ホースマンの1年はダービーに始まりダービーに終わるなどと言いますが、この作品のダービー馬ははたして。
『リベルタスがやや後方、ロッカヴェラーノも後ろになりそうなところ。
その他の馬はまずは揃ったスタート、大外サイレントロードが中でも好スタートでしょうか。
さあ、まず最初の1コーナーに向かってそして、1、2コーナーでどういったポジションを取ることが出来るのか!』
(前は無理だね)
いつも通りの好スタートを切ったサイレントロードだったが、鞍上の関は早々に先行集団を諦めた。14~17番の4頭がほぼ横一線となって前へ行くことを主張したのである。端的に言えば、ようするに大外のサイレントロードに先行させない為だ。
不良馬場は一般的に差し馬の加速がしづらく前が残りやすい馬場。もちろん、今日は馬場の内側が荒れ果てていることにより外差しが決まりやすくなっていることくらいは皆わかっている。
しかしそれ以上に、「サイレントロードが状態の良い馬場の外側を走りながら先行する」ような状態になれば勝ち目がほぼ消える。
外枠の馬達の鞍上はその考えで一致していた。揃って先行集団に取り付き、自分こそがと先行で馬場の外側を走る有利を狙いに行ったのだ。
展開次第では好スタートに任せて好位を確保しに行くことも考えていた関だったが、ここで強引に前に出たとして更に距離ロスのある外側を走らせた上で最後に足を残せるとの断言はできない。
無理せず後方からの競馬を選択することとなった。
(こうなると中途半端な枠順より大外だったのはむしろラッキーだったな、内と前だけならともかく外も抑えられたら相当厳しい。
……それじゃあ腹括っていこうか)
『18番サイレントロードは前に出ません、外からはショウナンパルフェ、トーセンラー、トーセンレーヴ、ユニバーサルパンクらが前を窺おうというところ。
1コーナーに入りまして、内オールアズワンもいいポジションにつけそうです。皐月賞2着オルフェーヴルと……白い帽子ウインバリアシオンは位置を下げます。同じく白い帽子、サダムパテックは好位。
2コーナーに入りまして、おっとどうやらオールアズワンがレースを引っ張る形になりそうです1頭だけ抜け出しました。』
(並びかけられた……!)
(しばし並走に付き合って欲しいね)
関とサイレントロードが選択したのは馬群最後方。
既に不良馬場に足を取られ後方に下がった3頭の前、先行勢からポジションを下げた内側オルフェーヴルを見るすぐ外側。ようするにこれは、自身以外の最有力馬オルフェーヴルを馬場の悪い内側に押し込むような形。
ここまで上がり最速を出し続ける切れ味勝負の馬を状態の悪い馬場を走らせて消耗させ、そして直線まで外に出させないのが狙いだ。
『外サイレントロードと内オルフェーヴルが並んで馬群の後方。
向こう正面の直線に入りまして、3番のオールアズワンが早くも2番手以降を、7~8馬身程でしょうか大きく引き離しました!
内を通るショウナンパルフェに外ユニバーサルパンクが2番手、その後ろに7番ベルシャザールと16番のトーセンレ―ヴ、15番のトーセンラーと外枠の馬が続きます。
2番のサダムパテックフェイトフルウォーにエーシンジャッカルが3頭横並び、2馬身離れてナカヤマナイトクレスコグランドに中のデボネアが少し前に出ました。
そしてその後ろに皐月賞のワンツー、オルフェーヴルとサイレントロードが並んでいます。
ちょうど馬群の後ろに張り付くような形となりました』
(とはいえ、あまりマークに夢中になってもいられない。直線勝負は分が悪いし)
(この展開じゃサイレントロードは大外回す。気にしても仕方ない、折り合い専念でいい、けど……)
1000mをサイレントロードが通過したのがざっくり64秒後半くらい。コーナーで見えた位置から逆算して先頭の62~63秒ほどか。比較的遅いペースと言え、それはつまり大逃げの粘り込みがあり得る。
後ろに下げた以上は馬群を割るか外を回すか内に切り込むかしなければならないが、このレースでは外を行くと決めている。
直線だけで外に出るのは前方の馬の妨害をかわすことも考えれば厳しいからコーナーで外に出す事になる、となればいつまでもマークにかかずらっているわけにもいかない。
(……ならもうここで外に出す。距離ロスは大きいけど、それでもこの手応えなら最後まで行けるし、ここまで抑えればオルフェーヴルは内に行かざるをえない)
(サイレントロードが邪魔で大外は無理、となれば馬群を割る。腹を括るしか無い)
『前半1000m通過は62秒4。さぁ3,4コーナー、隊列変わらず先頭逃げますオールアズワン。
しかし脚色が鈍ったか後ろとの差が縮まってきました、大ケヤキに差し掛かって各馬がにわかに色めき立ちます。馬群はほぼ団子ですがおっとこれはサイレントロードがすうっと外に持ち出して回っていきます、ピンクの帽子が早くも6番手か5番手か内の馬群を抜き去っていく!
さぁこの長い直線に不良馬場でどんな、どんな結末が待っているのか!オールアズワン苦しいか!
さあサイレントロードは外、ピンクの帽子は外だサイレントロードだ!
来た来た来た来た、サイレントロード突き抜けるサイレントロード来た!オールアズワンをかわして先頭サイレントロード!』
(お前は……強い馬だ、サイレントロード)
大外は確かに馬場状態は悪くなかった。だが不良馬場であることには変わらず、控えさせて外を回ってと出来ることはしたが脚を残せるか一抹の不安がレース開始前からここまでずっと関の心には残っていた。
杞憂だった。
4コーナーを力強く大回りしても全く鈍らず、坂を苦も無く駆け上がって、17頭を従え広い東京競馬場の芝コースの中央で先頭を駆けるその姿。
ある者は先陣を切り戦場を駆ける王を、そしてある者は20年前の日本ダービーを幻視した。
これは決まったと、そう誰もが思った。……皐月賞と同じように。
そして、それは誤りだった。皐月賞と同じように。
『先頭サイレントロード後続を引き離し、いや馬群を割ってきたのが1頭赤い帽子のオルフェーヴル! 抜け出したこれは皐月賞の再現となるかあるいはリベンジなるか!
さらに外ウインバリアシオン! オルフェーヴル! ウインバリアシオン! サイレントロード必死に逃げる!』
(まだ……まだ!)
(届く……!)
上手く外に持ち出すことができず馬群の中ほどを通らされたオルフェーヴルだったが、残り200mといったところでこれもまた皐月賞と同じように馬群の間をこじ開けて一気に肉薄を図る。
また向こう正面でオルフェーヴルの真後ろに、そしてコーナーではサイレントロードの後ろを付いていったウインバリアシオンが溜めに溜めた脚を一気に解放して猛追を開始した。
目測5馬身のリードが縮まっていく。しかしゴールまでの距離も無い。
どの馬だ。サイレントロードか。オルフェーヴルか。ウインバリアシオンか。
ある者は言葉を発するのを忘れ、ある者は何も思考できず声を張り上げ、そしてある者は思わず馬券を握り潰した。
『先頭サイレントロード鞭が入った!オルフェーヴル!ウインバリアシオン!ウイン届かないか!ウインは届かない!』
『先頭はサイレントロード! オルフェーヴル! 二冠馬、三代無敗の二冠馬誕生! サイレントロード1着ゴールイン! 二番手にはオルフェーヴル!ウインバリアシオンが3着!』
『鞍上プレッシャーを見事跳ねのけた大外からのロングスパート! 史上22頭目の二冠、史上7頭目の無敗、そして史上初の府中の皐月と府中のダービーを無敗での二冠!
祖父が、父が成し遂げた無敗の二冠!そしてその仔も同じく無敗で二冠!こんなことがありますでしょうか! まさに奇跡の血統!
勝ちタイム2分30秒4、執念の粘りこみ! ゴールまでの600mが36秒9!
大外を大きく回して直線では後続を置いていき、迫った2頭を抑え込んでのゴールイン、なんと強い馬でしょうか!』
『内のオルフェーヴル並びかけた、並びかけたがそこがゴール! まさに負けて強しではありますが、あぁ鞍上池澄腕で目を覆う! 二度続けて僅かに逃した栄冠は悔しさも一入でしょうか。世代が違えば二冠だった、しかしこれも競馬ということでしょうか。
ウインバリアシオンがオルフェーヴルから1馬身での3着、あとは7馬身、大きく離れてベルシャザールナカヤマナイトクレスコグランドの順で入線しています。まさに3頭のみの争いといったところでしょうか。
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.』
「……勝っちまった」
「勝っちゃいましたねぇ」
呆然とする笹木さんを横目に頭をかく。いやもちろん勝ったことは嬉しいのだが……どうにもやっぱり実感が無い。
勝った実感ではなく、これが日本ダービーというレースであることにだ。
「いやぁほんっま……運の良いやつやお前は」
「ですねぇ。俺プロ入りしてから稼いだ合計年俸超えられちゃいましたよ」
「そこかい!」
まあ契約金込みでならまだ勝っているのだが、それもこの強さだと今年中に抜かれそうな感じだ。馬に生涯収入負けたなんて話は流石に酒の肴にしかならないので、引退までにもっと頑張らねば。
……いや、それはいいのだが。
「駒場さんおめでとうございます」
「あぁ吉岡さん、ありがとうございます」
「まさかダービーまで制してしまうとは思いませんでした。オルフェーヴルがいいところまで行ったんですが」
声をかけてきたのは茶台の吉岡氏。……うーん吉岡氏はそうでもないけど、周りの馬主さんからの視線が痛い気がする。
まあさもありなんか、外から見たらダービーに対しての情熱が薄い新人馬主が初めての馬で勝っちゃったわけだし。
「もしよろしければ、この後夜に池尾さん達も含めて会食など如何でしょう? 詳しくは無いのですが現役スポーツ選手ですし、食事制限などがあるなら無理は言えませんが……」
「会食ですか」
ふむ、なんだろう。競馬界を支配する茶台グループからの「あまり調子に乗るなよ」って釘刺しなんてことは無いだろうし、池尾さんも来るなら同じ厩舎所属のオルフェーヴル絡みか?
まあ、食事に配慮してくれるなら断る理由は無いか。
「構わないんですが、仰る通り栄養管理があるので食事内容には注文を付けさせてください」
「わかりました、後で一緒に店を決めましょう。そろそろ口取り式が始まりますよ」
「おっと、そうですね。ではまた後で」
2011日本ダービースレPart22
451:出走予定の名無しさん ID:HWba6Uizh
つっよ
456:出走予定の名無しさん ID:KXQa7FPX7
二冠おめ
471:出走予定の名無しさん ID:TS9ZMDCH8
強すぎるわ、三頭だけ別のレースやんけ
478:出走予定の名無しさん ID:zw7GfYtwy
よし、次戦はキングジョージだな!
481:出走予定の名無しさん ID:Azjft4zak
デボネアどこいった?
490:出走予定の名無しさん ID:ZE4mWUyGJ
雨の中大外ぶん回して脚を残せるサイレントロード
塞がった馬群こじ開けてそれに迫ったオルフェーヴル
それを抑えて上がり最速のウインバリアシオン
なんやこいつら
497:出走予定の名無しさん ID:uLYLF8EQt
三冠期待してるぞ
つっても菊はスタミナもつか怪しいけど
499:出走予定の名無しさん ID:bjm6EVrr8
ここまで強いとは
508:出走予定の名無しさん ID:sACbRRhA5
トウカイテイオーの息子からダービー馬
どうしよおじさん泣きそうや
512:出走予定の名無しさん ID:ZB5hMtxVA
タイムおっせぇw
これは雑魚w
516:出走予定の名無しさん ID:iDiA6dhXT
ディープ産駒掲示板にすら絡めんのかい
繁殖全部ステゴに回そうぜ
519:出走予定の名無しさん ID:wwPJdCTgT
ウインバリアシオンは道悪向けなのか? 本格化が遅れてただけかもしれんが
523:出走予定の名無しさん ID:CLVFGE8GA
4着と7馬身はやべーな、3頭が相当強い
馬場の影響はまああるだろうけど
529:出走予定の名無しさん ID:YZzZTGUYx
不良馬場でずっと外回されてあの動き出来るサイレントロードバケモンだろ、馬じゃねぇよあれ
534:出走予定の名無しさん ID:g3gMUjRs8
凱旋門行こうぜ、菊とか価値無いでしょ
539:出走予定の名無しさん ID:wKZxhJVKQ
デボネアとは何だったのか
544:出走予定の名無しさん ID:Fh4P78CfS
不良馬場ってこと考えたらあんま後ろとの着差は参考にならんな
548:出走予定の名無しさん ID:7JeBYdEKf
流石に無敗三冠かかってるサイレントロードは菊でしょ
産駒成績見る限り3000もつとは思えんけど
552:出走予定の名無しさん ID:4TUQj6Jke
トウカイテイオーの血を繋ぐのはもちろん、サンデー系4×3用の後継種牡馬としても期待がかかるな
しかしステゴは本格的に一流種牡馬だな、あいつやっぱ手抜いてただろ
556:出走予定の名無しさん ID:Lb73JuQrz
ウインバリアシオンもG1いくつか取れそうやな
560:出走予定の名無しさん ID:4Wt4hc8DB
エアシャカール世代みたいにならなければテイオーの血もマックイーンの血も無事残りそうかこれは
感無量や
561:出走予定の名無しさん ID:Ger82eP3J
頼むからロジユニみたいになってくれるなよ……
564:出走予定の名無しさん ID:bFa2EQfRN
でもなんかこういう年に限って伏兵が出たり怪我したりする印象
574:出走予定の名無しさん ID:FPLXk8tPy
駒場ァ!
580:出走予定の名無しさん ID:nkadhP7mX
また駒場おるやん
581:出走予定の名無しさん ID:ybbb54tMG
こいつ自由にやりすぎやろ
583:出走予定の名無しさん ID:xc9tNJHUP
6連勝してるから許すが……
590:出走予定の名無しさん ID:QehBeaw8W
こいつ絶対菊も見に来るやろ
599:出走予定の名無しさん ID:45Jgfk5jh
W三冠待ってます
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レース映像イメージ
ジャパンカップ(1987)+日本ダービー(2011)+日本ダービー(1991)
>会食
馬主と調教師、あとは騎手や報道関係者などを交えての会食というのはよくあることだそう
貴族の遊びは社交を交えた仕事でもあるのだ
>ウインバリアシオン
正直個人的にはジャスタウェイを抑えてハーツクライ産駒で一番強かったんじゃないかという思いがちょっとある
>ロジユニ
ロジユニヴァース。弥生賞を含む4連勝で皐月賞に挑むも14着、しかし不良馬場となった09年ダービーでノリさんに初めてのダービー勝利、また馬主にも初年度保有馬でのダービー勝利と初GⅠ勝利をプレゼントした
しかしその後は怪我が続いてまともに出走することもできず12年札幌記念に2年ぶりのレース出走も大差の最下位、結局それを最後に13年引退
作中年代では10年札幌記念から約10ヶ月の未出走が続いている状況
不良馬場を勝利した、馬主の初年度保有馬という共通点と父の骨折癖のこともありちょっと話題になっている