒まであったら、流石に申し訳なさすぎて立つ瀬がねぇよ」

 

 平パンを食べようとしたクーラの前にも、木製の碗が突き出される。騒動の原因であった自分は食べる資格がないと、思い込んでいたがランザは無言で鶏肉や野菜が浮かぶ碗が差し出した。ランザに向けて慌てて首を振る。自分さえいなければ、ベレーザを巻き込むこともこうして無駄な出費をして無駄に豪勢な夕食をだすことにもならなかった。自分は、このスープを食べる資格はない。

 

 ため息を吐かれた。手をとられ無理矢理持たせられる。多くは語らないが、悟る。客人の前で、一人だけ平パンのみを貪る半獣の子供。それを目の前にしてスープを食べるランザ。成程体裁が悪い、悪すぎる。そこら辺の危惧を見抜けないなんて、自分はまだまだ子供だ。

 

 スープは塩気が効き美味しかった…と思う。申し訳なさが尾を引いて、味がよく分からない。

 

 「ランザとクーラは、街についたらやはり祭り巡りか?今年の夏祭はすごいぞ、なんせ街成立から五百年の記念祭だ。気合の入り方がちげぇ」

 

 「街に知人がいて、会いに行こうと考えている。街巡りは…まあ二の次だな」

 

 「そうかい、そりゃあ残念。まあ祭りは数日続くからな、時間がある時に巡れば良いさ、急ぎ旅じゃないんだろ?」

 

 スープを飲み干し、いそいそとおかわりを盛り込む。最初は形のみとはいえ遠慮をしていたが、一度建前が崩壊してしまえば関係ないらしい。大味ではあるが、男好みの味付けというのがこのスープの良さだった。まだまだ年若い食べ盛りは、遠慮をする理由を見失っている。

 

 「なんだなんだクーラ、食えてないじゃないか。肉食え肉、成長期だろうが」

 

 無遠慮不躾に、こちらの様子を見て半分しか減っていない碗に大き目な鶏肉とスープをどかどか盛ってくる。やめてほしい。ただでさえいたたまれないのに、ランザに冷たい目で見られるのを想像して…悪くなかった。

 

 「しばらくはニンニクと茹でただけのジャガイモで食いつないで来た。久々の贅沢ができて嬉しいよ」

 

 「旅をする人間にとっては毒だけどな。舌が肥えれば、道中食事の貧しさに辟易することになる」

 

 「違いねえ」

 

 共感の笑みが、二人の間でこぼれた。打ち解けた雰囲気のなか、何時までも黙っていると疎外感を感じる。気づいた、というか気になっていたことを切り出してみた。

 

 「銃、持っていないのね。荒事慣れはしているみたいだけど」

 

 「ん?」

 

 ベレーザの装備はオレンジ色に塗装された長棒一本。腰には申し訳程度にナイフが差されていたが、多くの冒険者や荒事慣れした連中がしているように、銃器と近接武器の併用をしていないようである。旅の道中では危険な生物や野盗が跋扈している。近接攻撃の相性悪い生物や、銃器が苦手とする装甲や鱗で身体を固めた敵などどちらにも対処できるように、多くは二つの武器を持ち歩いている。

 

 それに関しては自分だって、今まで直刀一本できたが、使用用途が暗殺であったため、音が響き火薬の臭いが立ち昇る銃火器と相性が悪かっただけだ。現在は、単純に準備金不足に起因している。

 

 「こちとら金欠が常でな。整備に弾丸にと手間と時間がかかる銃器はちと財布に優しくない。それに、銃は簡単に敵を殺す。だからなるべくなら、殺さずにことをすませたいってのもあるかね。棒術はだから俺に合う、どこでも手に入るし、多少注意すれば相手を殺すこともない。例え相手が悪者でも、襲撃者でも、夢見が悪いからなぁ」

 

 傍らに転がる棒に視線を落とす。流派として槍が破損した際、そのまま鈍器として使用する槍術の派生技術はあるのだが、最初から棒を主力として使う者はなかなかいない。少なくとも、自分が見るのは初めてだった。

 

 「変か?」

 

 「ん」

 

 しばらく考え、首を縦に振る。人を殺すことは本来嫌悪を伴うものであるし、殺さずにすむならばそれにこしたことはない。そして銃器は、引き金一つで相手を殺すことができる。そして人の命は、軽い。例えるならばリスム自治州にて販売されていた男の奴隷。そのほとんどの出荷先は港町らしく外洋にでる船の最底辺だ。

 

 水夫としてではなく、べた風のなか船の漕ぎ手としてすし詰めにされ、一本につき三人がかりで大きなオールをひたすらこがされる。皮の手が剥け、尻の皮膚が破れ、不衛生な環境の仲徐々に弱っていく者達を、使えないと判断を下し次第海の中に投げ捨てていく。中型の肉食魚類が、大型船の後ろを何時までついてくるのは船乗りにとっては見慣れた光景だ。そして船が水没する際、まっさきに奴隷達は沈んでいく。人数分必要な救命艇の設置は法令で義務付けられているが、『物品』としてカウントされる奴隷達にはそんな救済は存在しない。

 

 殺したくない。それ自体は尊い考えだろう。だがしかし、現状人の命は、軽く安い。悪人であっても殺さずにすむならと考えるだけならともかく、それを徹底しているとしたら、変な分類だろう。嫌いではないのだが。

 

 「そもそも半獣だと分かって、加勢してくる時点で変」

 

 「産まれや体質で差別される方が、俺には変に思えてなぁ。体質で苦労する奴の気持ちは、他の奴よりぁあちょっとは分かるつもりだよ」

 

 体質、と聞いてベレーザを見る。見た感じ体のどこかに疾患や異常があるようには思えない。

 

 「どこか身体に不良が?」

 

 「んーああ、俺じゃなくて知り合いがなぁ。そうだ、ランザにクーラ、良ければだけどモスコーについて夜になったら夕食を招待してぇ。大したもんは出せないけど、会ってほしい奴がいるんだ。身体が弱い奴でな、旅の身なら、あちこちの話を聞かせてやってほしい」

 

 クーラはランザを見た。しばらく考えていた様子だが、小さく頷く。ベレーザに向けクーラも頷いてみせ、彼は満足そうな笑みを浮かべた。

 

 「よし決まりだ。それじゃあ友人達よ、明日はアンタ等の話を聞く代わり、今日は俺からモスコー観光における名物やおすすめポイントをレクチャーしてやる。まず街に入り目を引くのは、古くからある古城でな…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 モスコーの観光地に名物料理、ちょっとした歴史や隠れたおすすめポイントなどひとしきり語った後、少し自分がうつらうつらしてきてしまい、料理もほぼ食べ終えてしまったため会話を打ち切り就寝準備をして休むこととなった。

 

 一通りの片づけを終え、各々が寝静まるなか、クーラの目は開いた。眠たくなってきたと思ったが、片付けの最中にあった出来事で目が冴えてしまっていた。

 

 睡眠中のランザには近づかないこと。うなされていた夜、不用意に近づき首を絞めてきたことを今なお気にしているようであり、旅をするうえで注意をしろとくぎを刺されていた。

 

 ベレーザの大きな鼾。ランザは静かな寝息をたてるなか、先程のことを思い返す。

 

 泉で鍋や木椀を洗っていた最中である。布の端切れで水気をふき取り使用済みの食器を重ねる。それを回収しようとランザが近づいて来たさい、少しなにか言いよどむように、なんて声をかけて良いのか悩むような顔をして、一声かけてきた。

 

 「あまり美味く、なかったか?」

 

 食が進まない様子を見ていたのか、少しバツが悪そうに聞いてくる。予想外の質問にしばらく固まってしまい、そうかと呟くと同時に首を大きく左右に振った。

 

 やや大味気味ではあるものの、冒険者ギルドでだされる最底限食材を食べれるまで弄っただけの料理とは訳が違う。充分以上に美味しかった…とは後々思い返しての感想ではあるが、食べている最中は追い出される原因を作った要因として本当に申し訳なく、食事中はろくすっぽ味を感じられなかった。

 

 美味しかった。ただ、それを食べる価値が自分にはあったのか。命を狙い、命を助けられ、無理矢理ついていき、厄介の原因となった自分には本当にあの鍋を共に囲む資格があったのか。

 

 ランザが手を動かした。大きな手が上から近づき、視界いっぱいに広がる。その瞬間、身体がビクンと大きく跳ねてしまった。頭に手を置かれるのは、仕置きの合図だったからだ。調教用の道具として魔法装具に手袋のようなものがある。魔力を痛みに変換し脳に直接送り込むことで、身体の様々な場所に激痛を与えることができるものだ。

 

 だから、視界いっぱいに手が覆われたさい、思わずのけぞってしまった。なにをされても良いと思考は思っても、身体に刻まれた記憶が脊髄反射で怯えを見せてしまう。酒場での乱闘前、不意打ちで少し撫でられた時は大丈夫だったのに。

 

 逡巡。自嘲気味にランザは笑い鍋と木椀を回収した。

 

 「今日はよくやった。それだけだ」

 

 軽率な行動を忌まわしむように、ランザが自身を責める目が、なにを考えているのか物語っていた。自分でも不思議だった、レントに撫でられた際、今のような脊髄反射の拒否反応はおきなかった。環境が変化した故の、変異なのか。それとも、撫でられることに喜びを強制されるような、なにかがあったのか。

 

 クーラは起き上がり、禁止されている距離まで布団ごと近づいた。よく寝ていたが、今起きられたらちょっと困る為一工夫。火をほんの少し拝借し、自作の眠り草を乾燥させたものに少し灯す。小さくあがる煙は、対象の眠りをひと際深くしちょっとやそっとじゃ起きないようにする。

 

 鼻先に小鉢と眠り草をおき、しばらく待つ。頃合いを見て回収し、ゆっくりと近づき隣に横になる。殺そうとした相手、命を救ってくれた相手、そして今は、押しかけぎみではあるが旅を共にする相手であり…。

 

 手を借り、フードの上から自分の側頭部に乗せてみる。大丈夫、少し震えたが怖くはない。少し胸板まで顔を近づけてみる。水浴びをしていないので当然汗の臭いが鼻孔をくすぐり、お世辞にも清潔な香りとは言い辛い。それは自分も似たようなものなので、致し方ないだろう。でもこの臭い、安心する。

 

 心臓が高鳴ってきた。変なことをしているという自覚が、益々膨らみ目がさらに冴えてくる。慌てて布団を身体に被り、身体全体を隠すように外部と視界を遮断する。

 

 父性というものに飢えているのだろうか。冷静になった訳じゃないけどこんなバカなことをしている理由は、それ以外考えられない。そして思い返されるのは、あの夜。

 

 意識した瞬間、身体が大きくビクンと跳ねる。記憶が頭の中を巡る。華奢な身体に覆いかぶさり、抵抗を許さない筋力の差で圧倒し、首に指をかけられる。

 

 喉にかけられた指が押し込まれ呼吸が圧迫され脳が危険信号を発し生存本能が酸素を求め抵抗をうながしでもどんなに力をこめても足をばたつかせても弱々しく引っかいてもそれを歯牙にもかけず込められる体重と筋肉の圧力で更に喉は絞られていき命の危険に視界と頭はチカチカとしはじめるがその瞳だけは静かにこちらに見下ろしておりその魔眼めいた魅力にああもうだめなのかと力が抜け全てを委ね捧げたくなってか細い抵抗が制圧され生殺与奪を相手の指に完全に委ねその代わりその瞳を今だけでも独占できて自分だけを見てくれて目をそらしてほしくなくて恐れ多くも頬に手などあててしまい意味不明の歓喜と理解不能の幸福に包まれながら逝ってしまいそうになり首から流れ落ちる血と食い込んだ爪の痛みを最後に意識が徐々に遠のいていき

 

 「……っ」

 

 身体がピクンと小さく痙攣し、布団の中で荒い息を吐く、無意識に指は動いており、なにをしていたのかは熱に浮く身体と濡れた指がすべてを示していた。

 

 「ランザァ…」

 

 目を開けてほしい、あの時みたいにその瞳をのぞかせながら覆いかぶさり、有無を言わせず締め上げてほしい。あの先まで、見せてほしい。

 

 狂っている、狂ってしまった。だけどしょうがない、あの視線が何時までも頭の中にちらつくのだ。我を忘れて胸板にしがみつき、声を殺し涙を流す。この先何時まで我慢できるのだろうか、この呪いのような衝動に。

 

 もっと役に立ちたい。もっと近くにいたい。もっと力になりたい。頑張る足手まといではなく、対等な仲間として認めてほしい。そして…

 

 「もっと絞めあげてほしい、貴方のその指で。もっと見てほしい、あの瞳で。その為なら…」

 

 まったく、頭を撫でられそうになってビビっているのに、まさか自分が首絞めに興奮する変態になっていたなんて。布団の中、自嘲気味な、そして愉悦に濡れた笑みを浮かべていた。

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