あべこべ危険(ウマ娘)   作:2Nok_969633

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 ウマ娘が恐れるトレーナーは、頭のネジがぶっ飛んでいるヤツだ。






脱出術

 

 

 

 「それは、どれだけその子が丈夫だったとしても故障が多いから…ですか?」

 

 「……その通り。あなたの脚は脆い…まだあなたの全力には応えられない。」

 

 私とあの人の予想通りの回答が返ってきた。ただ、私は知っている。この人の実力とそれまでの行動から…意味のある事に関しては妥協も無駄も無いということを。私が問いかければトレーナーさんは確実に答えてくれる、とあの人は述べていた。私も…私のトレーナーさんを信じよう。

 

 「具体的に耐えれるようになるまでどのくらいの期間を用いますか?」

 

 「…何もしなければ早くて三年後。それで30秒保つかってところだね。」

 

 私たちの見解は合っていた。そこまで予測が出来ているのであれば…、

 

 

 

 『やはり差しに変えさせた根本の理由はそこですか…。』

 

 『私も薄々何かある、と予想はしていたんですが…具体的に何が原因か、を…あなた個人の見解で判断してもらいたいのです。第三者であるあなたの視点で、是非。』

 

 『では、長文にて失礼。

 人間の走りとウマ娘の走りは似ているようでいて全く異なります。人間では決して出す事が不可能な走りにも耐えうる身体を持っているとはいえ、それでも限界が来るのは人よりも早い…いえ、厳密に表すのであれば、成熟し本来の100%の力を出す前に壊れてしまう事が多すぎるためです。

 戦術や適正距離、フォームがその人に最適なものだったとしても、確率的に起こってしまうものでもあります。故にこれが正しい、といったものが戦術であれフォームであれ…存在しない競技なのです。

 あなたのトレーナーは…言い難いですがそうした残酷な場面を沢山見てきたかと思います。そして逃げというのは、逃げウマにとってもそれ相応のリスクが伴うでしょう。

 元々心肺機能やトモ、それらを支える骨など全ての要素が特別丈夫であれば…自由に走らせていたかと思います。それこそ、好きに走ること…好きに走らせるという事はウマ娘にとって、そしてトレーナーにとっても大事な事であり、重要視されるべきだと私個人としてもそう思っていますし、実際には好きに走らせる方がスタミナも減りにくいです。精神的にも肉体的にも互いに楽なんですが、そこに体が追いつかなければ…選手生命を終えてしまう、なんてこともあるでしょうから。

 恐らくあなたの場合は本質的に逃げの方がノルのに…敢えて逃げをさせず、さらに悩んでいる子に手を差し伸ばさないともなると、考えられる事として…あなたの全力はあなたが丈夫であったとしても、あなたの足が壊れてしまう可能性が高く、それをわかって足に負荷をかけないように差しに変更したのかな、と予想しました。

 先程書かれてもいましたが…負担を軽くしたほうが良い、と直接言われているのなら尚更かな?本人に直接、全ての理由を話そうってなると…私も流石に答えられないかもしれません。ただ、あなたの担当者がベテランであれば、打開策の一つや二つは考えている筈です。よってあなた自身がそこを深掘りする必要があります。』

 

 

 

 「まだ全力は耐えられない…そして何もしなければってことは対策さえすれば、私でも逃げで走れるってことですよね?」

 

 「…うん。全力を出せる時間は…平均して大体45.7秒…上手くいけば最大1分2秒ちょっとだけ、と限られるだろうけど…今からあと一年、時間があればいけるところまではいけるよ。」

 

 

 

 その対策を施せば、逃げでも走れる可能性は高いと言う事だ。ならば答えは簡単だ。私が得る快感に対して、少しだけ手を抜くことを覚えれば良い。先頭で走る事だけ曲げなければ…それで良い。

 

 「なら私は、私の足が脆かったとしても…それでも走りたい。トレーナーさん…なんとかしてください。」

 

 彼女にはそれが出来る。何故なら彼女もまた、天才なのだ。

 

 

 

 『良いんでしょうか?私から話して。喧嘩とかなりません?』

 

 『あなた達が葛藤し合ってしまった結果がこれですから、失うものはもう何もありません。それに、トレーナーというものはウマ娘を支えるものとして仕事をしています。あなたはもっと甘えても良いんですよ。喧嘩がなんぼのもんじゃい!ってぶつかっていいんです。それで気に食わなかったら、担当を変えれば良いだけです。何よりウマ娘は走らなければ健康を保てない所謂諸刃の剣でもありますから、そんな事は重々承知の上で計画を立てていると思いますし、答えますよ。後はきっかけさえあればどうにでもなります。』

 

 『担当は…変えたく無いですけどわかりました。朝一番に行ってみます。』

 

 

 

 「わかった。」

 

 空気が…変わった。

 

 「…っ。」

 

 「確かにあなたは最高の脚と、それに見合うだけの能力がある。それを引き出す方法を私は確かに持っているし…出来るっていう自信もある。でも…辛いよ?長く険しい道のりって言葉があるけどまさにそれ。あなたは…それでもやり遂げるって言える?」

 

 冗談じゃない。人間が出していいものではない殺気にも似た感覚が肌をピリピリと、電流が流れたかのように伝っている。こんなトレーナーさんは初めてみる。それでも呑まれてはいけない。私はひよっこでも中央の舞台にいるのだ。

 

 「…私はトレーナーさんを信じます。トレーナーさんも私を信じてください。」

 

 

 

 『余談ですが…上から目線で言っていたりと申し訳なさで一杯ではありますが、ただこれだけは伝えておきたいです。私も、あなたたちの折り合いが上手くいくことを願っています。折角ここまで共に歩んできた仲間にヒビが生じたままのストーリーなんて…胸糞展開にも程がありますからね。応援しています。頑張ってください。』

 

 『はい!ありがとうございます!』

 

 

 

 あの人からは、競バの辛さも楽しさも全てを理解した上で…たったの数時間越しだけでもわかるほどに、文面からでも伝わる『夢』を持っているように感じた。顔も名前も知らない相手だけど、それでも…トレーナーさんのように不器用でも、真摯に向き合ってくれた。その事が何よりも嬉しかった。

 

 「そっか…なんか、見ないうちに急に変わったね。なら、本気で答えなくちゃいけない…ここまで悩ませてしまったのも私の罪…だし。それが私の役目。…最終警告。今から君に取って最も過酷な練習内容を告げる。嫌なら担当を変えるなりして…好きに走れば良い。あなたなら良いところまでは…いけると思う。」

 

 「いえ、変える気はありません。」

 

 トレーナーさんも私に夢を持っている。その気持ちは大切にしなければいけない…ここまで私を理解しているなら、私もあなたに踏み込もう。

 

 「…そっ。ならこれを渡す。私が出来る最善の手を打つために…あなたにはこのノートに書いてある事をしてもらう。ここ数ヶ月の内に集めたデータとそれを元に考案した、あなたの身体に合わせた修行とも呼べる代物だよ。あなたのフォーム、癖、タイム、体重の記録から…予測出来るだけのあなたの筋肉のつき方も載ってる。償いにはならないけど、大切にしてくれると…嬉しいな。」

 

 「…嘘でしょ。こんなに沢山?」

 

 前言撤回。この人、私に夢を持ちすぎている。あの資料の山…医学関係から料理に至るまで全部私向けの可能性がある。でなければ高さ30センチもの厚みで構成されたもうノートとは呼べない何か、を満面の笑みを浮かべて渡すはずがない。

 

 「とりあえずこの10ページ目からお願い。私はその間、あなた自身も満足できるような、最高傑作とも呼べるあらゆる対策まで練りに練ったトレーニングメニューと計画表を作る。本当はあなたに手渡しておきたい資料が、もう三冊分あるんだけど…あなたみたいな良い選手を育てるからにはまだまだ足りないからね…やばっ楽しくなってきた……ふふっ、頑張ろ。」

 

 狂気じみた不気味な笑みを浮かべている。トレーナーさんってやっぱり変わった人が多いのだろうか?これ以上何を頑張るのだろうか…私に走りすぎだ、と言っていたあなたが1番走りすぎだ、と口を大にして言いたい。人の振り見て我が振り直せって聞いたことがあるけど…これを指すの?私って側から見たらトレーナーさんと同類として見られていたんじゃない?あの人から注意されていたってことは…トレーナーさんから見てもあんな感じに見えているの?

 

 「あの…張り切っているところ言い難いんですけど肩の力を抜いてくれませんか?それに…もう少しあなたのことを知りたいんです。話したいことも山ほどありますし。それにまたあなたの目で、私の走りを見てもらいたいんです。」

 

 何かを察したのか、意表を突かれたように見えるその表情は参ったな、と言わんばかりの顔をしていた。

 

 「…私、自分で言うのもあれだけどつまらない人間だよ?それに才能もないし天才じゃない。それでも良いの?」

 

 「なら、似たもの同士ってことで。」

 

 いや、今までの人生の中でこんな人に…ましてや天才に出会った事はない。私にも才能があって天才であれば、どんな走り方をしても必ず上位に君臨するだろうし、何より故障なんてリスクを背負っている事もなかった。その歪さが嬉しいような悲しいような気持ちと同時に、これ以上無いコンビなのかもしれない…なんてそう思いながら、気が付けば私も自然と口角が上がっていた。

 

 「じゃあ…改めてよろしくね…スズカ。あとそれ見たら今日はもう休んでね。寝てないでしょ。」

 

 「嘘でしょ⁈バレてるなんて、うぅ…はい、トレーナーさん。では…拝見しますね。」

 

 「う、うん。どうぞどうぞ。」

 

 観察眼の良さと突然の名前呼びに驚きを隠せなかったが、早速ペラっとノートをめくり目を通した。その後少しだけ一悶着があったが…。初めてトレーナーさんの自然な笑顔を見れたような気がする。その表情は何処か穏やかで、それでいて優しかった。

 

 まだ走り方も知らない私が…夜更かしをしてしまったその日。私に初めて…トレーナーさんが付いた。

 

 

 

 あれから5日は経った。掲示板は蛻の殻…閑古鳥が鳴いている。完全に失敗だ。もうサイトを閉鎖しようか迷い中である。毎日同じ部屋で過ごす変わり映えのしない日は、精神的にも悪影響でしかない。以前にもましてメンタルが不安定になってしまったようだ…しかし、男1人で外に出歩くのは危険すぎる。どうしたものか…。

 

 『あの、とりあえずトレーナーさんとは話をつけました。』

 

 まさかのあの子が来てくれた。忘れもしない1人目のユーザー…なんて言葉を送れば良いのか、戸惑ってしまう。感謝の言葉もないほど、あの日と同じく画面に釘付けになりながら返信を返した。

 

 『どうでした?』

 

 『ペース配分や条件をお互いに決めて、これを守れるなら逃げをしても良いと言われました。以下、その条件です。

 ・脚に負担をかける練習は一週間に一回の頻度で3時間、何れも木曜か金曜に行う。そして夜の自主練は、1日1時間を超えるのは禁止とする。

 ・基本7割程度に抑え全力を許可なく出さない。一年後に行われるGⅠの皐月賞に向けて徐々に身体を慣らして行く方向へ。皐月賞出走時に2400mを適正目標とする。

 ・全力疾走する時はその日の体調や対戦相手によって何秒までかを決める。

 ・スタミナや身体の負担を減らす為に水泳による増強トレーニングをしつつ、過去の逃げウマを元に参考にするための研究を、より重点的に行う。

 ・土曜日は絶対に休むこと。(日曜日は走行トレーニング以外2〜3時間のみ、登山トレーニングの場合は6時間のみ。)

 ・睡眠の質を上げ食事を欠かさず行い、規則正しい生活を送ること。

 

 これが個人的に渡された内容の一部で、トレーナーさんも張り切っているおかげで他にも色々あるんですけど…一先ずはこれをデビュー戦が始まる3ヶ月前まで行う予定です。』

 

 成る程…これ俺必要なくね?担当トレーナーとは完全に和解したってことが丸わかりなんだけど…それに目標を加味しても、登山トレーニングは心肺機能を高める上で行う人はいるだろうし…まだこの子は中等部だった筈だ。規則正しい生活習慣など疎かにしてしまう傾向もあるだろう。アプリで登場していたダイワスカーレットやキタサンブラックのような強靭な身体を持つわけでも無く、セイウンスカイのような作戦を練る策士タイプでも無い。そう考えれば担当者の手腕が伺える。どれだけ今ここで、抑圧に耐え切れるか…そして少し休ませながら身体をじっくりと完成形に近づけさえ、徐々に馴染ませた身体を作りただの『逃げ』をして勝つ、と見た。相当将来に見込みが無ければここまで縛りをする理由がない…勝負を仕掛けてくるのは丁度一年後と見て、まず間違いないだろう。

 

 そういえば今年度のデビュー戦の結果はどうだったのだろうか?有力なウマ娘がいれば良いのだが、個人的にはどうしても気になる事がある。実装されていたウマ娘が走っているのか、否かだ。ブログにてやってみたいレース予想を如何に掘り下げるか… そして時系列の整理や世界線を把握する上では欠かせない部分でもある…蔑ろには出来ないだろう。とはいえ、まずは目の前の事に集中して取り掛かるとしようか。…うん、やっぱり俺いらない子だ。

 

 『うわぁ…でも、逃げで走れるだけまだマシなのかな?デビューしてから当面の目標とかは、どのような感じでしょうか?2400mといえばダービーですが。』

 

 『はい…今はこれだけで十分です。特に問題がなければデビュー戦からホープフルステークス、弥生賞、皐月賞、ダービーですね。』

 

 『この半年間はじっくりと身体作りに専念、といった方針でしょう…無理しないように。』

 

 本当に誰なんだ?逃げでここまで高い目標を立てるなんて、まるでブルボンの模倣だ。こんな度胸のあるウマ娘が中等部に居るとでもいうのか?…いやこの場合、トレーナーが戸山さんなのか?ローテとしては順当だろうが…こりゃ相当な大物を作る気だろう。…にしてもだ。事前に生徒全員の情報を調べているとはいえ、今の段階でそのような目立つ子が学園内に果たして居たか、と問われると答えはNoだ。流石に出走していない子はデータが乏しいが故に、入学時のレースの記録が手に入るわけでもない。仮に見ていたとしても絞り出すのはそう容易く行えるものでも無い。実物を見てからでないとやはり難しいことが挙げられるが、それを抜きにしても…普通に考えてここまで高いレベルを設定するか?このローテで行かせるとしても、朝日杯FSの方がまだ様子見する余地も余裕もあるというのに…同期に強いマイラーが居るのだろうか?

 

 そもそもこのトレセン学園に所属している子達は、アプリの世界を忠実にしているのかどうなのか…怪しいところではある。だからといって、このローテを目標とする子は存在していない。可能性としてブルボンの他にマルゼンが居るが…彼女も確かホープフルステークスと弥生賞ではなく、朝日杯FSとスプリングステークスに出走するだろう。加えて中等部ではない…第一、ネットには疎そうだ。

 現状、一番近い子としてジャンキーで有名なスズカが挙げられる。だが、アニメでも史実でも成熟したのはバレンタインステークスからだった事、そして今の時点ではまだ暴走特急をかましているだろうことから、自分の走りに悩む可能性も低い。しかもスズカに対して…走りを今以上に抑えるなんてこんな事をすれば、コンディションは悪化するだけだろう。

 仮にアプリの世界線であれば、アプリ版のベテラントレーナーはしっかりと向き合おうとしており、尚且つストーリーでのいざこざは、デビュー戦が行われる少し前の出来事である。加えて差しではなく先行で走り、ズルズルと囲まれて最後の直線でスタミナ切れを起こした可能性もあることから判断も出来ない。あと心情的に…担当ウマ娘を長い期間放置していたというのは考えたくはないものだ。何より弥生賞以外、アプリレース目標から見ても一致しない。となると…有名馬をモチーフにしたモブウマ娘が居るとでもいいたいのか、この世界は。

 

 サニーブライアン?そもそも逃げで悩む子ではない。テスコガビーか?いや彼女がいるとしたら桜花賞は譲れないだろう。他の子を怖がる筈であろうカブラヤオーも無いな。プリティキャスト…?いやいや流石にそれは無い…大逃げタイプで気性も荒い子が、わざわざこんなところに来るだろうか…となれば、ミスターシービーと戦うであろうカツラギエース…ダメだ、わからん。この世界での彼女達の基準がわからない。

 

 しかしだ。いくら脳のない頭で捻り出そうとしても、流石に限界は来てしまう…今のところはレベルが高いモブウマ娘の確率が高い、と見た方が気も楽になるだろう。何よりも、もしこの子が原作勢の誰か1人だとしたら…胸が押しつぶされそうになる。初っ端からラスボスは誰だって望んでいないものだ。

 

 『はい。…ところでその件について、唐突なんですけどお願いしてもいいですか?』

 

 思考している最中、その子からの返信に少しばかり身構える。唐突にお願いをするなんて中々なものだ。まだやり取りをして数時間だというのに何故?男だとはバレていないだろうし、この掲示板で出来ることなんてそれこそ無いに等しいというのに、特級呪物でも取りに行かせられるのか?まだ顔も何も知らない相手だぞ?どうしてそこまで踏み込めるのか疑問である。一体何を考えているのやら…聞くだけ聞いてみるとしようか。

 

 『お願い?まあ私に出来る事なら。』

 

 『私が約束を守れるよう見張っていて欲しいんです。トレーナーさんが居ない時の会話相手になってほしいというか、上手くは言えないのですが…すみません。目と指、頭とかじゃないんですけど…私だけだと勝手に動いてしまいそうで。』

 

 『良いですよ。引き受けましょう。』

 

 ここまで平気で領域内に入ってくるとは妙だ。仮にもウマ娘である彼女達が何故?ああ、そうか…失念していた。向こう側の価値観があべこべ世界の基準として成立しているから、人との壁が前世と違って薄めなのか。にしては緩みすぎな気もするが。

 

 だが…ふむ、よくよく考えてみればお互いに都合も良いと見た。俺としては、現在制作しているアプリを普及させたい狙いもある…上手くいけば自ずと掲示板に出入りする子が増えるかもしれない。ここまで育成が難しい子となれば恐らく、ベテラントレーナーは書類作業という名の地獄、そしてレースに向けての対策を含めて日夜奮闘するのだろう。お安い御用だ…勝手ながら見守るとしようか。それにトレセン学園の生徒の話を部外者が聞く機会なんて到底あり得ないだろう事に加え、やがては…他の生徒の練習内容を盗める機会もあるかもしれない。こればっかりは運が絡んでくるだろうが、この時点で俺は運が良いと見るし、何より貴重とも言えよう。ただ…やはりなぁ…、

 

 『本当ですか?ありがとうございます!では、早速練習メニューと走法についてなんですけど、やはり逃げで戦うともなれば、序盤で他の人がどう動くかによって変わってきますよね…研究を重点的に、とトレーナーさんからも言われてはいるのですが、レパートリーを増やすためにビデオ研究とかで知識を培うとかどうでしょうか?』

 

 『良いですね。さらに言えば、基本的にレース運びに関しては前が有利なことの方が多いので、参考にする価値は大いにあると思います。レースの後半にどれだけの余力が必要なのか、細かく慎重にチェックしつつ検討していきましょうか。そこから実際に、夜の自主練の時やトレーナーさんの目が届いているところで走ってみると、また違う視点が生まれるかもしれませんね。』

 

 あべこべが働いているとはいえ、あんな発言をしている俺に…たったの数日で必要性も皆無になった相手にここまで関わろうとするとは…まさかとは思うがこの子、見守ってくれるような友達が居ないぼっちではなかろうか?デビュー戦も一年後に控えているならば…交流関係に頼っても良いと思うんだが。

 

 勝手に憶測を立て相手を推測したばかりに俺は、相手のことが益々わからなくなり頭を抱えるようになっていた。

 

 

 

 




 


 トレーナーが恐れるウマ娘は、頭のネジがぶっ飛んでいるヤツだ。




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