中山の1600mは難しいわ。
あと昔の新馬戦を含めた全レースを観れるのが、個人的に好きになったナリタトップロードとか、若駒でヤバい末脚を見せたディープインパクトっていった2000年代に入った辺りなのよ…辛うじて世代的にマックイーンとブルボン他、ルドルフ含めた有名な馬くらいしか無い。
ってわけでオリジナル展開になるけど許して。ノーザンテースト、アスワン、アルダンからフォロロマーノって入れたけどセントライトGⅡで逃げだったし。競馬や馬が好きな方々へこの場でお詫びと謝罪の言葉を。
力不足で申し訳ない…素人である俺には無理だった。
平然と戸惑いも躊躇も無く資料部屋へと案内をし、椅子に座らせる。
「ちょっとそこで待ってて」
そういえば、こうして自らが率先して好きな話をする機会は…何年ぶりだろうか。そう思うと込み上げてくるものがある。感情…というより本能に近いものなのだろうか。部屋にずっと引きこもっていた代償なのだろうか。
やはり人間という生物たるもの、どんなに屁理屈を捏ねようと他者とは話したがるのだろう。ウマ娘が走りたいというように、アーティストが創作活動を続けたいと思うように、人間は…上に立ちたいとか、マウントとかに当たるのだろうか?俺の場合は久しぶりに好きなことを話せるその高揚感が大きいのかもしれない。
「ずっと気になっていたんだけどその奥にあるのって…何?」
「何って…だから資料」
「まさかさぁ…まさかとは思うけどさ。全部ウマ娘とかのデータだ、なんて言わないよね?」
「ははは。やぁボブ、今日はどんな動画を紹介するんだい?」
「なんか変な番組始まってるんだけど⁈」
「いいからいいから、流れるままに〜。っと…そうだ。アイネスとマックイーンのノートノート、ノートは何処へやったやら…ああ、これだ」
「ね、ねえ、答えてくれないかな?それって全部ウマ娘の資料なの?そのノートには何が書かれているの?」
「んーそれもあるけど、今手元にあるこれはどちらかと言うと試合の記録から、予測出来る範囲に限ってだけど…シミュレーションって表現が正しいのかな?この先この子がどういう風にトレーニングしていったらこうなりますよ、って仮定を基準に推察したデータ…まあ趣味の延長だけどね」
「…いや、だからってこの量が全部それって頭おかしいと思うんだけど」
「残念、これでも圧倒的に足りないんだ」
「これで⁈…最初の方に聞いておけば良かった。てっきりもっと別の勉強をしてるものだと思っていたのに」
「生で見られない分あらゆる将来を見ようとするってのが魅力的だし楽しいんだけど、何せ人数が多いからね。そしてこれが、アイネスフウジンとメジロマックイーンの収集したデータさ…あとは動画を準備してっと」
「なんか…気になってしょうがないの…」
「気になる…気になる、と仰いましたか?」
「へ?ちょっ、ちょっと⁈ち、近っ!」
「いいからいいから。よし、見よう、すぐ見よう。時は待ってくれないぞ!」
「とりあえず近すぎるのは良くないの!わ、わかったから…一緒に動画を見るから!」
「待ってましたその言葉!ではでは、こちらになります」
その反応が嬉しくて振り向きながらニッと笑みが溢れて仕方がない。ここに来てから競バの話は無かったからか、ついついテンションが上がってしまう。オタクの血は時にサンデーサイレンス並に熱くなるというものだ。それでも止まる事はない。
「このレースにそういえばメジロマックイーンも出てたんだよね。まあ彼女も強くなるだろうからあれだけど…これがデビュー戦の記録だね」
何故かアイネスフウジンと同じ1600mに出るという…マックイーン陣営が何を考えてここに出したのかは不明ではあるが、元々ダート1700mに出走していた経歴を前世で見ているからか不思議には思っていない。しかし、スタミナ勝負が売りのマックイーンを何故ここに当てたのだろうか?見返す度に気にしてしまうのだが…今は置いておこう。頭によぎっていた余計な考えを消し、パソコンからファイルを開く。
『中山芝1600m。天候にも恵まれずかなり水を含み、重バ場となりました。本日の天気は生憎の雨。気温は26℃。デビュー戦という大切な場にて本領を発揮出来るかどうか、期待の眼差しが向けられている事でしょう。1番人気に推されましたメジロマックイーン6枠6番から出走、3枠3番2番人気アイネスフウジン、7枠8番3番人気にフォロロアとなっています。』
「ちょっと待って、これまさか…」
「ん?ああ、この声?映像を入手した後、編集したり声を入れたりして確認するのよ…自分なりに実況したくてね。まだ練習中だし今回の場合は、どちらかというと観察したものとか、レース場の特徴をまとめている感じだけど…そんなことより始めよう」
「なんか頭が痛くなってきた…」
「そんなに物珍しい?」
「んー……男性でも好きな人はいるだろうけど、ここまで熱中する人は女性を入れてもまず居ないんじゃないかな…。あくまで主観…というか周りを観察してみて、だけど」
【もしかして:UMAOいない説濃厚】というのが頭に浮かんでしまう。いや、この際男性側に競バ好きが居なくても良い。それよりツッコミたいところが過った。少しばかり待て、と。
おい、この世界の女性達よ。そんなバカげたことがあるか、と言いたい。前世に当たる男の立場にあるんだよな?1番人気は誰だろう、とかパドックの様子とか熱心に見てるんだよな?動画サイトでも普通に盛り上がってるじゃないか。年齢層を統計で見てもほぼほぼ女性で占めていたじゃないか。
いくらなんでもあべこべだがおかしいぞ…1:5の比率を抜きにして考えても、女性でもこうしたマニアはいると考えてはいたのだが…思っていた反応が想像と違う。
「…引いてる?」
「…」
「沈黙は肯定ってことね、わかった」
「いや、その…ね?ちょっとびっくりしちゃっただけだから、じゃあ見よっか」
『本日注目すべきはやはりというべきか、アイネスフウジンとメジロマックイーン、そしてフォロロアになるかと思います。メジロマックイーンの方は調子がいまいち、と見れますが果たして1600mをどのように運んでいくのか…そして選抜レースにて大外から撫で切ったフォロロア、今日は生憎の雨模様ですが切れ味のある末脚を中山でうまく出せるか…その末脚を展開させずに逃げ切れるのか、アイネスフウジンの走りにも注目していきたいところです。さあ、各ウマ娘10人がゲート入りし…態勢が完了しました。』
まだ動画としての完成度が低い…それでも継続は力なり、という言葉があるように続けることが大事なのだ。並み居る強豪らのレースは、人型となった事で実際の競馬を超えてより高度なやり取りが行われるようになっている。俺にはそれを見分け、正確に読み取れるような目をまだ持っていない。だが…選抜ならまだどうにかなる。
『今、スタートが切られました。やはり行った行きました先頭を行くアイネスフウジン。スタートダッシュはかなりの出来です。アイネスが先行争いの先手を取ってぐんぐんぐんぐん進んで行きます。
と…ここから2番手にはケーシーアーツ、メジロマックイーンは内をついて3番手から様子を見ていくようです。その後ろにシルバースターが付きました。そこから半バ身差固まるようにワンハンドレッド、フォロロア、ジェットグレイスが居ます。後方から2番目ドラゴンナイトとクロスエンジンが、最後方にブルーアマゾネスと続いています。各バこのように展開されました。』
彼女も集中しているように映像に見入っている。先程の様子から見て、恐らくはその物珍しさからくるものだろう。少しばかり残念であるが仕方がない。
『第2コーナーを過ぎ、坂を下って向こう正面。アイネスフウジンを先頭に、メジロマックイーンが下り坂を利用して加速した少し外、3番手ケーシーアーツも負けじと追っている先頭集団を背にシルバースターはこの位置、その後ろ…やや遅れてフォロロアが前3人を追う形、ワンハンドレッド真ん中ジェットグレイス、外からクロスエンジン。後方離れてドラゴンナイト、ブルーアマゾネスはどう動いていく?中山の直線は短いぞ!
第3、第4コーナー中間カーブへと向かいます。アイネス未だ先頭のまま、9人を引き連れて4コーナーを駆け抜けていく。高低差2.4mの急坂へとこれから向かうわけだが、このまま前方での争いが繰り広げられるのか?400標識を通過した。ここでなんと不気味に、不気味にフォロロアが加速した加速した!先頭までとの差が4バ身から3バ身と縮まっていく!アイネスフウジン逃げ切るか?メジロマックイーンは伸びが苦しい。4番手へと下がったシルバースターは前との差が詰まってこないのかマックイーンには届かない!ケーシーアーツも懸命に走る!
さあ、200を通過!坂を登る!
アイネスフウジン逃げる逃げる!しかしフォロロアを振り切れない!前に出た前へと出たフォロロア!もう言葉はいらないか、フォロロアが1着となった!フォロロアが今、ゴールインッ‼︎2着にアイネスフウジン、3着僅かにメジロマックイーンです‼︎掲示板にも出ました。着順、上からフォロロア、アイネスフウジン、メジロマックイーン、シルバースター、ジェットグレイスとなっています。』
動画が終わったと同時に、直様アイネスフウジンについて載っているお手製の分析した結果を、ドンっと勢い良く見せつけるのだ。初めて他者に見せる俺だけの秘密を、ここで今披露する。
「んで、このレースと選抜レース他、集められるだけの情報から読み取れるだけ読み取った予測データが…このページだね。次のページからは予想になってる」
ペラペラとめくる音、そこに書かれた綺麗とは呼べない文字が殴り書きと共に現れた。若干の羞恥心を見せないように、なるべく無心でページを開いたところにあったのは、誰の目にも映ることが無かった何の意味もない情報だけ。特別なものでも何でもないこの世界に来て初めてハマった俺の全力が、そこにはあった。
「本当に君…年下?」
「それ今関係ない…んでここよ、ここ。あー…そうだな。選抜レースの動画も折角だから流そう。比較して見るか」
この一連の動きを見ていたからだろうか、彼女はふぅっと一息入れてから、アイネスフウジンの項目に目を移す。果たしてどう見る?
アイネスフウジン
選抜レースの時との変化及び懸念点について
選抜レース時、そこまでスタートダッシュに対して特別力を入れていなかったのか、やや出遅れた後先行よりの逃げをしていた。しかしこのレースでは、最初のスタートの時点でマイル並のスピードで駆け上がると見せてすぐ目の前に立ちはだかる第二コーナーの坂を利用し、若干バレないようにしつつスピードを落として丁寧に回ってる。おかげで無駄な力を使う事なく最小限の力で先頭を維持した事で、結果的に逃げとして最高のポジションが取れた。もうこの時点で下手な戦法をしない限り勝つことは目に見えている。が、重バ場からか最後の坂を登ったところでスタミナが予想以上に喰われた模様。末脚が思うように伸びなかった為、差し切られた。最後の二の足を使うタイミングは頃合い、位置的に最高の位置でドンピシャに決めていた為惜しい。身体に無理のない走りは個人的に好感度高め。
武器は先行よりの逃げ、平均的な逃げ、ハイペースな逃げを同時に扱うことで、緩急の良さを使った擬似三刀流。そしてそれらを支える頭やスタミナと最後の精神的粘り強さは一級品。
同期にいるメジロライアンの末脚がある為、彼女と当たる時はハイペースよりの逃げが多くなる傾向が予想される。スローペースは上半身から判断するに少し苦手な様子。2番手以降の動きを良く見て脚を出来るだけ使わせるように画策させるだけで、楽に勝てる逃げウマ娘の1人。そしてその観察力から先行も出来る強さがある。…非常に強くなると見た。
向こう正面での脚の溜め具合について
雨、重バ場といったレースでは過酷とも呼べる環境下において、冷静にかつ自然と芝が整っている場を選んで走っているその機転の良さ、及び観察眼はこの中でも一際群を抜いていると見て間違いはない。坂をうまく使ったやり口はメジロマックイーンも使っていたが、上り坂においてはこちらが上。但し、バ場が重ではその良さが十分に出ない。
スタミナについて
メジロマックイーンにはそれこそ劣るが、レースを上手く支配することに遜色はない。だが、これといった特別な武器が桁違いに強い、というわけではない。メジロマックイーンに比べれば物足りない印象に見える。例えば、その身長の高さとトモの作り具合だ。これには目を張るがそれに比べて上半身が不安定で、筋肉が思うように動いてない可能性が高い。これを考慮した上で筋肉量と付き具合から、これより先成長する上で芝の長距離向きではあるが、上半身の骨格の影響からか下半身と頭に頼りきりがちな事が見えてしまう。
走り方のバランスの良さや綺麗さに目を奪われるが、恐らく加速力が他と比べて格段に遅く、身体もまだ出来上がっていない事から、良バ場かつ中距離で走った方が安定した走りをすると予想。長距離はその時に誰がどのように走るか、で全て決着が付くが掲示板には高い確率で入る。
現時点C3ランク コンディションはB2を維持
芝B ダートE
逃げA1 先行B3 差しE 追込G
短距離G マイルB3 中距離A 長距離C2
スピード 225→231→244
スタミナ 264→276→289
パワー 186→193→211
賢さ 220→241→256
精神力 236→250→262
耐久値 194→182→208
空間把握能力 A1
趣味と謳ってはいたけど、軽はずみな欲求解消などではない。これが今の俺が生きた証。
「マックイーンやその先の分析したデータも見たいんだけど…マックイーン以外の子もあったりするの?」
震えながらに聞いてきたその声に、俺は絶対の自信を持ってこう答える。
「勿論」
此の故に、我が言葉に偽り無し。
男性は警備員とそのまま余生を共にするか、企業側に買われるかの2択を迫られる。その警備会社自体が大企業と提携している事が多い。