あべこべ危険(ウマ娘)   作:2Nok_969633

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 参考元の一つがバレた。
 (日本における性犯罪が行われる場所は、暗数を除けば自宅が半分を占める。)






深呼吸

 

 

 

 目をガン開きして指を動かす。今の俺に不可能という文字はない。初めてのユーザーで初めての相談を受けているという事実、これほどまでに嬉しいことはないだろう。手が止まらない。止まる事を知らない。頭が非常に冴えている事がはっきりとわかる。何もかもが分かる全能感が俺の全身を構成していた。この時、画面と向かい合っている間に繰り広げていたちょっとの間…俺は確かに無敵だったのだ。

 

 しかしその状態がずっと続くわけでもない。気付くのに遅れていたが、喉の渇きを覚えてコップに手を伸ばしたその時、ふと我へと返った。

 

 俺は今…何をしていた?何が起きた?

 

 冷静にログを振り返れば、さながらよくある掲示板に書かれているかのようなマウント的発言と、素人であるというのに長ったらしい文で質疑者に詰めるような言動の仕方を見て…真っ先に思った事がある。

 

 あっこれはあかん…やってもうたわ……と。

 

 そしてこのドッと来た虚無感を含めた今までの自分は、明らかに興奮状態だったのだろう。俗に言う深夜テンションである。

 

 俺は自分に問いかける。別にそんな事がしたかったんじゃないんだろう、と。

 まるで、好きな子に振り向いて貰いたくて一生懸命に俺凄いですよアピールをしたのち、待ってました、と言わんばかりの絶好のタイミングで向けられる冷たい眼差しによって齎される羞恥心。そして訪れる賢者モードの嵐は…久々ということもあって超大型の台風を観測していた。俺の心が大雨洪水警報を超えて、土砂災害警戒情報が発令された絶望感を味わっている。最早、後悔という名の川が限界を迎えて堤防を破壊したかのようだった。懐かしきミホノブルボンの間抜け面と瓜二つ…屈辱を通り越して虚無とも呼べるような感情のない顔がそこにはあった。

 

 俺は悩みを抱えるウマ娘に少しでも寄り添って、やがて訪れるであろうサポーターや解説を願わくばこの世界でしたい…その為に準備をしてきたのだろう、と自問自答をする。

 

 だが、いくらなんでもこれはない。

 俺が困惑顔を披露してどうするんだ、と軽く自分自身に引いていた。

 完全にマウント自慰menである…全く上手くはないし寧ろこの寒さがより冷静さを取り戻しているのだが、この既視感は宛ら絶不調は時として伏兵を発動させるのと同じである。

 しかしこれからこのログ達を消したところで相手は不信感を募らせ、その割合は増していくだろう。だからといって今更訂正することも不可能だ。

 だからといって、砦のように積み上げられた本と周りを囲む資料の山々から得た知識を無駄にするわけにもいかない。

 これでは相手側からの信頼を得ることは出来ない。

 ああでもない、こうでもないと頭を抱えながら悶絶を繰り返す。こうした場では話し手側と受け手側は対等であった方が良い、という考え方を個人的に好いている身であり、それを意識してやっていこうと決めていた矢先でこのザマだ。この世界の人間と何ら変わらない…ただの偏見や傲慢とも呼べる考えで動いている亡者どもに過ぎず、衝動的に駆られて他者を犯す輩にはなりたくはない。

 

 あべこべ世界特有の男達は悲惨な結末や扱いを受ける事が多い。だが、これもある種同じようなものかもしれない…言葉のレイプを犯してはならぬ。解説たるもの冷静に、サポーターたるもの一心同体を掲げていたのに…過ぎたことはもう仕方がない事だと割り切ってもう同じミスはしないように、と意識を切り替えた。

 

 『あの…どうかされましたか?』

 

 そうこうしている内に相手側からのメッセージが届いてもう5分が過ぎようとしている。不味い…非常に不味い。この時に返す最適解が見つからず見つけられず…途方に暮れていた。

 

 それもそうだ。ここ数年、俺は人と話していない。単純明快、シロガネ山にいるレッドのように我、関せずとしてきたのがツケとして回ってきただけだ。踏んだり蹴ったりの不良場である。これ程の痴態を晒してしまったことはもう正直に言うべきなのかもしれない。

 

 『いえ、実はお恥ずかしながら初めてのユーザーということで少しばかり舞い上がってしまいました。先程からの発言を撤回する気はありません…とはいえ、此方が冷静でなかったのは事実です、申し訳ございません。』

 

 急いで謝罪の文章を送信する。部屋にポツンと1人とはいえ、何とも情けない姿を披露してしまうとは…不覚である。ここにグラスワンダーが居れば、彼女に土下座をしながら懇願するのであろう…拙者、此度の不出来さに今し方、情けを…御託とか諸々分からないし余計に恥ずかしいからとりあえず切腹する、と涙を流して頭を地べたへと擦り付けるだろう。精神一到何事不成…何事にも集中して当たれば、どんなむずかしいことでも成し遂げられないことはないのだ。あべこべ世界のグラスでも手伝ってくれるはずだ。

 

 そんな事が頭の中をぐるぐると回っている最中ではあったが、それを遮るように返信が届いたので、俺は恐る恐る覗くようにして確認をするのであった。

 

 『それは、その…私もどういう反応をすれば良いのかわからないです。』

 

 『そうですよね。ごもっともです。失礼致しました。』

 

 気まずい…。画面越しとはいえ、そして俺がやらかしてしまったとはいえ…中々にこそばゆい。こんな会話は初めて、である。だが、ここからが執念を見せる時だ。少しばかり親密度を高めるような話しやすい雰囲気を心がけて接しやすくしなければならない。まずは意識と場を整えよう。

 

 …とはいえ、言う事はほぼほぼ変わらないだろうが、仮に間違えた行動をこの掲示板を見て本人がしてしまったら、そこは指導者が正してくれるだろう。向こうはその道のスペシャリストで、そうした事にはただでさえ敏感だ。未然に防いでくれれば何ら問題は無いし、責任も問われない…ここがトレーナーとの環境の違いである。

 それを可能にしたのがインターネットだ。圧倒的無責任ポジで共感をすることもなく接していけるし、意識を変えるかどうかは本人次第…その程度もその人次第である。それで結果が良くなればそれはそれで良し、レースで勝てば尚良しという狡い手口だ。さらにここで後押しすべき点は、お互いに顔もわからないという事。顔見知り以外の、ましてやどこの誰とも知らぬ相手ともなると、余計な先入観が生まれる事もない。よってセカンドオピニオンが成立しやすくもなるわけだ、という自論である。

 俺は確かにウマ娘を支えたかったが、それは単なる動機付けだ。動機と本音は決して=で結ばれる事は無い。本音を言えばただの自己満足でここまできたのだ。

 

 圧倒的にゴミ屑ゲス野郎である。但しゲスはゲスでもそこに美学が成り立っていなければ意味はない。だからこそ大きなミスは許されない。沢山の人たちを救ってきた医者のように鋭く、手早く、華麗なる手腕を俺は持てなかった。それでも、その原因となっている取っ掛かりくらいは見つけられるはずだ。よって今は千載一遇のチャンスでもある。見逃すわけにはいかない。

 

 『えっと…話を元に戻しますか?』

 

 『いえいえ、お気になさらず。そうですね…話を戻したいところではあるんですけどそういえば気になった事が一つだけありまして。』

 

 『はい、何でしょうか?』

 

 『逃げと差しを両方やってみて、逃げの時に見えたものと差しの時に見えたものの違いってあったりします?』

 

 『逃げと差しの時の…ですか?』

 

 『はい、焦ってしまった私が言うのもなんですが…落ち着いてその時のことを箇条書きでも良いので書いてみてくれませんか?』

 

 ようやく自身が落ち着ける立ち位置を取れた。水を含み息を整える。相手はまだ思春期を迎えたばかりの子供で、兎に角繊細だ。細心の注意を払って一つずつ遂行していこう。

 

 そもそもこういう問題は色々と調べてみると、大体において類似性が存在している。今もこうして悩んでいる子は数多くいるだろうが、それと同じ数だけの悩みを克服してきた子達も多い。その子達が解決策を残してくれているか、もしくは聞いてもらいだけのことも中には含まれるだろう。

 あくまでも俺は困っている事を的確に見つける努力をし、その手助けに合わせてセオリーを組んで回答をするだけだ。これだけで大抵の事柄は解消する事が多い。ただ、今回の場合に限ってはそうではない事を、情報が少なくても大まかに伺えるのは決定的であるのだ。

 兎に角、俺自身が注意するべきなのは…否定をなるべく控える事。そして何よりも…本人の走りたい気持ちを無碍にしないことが大事だろう。彼女の走りをまず認めて、1人でも尊重し敬意を払う事がウマ娘のファンとしての第一歩であり、彼女達にとってもそれは大きな力となる。その記念すべき1人目がトレーナーなのだが…今は置いておくとしよう。

 

 『差しで走った時は、タイミングや囲まれた時の対処などを落ち着いて考えながら走っていました。そして、ここで!というところで踏み込みを入れて前へ出ようとしたのですが…気持ち良くなかったんです。』

 

 気持ち良くなかった…ここを重点的に攻めてみるか。恐らく抑圧された事によって生じている、思い通りに走れない緊張とストレスから解放されたい欲求があるのか?

 

 『気持ち良くなかった?』

 

 『前で走っている時は…誰も前に居ないし、後ろを気にすることもない…誰にも前を譲らずにただ1人突っ走るその快感が全てなんです。』

 

 極度の怖がりというわけではなさそうだ。かといってレースでトラウマがあるわけでも無さそう…となると、囲まれている時に他のウマ娘よりストレスを感じやすいのか?しかも走っている時は無我夢中であればあるほど力を発揮する…スズカやヘリオス系の前で走っている事が純粋に好きなタイプか。ジャンキー気質が濃厚、とメモを取り丁寧に見直しをしつつ進めていく。

 

 『確かにそれは気持ちがいいでしょうね。しかも、誰にも前を譲らないままゴールをするっていうのは中々出来る技じゃないです。』

 

 『ありがとうございます。』

 

 『私も逃げウマみたいに一番に駆け抜けたい衝動があったことがあります。そうでなくても偶に全力で走りたい気持ちになったりとか…私はその時、頭を空っぽにして走ることが多いんですが。』

 

 『わかります。その時に見れる私だけの世界を好きに走って、そして気持ち良く一位を取る…私にとってはそれだけ楽しいことなんです。』

 

 『私もあなたの走りを間近で見てみたいですね、あなたが独り占めしているレースを…その逃げをしている時はどんな走法を意識して?』

 

 『走法…ですか?』

 

 『逃げにも種類があるでしょう?大逃げで後方をバテバテに追い詰めるとか、途中で息を入れて最終コーナーで突き放すとか。同じ速度で逃げ切るとか。後ろのリズムを狂わして逃げ切るとか。』

 

 『うーん。どちらかと言うと全力疾走で気が付いた時には試合が終わっていたような事が多いですね。あまり考えた事は無いです。』

 

 ジャンキー気質確定。但しスズカのように逃げ差し型では無い。まだ逃げが完成していないタイプで恐らくムラがある…と。あと俺と同じで、あまり会話が得意では無いと察知。会話を引き伸ばし疑問に思っている事を自分から発信するまで粘り強く探り出す方向にシフト。長文は大抵読まれないから先の暴走と似たような文章を書いても問題は無い筈だ。言い方を少しだけ弄り、バレたらさりげなく話題を変えるように準備を怠らないよう頭の中で意識しつつコメントを続ける。

 

 『全力疾走すると気持ちがいいですよね。走った時に駆け抜ける汗とか、風を感じながら走っているところとか。』

 

 『はい!目の前がぱっと広がるところとか特に!』

 

 『中々通ですね。そりゃあ…差しの方が色々と疲れたりしません?私も良くあるんですよね。嫌な仕事に囲まれた時とかやってられっか!って投げ出したくなるし、終わり際に追い込んで余計に疲れてしまったりする事がありまして。好きな事をやっている時とかは大丈夫なんですけど。』

 

 『そうなんです。正直言いにくいのですが、前に比べて走る事自体に疲れも感じてしまうようになり、さらにそこで囲まれたりすると余計に色々と考えてしまって…別に指導やトレーニング方法が悪いと思ったことはないんです。トレーナーさんも真剣に考えて見てくれていたので…。』

 

 『それは私としても心配になりますね。』

 

 『前に比べてトモとか身体の調子は多分…成長していたんだと思います。ただ、レースで負けたからといってこんな事を味わうのは私としても初めてだったので…困惑してしまったんです。』

 

 『その事をトレーナーさんには話しましたか?』

 

 『いえ…話そうとしても、情けない話ですが顔を合わせ難くて…。』

 

 『なら、その事を話してみては?その時の気持ちとかを素直に。』

 

 『話してもいいのでしょうか?』

 

 『スカウトをしに来たのであれば尚更ですよ。あなたの走りに惚れた記念すべき1人目なんですから。しかし、走り方を変えた理由が足の負担を減らす為…ですか。』

 

 『私もそこが気になっていまして…これに関しての質問はよろしいでしょうか?』

 

 『はい、大丈夫です。』

 

 『私の逃げに何か致命的なものが存在するのか、またはそれと並行してウマ娘の本能的なものが重なった事により最悪の結果が発現してしまう考えが少なくともあって、それを防ぐ為に敢えて差しに変更した…という可能性はありますか?』

 

 『はいかいいえ、の二択で判断するのであれば答えは紛れもなく はい ですね。』

 

 『そうですか…。』

 

 『思い当たる節があるのでしょうか?』

 

 『実は私が模擬レースをした数日後に並走トレーニングをした事がありまして…無意識に全力で走ってしまったことがあったんです。その時にトレーナーさんが血相を変えたように心配してきて、足に違和感は無いか?痛みはないか?などを入念に聞かれました。何も問題は無かったのですが、その日はトレーニングを中止し、自主練も行わないように言われました。』

 

 

 

 

 

 

 あれから数時間が経ち満身創痍のまま、布団に勢い良くダイブした。束の間の一時の中…俺は腹に力を込め盛大に叫んだ。

 

 やってしまった、と嘆きに嘆いた大声が部屋中に響いたが、喉を痛めただけで何の成果もあげられていないこの現実に少しばかり恨みを覚えた。

 だが、俺にも出来たのだ。この一歩は小さいが…俺にとっては偉大な一歩なのだと、そう感じていた。

 色々あったが…最初の段階としては良い方だと捉えよう。失敗こそ多々あったが、いずれこの経験が役に立つ時が…来る可能性はまず無いだろうが、一先ず良い朝を迎えられた事に感謝を込めて再び叫んだ。やはり叫ばずにはいられなかった。悔しくて仕方がなかった。実践すればするほど難易度の高さを実感してしまう。涙が出ない叫びなど…某胸糞映画でしか味わっていなかったというのに。

 

 自身の愚かさに情けない気持ちとは裏腹に、隣の部屋で物音が聞こえた気がして…ちょっとだけ嬉しかったのはここだけの話である。ここしばらくは1人寂しく作業の毎日だった為だ。あべこべ世界よ…こんな危なっかしい男を外に出歩かなくて良い世界にしてくれた事、深く深く感謝をしよう。

 

 トレセン学園から遠くないところに居るのにまだ誰にも知られていないのは、運が良いことなのだろうか。俺も正直この生活に慣れてしまったためか、それとも諦めか。意欲は少しばかり下がっている。彼女達と会う事は疎(おろ)か、生のウマ娘をこの目で見ることも、掲示板に現れるウマ娘も…現れる事は無いだろうと潔く腹を括り布団の中へと入る。

 ともあれ過ぎたことは変えられない。ああ…と悶えながらではあるが、トレセン学園での生活とは一体どんなものなのだろうか想像に耽る。そうしてあの大歓声を思い浮かべながら彼女達のレース人生に幸あれ、と願い眠りについた。

 

 

 

 




 


 Q.ウマ娘を楽しんでいるユーザーの1人です。推しが中々登場しない事もあり、時折ガチャの衝動に駆られて引いてしまう時があります。私はどうしたらいいのでしょうか?

 A.まさかとは思いますが…あなたは推しウマを当てる為に貯めたジュエルを、難なく手放してしまう人なのでしょうか?
 今すぐジュエルを貯めてください。足りなければ課金をしてください。



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