あべこべ危険(ウマ娘)   作:2Nok_969633

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 ニッポンでどえらいオタクを見掛けてな!アイツには負けられへん!by






ギアシフト

 

 

 

 短文かつわかりやすい子でなんとも刺々しい印象を受ける…だが、冷静に1人目の子との違いを見るに、最初が特殊なだけで普通に考えてこちらが当たり前の反応なのだろう…しかし、2度も同じような主張の薄い反応を持ってこられると、いささか不便なものである。やはり、こうしたやり取りでは我儘になって貰いたい…でないと俺が苦労してしまう。得意では無いが…こちらから攻めてみるしかない。

 

 『それは良かった…つかぬことをお聞きしますが、その先輩があなたにとって頼もしい存在である保証はありますか?』

 

 『何故そんなことを聞いて来るんです?』

 

 『此方としても気になるので…それに実績があるならあるで、私としても気が楽になります。他にも走法や性格、あとは体格などが似ているのであれば、悩みを私以外でもぶち撒ける手段の多さや密度といった広さは多く深くなりますし。』

 

 『遠回しに厄介払いをしているようにしか聞こえません。それを聞いてあなたに対して、何かメリットがあるとも思えません。』

 

 『誤解を生み出して申し訳ない…ただ、私は用心深い性格といいますか、心配性なだけですよ。実際、あなたに対してあなたから発せられた限られた情報のみで判断しなければならないので。非力ではあっても、私はここの管理人です。あなたのお役に立ちたい、という想いは嘘ではありません…何より、ここのルームでは私とあなたの2人っきりですし、ここでいくらぶち撒けようと何もありません。』

 

 その言葉を書いた時から、予感がした。これは…難儀な相手だ。素の性格でこれならば、過去に拗らせる原因があったのか…?

 

 『いや、流石にネットマナーを悪くするまで溜め込んでいるとか、そこまで病んでいませんから。今のは私が狡い言い方を書いてしまったので申し訳ございませんでした。ここ数日は走ることについて考えない時間を作った事で、緊張が解けたのは本当です。』

 

 寧ろ考えすぎが良くないのだろう。これはブログも同様なのだろうか?シンプルに写真とブログを始めました、とだけ書いてそこから始めていけば良いだけだ。それくらいで最初は良いんだ。変に頭でっかちだった考えから解放させてくれたこの子には感謝しきれない…ってなると、それ相応の借りは返さなきゃいけないってのが、これまた難儀な性格と自負する俺を恨みたくなる。せめて爪痕くらいは残したい。

 

 他人同士のやり取りに割り込むような真似もどうかと思っているものの、このムズムズ感をぐっと堪え冷静に取り掛かる。まずは初期段階として、相手との距離感を掴みやすくしなければ始まらない。

 

 『私にとっては吉報なので嬉しい限りです。あとそうですね…もし、無理をしてなければでいいんですけど、すみませんが最近のレースでどのように走っていたか手短に教えていただけることって可能でしょうか?脚質だけでも構いません。』

 

 『脚質は先行です。』

 

 『その先輩はどういった走りを武器にしていますか?あとあなたから見た印象でいいので、適正距離もお願いします。』

 

 『確か差しで短距離以外は何でもイケるって感じです。』

 

 『それはレース場関係なく…でしょうか?』

 

 『はい、芝だけですがそうですね。』

 

 『先輩はGⅢ以上の重賞を取っていますか?』

 

 『はい。』

 

 は?何だそりゃ化け物か?重賞取ってて、殆どの距離他含め適性ありな先輩とか………は?まじで誰だよ。

 

 状況として考えられるのは最悪だとキメラになるんだぞ?わかっているのかこの少女は⁉︎これではこの世界が何でもありじゃ無いか…しかも、脚質から見てクラフトユニヴァみたいなキメラとか可能性として考えられることも踏まえたら…ざけんな、特定もクソもないじゃないか。まあいい…恐らく体格差か、それを補うほどのレースを走り切るまでのスタミナが無いか等のパターンと見てまず間違いは無いだろうが…そっちが気になって仕方がない。

 

 『まあそれなら私も安心出来ますが…自分自身でも後方から攻め入った方が走りやすいとか、こういったところで楽だな…と感じることはありますか?』

 

 『トレセン学園に来るまでは、私自身後方からでも何とかなってはいました…ただ、中央ともなるとレベルが違うというか、前に全然出られないまま試合が終わったりして…全員を抜いてゴールには辿り着けないことが多くなってきたので、それで先行にしました。』

 

 『因みにああは言いましたが、あの後レースを見返したりしました?』

 

 『やることもなかったので、一応…冷静になれた分、上がりハロン等の記録を見直したりする余裕も生まれました。色々と検証していった結果、確かに脚質適性は後方から攻め入った方が楽ではあるな…とは思えるようにはなりました。ただ、今の能力のままでしかも中央で…となると、正直不安は拭えません。』

 

 『それは無理もないです。なんたって中央ですからね。』

 

 『そうですね。』

 

 『でも、現役で活躍しているタマモクロスさんは、後方からでも…いえ、最後方からでも一着を狙える人です。まあ、あんな風に…というのは少しばかりキツめだとは思いますが、手本はいくらでもあります。体格差や性格に難があっても、脚に爆弾を抱えていようと…勝つ人は勝ちます。中央にいる時点でその力はあるはずです。何より、担当トレーナーでないにも拘(かかわ)らずあなたの長所を的確に見抜いたかもしれないその人も、ひょっとしたら期待しているのではないかな…と思いますよ。』

 

 『そうだといいのですが…私も担当が付くなら、ちゃんとあたしのことを見てくれる人が良いので。』

 

 『私も担当する機会等は無いと思いますが…応援しています。気持ち的に落ち着いていて、自分自身を見つめ直し無茶な練習をしないのであれば…トレーニングを再開しても大丈夫でしょう。もし何らかの部分で自身に欠点があるならば、それを補うように体調、理性、思考は乱してはいけません。あなたのその欠点は今すぐにどうにかなるものでもないでしょうが…その分身体のメンテナンス然り、他の武器をより丁寧に研ぎ万全の状態でレースに挑んでください。そして、この大きなチャンスをものにしてください。』

 

 『…ありがとうございました。』

 

 『吉報…待っていますから。直接は見れませんけど、ちゃんと私も見ているので。』

 

 『はい。』

 

 

 

 ルームメイトが数ヶ月いないというのは気楽で良い。特にあの人だと…どうしても強くあたってしまう。それでも無理にこちら側まで気を使うような人では無い。寧ろ鋼メンタルの持ち主だからこそ、ここ最近のあたり具合は冷静に見ても明らかに酷かった。それだけ彼女に甘えていたのだろう…振り返りたくは無いが、見るからに拗らせた頑固者だったと言える。意地を張る姿勢だけはきっかり一人前で、周りも自分も何一つ見えていなかった。

 

 だから…出来るだけあの人の邪魔はしたくは無い。

 

 『それでこの前、俺に電話をかけてきたってわけか。一応俺もレースがあるんだけどよ…トレーニング終わりとはいえ、いきなり「付き合ってくれない?」とか言うから一瞬ビビったけどな。』

 

 そう言う割にどことなく口調が和やかだ。この人の場合、敬遠されるような人では無いものの…近寄り難い雰囲気が常にドバドバと溢れて出ているものだから、慣れていない人にとっては身震いが止まらないのかもしれない。インタビュアーとか実際にそうだったし…悪い人では無いし、寧ろ良い人なんだけど。

 

 あたしも似たような部分があるが、彼女のようには強くないし強くなれるとも思っていない。その貧弱で貧相な身体付き…細い手足で、他のでかい奴らに負ける度、勝てるわけないと散々言われて、それをねじ伏せたくてここまで来たのに…現実はどこまでいっても平等で不平等だ。

 

 ここのところは何処か胸の蟠りが消えて、妙にスッキリはしているけど…多分また爆発する。それが嫌で仕方が無かった。そんな情けないあたしが嫌いになった。見下してきたのは他でもない…あたしがあたしを信じきれなかった罰なんだと、そう思って…言いたいことを自分に言い聞かせて、喉の奥どころか腑に溜め込んだものは、いつからか悔しさから諦めと憎悪に変わっていった。

 

 だから…もう遅いかもしれないけど、ちゃんとケジメを着けに行こう。あたしに出来ることをして、それでも無理なら清々しく砕け散ろう。

 

 「本当に…すみません、ディクタさん。』

 

 『いいっていいって。ぶっちゃけお前なら、俺にとっても良い練習相手になるからな。

 あー…言いたくはねえけど、あんましこう…頼りになる先輩とかそういった面じゃないだろ?特に俺のこの外見と気性の悪さだと、近寄って来るような肝っ玉も居ねえしよ。そういった意味では感謝しているんだぜ?ちゃんとした先輩面が出来るなんて貴重だからな。それに関して言えば、こっちとしても意外っちゃ意外だったけどよ。』

 

 『意外って何が?というか練習相手って…あたしに務まるとか思ってんの?』

 

 『いつも通りに戻ったとはいえ、相変わらず視野が狭いのな。気付いてねえってのがこれまた贅沢だわ…タチが悪いったらありゃしねえが、そこはいいや。そのトレーナーと掲示板やらのお蔭でこうしてきっかけが作れたんなら、あとはトントン拍子だろ。はっきりいってイージー案件だ、困りゃしねぇよ。

 んで…頼りにするんだったらって話に戻すが、まずは俺じゃなくて同室のクリークだろ。今はこっちに来ているとはいえ、あいつのことだ…喜びながらすぐ飛びつくと思うぜ?アルダンから内密には聞いていたが、そこまで悩んでいるんなら尚更だ。余計って言葉が付く程にな。適任としてはこれ以上無いって感じだろ普通に考えて。』

 

 『それは…その、ええと。』

 

 『まぁ、あいつと違って俺はドリームリーグに行ける権利を持っているし…そういった意味では、あいつの邪魔をしたくは無いって気持ちもわかるっちゃわかる。迷惑をかけた分…顔も上げられないとか色々思うところがあっててんやわんやなままって感じだろ?』

 

 『…うん。』

 

 『アルダンとライアン…それとアイネス。加えてチケットにハヤヒデ、スズカに…ブルボン、ファルコ…んで、クリークね。今すぐにとは言わないが、伝えたいことは伝えとけ。素直になれないってのはお前にとって致命的な欠点もとい苦手な部分なんだろうけど、ちっとは感謝くらいしとけよ?良好な関係を築けるなんて早々無いし、滅多に現れないってのも言うまでもなく…お前が一番よく身に染みて知っているだろ?』

 

 『うん…わかってる。』

 

 『ん…なら、俺もこっちで集中出来るわ。帰ったらちゃんと付き合うから、それまでに色々なことを済ませとけよ?後笑顔でな、笑顔。笑顔を忘れずにこうニコッと。試しに俺に向けてみるとかな!なんなら今すぐにでも良いんだぜ?この頼りになるディクタさんに満面の笑みを浮かべてくれると、俺も絶好調間違い無しなんだがな!』

 

 『〜ッ!っさい!バカ!あぁもう!ホントバカ!帰ってきたら真っ先に蹴っ飛ばす!』

 

 『お〜怖っ。ボキャブラリー少ないところとか相変わらずだけど…んで、どうする。俺的にいえばお前は差しってより追込って感じがするから、他にも声かけて欲しいなら事前に言っておくが?』

 

 「…悪いんだけどお願い出来る?」

 

 『あれ、ディクタさん誰と電話しているんですかぁ〜?』

 

 『ほんまや、珍しいなぁ。誰なん?』

 

 『はぁ…ったく、あいつらこういう時は空気読まないのかよ。これ以上グダるとさらにややこしくなりそうだけど、今変わるか?』

 

 確かに今クリークさんに変われば…今ならば言えるだろう。でも…今言ったところでこの夏を乗り越えられるかは、正直あたしにはわからない。この言葉は彼女が帰ってきてからでないと意味が無い。

 

 「良い…直接伝えるから。」

 

 『そっか、俺もそっちの方が良いと思うぜ?まあ念の為に軽めには伝えとくけど…そろそろ切るぞ。』

 

 「うん。本当…夜遅くにごめん、ありがとう。あと、その…暑いから気を付けてよ。」

 

 『気にすんなって。んじゃ…おやすみ、タイシン。』

 

 『うん…おやすみ。』

 

 スマホを持っていた手が軽くなる。誰かと気兼ねなく話せるというのは、存外良いのかもしれない。いつも孤独を貫いて拒絶して、最適解すら導けず何が走りで黙らすんだって意気込みは、雲一つ抜けたように肩の力が抜けている。変化に対応しなければ、進化していかなければ…ここから先は残れない。あとはあたし次第…しくじりは許されない。けど、心は晴れている。

 

 手にするものは勝利以外何も無し。

 

 

 

 以前よりは余裕がある…気持ちも呼吸も楽になった。それは俺も彼女達も同じだろう…そうであって欲しいと切に願うばかりである。それはたった数日後…彼女達の安寧と引き換えに、ものの見事に粉砕されることをまだ誰も知らない。

 

 

 

 




 


 駄文だけど、これでようやく1話目まで来たわ。




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