家族の仇は、娘でした 作:樫鳥
東門にて、二人の選手が並ぶ。勝負を誘われた形であるが、傲りか自信からくるものか。どうでも良い、侮られたことこそが今はありがたい。
東門から出てからゴールまでは直進にておよそ二百メートル弱。ここが一番盛り上がるポイントなので、観光客や応援に来た人達が見学しやすいように長めにとられており熱心なファンはここに陣取っていることが多い。
無論道すがら様々な障害物も多く用意されており、勝利を賭けた複数チームで行う最後の攻防では凄まじい盛り上がりをみせることになる。
だが今回は、互いにガードもアタッカーもいない一騎討ち。純粋な勝負では僅差とはいえ向こうが格上である以上、勝機はやはりいかに障害物を意にも返さないような走りしかない。
「よう、色々邪魔はなかったか?どうにも商売人っていうのは、勝負師の熱を理解していないようで困るわなぁ」
並走しながら平然と会話を挟んでくる。その表情は余裕、というよりかはこの状況を楽しんでいるように見えた。勝負をできることが嬉しく、そのうえで勝利を疑っていない表情とでも言うべきか。ボク自身もこんな表情をしていたとなれば周囲も腹も立つものだ。参加者のほぼ全員から狙われていたが、流石にメルキオル商会も全員買収している訳ではないだろう。
道の先には大小様々な木箱が置かれている。子供が拾った大量の石ころを適当に放り投げたかのような乱雑さであり、まともに走ろうとすれば時間をロスする。そして箱の大きさも、画一的ではなくバラバラだ。跨いだり飛び越えようとするにも面倒なものがある。
南方大陸から海路を経由し荷の乗せ換えを行い、水路を北上する輸送船に積まれていたものの古くなった木箱等がレースの障害物として流用されている。金があるのに、設備など余計なところは切り詰めるのが商売人としての性なのか。
足をかけやすい木箱に飛び乗り、一瞬で全体を俯瞰。最適なルートを自分流に選定し川の中にある飛び石のようにジャンプして渡っていく。
これまた簡単な子供の遊びのように見えて、速さを突き詰めると以外とシビアな進み方である。なにせスピードを気にするならば足場にいちいち視線を移したり躊躇や跳躍のタメを作るだけでタイムロスがおこりうる。地面に描かれた丸い円に飛ぶくらいの気軽さでいかなければならない。
瞬間的な判断能力を養う為に、練習場を作った山の中にある小川にて環境を再現し幾度も練習を繰り返した。落ちてしまうことでずぶ濡れになって不快な思いをするのも自分の為、自然と練習も手がぬけなくなる。
最後の跳躍にて、地面に着地する音が同時に鳴る。平地の走りあいならともかく、この乱雑な足場での移動でほぼ同じことをAはやってのけていた。
「懐かしいな。こういうのはガキの時によくやったもんだぜ」
木製で造られた細い橋渡りに、階段状に組まれた障害物の駆けあがりからの跳躍による段差越えが続くがそれでもなお距離を離せない。いや、向こうの方がほんの僅かではあるがリードしているように見える。
ただの走り自慢ではない。ボクと同じかそれ以上に、この手の特殊な環境での走行に慣れているものの走り込みだ。メルキオル商会は、いったいどこからこんな人物を探しあてることができたのか。
「よう」
並走するAが話しかけて来る。まだそれだけ余裕があるということだ、こちらは全力で走っているというのに。
「アンタからは負けん気を感じるし背負っているものがあるのが分かる。だがそれだけでは、勝てない時もあるわな。それが自力、まあ実力ってやつだ。こちとらギアを上げていくから、もう無理するのはやめるんだな」
少しずつ、距離が離れていく。残り百メートル近く、ここに来て奴の言うところの地力を披露してきたという訳か。このままでは、まずい。ここから先はもう大して障害物もないフラットな地形。本当ならば障害物が多い二百メートルの前半で差をつけるつもりだった。
パルークーレースどころではない。この男、恐らくは本当に普段からこういう荒れ地や障害のあるところを走り慣れている。それも、計算されたコースのような形状ではない自然な地形でだ。
走力でも、障害物のかわしかたでも負けている。ここからどうすれば勝てるのか、見当がつかない。
このままじゃ負ける、負……
「ッ!?」
刹那、凄まじい怖気が走った。背中になにか、氷柱のようなものを突っ込まれた時のような感覚。心臓がバクッと強烈に跳ね上がり血流の循環が何時もの二倍速で流れているような気がする。
イドは、半獣である。獣のような暮らしをおくったことはないし、仮にもそれに近い生活をおくったとしても半ば人であるが為に本物の野生生物に近しくなることはできない。どうあっても、例え人間が認めていなくても。半獣とは獣であると同時に人に近しい存在なのだから。
まして危険な生物に追いかけられたことも、鮫が泳ぎ回る海原で溺れたことも、殺し合いに加わったこともない。その半生は豚を育て、鉱山で労働につき、ルールに基づかれた競技の元で他者と競い合っていたのみである。
ことここにいたって、命の危険というものを感じたことはなかった。グロルダール公国が壊滅しかつての雇い主が首をくくり、路頭に迷った際は飢えで危機感を覚えたことはあったが、それともまた違う根源的な恐怖。被捕食者としての恐怖を産まれて初めて感じ取っていた。
本能が心臓を揺さぶり、心臓が緊張で鼓動が増し、異様に流された血流が脳に恐怖を訴え、過度な恐れにさらされた脳が危険信号を放つ。そしてその信号は、イドの筋力を更なる段階へと引き上げた。
野生の肉食獣は、狩りの獲物に飛びかかる最後の詰めまでその気配を慎重に、巧妙に消す。少し気取られた瞬間、狩りの獲物は命がけで逃亡を開始するからだ。故に、王と呼ばれる動物ですら獲物にありつけるのは狩りが上手くいかず飢餓を感じたタイミングなことすらある。
『ぶち殺すって言ったよな?』
幻聴であった。だがそれを幻聴とは思えない程、イドの耳にははっきりと届いた。まるで背後に山のような巨大ななにかがおり、それがすぐ耳元で囁いたかのような緊張感。
「うえ…う…ああああああああああああ!」
「おお!?なんだ?お?おお!?」
勝たなければ、殺される。
産まれて初めて味わう根源的な恐怖に突き動かされ、イドは直進する。隣のライバルすら目に入らず、その足はその場から一歩でも早く前に進もうとだけ考え必死であった。
恐慌状態で走るイドに観客も、実況も、対戦相手でさえあっけにとられる。だがその背後、東門に辿り着いた二人組を除いてであったが。
「おう、やりゃできんじゃねえか」
「急に殺意飛ばしやがって。何人か泡ふいて倒れてやがるぞ」
この行いに一番肝を冷やしたのはランザであろう。負けそうな様子のイドを見て、正体を晒して大会自体をぶち壊そうとでもしたいと考えたようであった。今は、すぐ近くにいて殺気に当てられ泡をふいて倒れた選手を介抱していた。可哀想なことではあるが、至近距離で悪竜の殺意にあてられれば、荒事慣れしていなければ余波だけでこうなってもおかしくない。
「コナクソ!」
イドが並走し、Aを抜き去る。負けじとAも抜きにかかるが、急激に覚醒した半獣の足に追いつくには少しばかり距離が足らない。これが後、五十メートルゴールまで距離があれば再度抜くことはできたかもしれないがゴール手前で勝負は決した。
『ゴール!ゴールゴールゴーーーール!今までになかった最後のデットヒート!土壇場で底力を見せて逆転したのはパルークーレースの王者、銀星だぁああああああああああああ!』
僅か半身の差であった。だがしかし、その半身の勝をもぎとったイドはゴールと共に地面に転がり、空を眺めていた。背後から襲い来る得体のしれない殺気は既になく、ただなにも考えられずに放心するように青空を眺めているのみであった。
「よう」
「………A」
「誰だよAって。俺様という男には、三代目石川左衛門っていう立派な名前がありやがらぁ。まあ立派すぎて国にやぁい辛くなっちまったがなぁ。だがそんなこたぁどうでも良い」
A、いやイシカワとやらがこちらに手を伸ばす。
「琉流忍術を収めたこの俺様との走りあいによく競り勝った。悔しいが、まだまだ俺様にも伸びしろがあるってことを確認させてもらったぜ。悔しいって気持ちは、なにより成長の起爆材料だからなぁ」
「成長の…起爆材料なら……まだあるみたいだ」
「ほう?」
イシカワの手を掴み、立ち上がる。その姿に観客はなにを思ったのか、盛大な拍手を送っていた。選手同士の清い一面に感動でもしているのだろうか。だが流石に、今の状況でファンサービスにあてる余裕はない。
「命の危機と、脅し」
「ふむ」
ランザさんゴールまで駆け付ける。よくやったとランザさんが褒めてくれていた。それは嬉しいのだが、そのまだ向こうにいるジークリンデさんの顔をまともに見ることができない。あれは確かに、と言っていいのか分からないがジークリンデさんの声であったからだ。
「及第点だ」
声を張り上げた訳でもないのに何故かここまで届いた彼女の声に、ビクッと肩が跳ね上がる。取り合えず、死は回避できたのではないかと脳内は考えていたが心臓はドクドクと鳴りっぱなしであった。
『危うい場面もあったものの今年も見事な走りを見せてくれました!いやーしかし、ここまで白熱した試合を魅せてくれるとなるとパルークーレースもまた違った楽しみ方を……え?……おいおい、それ本当に?』
締めの言葉を語っていた実況の言葉が濁る。十数秒の間が開き、興奮していた観客もなにやら異変にざわつき始めていた。
「まあ、本番はここからだな」
ランザさんが、分かりきっていたと言いたげに言葉を紡ぐ。そして、実況から困惑した様子で言葉が放たれた。
『えー…銀星選手。指定コース外を走ったということで失格となります。優勝は繰り上げとなり二位のA選手がこの度のパルークーレースの覇者となりました!ではさっそく表彰の準備を…』
「待…待ってください!」
イドが声を張り上げる。突然首位から落とされたことに、納得がいかないのだろう。それはそうだ、誰だってこんな唐突な結末の変更は呑み込めない。
「ボクがどこで違反したというのですか!?違反理由の明確化を希望します!」
「イド選手、貴方は第一チェックポイントと第二チェックポイントの間にある入り組んだ旧市街、質利禁止の方面に身勝手に侵入しました」
審判団と思われる一団が乗り出し、口を開く。その中に一人頬を赤く腫らした人物がおり、卑屈そうな笑みを浮かべていた。
「進入禁止の区域は係りの者が立ち会っており、彼が証言をしました。強引に禁止を伝える彼を殴り飛ばして侵入したようですね。パルークーレースは街中という公共の場を借りる以上、住民の許可は必要不可欠。それを得られないところまで迷惑をかけてしまえばレースの根幹が揺るぎます。よって、貴方は失格にせざるえません」
「馬鹿な…そんな男ボクが走ってきた順路にはいませんでした」
「そんな証言、信用にたるとでも?大方勝ち続けて調子にのっているところ、強力なライバルが出てきて自身の天下を奪われないようにしようとついやってしまったのでしょう?選手の風上にもおけませんね」
主審と思われる女がニタリとした笑みを浮かべる。それにカッとしたイドが、眉間に皺をよせて叫んだ。
「だったら、貴方達が仕組んだあのぼうが…むぐっ!」
「まあ待て。そいつは言うな」
ランザさんが、ボクの口を塞いだ。審判団の方を睨みつけるように見ていたが、その瞳は死んでいない。まるで、ここからは俺達の仕事だと言わんばかりであった。
「お前さん達の言わんとするところは、よく分かった。立ち入り禁止区域を、ショートカットする為にイドは侵入しその際に止めたスタッフを暴行したということだな?ならば聞きたい、俺は正直外様の人間で地理には明るくない。その侵入した場所と言うのは、どこなんだ?」
「旧市街二十一番地区。通称、空瓶横丁ですね」
主審の言葉が聞こえた観客達がざわめきたつ。
「空瓶横丁?」「あんなところを…」「治安が悪い、確かにレースのコースには…」「半グレの溜まり場じゃないか…」「半グレって、旧市街のエタニア達の縄張りなんて」
ざわめきを聞いていると、どうやらなかなか治安の悪い場所のようだ。まあ確かに、それならばおいそれと走行許可はおりないだろう。だが、イドはその道を選択した。普段は封鎖されてはいる道が、今回は使える。その程度の認識であったのだろう。
パルークーレースは、ゴール地点は東門から直進したここだと毎回決まっているがそのコースは大会ごとにバラバラだ。他所から流れて来たイドは細かな治安までは知らない可能性もある。
「その空瓶横丁は今回は走行許可がおりていた筈だ!だから係員がいなかった!そこを走ってきただけだ!例え禁止区域だとしても、係員がいなかったなら選手も間違える筈だ!それは運営側の落ち度といえるのではないのか!?」
「イドのチームメイトである貴方の言葉等信じるに値しません。否定したいなら、もっと客観的にその事実を言える者を呼んでくださいな」
「客観的に言えるものなら良いんだな?……おい!」
声掛けに合わせ、ジークリンデが一人の男を連れて来た。どうやら俺の相手をした男があの周辺を牛耳る半グレ達の大将であるエタニアであったらしく。あの後もしつこく食い下がってきた為顔に幾つか大きな青あざがついていた。
「パルークーレース、俺と周辺住民は話し合いで許可をだした。代表は俺だ」
「え?」
「お前等の係員なんぞ街区の入口には立ってはいなかった!この俺が言うんだから間違いねえ!なあみんな!」
ゾロゾロと襲撃者達が東門から歩いて来る。イドは目を丸くしていたが、あの乱闘には続きがあった。
連中がいかに暴力のセミプロとは言っても、こちらは人外じみた師匠にしごかれリスムの経済特別区で修羅場を過ごし、人妖相手に数年間渡り合ってきた。ジークリンデは言わずもがなであり、ただの凶器をもった人間が悪竜に敵う筈もない。
ただの二人に完膚なきまでに返り討ちにされたチームは、それはもう面目丸つぶれである。脅しと暴力で生きてきたプライドの高い連中にとって、それ以上の屈辱はないはずだ。
だから、こちらから取引を持ちかけた。今回のことが吹聴されるようなことをおこさないと約束するならば、ゴール地点でおこるいざこざについてこちら側に立ち証言をすると。無論断っても良いが、そうなるとしばらく寝たきり生活になると脅しもかけてはみた。
だがしかし、彼等には彼等なりの考えもあるらしい。チーム同士の抗争や多数で少数を蹂躙したならともかく、少数で多数相手を返り討ちにするさまはどこか、男の子心みたいなものに響くものがあったせいかもしれない。
意外な程に交渉はすんなりと通り、こちらに口添えをすることを約束してくれた。土壇場で裏切る可能性もあるが、ジークリンデが睨みをきかせたうえであまり悪意を感じていないのか詰まらなそうにため息をはいたためある程度は信用していいと判断することにした。
「そんな、許可はおりていない筈で」
「じゃあそっちの手違いじゃねえか!テメェ等の不手際選手に着せるつもりかよ!筋が通らねえじゃねえかこのやろうが!」
「か、確認!確認しますのでしばらくお待ちください!」
審判団がざわついている。何人かが、本部のテントにまで走っていったようだ。だがこれで、向こう側は限りなく詰みに近いだろう。
恐らく許可等だしてはいない。だが、許可をだしたと住民が言い張り、係員がいなかったという証言が出ていればそれは運営側の落ち度であることはあきらかだ。それでも運営権限でイドを首位から落とすことはできるが、誰もが納得できる理由もなく人気プレイヤーを蹴落としたとなればレースじたいの人気が落ちる。
なにせ倍率は低いとはいえ銀星は押しも押されぬトッププレイヤーだ。一番人気に賭けている者も多い分、不満の声もデカい。純粋なファンも多いためそれも不平不満の後押しになる。その影響は、レースのみならずその後ろ盾であるメルキオル商会にも悪評として暗い陰を落とすだろう。
運営の評価が落ちることを必要最低限にするには、判断ミスを認め二十一番地区に許可を得たことを認めなければならない。評判に傷は負うが落としどころとしては、手違いでしたと認めることになる。
確認に向かっていた審判団の一人が戻り、審議をしているようであった。主審の女性が諦めたように首を振り、声をあげようとしていたところ一人の男が現れる。
見覚えがある顔立ち。あの男は、宿に馬車で現れイドと会話をしていたメルキオル商会の人間だ。
「その男は嘘をついております!」
「なんだと!?テメェなに適当を!」
「半グレなどという社会不適合者の言い分をいちいち審議する必要はないでしょう!それに皆さん、皆さんには今回のレースだけではない、ある重大な嘘を銀星……いや!イド=クラモスはついているのです!」
「は?」
「え?」
なにを言い出すのか。今回のレースだけではない、ある嘘?なにを言い出すのか、レースについての口論であるならば考えをつけ準備をしてきたが、この男がなにを言い出すのか瞬時に予想がつかなかった。
イド本人も、なにを言われたのかよく分からないといった顔をしている。イドが、いったいなんの嘘を観客達についてきたというのか。
男がツカツカと無遠慮に歩み寄ってきた。イドの前に立った時、その意図が分かり動く腕を止めようとしたが、判断が遅れてしまった。男の手がイドのフードを無理矢理めくり、その半獣の耳を露わにさせた。
「この男は半獣の身でレースに参加をしていたのです!自身の穢れた生い立ちや産まれを隠し、その呪われた能力でレースを総なめし栄誉と賞金をかっさらっていきました!こんなことが許されるでしょうか!?このような人間のふりをして、嘘をつき続けた出来損ないの言葉を信じられるでしょうか!?ましてそれを知りながら告発しなかった部外者の言い分等信用できますか!?皆様に私は問いたい!」
意図を、理解できてしまった。イドが使い物にならなくなるなら、盛大に壊してしまえということか。考えが甘かった。メルキオル商会はイドを手元に置いておきたいから半獣の立場を明かさない。だが手元から離れるならば替えがきく奴隷等必要ないということか。
その替えは、恐らくこのAである。これだけの走りあいを見せた才能を手元におけるなら、イドという存在にこだわる必要はない。むしろ、半獣という立場を隠していたことを世間に明かしたことを功労とする腹積もりだ。
なんなら商会は騙されたという体をとればいい。むしろ、間違いを認め告発したとして評価を受ける可能性すらある。世間における半獣に対しての差別意識を、ここで利用するか。イドという奴隷は表に仕えなくなるが、船底の漕ぎ手でも劣悪な労働を課すでも本来の奴隷の使い方として酷使すれば良い。
あまりにも、あまりにも下衆な考えだ。商売人としての矜持、思考としてこれまでの妨害行為やその他の行いは立場上理解を示すこともできた。だがしかし、半獣にいっぱい喰わされたことが気に入らないからとここまでのことをしでかすか。
「生い立ちを隠し続けたウソつきが本当のことなど語るでしょうか!?今回のことも嘘に決まっています!ましてや証言者はチームメイトと素行の悪いはみ出し者等…どうでしょうか!?このような悪しき前例を残してはいけません!我々は責任をもってイドとチームメイトに然るべき処罰を下し…いぃ!?」
頭の中で、クーラの存在が頭をよぎる。これ以上、この男に喋らせてはダメだ。こいつが言葉を放ちイドを貶めるだけ、それは同族であるクーラにも暴言として飛んでいた。
「言いたいことはそれだけか?」
目の前に立っただけで、叫んでいた男の顔が引きつり後ずさる。拳がゆっくりと持ち上がろうとした時、その手を止める褐色の手が伸びた。
「まあ、待てや。冷静に見てみろや」
ジークリンデが、親指をさす。その指は、観客席の方に向いていた。