蟻んこの上でウマ娘がタップダンスシチー…フフッ。
「はぁ…やっぱりレースを見るのは楽しいんだが、画面越しに見るのも飽きるというか、流石につまらなく感じてしまう。…否、これは我儘な殺意にも似た生殺しされているみたいな感覚だ。明らかにどうしようもないというこのやばさ…圧倒的にこれはやばい、と身構えてしまう恐怖!今回の危険信号はデカすぎる…今回ばかりは現地で見たい、ガン見したいッッ‼︎んがあああああ‼︎ロジカルに考えてもあべこべ世界まじでクソすぎるだるぅおおおお‼︎マジクソクソクソオブクソリバティィイイイ‼︎」
持っていたスマホを投げ捨てたくなるほどに震えた手をなんとか堪え、スマホを机の上に置いてから今の率直な気持ちを、語彙力を失ったまま頭を抱えた状態で勢いのままに表へと出した。
またもや隣の部屋から物音が聞こえたが…すまんな。正直悪かったと思っているが、反省はしていない。いつもならば俺にとっては喜ばしい事ではあるが、今はそれどころでは無いのだ。息切れが…切ないと感じる程に、呼吸を整えなければならないほど興奮と挫折を味わってしまった。
ソワソワと足を急かし、鳴り止まない興奮に呑まれでもすれば、異様なほどに面倒事へと発展してしまうという予感がして止まない。しかしとて、今すぐにでも動き出したくなるような、尋常じゃないほどに焦らしプレイをされているような、手が届きそうな快楽がすぐ近くにあるのだ。
部屋でポツンと1人軽い頭を下げた体勢になりながらも、今にも涙が出そうなしかめっ面を直し、直様落ち着きようを取り戻す。その理由を聞けば無理もない…と誰もが思うだろうが、やっていて恥ずかしくなったのも同時であった。
「せめて何処かの誰かさんが口を利かせ、キリッした表情を俺に向けて『トレーナーやってみないか?』って言ってくれねえかなぁ…流石に来ねえよなぁ…来たとして男だしなぁ…ハハッウケる。なんだよこれ。こんな夢にまで見た天国は無いのによぉ…んなもん、泣けてくるじゃねえかよぉ。あぁぁぁ…見に行きたい。見に行きたくてしょうがない…これだけは譲れないものがあるって言いたいけどなぁ…はぁぁ…」
そんな独り言をついつい呟いてしまった8月に入りかかったある日、世間でも一足先にだが毎日王冠で話題が持ちきりとなっておりトレンド入りを果たしていた。敬意と拍手を今すぐにでも送りたくなるようなあの伝説が、幕を開けようとしている…といってもあくまでも出走予定が決まったとかそういうわけではなく、情報が予めある種のネタバレとしてリークされた…と表した方が正確な表現かもしれない。
情報を探る為に使っているスマホに映るは、特に何かを投稿するわけでもなく多少のリツイートやいいね…そして時偶に、リプに応援メッセージを送る程度の…そんな極々普通の平凡なウマスタとウマッターのアカウント。そこには今日並べられたトピックがあった。
『白色彗星、重戦車の名称で知られるメジロアルダンが昨夜…ウマッター、ウマスタグラムにてこのまま体調と調整が順調であれば毎日王冠と天皇賞秋に出走予定をすると表明。波乱の幕開けとなるか?』
『JC1着オベイユアマスター、再び来日か?はたまた宣戦布告なのか⁈この真意は一体…?【ジャパンの芝が香ばしかったのを今でも時折思い出しちゃうよ!次も勝つからよろしくね‼︎】(翻訳済み)』
『危険と呼ぶか、冒険と呼ぶか…ディクタストライカ。メジロアルダンに続いて毎日王冠についてのコメントを上げる。彼女の発言傾向からして、出走登録予定濃厚説浮上?マイル頂点戦がまたもや勃発するのか、注目が集まる。』
『オグリキャップ、合宿場にある食料庫の中身を一掃。料理長は「2週間保ったのが奇跡と言っても良い…久々に武者震いが止まらない」と発言。互いに火花が飛び散ったここでも、中央の威厳を見せつける結果に。』
『またもや赤ちゃんにされてしまったのか⁉︎夏合宿中、最強バとして名高いタマモクロスとイナリワンの両者が【ママ】の犠牲者となった模様…無惨な姿がヤエノムテキ、サクラチヨノオー両者の微笑ましい写真の隅に映っていると特定され話題に。コメント欄は阿鼻叫喚か騒然したかのどちらかだった様子。尚、アキツテイオーやブラッキーエールを含め、関係者は口を閉ざしている模様。』
『スーパークリークの調子は好調を維持。本番の天皇賞秋に向けて視界良し。』
『大人気逃げ切りシスターズ、小倉競馬場にてウマドルライブを開催‼︎』
「あかん…これ、普通に燃え上がるような熱い展開とは別に、よくよく見たらトレンドの半分がカオスすぎないか?やっぱロクでもないな。夏合宿含め、レース場にいない方が良かったかもしれない…うん。冷静に考えてみてもやっぱ無いわ」
どうしてくれようか、あの化け物ども。会ったことないけどよぉ‼︎色々とその…イメージその他諸々、威厳もクソも無さすぎる。鳴り止まない興奮が一気に冷め賢者モードへと変わっていったのを、少し悔やみながらも画面へと目を向け、切り替える。
血湧き肉躍るような熱い展開が一気に冷め、余計に温度が下がった分…より冷静になったことで彼女達を分かる範囲で観察するが…ふむ、わからん。体が出来すぎていてよくわからん…誰が勝ってもおかしくない、まさしくそれが第一に受けた印象であった。
そして今日は生憎の日曜日…例のウマ娘ちゃんもこの日は、大体潜ったままだ。レースに関してのことを一切忘れる日を上手く作れたのか、週末のこの日に限っては連絡することもされることもない。テキトーにぽちぽちとスマホを弄りながら各バをチェックしていく。
つまりは…どれだけ時間を費やして粘りながら予想を立てても問題はない日である、ということ。まさに至福の時である。
さて、どの子から予想していこうか…楽しくなってきた。
そんな気持ちを嘲笑うかのように、ピコンっとウマッターからの通知音が俺の耳に伝わった。先程の憤怒と怠惰から生まれた蟠りを解放させてくれた音でもあり、いざ始めよう…といったタイミングで集中を掻き消した音でもあるそれに、若干イラつきながらも、やや少し乱暴気味に開く。
『682.3682.31.24.3(3.28.3(5.21.54.5(9.273.28.3(1.3-60.35.51.32(14.3(4.47.552.34.47.52.28.3(1.32.51.33.39.35.4』
「またか…んだよ、イタズラか?しかもこれ、見るからに捨て垢…だな。ブロック安定お茶の子さいさい…はい、サラバダーっと」
下らない興醒めだ…というかなんだよ、この数字は…もしや暗号の真似事か?悪いが本当に暗号ならば、何処の誰ともわからぬ輩の者に、ましてや本当に暗号ならば解読に費やす時間が非常に勿体ない。端からそんなものに付き合い切れないわ…気が向いたら解読してやるからよ、と若干投げやりに放置してパソコンに目を向ける。そもそも俺に解読出来る知能があるのかどうか怪しいところではあるが…まあいい。
鬱憤を晴らしたい気持ちが収まることを知らずに、フツフツと沸き立って仕方がない。
そんな時、何気なく付けていたパソコンから特有の通知音が届いた。1人目の時と同じ… 新客のお出ましだ。覗いてみると掲示板に新たな部屋が作られていたので、早速作業に取り掛かる。
『とある人伝いを元にここを紹介されました。もしお時間がありましたら、相談に乗っていただきたいです。』
『はい、大丈夫ですよ。どうされましたか?』
即返信はお手の物。慣れた手つきで…といってもこれで2人目なわけだが、はてさてこの子はどんな子羊だろうか…腕が鳴る。
『実はこのサイトよりも前に、私の担当…はまだ付いていないのですが、あるトレーナーさんから直接アドバイスを貰いました。その時に、「君の走りはありきたりな枠から抜けて、様々な応用も利くのに何故オーソドックスな戦法に固執しているのか…その脚を大事に使わないだなんて宝の持ち腐れだね。」と言われたのですが、いまいちピンと来ません。さらにこのところ負け続きで、冷静に見ようとしても焦りが出てしまい客観視出来ません。どの部分を見直す事が出来るようになれば、自分にとっての視野が広がるのでしょうか?』
『現状を振り返る上で最も大切なのは過去の記録…ですかね。いつのものでも構いませんので過去のどんな試合で、あなた自身がどのようにして勝利をしてきたのかを、観察してみると何か発見があるかと思います。過去の試合記録又は映像があれば、一度映像越しに見る事を私はお勧めしたいのですが…そういった記録映像はお持ちでしょうか?』
『私の手元には今ありません。借りる事は出来ると思いますが…。』
『…ということは、そのトレーナーさんが過去の記録映像等を見た上で、先の発言をしたのかもしれませんね。でしたら話は早くなりそうです。しかし…これはあくまで提案にはなるのですが、当分の間はリフレッシュに費やしてください。まずは落ち着きを取り戻す事が重要なので、趣味があるのでしたらそれに没頭するなどして、一旦受け入れる体勢を整えてあげましょう。』
『正直そうした事をするのは不安にもなるのですが…私の性格上、ある種の逃げとも受け取れてしまうので余計にストレスがかかりそうなのですが…解消させる上手い方法はありますか?』
『確かに仰る通り、そうかもしれませんが…短期間であれば効果は絶大に発揮されると思います。もし焦って変に怪我でもしたり、過度なトレーニングを行うようであれば、それこそ選手生命が途絶えてしまう事だってあるのです。何事も自分に合ったベストな状態があるので、それを探ることも強くなることの秘訣ですから。
焦りは禁物だと脳が分かってはいても、どうしてもそうした時は視野が狭まってしまう事が多々あります。そうした状況下で1人で振り返る作業をしてしまうのは、何かと恣意的になりやすかったりする事もありますので…そうですね、なるべくライバルではない立場にいて、それでいて先輩や頼りになる人があなたの周りに居るのであれば、その人と一緒に見るのが一番効率的ですし、それが自分にとっても安心し満足のいく回答が得られやすいのではないかな、と思います。』
『成程…ありがとうございます。またこちらに伺うことがあれば、その時はよろしくお願いします。』
『はい。こちらこそよろしくお願いします。』
対応としては素っ気ないように見えるが…本当ならば最初はこのくらいの距離感が望ましいのだろうか?やはり初めての客に張り切りすぎてしまったのか?これからはどの人に対しても淡白に行った方が良いのだろうか?いや、そもそもの話として相性も含め、相談者にどのように接した方がより相手が力を発揮できるかどうかを重点的に探っていった方が良いだろう。それよりも、予想以上に早く終わってしまった…反応としてはこちらが普通なのだろうか?まだサンプル数が少ない…これからも慎重に検討しながら行っていくべきだな。
そんな事を思いつつテキトーにスマホに目を向ければ、またウマッターから通知が飛んできていたようだ。どうやら先程の怪しい数字をブロックした後に、知らないアカウントからフォローを頂いていたので、これまた雑にではあるが最新のツイートから順番に覗いていったのだが…どうやら自身と同じように情報収集垢として活用しているようだ。そして俺よりも数段遥か上に存在するようなクオリティの高さで運営をしており、フォロワー数もウマ娘情報垢の中ではそれなりに高い位置に示している事が伺えた。何よりも無駄がない洗練された内容を前に、ただただ感服する他なく、国内問わず海外にも目を通しているその徹底ぶりは、まるで諜報員のようで隙がない…俺の心が僅かに、そして確実に何処かが欠けてしまったような…そんな圧と悔しさを感じる。上には上が居るという事を思い知らされて、何故こんな最低限しか出来ていない俺をフォローしたのかが理解出来ないでいた…何より直感でわかる。
情報通としての格が違うほどの知識力の多さと、圧倒的なまでストイック気質。この異質感は、生物としての次元が違うことを現している証拠そのものだった。
彼か彼女か…まあ99.99%の確率で女性だろうが、その方からありがたいことにチャットに招待された為、何の躊躇も無しに俺は入った…否、入りたかったのだ。まさかこんな人を見落としていたとは…まさに自身の甘さによって生じた不覚であり、俺が未だに未熟者であると痛感してしまう。気を落とさないようにして一呼吸し、心の中では身構えながらもなるべく平常心で踏み入れなければ、俺そのものが喰われかれない程の強者だ。
と、早速お返事が来た…早いな。と思いつつ目を向ける。
『先程の暗号は解けたかな?』
背筋が一瞬にして凍った。そして終わった。まさか、この人からだったとは…というか違う、そうじゃない。もしガチガチに作られた暗号だとしたら、普通解けねえよ…という言い訳を考えるほどに混乱してしまう。慌てながらも、まずは謝罪から入らなければ…と、なんとか足りない知恵を振り絞って指を動かした。
『いえ、即ブロックしました。大変申し訳ございません。』
『そこまで大事な事を書いていたわけでもないから大丈夫だよ。こちらとしても特に問題は無いし、こうした方が反応してくれるかなっていうある種のサプライズのつもりだったから気にしないで。』
『正直スパムかな、と思いましたよ。いきなり何も無しに送られてきたものですから…まあ、多少は楽しめました。』
『ブロックしたくせに、嘘はよくないなぁ…けど、こちらから見れば速すぎて笑ったけどね。同時に私は少しだけ悲しかったよ。』
『いやはや申し訳ありません。それでその、御用があるとか…それとも何か私、やっちゃいました?』
『警戒心高すぎてびっくりだよ。そんな取って食べるってわけでも無いし、私は寧ろあなたと色々お話ししてみたい、仲良くしたいって思っている立場なんだけどな…?』
『仰られている意味が、今ひとつわからないといいますか…。』
『では、単刀直入にいこっか。次の毎日王冠で誰が1着になるか、私とゲームしない?もし勝てば君にはビッグイベントが待ってるっていう素敵なプレゼントが付いて来る‼︎』
『却下。お互いにメリットがありません。第一私はあなたを疑っていますし、その保証も確証も無いのに…というかこれ、出走登録もまだまだ先ですし仮にやるとしても、圧倒的に私が不利なだけでは?』
初対面…だよな?まあ前提としてそもそもネットでは誰にもバレていないが、歴(れっき)とした男なのだ。だからこそ、こんなやり取りをしても無意味な事は俺視点から見れば明らかだ。それ以前に俺の性別が女だったとしても勝てる相手では無い…そんなことくらいは嫌でもわかる。見るからに厄介な相手に、それこそ男だとバレれば…どんな結末が待っているのか、なんて事くらい想像できるレベルでの時間の問題でもあるわけで…何が目的なのかは知らないが、とっとと穏便に済ませるべく素っ気なく対応し、こちらがボロを出す前に退出した方が身のためだろう。こんなところで、変に時間と根気が必要になる戦いを俺は望んでいない。ましてやネットの場では尚のことである。
『ほら、それはそれ、これはこれ。そういう予想って当たると楽しいし、当たらなかったら悲しい。単純だけど…そういう楽しみもあるでしょ?それに出走登録が終わってからで構わないし、何なら今から誰が出走するかとか予想し合わない?きっとお互いに楽しめるんじゃないかなって思うんだけどな?』
『いや、別に…。』
魅力的な提案でやってみたい、とは思うが…こうも調子が崩れるというか、敢えて崩しているというのも正確な表し方ではない。何となくだが誘い方と崩し方が不気味…絵に描いたような異質さが滲み出ている。
『ダメですか…そうですか、じゃあこれ、君にはビッグイベントの中身を特別に教えてあげよう!なんと、なんとなんと!見事私に勝てば、トレセン学園の見学にご招待‼︎これならどう⁉︎』
『いくらなんでも怪しさ満点すぎるわっ‼︎』
前言撤回。ただのアホ疑惑も付加されているとは、属性がありすぎて予測が難しい。くそっ…ネットにこういう厄介な輩がいるなんてよくある事…で、済ませたくはないのだが、この際仕方がない…諦めるのも肝心だ。
『Oh…ウマ娘もびっくりするほどの鋭い斬れ味を持った、まるで残り200mからラストスパートを掛けた、ウマ娘の末脚のようなツッコミですね…私ビックリ‼︎
そしてここで素を出してくれて嬉しい反面、この際言うけど敬語とかこのテンションとか、慣れない事をするもんじゃないね…正直肩の荷が重くて仕方が無かったから、漸く下ろせたよ。』
『…私の気持ちを返してくれない?あと、そのわざとらしいリアクションで互いに疲れたらそれこそ意味ないじゃん。』
『受けると思ったからやったのさ。お蔭でヘトヘトだけど。』
やはり反応を見ていたのだろうか…?いまいち掴みどころに欠ける性格なのだろうか、どう切り返して反応していけば良いのかわからないでいる。
『なんとなくだけど…ペースを掴むのが上手いというか、慣れてる?』
『そうかな?普通逆を言いそうなんだけど、そう言ってくれる人って周りに居ないから新鮮だよ。ちょっぴり嬉しいかも…で、どっちなの?』
『何を。』
『勝負を受けるのか受けないのか、だよ。』
『丁重にお断りさせていただきます。言い忘れていましたが、晒すのも無しで。』
『そこまでネットマナーを悪くするつもりは無いんだけど…そっか、残念だなぁ。
それはそれとして本題に移ろうか。実はとっくの昔にウマスタのアカウントも特定済みだったんだけど、変わっていないようでホッとしたよ。良かった良かった!今回の出会いをきっかけにガンガン絡みに行くから、早速だけどフォローしとくね!これからよろしくっ☆』
『は⁉︎』
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真のオタクは、戦場を選ばない。それが例えどんな世界だろうと、ウマ娘の前で命を張らない理由になるか?つまりは…ウマ娘最強!ウマ娘最高!