一話完結のダイジェスト風の短編です。
本編を見てから視聴した方がいいかと思いますが、見なくても問題ありません。
それでは……
番外編どうぞ!
IF~もしものお話~ 悪の巫女
「母様、おかえりな……その子は?」
「この子は霊夢、あなたの妹よ」
優しい母様が拾って来た女の子。
それが私の妹。
名は霊夢。
「霊夢凄いじゃない!一発でできちゃうなんて!!」
「えへへ♪もっとほめて!」
「偉い偉い!霊夢は凄いわ」
「えへへ、おねえちゃんもほめて」
「霊夢ちゃん……凄いわね」
「えっへん!」
母様が霊夢ちゃんを褒める。
私はいくら頑張っても報われず弱かった。
なのにたった5歳の妹が私よりも遥かに強かった。
「私は……次世代の巫女には選ばれないの?」
期待されていなかった。
力がなかった。
巫女として相応しくなった。
「おねえちゃん……だいじょうぶ?」
私を心配して声をかけてきた妹。
私よりも母様から期待された妹。
妖怪の賢者やその式から信頼された妹。
その妹の優しさが……
憎かった。
「ひ、ひぃ!!?た、たすけてくれ!!?」
泣き叫んでもその想いは決してその娘には届かない。
「ぐぎぃ……がはぁ……た、たす……」
バキッ。
骨がへし折れ、力を失った
「な、なんだよお前は!?な、なんで相棒がこんな目に遭わなければいけないんだ!!?」
「……そいつの耳が妹に似ていた。そしてお前の目が……妹に似ている!!!」
「うぎゃっ!!?」
何処かの森の奥深く、普段は人が立ち入ることのない危険地帯に血で染まった巫女装束を見に纏う一人の少女。その足元に肉塊が二つ並んでいた。
「姉より優れた妹など存在しないのよ」
正史では仲の良い姉妹。しかしこれは別の史実。神の戯れか、悪魔の悪戯か、それとも定められた運命か。
最弱の博麗の巫女が最悪の博麗の巫女になるもしものお話。
幻想郷は現在最大の危機に瀕していた。
「ちくしょう!!この悪魔め!!よくも仲間達を!!!」
一人の白狼天狗が憎悪を燃やしてその首を刈り取る為に刃を振るう。
「へぎゃっ!!?」
乾いた悲鳴を上げ、一瞬の内に首が刈り取られたのは白狼天狗の方。
天狗達の住む妖怪の山は地獄と化していた。そこら中に転がるのは死体の山。そのすべてを作り上げたのが一人の少女であった。
「き、きさまは……なんなんだ!?」
「……私は……私が博麗の巫女だ」
「貴様が巫女なものか!!!化け物め!!!」
そしてまた一つ死体が増えた。
「私は博麗の巫女……博麗霊璃だ」
博麗の巫女は幻想郷の守護者とも言えるが彼女は違った。
己の無力さを嘆き、力を求め過ぎて多くのものを犠牲にして力を得た哀れな少女。
人としての道を踏み外し、巫女としての役目も忘れた子。
一つの目的にのみ生き、その目的の為にすべてを滅ぼす悪魔。
「霊夢……どちらが本物か、決める時が近いわね」
幻想郷は忘れ去られた者達の楽園。
しかしその楽園は一人の巫女によって地獄と化した。至る所に命だった
人間、妖怪。そこに住んでいたであろう命が分け隔てなく平等に死を与えられた。悲しいことにそこには差別など存在しなかった。故に女、子供も……
「霊璃……あなたと言う子はっ!!!」
「……」
幻想郷の賢者である八雲紫は幻想郷を愛していた。理不尽な現実、過酷な環境、そこに住まう様々な種族からなる差別、弱者を蹂躙する強者、それら争いが負の感情へと繋がることだとしても自然の摂理として受け入れる。
『「幻想郷は全てを受け入れるのよ。それはそれは残酷な話ですわ」』
かつて八雲紫は口にした。外からの来訪者には基本的に寛容、かつ固定した幻想郷ではなく変化のある幻想郷の姿を期待している。彼女ほど幻想郷を愛している者はいない。
そんな彼女が今回の異変を黙って見ていることなど出来なかった……いや、出来る訳がなかった。スペルカードルールが普及した後に起きた命の奪い合い。普及後にもルール外で命の奪い合いは多少あったがそれでも幻想郷全体からしてみれば小さなことだった。
だが今回の異変は異なり、それもたった一人の少女が起こした異変。幻想郷を崩壊へと導く序章であった。
初めは小さな出来事……妖怪達が姿を消し、行方が分からなくなった。しかしそれだけでは幻想郷では日常的にも起こりえる出来事、気にする者など少数だった。時間が経ち、今度は人間や力を持った妖怪が消えた。妖怪だけでなく人間も消えたことで妖怪の仕業か?と思われたが、犯人はわからず。不安な日々を送ることになった。そんな日が続き、遂に大きな出来事が起きた。
妖怪の山が襲われた。天狗達は襲撃者を撃破しようと戦ったが誰もが敗れ、辺り一面は火の海となり、焼け野原となった。襲撃者は誰か?生き残ることができたのは射命丸文。彼女は言った……
『「襲撃者は……博麗の巫女」』と。それからだ、幻想郷各地が襲撃され多くの者の命が奪われた。中には逆らった者達が居たが……もういない。そして人里にもその魔の手が迫り、罪なき者達が散った。この異変を解決しようとした者達も勝てなかった。たった一人の博麗の巫女が、破壊と殺戮を繰り返す。
誰もが絶望した。涙を流して憎悪した。そして誰もが希望を宿して疑わなかった。この大異変を解決してくれる……もう一人の博麗の巫女がきっと。
しかし負けた……
間一髪のところで八雲紫に助けらえ手当を受けていた霊夢であったが、霊璃は止まらない。地上の次は天界、地底、冥界、彼岸、魔界……彼女の行くところ全てが滅んだ。
八雲紫は涙を流した。愛した幻想郷を滅ぼされ、愛した者達が死んでいく。そして
「れいりぃぃぃぃぃい!!!」
彼女は報いようとして……散った。何もかも散り、崩れ、消えていった。
そして最後に残ったのが……
「やっと……あなたを殺せるわね霊夢」
「……姉さん……」
辺り一面燃え上がり、空は暗黒に染まった一角でポツンと今も昔も変わらない博麗神社。そこに二人の少女が向かい合い、再会を懐かしんでいた。
ここは思い出の地、母親と過ごした大切な我が家、そして目の前に居る……
「霊夢……あなたが憎い!!!」
……憎い妹。
「……幻想郷はもう終わったのよ。博麗大結界も無くなって博麗の巫女も用無しになるの。だからこんなことはもうやめよう、ね?」
「そんなこと些細な事よ。言ったでしょ?幻想郷なんてどうでもいい。私は博麗の巫女になれればいいの。私は巫女になる為に弱さを捨てた。そして力を手に入れた。無限の力、誰にも負けない力、最強と呼ばれるあなたを殺せる絶対なる力!!!それらを手に入れることができた私こそ博麗の巫女として相応しいの。本物だと誰もが私を認める……きっと母様も私を褒めてくれる!!!」
「母さんは……今の姉さんこと好きじゃないわ」
「嘘だ!!!」
「……姉さん……」
「あなたにはわかるかしら?あなたと違い私は弱い。母様はずっと私を支えてくれた。でもそれに応えられなかった。もしあのままなら私は何も出来ない偽りで作られた巫女を演じ続けなければならなかった未来が待っていたと思う。でもそうはならなかった。この力を手に入れ、紫も藍も、大妖怪に神様、閻魔や鬼、吸血鬼も私には勝てなかった。今の私は誰にも負けない博麗の巫女なのよ!!!そんな私を母様が嫌いになるわけがないでしょ!!!」
「……そう、姉さんは許されないことをした。幻想郷を……魔理沙を、みんなを……でも、それでも私にとって姉さんは姉さんだった。誰が何と言おうと姉さんを
「もう、私の愛した姉さん……博麗霊璃はもういないのね」
それは決別であり、覚悟の現れ。
「姉さん……いや、悪の巫女よ!博麗の巫女である私……博麗霊夢が相手よ!!!」
「さぁ霊夢、決着をつけましょうか。どちらが本物の博麗の巫女であるかを!!!」
博麗の巫女として最後の仕事をこなす時が来た。
「………………………………………………終わった」
それはどちらの呟きだったのだろうか?
それはどちらかわからない。幻想郷は既に暗黒に覆われ霧のように未だに燃え広がる森からの黒煙で姿が確認できなくなっていた。ただ一つわかることは……
立っていたのは一人だった。
もう一人はどうなったのか……それもわからないが、もはやどうでもいい。
幻想郷の空が、大地が、生きる命に意味は無くなったこの世界でたった一人となってしまった博麗の巫女。
「………………………………………………ふっ」