家族の仇は、娘でした   作:樫鳥

91 / 149
 この章はタイトル通り外伝作品になっています。暗い話や気持ちの悪い話ばかりなので、個人的な息抜きもかねてです。
 ノリの良いジークリンデや、湿度の高いクーラ、そして明るめの話を書いてみたかったというのもあります。
 時系列で言えば、『帝都へ』の4と5の間に起きた物語となります。本編進めろと言われそうですが、良ければ楽しんでください。


外伝 星の駆ける先


 帝国の第三都市イルドガル。

 

 第三都市と呼ばれているが都市の人口は帝国で二番目に多く、何時もと変わらぬ日常であるのに関わらずまるでその日常はモスコーにおける祭り期間のような賑やかさがあった。

 

 それもそう、この都市では一般住民にも開放された共興である、競馬と大闘技場で年中盛り上がりを見せているからだ。単純な話人口も大きく違うし、他都市や国外から来る観光客も多い。

 

 「闘技場はともかく、競馬?」

 

 「そう、競馬。帝国では軍事用馬の品種改良を奨励しているから、民間の馬牧場でも速い馬や力強い馬を産んで育てることに国からも助成金がでているみたいだね。ついでに、賭けの場でもあるから勝った馬の牧場は配当金もうはうはってね。闘技場で暴力や血を見るのが苦手な人達は、こっちで盛り上がるみたい」

 

 帝都を目指し北上していく最中、長旅のほとんどは野宿か冒険者ギルド経営の素泊まり宿となる。酷い宿や寝床には慣れており、今回も適当な安宿を選んだと思ったら、寝台二つに隙間風もない、扉に鍵をかけられ綺麗なシーツのひかれた部屋に案内されたことには驚いたものだ。

 

 この都市の風景。大通りには様々な店が立ち並び商売人が声をあげ、馬車が多く行きかう風景に遠くからでも歓声が聞こえる闘技場。時折すれ違うスラッとした走ることのみに特化されたような馬達と、暗さをあまり感じられない人々の顔からして景気の良さ、そしてリスムとは同じようでまた違う享楽的な空気を感じる。

 

 いや、リスムはリスムでもこの雰囲気は、経済特別区に近いか。あちらの方が自由奔放な分様々な勝者と敗者がくっきりと別れている。ここでは民間やギャングではなく国が運営している賭博施設ということで、ある程度の掛金に対する上限や決まり事がされているのだろう。あまり街から負の気配を感じない。

 

 まあもっとも、臭い者には蓋の要領で見えないところに押し込まれているだけなのかもしれないが。

 

 「ん?」

 

 クーラの視線が、正面ではなくどこかに向けられているのが分かった。視線の先には競馬場、そして人々の憩いになるような小さな森のような公園が煉瓦で敷き詰められた道の向こうに広がっている。

 

 そこには、引退馬やあまりレースに勝てない馬なのだろうか、沢山の馬達がおり。係員の誘導で馬上に乗りながら公園の敷地を歩く観光客の姿が見えた。カップルだろうか、女性が男性の腰に手を回しイチャイチャとしている。

 

 クーラはどこかそれを羨ましそうに見つめていた。少しモスコーを回っていた時のことを思い出す。あの時は差し迫った危機があった為あまり遊ぶ余裕はなかったが、今ならエンパス教も竜狩り隊も、レットアイだって今すぐ解決しなければならない課題ではない。

 

 そもそも帝都に辿り着いてから着手する問題だ。この都市にはエンパス教の教えも浸透していないようではあるし、なにか厄介がある訳でもない。少し咳払いをして、注意をこちらに向ける。

 

 「あーしかし、ここのところ毎日毎日旅ばかりで疲れたなー。エレミヤからの報酬金もまだたっぷりあるし偶には遊びたいし、あまり見ないものも多いしせっかくの帝国だから観光もしたいなー」

 

 クーラの耳がフードの下で少し動いたのが見えた、マジマジとこちらを見つめて来る。

 

 「羽を伸ばすか。なんたって、観光都市だからな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 イルドガル。政治家の不正を掴む為に何度か潜り込んだことはあったが、ただそれだけの都市だった。

 

 光が濃いところは影が暗いというが、まあ様々な汚職にスキャンダルがあったものでここに住む鼠達には随分と助けてもらったものである。もっとも、今の自分は加護の力なんてとうに手放している為もう彼等の気配はともかく息遣いを感じることはないが。

 

 そういえば、馬を使役したことはなかったな。なんて競馬場の方面を見た時森林公園の道を馬上に乗って歩く若い男女を見てしまった。以前なら気にも留めなかったが、羨ましいなーなんて見つめていたら急にランザが咳ばらいをするもんだ。

 

 棒読みに三文芝居。羽ならば帝国に来る前に、エレミヤの娼館に泊まった際にたっぷりと伸ばしたのだが、ランザは俺が遊びたいから遊ぼうか、なんて雰囲気をだしていた。乗馬を眺めていたせいで、体験してみたいとでも勘違いされただろうか。

 

 また気を使わせてしまっている。だが以前の、そう、モスコーでの時ならいざ知らず今の自分はその茶番を茶番のまま受け入れ、好意に甘えるだけの成長を遂げているのだ。

 

 「もー、そんなこと言っていたら田舎者だって言われちゃうよ」

 

 「田舎者なんだよ俺は。じゃあさしあたって、あの馬でも乗らせてもらうか?」

 

 過去の任務に打ち込んでいた、レントの駒だった自分が今の自分を見たらどう思うか。「しょうがないなー」、なんて言いながら『イヤァ!フォー!』なんて内心で奇声を叫んでいる。フードで上からは見えづらいだろうか、だらしなく表情筋が緩んでいることだろう。

 

 つまりは二人で馬に乗って、揺れる馬から落ちないことを言い訳にして背中に思いきり抱き着けるということだ。しかも今は街中だから戦闘用外套は荷物の中、シャツ姿でありより身体の熱を感じることができるというか臭いを堪能できるというか。

 

 いやいやいや、視野を狭めてはいけない。ランザの前に乗って後ろから手綱を握ってもらうなんてどうだろうか。背中を中心に身体を包まれ、手綱をとる為に回された両手に包囲される。この包囲網は突破不可能、後ろに振り向き見上げながら会話なんてすればなんとういうか普段とは違うものが見れそうな気がして良い。

 

 競馬場と隣接した自然公園が近づくのにどちらかなんて決められない。速くたどり着きたいのに、距離が伸びてほしいなんて矛盾が頭の中をグルグルと回転とする。

 

 「ええ、はい。そういうことで、代金はこれでお願いします」

 

 帝都に入った時、両替商と交換した帝都の通貨を渡しているのが見えた。係りの者が連れて来たのは葦毛の馬だ。葦毛、葦毛だ。騎士物語みたいだ!読んだことはないけど!

 

 ああもう、自分はどうすれば良いのだろうか!彼の後ろに座るか前に座るかどちらかに…

 

 「はいじゃあお嬢さん、ここに足をかけてー」

 

 「ヒ、ひゃい!……て、え?」

 

 近くのベンチに座っているランザが見えた。手には、茶色い安紙に刷られたイルドガルの情報紙が握られていた。

 

 「あの?ランザ?」

 

 「ああ、まず楽しんで来てくれ。俺はここで待っている」

 

 「……馬は?」

 

 「冒険者ギルドの仕事で、農地開拓や農業なんてものは一番多い仕事だからな。耕耘馬は沢山見て来たし、何度か乗ったこともある。二人で座るには狭いから楽しんで来い」

 

 ……休日に遊びに来たお父さんと娘だろうか。おかしいな、親子のフリはもう終わっている筈なのに。

 

 無情にも歩き出す馬、扇動する係員、森に向かう自分。笑顔でランザは、それを見送っていた。良いことをした気分を感じているのだろうか?

 

 「……行ってきます」

 

 「落ちるなよー」

 

 落ちないように、貴方に掴まりたかったです。前を向いた自分の顔は、明るいランザとは半比例してドンよりしていただろう。

 

 公園の森林道は、猥雑な都市の中でもひどく空気が澄んでいた。まあこうなってしまったならこうなってしまったで息抜きをしておくべきだろうか。竜狩り、エンパス、レント、人妖、そしてテン。頭が痛くなるような課題が山積みなのだ、こうしてなにも考えずにボンヤリする時間も今後ないかもしれない。

 

 小さな木の橋と人工池、そこから流れる岩で形造られた小さな川。人の手が加えられた自然物の紛い物ではあるが、川には小さな小魚が泳いでいた。ちょっと美味しそうに思えてしまう。

 

 「ご飯、どうしようかな」

 

 「お父さんと観光ですか?イルドガルには美味しい食べ物屋が沢山ありますよ」

 

 馬を先導する係員のお姉さんが気さくに話しかけてきた。二十代前半から半ばといったところだろうか。

 

 「……」

 

 「あれ?すいません、なんかまずいことでも?」

 

 「ああ、うんいや…そんなとこ。親子じゃないの」

 

 周囲から見てもやはりそんな感じなのだろう。まあ世間体的に考えれば、大の大人が自分に恋愛感情や性的思考を向けることがいろんな意味で危ないことなのだろう。勝手にそう勘違いしてくれているならば、助かる面が多いのでさして困らないがそれでも複雑なのは乙女心ゆえか。

 

 思わずため息をついてしまった。こんなことを考えている場合ではないのは重々承知であるが、それでもこうなんだかな。いや、いっそのことゴチャゴチャと考えないで純粋に休暇を楽しむべきだろうか。あまり急がずゆっくりと。

 

 現に、ノックから戻ってきた時初日のみ公認で同じべッドに同衾できたんだしパーソナルスペースの内側に入ることじたいはだいぶ詰めてこれたのではないかと思う。だが、ならばいっそ甘えた声で一緒に乗りたいとでも言えば良かっただろうか。

 

 「はぁ」

 

 馬に乗ったのは初めてなのにイマイチ楽しめない。いっそこの背中に寝そべって戻るまでグッタリしていようか。

 

 「差し出がましいようですが、お連れ様が気になるのですか?」

 

 「そんなとこ。向こうは常識ある、大人の対応しているだけなんだろうけどさ。もうちょっとこうさぁ」

 

 お姉さんが、なにかを察したような顔をした。

 

 「んー分かります。私も小さい頃は同い年よりも、大人の男に憧れたものですし。さりげなく気を使ってくれたりとか、職人街の方でしたが腕まくりをして額の汗を拭うところに逞しさと魅力を感じてしまったり」

 

 職人街。そういえば、山越えの際自分が体調を崩した時は、ランザは自分が元々家具職人であったことを話してくれた。結局体調の回復を待ってから山越えを行うことにしたのだが、けっこう献身的に面倒を見てくれた。もしかしたら、今回の休憩も具合が悪くなり足を止めた自分を気にさせない為に提案してくれたのかもしれない。

 

 まあ、そういう訳で病気で寝ている間語ってくれた過去話から、自分をその風景にいれて妄想できる時間はいくらでもあった。その思い出を改めて記憶から引っぱりだし、係員のお姉さんが語る言葉で色をつける。

 

 工房で働くランザ。情景は真夏の暑い日、湿度も高く工房の扉や木窓は開け放たれている。製材にノコギリを入れて前後に動かし、音をたてて切れた木材が落ちる。

 

 少し腕まくりをした、人妖と戦ううちについた古傷だらけの腕。それを悩まし気に額につけて乱暴に汗を拭う。無論上半身は薄着、大人の男性がかもしだすフェロモンみたいな臭いまで漂ってきそうだ。

 

 「お姉さん。それ、押せる」

 

 「でしょう?用もないのに何度もお邪魔して、親方につまみ出されていたっけかなぁ。冷たい水でも差し入れしてあげたかったんですけどね。まあ、子供には危ない道具ばかりだから当然の対応でしたけど」

 

 井戸水から汲んだばかりの水を持っていく。汲んだばかりの水なので冷たいが早くしないと温くなってしまうだろう。差し入れの水を飲んで、お礼を言ってくれるランザ。

 

 ただこれだけだと日常風景過ぎるので更にお姉さんの話からアレンジを妄想に付け足す。工房は金槌にノコギリと危険な道具ばかり、不慮の事故(事故の原因や内容はどうでも良い)により自分の顔に大きな傷がついてしまったことにしよう。そうだ、ノコギリで瞼から頬までの裂傷が良いかな?

 

 汗臭い身体でお姫様抱っこをされ、駆け付けた病院にてこの傷は一生残ると宣告とかされて、それで責任感で項垂れるランザ。そこに自分は言うのだ、そんなに責任を感じるならば、ランザが責任をとれば良いと。

 

 そして表面上は穏やかに過ごしてみせて、時折傷を抉り罪悪感をよみがえらせる。近所の子供に怖がられたり酷い暴言を吐かれて『あはは、こんな顔じゃ仕方ないかもね。でも気にしないでランザ、自分は全然気にならないからさ』なんて言ったりして。妄想の中のランザは、悲し気に顔を歪ませた。

 

 だがそれも、追い詰めすぎると罪悪感がストレスに変化するだろう。そしてそういう時に、普段は優しくしてくれるのにまるで暴力のような夫婦の営みをしてくれれば。ああ、こんな時に首筋が疼く。壁に叩きつけて、片腕で首を絞めながら抵抗できないところを日頃溜め込ませたストレスを晴らすような激しさで…

 

 「お姉さんありがとう。この乗馬体験をしに来て…いやお姉さんの話を聞けて良かったよ」

 

 ズブズブ共依存幸せ夫婦生活まで妄想が広げすぎた。これ以上は自重しないと戻ってこれなくなる。でもありがとうお姉さん。職人フェチ、もしくは腕まくりフェチに乾杯。

 

 「?…どうしたしまして。そうだ、イルドガルは初めてですか?」

 

 「実は何度か来たことはあるけど、長く滞在はしていなかったんだよね。だからこういうところに来たのも初めてだし」

 

 「滞在予定とかは?」

 

 「取り合えず一泊…かな。長居はしないと思う」

 

 何時までここにいるかの方針はランザと練り合わせて決めている。当初は二泊は予定していたが、この街ではエンパス教の影響はほぼないに等しいし薬物の気配もあまり感じない。まあ、薬物絡みの事件はどこでもあるものだが、少なくともここではレッドアイに関しては外れもいいところだ。

 

 これならば、二日間いるまでもないだろう。本命の帝都を目指すのみだ。でも、観光として楽しむことはもう決まっている。

 

 「では、あまり観光をしている余裕も?」

 

 「いや、それはないかな。少なくとも今日は色々遊ばせてくれるみたい」

 

 「では、これを機にイルドガルを周りながらゆっくりと仲を深めてみてはいかがですか?イルドガル産まれ、住歴二十四年の私が、隠れた観光名所から雰囲気の良い穴場まで良いところ教えてあげますよ。さらには最適なデートコース選びまで…もっとも、もう乗馬コースも終わってしまう為話す時間がありません。そこで、その分かれ道であるロングコースに進む為の追加料金はいただくことになりますが」

 

 地元の人間がおススメする観光案内が聞けるのか。それもデートコースときたものだ。お姉さんの手のひらに銅貨を数枚握らせる。

 

 「商売上手だねお姉さん。器用で羨ましいよ」

 

 「フフ、どういたしまして」

 

 という訳で、契約成立により馬はロングコースに向けて歩き出す。ランザには悪いが、もう少し待っていてもらおう。

 

 「この街は闘技場や競馬等ありますが、そんな表面上の観光名所は混んでいますし賭け事が絡む分熱くなる人達が多いからあまりお勧めはできません。友達同士の慣れあいなら良いのですが、雰囲気が損なわれますからね。まずは、大河通りのシュランツというお店をおススメします」

 

 「シュランツ?どういうお店?」

 

 「紅茶やコーヒーと共に小麦を使った甘いお菓子が食べられるところで、今イルドガル女子の間では一番注目されているお店なんですよ。似たようなお店は沢山ありますが、あそこは宮城に仕えていたお菓子職人が独立して建てたお店なんです。おススメは、ふんわりとしたパンケーキのハチミツがけです。ハチミツだけではなく、ふわりとした生地からも甘味を感じるんですよ。あとは、クッキーなんかも良いですね」

 

 ランザやエレミヤが言っていた。南方大陸で生産された大量の砂糖と、エルフの集落やその周辺を開拓して作られた広大な小麦畑の話。大規模な農場のお陰で、こうして庶民も甘味を楽しめ食事の文化が広がっていく。帝国民には良いことなのだろうが、誰かの犠牲にそれは成り立っている。

 

 エレミヤを少し思い出した。娼館で寝泊まりしていた時に、朝食で出された甘くてバターがたっぷりと使われた小麦パン。昔の伝手で、わざわざ現在帝国領である元エルフの集落があった大規模農園から小麦を購入しているといっていた。輸送費がかかるが、それを食べることで優越感を得て復讐心が満たされると清々しい笑顔を見せてくれたっけ。

 

 「シュランツね、ありがとう」

 

 「甘味が気になる男の人も多いけど、女性客ばかりだから男性だけでは入り辛いって。でもカップル割引や親子割引もあるし、お連れさんもなんだかんだ楽しんでくれると思いますよ」

 

 彼女はそんな背景等知らないだろう。わざわざ敢えて言うこともない。思うところは多少なりともあっても、それは他国民が口をだすことはない。

 

 他には夕焼けが映える大河の風景や、美味しい帝国料理が食べられる大衆食堂。各地の動物を集めて見世物にしている動物園とやらに、そこと併設しているこことはまた違う引退馬との触れ合い私設。そこに行った後は少し行きづらいが味の良い、他国や帝国でも珍しい馬肉を専門に食べられる料理店等。

 

 頭の中で施設の場所と街の地図を広げてマークをつけながら、どこに行きどこに行かないかを選ぶ。ランザはどこならば楽しめるかなと、考えてみる。向こうはイルドガルに来たのが初めてだ。地元民が勧める名所を把握している訳ではないだろう。

 

 「あとは、お姉さんの一押し、パルークーレースって知ってます?」

 

 「パルークーレース?なにそれ、知らない」

 

 「今度イルドガルの新しい観光名所になると思っているんですよ。簡単に言えば、市内を舞台にした障害物レース。個人から三人組までのグループで連携あり、妨害あり、仲間と協力してゴールを目指すまったく新しい形式の競技で、若者を中心に爆発的に広がっているんです。その大会が明日、一年に何度かあるうちの一番大きい規模で行われます。闘技場や競馬とはまた違う、速さとチームワークにタフさも試される大規模競技。良ければ見て行きませんか?私も一押しの選手がいましてね」

 

 えへへと笑うお姉さんの顔は緩んでいた。成程、これは本当に好きなのだろう。しかし街中で行われるレースか。競技場のようにまっすぐ走る訳にはいかないのは容易に想像つくし、妨害有りということは、まあその妨害がどの程度のものかによるが一筋縄ではいかなそうだ。

 

 迫力と荒々しさがある、まさに今イルドガルを代表する若者文化ということか。デートになるかはともかく確かに観光にはなりそうである。個人的にも興味はある為、余裕があるならランザに見学をお願いしようか。

 

 「それで、お姉さんの一押し選手って誰なの?」

 

 さて、これは後から思ったことであったが、競技というものに熱を上げるファンにこの手の話題は厳禁であったと思い知ることになる。引き返す道はあった、「長くなりますよ」という言葉に「じゃあ辞めておきます」と返しておけば。後悔とは、何時いかなる時も先に立たないものである。

 

 「ええ、どうぞ」この言葉が、引き金となってしまった。

 

 「まず私の一押しと言えばなんといっても『銀星』という異名を持つ選手でしてねなんというかどこか幼さを感じてしまうのにまるで孤高の狩人のように鋭く凛々しい眼光をしていましてその運動能力も高くほんのちょっとの障害や妨害など問題なく通り抜けることができるというか本来はチーム戦の戦いが基本のパルークーなのに個人参加をしているのですよチームによってはルール違反スレスレの危険な妨害を仕掛けるところもあるというのに彼はただ勝利のみを目指しているというか妨害等まったくしなくてもただ前に進むその凛々しさがまた眩しいというか気高いというかでも護ってあげたくなるような可愛さも何故か感じてしまってどこか影のあるクールな雰囲気さえも庇護欲がキュンキュンきてしまうというかファンも沢山いるのに媚びるような真似もせずそっけないのにでも大事にしているところもあってある日群衆にまみれて倒れたファンの子をレース中なのに声をかけ応急処置をしてからレースに戻ったなんていうこともありしかもそれで一位までとっちゃってもうそんな彼にメロメロで私なんて何度も何度も応援にいって顔を覚えてくれたのかある日手を振り返してくれちゃってまあなんというかちゃんと意識してくれてるんだななんて頭が沸騰してその日は眠れなかったり……………(早口

 

 戻ってきた自分は、えらくグッタリとした顔をしていた思う。コースの残りはお姉さんの話を聞くことで精一杯だった。相槌と適当な返事だけでもさらに雪崩のようにその銀星とやらのことを語ってくるもんだ。

 

 うわぁ。銀星とやらが、好きなのは分かったけど、内心うわぁだ。自分を客観視できていないのだろうか。困ったものである。こうはなりたくないものだ。

 

 第一影があることがクールなんて言ったらランザは背負うものが沢山あってそれでも前に進む強さと意思の力があるししかもその過去というのがテンの凶行と家族との別離という悲しい過去があるのにその絶望に抗う為に前に進んでいるしだからといって人間性を手放した訳でもなく自分には本当に優しくしてくれて大事にしてくれることを感じるし彼の少し豪快だけど男らしい料理だって自分は何度も食べていて同じ鍋の飯を二人で食べたということはそれはもう実質家族みたいなものででも自分とランザには血の繋がりなんてないから親子ではなくその形態は夫婦というべきであり自分の方は何時でもその関係を受け入れられる準備はあるしなによりただの夫婦にない絆として自分は出会ったその日に馬乗りなり首を絞められるという情熱的な交流をしておりそれはこの身体と精神に負荷逆なものを植え付けるには充分すぎてしかも何度も死線を越えた間柄なんてこれもう精神的には強固に結ばれてすぎてもう精神交配しているみたいなものだしこれからもそんな彼を支えていくのは自分だということに誇りをもててでもそんな彼にも弱点はあるしふと見せる弱さを伴う顔は郷愁を感じる顔なんて普段から考えればギャップも凄くてさらに献身的になっちゃうしでもそれと同時に内に獣性を秘めているような気配もありそれに分からせられて支配されたいし子供が出来ちゃったなんて言ったら彼はどんな顔をするかなんて想像するだけで黒パン幾つもいけるくらいのものがありああもう首が疼いて仕方ない今すぐ絞めてもらいたいしそれ以上も当然…………

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。