家族の仇は、娘でした   作:樫鳥

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 『さあ今年パルークーレース、年一番の大会が今年もやってきました!解説はパルークーレース大会運営会会長のグラガン殿に来ていただきました!よろしくお願いします!』

 

 『よろしくお願いします』

 

 『毎年盛り上がりを見せるこの旧市街での長距離レース、今年は例年とは違いがあるそうですがどのように変化したのですか?』

 

 『ええ、今年はルール改正にて今まで単独参加、ペア参加が認められていた出場が三人一組のみの大会となりました』

 

 『なるほど、その意図は?』

 

 『ええ、パルークーレースの本質は競馬のような素早さ勝負の他に、闘技場の剣闘士達のような技量と駆け引きが魅力といえます。単独逃げ切りも見ていて気持ちの良いものかもしれませんが、戦略と戦術に奥行きを増す為に制定されました。速さと駆け引きの競馬と技量と闘争の闘技場。その良いところが合わさったレースを皆様に見せることができると考えています』

 

 『なるほどー、今まで以上にチームワークが重要視されそうですね。では、今大会の注目選手ですが、やはり人気なのはメルキオル商会所属の銀星でしょうか。駆け倍率1.2倍、やはり数々の大会覇者だけあって人気は相当のようです!』

 

 『彼の人気と実力は疑いようもないでしょう。そして、その走りは多くのファンに愛されていますね。ですがルール改正により新たなチームメンバーを加えたことがその走りに必ずとも良い影響であるかは分かりません。それに、今大会は注目株の選手がまだまだいますからね。レースは波乱になりそうです』

 

 魔具の類で声量が増されているのだろうか、くじ引きで引いた旧市街のスタート地点にいても旧市街広場に建てられた物見やぐらから聞こえる解説と実況の話がよく響いていた。

 

 だがそれ以上に姦しいのは銀星のファン達の歓声であり、フードを被り耳隠しをしているもののチラリと覗く顔に見惚れているのか、なにか行動する度に歓声のようなものがあがっていた。

 

 「ケッ、節穴野郎が。オレたちゃエースプレイヤーのハンデ要員かよ」

 

 「まあ、現実的に考えればある意味否定できないな。こちとら大会出場歴のない素人だ」

 

 「それならそれで、せめてヒールで出たかったもんだぜ。そんな大人気者のツラに泥塗りたくってこその悪竜だろうが」

 

 配られたゼッケン付きのシャツを着る着ないでだいぶごねたせいか、どこかジークリンデは不機嫌のようだ。アタッカーで参加する為塗料付きの棒と玉が三つ入った籠を肩にかけており、邪魔そうに舌打ちをしている。

 

 腕に嵌めた木製の手甲の装着具合を確かめる。運営が用意しているレンタル品もあるのだが、念には念を入れてイドが製作したものをそのまま着用している。本人はランナー専門であったが、ガードやアタッカーの装備は趣味がこうじて手作りをしていたのが役に立った。

 

 「正午の鐘がそのままスタートの合図になります。お二人とも、準備はよろしいですか?」

 

 歓声には耳も貸さずに念入りに柔軟運動をしていたイドが、話しかけてきた。今日の目的はこいつを守り切ること。そしてトップでゴールにねじ込むことだ。過去の戦績から、優勝については問題ないと考えがちにはなるが今回はそうもいかないだろう。

 

 メルキオル商会が外部から雇った走者以外にも、他チームに買収が及んでいる可能性がある。金銭が絡まないにしても、自身の成績よりも常勝無敗を蹴り落とし、金看板に泥を塗りたいと考えている者もいくらでもいる。

 

 徒党を組んで襲ってくるなら、イドの速さ頼みで丸投げするのはよくはない。後半に備え足を溜めておくのも込みで、前半は俺達に合わせて走ってくれる。それを護衛しきることこそが役目だ。

 

 幸い、全速力でなければ俺もジークリンデもついていけないことはない。普段とは違う環境で勝負させることにはなるが、万全の状態で挑む為の作戦だ。

 

 「ああ、問題ない」

 

 「クソ猫二号が、誰に向かって口きいてやがるんだ?」

 

 棍棒を手の内で回し、弄びながらジークリンデが口を尖らせた。不機嫌ではあるが、その原因はこの場での注目がイドに集まっているからなので無視して大丈夫だ。黙らせてやろうかと、二人か三人程間引きにいかないかぎりはだが。

 

 「そういえば、昨日は打ち合わせと練習で妹さんについてあまり聞いていなかったな。幾つくらいの子なんだ?」

 

 「選手、準備お願いします!」

 

 質問をしたと同時に、係に声をかけられた。返答をくれる前に、イドを含めた俺達は指定のスタートラインに並ぶ。今回引いたくじでのスタートは、旧市街のメインストリートから少し離れた通りだ。第一目標は最初のチェックポイントがあるメインストリートに出ることだが、こちらを狙い脇道から敵チームが奇襲してくる可能性が充分ある。

 

 スタートにして、最大限に気を張らなければならない。身体能力はそれなりではあるが、こちらはあくまで素人なのだから。

 

 「クーラさんくらい、でしょうか」

 

 「でしょうか?それはどういう」

 

 言葉を並べる前に、鐘の音が鳴り響く。ついに始まったパルークーレースに、観客からの歓声があがり俺の声はかき消された。

 

 『まずは注目したいのはやはり大注目の銀星チーム!初参加の仲間を従えての大会出場ですが…今回はアクロバットな走行をせずに堅実な走りを見せております!少しらしくないような気がしますが…いかがですか?』

 

 『初参加のチームメイトがいる手前、まずは彼等に合わせているのではないでしょうか。普段は魅せるプレイを重視するタイプですが、環境の違いから慎重にことを進めているように見えますね』

 

 『おっと!ちょっとしたブーイングも飛んでいるようです!彼の持ち味といえば高い身体能力からの大胆な動きですからね!それを見に来た者達から野次が飛んでいます……とぉ!?』

 

 ジークリンデに釘を刺され、絶対に負けられないイドは無理なプレイは行わず堅実な走りを見せていた。周囲からのヤジも気にせず、実況の言葉も耳に入らないらしい。だがそれを気にしてしまう問題児が一人…いや一匹いた。

 

 障害物である丸太を飛び上がりながら空中で一回転しながら回避し、細い道を壁を蹴りながら屋根に昇って走り、パブの看板がぶら下がる鉄棒を片手で掴みグルンと身体を大きく一回転してから着地をする。

 

 ああだこうだ言われるのが気に食わなかったのだろう。自分でイドに釘を刺しておいて、目立つ個人プレイにはしっていた。あの目立ちたがり屋め。

 

 『おおっと!銀星チーム初参加、ワイルドは風貌の女性選手が見事な走りを見せてくれています!大した身体能力で観客を沸かせています!』

 

 『初参加という話ですが、練習を積み重ねてきたのでしょうか。やはりこういう動きもレースの醍醐味ではありますね』

 

 「うるせーのを黙らせてやったぜ」

 

 並走しながらドヤ顔で親指を立てる。やはり、目立ちたかっただけだろう。

 

 「ああ、だが派手に目立ち過ぎたせいで気取られたな」

 

 側面から奇襲。スタート地点がやや先だったチームだろうか、脇道から襲い掛かる敵アタッカーの棍棒を手甲で防ぐ。腕を強引に押し返し体制を崩したところで距離を離す。反射的に何時もの癖で蹴り飛ばそうになってしまったがそれをしてしまえばルール違反だ。

 

 言い訳のようではあるが、近接戦闘のクセというのは気を抜くとすぐにでてしまうらしい。走り以外鍛えていないただの市民を全力で蹴り飛ばせば、骨と内臓がいきかねない。

 

 「二組きたぜ!」

 

 「ランザさん!ジークリンデさん!お願いします!」

 

 襲いかかってきたのは、二組だ。互いに互いを狙う様子はないことから、やはり優勝候補であるイドに狙いを定めているのだろう。敵チームのアタッカー二名が鞄を漁り、投擲用の球を取り出す。投球練習を重ねたのだろう、走りながらでも綺麗なフォームを保ちながらイドの背中と足元に投げられた。

 

 だが綺麗な投擲というのは、それだけに狙いが分からいやすく対処がしやすい。手甲で背中狙いの球を弾き、踵で足元狙いの球を蹴り上げる。足での防御は、上半身と顔面に命中したのみ退場になるガードの特権だ。

 

 「へッ…良い球だぜ相棒!」

 

 ジークリンデが立ち止まり棍棒を構える。狙いを定め、大剣を横一文字に切り裂くように俺が打ち上げた敵の球二つにぶち当てて飛ばした。

 

 腕で投げるよりも遥かに早くなる打球が、敵のガードに反応すらさせずランナーの額と胸元を打ち抜く。チームの要であるランナーがやられた時点で、こちらを狙う二組のチームは自動的に失格となった。

 

 『なんというプレイだ!未だかつてこんな反撃をする選手は見たことがないぞ!』

 

 そりゃそうだ。下手したら、敵が何組徒党を組んでこちらを狙っているか分からない状況下である。たった三つしかない球を来る敵全てに投げていたら手持ちが足りないどころの話ではない。

 

 敵の効率的な対処。最重要課題として定めたその対応策は敵が投げた球をそのまま利用することだった。ルール的には、塗料がついた時点で失格となるということだけであり、敵の持ち球を利用してはいけないなんていう記載はない。

 

 狭い通路を抜けて旧市街のメインであるストリートに躍り出る。何組かのチームが既に大通りには出ており、やはりというか狙いはこちらのようであった。

 

 「左側面!」

 

 棍棒の一撃を受け止めず、いなす。格闘術の師である、クダが行う回し受けの応用だ。全力の一撃を勢いを殺さず受け流し、エネルギーに引っぱられ体勢を崩す身体にちょっとだけ力を加えてやる。

 

 軽く足の爪先をかけたり、こっそり衣服を引いてやる。それだけで相手は転倒し、転んだ本人ですらも受け流されて自分で転んだということしか自覚できない。体幹が強い相手にはあまり通用しないが、戦いの素人くらいならこれで充分だ。

 

 別方向からの一撃には、今度は力任せで弾き返した。腕が痺れたのか、手にもつ棍棒が指から離れ跳ね返し自分の衣服を塗料で汚す。全体的に塗料がついている棍棒は両刃の剣と同じだ。しっかりと握っていないと、持ち主自身に跳ね返る。

 

 「ハハッ!クソあめぇ!」

 

 投げられた球を走りながら棍棒で弾く。上空に弾かれた球を打ち抜き、跳ね返された打球が敵ランナーやアタッカーに命中した。大したコントロールだ。

 

 「イド!邪魔は片づけた!」

 

 「ええ!それならこのストリートの先にあるチェックポイントまでひとっ走りしてきます!」

 

 敵対者が消えて障害物が無くなったストリートを、ギアを上げたイドが凄まじいスピードで走る。その速さ、知ってはいたが少なくとも俺には追い付けるものではなかった。クーラでも、もしかしたら危ういかもしれない。

 

 「ん?」

 

 イドが走る先、ランナーが一人躍り出た。地元民や帝国の顔立ちではない、東方系の中年男性だ。

 

 「よう、イドさんとやら。ちょっと走り比べでもしてみないか?」

 

 ランナーがただ一人でなにを、と考えたのもつかの間。イドがその男の隣に並んだ瞬間二人のレースが始まった。

 

 『おおっとあの東洋人は何者だ!?銀星が追い付くのを待ってから走り始めたと思ったら、同速力で走りやがる!』

 

 後ろからではどちらが早いか少し分かり辛い。だが、実況の言葉を信じるのであれば速い。見た目はどう見てもただの人間なのだが、あの半獣であるイドと同等の速力を有しているようだ。

 

 「銀星!多分そいつが!」

 

 クーラの言っていた、要注意人物。メルキオル商会が送り込んできた本命の走り屋。

 

 「ジークリンデ!あいつを落とす!」

 

 「横やり入れるのは趣味じゃねえ…なんて言うと思ったか!?入れることができるなら、バンバン刺しこんでやらァ!」

 

 ジークリンデが腰のカバンから球を一つ取り出し、こちらに放る。手甲で上手く弾きベストのポジションに球を浮かせ、棍棒でそれを打ちぬく。

 

 「ははー!背後から来たかい!だが甘いねぇ」

 

 男が通り過ぎた道の途中、木材を縛りつけて立てかけておいた縄が斬られた。バラバラと崩れる木材が打たれた球を防ぎ、巻き込まれて地面に落ちる。

 

 あのイドとの速さ比べの最中、懐に忍ばせていたナイフのようなもので瞬間的に縄を止めていた紐だけを切り裂いた。その動きは素早く正確であり、背後にいた俺やジークリンデ以外には自然と縄が解けて木材が散らばった事故にしか見えないだろう。

 

 チェックポイントとして固定された、細めの丸太が近づいてくる。イドが全力で手を伸ばすが、それよりも二歩か三歩の距離を離して男が先にそのポイントにタッチをした。

 

 「兄ちゃん走りは悪くねえ。だが、まだケツが青いな。追いつかれたら殺される勢いで走らねえと、この俺には勝てねえぜ。まあ、レースはまだまだ先がある。雑魚を散らして追いついて来るんだな」

 

 男は指を弾いた瞬間、彼のチームメイトかガードとアタッカーが建物の屋根から飛び降りてくる。二人がイドをマークし始めるが、男はそれに意に介していないのかさっさと走りだしてしまった。それも、先程のような速さ勝負ではなくランニングのような気軽さでだ。

 

 「テメェはここで終わりだぜ!」

 

 追いついた俺達が男と対峙する。パルークーレースのチェックポイントは、折り返してコースに戻る必要がある。前を走るチームと後続から追いかけるチームが激突するのが見どころの一つであるからだ。

 

 ここからはまた旧市街の細い道を通るルートに入るが、そこに逃げ込まれる前に仕留める。イドが攻撃をされている為時間はかけられない。

 

 ガードから行う能動的な攻撃手段はない為、身体で壁を作り男の逃走経路を制限。棍棒を握りしめたジークリンデが、横に払うように男を狙い撃つ。

 

 「はははー力み過ぎた!当たったら骨が折れちまうぜ!?こわっ!」

 

 「へし折ってやる勢いでやってるからな!死ねぇええええ!」

 

 「いや待てジークリンデ!あまりヤバい一撃は失格に!」

 

 男は軽い跳躍を見せる。だが、その軽さとは裏腹にあっという間に俺とジークリンデの頭上を通り抜け、反対側に着地をした。心配が杞憂に終わったのは良かったが、あんな身体能力の優れたただの人間は見たことがない。下手したら、跳躍力だけなら大半の人妖を越えた可能性もある。

 

 球を投げる前に、進行方向である脇道に男が消えた。追跡しようにも、男の仲間であるガードとアタッカーが足止めを仕掛けてきている。戻ってきたイドと合流し、その後ろを追いかけてきた二人組を組み手の応用とジークリンデが打ち返した敵の球で迎撃する。

 

 「チームメイトは片づけたが…なんてやろうだ。本当に人間の身体能力か?」

 

 「だー!クッソ!こんな棒きれじゃなくて何時もの喧嘩なら片づけることができたのによ!」

 

 「イド!いけるか!?後続のチームが追い付いてきた!さっさといくぞ!」

 

 イドが肩で息をしていた。自分の足をもってさえ追いつけなかった新参者に、気負わされているようである。プレッシャーは必要以上に判断能力を鈍らせ、スタミナを消耗させる。イドからの返事はなく、こちらを無視して通り過ぎようとしてた。

 

 「イド!」

 

 「ッ!?なにをするんですか!?早くいかないと…」

 

 イドを止めた瞬間、抗議に振り替えられるがその足元で球が跳ねる。後続が追い付いてきたのに気づいていないとは、周囲がみえていないのがまるわかりだ。焦りが感じ取れる。今まで、負けたことがなかった走り比べで黒星がついたことの動揺もあるのだろう。

 

 「抜くチャンスはまだある!まずはここを切り抜けることから始めるぞ!」

 

 ようやくイドも状況が見えてきたようである。後続のチームからの攻撃を見るに、やはりというかほぼ全てのチームが徒党を組んでこちらと敵対をしているようであった。

 

 このままじゃあ、一人で今頑張っているクーラに良い報告ができない。なんとしても、レース中にこの男を立ち直らせる必要がある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「銀星、イドが無駄にあがいているようですな」

 

 メルキオル商会本部、館長室。建物の三階に位置するこの部屋は、窓の外から日々外部がら行き来する荷馬車や船旅を経て到着した積み荷を受け入れ送り出すのがよく見えた。

 

 こうやって運ばれてくる正規のルートを通ってきた品物だけでも、かなりの金額を産み出している。帝国における交通の要所、イルドガルの商館は立地だけでみても優れたものであった。

 

 「はい、ドーズ館長。もはや捨て置いても問題ない人材とはいえ、広告塔としてはまだ使える存在です。表向きの商売にプラスになる以上、逃がす理由もない。こちらで対処に当たらせてもらいました」

 

 葉巻を加えた好々爺のような穏やかな顔の老人はドーズ=レナイク。メルキオル商会、イルガルド支部の長であり商会において五本の指に入るレベルで金銭と権力を持つ男である。それに話す男は、宿屋でイドに脅しと説得をかけた商会関係者であった。

 

 「よろしい、よろしい。本来パルークーレース等子供の遊びとはいえ、目的の雲隠れには丁度いい。可能な限り長く人気が続いてほしいものなのだからのう。だがしかし、やれやれ。閉会の挨拶には本当にでないといかんかな?」

 

 「他のスポンサーや後援者に価値を示し、レースの仕組みを長続きさせるためには必要かと。レースには反対意見を叫ぶ者もおりますし、なにより貴方のような権力のある存在は若者と対立しがちです。そんな存在が、彼等に寄り添っているというのは良いアピールとなります。次回の市長選、票を得やすくなるかと」

 

 「確かにばら撒くものはばら撒いておるが、万全の体制を構築するには表の指示も必要だの。よろしい、よろしい。私が前に出て精々顔と名前を売ろうではないか。そうそう、今回の収穫物も何時ものようにノルン伯爵とルグラン男爵の元へな」

 

 「承知しております。部下が上手く手配するでしょう。では、そろそろ移動をしましょう。馬車の用意ができております」

 

 ゆったりとした服を着たドーズと、その側近が部屋を出ていく。それから数分、天井に小さな穴がギザ刃がついた小さなノコギリによって開けられ、フードをした小柄な人物が降りたった。

 

 どういうことだ。クーラは、内心呟いた。

 

 自分で調査をしても、待ち伏せ地点で出迎えた連中に尋問をしても、ある情報が聞きだせていない。ただ一人の人物のみが話す情報。商会関係者ならば知っている筈であるが、誰もがそんな話は知らないと首を左右に振るのみであった。

 

 もしもその情報が嘘であるならば、自分は憤らずにいられない。頭の中が煮える手前ではあったが、まずは冷静に室内を見て回ることにする。必要なのは、密輸についての裏の帳簿とあいつの嘘を裏どりするためのものだ。

 

 「だいたいの悪人は、こういうところに隠してあるんだけど…ね」

 

 隠しどころにマニュアルでもあるのだろうか。獣の剥製、それを外すとその裏側に重要なものが隠れていた。これはまだ簡単な方で、昔潜入したところは苦労したものだ。

 

 扉を開く為に剥製の目玉にいれる二つの宝石が必要で、そのうちの一つはメダルを五枚揃えないと開かない宝箱に入っており、もう片方は女神の像の前にある特定の重量のものをおかないといけなかったりと、普段使いするのに面倒なくらいの絡繰り屋敷だったものだ。元美術館を、治安維持組織が買い取った物件だったっけな。

 

 だがもう一つの証拠は、どこにあるだろうか。そうして幾つかの部屋を探している時に、ある物を見つけた。それは没収した奴隷身分の者達から回収した荷物を保管している場所であった。そんなものは商会の人間にとってガラクタ同然のものであるが、ある荷物だけが厳重に二つの南京錠で縛られて箱に封印されている。

 

 重い者ではない、髪の毛に隠していた針を取り出し開錠にとりかかる。まともに開けようとすると鍵探しが面倒な為、まともに開けなければいい。

 

 「え?」

 

 二つの鍵を開けた瞬間、思わずクーラの口から疑問の声がでた。予想していなかった者が、箱の中から出て来たからだ。

 

 「これって」

 

 目を丸くしながら、一人呟く。どういったリアクションをすれば良いのか、彼女には分からなかった。

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