あべこべ危険(ウマ娘)   作:2Nok_969633

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 Wi-Fiが漸く治ってくれてme嬉しい……。






弧線のプロフェッサー

 

 

 

 待ちに待った俺の初デビュー戦とも言っていい日、そして俺の人生においてターニングポイントとなったであろう8月12日。その日はやけに憎いほど、どこまでも澄み渡った青い空が続いていたのをよく覚えている。

 

 忌々しき事態、という言葉が世の中にあるのをご存知だろうか?そのまま放置しておくと、いつの間にか問題が起きていても見過ごすことができない程に膨れ上がっている…まあそんな感じの意味らしい。

 

 事の始まりはなんてことはなかった。

 

 「はぁ…はぁ…とうとうこの日が来た。」

 

 緊張によって手が震える。俺にとって、今まで自分がやって来た行いに嘘を吐(つ)くなんて事は出来ない証が、目の前に広げられている。努力は人の目にはみえないが、紙一重の薄さも積み重なれば本になる…なんて言葉を残した人が居るけれど、ここまでいくとポートフォリオには困らなかったものの、最早紙の無駄なのではないかと思う程だ。

 

 壁に張り巡らされたウマ娘の情報、机に置かれた資料の山、びっしりと埋め尽くされたノートが、ある種要塞のように築き上げられている。紙に書かれた文字と文字が重なり合って結界のようにも見えて、少し悍ましいと感じてしまうかもしれない。どこか既視感のある光景に驚きを隠せない人も居そうだけど、わかる人は居るのだろうか。この世界でも彼女は踊っていたのだろうか…なんて思いながらumatoの画面に目を向ける。

 

 見た人があっと仰天するような、驚愕するような狙いを敢えて出すようにして、写真を一枚、また一枚と撮ってその中から選び抜いた画像を添付しよう。加えてプライバシーがバレないよう、特定材料となるものを極力減らしながら、装飾のバランスにも気を配る必要性があるな…と考えながらやるものだから、これがまた中々に難しい。収益化等の申請などを求めていない分、作業が短縮されると思っていたのだが、正直甘く見ていた部分でもあった。ともあれ、始められるのであれば何だって良い。

 

 

 

 【障害等級2級持ち、引き篭もりニートでウマ娘オタクとかいう属性モリモリな私がただただ呟いていくだけのブログ】

 

 タマモクロスやオグリキャップ含め、時代の立役者となるウマ娘が次々に登場して来た昨今。

 競バファンを始め、多くの人達が生で観戦し、その熱い想いを声に出して応援している…そんな機会が増えてきたかと思う。

 私はこの事に関して大変に素晴らしいと感じているが、果たしてそれだけがレースとしての楽しみなのだろうか。

 一競バファンとして追っかけの種類を変えてみるだけで、より違った楽しみ方が増えるかもしれない、と感じる私は何なのだろう。

 

 そんな変に収集癖が付いてしまった憐れな人が、蓄積したデータを元に分析し、勝手にレース展開を予想したり振り返りを行っていくだけの場所。

 

 楽しみ方は人それぞれバリエーションがあって、その数が多ければ多いほど一筋縄ではいかないかもしれないけど、私の楽しみ方はこんな感じ→添付

 

 こんな私でも夢中になれるものは存在したみたいだ。

 

 

 

 うん…こんな感じでシンプルに始めるのが良いだろう。自己顕示欲と優越感たっぷりマシマシの怪物が、いよいよ世に解き放たれるというのだから恐ろしい。

 

 さて…ウマッターとウマスタのリンクも付けて、準備万端といったところで師匠と勝手に名乗って来る人物に、再度やりとりを行う。

 

 『一先ず完了しました。』

 

 『いよいよこちら側の世界に本格的に参入だね…どう、ワクワクする?』

 

 『そうですね、ちょっと楽しみです。』

 

 鼓動がドクン…ドクン…と波打つように刻まれている。体温が1度くらい上がったんじゃないかと思えるほどに、興奮が鳴り止まない。

 

 『にしても…タイトル大丈夫?』

 

 『まあ…事実なので仕方がないです。』

 

 前半部分の少しの嘘はさておき、時間となった…初めてのツイートだ。

 

 『ま、そんな伸びるわけでもないってのがわかっているのであれですけど、投稿する時に訪れるこのハラハラ感は…どうにも慣れませんね。』

 

 『私とのやり取りの時には味わえなかったのにね。』

 

 『あれはどっちかっていうと緊張より恐怖でしたから。』

 

 それから暫くして、伏兵さんはいつも通りの日常へと戻っていったように、返答がパタリと途絶えたので俺も俺のやるべきことをしようと思う。

 

 因みにその時はフォロワー数も10人を超えたあたり…序盤にしては好調、現実はそんなものである。

 

 朝っぱらからではあったが、アプリの見直しに力を注ぎ入れるために、通知ボタンを全てオフにしてパソコンの前へと向かった。その日の作業はそれなりに成果も得られそうな予感がしていたので、ちょっとだけやる気が出ていた。

 

 それから大分時間が過ぎて大体20時を過ぎた頃、目も肩も色々と疲れてきたこともあってか作業を中断したあたりで、どうしても足りない要素が多いということが判明していた。様々なデータを1つに凝縮させ、集計させる他になるべく筋肉や骨の構造が近かったりするには…やはり俺や伏兵さんのデータを使っても足りない。いや、伏兵さんのデータの情報の密度と完成度の高さに、俺が足を引っ張る形だったのがなんとも情けないオチである。

 

 凝り固まった身体を解き…再びスマホの電源を入れ、ウマッターを開く。

 始めたばかりということもあって、フォロワーがあと10人くらい増えていれば上々だと考えていた。その中から…もしくは伏兵さんに正直に足りないものが多かったと素直に認め、人数を補うかもしくは委託しようか頼もうとした時だ。

 

 通知音がピロン、またピロンと止まらない事に疑問が浮かぶ。少しばかりその音を拒んだ心に不安がありつつも、自身のプロフィール欄を覗くとそこには目を疑う光景を映し出していた。やがて目は点になったようなアホ面へと変わっていく…そしてその不安の元凶を目に焼きつけた。

 

 

 

 フォロー数1 フォロワー数59667

 

 

 

 はて…桁が間違えているのだろうか?何かの故障かと思い、再度確認してみても数字に変わりはない。むしろ増え続けている一方だ。一体何が起きたというのか…何がどうなっている?

 

 アプリを使い、フォロワーの一覧を序盤まで遡って見てみると、同じようなお仲間の人達で溢れている。…それに間違いはない。

 

 そんな中でざっくりながらもスライドをしていくと、目を疑うような人物からフォローを受けていた。

 

 

 

 Obey your masterさんからフォローされています。

 

 

 

 頬をつねってみても痛みがすることから、夢では無かった。偽物かと思ったが紛れもなく本人だった為、確かにこれには驚いた。非常に嬉しい気持ちで一杯ではあったのだが…だからといってここまで影響力を与えるかと言われれば、正直どうなのだろうか。確かに凄いウマ娘ではあるし、彼女の元ネタ含めリスペクトをしている身でもある。これだけでは判断が出来ないでいるので、フォローを返した後、一旦保留してスライドを行なっていく。

 

 しかし1000人目までざっくりと目を通してみたものの、はっきりいってそれらしいものが…ここまで伸びるような物的証拠が見つからない。

 

 『で、何かやらかしたんですか?』

 

 『酷いな君は…まあ疑うのは無理もないけど。そのフォロワーの内2000人くらいは私の影響かもしれない。ただ、それ以外の事については私のせいでは無いと言えるけど。』

 

 『…続けて?』

 

 『いや実はさ、「珍しく親しみを込めて接しているようですが、最近熱心にやり取りをしている人物って何者なのでしょうか?アナタのテンションについていけるってだけで只者ではなさそうなんですけど。」って聞いてきた後輩が居てね?普通に「私の弟子だよ!」ってにこやかに答えたら…情報通の中で広まっちゃった。理由は単純に私のテンションやトークについて来れるのが貴重だから、是が非でも抑止力になって欲しい…だって。ホント好き勝手言ってくれるよね!ねっ弟子!』

 

 『どうしよう、今すぐにでもぶん殴りたい!』

 

 道理で…まさか、探りを入れられていた?いや、よくよく整理してみればこれだけの人だ…伏兵さんの周りには優秀な人達が多いと思う。それよりも今は別の問題だ。

 

 …残りの約58000人はどういう理屈でこの垢をフォローしているんだ?

 

 『一応こっちでも話題になっていたから探してきた。原因は多分これなんじゃ無いかと思うんだけど。』

 

 流石伏兵さん、仕事が早い。早速リンクを押してどれどれ…?と確認してみる。するとそこには…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『伏兵の筋肉の弟子、男説唱えます』

 『例の弟子、特定しますた』

 『突如現れたウマ娘オタクが男wwwwww』

 『男を祀ったら目の前に現れないかな?』

 『普通に考えてなんだけどさ、男がウマ娘に熱狂的になるとかあり得るの?』

 『滅亡していたUMAOが復活とか倫理感壊れるんだが?』

 『夢見すぎなおまいらことドクシンヒトカスを見ていくスレ』

 『師匠×弟子の恋愛ものってあったっけ?』

 『ウマ娘×男はぶっちゃけありか、なしか』

 『地方担当トレーナー、ライセンス取得を目論む者が続出。』

 『人間の女性達終了のお知らせ、完全に地球はウマ娘の支配下へと変わった』

 『普通の人間がウマ娘に勝てるわけないのに、男が愛を一方的にぶん投げるなんてあるわけないだろ…現実を見ようかスレ』

 『今から日本に向けて移住を考えているんだけど良い案ある?』

 『地方所属のウマ娘、ほぼ全員の目が明らかにキマッててヤバいんだけど』

 『そもそも伏兵の筋肉って何者?』

 『伏兵の弟子だけど質問ある?』

 『男でトレセン学園に就職出来たとして、その結末は?』

 『今から本気で中央目指すけど間に合う?』

 『トレセン学園で働いているけど、男なんて1人もいないからな?夢なんて無いからな?』

 『ブログ記事をたった一つ書いただけで盛り上がる、例のあの弟子について』

 『来年度、もし男が地方でも中央でもトレセン学園に入るものなら…府中ってどうなるん?府中事変勃発?』

 『この画像に載っているデータ…普通に研修室とかに届けて欲しい』

 『すみませんお弟子様…URAの者なんですが、ブログを上げるよりも中央に就職しに来てくれませんか?と声をかけたいけれど、障害等級2級とかいう壁があまりにも大き過ぎて胃が痛い』

 『ぶっちゃけ今のトレセンってどう?トレーナーが少なくて地獄ってよく聞くけど』

 『ワイ警備員会社勤務広報担当、休日なのに電話が鳴り止まずトラウマになった責任取れ』

 『防衛省が注意喚起するとかよっぽどだぞ、おまいら早く布団に戻るんだ』

 ・・・・・

 ・・・・

 ・・・

 ・・

 ・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『何…これは。』

 

 『人の噂も七十五日って言葉があるけど、これは収まりがつくのかな?』

 

 『いや、どうしてこうなったし。トレンドも何が何だか…。』

 

 まさか特定された?

 

 いや待て…よく思い出すんだ。確かに俺は今日、手を抜く様な真似は一切していない。対策は万全の状態だった…落ちていた髪の毛は映らないよう全てテープまで使って掃除をし、電気や窓の位置含め間取りがバレないように配慮し、パソコンやカメラのレンズに顔が映らない様、隈なく確認もした…そうした情報は絶対に、徹底的に出さないようにしていた筈だ。どうなっているのか…何故そうなったのかが一切わからないまま、こうも盛り上がっているその理由が聞きたい。

 

 『なんでも障害等級2級持ちって部分と、何故か個人情報を気にしている様な写真ばかり載せていて、特定難易度が高すぎるからこれめちゃくちゃ怪しくね?ってネットの人たちが騒いだのを皮切りに始まったみたいだね。』

 

 『ひょっとしてつまり。』

 

 『期待半分面白半分ってところから止まらなくなったって感じだろうね。で、中央にも噂が入って…今に至るのかな?』

 

 弟子の件はまだ良い…はっきり言って棚ぼただ。ただ予想の範疇など何にもしていなかった女性達に、ここまで追われる立場になるとは想定外だった。しかも対策をし過ぎたせいで、特定厨が動く始末…こればかりは勘弁してもらいたい。興味のない人達から迫られても嬉しいわけでもなく、ただ周りを困らせているだけとは…聞いて呆れる。元凶の俺が言うなって話なのだが。

 

 『弟子の件は全く気にしていないので良いです。それよりも…こんな始まりの日に謝罪文を書かないといけないのか。』

 

 『こればっかりは本当申し訳ない…。正直放っといても良いとは思うけどね。ただ彼女らが勝手に盛り上がっただけだから。私個人としても、大半の人も、君が男って可能性は無いと見ているからかもだけど。』

 

 『それは常識的に考えて…ですよね?』

 

 『そうだね。比率的に見たらね?そりゃ男の子って引き篭もり100%だから障害等級2級以上を持っているってことを考えると、そうした女性の人達とは明らかに数的には多いよ。

 でもさ…人間ってウマ娘には絶対に勝てないし、女の人より人権なんて無いも同然な扱いを、私が生まれるよりも遥か昔から受けていたから、ウマ娘なんて嫌悪の対象も同然だよ。いくら顔が良くてもダメだって言う男性も居るし。

 

 ウマ娘に熱心になれる男なんて、この世界にいるわけないでしょ。

 

 居たとしたらドMを通り越してバカだよ。ましてや君みたいな…私と同じくらいのウマ娘オタクが、男の子なわけナイナイ。大抵はそう言った噂に踊らされて様子を見ようとしている人達、同じようにウマ娘が好きな人や情報通…あとはトレセン学園の関係者に勢力が分けられていると思う。』

 

 そのバカが1名ここに、府中にいます。すみません師匠…謝るのは俺の方なんです。男っていうのは本当なんです。国のお偉いさん含め、本当に申し訳なく思い、この軽い頭を地べたへと下げるのでどうか、どうか数日以内に収束していただけないでしょうか。

 

 『まあ、そうですね。普通に考えたらほぼほぼあり得ませんけど…とりあえず初日なんで流石に書いてきます。休日だというのにこれ以上企業やトレセン学園に迷惑がかかると、大変なことになってしまうので。』

 

 『お詫びと言ってはなんだけど、私のデータをまた載せておくよ。その…ごめんなさい。』

 

 『良いですって、お互い様ってことで…それにこれを言ったらどうかとは思いますが、データを貰えるのめちゃくちゃ有難いので寧ろ嬉しいです。』

 

 日本の経済と引き換えに、こんな取引をしている時間など無いのだが…早急に謝罪文を書き留めて今日は寝よう。

 

 

 

 『あっ伝え忘れていた、弟子よ。一つだけ情報をあげる。』

 

 『なんです?』

 

 『君…ウマッターの方だが、あのシンボリルドルフにフォローされているかもしれない。寝る前に確認に向いたまへ。少なくとも生徒会長様には、フォローを返しといた方がいいかもしれないから。』

 

 『師匠…肝心な情報提供をありがとうございます。今すぐ確認に向かうべく、迅速な対応を心掛けます。』

 

 

 

 うわぁ、ウマスタの方にも女の子がいっぱいだぁ…。

 

 

 

 ウマッターにての謝罪文

 

 『この度はブログにて、誤解を招くような表現をし、数多の人達にご迷惑をおかけした事を心よりお詫び申し上げます。

 不快に思わせてしまった方、大変申し訳ございませんでした。』

 

 ウマスタにての謝罪文

 

 『今日一日お騒がせしましたが、こちらの方でもお詫びを。落ち着きを取り戻すまでは顔を出さない様に致します。改めてよろしくお願いします。』

 

 

 

 予想とは裏腹にこんな形でデビューするなんて、思いもしなかった。

 

 しかし折角の機会だ…こうして世に出してしまったものが、もう消せないところまで来た。今日の出来事を教訓にするようスクショをして、通知を切ろう。

 

 明日になればきっと落ち着くだろう…大半はこの出来事にどうでもいいと思っているような、無関心な人達ばかりだろう…とそう思っていた。

 

 

 

 『朝早くから個チャにて失礼…まずは突然の呼び出しに応じて頂き、誠に感謝します。』

 

 『いえ、その…私にどの様なご用件でしょうか。シンボリルドルフさん。』

 

 

 

 現実は甘くなかった。

 

 

 

 




 


 ようこそ日本ウマ娘トレーニングセンター学園へ




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